説明

温度履歴インジケータ

【課題】構造が簡単で安価に製造でき、常温でも安定的に保存でき、低温域から高温域まで正確に呈色して温度履歴を残すことのできる、使用しやすい温度履歴インジケータを提供する。
【解決手段】温度履歴インジケータは、染料浸透シート1と、その染料浸透シート1に接して染料を供給するための染料含有層2を表面に有する染料支持シート3とを備えた温度履歴インジケータにおいて、染料浸透シート1が低密度ポリエチレンまたは中密度ポリエチレンのフィルムで構成される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ある温度にどのくらいの期間曝されたかを不可逆的な色の変化で表すことができる温度履歴インジケータに関するもので、低温流通食品、医薬品等の温度管理に利用されるものである。
【0002】
【従来の技術】食品の保存や流通で温度管理を誤ると品質の低下、腐敗を来たし、食中毒の危険もある。特に低温流通食品は温度上昇の影響を受けやすく、温度管理の失敗による黴菌汚染の恐れから廃棄されているものも多い。また医療分野においても、特殊な医薬品や血液、検体などの低温管理の果たす役割は非常に大きい。最近、PL法が施行され、これら商品の品質保証を目的とする温度管理の重要性が増加している。
【0003】低温保管物の保存状態を継続的に監視してゆくものとして、温度履歴インジケータがある。例えば特公昭51−33432号公報には酵素とPH指示薬を利用したもの、特開昭61−13116号公報および特開昭62−197486号公報にはマイクロカプセルを利用した温度履歴インジケータが開示されている。しかしながら、これらを実際に低温保管物の管理に使用するには、その製造コスト、安定性、使い易さ、精度等に問題があった。
【0004】特開昭60−151578号公報には、ウレタン樹脂中に染料が浸透(マイグレーション)する性質を利用したもの、特開平8−101285号公報には染料が塩化ビニルーシートに浸透拡散することを利用したインジケータシートものが記載されている。これらは、製造するためには比較的簡便な形よりなっているが、性能、特に低温時の染料の樹脂中へのマイグレーションが悪く、低温保管物の管理には適さない。樹脂のマイグレーションを利用したもので、樹脂中に可塑剤が存在するものは、可塑剤が滲み出て常温保存時のシートの安定性に欠点がある。
【0005】特開平7−20783号公報には、染料の樹脂中への浸透拡散を利用するにあたり、染料拡散層を形成する塗膜が0℃以下のガラス転移温度を持つ高分子の利用が開示されている。しかしながら、拡散層を塗膜形式とするこの方法は、透明基材、隠蔽層、染料拡散層、粘着層と構成が複雑であるため、隠蔽層、染料拡散層の塗膜厚の管理を厳密にしないと正確な温度履歴インジケータが得られない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の課題を解決するためなされたもので、構造が簡単で安価に製造でき、常温でも安定的に保存でき、低温域から高温域まで正確に呈色して温度履歴を残すことのできる、使用しやすい温度履歴インジケータを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の発明者は、可塑剤を混入しなくても低温域で十分な柔軟性を持つ超低密度ポリエチレン、または低密度ポリエチレン{またはその誘導体}のフィルムが染料に接触して、染料を浸透拡散させることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち前記の目的を達成するためになされた本発明の温度履歴インジケータは、図1に示すとおり、染料浸透シート1と、その染料浸透シート1に接して染料を供給するための染料含有層2を表面に有する染料支持シート3とを備えた温度履歴インジケータにおいて、染料浸透シート1が低密度ポリエチレンまたは中密度ポリエチレンのフィルムで構成されることを特徴とする。
【0009】この温度履歴インジケータは保存状態(a)では染料浸透シート1と染料含有層2とは離しておき、使用状態(b)に入るとき染料浸透シート1と染料含有層2とを接合することにより染料含有層2中の染料が染料浸透シート1に浸透拡散し、染料の色が染料浸透シート1の上から見えるようになる。従来のインジケータシートは、染料の浸透拡散層の樹脂に含まれる可塑剤が常温保存時に滲み出て安定性のないものであったが、本発明の温度履歴インジケータは、染料浸透シート1に可塑剤を混入していないため、その滲み出しがなく常温で劣化なく保存できる。
【0010】染料浸透シート1を構成する低密度ポリエチレンまたは中密度ポリエチレンは、密度が0.91〜0.940g/cm3の範囲にあるものを指称する。密度が0.91g/cm3未満のポリエチレンであるとフィルムを成形しにくいし、0.940g/cm3より大きいと染料の浸透性が悪くなって好ましくない。
【0011】同じく本発明の温度履歴インジケータは、図3に示すとおり、染料浸透シート1が染料含有層2と接する面に粘着剤層4を有する。そのため、保存状態(a)から温度監視の使用状態(b)に移るとき、この粘着剤層4を染料含有層2と接して染料支持シート3に貼り付けると、粘着剤層4が媒体となって低温域でも染料が染料浸透シート1に浸透拡散してゆく。
【0012】同じく本発明の温度履歴インジケータの染料含有層2は、染料と熱可塑性樹脂とを含む印刷インキを染料支持シート3に印刷して構成される。このように染料をインキ化して印刷により製造したものであるため、均質なものができる。しかもその製造は効率的であり、安価なものとなる。
【0013】さらに本発明の温度履歴インジケータの染料含有層2は、好ましくは、染料とともに界面活性剤を有することで適切に実施できる。界面活性剤の働きにより、低温における染料の浸透拡散が促進される。この界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、およシリコーン系界面活性剤が使用でき、染料が染料浸透シート1に浸透拡散する速度を調整できるものが選ばれる。
【0014】
【発明の実施の形態】図1には本発明を適用する温度履歴インジケータの一実施例が示してある。図1の温度履歴インジケータは、超低密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンのフィルムからなる染料浸透シート1と、染料含有層2を表面に有する染料支持シート3とを備えている。図1(a)に示すように、染料浸透シート1と染料含有層2を表面に有する染料支持シート3とを別体で構成し、温度履歴インジケータの未使用時は別体のまま保管し、使用を開始するとき(b)のように貼り合わせてから、温度監視の対象物である食品などと一緒におくと、その温度履歴に応じて染料が染料浸透シート1に浸透拡散し、染料色の温度履歴に応じた色相が染料浸透シート1から観察できる。超低密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンは不透明であるから、染料浸透シート1が染料含有層2に貼り合わされた当初は染料の浸透拡散が不十分で染料色が見えないが、時間の経過とともに染料の浸透拡散が進行し、染料色が見えるようになってくる。
【0015】染料浸透シート1は、超低密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンのフィルムの単層であるとは限らず、重ね合わせた多層構造であってもよい。また超低密度ポリエチレンまたは低密度ポリエチレンにフィラーなどを混合して染料浸透シート1の透明性をさらに低下させてもよい。また染料浸透シート1を多層構造フィルムとし、その中の一部の層を着色あるいは有色フィルムにしてもよい。
【0016】図2に示す温度履歴インジケータは、染料浸透シート1と染料含有層2を表面に有する染料支持シート3とを貼り合わせた状態で構成してある。図2(a)に示すように使用開始までは冷凍することで染料が染料浸透シート1に浸透拡散することを防ぎ、使用を開始するときに温度監視の対象物と共存させることで、(b)のように温度履歴に応じて染料色の色相が染料浸透シート1に現れる。
【0017】染料は浸透性を持つものであれば使用でき、アゾ系並びにアントラキノン系の染料が浸透性が良好で好ましい。アゾ系の染料としては、例えばC.I.26105、C.I.12055、C.I.11021、C.I.21260、C.I.Solvent Red 83、C.I.Solvent Red 83、C.I.26100、C.I.12770、C.I.Disperse Blue 102が挙げられる。アントラキン系の染料としては、例えばC.I.Solvent Red 146、C.I.Solvent Blue 78、C.I.Solvent Red 117、C.I.Solvent Blue 36、C.I.60755が挙げられる。
【0018】これらの染料は単一に、あるいは組み合わせて使用することができる。染料の染料含有層中の濃度は、染料浸透シート1中に浸透拡散できればよく、好ましくは0.01〜5%の濃度がよい。0.01%以下では浸透による色相が薄く、5%を越えると着色が目立ちすぎ却って誤判別をすることになり、印刷適正も悪くなる。また浸透拡散速度の異なる染料を混合して、時間の経過と共に色相が変化するように調整することもできる。
【0019】図3に示す温度履歴インジケータは、染料浸透シート1が染料含有層2と接する面に粘着剤層4を有し、染料含有層2が染料を含む印刷インキを染料支持シート3に印刷して構成される。図3(a)に示すように、温度履歴インジケータの未使用時は別体のまま保管し、使用を開始するとき(b)のように張り合わせてから、温度監視の対象物と共存させる。
【0020】粘着剤層4としては、アクリル樹脂系、ゴム系、シリコーン系等、あらゆる種類の粘着剤が使用でき、これらの粘着剤が存在しても染料の浸透拡散に影響を及ぼすことはない。
【0021】印刷インキを造るには、染料に樹脂、溶剤とタルク等の添加剤を混合する。界面活性剤はこのインキ化工程で加えることができる。界面活性剤は染料浸透シート1と印刷インキの親和性を調製できるもので、その添加量は重量比でインキの1.0%未満の添加量が望ましく、これ以上の添加はインキの印刷適正に悪い影響を与える。印刷方法としては、スクリーン、フレキソ、グラビア等の各種の印刷方式を使用できる。
【0022】インキ化のための樹脂は、通常の印刷インキのビヒクルとして使用する天然樹脂およびその誘導体、合成樹脂が使用できる。天然樹脂およびその誘導体として、例えばロジン、セラック、コパール、硬化ロジン、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂が挙げられる。合成樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、スチレン−アクリルニトリル樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、石油系樹脂、ブチラ−ル樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル酸樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で、又は、2種類以上混合して使用しても良い。
【0023】染料支持シート3は上記の印刷インキがのりやすいもので、例えばポリエステルフィルム、ポリスチレン、ポリカーボネイトが使用できる。
【0024】図4に示す温度履歴インジケータは、染料浸透シート1に重ねて粘着剤層4を有し、染料支持シート3に染料含有層2が印刷されている。染料浸透シート1と染料支持シート3とは、端部6で粘着剤層4により直接接着されているが、染料含有層2の存在する多くの部分では離隔シート5が介在している。染料支持シート3の下面には粘着層7が設けられ、剥離紙8で覆われている。温度履歴インジケータの未使用時は、図示の実線示の状態で保管するので、染料含有層2中の染料が染料浸透シート1に浸透拡散しないようになっている。使用を開始するときは、矢印線で示すように、まず離隔シート5を染料支持シート3より離して後(鎖線参照)、染料浸透シート1の粘着剤層4から引き剥がして取り去る。次いで染料浸透シート1の粘着剤層4を染料支持シート3に重ね合わせて押さえることにより、染料含有層2が粘着剤層4を介して染料浸透シート1に接着する。さらに剥離紙8を剥がしさり、粘着層7で温度監視の対象である食品等の包装の上に貼り付けると、その温度変化に応じて染料含有層2中の染料が染料浸透シート1に浸透拡散し、染料の色相が染料浸透シート1から観察できるようになる。
【0025】尚、温度履歴インジケータは、ラベル形状でもテープ形状でも実施可能である。
【0026】
【実施例】以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0027】実施例1インキビヒクル(NSPメジウム、十條化工株式会社製)900重量部、染料(C.I.26125)12重量部、溶剤(シクロヘキサノン)90重量部、添加剤(タルク)12重量部の組成を混練して浸透性の印刷インキを製造した。この印刷インキを150メッシュのシルクスクリーンによりポリエステルフィルムにスクリーン印刷し、図3(a)に示す染料支持シート3の上に染料含有層2を形成した。一方、3層構造の低密度ポリエチレンフィルム(白色:膜厚20μm/白色:膜厚20μm/灰色:膜厚20μm)に粘着剤(Y−9460PC、3M社製)を塗布し、染料浸透シート1の上に粘着剤層4を形成し、温度履歴インジケータを得た。この温度履歴インジケータを、(b)に示すように、染料含有層2と粘着剤層4を重ね、染料支持シート3と染料浸透シート1を貼りあわせた。各温度における染料浸透シート1の表面の変色状態を測定することにより、染料の浸透量と時間との関係を調べた。色彩色差計(cr-321ミノルタ株式会社製)で経過時間毎に色差(△E表色計L・a・b・)を測定したところ、表1に示すように、低温域から高温域まで温度に応じた色差△Eを示した。さらに一旦上げた温度を下げたが色は変化せず、この温度履歴インジケータの色変化は不可逆的であり安定していることがわかった。
【0028】
【表1】


【0029】実施例2〜7染料含有層2に界面活性剤を混合したとき、染料の浸透拡散を促進する効果を確認するため、実施例1の組成に、日本油脂(株)製のアニオン界面活性剤トラックスK-40を0.8%(実施例2)、日本油脂(株)製のカチオン界面活性剤ニユ-エレガンASKを0.8%(実施例3)、日本油脂(株)製のノニオン界面活性剤ノニオンDS-60HNを0.5%(実施例4)、日本油脂(株)製の両性界面活性剤ニッサンアノンBFを0.5%(実施例5)、(株)花王のノニオン界面活性剤アミート105 を0.5%(実施例6)、日本ユニチカ(株)製のシリコーン界面活性剤L-7604を0.5%(実施例7)を各々添加して印刷インキを製造した。これらの印刷インキで実施例1と同様に温度履歴インジケータを作成した。これらの温度履歴インジケータについて実施例1と同様に、10℃における色差△Eを測定し、その結果を表2に示してある。
【0030】
【表2】


【0031】表2から明らかなように、染料含有層2に界面活性剤を混合した実施例2〜7の温度履歴インジケータは、界面活性剤を混合してない実施例1の温度履歴インジケータよりも色差△Eが大きくなっており、界面活性剤を混合したことにより染料の浸透が促進されることがわかる。
【0032】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように本発明を適用する温度履歴インジケータは、食品、医薬品などの低温流通、貯蔵時の温度−経過期間に対応して分解能の高い不可逆な色変化を示すので、温度履歴の監視が可能になる。染料に界面活性剤を添加することにより、染料が低温において染料浸透シートへの浸透拡散する機能を高め、可塑剤を使用しないことで常温での保存安定性に優れたものとなる。また染料をインキ化して印刷により本発明の温度履歴インジケータは製造されるため、均質なものが効率的に、安価に大量生産できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用する温度履歴インジケータの一実施例の断面図である。
【図2】本発明を適用する温度履歴インジケータの別な実施例の断面図である。
【図3】本発明を適用する温度履歴インジケータのさらに別な実施例の断面図である。
【図4】本発明を適用する温度履歴インジケータのさらに別な実施例の断面図である。
【符号の説明】
1は染料浸透シート、2は染料含有層、3は染料支持シート、4は粘着剤層、5は離隔シート、6は端部、7は粘着層、8は剥離紙である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 染料浸透シートと、その染料浸透シートに接して染料を供給するための染料含有層を表面に有する染料支持シートとを備えた温度履歴インジケータにおいて、染料浸透シートが低密度ポリエチレンまたは中密度ポリエチレンのフィルムで構成されていることを特徴とする温度履歴インジケータ。
【請求項2】 該染料浸透シートが、染料含有層と接する面に粘着剤層を有することを特徴とする請求項1に記載の温度履歴インジケータ。
【請求項3】 該染料含有層が、該染料と熱可塑性樹脂とを含む印刷インキを該染料支持シートに印刷した層からなることを特徴とする請求項1に記載の温度履歴インジケータ。
【請求項4】 前記染料含有層に染料とともに界面活性剤を有することを特徴とする請求項1に記載の温度履歴インジケータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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