説明

温度測定システム及び温度算出方法

【課題】被測定体の内部温度を測定するための新しい手法の提案。
【解決手段】温度測定システム1において、相対関係判定部311は、別途測定された被測定体の内部温度である基準内部温度823と、接触子100を被測定体に接触させた際の第1温度センサー11及び第2温度センサー12のそれぞれの検出温度である基準第1検出温度821及び基準第2検出温度822とを用いて、各温度センサー11,12それぞれの位置における熱収支特性の相対関係を示す熱収支相対係数840を算出する。そして、内部温度算出部320は、熱収支相対係数840と、各温度センサー11,12のそれぞれの検出温度とを用いて、被測定体の内部温度を継続的に算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定体の内部温度を測定する温度測定システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
基本的なバイタル情報である体温からは健康状態・基礎代謝状態・精神状態などの生体情報が得られる。人体や動物の体温に基づいて、人や動物の健康状態、基礎代謝状態あるいは精神状態を判断するためには、人体や動物の表層部の温度ではなく、その内部温度(深部温度)の情報が必要である。
【0003】
また、例えば、炉や配管等の内部温度を測定する場合に、炉や配管の外側に温度測定装置を設けて内部温度を測定することができれば、温度測定装置を炉や配管等の内部に設けるための設備や部材が不要となる他、耐熱性や耐腐食性、測定レンジの点からもより安価な温度測定装置を利用可能となり、また、工事コストも削減できる。
【0004】
内部温度の測定に関する技術としては、例えば人体の温度を測定する特許文献1や特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−29794号公報
【特許文献2】特開2006−308538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術は、いわゆる熱流補償式を利用した内部温度測定に関する技術である。この技術は、熱流補償型プローブを体表面に貼付し、体表面からの熱の放散を見かけ上ゼロにすることにより、被測定体の内部温度を測定する技術である。この場合、生体内部とプローブとを温度平衡状態とするためにヒーターの制御が必要となる。そのため、ヒーターを動作させるための電力が必要となる他、内部温度の測定精度を向上させるために、ヒーターの精細な温度制御が必要であった。
【0007】
また、特許文献2に開示されている技術では、内部温度の算出に際して、温度測定装置とその周囲の環境(外界)との間で生じる熱収支を考慮していないという問題がある。つまり、特許文献2の技術は、周囲の環境との間で熱収支が生じない、いわば理想的な系を形成できることを前提とした技術である。しかし、現実には、温度測定装置と周囲の環境との間の熱収支が存在するため、この熱収支に起因する温度の測定誤差分を無視できないという問題があった。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、被測定体の内部温度を測定するための新しい手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の形態は、複数の温度センサーを異なる位置に有し、且つ熱伝導性を備えた接触子と、別途測定された被測定体の内部温度と、前記接触子を前記被測定体に接触させた際の前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記複数の温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定する判定部と、前記熱収支特性の相対関係と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記被測定体の内部温度を継続的に算出する温度算出部と、を備えた温度測定システムである。
【0010】
また、他の形態として、複数の温度センサーを異なる位置に有し、且つ熱伝導性を備えた接触子を用いて被測定体の内部温度を算出する温度算出方法であって、別途測定された前記被測定体の内部温度と、前記接触子を前記被測定体に接触させた際の前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記複数の温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定することと、前記熱収支特性の相対関係と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記被測定体の内部温度を継続的に算出することと、を含む温度算出方法を構成してもよい。
【0011】
この第1の形態等によれば、別途測定された被測定体の内部温度と、複数の温度センサーを異なる位置に有し、且つ熱伝導性を備えた接触子を被測定体に接触させた際の複数の温度センサーの検出温度とを用いて、複数の温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定する。ここで、熱収支とは、熱の出入りのことを意味し、熱収支特性とは、その熱の出入りの特性のことを意味する。
【0012】
後述する実施形態で詳述するが、複数の温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係が分かれば、複数の温度センサーの検出温度を用いて被測定体の内部温度を算出することができる。この手法では、接触子を被測定体に接触させた状態で複数の温度センサーによって温度を検出し、それらの検出温度と、別途測定しておいた被測定体の内部温度から判定した熱収支特性の相対関係とを用いるだけで、被測定体の内部温度を簡易に算出することができる。この場合、被測定体の内部温度を精度良く測定しておくことで、被測定体の内部温度を正しく算出することができる。また、複数の温度センサーの位置における熱収支特性を考慮して内部温度を算出するため、熱収支に起因する温度の測定誤差分も併せて補償することができる。
【0013】
また、第2の形態として、第1の形態の温度測定システムにおいて、前記複数の温度センサーは、前記接触子内の、前記接触子外との熱収支特性が異なる位置に設けられてなる、温度測定システムを構成することとしてもよい。
【0014】
この第2の形態によれば、複数の温度センサーが、接触子内の、接触子外との熱収支特性が異なる位置に設けられてなる。接触子内の、接触子外との熱の出入りの特性が異なる位置に複数の温度センサーを設けることで、複数の温度センサーの位置における熱収支特性を相違させることができる。
【0015】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の温度測定システムにおいて、前記接触子は、(1)前記被測定体に接触する接触面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、(2)前記接触面以外の側面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、或いは(1)で且つ(2)の位置に温度センサーを有してなる、温度測定システムを構成することとしてもよい。
【0016】
この第3の形態によれば、接触子が、(1)被測定体に接触する接触面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、(2)接触面以外の側面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、に温度センサーを有してなるため、複数の温度センサーの検出温度に差を生じさせることができる。この場合、(1)で且つ(2)の位置に温度センサーを有する構成としてもよい。
【0017】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の温度測定システムにおいて、前記接触子は、熱伝導特性が異なる複数の層を有し、当該異なる層に温度センサーを有する、温度測定システムを構成することとしてもよい。
【0018】
この第4の形態によれば、接触子の熱伝導特性が異なる複数の層に温度センサーを設置することで、複数の温度センサーの位置での熱収支特性を相違させることができる。
【0019】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態の温度測定システムにおいて、前記判定部は、別途測定された前記被測定体の内部温度に対する前記複数の温度センサーの検出温度の差を用いて前記熱収支特性の相対関係を判定する、温度測定システムを構成することとしてもよい。
【0020】
後述する実施形態で詳述するが、内部温度は、複数の温度センサーの検出温度と、熱収支特性の相対関係とに基づく所定の演算式に従って算出可能である。また、別途測定された被測定体の内部温度を利用することで、当該演算式から熱収支特性の相対関係を可逆的に求めることができる。この際、熱収支特性の相対関係は、別途測定された被測定体の内部温度に対する複数の温度センサーの検出温度の差を用いて求めることができる。
【0021】
また、第6の形態として、第1〜第5の何れかの形態の温度測定システムにおいて、前記接触子は、3以上の温度センサーを異なる位置に有し、前記接触子に設けられた温度センサーの中から少なくとも2つの温度センサーを選択する選択部を更に備え、前記判定部は、前記選択部により選択された温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定し、前記温度算出部は、前記熱収支特性の相対関係と、前記選択部により選択された温度センサーの検出温度とを用いて、前記被測定体の内部温度を算出する、温度測定システムを構成することとしてもよい。
【0022】
この第6の形態によれば、接触子に設けられた3以上の異なる位置に配置された温度センサーの中から、少なくとも2つの温度センサーを選択する。そして、選択した温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定し、当該熱収支特性の相対関係と、選択した温度センサーの検出温度とを用いて、被測定体の内部温度を算出する。かかる構成により、3以上の異なる位置に配置された温度センサーの中から、内部温度の算出に適した温度センサーを選択して内部温度を算出することが可能となる。
【0023】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の温度測定システムにおいて、前記被測定体は人体であり、前記接触子は、深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位と相対的な温度変化をする部位表面に接触され、前記判定部は、前記深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位内部の測定対象位置の別途測定された温度と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記熱収支特性の相対関係を判定し、前記温度算出部は、前記熱収支特性の相対関係と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記測定対象位置の温度を継続的に算出する、温度測定システムを構成することとしてもよい。
【0024】
この第7の形態によれば、被測定体は人体であり、接触子は、深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位と相対的な温度変化をする部位表面に接触される。そして、深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位内部の測定対象位置の別途測定された温度と、複数の温度センサーの検出温度とを用いて、熱収支特性の相対関係を判定する。そして、熱収支特性の相対関係と、複数の温度センサーの検出温度とを用いて、測定対象位置の温度を継続的に算出する。これにより、人体のうち、深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位を測定対象位置として、その温度を継続的に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(1)接触子の構成図。(2)熱流経路モデルの説明図。(3)熱流経路モデルの説明図。
【図2】(1)温度センサーの設置位置の一例。(2)温度センサーの設置位置の一例。(3)温度センサーの設置位置の一例。(4)温度センサーの設置位置の一例。
【図3】(1)接触子の一構成例。(2)接触子の一構成例。(3)接触子の一構成例。(4)接触子の一構成例。
【図4】(1)接触子の一構成例。(2)接触子の一構成例。
【図5】実験結果の説明図。
【図6】温度測定システムの機能構成を示すブロック図。
【図7】第1メイン処理の流れを示すフローチャート。
【図8】(1)変形例における接触子の構成図。(2)変形例における処理部の機能構成図。
【図9】第2メイン処理の流れを示すフローチャート。
【図10】第3メイン処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.原理
1−1.温度算出の原理
図1(図1(1)〜図1(3))は、本実施形態における温度算出の原理の説明図である。本実施形態では、図1(1)に示すように、温度の測定対象とする被測定体に接触面STが接触するように、所定形状の接触子100を被測定体に接触させる。
【0027】
接触子100は、熱伝導性を有し、当該接触子100内の異なる位置に複数の温度センサーを有して構成される。接触子100は、所定の熱伝導率(又は熱抵抗)を有する材料によって形成される。好適な材料の1つはシリコンゴムである。
【0028】
本実施形態において、接触子100内には異なる2点の位置に温度センサーが設けられる。以下、2つの温度センサーを第1温度センサー11及び第2温度センサー12として説明する。また、第1温度センサー11及び第2温度センサー12が温度を検出する位置のことを、それぞれ第1検出位置P1及び第2検出位置P2として図示・説明する。
【0029】
温度センサーとしては、公知のセンサーを用いることができる。例えば、チップサーミスターや、サーミスターパターンがプリントされたフレキシブル基板、白金測温抵抗体等を利用したセンサーや、熱電対素子や、PN接合素子、ダイオード等を利用したセンサーを用いることができる。温度センサーからは、検出位置の温度に応じた電気信号(以下、「温度検出信号」と称す。)が出力され、当該温度検出信号に基づいて、各温度センサーの検出温度が取得される。
【0030】
被測定体の温度測定の対象とする位置を、以下「測定対象位置」と称する。また、外界における任意の位置を、以下「外界任意位置」と称する。本実施形態において被測定体は人体とするが、人体以外の動物等の有機的な物体であってもよいし、炉や配管、エンジンといった無機的な物体であってもよい。また、外界とは、被測定体が置かれた測定環境のことを意味する。
【0031】
今、被測定体の内部温度が外界の温度よりも高い状況を想定する。熱は、温度の高い方から低い方に移動する。そのため、ここでは、測定対象位置Pcを熱源とし、外界任意位置Poutを熱帰着点とする熱流経路を考える。より具体的には、測定対象位置Pcから第1検出位置P1を通って外界任意位置Poutに至る熱流経路(以下、「第1熱流経路」と称す。)と、測定対象位置Pcから第2検出位置P2を通って外界任意位置Poutに至る熱流経路(以下、「第2熱流経路」と称す。)との2つの熱流経路を考える。
【0032】
第1及び第2熱流経路を熱流が流れる際には、その過程において、外界からの熱の流入及び外界への熱の流出の影響を受ける。本実施形態では、この熱の交換のことを「熱収支」と呼ぶ。この熱収支を考慮して上記の熱流経路を電気回路的にモデル化すると、図1(2)のような熱流経路モデルを構築することができる。
【0033】
図1(2)の熱流経路モデルでは、測定対象位置Pから第1検出位置P1までの経路には様々な経路が考えられ、第1検出位置P1から外界任意位置Poutまでの経路も様々な経路が考えられる。図1(2)の熱流経路モデルは、各経路が抵抗として表わされている。第2熱流経路も同様である。勿論、それぞれの熱抵抗の値は未知である。
【0034】
図1(2)の熱流経路モデルを簡易化すると、図1(3)のようになる。測定対象位置Pと第1検出位置P1間に並列接続された熱抵抗を合成した熱抵抗をRa1と表記し、第1検出位置P1と外界任意位置Pout間に並列接続された熱抵抗を合成した熱抵抗をRa2と表記する。また、測定対象位置Pと第2検出位置P2間に並列接続された熱抵抗を合成した熱抵抗をRb1と表記し、第2検出位置P2と外界任意位置Pout間に並列接続された熱抵抗を合成した熱抵抗をRb2と表記する。
【0035】
また、測定対象位置Pの温度を「内部温度」と称し、Tcと表記する。外界任意位置Poutの温度を「外界温度」と称し、Toutと表記する。また、第1温度センサー11及び第2温度センサー12の検出温度を、それぞれ第1検出温度及び第2検出温度と称し、それぞれTa及びTbと表記する。
【0036】
図1(3)の熱流経路モデルにおいて、第1検出温度Taは、熱抵抗Ra1及びRa2と、内部温度Tcと、外界温度Toutとを用いて、次式(1)のように表すことができる。また、第2検出温度Tbは、熱抵抗Rb1及びRb2と、内部温度Tcと、外界温度Toutとを用いて、次式(2)のように書き表すことができる。
【数1】

【数2】

【0037】
内部温度Tcを求めるために、式(1)及び(2)から外界温度Toutの項を消去する。次式(3)に示すように、式(1)における外界温度Toutの係数と、式(2)における外界温度Toutの係数とを、それぞれ次式(3)及び(4)のように置き換える。
【数3】

【数4】

【0038】
係数aは、第1熱流経路の全熱抵抗に対する熱抵抗Ra1の割合として表される。これは、第1熱流経路を流れる熱流が熱抵抗Ra1によって受ける熱収支の影響を表しており、第1検出位置P1における熱収支特性を表す係数と考えることができる。係数bも同様である。
【0039】
このとき、式(1)及び(2)は、それぞれ次式(5)及び(6)のように書き換えることができる。
【数5】

【数6】

【0040】
従って、式(5)及び式(6)から、例えば次式(7)のように内部温度Tcを表わすことができる。
【数7】

【0041】
ここで、式(3)で定義した係数aと、式(4)で定義した係数bとの比として、次式(8)で表される熱収支相対係数Dを導入する。
【数8】

【0042】
熱収支相対係数Dは、第1検出位置P1及び第2検出位置P2それぞれにおける熱収支特性の相対関係を表す係数(係数a及び係数bの相対値)である。このとき、熱収支相対係数Dを用いて、式(7)は次式(9)のように書き換えることができる。
【数9】

【0043】
式(9)において、第1検出温度Ta及び第2検出温度Tbは、それぞれ第1温度センサー11及び第2温度センサー12によって検出可能であるため既知である。しかし、第1熱流経路及び第2熱流経路の熱抵抗Ra1,Ra2,Rb1,Rb2は未知であるため、熱収支相対係数Dの値も未知である。そこで、本実施形態では、熱収支相対係数Dの値を校正する。
【0044】
式(9)を熱収支相対係数Dについて解くと、次式(10)のようになる。
【数10】

【0045】
式(10)から分かるように、熱収支相対係数Dは、被測定体の内部温度Tcに対する第1温度センサー11及び第2温度センサー12のそれぞれの検出温度の差を用いて算出される。被測定体の内部温度Tcは測定対象とする温度であり、その値は不明である。しかし、内部温度Tcを別途測定しておくことができれば、式(10)から熱収支相対係数Dが求まるため、熱収支相対係数Dを校正することができる。
【0046】
例えば、基準とする内部温度(以下、「基準内部温度」と称す。)Tcoを、侵襲式或いは非侵襲式の温度測定方法を利用して測定することが可能である。
【0047】
基準内部温度Tcoが得られた時の第1及び第2温度センサー11,12の検出温度を、それぞれ基準第1検出温度Tao及び基準第2検出温度Tboとすると、式(10)を利用して、次式(11)のように熱収支相対係数Dが算出できる。
【数11】

【0048】
式(11)に従って算出した熱収支相対係数Dの値を記憶しておく。そして、その後は、第1検出温度Ta及び第2検出温度Tbを継続的に測定し、測定された第1検出温度Ta及び第2検出温度Tbと、熱収支相対係数Dと、を用いて、被測定体の内部温度TCを式(9)に従って継続的に算出する。
【0049】
1−2.温度センサーの設置位置
図2(図2(1)〜図2(4))を参照して、温度センサーの設置位置について説明する。基本的に、第1温度センサー11及び第2温度センサー12は、例えば図2(1)に示すように、接触子100内の異なる任意の2箇所に設置すればよい。異なる2つの温度センサーの設置位置が同一となることは物理的に不可能であるため、第1温度センサー11及び第2温度センサー12それぞれの検出温度は、基本的には異なる温度となることが想定される。つまり、第1温度センサー11及び第2温度センサー12それぞれの検出温度には、僅かであっても温度差が生ずることが想定される。従って、上記の原理に従って被測定体の内部温度を算出することができる。
【0050】
しかし、第1及び第2温度センサー11,12の検出温度が偶然同じ値となるような場合には、内部温度の算出が適切に行われなくなる可能性がある。式(11)によれば、基準第1検出温度Taoと基準第2検出温度Tboとが等しい場合は(Tao=Tbo)、熱収支相対係数Dは“1”となる(D=1)。この場合、式(9)の右辺各項の分母が0となるため、内部温度Tcの算出が不可能となるからである。かかる問題に鑑み、本実施形態では、第1温度センサー11及び第2温度センサー12を、接触子100内の、接触子100外との熱収支特性が異なる位置に設ける。これは、複数の温度センサーを、接触子内の、接触子外との熱収支特性が異なる位置に設けることに相当する。
【0051】
「Tao=Tbo」となるのは、図1(3)の熱流経路モデルにおいて、例えば「Ra1=Rb1、且つ、Ra2=Rb2」が成立する場合である。従って、原理的には、「Ra1≠Rb1」又は「Ra2≠Rb2」となるような接触子100内の2箇所に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を設置することで、各温度センサーの検出温度に差を生じさせることができる。つまり、熱源から外界までの熱流経路を想定した場合に、熱源から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を設置すれば「Ra1≠Rb1」となる。また、当該位置から外界までの熱伝導特性が異なる位置に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を設置すれば「Ra2≠Rb2」となる。本実施形態において、熱伝導特性とは、熱伝導率(熱伝導度)や、その逆数である熱抵抗率といった、熱伝導を表す特性値により定まる熱伝導の特性のことを意味する。
【0052】
かかる知見に基づき、本実施形態では、接触子100の物理的な構造に着目して温度センサーの設置位置を位置決めする。具体的には、(1)接触子100の接触面STから当該位置までの熱伝導特性が異なる位置(以下、「第1位置条件」と称す。)に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を設置すれば「Ra1≠Rb1」となる可能性は高い。また、(2)接触面ST以外の側面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置(以下、「第2位置条件」と称す。)に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を設置すれば「Ra2≠Rb2」となる可能性は高い。そこで、第1位置条件或いは第2位置条件、若しくは、第1位置条件及び第2位置条件の両方を満たすように、温度センサーの設置位置を定めると好適である。これは、接触子が、(1)被測定体に接触する接触面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、(2)接触面以外の側面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、或いは(1)で且つ(2)の位置に温度センサーを有してなることに相当する。
【0053】
上記の条件を満たす例を幾つか挙げる。例えば、図2(2)に示すように、接触面STから第1温度センサー11までの距離をLAとし、接触面STから第2温度センサー12までの距離がLB(<LA)となるように設置位置を定める。ここでは、接触面STの法線方向に沿って第1温度センサー11及び第2温度センサー12の設置位置が定められている。この場合、接触面STから各温度センサー11,12の設置位置までの距離が異なるため、各温度センサー11,12の位置における熱収支特性が相違する。従って、2点の検出温度に差(温度差)を生じさせることができる。
【0054】
他の例を図2(3)に示す。第1温度センサー11は接触子100の中央部に、第2温度センサー12は接触子100の周部寄りに配置されている。但し、第1温度センサー11及び第2温度センサー12ともに、接触面STからの距離はほぼ等しい。この場合、第1温度センサー11は、接触子100の接触面ST以外の側面のうち、直近の側面(図中上側の側面)までの距離はL1である。第2温度センサー12は、接触子100の接触面ST以外の側面のうち、直近の側面(図中右側の側面)までの距離はL2(<L1)である。この場合、各温度センサー11,12の位置における熱収支特性が相違し、2点の検出温度に差を生じさせることができる。
【0055】
また、図2(2)及び図2(3)の例を組み合わせた図2(4)のような配位置としてもよい。
【0056】
1−3.接触子の構成例
図3(図3(1)〜図3(4))及び図4(図4(1),図4(2))は、接触子100の幾つかの構成を概略的に示した図であり、断面図として図示している。
【0057】
図3(1)は、接触子100の最も単純な構成例として接触子100Aの概略構成を示す図である。図3(1)の接触子100Aは、シリコンゴム等でなる基部10の内部の異なる位置に第1温度センサー11及び第2温度センサー12が設置されて構成されている。各温度センサーの設置位置の決め方は、図2を参照して説明した通りであり、図3(2)〜(4)においても同様である。
【0058】
図3(2)は、接触子100Bの概略構成を示す図である。接触子100Bは、外装部20Aが例えばプラスチック等からなる箱体状として形成され、第1温度センサー11及び第2温度センサー12が基部20の内部に紐状部材で固定され、更に所定の気体が封入されて構成される。基部20の内部は、いわば内層部20Bとも考えられ、所定の熱伝導率を有する気体(例えばヘリウムガス)が充填・封入される。
【0059】
図3(3)は、接触子100Cの概略構成を示す図である。接触子100Cは、基部30が熱伝導率の異なる材料でなる第1層30A及び第2層30Bが積層されて構成される。第1層30A及び第2層30Bの材料は、熱伝導率が異なる材料を適宜選択することが可能である。また、第1層30Aに第1温度センサー11が、第2層30Bに第2温度センサー12が設置される。
【0060】
図3(4)は、接触子100Dの概略構成を示す図である。接触子100Dは、上面に第1温度センサー11を、下面に第2温度センサー12を配置した回路基板40Cを樹脂等で包含固定させた第1層40Aと、第2層40Bとが積層された基部40を有して構成される。回路基板40Cにはプロセッサーやメモリーを更に実装しておくことも可能であり、その場合には発熱素子から離れた位置に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を設けるとよい。
【0061】
図4(1)及び図4(2)は、温度センサーとして、赤外線温度センサー等の非接触式の温度センサーを用いた場合の接触子100の構成例である。図4(1)の接触子100Eは、カップ状に形成された基部50を逆さまにして被測定体に接触して用いられる構成を成し、基部50の内側底面(被測定体表面の対向面)に第1温度センサー11及び第2温度センサー12を有して構成される。また、第1温度センサー11は基部50の周部寄りの位置に設置され、第2温度センサー12は中央部に設置されている。
【0062】
第1温度センサー11及び第2温度センサー12は、被測定体の表面上の検出位置P1及びP2の温度をそれぞれ検出する。第1温度センサー11は、基部50の周部寄りに設置されているため、第2温度センサー12と比べて外界との間の熱収支の影響を受けやすい。そのため、第1及び第2温度センサー11,12それぞれの検出温度には差が生じ得る。
【0063】
図4(2)の接触子100Fは、外装部60Aが例えばプラスチック等からなる箱状体として形成され、基部60の内部60Bの天井面に第1温度センサー11及び第2温度センサー12が設置されて構成される。
【0064】
また、基部60の内部60Bの底面であって第1温度センサー11及び第2温度センサー12の対向位置には、それぞれ熱伝導率の異なる材料で形成された第1台座部60C及び第2台座部60Dが設けられている。第1温度センサー11及び第2温度センサー12は、それぞれ第1台座部60C及び第2台座部60Dの検出位置P1及びP2の温度をそれぞれ検出する。第1台座部60Cと第2台座部60Dとは熱伝導率が異なるため、各温度センサー11,12それぞれの検出温度に差が生じ得る。
【0065】
1−4.実験結果
図5は、上記の温度算出の原理に従って行った実験結果の一例を示す図である。被測定体を温水とし、温水上にポリ塩化ビニル(PVT)を材料とする20[mm]の厚さの土台を乗せ、更に土台上に図1(1)の接触子100を配置して温水の温度を算出した。この実験で用いた接触子100は、シリコンゴムを直径40[mm]、高さ5[mm]のボタン状に成形したものである。第1温度センサー11及び第2温度センサー12にはサーミスターを用いた。また、温水の温度は32[℃]〜44[℃]の範囲で変化させた。
【0066】
図5において、横軸は水温実測値であり、縦軸は水温算出値である。単位は何れも[℃]である。このグラフを見ると、水温実測値と水温算出値とは線形の特性を示しており、水温が正しく算出されていることがわかる。このうち、点線で囲った部分の結果に着目してみると、水温実測値が36.922[℃]に対して水温算出値が36.952869[℃]であり、算出誤差は0.08[%]の−0.031036[℃]であった。この実験結果から、本実施形態の温度算出方法の有効性が実証された。
【0067】
2.実施例
次に、上記の原理に従って被測定体の内部温度を算出・測定する温度測定システム1の実施例について説明する。ここでは、被測定体を人体とし、接触子100を頭部、首部及び胴体部の何れかの部位表面に接触させて、測定対象位置の温度を測定する場合を例に挙げて説明する。
【0068】
2−1.機能構成
図6は、本実施形態における温度測定システム1の機能構成の一例を示すブロック図である。温度測定システム1は、接触子100と、本体装置200とを備えて構成される。
【0069】
接触子100の原理的な構成は上述した通りである。実施例としての構成としては、被測定体である人体の皮膚面に当接する基部10の接触面STを露出した状態で保持するプラスチック製のカバー部(不図示)を有し、例えばプローブとして構成される。また、接触子100は、全体として面状(例えばボタン状やシート状)の形状としてもよいし、片手で把持可能な筒状の形状としてもよい。
【0070】
また、接触子100と本体装置200とは、ケーブルによって有線接続してもよいし、接触子100内に小型無線機を内蔵させて本体装置200との間で無線接続可能に構成してもよい。また、接触子100を人体胴部や首部に固定するために、人体胴部や首部に巻き付けるベルトを具備する構成としてもよいし、取り替え可能な粘着テープを装着可能な構成としてもよい。
【0071】
本体装置200は、例えば、処理部300と、操作部400と、表示部500と、通信部600と、記憶部800とを有する。
【0072】
処理部300は、記憶部800に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って、温度測定システム1の各部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサーを有して構成される。
【0073】
処理部300は、接触子100内の第1温度センサー11及び第2温度センサー12から、それぞれ温度検出信号を入力する。そして、当該温度検出信号に基づいて、第1検出位置P1及び第2検出位置P2の検出温度を取得して、記憶部800に記憶させる。
【0074】
処理部300は、主要な機能部として、初期校正部310と、内部温度算出部320とを有する。また、初期校正部310は、相対関係判定部311を機能部として有する。相対関係判定部311は、複数の温度センサーそれぞれの位置における熱収支特性の相対関係を判定する判定部に相当する。また、内部温度算出部320は、被測定体の内部温度を継続的に算出する温度算出部に相当する。
【0075】
操作部400は、スイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたスイッチの信号を処理部300に出力する。操作部400は、ユーザーが、初期校正のための基準内部温度を入力するために用いる他、内部温度の測定開始、測定終了といった各種指示操作を入力するために用いられる。
【0076】
表示部500は、LCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成され、処理部300から入力される表示信号に基づく各種表示を行う表示装置である。表示部500には、被測定体の内部温度の測定結果等が表示される。
【0077】
通信部600は、処理部300の制御に従って、装置内部で利用される情報をPC(Personal Computer)等の外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。この通信部600の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、近距離無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。
【0078】
記憶部800は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置を有して構成される。記憶部800には、温度測定システム1のシステムプログラムや、初期校正機能、温度算出機能、通信機能等の各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。
【0079】
記憶部800には、プログラムとして、処理部300によって読み出され、第1メイン処理(図7参照)として実行される第1メインプログラム810が記憶されている。第1メインプログラム810は、初期校正処理として実行される初期校正プログラム811と、内部温度算出処理として実行される内部温度算出プログラム812とをサブルーチンとして含む。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0080】
また、記憶部800には、データとして、初期校正用データ820と、検出温度データ830と、熱収支相対係数840と、算出内部温度850とが記憶される。
【0081】
初期校正用データ820は、温度測定システム1の初期校正を行うためのデータであり、基準第1検出温度821と、基準第2検出温度822と、基準内部温度823とがこれに含まれる。
【0082】
検出温度データ830は、第1温度センサー11及び第2温度センサー12から入力した温度検出信号に基づいて取得した検出温度のデータであり、第1検出温度831と、第2検出温度832とがこれに含まれる。
【0083】
熱収支相対係数840は、初期校正用データ820を利用して、式(11)に従って算出される熱収支相対係数Dの値である。
【0084】
算出内部温度850は、検出温度データ830と熱収支相対係数840とを用いて、式(9)に従って継続的に算出される内部温度である。
【0085】
2−2.使用例
温度測定システム1は、原則的に、内部温度を測定したい人体の部位表面に接触子100を接触させた状態で初期校正を行い、その状態で継続的に内部温度の算出を行うものである。本実施例において、接触子100は、深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位と相対的な温度変化をする部位表面に接触するように設置する。
【0086】
例えば、食道温を測定したい場合は、首部の皮膚面に接触子100を固定し、その状態で第1温度センサー11及び第2温度センサー12の検出温度を演算して、基準第1検出温度821及び基準第2検出温度822とする。また、例えば、先端部にサーミスターを封入したカテーテルを食道に挿入して食道温を測定し、その測定温度を基準内部温度823とする。また、熱流補償式を利用して食道温を測定することとしてもよい。
【0087】
そして、相対関係判定部311は、基準第1検出温度821及び基準第2検出温度822と、基準内部温度823とを用いて、式(11)に従って熱収支相対係数840を算出する。その後は、第1温度センサー11及び第2温度センサー12の検出温度と、予め算出しておいた熱収支相対係数840とを用いて、式(9)に従って食道温を算出する。
【0088】
上記の使用法が基本的な使用例であるが、応用例として、接触子100の設置位置から離れた位置を測定対象位置とすることも可能である。例えば、直腸を測定対象位置として直腸温を測定する場合、接触子100の設置位置は、測定対象位置である直腸との間で温度が相対的に変化する部位表面であれば、任意の位置としてよい。人体のうち、頭部、首部及び胴体部といった四肢を除く部位は、恒温を保つ核心部であるため、これらの部位表面が好適である。
【0089】
なお、この場合も、基準内部温度823は、測定対象位置の温度とする必要がある。つまり、直腸を測定対象位置とするため、直腸温を所定の温度測定方法を利用して測定する。例えば、サーミスタープローブを肛門から挿入して直腸温を測定する方法や、熱流補償式を利用して直腸温を測定する方法などを利用可能である。
【0090】
別途測定した基準内部温度823と、その測定時に接触子100から演算・取得した基準第1検出温度821及び基準第2検出温度822とを用いて、式(11)に従って熱収支相対係数840を算出する。これが初期校正となる。以降は、第1温度センサー11及び第2温度センサー12の検出温度と、算出しておいた熱収支相対係数840とを用いて、式(9)に従って直腸温を継続的に算出できる。
【0091】
2−3.処理の流れ
図7は、本体装置200の処理部300が、記憶部800に記憶されている第1メインプログラム810に従って実行する第1メイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0092】
先ず、処理部300は、記憶部800に記憶されている初期校正プログラム811に従って初期校正処理を行う。初期校正処理では、処理部300は初期校正部310として機能する。
【0093】
初期校正部310は、基準内部温度823を入力し、初期校正用データ820として設定する(ステップA1)。例えば、操作部400から操作入力されたり、外部の測定装置から外部入力した基準内部温度823を記憶部800に記憶させる。
【0094】
次いで、初期校正部310は、接触子100から温度検出信号を入力して各温度センサーの検出温度を演算し、基準第1検出温度821及び基準第2検出温度822として記憶部800に記憶させる(ステップA5)。
【0095】
その後、相対関係判定部311は、基準第1検出温度821と、基準第2検出温度822と、基準内部温度823とを用いて、式(11)に従って熱収支相対係数840を算出し、記憶部800に記憶させる(ステップA9)。そして、初期校正部310は、初期校正処理を終了する。
【0096】
初期校正処理を行ったならば、処理部300は、記憶部800に記憶されている内部温度算出プログラム812に従って内部温度算出処理を行う。内部温度算出処理では、処理部300は内部温度算出部320として機能する。
【0097】
内部温度算出部320は、接触子100から温度検出信号を入力して各温度センサーの検出温度を演算し、第1検出温度831及び第2検出温度832として記憶部800に記憶させる(ステップA13)。
【0098】
そして、内部温度算出部320は、第1検出温度831と、第2検出温度832と、熱収支相対係数840とを用いて、式(9)に従って内部温度を算出し、算出内部温度850として記憶部800に記憶させる(ステップA17)。そして、内部温度算出部320は、内部温度算出処理を終了する。
【0099】
内部温度算出処理を行ったならば、処理部300は、ステップA17で求めた算出内部温度850を表示部500に表示させる(ステップA21)。そして、処理部300は、温度測定を終了するか否かを判定する(ステップA25)。例えば、操作部400を介してユーザーから温度測定の終了指示操作がなされた場合に、温度測定を終了すると判定する。
【0100】
温度測定を継続すると判定したならば(ステップA25;No)、処理部300は、ステップA13に戻る。また、温度測定を終了すると判定したならば(ステップA25;Yes)、処理部300は、第1メイン処理を終了する。
【0101】
2−4.作用効果
温度測定システム1において、相対関係判定部311は、別途測定された被測定体の内部温度である基準内部温度823と、接触子100を被測定体に接触させた際の第1温度センサー11及び第2温度センサー12のそれぞれの検出温度である基準第1検出温度821及び基準第2検出温度822とを用いて、各温度センサー11,12それぞれの位置における熱収支特性の相対関係を示す熱収支相対係数840を算出する。そして、内部温度算出部320は、熱収支相対係数840と、各温度センサー11,12のそれぞれの検出温度とを用いて、被測定体の内部温度を継続的に算出する。
【0102】
熱収支相対係数840を初期校正することができれば、各温度センサー11,12によって検出された第1検出温度831及び第2検出温度832と、熱収支相対係数840とを用いて、式(9)から内部温度を算出することができる。この手法では、接触子100を被測定体に接触させた状態で各温度センサー11,12によってそれぞれ検出された検出温度と、別途測定しておいた被測定体の内部温度とを用いるだけで、被測定体の内部温度を簡易に算出することができる。また、各温度センサー11,12それぞれの位置における熱収支特性を考慮して内部温度を算出するため、熱収支に起因する温度の測定誤差分も併せて補償することができる。
【0103】
また、各温度センサー11,12は、接触子100内の、接触子100外との熱収支特性が異なる位置に設けられてなる。接触子100の物理的な構造に着目すると、接触子100は、(1)被測定体に接触する接触面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、(2)接触面以外の側面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、或いは(1)で且つ(2)の位置に各温度センサー11,12を有してなる。これにより、各温度センサー11,12それぞれの位置での熱収支特性を相違させ、各温度センサー11,12の検出温度に差(温度差)を生じさせることができる。温度差が大きいほど、各温度センサー11,12それぞれの位置における熱収支特性の相対関係が熱収支相対係数Dに明確に反映されるようになる。その結果、式(9)から内部温度を高い正確性で算出することが可能となる。
【0104】
3.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明するが、上記の実施例と同一の構成やフローチャートの同一のステップについては、同一の符号を付して、再度の説明を省略する。
【0105】
3−1.温度センサーの設置数
上記の実施形態では、接触子100の内部に2個の温度センサーを設置する場合を例に挙げて説明したが、3以上の温度センサーをそれぞれ異なる位置に設置することとしてもよい。この場合、図1で説明した熱流経路モデルとして、設置する温度センサーの数に応じた熱流経路を想定して、上記の実施形態と同様のモデル化を行えばよい。
【0106】
つまり、接触子100内にn個の温度センサーを設置する場合は、第1〜第n熱流経路それぞれについて、図1(3)と同様の熱流経路モデルを構築する。そして、第1〜第n検出位置それぞれの位置における温度の式を定式化する。そして、第1〜第n検出位置それぞれの位置における熱収支特性の相対関係を、熱収支相対係数としてそれぞれ定義する。あとは、上記の実施形態と同様に熱収支相対係数の校正を行った後、内部温度の算出を行えばよい。
【0107】
3−2.温度センサーの選択
また、接触子100内に3以上の温度センサーをそれぞれ異なる位置に設置し、その中から少なくとも2つの温度センサーを選択して内部温度の算出を行うこととしてもよい。例えば、3つの温度センサーを設置する場合は、その中から2つの温度センサーを選択して内部温度の算出を行う。また、例えば、4つの温度センサーを設置する場合は、その中から2つ或いは3つの温度センサーを選択して内部温度の算出を行えばよい。ここでは、接触子100内に3つの温度センサーを設置する場合を例に挙げて説明する。
【0108】
図8(1)は、本変形例における接触子100Gの概略構成の一例を示す図である。接触子100Gは、基部10内の第1〜第3検出位置P1,P2,P3に、第1〜第3温度センサー11,12,13をそれぞれ設けて構成される。
【0109】
図8(2)は、本変形例における本体装置200の処理部300の機能構成を示す図である。処理部300は、初期校正部310に、更に温度センサー選択部313を有する。温度センサー選択部313は、3つの温度センサーの中から2つの温度センサーを選択する選択部である。
【0110】
図9は、本変形例において、図8(2)の処理部300が図7の第1メイン処理に代えて実行する第2メイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0111】
先ず、処理部300は、第2初期校正処理を実行する。初期校正部310は、基準内部温度を設定した後(ステップA1)、第1〜第3温度センサー11〜13の検出温度をそれぞれ演算する(ステップB3)。そして、2つの温度センサーの組合せ毎に、演算した検出温度の差(以下、「検出温度差」と称す。)を算出する(ステップB5)。
【0112】
次いで、温度センサー選択部313は、ステップB5で算出された検出温度差に基づいて、温度測定に使用する温度センサー(以下、「測定使用温度センサー」と称す。)を決定する(ステップB7)。具体的には、例えば、検出温度差が最大である温度センサーの組合せを判定し、その組合せとなる2つの温度センサーを測定使用温度センサーとして選択する。これは、上記の実施形態でも説明したように、2点の温度差がなるべく大きくなるようにして熱収支相対係数Dの校正を行うことが適切であるためである。
【0113】
次いで、相対関係判定部311は、ステップB7で選択した測定使用温度センサーについて検出された検出温度を基準第1検出温度及び基準第2検出温度とし、これらの基準検出温度と、ステップA1で設定した基準内部温度とを用いて、式(11)に従って熱収支相対係数を算出する(ステップA9)。そして、初期校正部310は、第2初期校正処理を終了する。
【0114】
その後、処理部300は、第2内部温度算出処理を行う。内部温度算出部320は、ステップB7で選択した測定使用温度センサーの検出温度を演算し、それぞれ第1検出温度及び第2検出温度とする(ステップB13)。そして、内部温度算出部320は、第1検出温度及び第2検出温度と、ステップA9で算出した熱収支相対係数とを用いて、式(9)に従って内部温度を算出した後(ステップA17)、第2内部温度算出処理を終了する。以降のステップは、第1メイン処理と同じである。
【0115】
3−3.熱収支相対係数及び内部温度の演算式
上記の実施形態で説明した熱収支相対係数及び内部温度の演算式はあくまでも一例であり、これに限られない。例えば、上記の実施形態において、式(8)のように定義した熱収支相対係数Dを、次式(12)の熱収支相対係数Fとして定義することも可能である。
【数12】

【0116】
この場合、式(7)は、熱収支相対係数Fを用いて次式(13)のように書き換えることができる。
【数13】

【0117】
式(13)を熱収支相対係数Fについて解き、基準内部温度Tco、基準第1検出温度Tao及び基準第2検出温度Tboを代入することで、次式(14)のように熱収支相対係数Fを算出することができる。
【数14】

【0118】
また、式(5)及び式(6)から外界温度Toutを消去する際に、消去の手順を変えることで、次式(15)を導出することができる。
【数15】

【0119】
式(15)に基づき、熱収支相対係数Gを次式(16)のように定義することも可能である。
【数16】

【0120】
この場合、式(15)は、次式(17)のように表すことができる。
【数17】

【0121】
式(17)を熱収支相対係数Gについて解き、基準内部温度Tco、基準第1検出温度Tao及び基準第2検出温度Tboをそれぞれ代入することで、次式(18)のように熱収支相対係数Gを算出することができる。
【数18】

【0122】
上記の熱収支相対係数F及びGは、何れも、第1熱流経路に存在する全熱抵抗のうち熱抵抗Ra1が占める割合(係数a)と、第2熱流経路に存在する全熱抵抗のうち熱抵抗Rb1が占める割合(係数b)との比で表されている。また、熱収支相対係数F及びGは、何れも、基準内部温度Tcoに対する各温度センサー11,12のそれぞれの基準検出温度Tao,Tboの差に基づき算出される。上記の何れの演算式を用いて熱収支相対係数及び内部温度の算出を行ったとしても、最終的に得られる内部温度の算出結果は同じとなる。
【0123】
3−4.検出温度に差が生じない場合の処理
上記の実施形態では、接触子100内の異なる任意の2箇所に温度センサーを設置することで、各温度センサーの位置での熱収支特性に相違を生じさせた。しかし、場合によっては、各温度センサーの位置での熱収支特性に相違が生じず、各温度センサーの検出温度に差が生じない場合も起こり得る。この場合は、以下のようにして内部温度を算出することが可能である。
【0124】
第1温度センサー11及び第2温度センサー12を接触子100内の2箇所に設置する場合、その検出温度である第1検出温度Taと第2検出温度Tbとが等しい場合(Ta=Tb)、式(7)は次式(19)のように書き換えることができる。
【数19】

よって、「Ta=Tb」が成立する場合は、内部温度を「Tc=Ta=Tb」として求めることができる。
【0125】
図10は、本変形例において、図6の処理部300が図7の第1メイン処理に代えて実行する第3メイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0126】
処理部300は、内部温度の算出に係る第3内部温度算出処理において、ステップA13で演算した第1温度センサー11及び第2温度センサー12それぞれの検出温度に差が生じているか否かを判定する(ステップC15)。なお、この判定では、検出温度の差が「0」である場合は勿論、検出温度の差が限りなく「0」に近い微小値である場合も、検出温度に差が生じていないと判定することとしてもよい。
【0127】
ステップC15において検出温度に差が生じていると判定した場合(ステップC15;Yes)、内部温度算出部320は、第1検出温度831と、第2検出温度832と、熱収支相対係数840とを用いて、式(9)に従って内部温度を算出し、算出内部温度850として記憶部800に記憶させる(ステップA17)。そして、内部温度算出部320は、第3内部温度算出処理を終了する。
【0128】
それに対し、ステップC15において検出温度に差が生じていないと判定した場合(ステップC15;No)、内部温度算出部320は、例えば、第1検出温度831を内部温度とし、算出内部温度850として記憶部800に記憶させる(ステップC19)。そして、内部温度算出部320は、第3内部温度算出処理を終了する。
【0129】
3−5.基準内部温度
上記の実施形態では、基準内部温度を所定の温度測定方法を用いて測定することとして説明した。しかし、簡易的に温度算出を行う場合には、過去に測定した基準内部温度を統計的に処理したモデル値のデータを記憶部800に記憶させておき、これを利用することとしてもよい。例えば、性別、年齢等に分類した基準内部温度のモデル値を本体装置200の記憶部800に記憶させておく。そして、初期校正では、操作入力されたユーザーの性別、年齢等に合致するモデル値を基準内部温度として熱収支相対係数の値を算出する。
【符号の説明】
【0130】
1 温度測定システム、 100 接触子、 200 本体装置、 300 処理部、 400 操作部、 500 表示部、 600 通信部、 800 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の温度センサーを異なる位置に有し、且つ熱伝導性を備えた接触子と、
別途測定された被測定体の内部温度と、前記接触子を前記被測定体に接触させた際の前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記複数の温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定する判定部と、
前記熱収支特性の相対関係と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記被測定体の内部温度を継続的に算出する温度算出部と、
を備えた温度測定システム。
【請求項2】
前記複数の温度センサーは、前記接触子内の、前記接触子外との熱収支特性が異なる位置に設けられてなる、
請求項1に記載の温度測定システム。
【請求項3】
前記接触子は、(1)前記被測定体に接触する接触面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、(2)前記接触面以外の側面から当該位置までの熱伝導特性が異なる位置、或いは(1)で且つ(2)の位置に温度センサーを有してなる、
請求項1又は2に記載の温度測定システム。
【請求項4】
前記接触子は、熱伝導特性が異なる複数の層を有し、当該異なる層に温度センサーを有する、
請求項1〜3の何れか一項に記載の温度測定システム。
【請求項5】
前記判定部は、別途測定された前記被測定体の内部温度に対する前記複数の温度センサーの検出温度の差を用いて前記熱収支特性の相対関係を判定する、
請求項1〜4の何れか一項に記載の温度測定システム。
【請求項6】
前記接触子は、3以上の温度センサーを異なる位置に有し、
前記接触子に設けられた温度センサーの中から少なくとも2つの温度センサーを選択する選択部を更に備え、
前記判定部は、前記選択部により選択された温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定し、
前記温度算出部は、前記熱収支特性の相対関係と、前記選択部により選択された温度センサーの検出温度とを用いて、前記被測定体の内部温度を算出する、
請求項1〜5の何れか一項に記載の温度測定システム。
【請求項7】
前記被測定体は人体であり、
前記接触子は、深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位と相対的な温度変化をする部位表面に接触され、
前記判定部は、前記深部体温を示す頭部、首部及び胴体部の何れかの部位内部の測定対象位置の別途測定された温度と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記熱収支特性の相対関係を判定し、
前記温度算出部は、前記熱収支特性の相対関係と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記測定対象位置の温度を継続的に算出する、
請求項1〜6の何れか一項に記載の温度測定システム。
【請求項8】
複数の温度センサーを異なる位置に有し、且つ熱伝導性を備えた接触子を用いて被測定体の内部温度を算出する温度算出方法であって、
別途測定された前記被測定体の内部温度と、前記接触子を前記被測定体に接触させた際の前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記複数の温度センサーの位置における熱収支特性の相対関係を判定することと、
前記熱収支特性の相対関係と、前記複数の温度センサーの検出温度とを用いて、前記被測定体の内部温度を継続的に算出することと、
を含む温度算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−61232(P2013−61232A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199635(P2011−199635)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】