説明

湿式用防水シート

【課題】水硬性組成物(モルタルなど)との密着性が高く、耐水性および防湿性に優れた防水シートを提供する。
【解決手段】建造物又は構造物の下地4と水硬性組成物で形成された仕上げ層3との間に介在させる防水シート2は、親水性繊維を含む不織布で形成された親水層と、この親水層に積層され、かつポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成された防水層と、この防水層に積層され、かつ疎水性繊維を含む不織布で形成された疎水層とを備えている。前記親水性繊維は、ビニルアルコール系繊維及び/又は親水化ポリプロピレン系繊維であってもよい。防水シートの透湿抵抗は0.5〜350m・h・mmHg/g程度であり、耐水圧は5〜200kPa程度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物又は構造物(木造建造物など)の下地と仕上げ材(モルタルなどの水硬性組成物で形成された仕上げ層)との間に介在させる防水シート[湿式用防水シート又は湿式仕上げ材下地シート(モルタル下地シートなど)]に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物又は構造物の外壁にはモルタル塗りなどの湿式仕上げが行われる。図1は外壁ラスモルタル塗りの構成例を示す概略図である。図1の例では、縦方向に向けて横方向に間隔をおいて立設する複数の間柱5に対して、複数の下地板4が横方向に向けて縦方向に間隔を置いて固定され、前記下地板に対して、アスファルトフェルト1と、このアスファルトフェルトを被覆するメタルラス2とがステープル(図示せず)で固定されている。さらに、メタルラス2で被覆されたアスファルトフェルト1にモルタルを複数回(例えば、標準で3回)塗布することにより、厚み20mm程度のモルタル材3が形成されている。
【0003】
外壁のコーナー部にモルタルを塗布する場合、強度の点から、アスファルトフェルトを被覆するメタルラスはコーナーラスと組み合わせて利用される。図2は出隅の補強例を示し、図3は入隅の補強例を示す。図2に示す出隅の補強例では、柱15の周方向に沿って、下地板14とアスファルトフェルト11とメタルラス12とで構成された積層体が折り曲げられ、柱15と内接しており、前記メタルラスのコーナー部が、さらに、平ラス16aとメタルラス16bとを組み合わせたコーナーラス16で補強されている。図3に示す入隅の補強例では、下地24とアスファルトフェルト21とメタルラス22とで構成され、直角に折り曲げられた積層体のコーナー部が柱25及び受け木27と外接しており、前記メタルラスのコーナー部が、さらに、平ラス単独で形成されたコーナーラス26で補強されている。
【0004】
モルタル仕上げなどの湿式仕上げ用の防水シートとしては、従来、アスファルトフェルト8k(約200g/m)、17k(約400g/m)、430(約480g/m)が使用されていたが、瑕疵担保履行法の施行に伴って、防水性の点からアスファルトフェルト430若しくは同等以上の防水性能が要求されている。
【0005】
また、経年劣化により、モルタルと防水シートとの間に空隙ができることがあり、できるだけモルタルと防水シートは密着していた方が、水が浸入しても空隙がなく、漏水事故の発生する可能性が低くなるので、モルタルとの密着性が優れたものも求められている。
【0006】
アスファルトフェルトに代わる防水シートとして、例えば、特開2007−120300号公報(特許文献1)には、建築物のモルタル壁において、下地とモルタル材との間に配設されるモルタル下地シートが開示され、このモルタル下地シートが、透湿防水層と、この透湿防水層をアルカリ溶液から保護するため、ポリプロピレン不織布で形成されたアルカリ防御層とを備えたモルタル下地シートが開示されている。この文献には、透湿防水層がポリエチレンフィルムで形成されていてもよいことが記載されている。また、この文献には、強度の点から透湿防水層の裏面に補強層を積層できることが記載され、前記補強層に用いられる素材はポリエステル系不織布が好ましいことも記載されている。
【0007】
特開2005−307574号公報(特許文献2)には、ポリオレフィン系樹脂層と補強層からなる多層構造のモルタル外壁下地シートにおいて、該モルタル外壁下地シートの目付量が300g/m以下であり、且つ貼り付けた状態における下地中の隙間部の長手方向に相当する方向の5%伸び荷重が20N/cm以上であるモルタル外壁下地シートが開示されている。この文献には、ポリオレフィン系樹脂層は、高密度ポリエチレン層と直鎖状低密度ポリエチレン層からなる積層フィルムなどを使用するのが好ましいことが記載されている。また、この文献の実施例では、補強層としてポリエステル不織布などが使用されている。
【0008】
しかし、これらの防水シートは、モルタル塗工面が疎水性の高い不織布などで形成されるため、モルタルとの密着性が低下する。また、前記不織布はモルタル中の水分を効率よく吸収できないため、乾燥時間を長くする必要があり、モルタル施工時の作業性が低下する。さらに、これらの防水シートは、防水性が未だ十分でなく、固定用ステープルの穴からの水の浸入を防止するのが困難であり、下地の腐食を有効に防止できない。
【0009】
特開平9−72062号公報(特許文献3)には、住宅等の建築物の外壁にモルタルを施工する際に、下地と塗布されるモルタルとの間に配設されるモルタル下地シートであって、上記下地側より、防水、透湿性を有する防水・透湿シート、吸水、保水性を有する吸・保水シート、及び上記モルタル下地シートに所定の強度を付与する強化シートが積層されているモルタル下地シートが開示されている。この文献には、吸・保水シートの表面に、水に溶解しにくく、かつ強アルカリ溶液に溶解するコーティング層を形成させてもよいことが記載され、コーティング層としては、ポリ酢酸ビニルとアクリル酸との共重合体にポリビニルアルコールを添加したものが使用されることも記載されている。しかし、この防水シートでも、耐水性が十分でなく、固定用ステープル穴からの水の浸入を防止するのが困難であり、下地の腐食を有効に防止できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−120300号公報(特許請求の範囲、段落[0047])
【特許文献2】特開2005−307574号公報(特許請求の範囲、段落[0018][0023])
【特許文献3】特開平9−72062号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、水硬性組成物(モルタルなど)との密着性が高く、耐水性および防湿性に優れた防水シートを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、水硬性組成物(モルタルなど)の塗膜形成を促進できる防水シートを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、固定用ステープル穴からの水の浸入を防止し、下地の腐食を有効に防止できる防水シートを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、透明性、軽量性及び加工性に優れ、建造物又は構造物の下地に容易に取り付けできる防水シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、建造物又は構造物の下地と仕上げ材との間に介在させる防水シートにおいて、防水層の一方の面に、親水性繊維を含む不織布で形成された親水層を形成すると、水硬性組成物との密着性を向上できると共に、水硬性組成物の水分を効率よく吸収し、水硬性組成物の硬化を促進できること、防水層の他方の面に、疎水性繊維を含む不織布で形成された疎水層を形成すると、固定用ステープル穴からの水の浸入を防止し、下地の腐食を有効に防止できることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の防水シートは、建造物又は構造物の下地と水硬性組成物(モルタルなど)で形成された仕上げ層との間に介在させて利用される。この防水シートは、親水性繊維を含む不織布で形成された親水層と、この親水層に積層され、かつポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成された防水層と、この防水層に積層され、かつ疎水性繊維を含む不織布で形成された疎水層とを備えている。
【0017】
前記親水層の親水性繊維は、水硬性組成物との密着性の点から、ビニルアルコール系繊維及び親水化ポリプロピレン系繊維から選択された少なくとも一種であってもよい。親水層の不織布は、親水性繊維としてのビニルアルコール系繊維と、非親水性繊維(アクリロニトリル繊維などのアクリル繊維など)とを含んでいてもよく、非親水性繊維の割合が、親水性繊維100質量部に対して、10〜50質量部程度であってもよい。前記親水層の目付は、15〜50g/m程度であってもよい。
【0018】
前記防水層は、第1のポリエチレン系樹脂を含む基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に、第2のポリエチレン系樹脂を含む被覆層とを備えた積層フィルムで形成されていてもよい。前記被覆層は、酸化防止剤及び撥水剤から選択された少なくとも一種の添加剤を含んでいてもよい。前記防水層の厚みは、40〜100μm程度であってもよい。
【0019】
前記疎水層の疎水性繊維は、ポリプロピレン系繊維であってもよい。前記疎水層の目付は、30〜70g/m程度であってもよい。
【0020】
防水シートの透湿抵抗は、0.5〜350m・h・mmHg/g程度であってもよい。また、防水シートの耐水圧は、5〜200kPa程度であってもよい。
【0021】
なお、本明細書中、数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、防水層をポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成するため、防水性及び防湿性に優れている。例えば、防水層をポリエチレン系樹脂フィルム単独で形成すると、透明性、軽量性、折曲加工性にも優れる。また、本発明では、防水層の一方の面に積層され、かつ親水性繊維を含む不織布で形成された親水層を備えているため、水硬性組成物(モルタルなど)との密着性を向上できると共に、水硬性組成物の硬化を促進できる。さらに、本発明では、防水層の他方の面に積層され、かつ疎水性繊維を含む不織布で形成された疎水層を備えているため、固定用ステープル穴からの水の浸入を防止し、下地内部結露の発生を防止し、下地の腐食を有効に防止できる。前記防水層及び親水層は、耐アルカリ性にも優れているため、例えば、セメントを含む水硬性組成物に適用しても、セメント由来の強アルカリ水溶液などから防水シートを有効に保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は外壁ラスモルタル塗りの構成例を示す概略図である。
【図2】図2は出隅の補強例を示す概略断面図である。
【図3】図3は入隅の補強例を示す概略断面図である。
【図4】図4は結露試験の試験体を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の防水シートは、親水層と、この親水層を直接又は間接的に被覆する防水層と、この防水層を直接又は間接的に被覆する疎水層とを備えている。このような防水シートは、通常、下地側に疎水層を向けて(水硬性組成物の塗工側を親水層として)使用される。
【0025】
[親水層]
親水層は、水硬性組成物との密着性を向上できると共に、水硬性組成物の硬化を促進できる。具体的には、親水層は、水硬性組成物中の水分を効率よく吸水し、乾燥時間を短縮化でき、水硬性組成物の硬化物(塗膜)の形成を促進できる。また、親水層は、耐アルカリ性を有しており、水硬性組成物がセメントを含んでいたとしても、セメント由来の強アルカリ水溶液から防水シートを保護できる。
【0026】
親水層は、通常、親水性繊維を含む不織布(親水性不織布)で形成されている。親水性繊維としては、例えば、ビニルアルコール系繊維、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体繊維、セルロース系繊維(レーヨン繊維、アセテート繊維など)などが挙げられる。これらの親水性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの親水性繊維のうち、耐アルカリ性の点から、ビニルアルコール系繊維が好ましい。
【0027】
前記ビニルアルコール系繊維は、少なくともビニルアルコール単位を有している。ビニルアルコール単位のケン化度は、例えば、90〜99.99モル%、好ましくは92〜99.98モル%、さらに好ましくは95〜99.97モル%程度である。ビニルアルコール系繊維は、さらに共重合単位を含んでいてもよい。共重合単位を形成する共重合性単量体としては、例えば、オレフィン系単量体[例えば、エチレン、プロピレンなどのα−C2−10オレフィン(好ましくはエチレンなどのα−C2−4オレフィン)など]、ビニル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体など]などが例示できる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共重合単位の含有量(又は共重合性単量体の共重合割合)は、0〜30モル%程度の範囲から選択でき、例えば、0.01〜20モル%、好ましくは0.1〜10モル%程度である。
【0028】
代表的なビニルアルコール系繊維には、ポリビニルアルコール繊維、エチレン−ビニルアルコール共重合繊維、(メタ)アクリル酸−ビニルアルコール共重合体繊維、(メタ)アクリル酸エステル−ビニルアルコール共重合体繊維などが含まれる。
【0029】
また、親水性繊維には、親水加工された繊維(親水化繊維)、例えば、コロナ放電処理などにより極性基が導入された繊維、表面が親水性成分(界面活性剤、親水性樹脂など)で処理又はコートされた繊維(例えば、芯部が疎水性繊維で構成され、かつ鞘部が親水性繊維で構成された芯鞘型複合繊維など)なども含まれる。
【0030】
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウムなどのC6−24アルキル硫酸塩など)、カチオン界面活性剤[例えば、アルキルアミン系界面活性剤(例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどのテトラアルキルアンモニウム塩;ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのトリアルキルベンジルアンモニウム塩など)、アルキルピリジニウム系界面活性剤など]、ノニオン界面活性剤[例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンC6−24アルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンC6−18アルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル(例えば、ポリオキシエチレングリセリンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレングリセリンC8−24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンC8−24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖C8−24脂肪酸エステルなど)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルなどのポリグリセリンC8−24脂肪酸エステル)など]、両性界面活性剤(例えば、ベタイン類など)などが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
親水性樹脂としては、例えば、ビニルアルコール系重合体(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体などのポリC2−4アルキレングリコールなど)、(メタ)アクリル酸重合体又はその塩(ポリアクリル酸又はその塩、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体又はその塩など)、ビニルピロリドン系重合体(ポリビニルピロリドンなど)、セルロース誘導体(セルロースエーテルなど)などが例示できる。なお、親水性樹脂は、親水性繊維を形成可能な樹脂であってもよい。これらの親水性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
親水性成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。親水性成分の割合は、不織布全体に対して、例えば、0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜8質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%程度である。
【0033】
親水加工に供する繊維としては、親水性繊維であってもよいが、通常、疎水性繊維(非親水性繊維)である。疎水性繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、エチレン−プロピレン共重合繊維など)、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド系繊維(例えば、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維など)、アクリル繊維(アクリロニトリル系繊維など)、ポリウレタン系繊維(例えば、ポリエーテルポリオール型ウレタン系繊維など)などが挙げられる。これらの疎水性繊維のうち、耐アルカリ性に優れる点から、ポリプロピレン系繊維などのポリオレフィン系繊維が好ましい。
【0034】
ポリプロピレン系繊維は、プロピレン単独重合体で形成された繊維(ポリプロピレン繊維)の他、共重合単位としてエチレンなどのプロピレン以外のα−C2−6オレフィン単位を含むプロピレン系共重合体で形成された繊維(例えば、プロピレン−エチレン共重合体繊維など)なども含まれる。共重合単位の割合(共重合性単量体の共重合割合)は、0〜30モル%程度の範囲から選択でき、例えば、0.01〜20モル%、好ましくは0.1〜10モル%程度であってもよい。
【0035】
親水性繊維の割合は、親水層全体(又は不織布全体)に対して、例えば、70〜100質量%、好ましくは80〜99.8質量%、さらに好ましくは90〜99.5質量%程度である。
【0036】
親水層の不織布は、本発明の効果を阻害しない範囲で、非親水性繊維(疎水性繊維)を含んでいてもよい。非親水性繊維としては、前記例示の非親水性繊維、例えば、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル繊維、ポリウレタン系繊維などが例示できる。これらの非親水性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。これらの非親水性繊維のうち、耐候性などの点から、アクリロニトリル繊維などのアクリル繊維が好ましい。
【0037】
アクリル繊維は、少なくともアクリロニトリル単位を有しており、共重合単位を含んでいてもよい。共重合単位を形成する共重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどの非イオン性共重合性単量体などが例示できる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。共重合単位の割合(共重合性単量体の共重合割合)は、例えば、0〜30モル%、好ましくは0.01〜20モル%、さらに好ましくは0.1〜10モル%程度である。
【0038】
非親水性繊維(アクリル繊維など)の割合は、親水性繊維(ビニルアルコール系繊維など)100質量部に対して、0〜50質量部(例えば、0.001〜50質量部)程度の範囲から選択でき、例えば、10〜50質量部、好ましくは15〜45質量部、さらに好ましくは20〜40質量部(例えば、25〜35質量部)程度である。
【0039】
なお、親水性繊維は非親水性繊維との混紡繊維であってもよい。また、親水性繊維と非親水性繊維とは、接着剤(後述の接着剤層の項に例示した接着剤、例えば、酢酸ビニル−アクリル酸エステルなどの酢酸ビニル樹脂など)やバインダー繊維などを用いて接着(又は固定)されていてもよい。
【0040】
親水層の不織布を構成する各繊維の断面形状は、特に制限されず、例えば、円形断面であってもよいが、親水性の点から、異形断面(例えば、楕円形、三角形などの多角形など)であってもよい。さらに、各繊維の側面は、親水性をより一層向上させる点から、多孔化されていてもよい。
【0041】
親水層の不織布を構成する繊維(例えば、親水性繊維)の平均繊度は、例えば、0.1〜5デニール、好ましくは0.2〜4デニール、さらに好ましくは0.5〜3デニール程度である。平均繊度が大きすぎると、親水性が低下する。また、平均繊維長は、例えば、10〜150mm、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは30〜60mm程度である。
【0042】
親水層の目付は、例えば、10〜100g/m、好ましくは12〜80g/m、さらに好ましくは15〜50g/m程度である。例えば、ビニルアルコール系繊維を含む不織布の目付は、通常、15〜40g/m程度であり、親水化処理された繊維(例えば、親水化ポリプロピレン系繊維)を含む不織布の目付は、通常、20〜50g/m程度である。
【0043】
親水層の不織布(又は不織布を構成する各繊維)は、繊維以外の成分、例えば、慣用の添加剤[安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、防虫剤、防カビ剤など]などを含有していてもよい。
【0044】
親水層を形成する不織布は、慣用の方法、例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、スパンボンド法、メルトブローン法などにより製造できる。これらの方法のうち、スパンレース法が汎用される。さらに、必要により(例えば、不織布が疎水性繊維を含む場合など)、不織布(又は繊維)を親水加工してもよい。親水加工の方法としては、例えば、酸化処理(例えば、コロナ放電やグロー放電などの放電処理、オゾン処理、重クロム酸処理など)などであってもよいが、簡便に親水化できる点から、不織布(又は繊維)の表面を前記親水性成分で処理又はコートする方法であってもよい。なお、親水性成分の処理又はコート方法としては、慣用の方法、例えば、グラビア印刷などの印刷法が例示できる。また、親水性成分は、溶媒と併用してもよい。溶媒としては、水性溶媒、例えば、水、水溶性溶媒[例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなど)、エーテル類(セロソルブなど)]などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0045】
[防水層]
防水層は、防水性及び防湿性を有しており、雨水などの浸入を遮断でき、下地の内部結露を防止し、下地の腐食を有効に防止できる。また、防水層は、親水層と同様、耐アルカリ性を有しているため、例えば、水硬性組成物がセメントを含んでいても、セメント由来の強アルカリ水溶液から防水シートを保護できる。
【0046】
防水層は、前記特性を有している限り特に制限されないが、通常、アスファルト含浸紙及び/又はポリエチレン系樹脂フィルムで形成される。透明性、軽量性、折曲加工性などの観点からは、防水層はポリエチレン系樹脂フィルム単独で形成するのが好ましい。
【0047】
アスファルト含浸紙としては、例えば、アスファルトフェルト8kなどの軽量アスファルトフェルト[例えば、100〜300g/m(好ましくは150〜250g/m)程度のアスファルトフェルト]などが例示できる。
【0048】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよいが、防水性の点からは、積層フィルム(2層フィルム、3層以上の多層フィルムなど)が好ましい。積層フィルムは、第1のポリエチレン系樹脂を含む基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面(好ましくは両面)に積層され、かつ第2のポリエチレン系樹脂を含む被覆層とを備えている。
【0049】
(基材フィルム)
第1のポリエチレン系樹脂は、エチレン単独重合体の他、エチレン系共重合体であってもよい。共重合性単量体としては、エチレン以外のα−オレフィン[例えば、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテン、4−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−C3−10オレフィン(特にα−C3−6オレフィン)など]、酢酸ビニルなどの有機酸ビニルエステル、(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル酸系単量体などが例示できる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
エチレン系共重合体において、エチレンと、共重合性単量体(例えば、エチレン以外のα−オレフィン)との割合(モル比)は、前者/後者=70/30〜99.9/0.1、好ましくは80/20〜99.5/0.5、さらに好ましくは90/10〜99/1程度であってもよい。
【0051】
ポリエチレン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン(例えば、直鎖状低密度ポリエチレンなど)、分岐鎖状ポリエチレン、アイオノマー、塩素化ポリエチレンなどであってもよい。
【0052】
これらの第1のポリエチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの第1のポリエチレン系樹脂のうち、透明性、機械的強度の点から、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0053】
基材フィルムは、第1のポリエチレン系樹脂単独で形成してもよく、第1のポリエチレン系樹脂以外の成分(添加剤など)を含んでいてもよい。
【0054】
基材フィルムの厚みは、特に限定されず、例えば、10〜100μm、好ましくは15〜90μm、さらに好ましくは20〜80μm程度である。
【0055】
(被覆層)
第2のポリエチレン系樹脂としては、第1のポリエチレン系樹脂と同様の樹脂[例えば、エチレン単独重合体、エチレンと共重合性単量体(例えば、エチレン以外のα−オレフィンなど)とのエチレン系共重合体など]が例示でき、好ましいポリエチレン系樹脂も同様である。なお、第1及び第2のポリエチレン系樹脂の種類は、同一又は異なっていてもよい。
【0056】
被覆層は、第2のポリエチレン系樹脂単独で形成してもよいが、第2のポリエチレン系樹脂以外の成分(添加剤など)を含んでいてもよい。被覆層に含有する添加剤としては、安定剤及び撥水剤から選択された少なくとも一種の添加剤が好ましい。
【0057】
安定剤としては、光安定剤又は紫外線吸収剤[例えば、ヒンダードアミン系光安定剤(ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートなどのセバシン酸エステル類など)、ベンゾトリアゾール系光安定剤、ヒドロキシベンゾフェノン系光安定剤など]、酸化防止剤[例えば、フェノール系酸化防止剤(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのヒンダードフェノール系酸化防止剤など)、硫黄系酸化防止剤(例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネートなどのチオジカルボン酸ジアルキルエステルなど)など]、熱安定剤[例えば、エスファイト系熱安定剤、硫黄系熱安定剤、ヒドロキシアミン系熱安定剤など]などが例示できる。これらの安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの安定剤のうち、ヒンダードアミン系光安定剤などの光安定剤が汎用される。
【0058】
安定剤の含有量は、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、0.001〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度である。
【0059】
撥水剤としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーンオイル、ワックス、脂肪酸エステル(グリセリンラウリン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンベヘン酸エステルなどの高級飽和脂肪酸エステルなど)、脂肪酸アミド(ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド、特に飽和脂肪酸アミドなど)などが例示できる。これらの撥水剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0060】
撥水剤の含有量は、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜2重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度である。
【0061】
被覆層の厚みは、特に限定されず、例えば、1〜50μm、好ましくは2〜45μm、さらに好ましくは3〜40μm程度である。
【0062】
基材フィルムの厚みは、被覆層の厚みに対して、例えば、0.5〜10倍、好ましくは1〜5倍程度である。
【0063】
なお、積層フィルムは、基材フィルム及び被覆層以外に、他の層(例えば、基材フィルムと被覆層とを接着するための接着剤層など)を有していてもよい。
【0064】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、強度を向上させる点から、延伸(一軸又は二軸)フィルムであってもよい。
【0065】
ポリエチレン系樹脂フィルムは、市販品を使用してもよく、慣用の方法により調製してもよい。ポリエチレン系樹脂フィルムは、例えば、各層の各成分を混合して樹脂組成物を調製した後、慣用の方法によりフィルム状に成形することにより製造できる。樹脂組成物は、各成分の粉粒体の混合物であってもよく、各成分を混練して調製してもよい。混練は、慣用の方法を用いることができ、例えば、各成分をヘンシェルミキサーやリボンミキサーで乾式混合し、単軸又は二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの慣用の溶融混合機に供給して溶融混練することができる。
【0066】
フィルム状に成形する方法としては、例えば、エキストルージョン法[ダイ(フラット状、T状(T−ダイ)、円筒状(サーキュラダイ)等)法、インフレーション法など]などの押出成形法などが挙げられる。なお、ポリエチレン系積層フィルムは、得られた各フィルムをヒートラミネーションやドライラミネーションなどの方法により積層してもよいが、各構成層用の樹脂組成物を共押出する方法により積層してもよい。
【0067】
防水層(例えば、積層フィルム)の厚みは、例えば、10〜150μm、好ましくは20〜120μm、さらに好ましくは40〜100μm(例えば、50〜100μm)程度である。
【0068】
[疎水層]
疎水層は、雨水の浸入を防止するために用いられ、疎水性繊維(非親水性繊維)を含む不織布で形成されている。また、疎水層を不織布で形成すると、繊維が固定用ステープルと絡み合い、シーリング性(釘穴止水性)を向上できる。疎水性繊維としては、[親水層]の項に記載の疎水性繊維と同様の繊維が例示でき、撥水性、軽量性の点から、ポリプロピレン系繊維(ポリプロピレン繊維、プロピレン−エチレン共重合体繊維など)が好ましい。
【0069】
疎水性繊維の割合は、疎水層全体(又は不織布全体)に対して、例えば、70〜100質量%、好ましくは80〜99.9質量%、さらに好ましくは90〜99.5質量%程度である。なお、疎水層の不織布は、本発明の効果を阻害しない範囲で、非疎水性繊維(親水性繊維)を含んでいてもよい。非疎水性繊維の割合は、疎水性繊維100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下(例えば、0.001〜0.1質量部程度)であってもよい。
【0070】
疎水層の不織布を構成する繊維(例えば、疎水性繊維)の平均繊度は、例えば、0.1〜5デニール、好ましくは0.2〜4デニール、さらに好ましくは0.5〜3デニール程度である。また、平均繊維長は、例えば、10〜150mm、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは30〜60mm程度である。
【0071】
疎水層の不織布(又は不織布を構成する各繊維)も、親水層と同様、繊維以外の成分、例えば、慣用の添加剤(安定剤、撥水剤、防虫剤、防カビ剤など)を含有していてもよい。
【0072】
疎水層の目付は、例えば、30g/m以上(例えば、30〜100g/m)、好ましくは32〜80g/m、さらに好ましくは35〜50g/m程度であり、通常、30〜70g/m(例えば、30〜60g/m)程度である。
【0073】
疎水層を形成する不織布は、慣用の方法、例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、スパンボンド法、メルトブローン法などにより製造できる。これらの方法のうち、嵩高い不織布を容易に生産できる点から、スパンボンド法が好ましい。さらに、スパンボンド法では、紡糸工程由来の親水性油剤が混入しないため、疎水性繊維の撥水性を向上できる。
【0074】
[他の層]
防水シートは、必要であれば、親水層と防水層と疎水層以外に、他の層を有していてもよい。例えば、防水シートは、任意の層間(例えば、親水層と防水層との間、防水層と疎水層との間など)に接着剤層などを介在させることができる。
【0075】
接着剤層は、層間を接着可能な限り特に制限されず、慣用の接着剤(又は粘着剤)を含んでいる。接着剤(又は粘着剤)としては、例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーなどが挙げられる。これらの接着剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの接着剤のうち、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン系樹脂など)、アクリル系樹脂が汎用される。なお、接着剤は、水溶性であってもよく、非水溶性であってもよい。また、接着剤は、蒸発型接着剤(溶液型接着剤、ラテックス又はエマルジョン型接着剤など)であってもよく、ホットメルト接着性樹脂などであってもよい。前記ホットメルト接着性樹脂は、繊維状の形態(接着性繊維)であってもよい。
【0076】
接着剤層は、親水層、防水層又は疎水層の表面全体又は一部に形成してもよい。一部の表面に接着剤層を形成する場合、点状(スポット状)で規則的又はランダムに形成してもよく、線状又は格子状に形成してもよい。
【0077】
接着剤層は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、慣用の添加剤、例えば、溶剤(又は分散剤)、可塑剤、充填剤、粘着付与剤、保護コロイド、増粘剤、老化防止剤、消泡剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0078】
接着剤層の厚みは、例えば、0.005〜0.5mm、好ましくは0.01〜0.3mm、さらに好ましくは0.015〜0.1mm程度である。
【0079】
本発明の防水シートは、モルタルとの密着性が高く、耐水性(防水性)、防湿性に優れている。例えば、防水シートの耐水圧は、JIS L 1092に準拠して、5kPa以上(例えば、5〜200kPa)、好ましくは10〜150kPa、さらに好ましくは15〜100kPa(例えば、50〜100kPa)程度である。また、防水シートの透湿抵抗(m・h・mmHg/g)は、JIS K7129「プラスティックフィルム及びシートの水蒸気透過度試験方法」に準拠して、例えば、0.5以上(例えば、0.5〜350)、好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上(例えば、3以上)程度である。透湿抵抗が小さすぎると、例えば、仕上げ材の亀裂から水が浸入し、防水シート表面に水が滞留した場合、夏期などの条件であれば、仕上げ材が熱され、水蒸気となり、壁内に流入し内部結露が発生する。
【0080】
また、防水シートは、透明性にも優れており、防水シートの上から下地板の位置を目視できるため、ステープルを用いて下地と防水シートとを固定するのが容易であり、施工性を大きく向上できる。さらに、防水シートは、軽量性、加工性(折曲加工性など)にも優れており、出隅、入隅などのコーナー部への取り付けも容易である。
【0081】
防水シートの目付は、例えば、50〜120g/m、好ましくは60〜100g/m、さらに好ましくは62〜90g/m(特に65〜80g/m)程度である。
【0082】
防水シートの厚みは、例えば、0.05〜1mm、好ましくは0.1〜0.8mm、さらに好ましくは0.2〜0.7mm程度である。
【0083】
[防水シートの製造方法]
本発明の防水シートは、慣用の方法を利用して製造でき、積層構造に応じて積層順序も特に制限されず、親水層と防水層と疎水層とを積層することにより得ることができる。積層方法としては、特に制限されず、例えば、接着剤層を介して各層を積層する方法(例えば、ウェットラミネーション法、ホットメルトラミネーション法、ドライラミネーション法など)であってもよく、接着剤層を介さず各層を積層する方法(例えば、押出ラミネート法又は押出コーティング法など)であってもよい。
【0084】
[用途]
本発明の防水シートは、建造物又は構造物の下地(外壁の下地など)と仕上げ材(湿式仕上げ材など)との間に介在させて利用できる。防水シートは、下地と仕上げ材との間に配設される限り特に制限されないが、仕上げ材との密着性に優れるため、少なくとも仕上げ材との接触部位を有するのが好ましく、例えば、仕上げ材の下地(水硬性組成物の塗工基材など)に適している。また、防水シートは、仕上げ材及び下地の双方との接触部位を有していてもよい。このように、仕上げ材(及び下地)との接触部位を有する防水シートは、仕上げ材(及び下地)との密着性が高く、出隅、入隅などのコーナー部に配設しても、優れた防湿性及び防水性を発揮できる。
【0085】
建造物又は構造物の外壁としては、例えば、通気構法(外壁内に通気層を設け、壁体内通気を可能とする構造)とした外壁であってもよいが、通気構法以外の外壁(壁体内の湿気を排出し難い外壁)であってもよい。
【0086】
仕上げ材(又は仕上げ層)は、通常、水硬性組成物で形成される。水硬性組成物は、少なくとも水硬性物質を含んでいる。水硬性物質としては、例えば、石膏、セメント(ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメントなど)などが例示できる。これらの水硬性物質は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0087】
水硬性組成物は、さらに、骨材を含んでいてもよい。骨材としては、例えば、細骨材[例えば、砂(川砂、海砂、陸砂、山砂、砕砂など)など]、粗骨材(砕石など)などが例示できる。これらの骨材は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。骨材(例えば、砂)の割合は、水硬性物質1重量部に対して、0〜10重量部(例えば、0.1〜8)程度の範囲から選択でき、例えば、1〜5重量部、好ましくは2〜4重量部(例えば、2〜3重量部)程度であってもよい。
【0088】
水硬性組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、充填剤、空気連行剤(AE剤)、流動化剤、減水剤、増粘剤、消泡剤、膨張剤、硬化促進剤、凝結調整剤、分散剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0089】
水硬性組成物には、水硬性組成物と水との混合物(混練物、スラリー、又は水硬性組成物の硬化物の前駆体)、例えば、モルタルなども含まれる。スラリー中の水と水硬性物質との割合(重量比)は、特に制限されず、例えば、前者/後者=99/1〜1/99、好ましくは90/10〜10/90、さらに好ましくは80/20〜20/80程度であってもよい。
【0090】
仕上げ層(又は水硬性組成物の硬化物)の厚みは、特に限定されず、例えば、10〜100mm、好ましくは15〜50mm程度であってもよい。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における各評価項目の評価方法及び各成分の内容は以下の通りである。
【0092】
[耐水圧]
耐水圧は、JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法 耐水度試験」に準拠して、実施例及び比較例で得られた防水シートに水圧をかけ、表面から水滴が3箇所浸出したときの水圧を測定することにより、評価した。
【0093】
[ステープル穴シーリング性]
合板(厚さ9mm)の表面に、実施例及び比較例で得られた防水シートを置き、ステープルを打って固定した。防水シートの上に10mmに切断した塩ビ管(直径40mm)を、前記ステープルが塩ビ管の切断面中央部に位置するように置いた。塩ビ管と防水シートの接触部分をシーリング材でシールし、シーリング材を硬化させて試験体を作製した。試験体の塩ビ管に水を注入し(水頭10mm)、24時間静置した後、漏水の有無を確認した。10個の試験体のうち、漏水が生じた試験体の数(漏水個数)をカウントすることにより、ステープル穴シーリング性を評価した。
【0094】
[結露試験]
結露試験は、財団法人 日本建築総合試験所のツインチャンバーを用いて行った。チャンバー間の開口部には図4に示す試験体(各部材の詳細は表1に示す)を設置した。なお、図4において、(a)は室外側の概略切欠図を示し、(b)は室内側の概略切欠図を示し、(c)はラス下地板及び吸水シートと測定箇所及び給水箇所を示す。この試験体は、ラス下地板34の室外側に防水シート31、ラス網32、吸水シート38及びモルタル33が順次積層されている。また、前記試験体は、測定箇所A[防水シートの室内側でラス下地板の間(詳しくは10mm間隔をおいて配設されたラス下地板間の隙間)]で結露センサーを用いて相対湿度を測定できる。
【0095】
本試験では、室外側を33℃50%RH、室内側を23℃50%RHとし、一定になったところで注水口37(塩ビ管φ50mm)から水を注入し、そのまま放置し、防水シート31の室内側の測定箇所Aにおいて結露センサーにより出力測定を行い、結露発生の有無を確認した。
【0096】
【表1】

【0097】
[モルタルとの密着性]
モルタルとの密着性は、比較例4、8及び9で得られた防水シートの不織布側にモルタルを塗布し、1週間放置後、フィルム側から観察し、以下の基準で評価した。
【0098】
○…不織布内部にモルタルの浸入が認められる
×…不織布内部にモルタルの浸入が認められない。
【0099】
[各成分の内容]
ビニロン−アクリルスパンレース不織布[クラレクラフレックス(株)製、ビニロン:ポリビニルアルコール繊維(繊維長38mm)、アクリル:ポリアクリロニトリル繊維(繊維長51mm)、接着剤:酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、ビニロンに対するアクリルの割合:30質量%、目付18g/m
ポリエチレンフィルム[3層インフレーションフィルム、基材層(組成:直鎖状低密度ポリエチレン100重量部、厚み:総厚み−40μm)、被覆層(組成:直鎖状低密度ポリエチレン98重量部、耐候剤(東京インキ(株)製、「PEX UVT−54」HALS光安定剤)2重量部、厚み:20μm)]
ポリプロピレン不織布(MULTI SPUNINDO JAYA社製、SRPW040、目付40g/m、1.5デニール)。
【0100】
実施例1
ビニロン−アクリルスパンレース不織布で形成された親水層と、ポリエチレンフィルム(総厚み60μm)で形成された防水層と、ポリプロピレン不織布で形成された疎水層とを、各層間に膜厚15μmのポリエチレンを押出して各層間を接着することにより積層し(以下、単にポリエチレン押出ラミネートという場合がある)、防水シートを作製した。この防水シートの透湿抵抗は、JIS K7129に準拠して、271m・h・mmHg/gであった。
【0101】
実施例2
ポリエチレンフィルム(総厚み80μm)で防水層を形成した以外は、実施例1と同様にして、防水シートを作製した。
【0102】
実施例3
ポリエチレンフィルム(総厚み100μm)で防水層を形成した以外は、実施例1と同様にして、防水シートを作製した。
【0103】
参考例1
微多孔質ポリエチレンフィルム(厚み40μm、(株)トクヤマ製、ポーラムPUS40)を防水層とし、積層方法をホットメルトラミネーション(スプレー法、接着剤量7g/m)とした以外は、実施例1と同様にして、防水シートを作製した。この防水シートの透湿抵抗は、JIS K7129に準拠して、0.0048m・h・mmHg/g以下であった。
【0104】
実施例4
ビニロン−アクリルスパンレース不織布で形成された親水層と、アスファルトフェルト8kで形成された防水層と、ポリプロピレン不織布で形成された疎水層とを、接着剤(アクリル系粘着剤)を用いてドライラミネートにより積層し、防水シートを作製した。
【0105】
実施例5
ポリプロピレン不織布に対して、界面活性剤系親水コート剤(サカタインクス(株)製、XGS206)5重量部とイソプロピルアルコール95重量部とを含む溶液をグラビア印刷によりコーティングし、親水化ポリプロピレン不織布(湿潤状態での目付:7g/m)を得た。得られた親水化ポリプロピレン不織布と、ポリエチレンフィルム(総厚み60μm)で形成された防水層と、ポリプロピレン不織布で形成された疎水層とをポリエチレン押出ラミネートにより積層し、防水シートを作製した。
【0106】
比較例1
アスファルトフェルト430(1巻きの長さ:42m、1巻きの重量:約20kg、mあたりの重量:約480g)を防水シートとした。
【0107】
比較例2
アスファルトフェルト17k(1巻きの長さ:42m、1巻きの重量:約17kg、mあたりの重量:約400g)を防水シートとした。
【0108】
比較例3
アスファルトフェルト8k(1巻きの長さ:42m、1巻きの重量:約8.5kg、mあたりの重量:約200g)を防水シートとした。
【0109】
比較例4
ビニロン−アクリルスパンレース不織布で形成された親水層と、ポリエチレンフィルム(総厚み60μm)で形成された防水層とをポリエチレン押出ラミネートにより積層し、防水シートを作製した。
【0110】
比較例5
ポリエチレンフィルム(総厚み80μm)で防水層を形成した以外は、比較例4と同様にして、防水シートを作製した。
【0111】
比較例6
ポリエチレンフィルム(総厚み100μm)で防水層を形成した以外は、比較例4と同様にして、防水シートを作製した。
【0112】
比較例7
ビニロン−アクリルスパンレース不織布で形成された親水層と、アスファルトフェルト8kで形成された防水層と、接着剤(アクリル系粘着剤)を用いてドライラミネートにより積層し、防水シートを作製した。
【0113】
比較例8
ポリプロピレン不織布で形成された疎水層と、ポリエチレンフィルム(総厚み60μm)で形成された防水層とをポリエチレン押出ラミネートにより積層し、防水シートを作製した。
【0114】
比較例9
実施例5と同様の親水化ポリプロピレン不織布と、ポリエチレンフィルム(総厚み60μm)で形成された防水層とをポリエチレン押出ラミネートにより積層し、防水シートを作製した。
【0115】
実施例及び比較例の防水シートの評価結果を表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
表2から明らかなように、比較例に比べ、実施例では耐水圧に優れ、漏水個数も少ない。また、比較例4及び9の防水シートがモルタルとの密着性が高いことから、比較例4及び9と同一の親水層を有する実施例1〜5の防水シートもモルタルとの密着性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の防水シートは、水硬性組成物(モルタルなど)との密着性が高く、耐水性及び防湿性に優れているため、建造物又は構造物の下地と仕上げ材(湿式仕上げ材など)との間に介在させる防水シートとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0119】
1,11,21,31…防水シート
2,12,22,32…ラス
3,13,23,33…モルタル
4,14,24,34…下地板
5,15,25…間柱
16,26…コーナーラス
27…受け木
35…断熱材
36…石膏ボード
37…注水口(給水箇所)
38…吸水シート
A…測定箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物又は構造物の下地と水硬性組成物で形成された仕上げ層との間に介在させる防水シートであって、親水性繊維を含む不織布で形成された親水層と、この親水層に積層され、かつポリエチレン系樹脂フィルム及び/又はアスファルト含浸紙で形成された防水層と、この防水層に積層され、かつ疎水性繊維を含む不織布で形成された疎水層とを備えた防水シート。
【請求項2】
水硬性組成物がモルタルである請求項1記載の防水シート。
【請求項3】
親水性繊維が、ビニルアルコール系繊維及び親水化ポリプロピレン系繊維から選択された少なくとも一種である請求項1又は2記載の防水シート。
【請求項4】
親水層の不織布が、親水性繊維としてのビニルアルコール系繊維と、非親水性繊維とを含み、非親水性繊維の割合が、親水性繊維100質量部に対して、10〜50質量部である請求項1又は2記載の防水シート。
【請求項5】
防水層が、第1のポリエチレン系樹脂を含む基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に、第2のポリエチレン系樹脂を含む被覆層とを備えた積層フィルムで形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の防水シート。
【請求項6】
被覆層が、酸化防止剤及び撥水剤から選択された少なくとも一種の添加剤を含む請求項5記載の防水シート。
【請求項7】
疎水性繊維が、ポリプロピレン系繊維である請求項1〜6のいずれかに記載の防水シート。
【請求項8】
親水層の目付が、15〜50g/mであり、防水層の厚みが、40〜100μmであり、疎水層の目付が、30〜70g/mである請求項1〜7のいずれかに記載の防水シート。
【請求項9】
透湿抵抗が、0.5〜350m・h・mmHg/gである請求項1〜8のいずれかに記載の防水シート。
【請求項10】
耐水圧が、5〜200kPaである請求項1〜9のいずれかに記載の防水シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202136(P2012−202136A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68360(P2011−68360)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(591260513)七王工業株式会社 (11)