説明

温度測定システム及び温度測定方法、並びに、これらを用いた溶出試験器の温度制御システム及び温度制御方法

【課題】貯留物が貯留された容器の外部から簡単な構成で貯留物の温度を測定することができる温度測定システム及び温度測定方法、並びに、これらを用いた溶出試験器の温度制御システム及び温度制御方法を提供する。
【解決手段】第1温度センサ11により試験容器5の外周面の温度を測定する。試験容器5の外部における外周面から離れた位置で第2温度センサ12により大気の温度を測定する。第1温度センサ11及び第2温度センサ12による測定結果に基づいて、試験容器5内の試験液の温度を算出する。これにより、試験液が貯留されている試験容器5内に温度センサなどを配置するような構成と比較して、配線の引き延ばしが容易であるとともに、試験液と配線との接触によりショートが生じるといった可能性がなく、試験液が貯留された試験容器5の外部から簡単な構成で試験液の温度を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内に貯留された貯留物の温度を測定するための温度測定システム及び温度測定方法、並びに、これらを用いた溶出試験器の温度制御システム及び温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経口固形製剤や経皮吸収製剤などの薬剤の製造においては、その品質を一定水準に確保し、併せて著しい生物学的非同等性を防ぐことを目的として、溶出試験の実施が義務付けられている。この溶出試験とは、攪拌されることにより一定の液流を形成している試験液の中に、薬剤が溶出する過程を経時的に測定するものであり、その方法の詳細が日本薬局方、米国薬局方、欧州薬局方などに規定されている。
【0003】
例えば、上記日本薬局方によれば、試験液の温度を37.0℃±0.5℃に保ち、適度な間隔で試験液の温度を確認することが求められている。これは、試験液の温度が薬剤の溶出率に強い影響を与える要因になるからである。
【0004】
試験液の温度調整には、恒温水槽が広く用いられている。すなわち、試験容器を水槽の中に配置し、水槽内の水の温度を制御することにより、試験容器内の試験液を所定の温度に維持するという方法が一般的である。この方法は、比較的簡便であり、水槽内の水の温度が安定すれば試験液の温度も大きく変動しないという利点があるが、定温加熱のため、試験液が所定の温度に到達するまでに相当の時間を要するという欠点もある。また、水槽内の水の給排水設備の確保や、防カビのための水抜き、水槽清浄といった取り扱い上の煩わしさが課題となっている。
【0005】
前記のような課題を解決できる方法として、下記特許文献1には、試験容器の外周を取り巻くように配置された加熱素子により、試験容器を介して内部の試験液を加熱する方法が開示されている。この特許文献1に開示された方法では、試験容器内の試験液を攪拌するための攪拌素子の中空のシャフト内に、試験液の温度を測定するための温度センサが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2955365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に開示されているような方法では、攪拌素子の中空のシャフト内に温度センサが配置されることにより、試験液の液流を乱すことなく試験液の温度を測定することができるという利点はあるものの、回転体であるシャフト内に配線を引き延ばす必要があるため、構成が複雑になるといった問題がある。
【0008】
また、溶出試験器がシャフトの先端に攪拌翼、バスケット、シリンダなどが設けられる構造であるため、例えば、少量の試験液で攪拌翼などを高速で回転させるような試験の場合、シャフト中空に配置された温度センサが試験液面より高い位置になり、温度を正しく計測できなくなる。そのため、応用範囲が限定されるという課題がある。
【0009】
さらに、試験容器内の試験液がシャフト内に漏れないように漏れ防止シールが形成された構成となっているが、このシールの不良により試験液がシャフト内に漏れた場合には、配線がショートするなどして装置が故障してしまうおそれがある。
【0010】
このような問題は、溶出試験器における試験液の温度を測定する場合に限らず、容器内に貯留された各種貯留物の温度を測定する場合に生じうる問題である。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、貯留物が貯留された容器の外部から簡単な構成で貯留物の温度を測定することができる温度測定システム及び温度測定方法、並びに、これらを用いた溶出試験器の温度制御システム及び温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る温度測定システムとしては、容器内に貯留された貯留物の温度を測定するための温度測定システムであって、前記容器の外周面の温度を測定する第1温度測定手段と、前記容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定手段と、前記第1温度測定手段及び第2温度測定手段による測定結果に基づいて、前記容器内の貯留物の温度を算出する温度算出手段とを備えた構成が挙げられる。
【0013】
このような構成によれば、それぞれ容器の外部に設けられた第1温度測定手段及び第2温度測定手段を用いて、容器内の貯留物の温度を算出することができる。したがって、貯留物が貯留されている容器内に温度センサなどを配置するような構成と比較して、配線の引き延ばしが容易であるとともに、貯留物と配線との接触によりショートが生じるといった可能性がなく、貯留物が貯留された容器の外部から簡単な構成で貯留物の温度を測定することができる。また、試験液の液流を乱すことなく試験液の温度を測定することができる。
【0014】
本発明において、前記温度算出手段は、前記容器の厚み、前記容器の熱伝導率及び大気の熱伝達率を用いて、前記容器内の貯留物の温度を算出することが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、容器の厚み、上記容器の熱伝導率及び大気の熱伝達率を用いて、容器内の貯留物の温度をより正確に算出することができる。
【0016】
本発明において、前記温度算出手段は、前記容器内の貯留物の温度をT、前記第1温度測定手段により測定される温度をT、前記第2温度測定手段により測定される温度をT、前記容器の厚みをL、前記容器の熱伝導率をκ、大気の熱伝達率をhとした場合に、
=(hL/κ+1)αT−(hL/κ)βT (α及びβは定数)
という計算式を用いて、前記容器内の貯留物の温度Tを算出することが好ましい。
【0017】
このような構成によれば、上記計算式を用いて、容器内の貯留物の温度をより正確に算出することができる。本願発明者が行った実験によれば、上記計算式を用いて容器内の貯留物の温度を測定した場合と、容器内の貯留物の温度を温度計で直接測定した場合とで、測定した温度の誤差は±0.1℃であり、上記計算式の精度が非常に高いことが分かる。
【0018】
本発明において、前記容器の外周を覆うように配置された筒状部材を備え、前記第1温度測定手段及び第2温度測定手段が、前記容器と前記筒状部材との間に配置されていることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、容器の外周を覆うように配置された筒状部材により、当該筒状部材内における大気の流れを安定させることができるので、第1温度測定手段及び第2温度測定手段による温度測定に対する大気の影響を抑制することができ、容器内の貯留物の温度をより正確に算出することができる。
【0020】
本発明に係る温度測定方法としては、容器内に貯留された貯留物の温度を測定するための温度測定方法であって、前記容器の外周面の温度を測定する第1温度測定ステップと、前記容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定ステップと、前記第1温度測定ステップ及び第2温度測定ステップによる測定結果に基づいて、前記容器内の貯留物の温度を算出する温度算出ステップとを備えた構成が挙げられる。
【0021】
本発明に係る溶出試験器の温度制御システムとしては、試験容器内に貯留された試験液をヒータにより加熱し、当該試験液を攪拌しつつ、当該試験液に薬剤を溶出させることにより試験を行う溶出試験器の温度制御システムであって、前記試験容器の外周面の温度を測定する第1温度測定手段と、前記試験容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定手段と、前記第1温度測定手段及び第2温度測定手段による測定結果に基づいて、前記試験容器内の試験液の温度を算出する温度算出手段と、前記温度算出手段による算出結果に基づいて、前記ヒータによる加熱を制御する加熱制御手段とを備えた構成が挙げられる。
【0022】
本発明に係る溶出試験器の温度制御方法としては、試験容器内に貯留された試験液をヒータにより加熱し、当該試験液を攪拌しつつ、当該試験液に薬剤を溶出させることにより試験を行う溶出試験器の温度制御方法であって、前記試験容器の外周面の温度を測定する第1温度測定ステップと、前記試験容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定ステップと、前記第1温度測定ステップ及び第2温度測定ステップによる測定結果に基づいて、前記試験容器内の試験液の温度を算出する温度算出ステップと、前記温度算出ステップによる算出結果に基づいて、前記ヒータによる加熱を制御する加熱制御ステップとを備えた構成が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶出試験器の構成を示した斜視図である。
【図2】図1に示した溶出試験器の要部断面図である。
【図3】図1に示した溶出試験器の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】制御部による試験液の温度制御方法の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶出試験器1の構成を示した斜視図である。また、図2は、図1に示した溶出試験器1の要部断面図である。この溶出試験器1は、日本薬局方、米国薬局方、欧州薬局方などの規定に準拠した試験を行うことができる試験器であり、薬剤Aの一例である経口製剤(錠剤)が試験液に溶出する過程を経時的に測定することができる。
【0025】
溶出試験器1には、基台部2と、当該基台部2の上方に設けられた本体部3とが備えられている。基台部2には、水平方向に延びる保持板4が設けられており、この保持板4により複数の試験容器5が保持されている。試験容器5は、上端部に開口部51を有するガラス製の丸底円筒状容器からなり、この例では6つの試験容器5が設けられている。
【0026】
各試験容器5内には、人工胃液等の試験液が貯留され、当該試験液内に薬剤Aが投入されることにより、試験容器5の底部に薬剤Aが沈められた状態で試験が行われるようになっている。各試験容器5内には、500mL〜900mLの試験液が貯留され、開口部51が蓋52により塞がれた状態で試験が行われる。
【0027】
本実施形態では、試験容器5内に貯留された試験液を加熱する加熱器として、恒温水槽ではなく、試験容器5の底部に当接するように取り付けられたヒータ6が用いられる。試験容器5内の試験液の温度は、このヒータ6を用いて所定の温度に保たれるようになっており、日本薬局方によれば、試験容器5内の試験液の温度が、人間の体温と同等の温度である37.0℃±0.5℃に保たれることが求められている。このような条件のもとで、試験容器5内に貯留された試験液を攪拌しつつ、当該試験液に薬剤Aを溶出させ、定められたタイミングで採取した所定量の試験液に溶出している薬剤Aの量を紫外可視分光光度計、高速液体クロマトグラフなどで測定することにより、規定に準拠した試験を行うことができる。
【0028】
ヒータ6は、発熱抵抗体としての紐状の金属線61を試験容器5の底部の形状に沿うように巻回した状態で、シリコンなどの樹脂62により成形したものであり、その外周が金属線61に対する接触を防止するためのカバー63で覆われている。ヒータ6を成形する樹脂62は、シリコンに限らず、他の樹脂であってもよく、樹脂以外の材料でヒータ6を成形することも可能である。また、金属線61を用いた構成に限らず、金属板その他の各種材料を用いてヒータ6を構成することができる。カバー63は、例えばアルマイトなどにより形成することができるが、このカバー63を省略することも可能である。
【0029】
この例では、ヒータ6は椀状に成形されており、丸底円筒状容器からなる試験容器5における半球面状の底面に当接している。すなわち、試験容器5は、一定の径からなる円筒部と、当該円筒部の下方に連続して形成された半球状の底部とを備え、これらの境界線Lよりも下方にヒータ6が設けられている。ただし、試験容器5の底部は、半球状に形成されたものに限らず、楕円状などの他の湾曲面を有するような形状であってもよいし、屈曲面を有するような形状であってもよい。
【0030】
上記のようなヒータ6により、試験容器5が下方から支持され、当該試験容器5を介して内部の試験液を加熱することができるようになっている。このように、試験容器5を下方からヒータ6で支持することにより、試験容器5及び試験液の荷重がヒータ6に加わるため、ヒータ6を試験容器5の底部に対してより密着させることができ、試験液の加熱効率を向上することができる。
【0031】
また、ヒータ6が試験容器5を下方から支持する構成となっているため、試験容器5を上方からヒータ6上に置くことにより容易に取り付けることができるとともに、試験容器5を上方へと引き出すことにより容易に取り外すことができる。
【0032】
ヒータ6の最下部には、円形の開口部64が形成されている。この開口部64は、試験容器5の底部における最も低い位置に対向する部分に形成されており、当該開口部64から試験容器5の底部の最下部が露出している。このような構成により、ヒータ6で熱せられ部分的に所定温度より高くなった試験液に薬剤Aが直接曝されるのを防ぐことができるとともに、ヒータ6に形成された開口部64を介して、下方から試験容器5内の底部に沈んでいる薬剤Aを観察することができる。試験容器5内の底部に沈んでいる薬剤Aを上方又は側方から観察する場合には、試験容器5の底部が半球状であるために、試験容器5内の試験液による光の屈折に起因して、薬剤Aを観察しにくくなることがあるが、上記のように下方から薬剤Aを観察することにより、光の屈折の影響を抑制して、薬剤Aを良好に観察することができる。
【0033】
また、本実施形態では、基台部2における各試験容器5の下方に対向する位置に反射部材21が設けられている。この反射部材21は、水平方向に延びる反射面を有しており、当該反射面が上方に向かって形成されることによりヒータ6の開口部64側を向いている。これにより、開口部64の下方に設けられた反射部材21の反射面に、試験容器5内の底部に沈んでいる薬剤Aの像を反射させて上方又は側方から観察することができるので、薬剤Aを良好に観察することができる。
【0034】
ただし、反射部材21の反射面は、水平方向に延びるような構成に限らず、他の角度で延びるような構成であってもよいし、角度を任意に調整できるような構成であってもよい。反射部材21の反射面の角度を適切に設定すれば、側方より姿勢を変えずに薬剤Aを含めた試験容器5全体を観察することができる。
【0035】
本体部3には、各試験容器5内の試験液を攪拌するための攪拌装置7が保持されている。攪拌装置7は、上下方向に延びる回転軸71と、当該回転軸71の下端部に設けられた攪拌翼72とを備え、回転軸71の上端部が本体部3に対して回転可能に取り付けられている。回転軸71の上端部にはモータ(図示せず)が取り付けられており、当該モータを駆動させることにより、回転軸71及び攪拌翼72が回転するようになっている。
【0036】
攪拌翼72は、図2のように試験容器5内における上記境界線Lよりも下方に設けられ、ヒータ6の内側に位置していることが好ましいが、このような構成に限らず、攪拌翼72が境界線L上、又は、境界線Lよりも上方に位置していてもよい。また、攪拌装置7は、攪拌翼72を備えた構成に限らず、試験液を攪拌することができるような構成であれば、他の各種構成を採用することができる。
【0037】
ヒータ6の上方には、試験容器5の外周を覆うように配置された筒状部材8が設けられている。この筒状部材8は、試験容器5の円筒部の外径よりも大きい内径を有しており、上記境界線Lの上方において試験容器5の円筒部の外側を覆っている。筒状部材8は、外部から試験容器5を視認することができるように、例えばアクリル樹脂などの透明又は半透明の材料により形成することが好ましいが、これに限らず、他の材料により形成されていてもよい。
【0038】
前記のような試験容器5の外周を覆うように配置された筒状部材8により、筒状部材8内における大気の流れを安定させることができるので、試験容器5内の試験液の温度制御に対する大気の影響を抑制することができる。ただし、筒状部材8が各試験容器5に対応付けて設けられた構成に限らず、複数の試験容器5が共通の筒状部材内に配置された構成であってもよい。
【0039】
筒状部材8の内部には、ポリプロピレンなどの樹脂により形成された内装部材83が複数設けられており、当該内装部材83が試験容器5の外面に当接している。より具体的には、試験容器5側に向かって凸湾曲するように形成された円弧状で柔軟な内装部材83が、筒状部材8の内部に間隔を空けて配置されており、それらの凸湾曲面の頂部で試験容器5の外面を押しつけることにより、当該試験容器5が保持されている。
【0040】
この例では、筒状部材8の内周に沿って4か所(うち2か所は図示せず)、軸方向に2段で内装部材83が配置されているが、このような構成に限らず、筒状部材8の内周及び軸方向に適度の間隔を空けて、少なくとも3つの内装部材83が設けられた構成であればよい。内装部材83の形状や材質は、上記のような態様に限らず、他の各種態様を採用することができる。また、内装部材83を省略することも可能である。
【0041】
筒状部材8の上端部は、基台部2の保持板4に対して、ねじ81などの固定具により固定されている。筒状部材8の下端部は、連結ピン82などの連結具によりヒータ6に連結されている。これにより、ヒータ6と筒状部材8とによって一体的に形成されたホルダ内に、試験容器5が保持されるような構成となっている。
【0042】
連結ピン82は、軸部82aと頭部82bとを備えている。ヒータ6を形成している椀状の樹脂62の上端縁には、径方向外側に向かって張り出した張出部65が形成されており、当該張出部65に形成された貫通孔66内に下方から挿通された連結ピン82の軸部82aが、筒状部材8の下端部に固定されている。連結ピン82の軸部82aは筒体84に挿通されており、当該筒体84の外側に圧縮ばね85が被せられている。連結ピン82は、その軸部82aが筒体84を介してヒータ6の張出部65に接触している。したがって、例えばフッ素樹脂などの熱伝導率が低い材料で筒体84を形成すれば、ヒータ6の熱が連結ピン82を介して筒状部材8に伝達されるのを防止することができる。
【0043】
圧縮ばね85は、その一端部が連結ピン82の頭部82bに上方から当接し、他端部がヒータ6の張出部65に下方から当接しており、連結ピン82が筒状部材8に固定された状態では、圧縮ばね85が軸線方向に圧縮された状態となっている。すなわち、連結ピン82は、圧縮ばね85に挿通され、圧縮ばね85を軸線方向に圧縮するようにして筒状部材8に固定される固定部材であり、圧縮ばね85とともに、ヒータ6を上方に向かって付勢する付勢部材86を構成している。
【0044】
図1には図示していないが、各試験容器5は、その上端が蓋52を介して上方から押圧部材9により押さえられている(図2参照)。したがって、押圧部材9で試験容器5を上方から押さえるとともに、付勢部材86でヒータ6を上方に向かって付勢することにより、ヒータ6を試験容器5の底部に対してより密着させることができるので、試験液の加熱効率をさらに向上することができる。特に、軸線方向に圧縮するようにして筒状部材8に固定された圧縮ばね85により、ヒータ6を試験容器5の底部に対してより良好に密着させることができる。
【0045】
本実施形態における溶出試験器1には、第1温度センサ11及び第2温度センサ12を用いて各試験容器5内の試験液の温度を測定する温度測定システムが適用されている。第1温度センサ11は、試験容器5の外周面に当接しており、当該試験容器5の外周面の温度を測定する第1温度測定手段を構成している。第2温度センサ12は、試験容器5の外部における当該試験容器5の外周面から離れた位置に設けられており、その位置で大気の温度を測定する第2温度測定手段を構成している。
【0046】
この例では、第1温度センサ11及び第2温度センサ12は、筒状部材8の内側、すなわち試験容器5と筒状部材8との間に配置されている。より具体的には、第1温度センサ11及び第2温度センサ12は、筒状部材8の内周に沿って設けられた内装部材83に取り付けられており、第1温度センサ11は内装部材83の頂部に取り付けられることにより試験容器5の外周面に当接しており、第2温度センサ12は内装部材83の頂部以外の位置に取り付けられている。
【0047】
第1温度センサ11及び第2温度センサ12は、それぞれサーミスタにより構成することができるが、これに限らず、熱電対、測温抵抗体などの他の温度測定手段により構成することも可能である。第1温度センサ11及び第2温度センサ12は、内装部材83に取り付けられた構成に限らず、筒状部材8の内側における内装部材83以外の部分に設けられていてもよい。また、第2温度センサ12は、筒状部材8の内側に限らず、大気の温度を測定できるような位置であれば、筒状部材8の外側などのあらゆる位置に設けることができる。
【0048】
本体部3内には、この溶出試験器1の動作を制御するための制御部10が備えられている。本体部3の前面には、複数のキー(図示せず)を備えた操作部13が設けられており、当該操作部13を操作することにより、溶出試験器1の動作設定を行うことができる。また、本体部3の前面には、各試験容器5に対応付けられた表示部14が設けられており、当該表示部14に各試験容器5内の状態を表示することができる。
【0049】
図3は、図1に示した溶出試験器1の電気的構成を示したブロック図である。制御部10には、上述のヒータ6、第1温度センサ11、第2温度センサ12、操作部13及び表示部14の他に、攪拌装置7の回転軸71を回転駆動するためのモータ15や、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read-Only Memory)などからなるメモリ16が電気的に接続されている。制御部10は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備え、当該CPUがコンピュータプログラムを実行することにより、温度算出部10a及び加熱制御部10bなどの機能ブロックとして機能する。
【0050】
温度算出部10aは、第1温度センサ11及び第2温度センサ12による測定結果に基づいて、試験容器5内の試験液の温度を算出する温度算出手段である。この温度算出部10aは、メモリ16に予め記憶されている計算式を用いて試験容器5内の試験液の温度を算出する。本願発明者は、試験容器5の厚み、試験容器5の熱伝導率及び大気の熱伝達率を用いた計算式により、試験容器5の外部において第1温度センサ11及び第2温度センサ12により測定される温度に基づいて、試験容器5内の試験液の温度を算出することができることを発見した。
【0051】
具体的には、試験容器5内の試験液の温度をT、第1温度センサ11により測定される温度をT、第2温度センサにより測定される温度をT、試験容器5の厚みをL、試験容器5の熱伝導率をκ、大気の熱伝達率をhとした場合に、下記計算式を用いて、試験容器5内の試験液の温度Tを正確に算出することができる。
=(hL/κ+1)αT−(hL/κ)βT (α及びβは定数)
【0052】
上記定数αは、第1温度センサ11の状態定数であり、第1温度センサ11の取付状態などに依存する固有の数値からなる。同様に、上記定数βは、第2温度センサ12の状態定数であり、第2温度センサ12の取付状態などに依存する固有の数値からなる。本実施形態において、上記定数α及びβは、温度センサ11,12を適切に加工し組み立てれば、ほぼ1であるが、いずれも0.998〜1.002であることが好ましい。
【0053】
本願発明者が行った実験によれば、上記計算式を用いて試験容器5内の試験液の温度を測定した場合と、試験容器5内の試験液の温度を温度計で直接測定した場合とで、測定した温度の誤差は±0.1℃であり、上記計算式の精度が非常に高いことが分かる。
【0054】
加熱制御部10bは、温度算出部10aによる算出結果に基づいて、ヒータ6による加熱を制御する加熱制御手段である。この加熱制御部10bは、温度算出部10aにより算出される試験容器5内の試験液の温度が37.0℃に近付くように、ヒータ6に対する通電をPID制御(Proportional Integral Derivative Control)により制御する。
【0055】
図4は、制御部10による試験液の温度制御方法の一例を示したフローチャートである。試験液の温度制御は所定時間経過ごとに行われるようになっており、所定時間が経過すると(ステップS101でYes)、第1温度センサ11により試験容器5の外周面の温度が測定されるとともに(ステップS102:第1温度測定ステップ)、第2温度センサ12により大気の温度が測定される(ステップS103:第2温度測定ステップ)。
【0056】
そして、第1温度センサ11及び第2温度センサ12による測定結果と、メモリ16に予め記憶されている計算式とに基づいて、試験容器5内の試験液の温度が算出され(ステップS104:温度算出ステップ)、その算出結果に基づいてヒータ6による加熱が制御される(ステップS105:加熱制御ステップ)。具体的には、算出された試験液の温度が37.0℃である場合には、そのときのヒータ6に対する通電状態が維持されるが、37.0℃よりも高い場合にはヒータ6に対する通電が弱められ、37.0℃よりも低い場合にはヒータ6に対する通電が強められる。
【0057】
上記ステップS102〜ステップS105の制御は、予め定められた時間で試験が終了するまで(ステップS106でYesとなるまで)、所定時間経過ごとに繰り返し実行され、これにより、試験容器5内の試験液の温度が37.0℃±0.5℃に保たれる。
【0058】
本実施形態では、それぞれ試験容器5の外部に設けられた第1温度センサ11及び第2温度センサ12を用いて、試験容器5内の試験液の温度を算出することができる。したがって、試験液が貯留されている試験容器5内に温度センサなどを配置するような構成と比較して、配線の引き延ばしが容易であるとともに、試験液と配線との接触によりショートが生じるといった可能性がなく、試験液が貯留された試験容器5の外部から簡単な構成で試験液の温度を測定することができる。また、試験液の液流を乱すことなく試験液の温度を測定することができる。
【0059】
また、本実施形態では、試験容器5の外周を覆うように配置された筒状部材8により、当該筒状部材8内における大気の流れを安定させることができるので、第1温度センサ11及び第2温度センサ12による温度測定に対する大気の影響を抑制することができ、試験容器5内の試験液の温度をより正確に算出することができる。
【0060】
以上の実施形態では、薬剤Aの一例である経口製剤が試験液に溶出する過程を経時的に測定する溶出試験器1について説明したが、本発明は、経口製剤に限らず、他の各種薬剤Aの試験を行うための溶出試験器に適用可能である。
【0061】
また、以上の実施形態では、溶出試験器1の試験容器5内に貯留された試験液の温度を測定する場合について説明したが、本発明に係る温度測定システム及び温度測定方法は、試験液に限らず、容器内に貯留された他の各種貯留物の温度を測定する場合に適用することができる。この場合、上記貯留物は、液体に限らず、例えば気体などであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 溶出試験器
5 試験容器
6 ヒータ
8 筒状部材
9 押圧部材
10 制御部
10a 温度算出部
10b 加熱制御部
11 第1温度センサ
12 第2温度センサ
16 メモリ
21 反射部材
61 金属線
62 樹脂
63 カバー
64 開口部
82 連結ピン
83 内装部材
85 圧縮ばね
86 付勢部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に貯留された貯留物の温度を測定するための温度測定システムであって、
前記容器の外周面の温度を測定する第1温度測定手段と、
前記容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定手段と、
前記第1温度測定手段及び第2温度測定手段による測定結果に基づいて、前記容器内の貯留物の温度を算出する温度算出手段とを備えたことを特徴とする温度測定システム。
【請求項2】
前記温度算出手段は、前記容器の厚み、前記容器の熱伝導率及び大気の熱伝達率を用いて、前記容器内の貯留物の温度を算出することを特徴とする請求項1に記載の温度測定システム。
【請求項3】
前記温度算出手段は、前記容器内の貯留物の温度をT、前記第1温度測定手段により測定される温度をT、前記第2温度測定手段により測定される温度をT、前記容器の厚みをL、前記容器の熱伝導率をκ、大気の熱伝達率をhとした場合に、
=(hL/κ+1)αT−(hL/κ)βT (α及びβは定数)
という計算式を用いて、前記容器内の貯留物の温度Tを算出することを特徴とする請求項2に記載の温度測定システム。
【請求項4】
前記容器の外周を覆うように配置された筒状部材を備え、
前記第1温度測定手段及び第2温度測定手段が、前記容器と前記筒状部材との間に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温度測定システム。
【請求項5】
容器内に貯留された貯留物の温度を測定するための温度測定方法であって、
前記容器の外周面の温度を測定する第1温度測定ステップと、
前記容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定ステップと、
前記第1温度測定ステップ及び第2温度測定ステップによる測定結果に基づいて、前記容器内の貯留物の温度を算出する温度算出ステップとを備えたことを特徴とする温度測定方法。
【請求項6】
試験容器内に貯留された試験液をヒータにより加熱し、当該試験液を攪拌しつつ、当該試験液に薬剤を溶出させることにより試験を行う溶出試験器の温度制御システムであって、
前記試験容器の外周面の温度を測定する第1温度測定手段と、
前記試験容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定手段と、
前記第1温度測定手段及び第2温度測定手段による測定結果に基づいて、前記試験容器内の試験液の温度を算出する温度算出手段と、
前記温度算出手段による算出結果に基づいて、前記ヒータによる加熱を制御する加熱制御手段とを備えたことを特徴とする溶出試験器の温度制御システム。
【請求項7】
試験容器内に貯留された試験液をヒータにより加熱し、当該試験液を攪拌しつつ、当該試験液に薬剤を溶出させることにより試験を行う溶出試験器の温度制御方法であって、
前記試験容器の外周面の温度を測定する第1温度測定ステップと、
前記試験容器の外部における前記外周面から離れた位置で大気の温度を測定する第2温度測定ステップと、
前記第1温度測定ステップ及び第2温度測定ステップによる測定結果に基づいて、前記試験容器内の試験液の温度を算出する温度算出ステップと、
前記温度算出ステップによる算出結果に基づいて、前記ヒータによる加熱を制御する加熱制御ステップとを備えたことを特徴とする溶出試験器の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−27619(P2011−27619A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175340(P2009−175340)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(592253390)富山産業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】