説明

湿し水の供給方法

【課題】湿し水を再使用するオフセット印刷において、長期連続印刷または中断後再開印刷時に湿し水が劣化せず、廃棄することなく湿し水を良好な状態で再使用し続けることができる湿し水供給方法を提供すること。
【解決手段】オフセット印刷に用いられる湿し水を再使用する湿し水供給方法であって、印刷ユニットから湿し水を回収する工程と、湿し水を回収する工程で回収した湿し水をろ過し殺菌する工程と、ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水のみを貯水する工程と、ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水、湿し水濃縮液、及び水とを混合し湿し水を調製する湿し水供給工程とから成ることを特徴とする湿し水供給方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷に用いられる湿し水の供給方法に関し、さらに詳細には湿し水を再使用する場合に湿し水を良好な状態で供給し続けることが可能となる湿し水の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湿し水を良好な状態で使用するための方法としては、水舟等にある供給部の湿し水を一部抜き取り、異物を除去処理した後で元の水舟等にある供給部に戻すことによる湿し水を循環する方法が採られている。特許文献1では、水舟から使用中の湿し水を抜き取り、先に電位吸着フィルタ装置により湿し水に含まれるインキ、紙粉や油などの微粒子成分を吸着、除去し、次に活性炭フィルタ装置により脱色および脱臭をおこない水舟に湿し水を戻している。また、特許文献2では、水舟から使用中の湿し水を湿し水調整槽に戻し、湿し水調整槽からさらに湿し水を抜き取り、文献記載の濾過装置により印刷に支障を起こす不純物だけを除去した後、処理した湿し水を湿し水調整槽に戻している。
【0003】
これらの方法においては、水舟等の湿し水槽から湿し水を抜き取り、異物処理した後で元の湿し水槽に戻している。そのため、異物処理した湿し水と供給部で使用中の湿し水が混合され、雑菌を含む異物を完全に除去した湿し水を供給することができず、連続して長期使用した場合や不使用期間が長く長期保存した場合に、雑菌発生、異物滞留により湿し水が劣化してしまうため、廃棄されている。
【0004】
また、新聞輪転印刷に代表される湿し水をノズル、ローター等により水元ローラーに吹き付ける湿し水供給機構を有する印刷機において、印刷紙へ吸収されなかった湿し水は、水元ローラー周囲に設けられているドレンパンを介し、その他の不純物とともに印刷機外に排出されている。この排出した湿し水には、供給した湿し水に加え、不純物として印刷紙から出る紙粉、乳化したインキ、洗浄油、また、空気中から混入する落下細菌(バクテリア)等が多量に混入しており、排出した湿し水を再使用した場合、湿し水の劣化に伴い不純物がノズル内に詰まり吐出不良となったり、印刷物へ付着したり、印刷不良を発生する。このため、吹き付けるタイプの湿し水供給機構を有する印刷では、回収されず排出される湿し水は全量廃棄されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−351193号公報
【特許文献2】特開2005−35240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら従来の方法では、印刷停止または中断時の閉じた系であれば循環する湿し水を処理し除菌することが可能であるが、印刷時は開放された系であり、連続的に循環または回収した湿し水が供給されるため除菌された湿し水のみを供給することはできなかった。そのため、残った使用中の湿し水は印刷停止中に菌が増殖し湿し水を劣化させていた。従って、本発明は、湿し水を再使用するオフセット印刷において、長期連続印刷または中断後再開印刷時に湿し水が劣化せず、廃棄することなく湿し水を良好な状態で再使用し続けることができる湿し水供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成する本発明に係わる湿し水供給方法は、
(1)オフセット印刷に用いられる湿し水を再使用する湿し水供給方法であって、印刷ユニットから湿し水を回収する工程と、湿し水を回収する工程で回収した湿し水をろ過し殺菌する工程と、ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水のみを貯水する工程と、ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水、湿し水濃縮液、及び水とを混合し湿し水を調製する湿し水供給工程とから成ることを特徴とする湿し水供給方法、
(2)殺菌された湿し水のみを貯水する貯水槽は、冷却機能を備えていることを特徴とする上記(1)記載の湿し水供給方法、
(3)印刷ユニットの水元ローラーへ湿し水を供給する装置において、湿し水を供給する手段がスプレー方式であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の湿し水供給方法、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿し水を再利用するオフセット印刷において湿し水を良好な状態で供給し続けることができ、従来は廃棄されていた湿し水も再利用できるので、湿し水の使用量を抑え、廃棄物を減量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に係わる実施形態のフロー図である。
【0010】
図1は、湿し水のリサイクルシステムにおける機器および余剰または回収した湿し水1(以下、回収水と記す場合がある)の流れをフロー図で示している。本発明の主な特徴は、殺菌処理した回収水のみが湿し水供給装置へ再使用として供給されてある点である。従って、湿し水供給装置では水と湿し水濃縮液(エッチ液)および殺菌処理済みの湿し水処理水から構成される湿し水が調製されることになる。調製された湿し水に菌がないため、長期不使用による湿し水の劣化が起こらない。以下、湿し水の流れに沿って説明する。
【0011】
(印刷ユニットから湿し水を回収する工程)
湿し水を消費する印刷ユニット121,122,123で、水元ローラーへ消費されなかった余剰の湿し水や周囲に飛散した湿し水は受け皿、移送管等により回収する。印刷ユニットにおいて、湿し水を水元ローラーへ供給する方法には、水舟を使用する方法とスプレー方式により直接的に吹き付ける方法とがある。本発明において水舟を使用する印刷の場合には、印刷を中止または長期に停止するときには水舟中の湿し水を全量一次処理水槽へ回収すると、水舟に菌や異物が付着したり、水舟中で湿し水が劣化したりすることもなく、残湿し水を廃棄することなく良好に湿し水の提供ができる。本発明においては水舟を使用しないスプレー方式を採用した場合に、水舟のメンテナンスが全くないため特に好ましく使用できる。スプレー方式では、スプレーおよび水元ローラー周囲に印刷に使用されなかった湿し水が落下するため、回収用の受け皿を設ける。
【0012】
(湿し水を回収する工程で回収した湿し水をろ過し殺菌する工程)
回収水1は、一次処理水槽11で油分および粗大異物を分別される。網21によりろ過され、比重が大きい異物は沈殿により分別される。比重が小さい油分は分離油受け容器5へ分別される。図1に示すように、一次処理水槽11の下部には電磁弁41およびポンプ61が設けられた送水管が設置されている。電磁弁41およびポンプ61は一次処理水槽11に設けられた水位レベルセンサー31と関連して作動する。
【0013】
一次処理水槽11で粗大異物等を取り除いた回収水は、送水管を通って二次処理水槽12へ移送される。二次処理水槽には網22および水位レベルセンサー32が設けられ、貯水される。二次処理水槽12の下部には電磁弁42およびポンプ62が設けられた送水管が設置されている。ポンプ62の先にはろ過器71さらに殺菌装置8が送水管で連結され、さらに殺菌装置8に設けられた二次処理水槽に戻るように接続された送水管には弁43が設けられている。電磁弁42、弁43およびポンプ62は二次処理水槽12に設けられた水位レベルセンサー32と関連して作動させる。本発明で使用するろ過装置71としては、二次処理水槽の回収水に含まれ印刷に支障をきたすインキ、紙粉等の不純物を除去できるろ過装置であればよく、湿し水のろ過用に市販されているろ過装置を利用できる。湿し水の送圧を大きく必要としなくてもろ過性能が良好であるろ過装置が好ましい。
【0014】
本発明で使用する殺菌装置8としては、二次処理水槽中の回収水に含まれる雑菌を滅菌できる装置であればよく、湿し水の殺菌用に市販されている殺菌装置を利用できる。一次処理水槽からの回収水流入を止めた状態で弁44を閉め、電磁弁42,弁43を開けポンプ62を作動させ二次処理水槽12の回収水を循環した場合、30分経過後に二次処理水槽中の回収水が除菌できる殺菌性能を有すると、良好に使用することができる。また、回収水循環の速度は印刷ユニットにおける余剰または回収した湿し水1の供給が最大となる速度まで対応していることが好ましい。殺菌装置8で処理された回収水は殺菌された湿し水である。
【0015】
本発明で使用するろ過装置72としては、先にろ過装置71で除去しきれなかった異物または殺菌装置で混入してしまった異物をろ過できる装置であればよい。従って、目の細かいフィルタ効果があるろ過装置が好ましい。
【0016】
(ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水のみを貯水する工程)
殺菌された湿し水は弁43と並列に設けられた弁44によりろ過器72を通って処理水貯水槽13へ送られ貯水される。処理水貯水槽13には冷却ユニット9および水位レベルセンサー33が設置されている。弁44は水位レベルセンサー33と関連して開閉させる。処理水貯水槽では余剰または回収した湿し水から異物を除き殺菌された湿し水を貯水する。処理水貯水槽は、菌増殖を抑える目的で冷却ユニット9により冷却されるため断熱性をもたせることが好ましい。
【0017】
(湿し水を調製する湿し水供給工程)
処理水貯水槽に設けられた送水管には弁45、さらに並列にポンプ63,64,65が複数設置され、それぞれ電磁弁46,47,48を介してそれぞれの湿し水供給装置111,112,113へ配管されている。湿し水供給装置では、水、湿し水濃縮液(エッチ液)、処理水(殺菌された回収水)を混合して湿し水を作製する。湿し水供給装置で調製された湿し水は印刷ユニットへ提供され印刷に使用される。印刷ユニットの数に応じて湿し水供給装置を増減できる。
【0018】
湿し水供給装置では、水、湿し水濃縮液(エッチ液)、処理水を混合して湿し水を作製する。湿し水の管理調整法には、温度管理の他、調整した湿し水のPHを管理する方法と濃縮湿し水(エッチ液)の濃度を管理する方法とがある。本発明ではエッチ液の濃度管理をおこなうことが好ましい。回収循環された湿し水には紙粉に含有するPHを左右する物質が混入し、湿し水の性能を発揮するために最適な湿し水濃度をPHで管理できないことがある。
【0019】
本発明に係わる湿し水中の菌数測定は、培地培養による方法の他、化学発光法、酸素電極法等の菌検出法が利用でき、市販の検査装置が利用できる。一般細菌の生菌数検査および大腸菌群の検出検査が可能であることが好ましい。例えば、細菌検査用簡易培地で観察測定できるものとして、日水製薬会社製:商品名,フ−ドプレ−トX「ニッスイ」が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
オフセット印刷において、湿し水の供給方法として使用できる。この方法によれば、オフセット印刷において、湿し水を良好な状態で供給することが可能となる。また、水元ローラーに湿し水を吹き付ける方式のオフセット印刷では余剰湿し水を再利用しても良好な状態で湿し水を供給できるため、余剰湿し水を廃棄する必要がなく有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1 印刷ユニットにおける余剰または回収した湿し水(回収水)
11 一次処理水槽
12 二次処理水槽
21,22 網
31〜33 水位レベルセンサー
41,42,45 電磁弁
43,44,46〜48 弁
5 分離油受け容器
61〜65 ポンプ
71,72 ろ過器
8 殺菌装置
9 冷却ユニット
111〜113 湿し水供給装置
121〜123 印刷ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット印刷に用いられる湿し水を再使用する湿し水供給方法であって、
印刷ユニットから湿し水を回収する工程と、
前記湿し水を回収する工程で回収した湿し水をろ過し殺菌する工程と、
前記ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水のみを貯水する工程と、
前記ろ過し殺菌する工程により殺菌された湿し水、湿し水濃縮液、及び水とを混合し湿し水を調製する湿し水供給工程とから成ることを特徴とする湿し水供給方法。
【請求項2】
殺菌された湿し水のみを貯水する貯水槽は、冷却機能を備えていることを特徴とする請求項1記載の湿し水供給方法。
【請求項3】
印刷ユニットの水元ローラーへ湿し水を供給する装置において、湿し水を供給する手段がスプレー方式であることを特徴とする請求項1または2記載の湿し水供給方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−194859(P2008−194859A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29870(P2007−29870)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【出願人】(507045627)有限会社エイチ・アンド・エム (1)
【Fターム(参考)】