説明

温度調節装置

【課題】太陽エネルギーを利用し、省エネルギー化に有用で、かつ、簡便な温度調節装置の提供。
【解決手段】太陽エネルギーを利用して空間の温度を調節する温度調節装置において、太陽光の吸収率が変化する吸収率変化媒体部10と、吸収率変化媒体部10に電力を供給する電源部20とを備え、吸収率変化媒体部10は、表示媒体部11と、表示媒体部11を介して対向し、電源部20に接続されている一対の電極12とを有し、表示媒体部11は、太陽光を吸収して熱を放出する光吸収性成分と、電位差により移動し、太陽光を反射する電気泳動性成分とを含むことを特徴とする温度調節装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽エネルギーを利用して空間の温度を調節する温度調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題、そのなかでも特に温室効果ガスの削減が問題となっている。また、原油価格の高騰などの影響もあり、企業のみならず、家庭においても省エネルギームードが高まっている。
家庭の消費電力の内訳をみると、空気調節装置(エア−コンディショナー)の電力消費量が非常に多く、特に暖房の省エネルギー化が重要となっている。
【0003】
これまで、空気調節装置の負荷を低減して省エネルギー化に貢献するため、複数枚のブラインドを互いに間隔をあけてガラス窓の内側に多重に取り付け、これらブラインドとガラス窓との間に、閉鎖された空間を形成し、ガラス窓と内側ブラインドとの間の空間の上方に空気吸気口を設け、この空気吸気口から吸引される空気の一部または全部を空気調節装置に換気として取り入れるようにした空調用ブラインドが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、従来から、省エネルギー化を目的として太陽エネルギーが利用されている。
【0005】
そのなかで、たとえば太陽光を利用したものとして、建物の窓部の内側に、該窓部の上端から所定距離下側で該窓部の間口方向に亘って略水平に取り付けられて上下面に吸込口を有し、且つ、前記窓部から取り込んだ太陽光を、上面で反射させて室内の天井面に間接照明光として照射する筒状ライトシェルフと、該筒状ライトシェルフの内部に排気ダクトを介して接続され前記吸込口から吸い込んだ空気を外部へ排気する排気ファンとを具備した窓部負荷軽減システムが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−10078号公報
【特許文献2】特開2003−240302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、オフィス、ホテル、病院、学校等の建物への利用が想定されたものであり、家庭用としては不適切である。また、複数枚のブラインドを必ず取り付ける必要がある点、複数枚のブラインドと空気調節装置とを組み合わせて設置しなければならない点などの制約がある。
【0008】
特許文献2に記載された発明においては、窓部の内側に筒状ライトシェルフを必ず取り付けなければならない制約がある。また、室内全体の空気の温度調節とは別に、窓辺の空気の温度調節が、筒状ライトシェルフ内部に設けられた熱交換器で行われる。窓辺だけの空気の温度調節にも電力が消費される点で、電力消費の節約効果が得られにくい。
そのため、太陽エネルギーを効果的に利用して室内の温度を調節できる、簡便な省エネルギー化が求められる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、太陽エネルギーを利用し、省エネルギー化に有用で、かつ、簡便な温度調節装置、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、液晶ディスプレイ等に組み込まれている、通常、文字又は図形等を表示する表示素子を利用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、太陽エネルギーを利用して空間の温度を調節する温度調節装置において、太陽光の吸収率が変化する吸収率変化媒体部と、当該吸収率変化媒体部に電力を供給する電源部とを備え、前記吸収率変化媒体部は、表示媒体部と、当該表示媒体部を介して対向し、前記電源部に接続されている一対の電極とを有し、前記表示媒体部は、太陽光を吸収して熱を放出する光吸収性成分と、電位差により移動し、太陽光を反射する電気泳動性成分とを含むことを特徴とする温度調節装置である。
【0011】
本発明の温度調節装置においては、前記電源部が太陽電池であることが好ましい。
また、本発明の温度調節装置において、前記一対の電極は、その一方が透明電極であり、かつ、スペーサを介して対向するように配置され、前記表示媒体部は、当該一対の電極と当該スペーサとで囲まれていることが好ましい。
また、本発明の温度調節装置においては、前記光吸収性成分が、常温では固体であり太陽熱によって液化する熱溶融性成分であることが好ましい。
また、本発明の温度調節装置においては、前記電源部と前記吸収率変化媒体部との間に、前記吸収率変化媒体部に印加する電圧を調整する電圧制御部をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、太陽エネルギーを利用し、省エネルギー化に有用で、かつ、簡便な温度調節装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る温度調節装置の一実施形態を示す回路図である。
【図2】温度調節装置の一実施形態を示す概略一部縦断面図である。
【図3】図2に示す温度調節装置における吸収率変化媒体部の一部縦断面図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、温度調節装置の運転状態を示し、図4(a)は常温状態、図4(b)は空間の温度を高める状態、図4(c)は空間の温度上昇を抑える状態をそれぞれ示す模式図である。
【図5】温度調節装置の他の実施形態を示す概略一部縦断面図である。
【図6】本発明に係る温度調節装置の他の実施形態を示す回路図である。
【図7】電力検出部を模式的に示した回路図である。
【図8】スイッチ部を模式的に示した回路図である。
【図9】温度調節装置の運転条件である、表示媒体部の温度と電力検出部から検出される電圧との関係の一例を示すグラフである。
【図10】本実施例に用いたスイッチ部を模式的に示した回路図である。
【図11】図11は、実施例に係る温度調節の評価を実施した室内空間を示す略平面図であり、図11(a)は当該室内空間を上空から見た状態、図11(b)は当該室内空間を西側の側面から見た状態をそれぞれ示す略平面図である。
【図12】本実施例の評価結果を示す、室温の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪温度調節装置≫
本発明の温度調節装置は、太陽エネルギーを利用して空間の温度を調節するものである。
図1は、本発明に係る温度調節装置の一実施形態を示す回路図である。
図1に示す温度調節装置は、太陽光の吸収率が変化する吸収率変化媒体部と、当該吸収率変化媒体部に電力を供給する電源部とが接続されたものである。
【0015】
図2は、温度調節装置の一実施形態を示す概略一部縦断面図である。
温度調節装置1は、吸収率変化媒体部10と電源部20とを備えている。吸収率変化媒体部10には、表示素子が利用されている。電源部20には、太陽電池が用いられている。
【0016】
<吸収率変化媒体部>
吸収率変化媒体部10においては、太陽光が吸収されて生ずる熱(輻射熱)が放出される。当該輻射熱の放出量は、太陽光の吸収率の変化に応じて増減する。
吸収率変化媒体部10は、表示媒体部11と、表示媒体部11を介して対向し、電源部20に接続されている一対の電極12とを有している。
一対の電極12は、透明電極層12aと電極層12bとからなり、透明電極層12aと電極層12bは、スペーサ14を介して対向するように配置されている。
また、透明電極層12a及び電極層12bは、表示媒体部11側とは反対側の面にそれぞれ設けられた透明基板13a及び基板13bによって固定されている。
表示媒体部11は、透明電極層12aと電極層12bとスペーサ14とで囲まれた密閉空間となっている。
【0017】
(表示媒体部)
図3は、図2に示す温度調節装置における吸収率変化媒体部の一部縦断面図であり、表示媒体部の一実施形態が示されている。
表示媒体部11には、太陽光を吸収して熱を放出する光吸収性成分11aと、電位差により移動し、太陽光を反射する電気泳動性成分11bとが含まれている。
本実施形態において、電気泳動性成分11bは、電極層12b側に偏在している。
【0018】
・光吸収性成分について
光吸収性成分は、太陽光を吸収して熱(輻射熱)を放出するものであればよく、たとえば、常温(約10〜30℃)で液体の成分であってもよく、常温で固体であり加熱により液化する成分であってもよい。
常温で液体の成分としては、たとえば芳香族系の溶剤、イソパラフィン系の溶剤、ナフテン系の溶剤が挙げられる。
常温で固体であり加熱により液化する成分としては、たとえばワックス、飽和脂肪酸、高級アルコール、エステル化合物が挙げられる。
【0019】
常温で液体の成分として具体的には、トルエン、キシレン、アイソパーG(商品名、イソパラフィン系の溶剤)、エクソールD30(商品名、ナフテン系の溶剤)などが挙げられる。
【0020】
常温で固体であり加熱により液化する成分として具体的には、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス等の植物系ワックス;蜜蝋、ラノリン等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックス;フィシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素;モンタワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体等の変性ワックス;硬化ヒマシ油、硬化ヒマシ油誘導体等の水素化ワックス;ステアリルアルコール、1−エイコサノール、1−ドコサノール、1−テトラコサノール、1−ヘキサコサノール、1−オクタコサノール等の高級1価アルコール;1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール等の直鎖高級多価アルコール;パルミチン酸、ステアリン酸、1−オクタデカン酸、ベヘン酸、1−ドコサン酸、1−テトラコサン酸、1−ヘキサコサン酸、1−オクタコサン酸などの高級脂肪酸;セバシン酸、ドデカン2酸、1,12−ドデカンジカルボキシル酸等の直鎖高級多価脂肪酸;シクロドデカノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環族アルコール;コレステロール、スティグマステロール、ラノステロール等のステロイド;ポリスチレン、アクリル樹脂等の高分子材料;カルボン酸エステル等のエステル化合物などが挙げられる。
【0021】
光吸収性成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記のなかでも、光吸収性成分は、常温では固体であり太陽熱によって液化する熱溶融性成分であることが好ましい。光吸収性成分が当該熱溶融性成分であると、太陽熱によって液化する温度に応じて、温度調節を行うことができる(サーモスタットとしての利用が可能となる)。また、太陽エネルギーをより積極的に利用できる。
当該熱溶融性成分としては、融点45℃以下の成分が好ましく、融点25〜40℃の成分がより好ましく、融点30〜38℃の成分がさらに好ましい。当該熱溶融性成分のなかで好適なものとしてはエステル化合物が挙げられ、そのなかでもカルボン酸エステルが好ましく、脂肪酸エステルがより好ましい。
本明細書において「融点」は、光透過方式全自動融点測定装置(ヤマト科学(株)製、製品名:FP62)により測定される値を示す。
【0022】
融点を超えて融解した熱溶融性成分の粘度は500mPa・s以下であることが好ましく、1〜100mPa・sであることがより好ましい。熱溶融性成分の粘度は500mPa・s以下であると、表示媒体部内で、電気泳動性成分がより良好に移動できる。
本明細書において「熱溶融性成分の粘度」は、熱溶融性成分の融点より10℃高い温度における粘度(溶融粘度)を意味し、トルク測定方式デジタル粘度計(ヤマト科学(株)製、製品名:DV−II+Pro)により測定される値を示す。
【0023】
エステル化合物としては、たとえば以下のものを好適に用いることができる。
当該エステル化合物において、融点は45℃以下のものが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。融点が45℃以下であると、太陽熱によって液化しやすくなる。
また、当該エステル化合物は、JIS K 2207に準拠(荷重150g、温度23℃、湿度50%)して測定される針入度が7以下であるものが好ましい。針入度が7以下であれば、充分な硬度を有する。
また、当該エステル化合物は、表示媒体部内で、電気泳動性成分が良好に移動できることから、当該エステル化合物の融点より10℃高い温度における溶融粘度が10(mPa・s)以下であるものが好ましく、シャープメルト性を有するものが好ましい。溶融粘度は、温度条件以外は上述した粘度の測定方法と同様にして測定される値を示す。
また、当該エステル化合物は、膨張特性であるプローブ変位率(%)の極大点が1.0以下であるものが好ましく、0.5以下であるものがより好ましく、0.1以下であるものがさらに好ましい。極大点が1.0以下であれば、熱膨張がほとんどなくなる。
なお、プローブ変位率(%)の測定条件は、測定装置TMA100(製品名、セイコーインスツルメンツ(株))、昇温条件2.0℃/min、サンプル厚2.5mm、プローブ荷重100g、プローブ直径1.0mm、窒素流量80ml/minである。
【0024】
本発明において、光吸収性成分は、太陽光を吸収して熱(輻射熱)を放出するものであれば無色透明であってもよく、たとえば染料又は顔料により着色されていてもよい。なかでも、光吸収性成分は、輻射熱の放出量が多いことから、黒色に着色されているものが好ましい。
【0025】
・電気泳動性成分について
電気泳動性成分は、表示媒体部内で、電位差により移動し、太陽光を反射するものであればよく、たとえば、無機物粉体若しくは無機顔料の粒子、有機顔料の粒子;これらの溶液若しくはその他液体が挙げられる。
電気泳動性成分が粒子状(電気泳動性粒子)である場合、電気泳動性粒子の平均粒子径は0.03〜5μmの範囲内であることが好ましく、0.2〜2μmの範囲内であることがより好ましい。当該平均粒子径の下限値以上であると、太陽光の反射が高まり、空間の温度上昇を抑える効果がより向上する。上限値以下であると、表示媒体部内で、電気泳動性粒子がより良好に移動できる。また、電気泳動性粒子が適度な帯電量を有することができる。
本明細書において「電気泳動性粒子の平均粒子径」は、体積平均粒子径を意味し、コールターカウンターにより測定される値を示す。
【0026】
無機物粉体若しくは無機顔料の粒子は、無機酸化物の粒子が好適なものとして挙げられ、たとえばTiO、ZnO、Al、SiO等の白色材料などを用いることができる。
有機顔料の粒子は、たとえばアゾ系の顔料、多環式系の顔料などを用いることができる。
また、電気泳動性成分としては、無機物粉体若しくは無機顔料、又は有機顔料の粒子を、トルエン等の溶媒に溶解した溶液も用いることができる。
また、その他液体としては、たとえばアイソパーG(商品名、イソパラフィン系の溶剤)などを用いることができる。
上記のなかでも、電気泳動性成分は、無機酸化物系の顔料が好ましく、太陽光をより反射することから白色材料がさらに好ましく、TiO、ZnO、Al、SiOが特に好ましく、TiOが最も好ましい。
【0027】
本発明において、電気泳動性成分は、表示媒体部内で、電位差により移動し、太陽光を反射するものであれば染料又は顔料等により着色されていてもよい。
電気泳動性粒子の場合、当該粒子の全面が着色されたものであってもよく、当該粒子の半球面が着色されたものであってもよく、当該粒子の半球面ずつが異なる色で着色されたものであってもよい。
【0028】
電気泳動性成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
表示媒体部に含まれる電気泳動性成分の割合は、光吸収性成分100質量部に対して2〜40質量部であることが好ましく、5〜10質量部であることがより好ましい。電気泳動性成分の割合が下限値以上であると、空間の温度上昇を抑える効果がより向上し、上限値以下であると、表示媒体部内で、電気泳動性粒子がより良好に移動できる。
【0029】
(電極)
吸収率変化媒体部10において、一対の電極12は、透明電極層12aと電極層12bとから構成されている。
透明電極層12aと電極層12bの厚さは、それぞれ0.001〜0.2μmであることが好ましく、0.03〜0.1μmであることがより好ましい。各電極層の厚さが下限値以上であると、導電率が低くなりすぎるのを防止でき、電極層全体に渡ってより均一な導電性を示すようになる。一方、上限値以下であれば、強度が増して電極層の変形を防止できる。
【0030】
透明電極層12aは光透過性の材料からなり、その材料としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物などが挙げられる。
透明電極層12aの作製方法は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、プラズマCVD法等のなかから、前記材料との適性を考慮して適宜選択すればよい。
透明電極層12aのパターニングは、フォトリソグラフィーによる化学的エッチング法、レーザー等による物理的エッチング法、マスクを用いる真空蒸着法、スパッタリング法、リフトオフ法、印刷法等により行うことができる。
電極層12bの材料としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物などが挙げられる。また、透明性を有していない電極層12bには、金、銀、アルミニウム等の金属も用いることができる。
【0031】
(スペーサ)
スペーサ14の高さ(対向する透明電極層12aと電極層12bとの間の距離)は、10〜500μmが好ましく、20〜200μmがより好ましい。スペーサ14の高さが下限値以上であると、表示の切替えをより良好に行うことができ、上限値以下であれば、温度調節の際、必要とする電力量が抑えられ、電力消費の節約効果がより向上する。
スペーサ14の材料としては、たとえばアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂などが挙げられる。
【0032】
(基板)
透明基板13aと基板13bの厚さは、それぞれ25μm〜数mm程度であることが好ましい。
透明基板13aと基板13bの材料は、たとえば、ガラス;エチレン、プロピレン、ブテン等をモノマーとして重合した単独重合体、又はこれらの共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂;ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。
上記材料のうち、透明基板13aにおいては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)樹脂が好ましい。
なお、本実施形態の温度調節装置1において、一対の電極12(透明電極層12aと電極層12b)が充分な強度又は耐熱性を有している場合には、基板(透明基板13aと基板13b)を省略することができる。
【0033】
<電源部>
本実施形態の温度調節装置1において、電源部20には、太陽電池が用いられている。太陽電池を用いることにより、太陽エネルギーを利用して発電した電力を吸収率変化媒体部10に供給することができ、電力消費の節約効果がさらに高まる。また、太陽電池の使用には、煩雑な配線が無い(電源工事が不要である)こと、窓辺などの太陽光の届く任意の場所に設置できること等のメリットもある。
【0034】
太陽電池としては、シリコン系(結晶シリコン、アモルファスシリコン)、化合物系、有機系の太陽電池のいずれも用いることができる。なかでも、温度調節装置は室内の窓辺などに置かれることが想定されることから、デザインの点でカラフルな色素増感太陽電池(有機系)が好ましい。
【0035】
本実施形態の温度調節装置1においては、吸収率変化媒体部10(表示素子)に、電源部20(太陽電池)から電力を供給して電圧を印加することにより、吸収率変化媒体部10の表示状態が可逆的に変化する。この表示状態の変化により、吸収率変化媒体部10から放出される熱(輻射熱)の放出量が制御されて空間の温度が調節される。
【0036】
図4(a)〜(c)は、温度調節装置の運転状態を示す模式図であり、常温状態から太陽光が徐々に照射されていく際の温度調節装置の運転状態の変化を示している。
図4(a)〜(c)に示す温度調節装置1は、図2に示す温度調節装置と同じ実施形態であり、かつ、表示媒体部に、光吸収性成分として黒色に着色された熱溶融性成分11a1と、電気泳動性成分としてTiO粒子11b1(白色材料)とが含まれている。
吸収率変化媒体部10は、透明電極層12a側から視認した際、TiO粒子11b1の移動により、その表示状態が黒色又は白色に変化するようになっている。
太陽電池20aの発電開始の温度条件は、熱溶融性成分11a1の融点より少し高い温度に設定されている。
【0037】
図4(a):常温状態
表示媒体部11において、常温下、黒色に着色された熱溶融性成分11a1は固体状態で存在しており、TiO粒子11b1は電極層12b側に偏在している。
透明電極層12a側から吸収率変化媒体部10を視認した際の表示状態は黒色を示している。
【0038】
図4(b):空間の温度を高める状態
温度調節装置1に太陽光が照射し、熱溶融性成分11a1が太陽熱によって液化している。
熱溶融性成分11a1は、太陽光を吸収して生じた熱(輻射熱)を空間に放出している。これにより、空間は暖められている。TiO粒子11b1は、熱溶融性成分11a1の液化に伴い可動状態である。太陽電池20aは、太陽光を受けているものの、発電までには至っていない状態である。
透明電極層12a側から吸収率変化媒体部10を視認した際の表示状態は黒色を示している。
【0039】
図4(c):空間の温度上昇を抑える状態
温度調節装置1に太陽光が照射し続け、太陽電池20aが、設定の通り、熱溶融性成分11a1の融点より少し高い温度に達して発電を開始している。
透明電極層12aと電極層12bとの間には、電圧が印加され、透明電極層12aが陽極、電極層12bが陰極となっている。TiO粒子11b1は、負に帯電し、透明電極層12aとの間で静電的作用が働くことにより、透明電極層12a側に移動して偏在している。
透明電極層12a側から吸収率変化媒体部10を視認した際の表示状態は白色を示している。これにより、太陽光は反射され、吸収率変化媒体部10における太陽光の吸収率が低下している。そして、吸収率変化媒体部10から放出される熱の放出量が減少し、空間の温度上昇が抑えられている。
【0040】
温度調節装置1への太陽光の照射量が減少してくると、太陽電池20aの発電量が減少する。太陽電池20aの発電量が一定量を下回ると、これに伴い、透明電極層12aとTiO粒子11b1との静電的作用が弱まる。TiO粒子11b1は、その自重より静電的作用の力が弱まると、電極層12b側に移動する。
その際、透明電極層12a側から吸収率変化媒体部10を視認した際の表示状態は黒色を示している。これにより、吸収率変化媒体部10における太陽光の吸収率が高まり、吸収率変化媒体部10から放出される熱の放出量が増加し、太陽光の照射量の減少に伴う空間の温度低下が抑えられる。
【0041】
この太陽光の照射量の減少に伴う空間の温度低下を抑える場合、電源部20は、電圧の大きさが変化する太陽電池20a(たとえばアモルファスシリコン型など)を用いることが好ましい。また、TiO粒子11b1は、そのサイズを調整して帯電量を制御することが好ましく、特に、TiO粒子11b1の体積平均粒子径を10μm以上とすることが好ましい。
TiO粒子11b1の粒子径を大きくすることにより、TiO粒子11b1は重くなり、かつ、その質量当たりのTiO粒子11b1の表面積が小さくなるため、帯電量が減少する。TiO粒子11b1の帯電量が少ないことにより、太陽光の照射量の減少に伴い、TiO粒子11b1は電極層12b側に移動しやすくなる。
すなわち、本実施形態の温度調節装置1は、吸収率変化媒体部10(表示素子)と電源部20(太陽電池20a)とからなる単純な構成であっても、粒子径の大きいTiO粒子11b1を用いることにより、より容易に、吸収率変化媒体部10の表示状態を可逆的に変えることができ、空間の温度を高めたり、空間の温度上昇を抑えたりすることが可能となる。
【0042】
以上説明したように、本発明により、太陽エネルギーを利用し、省エネルギー化に有用で、かつ、簡便な温度調節装置を提供できる。
本発明の温度調節装置は、空気調節装置(エア−コンディショナー)に比べて電力消費量が少ない表示素子を利用し、かつ、太陽エネルギーを効果的に利用した吸収率変化媒体部を用いていることから、電力消費の節約効果が高い。
本実施形態の温度調節装置1においては、光吸収性成分11aとして熱溶融性成分11a1を用いていることにより、空間の温度が所定の温度以上に達した場合に温度調節を行う、といった温度設定を行うことができ、サーモスタットとしての利用が可能である。
また、本実施形態の温度調節装置1においては、電源部20として太陽電池20aを用いていることにより、煩雑な電気配線等が不要であり、温度調節装置1本体を太陽光の当たる場所に置くだけで容易に使用できる。また、省スペース化が図られ、使用性にも優れる。
【0043】
なお、本発明の温度調節装置は、図1〜4に示す温度調節装置1に限定されず、たとえば図5に示す温度調節装置であってもよい。
【0044】
図5は、温度調節装置の他の実施形態を示す概略一部縦断面図である。
図5に示す温度調節装置1は、吸収率変化媒体部10と電源部20とを備えている。吸収率変化媒体部10には、表示素子が利用されている。電源部20には、太陽電池が用いられている。
吸収率変化媒体部10は、表示媒体部11と、表示媒体部11を介して対向する透明基板13a及び基板13bと、透明基板13a及び基板13bの表示媒体部11側とは反対側の面にそれぞれ配置されている電極層12c及び電極層12dとを有している。
電極層12c及び電極層12dは、電源部20にそれぞれ接続されている。
透明基板13a及び基板13bは、スペーサ14を介しても対向するように配置されている。
表示媒体部11は、透明基板13aと基板13bとスペーサ14とで囲まれた密閉空間となっている。
表示媒体部11には、光吸収性成分11aと電気泳動性成分11bとが含まれている。
図5に示す温度調節装置1においては、表示媒体部11と、透明基板13aと基板13bと、スペーサ14とを一体化したものを、容易に取り替えることができ、種々の光吸収性成分と電気泳動性成分とを組み合わせて用いた表示媒体部を用いることができる。
【0045】
また、本発明の温度調節装置は、電気泳動性成分として、透明シェル内に、前記熱溶融性成分と、電位差により移動し、太陽光を反射するものとが封入されたマイクロカプセル状のものも用いることができる(特開2001−301325号公報参照)。
【0046】
また、本発明の温度調節装置において、表示媒体部には、光吸収性成分と電気泳動性成分に加えて、界面活性剤を含んでいてもよい。当該界面活性剤の種類又はその含有量を選択又は調整することにより、表示媒体部内での電気泳動性成分の移動速度を制御することができ、吸収率変化媒体部の表示の切替えを良好に行うことができる。
かかる界面活性剤は、イオン性のものであってもよく、非イオン性のものであってもよい。
非イオン性の界面活性剤としては、たとえばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、フルオロアルキルエチレンオキシド付加物、ポリエチレングルコールが挙げられる。
イオン性の界面活性剤としては、たとえばカルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、アミン塩又はこれらの複数に該当するものが挙げられる。
かかる界面活性剤は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
上記のなかでも、界面活性剤としては、四級アンモニウム塩エチル硫酸塩、脂肪酸エステル及びスルホコハク酸塩からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
かかる界面活性剤の含有割合は、光吸収性成分100質量部に対して0.1〜2質量部であることが好ましい。
【0047】
また、本発明の温度調節装置において、電源部には、太陽電池以外に、通常の外部電源を用いることができる。
【0048】
また、本発明の温度調節装置においては、電源部と吸収率変化媒体部との間に、前記吸収率変化媒体部に印加する電圧を調整する電圧制御部をさらに備えることが好ましい。
図6は、本発明に係る温度調節装置の他の実施形態を示す回路図である。
図6において、温度調節装置は、電源部と、吸収率変化媒体部と、電源部と吸収率変化媒体部との間に、電力検出部と判別部とスイッチ部とから構成される電圧制御部とを備えている。
【0049】
<電圧制御部>
(電力検出部)
図7は、電力検出部を模式的に示した回路図である。電力検出部は、一般的な電圧計、電流計を用いることができる。
電力検出部において、比較的に低い抵抗を用いることにより、たとえば太陽電池に照射する太陽光の光量と、抵抗を流れる電流とが比例する。抵抗を流れる電流に比例して、抵抗間に電圧が発生するため、その電圧(電圧信号)をモニターすることにより、電力(光量)を検出することができる。
【0050】
(スイッチ部)
図8は、スイッチ部を模式的に示した回路図である。
スイッチ部は、判別部からの情報によって、状態Aから状態Bへ、又は状態Bから状態Aへ変化するようになっている。この変化により、一対の電極の陽極と陰極とが入れ替わる。
【0051】
(判別部)
判別部は、たとえば、基準電圧として電池(定電圧ダイオード)の電圧と、電源部から流れてくる電流を抵抗との関係から電圧値にした電圧(電圧信号)とを比較する回路素子を有している。
判別部は、これらの電圧の大小を判別し、スイッチ部に、状態A又は状態Bに切り替える情報を発信している。その際、特定の電圧を1点又は複数点設定し、その特定の電圧以上又は特定の電圧以下になった場合、スイッチ部の状態が切り替わるように情報を発信することもできる。
【0052】
図9は、温度調節装置の運転条件である、表示媒体部の温度と電力検出部から検出される電圧との関係の一例を示すグラフである。
図9のグラフは、温度調節装置として図2に示す温度調節装置と同じ実施形態のものが用いられ、吸収率変化媒体部における光吸収性成分として熱溶融性成分が用いられた場合の、表示媒体部の温度と電力検出部から検出される電圧との関係を示している。
当該グラフ中、温度Tは、熱溶融性成分の融点より少し高い温度(好ましくは熱溶融性成分の融点より0.5〜5℃程度高い温度)を示す。この温度Tは、所望に応じて自由に設定することができる。
符号Cと符号Dは、それぞれ設定された特定の電圧を示す。これらの電圧を境にして吸収率変化媒体部の表示状態が切り替わる。
【0053】
図9のグラフにおいて、温度Tを超えると、電圧が生じ、急激に増大している。
この電圧の変化に対応して、吸収率変化媒体部では、熱溶融性成分が太陽熱によって液化し、太陽光を吸収して生じた熱が空間に放出される(図4(b)の状態)。
なお、スイッチ部は接続されておらず、吸収率変化媒体部における一対の電極間には、電圧が印加されていない状態である。
【0054】
そして、特定の電圧Cを超えると、電圧は緩やかに増大している。
この電圧の変化に対応して、電圧がCに達した時点で、判別部からの情報により、たとえばスイッチ部が状態Aとなり、一対の電極間に電圧が印加されて電気泳動性成分が移動し、吸収率変化媒体部10は、透明電極層12a側から視認した際の表示状態が白色を示すように、その状態が移行する(図4(c)の状態)。これにより、太陽光は反射され、吸収率変化媒体部10における太陽光の吸収率が低下する。そして、吸収率変化媒体部10から空間に放出される熱の放出量が減少し、空間の温度上昇が抑えられる。
【0055】
一方、電圧が下がり、特定の電圧Dを下回ると、判別部からの情報により、たとえばスイッチ部が状態Bとなり、一対の電極の陽極と陰極とが入れ替わることにより電気泳動性成分が移動し、吸収率変化媒体部10は、透明電極層12a側から視認した際の表示状態が黒色を示すように、その状態が移行する。これにより、吸収率変化媒体部10における太陽光の吸収率が高くなる。そして、吸収率変化媒体部10から空間に放出される熱の放出量が増加し、空間の温度低下が抑えられる。
【0056】
以上説明したように、本発明に係る、電源部と吸収率変化媒体部との間に電圧制御部をさらに備える温度調節装置によれば、たとえば黒色の表示状態(図4(b))と白色の表示状態(図4(c))との移行を、TiO粒子11b1の自重に制約されず、容易に、かつ、円滑に行うことができる。また、空間の温度上昇を抑え始める温度、空間の温度低下を抑え始める温度を、所望に応じて自由に設定することができる。
【0057】
また、本発明の温度調節装置によれば、特定の電圧(温度)に達した時点で、たとえば同じ室内に設置した空気調節装置(エア−コンディショナー)に、電圧制御部から信号を送ることにより、空気調節装置が稼働するように設定することができ、空気調節装置と連動して空間の温度を調節することもできる。
また、本発明の温度調節装置においては、たとえば図4(a)又は図4(b)に示す運転状態であれば、その温度調節装置の近くに位置することにより、直接、体を温めることもできる。
さらに、本発明の温度調節装置は、吸収率変化媒体部における表示状態の変化を利用し、たとえば、吸収率変化媒体部の表示面に、花柄等が描かれたフィルムを覆い、輻射熱又は表示の変化によってその花柄等の見栄えが変わる「室内インテリア品」としても利用できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<温度調節装置>
(実施例1)
温度調節装置として、図6に示す温度調節装置と同じ実施形態のものを用いた。温度調節装置の大きさ:奥行き方向90cm×横幅方向180cm。
吸収率変化媒体部には、図2に示す温度調節装置における吸収率変化媒体部と同じ実施形態のものを用いた。
【0060】
(電源部)
電源部として、シリコン系の太陽電池(シャープ(株)製)を用いた。
【0061】
(吸収率変化媒体部)
吸収率変化媒体部は、以下に示す、表示媒体部、一対の電極、スペーサ及び基板を組み合わせてなるものを用いた。吸収率変化媒体部の大きさ:奥行き方向90cm×横幅方向120cm。
【0062】
・表示媒体部:
光吸収性成分として、熱溶融性成分である特殊固体エステルAの100質量部を用いた。この特殊固体エステルAは、黒染料1質量部で着色したものを用いた。
電気泳動性成分として酸化チタン5質量部を用いた。
さらに、界面活性剤0.5質量部を用いた。
なお、黒染料、酸化チタン、界面活性剤の使用量は、特殊固体エステルAの100質量部に対する割合を示す。使用した原料を以下に示す。
【0063】
・・特殊固体エステルA(商品名:ニッサンエレクトールWE−40、日本油脂社製)。
融点36.8℃、針入度3、47℃での溶融粘度5(mPa・s)以下、プローブ変位率(%)の極大点0.05。
・・黒染料(商品名:OILBLACK HBB、オリエント化学社製)。
・・酸化チタン(商品名:JR−603、テイカ社製)。体積平均粒子径0.3μm。
・・界面活性剤(四級アンモニウム塩エチル硫酸塩、商品名:SAT−60、日本純薬社製)。
【0064】
[表示媒体部用組成物の調製]
上記の着色した光吸収性成分と、電気泳動性成分と、界面活性剤とを、500cmのポリエチレン製の瓶に入れ、そこに、直径1mmのジルコニア製のビーズを、上記原料の合計量とほぼ同じ量を入れた。
これら原料の入ったポリエチレン製の瓶を、120℃に設定した恒温槽内で30分間放置した。30分後に取り出し、すばやく撹拌機(レッドデビル)にセットし、15分間撹拌した。
撹拌した後、再び120℃に設定した恒温槽内で30分間放置し、その後、取り出して撹拌機で15分間撹拌した。
撹拌した後、再度120℃に設定した恒温槽内で30分間放置し、その後、取り出して撹拌機で15分間撹拌した。
以上で撹拌による分散を終了した。15分×3回の撹拌を終えたこれら原料を、再び120℃に設定した恒温槽内で30分間放置した後、取り出して、目開き500μm以下のメッシュを使ってろ過してビーズを分離し、表示媒体部用組成物を得た。
【0065】
・一対の電極(透明電極層、電極層):
いずれも酸化インジウム錫(ITO)のフィルム(厚さ0.1μm)を用いた。
・スペーサ:
PETのフィルム(厚さ100μm)を用いた。スペーサとしての高さを200μmとした。
・基板(透明基板、基板):
いずれも板状ガラス(厚さ1100μm)を用いた。
【0066】
[吸収率変化媒体部の作製]
ITOフィルムと板状ガラスとを積層し、この一対の積層体を、板状ガラスを外側にし、スペーサを介して対向するように配置した。
そして、対向するITOフィルムとスペーサとで囲まれている空間に、上記表示媒体部用組成物を注入して吸収率変化媒体部を作製した。
【0067】
(電圧制御部)。
・電力検出部:
電圧計(アジレント社製)を用いた。
・判別部:
基準電圧として電池(定電圧ダイオード)の電圧と、電源部から流れてくる電流を抵抗との関係から電圧値にした電圧とを比較する回路素子を有し、これらの電圧の大小を判別してスイッチ部の状態を切り替えることができるものを用いた。
・スイッチ部:
図10に、本実施例で用いたスイッチ部を模式的に示した回路図を表す。
図10において、スイッチ部30は、2端子リレー回路を備えたものであり、2つのスイッチ31a、31bを有しているものを用いた。
スイッチ部30は、スイッチ31a、31bが、接続部32a、32bにそれぞれ接続する場合と、接続部33a、33bにそれぞれ接続する場合とで、吸収率変化媒体部における一対の電極の陽極と陰極とが入れ替わるようになっている。
なお、図10中の破線は、2つのスイッチ31a、31bが、同じ方向に同時に動くことを意味する。
【0068】
<評価>
上述した、実施例1の温度調節装置を用いて、夏季と冬季に、温度調節の評価をそれぞれ実施した。
図11は、かかる温度調節の評価を実施した室内空間を示す略平面図であり、図11(a)は当該室内空間を上空から見た状態、図11(b)は当該室内空間を西側の側面から見た状態をそれぞれ示す。
図11において、窓のサイズ:高さ方向110cm×横幅方向180cm、ドアのサイズ:高さ方向210cm×横幅方向85cmであった。
図11に示すように温度調節装置を窓辺に設置した室内空間における所定位置の温度と、図11に示す室内空間と同様の室内空間であって温度調節装置を設置しない室内空間における所定位置の温度とを、同時に、それぞれ夏季と冬季に測定した。
かかる温度調節の評価は、以下に示す条件下で行った。
【0069】
温度調節装置を設置した期間:
夏季 2008年 7月31日〜 8月 1日 快晴の日
冬季 2008年12月12日〜12月13日 快晴の日
室内空間の温度を測定した期間:
夏季 2008年 8月 1日 0時〜23時(1時間おきに測定)
冬季 2008年12月13日 0時〜23時(1時間おきに測定)
室内空間の温度(室温)を測定した場所:
埼玉県南埼玉郡宮代町の室内空間
【0070】
温度調節装置の運転条件:
夏季の場合:設定電圧(図9におけるC)0.5[V]
設定電圧(図9におけるD)0.2[V]
電圧を印加し始める温度(図9におけるT)38[℃]
冬季の場合:設定電圧(図9におけるC)0.5[V]
設定電圧(図9におけるD)0.2[V]
電圧を印加し始める温度(図9におけるT)なし
【0071】
[温度調節装置の運転状態]
温度調節の評価中、温度調節装置の運転状態は、以下の通りであった。
【0072】
夏季の場合:
実施例1の温度調節装置においては、吸収率変化媒体部における表示媒体部の温度が、太陽光の照射と共に上昇して電圧を印加し始める温度(T)38℃を超え、設定電圧(図9におけるC)0.5[V]に達した時点で、スイッチ31aが接続部32aに、スイッチ31bが接続部32bにそれぞれ接続することにより、吸収率変化媒体部における一対の電極間に電圧が印加し、酸化チタンが図2に示す温度調節装置における透明電極層12a側に移動して、白色の表示状態(図4(c)の運転状態と同様)となった。
また、夕方以降、太陽光の照射量が減少してくると、設定電圧(図9におけるD)0.2[V]に達した時点で、スイッチ31aが接続部33aに、スイッチ31bが接続部33bにそれぞれ接続することにより、吸収率変化媒体部における一対の電極の陽極と陰極とが入れ替わり、酸化チタンが図2に示す温度調節装置における電極層12b側に移動して、黒色の表示状態(図4(b)の運転状態と同様)となった。
【0073】
冬季の場合:
実施例1の温度調節装置においては、吸収率変化媒体部における表示媒体部の温度が、測定中、熱溶融性成分である特殊固体エステルAの融点を超えることがなかったため、特殊固体エステルAは固体状態のまま存在し、酸化チタンは図2に示す温度調節装置における電極層12b側に偏在したままであり、常に黒色の表示状態(図4(a)の運転状態と同様)であった。
【0074】
図12は、本実施例の評価結果を示す、室温の変化を表すグラフである。
縦軸は室内空間の温度(℃)、横軸は時間(時刻、横軸が示す「15」は午後3時を意味する)をそれぞれ表す。
【0075】
かかる評価結果から、本発明に係る実施例1の温度調節装置を設置した場合、
夏季においては、当該温度調節装置を設置しない場合の室温よりも温度が高くなるのを抑え、さらには、当該温度調節装置を設置しない場合の室温よりも低い温度に調節できることが確認できた。これは、吸収率変化媒体部の表示が白色の表示状態となることで、吸収率変化媒体部における太陽光の吸収率が低下し、輻射熱の放出量が減少することにより、室内の温度上昇が抑えられたため、さらには、当該温度調節装置を設置しない場合に太陽光が照射する場所(窓辺)から放出される輻射熱の放出量に比べて、白色の表示状態の当該温度調節装置から放出される輻射熱の放出量が少なかったため、と考えられる。
また、夜間においても、当該温度調節装置を設置した場合の方が、当該温度調節装置を設置しない場合に比べて、室温が低く推移していることが確認できた。これは、当該温度調節装置を設置した場合の方が、当該温度調節装置を設置しない場合に比べて、昼間に太陽光が照射していた場所における太陽光の吸収率が低いため、夜間において、昼間に浴びた太陽光の吸収による輻射の影響が小さかったため、と考えられる。
【0076】
また、冬季においては、当該温度調節装置を設置しない場合に比べて、室温を高く調節できることが確認できた。これは、吸収率変化媒体部の表示が黒色の表示状態となることで、吸収率変化媒体部における太陽光の吸収率が高まり、太陽光を吸収して生ずる輻射熱がそこから放出されることによって室内が暖められたため、と考えられる。
【0077】
以上より、実施例1の温度調節装置は、太陽エネルギーを効果的に利用して室内の温度を調節でき、省エネルギー化に有用で、かつ、簡便なものであることが分かる。
【符号の説明】
【0078】
1 温度調節装置 10 吸収率変化媒体部 11 表示媒体部 11a 光吸収性成分 11b 電気泳動性成分 12 電極 12a 透明電極層 12b 電極層 13a 透明基板 13b 基板 14 スペーサ 20 電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽エネルギーを利用して空間の温度を調節する温度調節装置において、
太陽光の吸収率が変化する吸収率変化媒体部と、当該吸収率変化媒体部に電力を供給する電源部とを備え、
前記吸収率変化媒体部は、表示媒体部と、当該表示媒体部を介して対向し、前記電源部に接続されている一対の電極とを有し、
前記表示媒体部は、太陽光を吸収して熱を放出する光吸収性成分と、電位差により移動し、太陽光を反射する電気泳動性成分とを含むことを特徴とする温度調節装置。
【請求項2】
前記電源部が太陽電池である請求項1記載の温度調節装置。
【請求項3】
前記一対の電極は、その一方が透明電極であり、かつ、スペーサを介して対向するように配置され、
前記表示媒体部は、当該一対の電極と当該スペーサとで囲まれている請求項1又は請求項2記載の温度調節装置。
【請求項4】
前記光吸収性成分が、常温では固体であり太陽熱によって液化する熱溶融性成分である請求項1〜3のいずれかに記載の温度調節装置。
【請求項5】
前記電源部と前記吸収率変化媒体部との間に、
前記吸収率変化媒体部に印加する電圧を調整する電圧制御部をさらに備える請求項1〜4のいずれかに記載の温度調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−175109(P2010−175109A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16721(P2009−16721)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)