説明

温度制御装置

【課題】温度制御対象物の温度制御領域に対して局所的にかつ高速に加熱又は吸熱を行うことができる温度制御装置を提供する。
【解決手段】略円環上に配置されている1又は複数の温度制御領域A1を有する温度制御対象物Aに対して加熱又は吸熱を行う温度制御装置。該装置は、温度制御対象物Aの記温度制御領域A1に接触するように配置されている略円環状の熱拡散板11と、熱拡散板11に熱拡散板に接触するように配置されている円盤状の熱拡散板12と、熱拡散板12に接触するように配置され熱拡散板12に対し加熱又は吸熱を行う加熱吸熱手段13と、を具備する。加熱吸熱手段13は、熱拡散板12に接触するように配置され熱拡散板12に対し加熱又は吸熱を行うペルチェ素子15を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱拡散板を介して温度制御対象物を加熱又は吸熱する温度制御装置に関し、特に、高速に微小領域を加熱又は吸熱する温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA(デオキシリボ核酸)を増幅させるための温度制御装置として、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)装置が公知である。このPCR装置は、DNAを含む水溶液の温度を周期的に上下させることにより、短時間でDNAを増幅させることができるものである。そして、このPCR装置を用いて、DNAの任意の断片の増幅を行うにあたり、DNAを含む水溶液が格納されたPCR用容器に対して加熱又は吸熱を行っている。
【0003】
PCR用容器として、薄い板のなかに複数の反応槽、貯蓄槽及び流路を形成したバイオチップが公知である。単純な試験管と比較して、バイオチップは、前処理等の機能を集積しているため、一連の作業を連続して実行できる点において優れる。しかしながら、加熱又は吸熱する時に、化学反応の進行を抑制すべき貯蓄槽や流路といった部分を含めてチップの全体を加熱又は吸熱してしまうという問題がある。そのため、反応槽領域を局所的に加熱又は吸熱できる温度制御装置が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−185389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の温度制御装置においては、温度制御装置と回転しているチップとの接触熱抵抗を下げるのが困難である。また、特許文献1に記載の温度制御装置においては、反応槽領域と同程度のサイズのペルチェ素子が想定されており、ペルチェ素子の吸加熱能については考慮されていない。すなわち、特許文献1に記載の温度制御装置においては、加熱又は加熱の高速化が困難である。
【0006】
本発明の目的は、温度制御対象物の温度制御領域に対して局所的にかつ高速に加熱又は吸熱を行うことができる温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る温度制御装置は、略円環上に配置されている1又は複数の温度制御領域を有する温度制御対象物に対して加熱又は吸熱を行う温度制御装置であって、前記温度制御領域に接触するように配置されている略円環状の熱拡散板と、前記熱拡散板に接触するように配置され前記熱拡散板に対し加熱又は吸熱を行う加熱吸熱手段と、を具備することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明に係る温度制御装置は、請求項1に記載の発明において、前記加熱吸熱手段が、前記熱拡散板に接触するように配置され前記熱拡散板に対し加熱又は吸熱を行うペルチェ素子を具備することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明に係る温度制御装置は、請求項1及び請求項2のいずれかに記載の発明において、略円環上に配置されている前記複数の温度制御領域としての反応槽を有する前記温度制御対象物の化学反応用チップに対して加熱又は吸熱を行う温度制御装置であって、前記略円環状の熱拡散板が前記反応槽の領域に接触するように配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明に係る温度制御装置は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記熱拡散板が、0.01mm以上4mm以下の範囲内である板厚を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度制御対象物の温度制御領域に接触するように配置されている略円環状の熱拡散板に対し加熱又は吸熱を行うため、温度制御領域及び略円環状の熱拡散板の熱容量が小さいから、温度制御領域に対して局所的にかつ高速に加熱又は吸熱を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1に係る温度制御装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す本発明の実施の形態1に係る温度制御装置のB−B線に沿って切断して示す断面図である。
【図3】図1に示す本発明の実施の形態1に係る温度制御装置のC−C線に沿って切断して示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る温度制御装置の構成を示す概略断面図である。
【図5】図4に示す本発明の実施の形態1に係る温度制御装置をD−D線に沿って切断して示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係る温度制御装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る温度制御装置の構成を示す概略断面図である。図2は、図1に示す本発明の実施の形態1に係る温度制御装置のB−B線に沿って切断して示す断面図である。図3は、図1に示す本発明の実施の形態1に係る温度制御装置のC−C線に沿って切断して示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る温度制御装置は、略円環上に配置されている1又は複数の温度制御領域A1を有する温度制御対象物Aに対して加熱又は吸熱を行う温度制御装置である。本発明の実施の形態1に係る温度制御装置は、略円環状の熱拡散板11(図2参照)、円盤状の熱拡散板及12及び加熱吸熱手段13を具備している。略円環状の熱拡散板11は、円盤状の熱拡散板12の上に配置されている。略円環状の熱拡散板11の上には、温度制御対象物Aが載置されている。温度制御対象物Aの上には、受け台14が載置されている。略円環状の熱拡散板11は、温度制御対象物Aの前記温度制御領域A1に接触するように配置されている。
【0015】
加熱吸熱手段13は、熱拡散板12に接触するように配置され熱拡散板12に対し加熱又は吸熱を行うものである。加熱吸熱手段13は、ペルチェ素子15と、電流供給制御装置(図示せず)と、ヒートシンク16と、を具備している。ペルチェ素子15は、熱拡散板12に接触するように配置され熱拡散板12に対し加熱又は吸熱を行う。前記電流供給制御装置は、ペルチェ素子15に電流を供給し、かつ、ペルチェ素子15に供給する電流の向きと大きさを制御する。ペルチェ素子15は、円盤状の熱拡散板12及び略円環状の熱拡散板11に対して加熱又は吸熱を行うことにより、温度制御対象物Aの温度制御領域A1に対して加熱又は吸熱を行う。ペルチェ素子15の下面には、これに接触するようにヒートシンク16が配置されている。ヒートシンク16は、所定温度に維持され蓄熱作用を有する。
【0016】
なお、本発明の実施の形態1に係る温度制御装置は、円盤状の熱拡散板12を具備しない構成であってもよい。この場合には、ペルチェ素子15は、略円環状の熱拡散板11に直接に接触するように配置される。
【0017】
本発明の実施の形態1においては、温度制御対象物Aは、化学反応用チップ(バイオチップ)である。温度制御対象物Aは、略円環上に配置されている複数の温度制御領域A1としての反応槽17の領域を有している。また、温度制御対象物Aは、中央部に貯蓄層18を有し、かつ、この貯蓄層18と反応槽17とを連通する複数の流路19を有している。略円環状の熱拡散板11は、温度制御対象物Aの温度制御領域A1である反応槽17の領域に接触するように配置されている。
【0018】
熱拡散板11、12は、アルミニウム、銅、銀の合金などの熱伝導率の高い素材で形成されている。熱拡散板11は、温度制御対象物Aの下側の表面と全面的に接触するのではなく、温度制御対象物Aの反応槽17の表面とのみに接触している。熱拡散板11には、図示しない温度検出部が設置されている。前記電流供給制御装置は、前記温度検出部により検出された温度に基づいてペルチェ素子15に供給する電流の向きと大きさを制御する。
【0019】
温度制御対象物Aの基材は、ポリプロピレンなどの樹脂で形成されている。ポリプロピレンは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)反応を阻害しない素材である。樹脂の熱伝導率は一般に低いため、温度制御対象物Aは、板厚方向に薄くする必要がある。温度制御対象物Aには、反応槽17及び貯蓄層18及び流路19が形成されている。反応槽17は吸加熱すべき温度制御領域A1あり、貯蓄槽18及び流路19は吸加熱すべきでない領域である。ペルチェ素子15の限られた吸加熱量で、温度制御対象物Aの反応槽17を高速に吸加熱するためには、貯蓄槽18及び流路19の存在する領域に熱を拡散させることなく、反応槽17の存在する温度制御領域A1に熱を集中させる必要がある。このため、ペルチェ素子15は、円盤状の熱拡散板12及び略円環状の熱拡散板11に対して加熱又は吸熱を行うことにより、温度制御対象物Aの温度制御領域A1である反応槽17の領域に対して加熱又は吸熱を行う。
【0020】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る温度制御装置の構成を示す概略断面図である。図5は、図4に示す本発明の実施の形態1に係る温度制御装置をD−D線に沿って切断して示す断面図である。本発明の実施の形態2においては、本発明の実施の形態1と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0021】
図4及び図5に示すように、本発明の実施の形態2に係る温度制御装置は、略円環状の熱拡散板21(図5参照)及び加熱吸熱手段22を具備している。略円環状の熱拡散板21は、温度制御対象物Aの温度制御領域A1の上に配置されている。温度制御対象物Aは、受け台23の上に載置されている。
【0022】
加熱吸熱手段22は、4つのペルチェ素子23と、電流供給制御装置(図示せず)と、ヒートシンク24と、を具備している。ペルチェ素子23は、略円環状の熱拡散板31の上に接触するように所定間隔をおいて配置され熱拡散板21に対し加熱又は吸熱を行う。ヒートシンク24は、ペルチェ素子23の上に配置されている。
【0023】
前記電流供給制御装置は、ペルチェ素子23に電流を供給し、かつ、ペルチェ素子23に供給する電流の向きと大きさを制御する。ペルチェ素子23は、略円環状の熱拡散板21に対して加熱又は吸熱を行うことにより、温度制御対象物Aの温度制御領域A1に対して加熱又は吸熱を行う。熱拡散板21には、図示しない温度検出部が設置されている。前記電流供給制御装置は、前記温度検出部により検出された温度に基づいてペルチェ素子23に供給する電流の大きさを制御する。
【0024】
温度制御対象物Aの中央領域に、検体(DNAを含む水溶液)を注入するための上へと出する凸形状の液注入機構A2が設けられている。また、熱拡散板21の板厚は、熱容量の観点から薄いほうが望ましい。
【0025】
本発明の実施の形態1、2において、温度制御対象物Aの温度制御領域A1と接触するように設けられる略円環状の熱拡散板11、21の板厚は、0.01mm以上4mm以下の範囲内であることが好ましい。熱拡散板11、21の板厚が4mmを超える場合にあっては熱効率が低下することがある。一方、熱拡散板11、21の板厚が0.01mmに満たない場合にあっては十分な熱拡散効果が得られなくなることがある。なお、略円環状の熱拡散板11、21の板厚は、0.01mm以上1mm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係る温度制御装置の構成を示す概略断面図である。本発明の実施の形態3においては、本発明の実施の形態1、2と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、その説明を省略する。
【0027】
図4に示すように、本発明の実施の形態3に係る温度制御装置は、第1の温度制御ユニット10及び第2の温度制御ユニット20を具備している。第1の温度制御ユニット10は、略円環状の熱拡散板11(図2参照)、円盤状の熱拡散板12及び加熱吸熱手段13を具備し、かつ、加熱吸熱手段13がペルチェ素子15と電流供給制御装置(図示せず)とヒートシンク16と、を具備している。第2の温度制御ユニット20は、略円環状の熱拡散板21(図5参照)及び加熱吸熱手段22を具備し、かつ、加熱吸熱手段22が4つのペルチェ素子23と電流供給制御装置(図示せず)とヒートシンク24とを具備している。
【0028】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1について説明する。
図1に示す温度制御装置を用いて、温度制御が行われた。ここで、温度制御対象物(バイオチップ)Aの反応槽17の領域は、95℃に加熱され、かつ、68℃に吸熱される。このような加熱及び吸熱が、高速に(90秒/サイクル程度)30サイクルくり返される。温度制御対象物Aと接触する略円環状の熱拡散板11は、アルミ合金であるジェラルミンからなる板厚1mmの円環状のものを用いた。温度制御対象物Aは、直径50mmであり、板厚2mmであり、ポリプロピレン製のものを用いた。温度制御対象物Aに用いられているポリプロピレンの熱伝導率は0.2W/(m・K)と低いため、熱拡散板11と接触していない温度制御対象物Aの中央領域の温度は、高速な温度サイクルに追従しないことが確認された。
【0029】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
図5に示した温度制御装置を用い、温度制御が行われた。ここで、温度制御対象物(バイオチップ)Aの反応槽17の領域は、95℃に加熱され、かつ、68℃に吸熱される。このような加熱及び吸熱が、高速に30サイクル繰り返される。温度制御対象物Aと接触する熱拡散板21は、アルミ合金であるジェラルミンからなる板厚1mmの円環状のものを用いた。温度制御対象物Aは、直径50mm、板厚2mmであり、ポリプロピレン製のものを用いた。温度制御対象物Aに用いられているポリプロピレンの熱伝導率は0.2W/(m・K)と低いため、熱拡散板21と接触していない温度制御対象物Aの中央領域の温度は、高速な温度サイクルに追従しない。本発明者は、95℃の保持時間を過剰に30秒としても、温度制御対象物Aの中央領域の温度は92℃に達しないことを確認した。
【0030】
また、温度制御対象物Aの中央領域を不要に吸加熱しないため、従来のベタ円形状の熱拡散板を用いて温度制御対象物Aの全体を吸加熱した場合の30%の吸加熱量をもって、反応槽17における加熱速度2.7℃/秒、吸熱速度1.8℃/秒という、従来と同等の吸加熱速度が得られることを確認した。したがって、本発明の実施例においては、従来と同等の吸加熱量を与えた場合に、吸加熱が高速化されるといえる。
【符号の説明】
【0031】
11、12、21 熱拡散板
13、22 加熱吸熱手段
15、23 ペルチェ素子
16、24 ヒートシンク
A 温度制御対象物
A1 温度制御領域
17 反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円環上に配置されている1又は複数の温度制御領域を有する温度制御対象物に対して加熱又は吸熱を行う温度制御装置であって、
前記温度制御領域に接触するように配置されている略円環状の熱拡散板と、
前記熱拡散板に接触するように配置され前記熱拡散板に対し加熱又は吸熱を行う加熱吸熱手段と、
を具備することを特徴とする温度制御装置。
【請求項2】
前記加熱吸熱手段は、前記熱拡散板に接触するように配置され前記熱拡散板に対し加熱又は吸熱を行うペルチェ素子を具備することを特徴とする請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
略円環上に配置されている前記複数の温度制御領域としての反応槽を有する前記温度制御対象物の化学反応用チップに対して加熱又は吸熱を行う温度制御装置であって、
前記略円環状の熱拡散板は前記反応槽の領域に接触するように配置されていることを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれかに記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記熱拡散板は、0.01mm以上4mm以下の範囲内である板厚を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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