説明

測量方法

【課題】設計図等の設計データの目標位置と平面位置に関して対応する位置を、実際の面上において求める。
【解決手段】三次元位置を計測可能な測量計10は、着目位置に向けて計測用光を投光し、実際の面2Rからの反射光を受光し、当たる位置を計測位置Pkとしてその位置座標を出力するともに、出力された計測位置Pkの位置座標を、設計面2V内の平面位置を規定する平面位置座標と、設計面2Vの法線方向の位置を規定する法線位置座標とで示す。測量計10は、着目位置の平面位置座標を目標位置Paの平面位置座標に維持しつつ当該着目位置の法線位置座標を変更しながら計測用光を投光し、計測位置Pkの平面位置座標が目標位置Paの平面位置座標に一致する計測位置Pkを求める。求められた計測位置Pkの平面位置座標及び法線位置座標を、対応する位置として取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工現場等においてトータルステーション等の測量計を用いて行う測量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、施工現場では、トータルステーションによって任意位置の三次元座標の計測が行われている(例えば、特許文献1)。
この計測の際には、先ず計測準備として、トータルステーションを施工現場に据え置くとともに、位置座標が既知の二つの基準位置にプリズムや反射板等の反射部材を置く。そして、反射部材に向けて計測用光を投光し、その反射光の位相差に基づいて各基準位置までの距離を測るとともに、計測用光の投光方向の水平角度や鉛直角度を測る。
そうしたら、位置座標を計測すべき対象位置たる計測位置に、上記の反射部材を置き、トータルステーションから反射部材へ向けて計測用光を投じ、その反射光の位相差に基づいて計測位置までの距離を測るとともに、計測用光の投光方向の水平角度や鉛直角度を測る。そして、これら距離や水平・鉛直角度、上述の基準位置の距離や水平・鉛直角度、及び基準位置の位置座標(既知)などに基づいて幾何学的計算を行うことにより、計測位置の三次元座標を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−325884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では、反射部材を用いないトータルステーションも使用されている。すなわち、このトータルステーションでは、計測位置に向けて計測用光を投光し、計測位置からの反射光を受光して光の往復時間を計測することで距離を求め、これに前述の水平・鉛直角度などのデータを加味することで、計測位置の三次元座標を求めるようになっている。
【0005】
また、機種によっては、三次元座標を入力すれば、同三次元座標に対応する位置に向けて、レーザー光などの可視光を指示光として投光して指し示すという墨出し機能も有している。
【0006】
図1は、この墨出し機能の説明用の概略側面図である。墨出し機能に必要な三次元座標の入力は、例えばトータルステーション10に通信可能に接続されたタブレットPC等の携帯端末50から行われる。すなわち、同携帯端末50内のメモリには、建物等の構造物の3D(三次元)モデルのデータが格納されており、携帯端末50上で、この3Dモデルに設定された任意位置の座標を目標位置Pa(Xa,Ya,Za)として指定すると、トータルステーション10は、施工現場における実際の目標位置Paに向けて指示光を投光する。そして、3Dモデル通りに目標位置Paに正確に対象物が位置している場合には、同位置Paに指示光が当たってそのスポットで同位置Paが指し示されることになる。
【0007】
ここで、3Dモデル上の対象物の位置と、実際に形成された対象物の位置とが異なってしまうことがある。例えば、図1に示すように、対象物としてコンクリート製の床面2Rを、3Dモデルの床面2Vの設計データに基づいて施工現場に実際に形成した場合であっても、当該実際の床面2Rは、不陸があったり、その高さが、設計データの床面2Vよりも全体的に高かったり低かったりというように施工誤差を有している。
そして、その場合に、3Dモデルに基づいて目標位置Paに向けて指示光を投光しても、当該指示光のスポットで指し示される位置Pbは、施工誤差に起因して目標位置Paからずれてしまう。例えば、図1に示すように、実際の床面2Rが、3Dモデルで規定された設計床面2Vよりも高い位置に形成されている場合には、指示光のスポットが指し示す位置Pb(Xb,Yb,Zb)は、目標位置Paよりも高い位置(Zb>Za)であって、しかも同目標位置Paよりも手前の平面位置になってしまう。つまり、高さ位置のみならず、平面位置についてもずれた位置を指し示してしまう。
【0008】
一方で、実際の施工作業では、三次元位置が正確にわからなくても、床面2R上における二次元位置(平面位置)が正確にわかれば問題無いということが多い。つまり、3Dモデル上の目標位置Paの平面位置(二次元位置)が、実際の床面2R上において正確に指し示されれば、同平面位置に据え付け対象物を正確に据え置くことができて、墨出し機能としては十分使用できるものとなる。
【0009】
但し、図1を参照して前述したように、トータルステーション10に対して単純に目標位置Paの三次元座標(Xa,Ya,Za)を入力しても、その指示光のスポットによって実際の床面2Rに指し示される位置Pbは、同図1に示すように、平面位置に関しても、本来指し示すべき位置Pc(Xa,Ya)からずれた位置Pb(Xb,Yb)になってしまっている。
【0010】
つまり、平面位置に関して目標位置Paと対応する実際の床面2R上の位置Pc(つまり実際の床面2R上において目標位置Paと平面位置に関して一致する位置Pc)を、指示光のスポットで指し示すには、この指し示すべき実際の床面2R上の位置Pcの三次元座標(Xa,Ya,Zc)をトータルステーション10に入力する必要があるが、このとき、Zcは既知ではないので、実際の床面2R上の位置Pcの三次元座標を入力することができない。
【0011】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その目的は、設計データの目標位置と平面位置に関して対応する位置を、実際の面上において求めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
三次元位置座標を計測可能な測量計を用いることにより、
設計データで規定された設計面に含まれる目標位置と平面位置に関して対応する位置を、前記設計データに基づいて形成される実際の面上において求める測量方法であって、
前記測量計は、着目位置に向けて計測用光を投光し、前記実際の面上において前記計測用光が当たる位置からの反射光を受光することで、前記当たる位置を計測位置としてその位置座標を出力するともに、出力された前記計測位置の位置座標を、前記設計面内の平面位置を規定する平面位置座標と、前記設計面の法線方向の位置を規定する法線位置座標とで示す機能を有し、
前記測量計は、前記着目位置の平面位置座標を前記目標位置の平面位置座標に維持しつつ当該着目位置の法線位置座標を変更しながら前記計測用光を投光することによって、前記計測位置の平面位置座標が前記目標位置の平面位置座標に一致するような前記計測位置を求め、求められた前記計測位置の平面位置座標及び法線位置座標を、前記対応する位置として取得することを特徴とする。
【0013】
上記請求項1に示す発明によれば、実際の面に不陸が有ったり、設計データで規定される設計面よりも実際の面が法線方向に位置ずれしている場合であっても、設計データの目標位置と平面位置に関して一致する位置を、実際の面上において求めることができる。つまり、平面位置に関して設計データ上の目標位置に対応する位置を、実際の面上において求めることができる。
【0014】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の測量方法であって、
取得された前記対応する位置の平面位置座標及び法線位置座標に基づいて、前記測量計は、前記実際の面に向けて、指示光としての可視光を投光することを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、実際の面上において、設計データの目標位置に対応する位置を視認可能となる。
【0015】
請求項3に示す発明は、請求項1及び2に記載の測量方法であって、
取得された前記対応する位置の法線位置座標と、前記目標位置の法線位置座標とに基づいて、前記設計面と前記実際の面との間の法線方向の寸法誤差を求めることを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、設計データが規定する設計面に対する実際の面の法線方向の寸法誤差を容易に求めることができる。
【0016】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の測量方法であって、
前記着目位置の法線位置座標の変更は、前記目標位置を始点として行われることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、着目位置の法線位置座標の変更は、目標位置を始点として行われるので、目標位置と平面位置に関して対応する位置を、実際の面上において短時間で求めることができる。
【0017】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の測量方法であって、
前記計測位置の平面位置座標が、前記目標位置の平面位置座標に一致しない場合には、前記測量計と前記対応する位置との間に、前記計測用光を遮る障害物が存在すると判断することを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、今の測量計の設置位置では、目標位置と平面位置に関して対応する実際の面上の位置を求めることが不可能なことを速やかに知ることができる。
【0018】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の測量方法であって、
前記対応する位置を取得することにおいては、前記計測位置の平面位置座標が前記目標位置の平面位置座標に一致するまで、前記計測位置の平面位置座標及び法線位置座標の計測動作と、前記着目位置の法線位置座標の変更動作と、を繰り返し行い、
前記変更動作の際には、直前に計測された前記計測位置と前記測量計との間の距離を算出し、算出された前記距離に基づいて、前記着目位置の法線位置座標を変更することを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、着目位置の法線位置座標の変更動作の際に、法線位置座標の変更を、直前に計測された計測位置と測量計との間の距離に基づいて行う。よって、計測位置の平面位置座標が目標位置と一致するような着目位置を短時間で求めることができて、結果、実際の面上において目標位置に対応する位置を短時間で求めることができる。
【0019】
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の測量方法であって、
前記計測用光は、可視光であることを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、計測用光を可視光にしているので、実際の面上において計測用光が当たる位置をスポットで見ることができて、これにより、計測位置を視認可能となる。また、計測中には、着目位置の法線位置座標の変更に基づいて、計測位置に形成される計測用光のスポットも、実際の面上を徐々に動いていくことになるので、この動く様子を観察することで、測量計が正常に動作していることを確認することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、設計データの目標位置と平面位置に関して対応する位置を、実際の面上において求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】参考例の墨出し機能の説明用の概略側面図である。
【図2】本実施形態に係り、施工現場に設置された測量計としてのトータルステーション10の概略側面図である。
【図3】図3Aは、計測機能の説明用の概略側面図であり、図3Bは、墨出し機能の説明用の概略側面図である
【図4】トータルステーション10を用いた墨出し方法のフローチャートである。
【図5】図5A及び図5Bは、設計床面2Vよりも上方に突出した施工誤差の部分を有する実床面2Rに墨出し処理を行うトータルステーション10の概略側面図である。
【図6】図6A及び図6Bは、施工誤差が無い実床面2Rに墨出し処理を行うトータルステーション10の概略側面図である。
【図7】図7A及び図7Bは、設計床面2Vよりも下方にへこんだ施工誤差の部分を有する実床面2Rに墨出し処理を行うトータルステーション10の概略側面図である。
【図8】実床面2Rに指示光を投光することにより、実床面2R上に据え付け対象位置Pcを指し示すトータルステーション10の概略側面図である。
【図9】トータルステーション10と、実床面2R上の据え付け対象位置Pcとの間に障害物80が有る場合の概略側面図である。
【図10】図10A及び図10Bは、鉛直な実壁面4Rに墨出しを行うトータルステーション10の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
===本実施形態===
図2は、施工現場に設置された測量計としてのトータルステーション10の概略側面図である。
このトータルステーション10は、施工現場にて墨出し用途で使用される。墨出し対象は、例えばコンクリート打設で施工現場に形成された床面2Rである。すなわち、この例では、床面2Rの特定位置に、据え付け対象物を据え付けるのであるが、その際、床面2Rにおいて据え付けるべき平面位置をトータルステーション10で指し示す。なお、この床面2Rは、請求項の「実際の面」に相当し、以下では「実床面2R」とも言う。
【0023】
ここで、設計図等の設計データ上では、床面は例えば全面に亘って水平面をなす床面2V(請求項の「設計面」に相当)として規定されている。しかし、実床面2Rは、施工誤差に起因して不陸等を有し、つまり設計データ上の床面2Vたる設計床面2V通りには形成されていないことが多い。例えば、この例では、図2に示すように、施工誤差に起因して、実床面2Rの一部に、設計床面2Vよりも高く盛り上がった平坦面部分2Rpを有する。そして、この盛り上がった平坦面部分2Rpに、不図示の据え付け対象物を据え付けるのであるが、その場合にも、少なくとも平面位置(二次元位置)に関しては設計データ通りの正確な墨出しが要求され、本実施形態のトータルステーション10によれば、それが可能である。
【0024】
すなわち、図1を参照して前述したように、実床面2Rが高さ方向(鉛直方向)に施工誤差を有している場合には、設計データ上の据え付け目標位置Paの位置座標をそのまま従来のトータルステーションに入力しても、実床面2R上において据え付け対象物を据え付けるべき据え付け対象位置Pc、つまり平面位置に関して設計データ上の据え付け目標位置Paと対応する位置Pcを、実床面2R上において正しく指し示すことはできないが、この点につき、本実施形態に係るトータルステーション10によれば、図2に示すように、実床面2Rが高さ方向に施工誤差を有している場合であっても、平面位置が据え付け目標位置Paと一致する位置たる据え付け対象位置Pcを、実床面2R上において速やかに求めて正確に指し示すことができる。以下、詳説する。
【0025】
<<<トータルステーション10について>>>
トータルステーション10は、任意位置の三次元座標を計測する計測機能と、携帯端末50等の外部機器から入力された三次元座標に基づいて、指示光としての可視レーザー光を投光する墨出し機能と、を有する。
【0026】
図3Aは、計測機能の説明用の概略側面図である。
この計測機能に係る任意位置の三次元座標の計測は、次のようにして行われる。先ず、トータルステーション10は、計測すべき対象位置たる計測位置Pkに向けて計測用光としてレーザー光を投光するとともに、計測位置Pkから反射光を受光する。そして、この計測用光の往復時間に基づいてトータルステーション10から計測位置Pkまでの距離を算出し、またこれと同時並行で、計測用光の投光方向の水平角度や鉛直角度を計測する。
【0027】
そうしたら、計測された距離、水平角度、及び鉛直角度のデータと、予め取得済みの基準位置(不図示)のデータ(トータルステーション10から基準位置までの距離、基準位置への投光方向の水平角度と鉛直角度、基準位置の位置座標(既知の三次元座標))とに基づいて幾何学的計算を行うことにより、トータルステーション10は、計測位置Pkの三次元座標(Xk,Yk,Zk)を算出する。
【0028】
なお、基準位置のデータの取得方法は、背景技術のところで説明した内容と概ね同じであるので、ここでは相違点についてのみ述べると、反射板を用いずに、計測位置Pkからの反射光を直接受光する点、及び、距離の算出を、計測用光の位相差に基づかずに、計測用光の往復時間に基づいて行う点で相違する。
【0029】
図3Bは、墨出し機能の説明用の概略側面図である。
墨出し機能は、外部機器50等から入力された据え付け目標位置Paの位置座標(Xa,Ya,Za)のデータに基づいて、平面位置(X,Y)が据え付け目標位置Paと一致する位置たる据え付け対象位置Pc(Xc,Yc,Zc)、つまり位置Pc(Xa,Ya,Zc)を、実床面2R上において求めて、同位置Pcに向けて、指示光としての赤色可視レーザー光を投光する機能である。なお、これについては後述する。
【0030】
ちなみに、この墨出し処理中には、トータルステーション10は、上述の計測機能も使用するが、ここで、この計測に供する前述の計測用光(図3A)に対して、上記指示光に係る赤色可視レーザー光を兼用しても良い。そして、そのようにすれば、この墨出し処理のために計測中の計測用光のスポットが、実床面2R上に現れるようになり、このスポットの様子を観察することで正常に処理中であるか否かを確認することができる。
【0031】
かかる機能を有するトータルステーション10には、図3Aや図3Bに示すように、外部機器50としての携帯端末50が通信可能に接続されている。この携帯端末50は、例えば、タブレットPC、PDA、スマートフォン、携帯電話などであり、総じて言えば、CPUとメモリとを有したコンピュータである。そして、メモリには、施工現場に構築すべき構造体の3Dモデルが予め記録・格納されており、構造体の各部位には、それぞれ3次元の位置座標が対応付けられている。すなわち、前述の設計床面2Vもこの構造体の3Dモデルの一部であり、よって、この設計床面2Vにも位置座標が対応付けられて上記メモリに格納されている。
ここで、位置座標は、互いに直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)からなる三次元直交座標系で表されている。そして、XY座標で、設計床面2V内の任意の平面位置(二次元位置)を規定する一方、Z座標で、設計床面2Vの法線方向の任意の位置を規定するようになっている。すなわち、前者のXY座標(X,Y)が、請求項の「平面位置座標」に相当し、後者のZ座標(Z)が、請求項の「法線位置座標」に相当する。
【0032】
<<<トータルステーション10による墨出し方法について>>>
図4は、トータルステーション10を用いた墨出し方法のフローチャートである。また、図5A及び図5Bは、それぞれ、トータルステーション10の墨出し処理の様子を示す概略側面図である。
【0033】
先ず、墨出し処理前の準備ステップS10として、図5Aに示すように、トータルステーション10を施工現場の適宜な設置位置Psに設置する。例えば実床面2Rの略全面が見渡せる位置Psであって、且つ実床面2Rよりも鉛直方向に所定高さだけ高い位置Psなどに、トータルステーション10を設置する。
【0034】
次に、同準備ステップS10として、トータルステーション10は、自身の位置座標Ps(Xs,Ys,Zs)を計測して取得する。この計測は、次のようにしてなされる。先ず、位置座標が既知の二つの基準位置(不図示)に向けて計測用光を投光することにより、前述したようにトータルステーション10と各基準位置との距離、及び各投光方向の水平角度や鉛直角度を計測し、そして、これらのデータに、基準位置の既知の三次元座標を加味しながらトータルステーション10の設置位置Psの座標(Xs,Ys,Zs)を計算し、これにより同座標(Xs,Ys,Zs)のデータを取得する。
【0035】
ちなみに、この自身の位置座標Ps(Xs,Ys,Zs)の取得に伴って、上述のように、トータルステーション10は基準位置のデータも取得することになるので、以降、当該基準位置のデータを用いることにより、トータルステーション10はその周囲の任意位置の三次元座標を、XYZの直交座標系で計測可能な状態になる。つまり、計測機能を使用可能な状態になる。
【0036】
そうしたら、トータルステーション10に墨出し処理を行わせるべく、現場作業者は、携帯端末50に格納された構造体の3Dモデル上で、設計床面2Vに設定された据え付け目標位置Paを指定し、これにより、同位置Paの位置座標(Xa,Ya,Za)のデータを、トータルステーション10へ送信する。そして、このデータの受信(据え付け目標位置データ受信ステップS15)をトリガーとして、トータルステーション10は、以下の墨出し処理を開始する。
ちなみに、この例では、墨出し処理は、トータルステーション10により全自動で行われる。すなわち、トータルステーション10は、制御部としてのコンピュータを内蔵しており、適宜な制御プログラムに従ってコンピュータのCPUがトータルステーションの各種構成部を制御して、以下の墨出し処理を実行する。
【0037】
先ず、トータルステーション10は、受信した据え付け目標位置Paを、計測用の着目位置Pmとして設定する(着目位置設定ステップS20)。
そうしたら、図5Aに示すように、この着目位置Pmに向けて計測用光を投光し、実床面2R上において計測用光が当たる位置Pkからの反射光を受光することで、当該当たる位置Pkを計測位置Pkとしてその位置座標(Xk,Yk,Zk)を算出する(計測位置座標算出ステップS25)。
【0038】
次に、計測位置PkのXY座標(Xk,Yk)が、据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に一致しているか否かを判定する(一致判定ステップS30)。ここで、計測位置Pkは、実床面2R上の位置である。よって、上述の条件を満たしている場合には、今の計測位置Pkは、据え付け目標位置Paと平面位置(X,Y)に関して一致する実床面2R上の位置に該当していることになり、つまり、同位置Pkが、実床面2R上の据え付け対象位置Pcとして指し示されるべき位置Pcである。
【0039】
例えば、図5Aの例では、実床面2Rの施工誤差に起因して、計測位置PkのXY座標(Xk,Yk)が、据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に一致していないので、上述の条件を満たしていないが、仮に図6Aに示すように、実床面2Rが施工誤差無く設計床面2V通りに形成されている場合には、同図6Aに示すように、計測位置PkのXY座標(Xk,Yk)が、据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に一致し、つまり上述の条件を満たすことになる。
【0040】
よって、その場合には、トータルステーション10は、次の据え付け対象位置指示ステップS50へ移行して、図6Bに示すように、この計測位置Pkの位置座標(Xk,Yk,Zk)、つまり位置座標(Xa,Ya,Zk)を据え付け対象位置Pcの位置座標(Xc,Yc,Zc)として、同位置Pcへ向けて赤色可視の指示光を投光する。これにより、実床面2Rには、指示光のスポットで据え付け対象位置Pcが表示され、これにて墨出し処理は終了する。
【0041】
ちなみに、上述の「一致しているか否かの判定」は、当然ながら、完全一致でなくても良い。つまり、図5Aの計測位置PkのXY座標(Xk,Yk)が、据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)の所定範囲内に入っているか否かで、判定しても良い。つまり、Xa−ΔX1≦Xk≦Xa+ΔX1、及び、Ya−ΔY1≦Yk≦Ya+ΔY1の条件を満たしているか否かで、判定しても良い。なお、ΔX1及びΔY1は、それぞれ予め定められた固定値である。
【0042】
また、更に言えば、上述のようにX座標の値やY座標の値で「一致しているか否かの判定」を行うのではなく、図5Aのトータルステーション10の設置位置Psから計測位置Pkまでの距離PsPkのXY方向成分αと、トータルステーション10の設置位置Psから据え付け目標位置Paまでの距離PsPaのXY方向成分βとの差分(α−β)が所定範囲内に入っているか否かで、判定しても良い。つまり、−δ1<α−β<δ1の条件を満たしているか否かで、判定しても良い。なお、δ1は、予め定められた固定値である。
【0043】
一方、上述の一致判定ステップS30において、計測位置Pkが条件を満たしていない場合には、今の計測位置Pkは、未だ据え付け目標位置Paから離れていると判断する(図5A)。そして、ステップS40〜S47のサブルーチンへ移行して、計測位置Pkを、据え付け目標位置Paに近づくように移動する(図5B)。この計測位置Pkの移動は、以下のようにしてなされる。なお、このサブルーチンS40〜S47は、請求項の「着目位置の法線位置座標の変更動作」に相当する。
【0044】
以下、このサブルーチンS40〜S47について説明するが、その前に、計測位置Pkの移動は、何によってなされるかについて(つまり、計測位置Pkの移動の基本的な考え方について)説明する。この計測位置Pkの移動は、前述の着目位置Pmの移動によってなされる。すなわち、計測用光は、着目位置Pmの位置座標(Xm,Ym,Zm)に向けて投じられているので、着目位置Pmを変更すれば、計測用光の実床面2R上で当たった位置であるところの計測位置Pkも移動する。ここで、この着目位置Pmの変更は、そのXY座標を据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に維持しながら、Z座標のみが変更されることでなされる。これにより、XY座標が据え付け目標位置Paと一致する位置を、実床面2R上において効率良く見つけることができる。
【0045】
但し、着目位置Pmの変更の方向は、上下の二方向が存在する。そのため、上記サブルーチンにおける最初の方のステップS40,S43には、計測位置Pkが据え付け目標位置Paに近づくような方向に、着目位置Pmの変更の方向を決めるためのステップS40、S43が設けられている。
【0046】
すなわち、先ず、最初のステップS40では、トータルステーション10の設置位置Psと計測位置Pkとの間の距離PsPkを計算し、また、トータルステーション10の設置位置Psと据え付け目標位置Paとの間の距離PsPaを計算する(距離計算ステップS40)。そして、次のS43の判定ステップでは、距離PsPkと距離PsPaの大小関係を比較し、距離PsPkの方が距離PsPaよりも小さい場合には(PsPk<PsPa)、着目位置PmのZ座標を上方へ変更すれば、計測位置Pkが据え付け目標位置Paに近づくと判定する。よって、S45の第1更新ステップへと移行して、着目位置PmのXY座標(Xm,Ym)を据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に維持したまま、着目位置PmのZ座標(Zm)をΔZだけ増やして更新する。例えば、図5Aの例では、更新前の着目位置Pmの位置座標がPa(Xa,Ya,Za)であるので、更新後の着目位置Pmの位置座標は、図5Bのように(Xa,Ya,Za+ΔZ)になる。なお、ΔZは、予め定められた固定値である。
【0047】
一方、上述とは逆に、S43のステップにおいて、距離PsPkの方が距離PsPaよりも大きい場合には(PsPk>PsPa)、着目位置PmのZ座標を下方へ変更すれば、計測位置Pkが据え付け目標位置Paに近づくと判定する。よって、S47の第2更新ステップへ移行して、着目位置PmのXY座標(Xm,Ym)を据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に維持したまま、着目位置PmのZ座標(Zm)をΔZだけ減らして更新する。例えば、図7Aの例のように実床面2Rが設計床面2Vよりもへこんでいる場合にはPsPk>PsPaとなるので、同図7Aのように更新前の着目位置Pmの位置座標がPa(Xa,Ya,Za)だとすると、更新後の着目位置Pmの位置座標は、図7Bのように(Xa,Ya,Za−ΔZ)になる。
【0048】
そうしたら、トータルステーション10は、前述のS25の計測位置座標算出ステップに戻り、この更新された着目位置Pmの位置座標(Xa,Ya,Zm)に基づいて再度計測用光を投光して更新後の計測位置Pkの位置座標(Xk,Yk,Zk)を算出し、以上をもって、計測位置Pkの移動が達成される(図5B、図6B)。
【0049】
以降、前述と同様に、一致判定ステップS30へ移行する。そして、この一致判定ステップS30の条件が満たされるまで、上述のS40、S43、S45(又はS47)のサブルーチン、及びS25の計測位置座標算出ステップを順次繰り返す。そして、条件を満たした場合には、S50の据え付け対象位置指示ステップへ移行して、図8に示すように、最終的に求まった計測位置Pk(Xa,Ya,Zc)を据え付け対象位置Pcとして、同位置Pcに向けて指示光を投光し、これにより、実床面2R上の据え付け対象位置Pcには指示光のスポットが形成されて指し示され、これにて墨出し処理は終了する。ちなみに、S25の計測位置座標算出ステップは、請求項の「計測動作」に相当する。
【0050】
ところで、上述の「据え付け対象位置指示ステップS50においては、上述の据え付け対象位置Pcの指示以外に、更に、図8の高さ方向(上下方向、鉛直方向)に関する実床面2Rの施工誤差(請求項の「寸法誤差」に相当)を計算して、その計算結果をトータルステーション10や携帯端末50のモニター等に表示しても良い。この施工誤差の計算は、最終的に求まった実床面2R上の据え付け対象位置PcのZ座標(Zc)から、据え付け目標位置PaのZ座標(Za)を減算してなされる。
【0051】
また、施工状況によっては、図9のように、トータルステーション10と、実床面2R上の据え付け対象位置Pcとの間に障害物80が位置し、当該障害物80が計測用光を遮ってしまって、正常に墨出し処理を行えない場合もあり得るが、その場合には、その旨の警報をトータルステーション10が出すようにしても良い。
【0052】
詳説すると、このような障害物80がある場合には、上述の一致判定ステップS30の条件、つまり「計測位置PkのXY座標(Xk,Yk)が、据え付け目標位置PaのXY座標(Xa,Ya)に一致する」という条件を絶対に満たさなくなる。よって、トータルステーション10の墨出し処理の開始から所定時間経過しても、墨出し処理を完了しないような場合には、上述の警報を出すようにしても良いし、あるいは、前述の各ステップS30〜S47の実行の度にカウント値を一つずつ増やすカウンター機能を、トータルステーション10に設けておき、カウント値が所定の閾値を超えたら、警報を出すようにしても良い。ちなみに、この警報を聞いた現場作業者は、トータルステーション10の設置位置Psを別の位置に変更して障害物80の影響を無くした後に、上述の墨出し作業を再度行うことになる。
【0053】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0054】
上述の実施形態では、トータルステーション10の主用途が墨出しであったが、何等これに限るものではなく、場合によっては、その主用途を、図8の実床面2Rの高さの施工誤差の取得としても良い。その場合には、最後のS50のステップでは、当該施工誤差をモニター等に表示すべく、施工誤差を計算する。この計算は、実床面2R上の据え付け対象位置PcのZ座標(Zc)と、据え付け目標位置PaのZ座標(Za)との差(=Zc−Za)を求めることでなされる。但し、この場合には、上述の墨出し用途で必須であった指示光の投光については行わなくても良く、つまり据え付け対象位置Pcの墨出しは行わなくても良い。
【0055】
上述の実施形態では、実床面2Rに墨出しを行う場合を例示したが、何等これに限るものではない。例えば、図10A及び図10Bに示すように、構造体の3Dモデルの鉛直な設計壁面4Vに基づき施工現場に形成された実際の壁面4R(以下、実壁面4Rと言う)に対して墨出しを行っても良い。そして、その場合には、上述の実施形態の説明において、「床面」を「壁面」に置き換え、XY座標となっていた平面位置座標を、設計壁面4Vを規定するYZ座標に置き換え、更に、Z座標となっていた法線位置座標を、設計壁面4Vの法線方向となるX座標に置き換えて考えれば良い。
【0056】
すなわち、その場合の墨出し方法について簡単に説明すると、先ず、図10Aに示すように、着目位置Pmの平面位置座標たるYZ座標(Ym,Zm)を、据え付け目標位置Paの平面位置座標たるYZ座標(Ya,Za)に維持しつつ、当該着目位置Pmの法線位置座標たるX座標(Xm)をΔXずつ変更しながら計測用光を投光することによって、計測位置PkのYZ座標(Yk,Zk)が据え付け目標位置PaのYZ座標(Ya,Za)に一致するような計測位置Pkの位置座標(Xk,Yk,Zk)、つまり(Xk,Ya,Za)を求める。そして、トータルステーション10は、図10Bに示すように、この計測位置Pkの位置座標(Xk,Ya,Za)に向けて指示光を投光し、これにより、実壁面4R上における据え付け対象位置Pcが、指示光のスポットで指し示されることになる。
【0057】
上述の実施形態では、位置座標が既知の二つの基準位置をトータルステーション10で予め計測し、これら基準位置との相対位置関係に基づいて周囲の任意位置の三次元座標を計測可能としていたが、何等これに限るものではない。例えば、トータルステーション10がGPS機能を有し、このGPS機能に基づいて自身10の位置座標を取得し、この自身10の位置座標と、計測用光により計測される計測位置Pkまでの距離と、計測用光の投光方向の水平角度や鉛直角度とに基づいて、計測位置Pkの三次元座標を算出しても良い。
【0058】
上述の実施形態では、携帯端末50に格納された3Dモデル上で据え付け目標位置Paを指定することにより、トータルステーション10に据え付け目標位置Paを入力していたが、据え付け目標位置Paの入力は、何等これに限るものではない。例えば、トータルステーション10が一体に備える適宜な入力画面から、据え付け目標位置Paの三次元座標(Xa,Ya,Za)を直接入力しても良いし、それ以外の方法で入力しても良い。
【符号の説明】
【0059】
2R 実床面(実際の面)、2Rp 平坦面部分、2V 設計床面(設計面)、
4R 実壁面(実際の面)、4V 設計壁面(設計面)、
10 トータルステーション(測量計)、
50 携帯端末、80 障害物、
Pa 据え付け目標位置(目標位置)、
Pc 据え付け対象位置(目標位置と平面位置に関して対応する位置)、
Pk 計測位置、Pm 着目位置、Ps 設置位置、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元位置座標を計測可能な測量計を用いることにより、
設計データで規定された設計面に含まれる目標位置と平面位置に関して対応する位置を、前記設計データに基づいて形成される実際の面上において求める測量方法であって、
前記測量計は、着目位置に向けて計測用光を投光し、前記実際の面上において前記計測用光が当たる位置からの反射光を受光することで、前記当たる位置を計測位置としてその位置座標を出力するともに、出力された前記計測位置の位置座標を、前記設計面内の平面位置を規定する平面位置座標と、前記設計面の法線方向の位置を規定する法線位置座標とで示す機能を有し、
前記測量計は、前記着目位置の平面位置座標を前記目標位置の平面位置座標に維持しつつ当該着目位置の法線位置座標を変更しながら前記計測用光を投光することによって、前記計測位置の平面位置座標が前記目標位置の平面位置座標に一致するような前記計測位置を求め、求められた前記計測位置の平面位置座標及び法線位置座標を、前記対応する位置として取得することを特徴とする測量方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測量方法であって、
取得された前記対応する位置の平面位置座標及び法線位置座標に基づいて、前記測量計は、前記実際の面に向けて、指示光としての可視光を投光することを特徴とする測量方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の測量方法であって、
取得された前記対応する位置の法線位置座標と、前記目標位置の法線位置座標とに基づいて、前記設計面と前記実際の面との間の法線方向の寸法誤差を求めることを特徴とする測量方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の測量方法であって、
前記着目位置の法線位置座標の変更は、前記目標位置を始点として行われることを特徴とする測量方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の測量方法であって、
前記計測位置の平面位置座標が、前記目標位置の平面位置座標に一致しない場合には、前記測量計と前記対応する位置との間に、前記計測用光を遮る障害物が存在すると判断することを特徴とする測量方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の測量方法であって、
前記対応する位置を取得することにおいては、前記計測位置の平面位置座標が前記目標位置の平面位置座標に一致するまで、前記計測位置の平面位置座標及び法線位置座標の計測動作と、前記着目位置の法線位置座標の変更動作と、を繰り返し行い、
前記変更動作の際には、直前に計測された前記計測位置と前記測量計との間の距離を算出し、算出された前記距離に基づいて、前記着目位置の法線位置座標を変更することを特徴とする測量方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の測量方法であって、
前記計測用光は、可視光であることを特徴とする測量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−32983(P2013−32983A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169450(P2011−169450)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)