説明

湿式工法用防水シート

【課題】立ち上げ部などの出入隅部にも沿うことができ、セメントペーストとの接着性を向上させるための不織布を簡単にシートに接着でき、更にセメントペーストとゴムシートとの間の水みちの形成も防止することができる湿式工法用防水シートを提供する。
【解決手段】下地にセメントペーストを介して接着する湿式工法用防水シートにおいて、ゴムシートからなるシート本体11の少なくとも片面の表面に目付量が10〜70g/mの不織布12を貼り合わせた湿式工法用防水シート1を用いる。また、シート本体と不織布との間に融着層を介在して接着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物にセメントペーストを用いて防水シートを接着する湿式防水工法に用いる防水シート関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートからなる建築物の屋上などに施される防水工法として、コンクリート下地の上にセメントペーストを塗って防水シートを敷設するといった湿式防水工法が知られている。
【0003】
このような防水工法の場合、セメントペーストと防水シートとの間の接着性が悪く、剥離を生ずるといった問題があり、例えば立ち上がりの面に使用することは困難であった。そして、両者を接着するために様々な形態が採られている。例えば従来例の一つとして特許文献1に示すように樹脂シートの表面に石綿の繊維または粉体を接着することによってセメントペーストとの接着を可能にしたものが開示されている。
【0004】
また、特許文献2にはポリエチレン−酢酸ビニル共重合体またはエチレン−プロピレン共重合体のような弾性を有するエチレン共重合体の膜体の表面に短繊維または粉体を独立してその一部を膜体中に埋め込ませたシートを用い、防水シートとセメント層が繊維または粉体を通じて強固に密着するようにしたものがある。
【0005】
また、特許文献3には熱可塑性合成樹脂シートの表面にコンクリートの結合材料であるセメントの粉体を圧接・付着させることによってセメントペーストとの接着力を高めた防水シートが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特公昭48−31967号公報
【特許文献2】特公昭46−35337号公報
【特許文献3】特公平6−54032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂からなるシートの場合、シート自身が硬いために屈曲性に乏しく、立ち上げ部などの出入隅部に敷設すると下地の沿うことができず浮きが生じて、後に水みちとなってしまう問題にもつながる。
【0008】
また、短繊維や粉体をシート本体に埋め込ませて固定し、それによってシートとセメントペーストとの接着力を向上させる方法では、シート自身が熱可塑性の素材でないとシートに対して短繊維や粉体を埋め込ませる形態を採ることができないことと、埋め込ませる工程に手間がかかるという問題があった。
【0009】
そこで本発明では、シートが柔らかく立ち上げ部などの出入隅部にも沿うことができ、セメントペーストとの接着性を向上させるための不織布を簡単にシートに接着でき、更にセメントペーストとゴムシートとの間の水みちの形成も防止することができる湿式工法用防水シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような課題を解決するために本発明の請求項1では、下地にセメントペーストを介して接着する湿式工法用防水シートにおいて、ゴムシートからなるシート本体の少なくとも片面の表面に目付量が10〜70g/mの不織布を貼り合わせてなることを特徴とする。
【0011】
請求項2では、ゴムシートからなるシート本体と不織布との間に融着層を介在して接着している請求項1記載の湿式工法用防水シートとしている。また、請求項3では、融着層が点在的に存在している湿式工法用防水シートであるとしている。
【0012】
請求項4では、融着層として80〜400g/mで塗布した液状融着材を用いた湿式工法用防水シートとしている。
【0013】
請求項5では、融着層として10〜80μm厚みのフィルム状融着材を用いた湿式工法用防水シートとしている。
【発明の効果】
【0014】
シート本体としてゴムシートを用いることによって樹脂シートと比べると柔らかく出入隅部においてもシートが沿いやすいので施工性も良好であり、また不織布を設けていることからセメントペーストが不織布内に含浸して物理的にも強固に接合することができる。
【0015】
請求項2では、シート本体と不織布とを接着するために融着層を用いており、シート本体と不織布をより簡単で強固に接着することができるようになる。また、請求項3では融着層を点在的に配置しており、融着層がシート本体全面を覆うことなく、セメントペーストがシート本体にも密着することができるので湿式工法用防水シート不織布中に水みちができにくいといった利点もある。
【0016】
請求項4では。融着層として80〜400g/mで塗布した液状融着材を用いており、シート本体との融着強度が高くしかもポリマーセメントとの密着性に優れた湿式工法用防水シートとすることができる。
【0017】
請求項5では、融着層として10〜80μm厚みのフィルム状融着材を用いることによってシート本体との融着強度は十分に高くいがシートの柔軟性を損なうことがなく下地に沿いやすい湿式工法用防水シートとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明の湿式工法用防水シートを敷設したところの断面図であり、コンクリートからなる下地2にプライマー3、セメントペースト4を介在してその上から湿式工法用防水シート1を敷設する。更に湿式工法用防水シート1の上にコンクリートからなる押え層5を形成している。ここでは防水シート1の上に直接コンクリートからなる押え層5を配置しているが、モルタルを介在したりセメントペーストとモルタルを介在して押え層5を配置する形態でもよく、または防水シートの上にモルタル層のみを形成してコンクリートの層を形成しないといったものでも構わない。
【0019】
本発明の湿式工法用防水シート1はゴムシートからなるシート本体11と該シート本体11の少なくとも片面に目付量が10〜70g/mの不織布12を貼り合わせて一体化しており、セメントペースト4に不織布12の面を重ねることによってセメントペースト4を不織布12に含浸させて物理的な効果等により湿式工法用防水シート1とセメントペースト4を固定している。図1の場合には湿式工法用防水シート1の上からコンクリートの押え層5を配置する形態でありシート本体11の下面だけでなく両面に不織布12を配置することによって上面の不織布12にもコンクリートが含浸して防水シート1を固定することができる。
【0020】
不織布12の目付量が10g/m未満であると不織布12の強度が不足して不織布自身が容易に破壊されるので剥がれが生じやすくなり、70g/mを超えるとセメントペースト4の不織布12への含浸が不十分になることから固定力が小さくなってセメントペーストと不織布との間で剥離しやすくなるので好ましくない。
【0021】
不織布12のシート本体11への貼り合わせは、ゴムからなるシート本体11を加硫した際の熱を利用して圧着ロールで不織布12を熱により圧着する方法を採ることができる。また、シート本体11と不織布12との間の接着強度を高めるためにシート本体11に融着層13を介在させておき、そこに不織布12を重ね合わせて加熱圧着してよい。そうすることによって不織布12をシート本体11に対して容易に融着させることができるとともに接着強度も十分に大きなものを得ることができる。
【0022】
シート本体11を構成するゴムシートとしてはEPDM、ブチルゴムの単体およびこれらのブレンドゴムからなるシートが耐候性に優れているということから好ましい。厚みは0.5〜3.0mm程度が好ましく、簡単に破断しないよう強度を持たせるためにゴム中にポリエステル繊維、綿、ポリアミド繊維などからなる基布を埋設したものを用いてもよい。シートが露出しないような用途の場合は少し耐候性に劣るところがあるもののスチレンブタジエンゴムやニトリルゴム、天然ゴムを用いることも可能である。
【0023】
シート本体11の厚みが0.5mm未満であると強度不足となりシートが破断してしまうといった問題があり、3.0mmを超える厚みであると柔軟性が失われて出入隅部などに沿いにくくなるので好ましくない。
【0024】
不織布12としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、レーヨンなどの素材を挙げることができ、特にポリエステルからなるものがセメントペースト4との接着性が良好であることから好ましい。
【0025】
プライマー3は防水シート1の施工にあたり、下地2のコンクリート表面には図示していないが、通常、細かな孔が存在していることから、直接、セメントペースト4に塗ると孔内の空気によって気泡が生じ、ピンホールになり易いため下地2にセメントペースト4を塗る前に予めプライマー3を塗布している。素材としてはエチレン酢酸ビニル(EVA)、変性EVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリルスチレン、SBR、CR等のエマルションを用いることができる。
【0026】
セメントペースト4は、水和硬化性粉体で一般的なポルトランドセメントやアルミナセメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、マグネシアセメント、急硬性セメントなどに水を混入しペースト体であり、砂などの骨材が混入された一般的にセメントモルタルと呼ばれるものも使用可能である。更に、前記セメント分に樹脂エマルジョンを配合してセメントペースト自身に防水効果を付与したようなものでも構わない。
【0027】
樹脂エマルションとしては、エチレン酢酸ビニル(EVA)、変性EVA、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリルスチレン、SBR、CRなどを挙げることができ、これらの中では接着性とコストの面からエチレン酢酸ビニル樹脂を用いることが実用的で好ましい。
【0028】
セメントペースト4を塗布するときの厚みとしては1〜5mm程度、塗布量としては2〜10kg/m程度が好ましい。厚みが1mm未満であればその上に敷設する湿式工法用防水シート1の不織布による物理的なアンカー効果が少なくなり、一方5mmを超える厚みでは、セメントペースト4の硬化に長時間を要するので好ましくない。
【0029】
融着層13は、液状で塗布することができて加熱して融着できる素材からなるホットメルト融着材やフィルム状でやはり加熱することによって融着できるフィルム状融着材等からなる。液状のホットメルト融着材を用いる場合はその塗布量は80〜400g/mとすることが好ましい。塗布量が80g/m未満であるとシート本体との融着強度が十分に得られず、400g/mを超えると塗布時に融着材が不織布に含浸してしまいセメントペースト4の含浸量を減少させるので好ましくない。フィルム状融着材を用いる場合はフィルムの厚みを10〜80μmの範囲とすることが好ましい。10μm未満であるとフィルムとシート本体11との融着強度が十分に得られず、80μmを超える厚みであると、シートの柔軟性が損なわれて下地への沿いやすさが失われてしまうので好ましくない。
【0030】
融着層13の素材となるポリマーは熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーであり、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、塩素化ポリエチレンや塩素化ポリプロピレンなどの塩素化ポリオレフィン系樹脂、カルボキシル変性ポリエチレンやカルボキシル変性ポリプロピレンなどのカルボキシル変性ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を挙げることができる。
【0031】
請求項4では、融着層として10〜80μm厚みのフィルム状融着材を用いることによってシートとの融着強度は十分に高くいがシートの柔軟性を損なうことがなく下地に沿いやすい湿式工法用防水シートとすることができる。
【0032】
請求項5では。融着層として80〜400g/mで塗布した液状融着材を用いており、シートとの融着強度が高くしかもポリマーセメントとの密着性に優れた湿式工法用防水シートとすることができる。
【0033】
液状で塗布できるホットメルト融着材の場合、シート本体11に直接、また不織布12に塗布することで積層することができる。フィルム状融着材の場合は不織布12側に予め貼り合せたものを更にシート本体11に貼り合わせる方法や、不織布12、フィルム状の融着層13をゴムシートの加硫時の熱を利用して圧着したりラミネータ等を用いて貼りあわせたりするといった方法を採ることができる。
【0034】
融着層13はシート本体11の全面を被覆するものは接着強度の面ではよいが、全面を被覆してしまうことなく点在している状態で用いることが好ましい。融着層13を点在的に配置すると不織布12内に含浸したセメントペースト4は融着層13の存在しない箇所でシート本体11に到達し密着することができるので、湿式工法用防水シート1とセメントペースト4との間に隙間を生じて水みちを形成してしまうといったを防止することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴムからなる1.5mm厚みのシート本体に、ポリエチレン製で30mm厚みのフィルム状融着材からなる融着層と、ポリエステル製で目付量が20g/cmの不織布をラミネータにて貼り合せたものを作成し剥離試験用のサンプルとした。コンクリートからなる下地上にEVA製のプライマーを塗布してセメントペーストを5kg/mで厚みが3mmになるように塗布し、前記の剥離試験用サンプルを下地に接着した。接着の完了後に剥離試験を行った結果を表1に示す。
【0036】
(実施例2)
用いた不織布の目付量を60g/cmとした以外は実施例1と全く同様の条件で剥離試験用サンプルを作成し、下地に接着した。接着の完了後に剥離試験を行った結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
用いた不織布の目付量を5g/cmとした以外は実施例1と全く同様の条件で剥離試験用サンプルを作成し、下地に接着した。接着の完了後に剥離試験を行った結果を表1に示す。
【0038】
(比較例2)
用いた不織布の目付量を100g/cmとした以外は実施例1と全く同様の条件で剥離試験用サンプルを作成し、下地に接着した。接着の完了後に剥離試験を行った結果を表1に示す。
【0039】
(比較例3)
エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴムからなる1.5mm厚みのシート本体の表面にセメント粉体を圧着したものを防水シートとして用いた以外は実施例1と全く同様の条件で剥離試験用サンプルを作成し、下地に接着した。接着の完了後に剥離試験を行った結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果からわかるように、実施例1〜2および比較例1では不織布と融着層との海面剥離なっており、融着層を設けることによってシート本体と不織布とは十分に接着できていることがわかる。比較例1は不織布の目付量が少ないことから不織布の材料破壊になっているにもかかわらず剥離強度が小さな値となっている。
【0042】
比較例2は不織布の目付量が大きすぎてセメントペーストが不織布に十分に含浸することができていない結果となっている。比較例3は防水シートと下地との間の接着が十分にできていない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
コンクリートからなる構造物の防水工法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の湿式工法用防水シートを用いる湿式工法の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の湿式工法用防水シートの断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 湿式工法用防水シート
2 下地
3 プライマー
4 セメントペースト
5 押え層
11 シート本体
12 不織布
13 融着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地にセメントペーストを介して接着する湿式工法用防水シートにおいて、ゴムシートからなるシート本体の少なくとも片面の表面に目付量が10〜70g/mの不織布を貼り合わせてなることを特徴とする湿式工法用防水シート。
【請求項2】
ゴムシートからなるシート本体と不織布との間に融着層を介在して接着している請求項1記載の湿式工法用防水シート。
【請求項3】
融着層が点在的に存在している請求項2記載の湿式工法用防水シート。
【請求項4】
融着層として80〜400g/mで塗布した液状融着材を用いた請求項1〜3記載の湿式工法用防水シート。
【請求項5】
融着層として10〜80μm厚みのフィルム状融着材を用いた請求項1〜3記載の湿式工法用防水シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−29067(P2006−29067A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170127(P2005−170127)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)