説明

温泉水分配装置

【課題】 源泉から汲み上げられた温泉水を複数の需要者に均等に分配でき、しかもランニングコストがかからず経済的で、装置構成も簡単な温泉水分配装置を提供する。
【解決手段】 放水口16から流れ落ちる温泉水を天井蓋11付きの貯留槽12に貯留し、複数の排水口21に均等に分配する温泉水分配装置10であって、貯留槽12内に上流側から下流側にかけて、貯留槽12の底部25から立ち上がり上端が水平となった下側邪魔板22、24と、貯留槽12の底部25とは隙間36を有し下側邪魔板22、24より上位置に配置された上側邪魔板23を交互に配置し、放水口16から排水口21に向かう水路をジグザグに形成し、しかも、貯留槽12の下流側に配置される複数の排水口21を実質的に同一口径とすると共に、複数の排水口21を同一高さ位置に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、源泉から汲み上げられた温泉水を複数の需要者に均等に分配可能な温泉水分配装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温泉水は、例えば地表から100m掘る毎に設けた源泉に、空気供給管を配置し、この空気供給管内に空気を吹き込み、圧力を加えることで汲み上げられている。
この汲み出された温泉水は、放水口を介して貯留槽内に流れ落とした後、この貯留槽に設けられた複数の排水口を介して、複数の需要者に分配されている。
また、温泉水を複数の需要者に分配する装置としては、例えば、特許文献1に開示された装置を使用することも可能である。この装置は、温泉水(液体)を貯留する貯留槽内に、貯留槽の中心から放射状に配置された複数の仕切板が設けられ、この貯留槽上方に配置された回転可能な分配管から温泉水を円周方向に放水することで、仕切板で区切られた各貯留部に温泉水を均等に分配し、各排水口から需要者に温泉水を供給する装置である。
【0003】
【特許文献1】実開平4−45299号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の温泉水分配装置には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
汲み出された温泉水は放水口から貯留槽に流れ落ちるため、貯留槽内の温泉水の湯面が変動し、各排水口から排水される温泉水量にばらつきが生じ易く、温泉水を各需要者に均等に分配できなかった。なお、各排水口に例えばポンプ又は流量計を設けることで、各排水口から排水される温泉水量の均一化を図ることも考えられるが、この場合、装置の製造コストが高くなり経済的でない。
また、貯留槽への温泉水の放水量は変動し易いため、特許文献1に記載された温泉水分配装置を使用しても、分配管から放水される温泉水の放水量にばらつきが生じ、各貯留部に均等に分配できず、温泉水を各需要者に均等に分配できない恐れがある。また、分配管を回転させるために電力が必要となるので、ランニングコストがかかり経済的でない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、源泉から汲み上げられた温泉水を複数の需要者に均等に分配でき、しかもランニングコストがかからず経済的で、装置構成も簡単な温泉水分配装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う請求項1記載の温泉水分配装置は、放水口から流れ落ちる温泉水を天井蓋付きの貯留槽に貯留し、複数の排水口に均等に分配する温泉水分配装置であって、
前記貯留槽内に上流側から下流側にかけて、前記貯留槽の底部から立ち上がり上端が水平となった下側邪魔板と、前記貯留槽の底部とは隙間を有し前記下側邪魔板より上位置に配置された上側邪魔板を交互に配置し、前記放水口から前記排水口に向かう水路をジグザグに形成し、
しかも、前記貯留槽の下流側に配置される複数の前記排水口を実質的に同一口径とすると共に、該複数の排水口を同一高さ位置に配置した。
請求項1記載の温泉水分配装置において、貯留槽内に配置される上側邪魔板及び下側邪魔板の各枚数は、例えば、1枚ずつ、一方が1枚で他方が2枚、又はいずれも複数枚であってもよい。
また、上側邪魔板及び下側邪魔板の配置は、貯留槽内の最上流側に下側邪魔板を配置することが好ましいが、上側邪魔板を配置することも可能である。また、貯留槽内の最下流側についても、下側邪魔板を配置することが好ましいが、上側邪魔板を配置することも可能である。
【0007】
請求項2記載の温泉水分配装置は、請求項1記載の温泉水分配装置において、前記下側邪魔板の1つが前記貯留槽内の最上流側に配置され、しかも隣り合う前記下側邪魔板の間に設けられている前記上側邪魔板は、前記天井蓋にその上端が固着されている。
請求項2記載の温泉水分配装置において、下側邪魔板の1つを貯留槽内の最上流側に配置することにより、この貯留槽の上流側壁及びその両側壁と、下側邪魔板とで囲まれる空間内に温泉水を貯留できるので、この貯留高さに応じて放水口からの温泉水の落下距離を調整できる。
【0008】
請求項3記載の温泉水分配装置は、請求項1及び2記載の温泉水分配装置において、前記排水口を形成する排水管は、前記貯留槽の下流側壁に設けられた水平部材に載置状態で取付けられている。
請求項3記載の温泉水分配装置において、水平部材としては、例えば、アングル又は水平板がある。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜3記載の温泉水分配装置は、貯留槽内に下側邪魔板と上側邪魔板を交互に配置し、放水口から排水口に向かう水路をジグザグに形成するので、放水口から流れ落ちる温泉水の衝撃を、温泉水が排水口から排水されるまでに低減し、温泉水の湯面変動を抑制、更には防止して、複数の排水口から排水される温泉水の排水量を均等にできる。これにより、複数の需要者に均等に温泉水を分配できる。
【0010】
特に、請求項2記載の温泉水分配装置は、貯留槽の上流側壁及びその両側壁と、下側邪魔板とで囲まれる空間内に温泉水を貯留できるので、例えば、下側邪魔板の高さを放水口に近づけて温泉水の貯留高さを高くし、温泉水の落下距離を短くすることで、温泉水の湯面変動を極力低減できる。
また、上側邪魔板は、天井蓋にその上端が固着されているので、貯留槽から天井蓋を取り外す場合、天井蓋と共に上側邪魔板を貯留槽内から取り外すことができる。これにより、隣り合う下側邪魔板の間に設けられた上側邪魔板が取り外され、その部分の空間を広くできるので、例えば清掃作業を行い易い。
【0011】
請求項3記載の温泉水分配装置は、排水口を形成する排水管を、貯留槽の下流側壁に設けられた水平部材に載置状態で取付けているので、例えば、排水管のぐらつきが防止され、長期使用による排水管の取付け位置の変動を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る温泉水分配装置の斜視図、図2は同温泉水分配装置の部分側断面図、図3(A)、(B)はそれぞれ同温泉水分配装置の正面図、裏面図である。
【0013】
図1、図2、及び図3(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る温泉水分配装置10は、源泉から汲み上げられた温泉水を貯留可能な、例えば、50〜500リットル程度の内容積を備える天井蓋11付きの貯留槽12を有し、この貯留槽12に貯留された温泉水を複数の需要者に均等に分配する装置である。なお、貯留槽12及び天井蓋11の外面には、例えば発泡スチロール等の断熱材(図示しない)が配置され、貯留槽12内に貯留された温泉水の温度低下を抑制している。また、この貯留槽12の下面には、断面L字状となった支持脚13、14が設けられ、貯留槽12を所定の高さ位置(例えば、3cm以上10cm以下)に支持している。以下、詳しく説明する。
【0014】
図1、図2、及び図3(B)に示すように、貯留槽12の上流側壁15の上側には、源泉から汲み上げられた温泉水を貯留槽12内に放水するための放水口16が形成された放水管17が設けられている。この放水管17は、逆L字状に貯留槽12に取付け固定されているため、放水管17を流れてきた温泉水を、放水口16から貯留槽12内へ、下方へ向けて流れ落とすことができる。
図1、図2、及び図3(A)に示すように、貯留槽12の下流側壁18の高さ方向中央部(放水口16の位置より低い位置)には、アングル(水平部材の一例)19が取付けられ、このアングル19上に排水管20の上流側部が載置状態で複数(本実施の形態においては4個)取付けられている。これにより、各排水管20は同一高さ位置(例えば、貯留槽12の高さの1/3以上2/3以下の範囲内)に配置されている。なお、各排水管20に形成された排水口21は、実質的に同一口径(例えば、内径が1cm以上3cm以下)となっている。
【0015】
図1、図2に示すように、貯留槽12内の上流側から下流側にかけては、下側邪魔板22、上側邪魔板23、及び下側邪魔板24が、略等間隔(例えば、10cm以上20cm以下)に順次配置され、下側邪魔板と上側邪魔板とが交互に配置されている。
この各下側邪魔板22、24は、厚みが例えば0.5cm以上1.5cm以下程度となっており、貯留槽12の底部25に対して略垂直(例えば、底部25に対して90度±5度の範囲内)に立ち上がるように、貯留槽12の底部25及び貯留槽12の上流側壁15の両側の側壁26、27内面に取付けられ、その上端が水平となったものである。なお、各下側邪魔板22、24の上端位置は同一高さであり、しかも放水管17の放水口16の高さ位置より僅かに低く(例えば、1cm以上10cm以下、好ましくは1cm以上5cm以下)なっている。
【0016】
これにより、貯留槽12の上流側壁15及びその両側壁26、27と、貯留槽12の最上流側に配置された下側邪魔板22とで上流側貯留部28が形成され、貯留槽12の両側壁26、27と、隣り合う2枚の下側邪魔板22、24とで中央貯留部29が形成され、貯留槽12の下流側壁18及びその両側壁26、27と、貯留槽12の下流側に配置された下側邪魔板24とで下流側貯留部30が形成される。
ここで、上流側貯留部28内に貯留される温泉水の湯面と放水口16との距離を短くするることで、落下する温泉水による湯面の変動を低減できる。また、最下流側の下側邪魔板24の上端位置は、排水口21より高い位置になっているので、貯留槽12内に貯留された温泉水の湯面変動が、排水口21へ直接伝播することを防止できる。
【0017】
上側邪魔板23は、厚みが例えば0.5cm以上1.5cm以下程度となっており、隣り合う下側邪魔板22、24の間に配置されるように、その上端が天井蓋11の下面に固着され、貯留槽12の内面には固着されていない。なお、貯留槽12の上部外周にはフランジ部31〜34が取付けられ、この各フランジ部31〜34にシール材(例えば、ゴム製のパッキン)を介して天井蓋11を載置し、貯留槽12に天井蓋11を複数の締結部材(例えば、ねじ又はボルト)35で取付け固定している。
これにより、貯留槽12から天井蓋11を取り外すことで、上側邪魔板23も天井蓋11と共に、貯留槽12から取り外すことができる。なお、上側邪魔板23を天井蓋11に固着することなく、上側邪魔板23の両端を、貯留槽12の両側壁26、27の内面に固着することも可能である。
【0018】
また、上側邪魔板23は、貯留槽12の底部25から、例えば5cm以上30cm以下の隙間36を有して設けられており、その下端が、隣り合う下側邪魔板22、24の上端位置よりも下方で、しかも排水口21の位置より低い位置に配置されている。なお、隙間36部分に、例えばゴミを捕捉するための網状部材を設けることも可能である。また、隙間36部分に、例えば、円形状、楕円形状、又は多角形状となった開口部が形成された通水部を設け、ゴミを捕捉することも可能である。
このように、上側邪魔板23は、隣り合う下側邪魔板22、24より上位置に配置されているため、放水口16から、上流側貯留部28、中央貯留部29、及び下流側貯留部30を通って排水口21に向かう温泉水の水路が、上下方向にジグザグに形成されている。
【0019】
図2に示すように、複数の排水管20は片口ソケットで構成され、この排水管20の下流側にニップル37を取付け、更に温泉水の排水を停止可能なコック38が設けられた管39が取付けられている。この管39には、各需要者に温泉水を提供するため、例えば塩化ビニル製の柔軟性を有する送液管(図示しない)が接続されている。しかし、管39への送液管の取付けによる圧力抵抗(各温泉水の流れの不均等)を低減するため、管39と送液管とを分離し、この送液管の上流側端部に下方へかけて縮径する漏斗(じょうご)を設け、管39から排出され落下してきた温泉水を漏斗で受けた後、送液管を介して各需要者へ送液することが好ましい。
【0020】
これにより、各排水口21から均等に排水された温泉水を、各需要者に均等に供給できる。
なお、天井蓋11、貯留槽12、放水管17、アングル19、排水管20、各下側邪魔板22、24、及び上側邪魔板23は、長期の使用に耐え得るように、ステンレス(例えば、SUS304)で構成されている。このため、各構成部材の取付けは、溶接によって行われている。
【0021】
続いて、温泉水の供給方法について、前記した温泉水分配装置10を参照しながら説明する。
まず、源泉から汲み上げられた温泉水を、放水口16を介して貯留槽12内に落下させることで、上流側貯留部28に温泉水が溜まり、上流側貯留部28に貯留される温泉水の湯面が上昇する。
このように、温泉水の湯面が上昇することで、放水口16から落下する温泉水の落下距離が短くなり、上流側貯留部28の温泉水の湯面変動を徐々に低減できる。
【0022】
引き続き、放水口16から温泉水の放水が行われることで、温泉水の湯面が、上流側に配置された下側邪魔板22の上端位置を超える。これにより、オーバーフローした温泉水が中央貯留部29内に流れ込み、中央貯留部29に貯留される温泉水の湯面が上昇する。
そして、この湯面が、上側邪魔板23に接触することで、上流側の下側邪魔板22と上側邪魔板23との間に生じる温泉水の湯面変動が、上側邪魔板23と下流側の下側邪魔板24との間の温泉水の湯面に伝播することを抑制、更には防止できる。
【0023】
更に、放水口16から温泉水の放水が行われることで、温泉水の湯面が、下流側に配置された下側邪魔板24の上端位置を超える。これにより、オーバーフローした温泉水が、下流側貯留部30に流れ込み、下流側貯留部30に貯留される温泉水の湯面が上昇する。そして、温泉水の湯面が各排水口21まで到達することで、各排水管20から温泉水が排水される。
これにより、貯留槽12内に放水された温泉水の落下衝撃による湯面変動が、排水口21に伝播することを抑制、更には防止できるので、温泉水を各需要者に均等に分配することができる。
【0024】
以上、本発明を、一実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の温泉水分配装置を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、貯留槽に4個の排水口が設けられた場合について説明したが、例えば、2個、3個、又は5個以上設けることも可能である。なお、貯留槽に設ける排水口の個数が多くなるに伴い、貯留可能な温泉水の貯留量を増加させるため、貯留槽の容積を大きくし、その幅を更に広げることが好ましい。
そして、排水管の下流側には、排水管内を流れる温泉水の状態を観察するため、ガラスが取付けられたサイトグラスを設けることも可能である。これにより、排水管内に汚れが付着したことを容易に把握でき、排水管の清掃を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係る温泉水分配装置の斜視図である。
【図2】同温泉水分配装置の部分側断面図である。
【図3】(A)、(B)はそれぞれ同温泉水分配装置の正面図、裏面図である。
【符号の説明】
【0026】
10:温泉水分配装置、11:天井蓋、12:貯留槽、13、14:支持脚、15:上流側壁、16:放水口、17:放水管、18:下流側壁、19:アングル(水平部材)、20:排水管、21:排水口、22:下側邪魔板、23:上側邪魔板、24:下側邪魔板、25:底部、26、27:側壁、28:上流側貯留部、29:中央貯留部、30:下流側貯留部、31〜34:フランジ部、35:締結部材、36:隙間、37:ニップル、38:コック、39:管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放水口から流れ落ちる温泉水を天井蓋付きの貯留槽に貯留し、複数の排水口に均等に分配する温泉水分配装置であって、
前記貯留槽内に上流側から下流側にかけて、前記貯留槽の底部から立ち上がり上端が水平となった下側邪魔板と、前記貯留槽の底部とは隙間を有し前記下側邪魔板より上位置に配置された上側邪魔板を交互に配置し、前記放水口から前記排水口に向かう水路をジグザグに形成し、
しかも、前記貯留槽の下流側に配置される前記複数の排水口を実質的に同一口径とすると共に、該複数の排水口を同一高さ位置に配置したことを特徴とする温泉水分配装置。
【請求項2】
請求項1記載の温泉水分配装置において、前記下側邪魔板の1つが前記貯留槽内の最上流側に配置され、しかも隣り合う前記下側邪魔板の間に設けられている前記上側邪魔板は、前記天井蓋にその上端が固着されていることを特徴とする温泉水分配装置。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の温泉水分配装置において、前記排水口を形成する排水管は、前記貯留槽の下流側壁に設けられた水平部材に載置状態で取付けられていることを特徴とする温泉水分配装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−16026(P2006−16026A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194273(P2004−194273)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(504253407)
【Fターム(参考)】