説明

測定装置および測定システム

【課題】 測定装置の操作者自身が複雑な測定確度の計算を行わなくても、測定装置の測定確度を簡単に把握することができる測定装置、およびこのような測定装置がネットワークを介して複数台接続された測定システムにおける測定系全体の測定確度を簡単に把握することができる測定システムを提供する。
【解決手段】 試験対象から入力された測定データを測定し、もしくは前記試験対象に測定信号を出力する測定手段と前記測定データもしくは前記出力信号を表示する表示手段とを備えた測定装置において、
前記測定データの測定確度を記憶する記憶手段を備え、
この測定確度、測定条件、および測定データから測定確度情報を演算し、この測定確度情報を前記表示手段に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置の操作者自身が複雑な測定確度の計算を行わなくても、測定装置の測定確度を簡単に把握することができる測定装置、およびこのような測定装置がネットワークを介して複数台接続された測定システムにおける測定系全体の測定確度を簡単に把握することができる測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定装置は測定する周波数や電圧等により測定確度が変動する。例えば、スペクトラムアナライザのような高周波測定装置の場合には、測定する周波数や測定された信号レベルに依存した振幅確度、周波数に依存した周波数確度が存在する。このような測定確度を考慮した測定装置の先行技術文献としては、特許文献1のようなものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2001―311753号公報
【0004】
図6は従来における測定装置の構成例である。図6で、試験対象(DUT)1は試験の対象となるデバイスである。測定装置10は、例えばスペクトラムアナライザやパワーメータ等の測定装置である。測定手段11は試験対象1から入力された測定データを測定する。記憶手段12は測定手段11が測定した測定データを記憶する。表示手段13は記憶手段12に記憶された測定データを表示する。
【0005】
表示の方法は、スペクトラムアナライザのようなグラフィックを伴う測定装置の場合には測定データの波形を表示し、パワーメータのような測定データの数値のみを表示する測定装置の場合には測定データを数値で表示する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来の測定装置には以下のような問題点があった。すなわち、測定確度を確認するには測定装置の取扱説明書を見る必要があるが、この取扱説明書の記載内容は複雑なため、測定装置の操作者が取扱説明書の測定確度を見間違える恐れがある。このため、測定レンジが当該測定データの測定に必要とされる測定確度に設定されていないにも拘わらず測定を行ってしまう場合がある。
【0007】
さらに、複数の測定装置を接続して測定する場合、各測定装置の確度誤差を考慮して測定系全体の測定確度の計算を行う必要があるが、操作者が計算ミスや取扱説明書の読み間違えを起こす場合がある。このため、測定確度を無視した測定が行われる場合がある。
【0008】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたものであり、測定装置の操作者自身が複雑な測定確度の計算を行わなくても、測定装置の測定確度を簡単に把握することができる測定装置、およびこのような測定装置がネットワークを介して複数台接続された測定システムにおける測定系全体の測定確度を簡単に把握することができる測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を達成するために請求項1記載の発明は、
試験対象から入力された測定データを測定し、もしくは前記試験対象に測定信号を出力する測定手段と前記測定データもしくは前記出力信号を表示する表示手段とを備えた測定装置において、
前記測定データの測定確度を記憶する記憶手段を備え、
この測定確度、測定条件、および測定データから測定確度情報を演算し、この測定確度情報を前記表示手段に表示する。
【0010】
請求項2記載の発明は、試験対象から入力された測定データを測定し、もしくは前記試験対象に測定信号を出力する測定手段と前記測定データもしくは前記出力信号を表示する表示手段とを備えた測定装置において、
前記測定データと共に前記測定データの測定確度を記憶する記憶手段と、
前記測定手段の測定条件を設定する測定条件設定手段と、
前記測定条件設定手段で設定された測定条件、前記記憶手段に記憶された測定確度、および測定データから測定確度情報を演算する確度演算手段と、
前記測定確度情報を前記表示手段に表示する動作を制御する表示制御手段と
を備える。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の測定装置において、前記表示制御手段は、前記測定データと前記測定確度情報を切り替えて前記表示手段に表示する。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の測定装置において、前記表示制御手段は、前記測定確度情報を前記測定データと共に前記表示手段に表示することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、前記記憶手段は、校正日時と推奨校正周期を記憶し、
前記校正日時と前記推奨校正周期から校正有効期限の範囲内であるか判別する校正有効期限判別手段を備える。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の測定装置と外部制御装置がネットワークを介して接続され、前記外部制御装置は、これらの測定装置から送信された前記測定確度情報を表示する第2の表示手段を備える。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の複数の測定装置と外部制御装置がネットワークを介して接続され、
前記外部制御装置は、請求項1乃至5記載の複数の前記測定装置から送信された前記測定確度情報に基づいて測定系全体の測定確度を演算する総合確度演算装置と、この測定系全体の測定確度を表示する第2の表示手段を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、次のような効果がある。
測定確度、測定条件、測定データから測定確度情報を演算し、この測定確度情報を前記表示手段に表示するので、測定装置の操作者自身が複雑な測定確度の計算を行わなくても、測定装置の測定確度を簡単に把握することができる。
【0017】
また、測定データと測定確度情報を切り替えて表示するので、グラフィックを伴わないパワーメータのような測定装置であっても、測定確度を簡単に把握することができる。
【0018】
また、測定確度情報を測定データと共に表示するので、グラフィックを伴うスペクトラムアナライザのような測定装置の場合には、測定データがどの程度の誤差を包含しているか直ちに把握することができる。
【0019】
さらに、複数の測定装置から送信された測定確度情報に基づいて測定系全体の測定確度を演算する総合確度演算装置を備えたので、測定系全体の測定確度を簡単に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の測定装置の構成例について図1を参照して説明する。測定装置100は、例えばスペクトラムアナライザやパワーメータ等の測定装置である。測定手段110は試験対象200から入力された測定データを測定する。
【0021】
記憶手段120には測定データを記憶する測定データファイル121が形成され測定データを記憶する他、当該測定器の測定確度が記憶された測定確度ファイル122が形成されている。なお、測定装置100に校正期限の警告機能を持たせる場合には、記憶手段320に校正日時(実際に校正を行った日)、および推奨校正周期(測定装置100の測定性能を維持するために必要とされる校正の周期をいう。)を記憶する。
【0022】
測定条件設定手段130は、測定手段110に対して例えば周波数レンジや電圧のレンジ等の各種測定条件を設定すると共に、この測定条件を後述する確度演算手段140に出力する。確度演算手段140は、測定条件、測定データ、測定確度に基づいて測定確度情報を演算する。
【0023】
表示制御手段150には、測定データの他測定確度情報も入力され、測定装置100の種類に応じて後述する図1の動作説明のように測定確度情報を表示手段160に表示する。
【0024】
次に、図1の動作について図2のフローチャートを参照して説明する。測定条件設定手段130は、測定手段110に対して、例えば周波数レンジや電圧レンジ等の各種測定条件を設定すると共に、この測定条件を確度演算手段140に出力する(ステップA1)。
【0025】
試験対象200から出力された測定データは、測定手段110によって測定される(ステップA2)。この測定データは記憶手段120に出力され、記憶手段120に形成された測定データファイル121に記憶される(ステップA3)。
【0026】
測定確度演算手段140は、測定条件、測定データ、および測定確度ファイル122に記憶された測定確度に基づいて測定確度情報を演算するが(ステップA4)、詳細な演算方法は後述する図4の説明で行うものとする。そして、このようにして演算された測定確度情報は表示制御手段150に出力される。
【0027】
表示手段160は、表示制御手段150による制御によって以下のように測定データ、および測定確度情報を表示する(ステップA5)。なお、測定装置100に校正期限の警告機能を持たせた場合には、校正有効期限判別手段180が、記憶手段320に記憶された校正日時、および推奨校正周期から校正有効期限の範囲内であるか判別し、表示制御手段150を介して、その判別結果を表示手段160に表示する。
【0028】
測定データ、および測定確度情報の表示方法の具体例を挙げると、測定装置100が例えばスペクトラムアナライザの場合には図3のようになる。
【0029】
ここで、図3はステップA1で測定条件設定手段130から、
周波数レンジ 100kHz〜4GHz
リファレンスレベル 0dBm
入力アッテネーション 10dB
の測定条件が入力されて、
【0030】
記憶手段120に記憶された測定確度ファイル121の内容が
周波数 100kHz〜1GHz 測定確度 ±0.5dB(入力ATT 10dB時,入力レベル-80dBm以上)
周波数 100kHz〜1GHz 測定確度 ±0.8dB(入力ATT 10dB時,入力レベル-80dBm以下)
周波数 1GHz〜4GHz 測定確度 ±0.9dB(入力ATT 10dB時,入力レベル-80dBm以上)
周波数 1GHz〜4GHz 測定確度 ±1.0dB(入力ATT 10dB時,入力レベル-80dBm以下)
である場合の例である。
【0031】
また、図3では測定データと共にマーカー510、520が表示され、マーカー510、520の測定確度は測定確度表示エリア530に表示される。なお、図3ではマーカー510、520の表示時に確度を表示しているが、スペクトラムのグラフィックの中にラインで表示しても良い。
【0032】
さらに、第2の表示方法としては、図4のようにエリア境界線540、541を引いて、それぞれのエリアごとに測定確度情報550〜553を表示しても良い。ここで、図4から明らかな様に、ステップA4で求められる測定確度情報550〜553は、測定レンジ(測定条件)、測定データの周波数、測定データの入力レベルによって異なる。
【0033】
図4では、周波数100kHz〜1GHz、入力レベル-80dBm以上の条件における測定確度がもっとも優れ、測定確度情報(誤差)±0.5dBとなる。なお、同一の周波数でも入力レベル-80dBmを境界として測定確度情報が異なるのは(すなわち、測定確度情報553が±0.5dBである一方で、測定確度情報552が±0.8dBである点)、入力レベル-80dBm以下の場合はノイズの影響を強く受け、誤差が大きくなるからである。したがって、測定確度ファイル121には、これらの影響を踏まえて測定確度が記憶される。
【0034】
また、図4の実施例ではスペクトラムアナライザを例に説明したので、測定データの入力レベルをも条件として測定確度ファイル121の内容を決定したが、入力レベルによる誤差の影響を考慮する必要がない測定器の場合には、入力レベルを考慮しないで測定確度ファイル121の内容が決定されるのはいうまでもない。
【0035】
なお、図4における測定確度情報550〜553の表示は、表示制御手段によってオン/オフできるものとする。また、本実施例ではスペクトラムアナライザを用いて説明したが、この測定装置に限られるものではなく他の全ての測定装置においても適用することができる。
【0036】
このように、測定確度、測定条件、測定データから測定確度情報を演算し、この測定確度情報を表示手段160に表示するので、測定装置100の操作者自身が複雑な測定確度の計算を行わなくても、測定確度を簡単に把握することができる。
【0037】
次に、第1の実施例で説明した測定装置100を使用した測定システムの構成について図5を参照して説明するが、図1と同じ構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
図5の測定システムは、測定装置100と測定装置300がネットワークを介して外部制御装置400に接続されている。測定装置100には図1で説明した構成の他、通信手段170が設けられネットワークを介して外部制御装置400の通信手段410と測定確度情報の通信を行う。
【0039】
測定装置300は、本実施例では信号発生器である。測定手段310は試験対象200に測定信号を出力する。記憶手段320には、信号発生器の発生する測定信号の確度情報(すなわち測定信号にどの程度の誤差が含まれているかを示す信号)が記憶された確度ファイル322が形成されている。
【0040】
測定信号設定手段330は測定手段310に対して例えば測定信号の周波数やパワー等を設定すると共に、この測定信号の条件を後述する確度演算手段340に出力する。確度演算手段340は、測定信号の条件、および確度ファイル322から出力される確度データに基づいて測定信号の確度情報を演算する。
【0041】
表示制御手段350と表示手段360は、それぞれ表示制御手段150、表示手段160に対応するものなので、図1と同様の方法で測定確度情報を表示手段360に表示させても良いが、本実施例では後述する外部制御装置400の表示手段430に測定系全体の測定確度を表示するので、これらの構成は使用しなくても差し支えない。
【0042】
通信手段370は、確度演算手段340で演算された測定信号の確度情報を、ネットワークを介して外部制御装置400の通信手段410に出力する。
【0043】
外部制御装置400は、例えばパーソナルコンピュータである。通信手段410は、ネットワークを介して通信手段170から測定確度情報が入力され、通信手段370から測定信号の確度情報が入力される。総合確度演算装置420は、測定信号の確度情報と測定確度情報から測定系全体の測定確度を演算する。
【0044】
次に、図5の動作について説明する。ただし、図5の測定装置100で図1と同一の符号を付した構成は図1と同様の動作をなし、測定装置300の各構成についても、測定装置100の構成と同一の名称が付された構成については同様の動作をなすので、これらの構成の動作説明は省略する。したがって、図5の動作説明は各測定装置100、300から出力される測定確度情報、および測定信号の確度情報に基づいて総合確度演算装置420が測定系全体の測定確度を演算する動作についてのみ説明する。
【0045】
通信手段410から測定信号の確度情報、および測定確度情報が入力された総合確度演算手段420は、以下のように測定系全体の測定確度を演算する。例えば、信号発生器である測定装置300の測定信号の確度情報の誤差が1dBであって、レシーバとなる測定装置100の測定確度情報が1dBの場合には、これらの誤差が重畳されて、総合確度演算手段420は測定系全体の測定確度を2dBと演算する。そして、表示手段430は総合確度演算装置420から出力された測定系全体の測定確度を表示する。
【0046】
このように、複数の測定装置100、300から送信された測定確度情報(測定信号の確度情報)に基づいて測定系全体の測定確度を演算する総合確度演算装置を備えたので、測定系全体の測定確度を簡単に把握することができる。
【0047】
この結果、有効数字以上の桁数でデータを測定することに対する対策にもなる。さらに、測定値がどの程度の誤差を含んでいるか直ちに判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明による測定装置100の構成例である。
【図2】図1の動作を説明するフローチャートである。
【図3】マーカー510、520における測定確度情報の表示例である。
【図4】エリア境界線で仕切ることにより測定確度情報を示した図である。
【図5】測定装置100を使用した測定システムの構成例である。
【図6】従来の測定装置10の構成例である。
【符号の説明】
【0049】
100 測定装置
110 測定手段
120 記憶手段
130 測定条件設定手段
140 確度演算手段
150 表示制御手段
160 表示手段
200 試験対象
400 外部制御装置
410 総合確度演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象から入力された測定データを測定し、もしくは前記試験対象に測定信号を出力する測定手段と前記測定データもしくは前記出力信号を表示する表示手段とを備えた測定装置において、
前記測定データの測定確度を記憶する記憶手段を備え、
この測定確度、測定条件、および測定データから測定確度情報を演算し、この測定確度情報を前記表示手段に表示することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
試験対象から入力された測定データを測定し、もしくは前記試験対象に測定信号を出力する測定手段と前記測定データもしくは前記出力信号を表示する表示手段とを備えた測定装置において、
前記測定データと共に前記測定データの測定確度を記憶する記憶手段と、
前記測定手段の測定条件を設定する測定条件設定手段と、
前記測定条件設定手段で設定された測定条件、前記記憶手段に記憶された測定確度、および測定データから測定確度情報を演算する確度演算手段と、
前記測定確度情報を前記表示手段に表示する動作を制御する表示制御手段と
を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項3】
前記表示制御手段は、前記測定データと前記測定確度情報を切り替えて前記表示手段に表示することを特徴とする請求項1又は2記載の測定装置。
【請求項4】
前記表示制御手段は、前記測定確度情報を前記測定データと共に前記表示手段に表示することを特徴とする請求項1又は2記載の測定装置。
【請求項5】
前記記憶手段は、校正日時と推奨校正周期を記憶し、
前記校正日時と前記推奨校正周期から校正有効期限の範囲内であるか判別する校正有効期限判別手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4記載の測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の測定装置と外部制御装置がネットワークを介して接続され、
前記外部制御装置は、これらの測定装置から送信された前記測定確度情報を表示する第2の表示手段を備えることを特徴とする測定システム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の複数の測定装置と外部制御装置がネットワークを介して接続され、
前記外部制御装置は、請求項1乃至5記載の複数の前記測定装置から送信された前記測定確度情報に基づいて測定系全体の測定確度を演算する総合確度演算装置と、この測定系全体の測定確度を表示する第2の表示手段を備えることを特徴とする測定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329845(P2006−329845A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154913(P2005−154913)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】