説明

湿気硬化型ホットメルト接着剤

【課題】温度低下による優れた固化性能を有し、固化収縮率が小さく、得られる積層品表面の均一性が固化後も保たれ、積層品の裁断性を低下させない湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【解決手段】イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、ウレタンプレポリマーは、ビスフェノール構造、及び炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造を有する、湿気硬化型ホットメルト接着剤である。本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、化粧材と基材とを貼り合わせて、積層品を好適に製造することができる。得られた積層品は、ICカード等に好ましく使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化型ホットメルト接着剤及びその湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗布することで得られる積層品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、合板、パーティクルボード、プラスチック等の基材に化粧材を貼り付けて積層品を製造する場合、種々の接着剤、例えば、溶剤系接着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤、湿気硬化ホットメルト接着剤が利用されてきた。
【0003】
年々、重視される環境衛生面を考慮すると、溶剤系接着剤を利用するのは好ましくない。また、ポリエステル系ホットメルト接着剤は、軟化点が高いので、高温(約180℃)で化粧材に塗布しなければならない。
【0004】
積層品の一形態として、例えば、ICチップが実装された基材に化粧材を貼り付けたカード状の積層品、いわゆるICカードがある。ICチップは、年々小型化されており、その分、熱に対する抵抗性も乏しくなっている。従来、ICカードを製造する場合、ポリエステル系ホットメルト接着剤が利用されてきたが、ポリエステル系ホットメルト接着剤は、上述したように高温で塗布されるので、ICチップが熱で損傷する恐れがある。従って、近年では、ポリエステル系ホットメルト接着剤の代替として、接着可能時間が長く、低温での接着加工性に優れた湿気硬化型ホットメルト接着剤が注目されつつある(特許文献1〜3)。湿気硬化型ホットメルト接着剤は、加熱溶融した接着剤が、温度低下によって物理的に固化した後、湿気によって化学的に硬化するという特徴を有する。
【0005】
ICカードは、磁気カードに比べて記憶容量が大きくセキュリティ性も高いので、例えば、身分証明カード、キャッシュカード、クレジットカード等として、更に利用されていくことが予想される。従って、湿気硬化型ホットメルト接着剤には、ICカードの品質を維持させ、ICカードの生産性を低下させないことが望まれている。
【0006】
通常、ICカードを製造するためには、ICチップが埋め込まれた成形樹脂や樹脂フィルム等を基材として準備し、樹脂(ポリエチレンテレフタレート等)フィルム等の化粧材に湿気硬化型ホットメルト接着剤を加熱溶融して塗布して、上述の基材に上記化粧材を貼り付ける。湿気硬化型ホットメルト接着剤を、温度低下によって固化後、得られた積層体を適当な大きさに切断する等の加工をする。切断して得られたICカードは、一定期間、複数が重ね合わさった状態で保管される。
【0007】
しかし、上記工程に湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いてICカードを製造すると、湿気硬化型ホットメルト接着剤の温度低下による固化後のタック消失が遅い(即ち、タックフリータイムが長い)ので、重ね合わされたICカードが、それらの切断箇所同士で接着し、生産効率上好ましくない。更に、温度低下による湿気硬化型ホットメルト接着剤の熱収縮率(「固化収縮率」ともいう)が大き過ぎるため、カードが収縮し、表面が均一にならないことがある。即ち、カード表面に凹凸が発生し、ICチップ実装部分が盛り上がったICカードが生産されることになる。
【0008】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は低温での塗布が可能であるが、上述したようにICカードを適当な大きさに裁断したり、打ち抜いて加工することを考慮すると、必ずしも湿気硬化型ホットメルト接着剤は好適ではなく、ICカードの裁断性が低下することがある。
特許文献3では、ICカードの裁断性を高めるために、ある程度、硬化が進んだ接着剤を利用する。しかし、裁断性を向上させるのに、硬化が進んだ接着剤を使うということは、接着剤を硬化させる時間を要する等、ICカードの生産性が低下する。また、ICカードの生産性を向上させるために接着剤の硬化が進んでない状態で裁断すると、ICカードを上手に打ち抜けないことがある。
【0009】
【特許文献1】特開2006-18364号公報
【特許文献2】特開2003-67694号公報
【特許文献3】特開2006-133901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、温度低下による優れた固化性能を有し、熱収縮率(又は固化収縮率)が小さく、得られる積層品表面の均一性が固化後も保たれ、積層品の裁断性を低下させない湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供することである。更に、その湿気硬化型ホットメルト接着剤が塗布されて得られる積層品、特にICカードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、湿気硬化型ホットメルト接着剤に特定の二種類の化学構造を導入することで、驚くべきことに上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
即ち、本発明は、一の要旨として、
イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
ウレタンプレポリマーは、ビスフェノール構造、及び炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造を有する、湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0012】
本発明の一態様として、
ビスフェノール構造は、「(A)ビスフェノール系ポリオール」に由来し、
炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール(以下、「(B)ポリエステルポリオール」という)に基づく、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0013】
本発明では、
(A)ビスフェノール系ポリオールは、ビスフェノールA又はその変性物であり、
(B)ポリエステルポリオールは、ドデカン二酸とジオールとの反応で得られる、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤が好ましい。
【0014】
本発明の別の態様として、
ウレタンプレポリマーは、炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造を有する、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0015】
本発明では、
炭素数10未満の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール(以下、「(C)ポリエステルポリオール)という)に基づく、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤が好ましい。
【0016】
本発明の好ましい態様として、
ウレタンプレポリマーは、
(A)ビスフェノール系ポリオール
(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール
(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール及び
(D)イソシアネート化合物
を反応させることによって得られる、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0017】
本発明は、
(A)〜(C)の総量100重量部に対し、
(A)が20〜40重量部、(B)が8〜40重量部である、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤が好ましい。
【0018】
本発明の他の態様として、
成分(B)は、60℃より高く、120℃より低い融点を有する、ポリエステルポリオールであり、
成分(C)は、40〜60℃の融点を有するポリエステルポリオールである、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0019】
本発明の第二の要旨として、
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤で基材と化粧材とを貼り合わせることで得られる積層品を提供する。
本発明の好ましい態様として、
上記基材と化粧材とを100〜130℃に熱した状態で貼り合わせ、放冷した後、60〜90℃で基材と化粧材とを再度加熱することで得られる積層品を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含み、ウレタンプレポリマーは、ビスフェノール構造、及び炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造を有するので、
温度低下による優れた固化性能を有し(即ち、タックフリータイムが短く)、熱収縮率(又は固化収縮率)が小さく、得られる積層品表面の均一性を保持し、積層品の裁断性を低下させない、総合的な性能に優れる積層品、特にICカードを効率良く生産することが可能となる。
【0021】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
ビスフェノール構造は、(A)ビスフェノール系ポリオールに由来し、
炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオールに基づくので、
より優れた固化性能を有し、固化収縮率がより小さく、積層品表面の均一性を保持し、積層品の裁断性を低下させない。従って、より総合的に優れた積層品(特にICカード)を、更に効率良く生産することが可能となる。
【0022】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
(A)ビスフェノール系ポリオールは、ビスフェノールA又はその変性物であり、
(B)ポリエステルポリオールは、ドデカン二酸とジオールとの反応で得られるので、
より優れた固化性能を有し、固化収縮率がより小さく、積層品表面の均一性を保持し、積層品の裁断性をより低下させない。従って、より総合的に優れた積層品(特にICカード)を、更に効率良く生産することが可能となる。
【0023】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
ウレタンプレポリマーは、炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造を有するので、
(A)成分と(B)成分との相溶性がより一層向上し、固化性能が向上し、固化収縮率が更に小さくなり、積層品の表面がより均一になり、積層品の裁断性がより低下しない。従って、より総合的に優れた積層品(特にICカード)を、更に効率良く生産することが可能となる。
【0024】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造は、(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオールに基づくので、
(A)成分と(B)成分との相溶性がより一層向上し、固化性能が向上し、固化収縮率が更に小さくなり、積層品の表面がより均一になり、積層品の裁断性がより低下しない。従って、より総合的に優れた積層品(特にICカード)を、更に効率良く生産することが可能となる。
【0025】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
ウレタンプレポリマーは、
(A)ビスフェノール系ポリオール
(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール
(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール
(D)イソシアネート化合物
を反応させることによって得られるので、
(C)成分が添加されることで、(A)成分と(B)成分との相溶性がより一層向上し、固化性能が更に向上し、固化収縮率が更に小さくなり、得られる積層品表面の均一性をより保持し、積層品の裁断性をより低下させない。従って、より総合的に優れた積層品(特にICカード)を、更に効率良く生産することが可能となる。
【0026】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
(A)〜(C)の総量100重量部に対し、
(A)が20〜40重量部、(B)が8〜40重量部であるので、
より優れた固化性能を有し、固化収縮率がより小さくなり、積層品表面の均一性をより保持し、裁断性を低下させない。特に、固化性能に優れ、積層品の裁断性を低下させない湿気硬化型ホットメルト接着剤が得られる。従って、総合的に優れた性能の積層品、特に裁断性に優れた積層品(特にICカード)を極めて効率良く生産することが可能となる。
【0027】
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、
成分(B)は、60℃より高く、120℃より低い融点を有する、ポリエステルポリオールであり、
成分(C)は、40〜60℃の融点を有するポリエステルポリオールであるので、
より優れた固化性能を有し、積層品の裁断性をより低下させない。特に耐熱性に優れ、かつ、約120℃に加熱後放冷し、湿気硬化が完了する前に、60〜90℃に再加熱すると、再び流動する湿気硬化型ホットメルト接着剤が得られる。従って、総合的に優れた積層品、特に耐熱性に優れ、均一な表面を有する積層品(特にICカード)を効率良く生産することが可能となる。
【0028】
本発明に係る積層品は、
上記湿気硬化型ホットメルト接着剤で化粧材と基材とを貼り合わせることで得られるので、均一な表面を有し、裁断性に優れる。優れる固化性能を有する湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗布して得られる積層品なので、裁断後、重ね合わせて放置することが可能である。
【0029】
上記積層品においては、
化粧材と基材とを100〜130℃に熱した状態で貼り合わせ、放冷した後、60〜90℃に、化粧材及び基材を再度加熱することで得られるので、
均一な表面を有し、裁断性に優れる。特に、表面の均一性に優れる積層品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明において、「イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー」とは、一般にイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーとされるものであって、目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に制限されるものではない。このようなウレタンプレポリマーは、ポリオールとイソシアネート化合物とを従来知られた方法にしたがつて反応させることで得ることができる。尚、本明細書では、「イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマー」を、単に、「ウレタンプレポリマー」とも記載する。
【0031】
本発明において、「ビスフェノール構造」とは、下記化学式(I)に示す化学構造を意味する。このビスフェノール構造は、目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り、ウレタンプレポリマー中に、いかなる形で組み込まれていても良く、ビスフェノール構造の任意の位置が任意の置換基で置換されて良いが、置換されていなくてもよい。
【0032】
【化1】

[R及びRは、水素又はアルキル基であり、同一でも異なっても良い。]
【0033】
本発明において、ビスフェノール構造は、(A)ビスフェノール系ポリオールに由来することが好ましい。「(A)ビスフェノール系ポリオール」として、ビスフェノールA(R及びRは、メチル基である)、ビスフェノールF(R及びRは、水素である)及びビスフェノールAD(Rは、水素であり、Rは、メチル基である)及びこれらの変性物を例示することができる。特に、ビスフェノールA及びその変性物が好ましい。ビスフェノール構造は、単独で又は組み合わせて使用することができ、同様に(A)ビスフェノール系ポリオールも単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0034】
本発明における、「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造」とは、下記化学式(II)に示す化学構造を意味する。従って、「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸」とは、鎖状構造のアルキレン基の両末端に二つのカルボキシル基を有し、その間に、一列に鎖状につながった炭素鎖(即ち、直鎖アルキレン基)の炭素原子数が8〜16であるジカルボン酸を意味する。この炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り、ウレタンプレポリマー中に、いかなる形で組み込まれていても良く、炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造の任意の位置が任意の置換基で置換されていても良いが、置換されていなくても良い。尚、炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造の任意の位置が任意の置換基で置換されており、その置換基に炭素原子が含まれるとしても、その炭素原子数は、炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造の炭素原子数として考慮しない。
【0035】
【化2】

[nは、8〜16の自然数である。]
【0036】
本発明において「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造」は、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的固化し易さを考慮すると、(B)ポリエステルポリオールに屈曲構造を生じにくいものが好ましい。従って、上記化学式(II)のnは、偶数であること、即ち、n=8、10、12、14及び16から選択される少なくとも一種であること(デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸及びオクタデカン二酸から選択される少なくとも一種に由来すること)が好ましい。特にn=10であることが好ましい。炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は単独で又は組み合わせて使用することができ、同様に炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸も単独で組み合わせて使用することができる。
【0037】
更に、炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、上述の(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール(以下、「(B)ポリエステルポリオール」ともいう)に基づくことが好ましい。
そのような「(B)ポリエステルポリオール」として、下記化学式(III)に示す構造を有するポリエステルポリオールが好ましい。
【0038】
【化3】

[nは、8〜16の自然数である。Rは、鎖状及び環状のアルキレン基であって、その任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよい。]
【0039】
(B)ポリエステルポリオールは、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的固化し易さを考慮すると、屈曲構造を生じにくいものが好ましい。従って、上記化学式(III)のnも偶数であることが、即ち、n=8、10、12、14及び16から選択される少なくとも一種であることが好ましい。Rについても、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的固化し易さを考慮すると、(B)ポリエステルポリオールに屈曲構造を生じにくいアルキレン基が好ましく、Rは、より具体的には、
化学式(IV):−(CH
[m=2〜16]で示されるものが好ましい。ここで、mは、偶数であることがより好ましく、m=2、4、6、8及び10から選択される少なくとも一種が特に好ましい。化学式(IV)のアルキレン基は、任意の位置に任意の置換基を有してよいが、有さなくても良い。
【0040】
本発明に係る(B)ポリエステルポリオールを得るために用いられるジオールとして、例えば、エチレングリコール、1−メチルエチレングリコール、1−エチルエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール等を例示できる。エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール及びデカンジオールから選択される少なくとも一種が好ましい。(B)ポリエステルポリオールを得るために用いられるジオールは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0041】
本発明に係る「(B)ポリエステルポリオール」は、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸及びオクタデカン二酸から選択される少なくとも一種と上記ジオールとの反応で得られたものが好ましく、ドデカン二酸と、ヘキサンジオール及びエチレングリコールから選択される少なくとも一種との反応で得られたものがより好ましく、ドデカン二酸とヘキサンジオールとの反応で得られたものが特に好ましい。(B)ポリエステルポリオールは、結晶性であることが好ましく、その融点は、60℃より高く、120℃より低いことが好ましく、融点は、特に70〜90℃であることが好ましい。(B)ポリエステルポリオールは、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明における、「炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造」とは、下記化学式(V)に示す化学構造を意味する。従って、「炭素数10未満のジカルボン酸」とは、脂肪族ジカルボン酸であっても、脂環式ジカルボン酸であっても、芳香族ジカルボン酸であってもよい。この炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造は、目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができる限り、ウレタンプレポリマー中に、いかなる形で組み込まれていても良く、炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造の任意の位置が任意の置換基で置換されていても良いが、置換されていなくても良い。
【0043】
【化4】

[Rは、炭素数8未満のアルキレン基、炭素数8未満のシクロアルキレン基、炭素数8未満のフェニレン基を意味し、任意の位置が任意の置換基で置換されていても良い。尚、Rの任意の位置が置換基で置換されており、その置換基に炭素原子が含まれる場合、その炭素原子の数も、Rの有する炭素原子数として考慮する。例えば、Rが1,4−ブチレン基の場合、2の位置がメチル基で置換されていてもよく、この場合のRの合計の炭素原子数は、5である。]
化学式(V)中の、Rとして、具体的には、例えば、C1〜C7のアルキレン基、C3〜C7のシクロアルキレン基、1,4−フェニレン基等を例示することができる。
【0044】
本発明において「炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造」は、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的固化し易さを考慮すると、(C)ポリエステルポリオールに屈曲構造を生じにくいものが好ましい。従って、上記化学式(V)のRは、炭素数が偶数の直鎖アルキレン基、シクロアルキレン基、及びp−フェニレン基から選択される少なくとも一種であること(具体的には、例えば、1,2−エチレン基、1,4−ブチレン基、1,6−ヘキシレン基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基)(即ち、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、シクロヘキサン−トランス−1,4−ジカルボン酸及びテレフタル酸から選択される少なくとも一種に由来すること)が好ましい。特に、1,4−ブチレン基(アジピン酸に由来する)であることが好ましい。炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造は単独で又は組み合わせて使用することができ、同様に炭素数10未満のジカルボン酸も単独で組み合わせて使用することができる。
【0045】
更に、炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造は、上述の(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール(以下、「(C)ポリエステルポリオール」ともいう)に基づくことが好ましい。
そのような「(C)ポリエステルポリオール」として、下記化学式(VI)に示す構造を有するポリエステルポリオールが好ましい。
【0046】
【化5】

[Rは、炭素数8未満のアルキレン基、炭素数8未満のシクロアルキレン基、炭素数8未満のフェニレン基を意味し、任意の位置が任意の置換基で置換されていても良い。
は、鎖状及び環状のアルキレン基であって、その任意の位置が任意の置換基で置換されていてもよいが、置換されていなくてもよい。]
【0047】
(C)ポリエステルポリオールは、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的な固化のし易さを考慮すると、屈曲構造を生じにくいものが好ましい。従って、上記化学式(VI)のRは、上述したように、炭素数が偶数の直鎖アルキレン基、シクロアルキレン基、及びp−フェニレン基から選択される少なくとも一種であること(例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、シクロヘキサン−トランス−1,4−ジカルボン酸及びテレフタル酸から選択される少なくとも一種に由来すること)が好ましい。
【0048】
についても、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的な固化のし易さを考慮すると、(C)ポリエステルポリオールに屈曲構造を生じにくいアルキレン基が好ましい。
は、具体的には、化学式(VII):HO−(CH−OH[m=2〜10]で示されるものが好ましい。ここで、mは、偶数であることが特に好ましい。具体的には、(B)ポリエステルポリオールのために例示したジオールを同様に使用することができる。ジオールも、得られる湿気硬化型ホットメルト接着剤の物理的な固化のし易さを考慮すると、(C)ポリエステルポリオールに屈曲構造を生じにくいアルキレン基が好ましい。エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール及びデカンジオールが好ましい。(C)ポリエステルポリオールを得るために用いられるジオールは単独で又は組み合わせて使用することができる。
(C)ポリエステルポリオールは、結晶性を有することが好ましく、その融点は、40℃〜60℃であることが好ましく、特に50〜60℃であることがより好ましい。(C)ポリエステルポリオールは、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明では、(D)イソシアネート化合物は、特に限定されるものではなく、通常のポリウレタン製造に使用されるものを用いることができ、単独でもしくは組み合わせて用いることができる。具体的には、例えば、エチレンジイソシアネート、エチリデン−ジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ブチレン−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−ジイソシアネート、トルエン−ジイソシアネート、シクロペンチレン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート,シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,4−ナフチレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、ジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、アゾベンゼン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、ジクロロヘキサメチレンジイソシアネート、フルフリデンジイソシアネート、1−クロロベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示でき、単独でもしくは組み合わせて用いられる。
【0050】
本発明に係るウレタンプレポリマーは、ポリオール成分である(A)〜(C)と、(D)イソシアネート化合物との反応によって得られる。(A)〜(D)を同時に混合しても良いし、(D)イソシアネート化合物を(A)〜(C)の夫々に反応させ、その後、3種類の反応物((A)と(B)との反応物、(A)と(C)との反応物、(A)と(D)との反応物)を混合しても良い。得られたウレタンプレポリマーは、末端にイソシアネート基を有する。
【0051】
本発明に係るウレタンプレポリマーを得るために反応させる成分(A)〜(C)の割合に関して、(A)〜(C)の合計を100重量部(基準)として、(A)は20〜40重量部であり、(B)は8〜40重量部であることが好ましく、(A)は20〜35重量部であり、(B)は8〜15重量部であることが特に好ましい。
(A)〜(C)の合計を100重量部(基準)として、(A)が20重量部未満の場合、湿気硬化型ホットメルト接着剤メルトの破断伸びが長くなり得、積層品の裁断性が低下し得る。(A)が40重量部を超えると、湿気硬化型ホットメルト接着剤のタックフリータイムが長くなり得る。
(A)〜(C)の合計を100重量部(基準)として、(B)が8重量部未満の場合、湿気硬化型ホットメルト接着剤のタックフリータイムが長くなり得る。(B)が40重量部を超える場合、湿気硬化型ホットメルト接着剤メルトの破断伸びが長くなり得、積層品の裁断性が低下し得る。
【0052】
尚、本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、目的とする湿気硬化型ホットメルト接着剤を得られる限り、例えば、(B)成分及び(C)成分以外のポリエステルポリオール及びポリエステルポリオール等の、その他のポリオールを含んでよい。
【0053】
本発明の反応性ホットメルト接着剤組成物は、必要に応じて他の添加剤を含んで成ってよく、かかる添加剤として、例えば、粘着付与樹脂、可塑剤、酸化防止剤、顔料、光安定剤、難燃剤及び触媒、ワックスを例示することができる。
粘着付与樹脂としては、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、ロジンエステル等が挙げられる。
可塑剤として、例えばジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルアジペート、ミネラルスピリット等を例示できる。
【0054】
酸化防止剤として、例えばフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等を例示できる。
顔料として、例えば酸化チタン、カーボンブラック等を例示できる。
光安定剤として、例えばベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン、ベンゾエート、ベンゾトリアゾール等を例示できる。
難燃剤として、例えばハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤等を例示できる。
【0055】
触媒として、金属触媒、例えば錫触媒(トリメチルチンラウレート、トリメチルチンヒドロキサイド、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマレエート等)、鉛系触媒(オレイン酸鉛、ナフテン酸鉛、オクテン酸鉛等)、そのほかの金属触媒(ナフテン酸コバルト等のナフテン酸金属塩等)、及びアミン系触媒、例えばトリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルへキシレンジアミン、ジアザビシクロアルケン類、ジアルキルアミノアルキルアミン類等を例示できる。
ワックスとしてはパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等のワックスが好ましい。
【0056】
このようにして得られる本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、反応性ホットメルト型接着剤であり、室温では固体であり、反応性ホットメルト型接着剤に常套の方法を用いて使用することができる。一般的に加熱溶融して使用する。
【0057】
本発明に係る積層品は、上記湿気硬化型ホットメルト接着剤を使用して得られたものである。積層品は、本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて、「基材」の表面に「化粧材」をラミネートすることで製造される。積層品を製造する際、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、基材側に塗布しても良いし、化粧材側に塗布しても良い。
【0058】
「基材」は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを例示できる:
ラワン合板等の合板、中繊維板(MDF)、パーティクルボード、無垢材、木質繊維板等の木質系材料;並びに
セメントボード、石膏ボード、軽量気泡コンクリート(ALC)等の無機系材料。
ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック材料;
「基材」の形態についても、特に限定されず、成形樹脂状、フィルム状、シート状であっても差し支えない。
【0059】
「化粧材」は、無色であっても着色されていても、透明であっても不透明であってもよいが、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンを例示でき、ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレートを例示できる。
【0060】
本発明の積層品は、具体的に、例えば、建築材料、電子材料及び自動車分野等、種々の用途に利用可能であるが、特にICモジュールが基材に実装されたカード状の積層品、いわゆるICカードとして好適に利用することができる。
積層品の製造方法の一例を記載するが、本発明は以下の記載例に限定されるものではない。積層品の製造には、特別な装置を使う必要はなく、搬送機、コーター、プレス機、ヒーター、裁断機からなる一般的に知られた製造ラインで差し支えない。
【0061】
基材及び化粧材を搬送機で流しながら、本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤をコーターで基材若しくは化粧材に塗布する。塗布時の温度は、ヒーターで100〜130℃に制御することが好ましい。化粧材をプレス機で基材に軽く押し付け、湿気硬化型ホットメルト接着剤を介して、化粧材と基材とを貼り合わせる。その後、貼りあわされた化粧材と基材を放冷し、そのまま搬送機で流して、一旦固化させる。その後、湿気硬化型ホットメルト接着剤を、湿気による未硬化の状態で、化粧材と基材を60〜90℃に再加熱し、湿気硬化型ホットメルト接着剤を再流動させる。そのまま搬送機で化粧材と基材とを流し、湿気硬化型ホットメルト接着剤の湿気硬化が完了した頃、化粧材が貼られた基材を裁断機で適当な大きさに切断する。切断された積層品は、積み重ねた状態で放置される。
【0062】
本発明は上述したような優れた効果を奏するものであるが、それは、下記のような理由によるものと考えられる。
本発明の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、「ビスフェノール構造」、及び「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造」という特定の二種類の化学構造を有するウレタンプレポリマーを含む。「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造」は、両末端に比較的大きな永久双極子モーメントを有するので、物理的な固化に寄与すると考えられる。固化によって熱収縮を生じ得るので、発明者は、その固化をある程度妨げる構造を導入することが有意義であると考えた。「ビスフェノール構造」は、ビスフェノール系ポリオールが室温で液状であることからも、固化しにくい化学構造であると考えられる。ビスフェノール構造は、中央の炭素で二つのフェニル基が結合するが、その二つのフェニル基が、中央炭素と結合する方向は、互いに大きくずれているので、得られるウレタンプレポリマーに、全体として屈曲した構造を与える。その結果、ビスフェノール構造は、ウレタンプレポリマーに部分的な結晶性の低下をもたらし、固化による熱収縮及び積層品表面の不均一化を防止し、積層品の裁断性低下を防止すると考えられる。
【0063】
本発明に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤の固化性能と、固化による熱収縮及び積層品表面の不均一化防止は、「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造」による物理的な固化の強さと、「ビスフェノール構造」による固化の妨害との全体的なバランスがあると考えられる。「炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造」は、炭素数が偶数である場合、構造全体として直線状となり、より結晶性が高くなり、その結果、より固化性能が高くなると考えられる。そのため、より全体的な性能の調整が可能となり、総合的に優れた湿気硬化型ホットメルト接着剤を得ることができると考えられる。
本発明は、上述のような理由から、優れた効果を奏すると考えられるが、このような理由によって、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0064】
本発明の主な態様を以下に示す。
1.
イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
ウレタンプレポリマーは、ビスフェノール構造、及び炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造を有する、湿気硬化型ホットメルト接着剤。
2.
ビスフェノール構造は、(A)ビスフェノール系ポリオールに由来し、
炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオールに基づく、上記1に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
3.
(A)ビスフェノール系ポリオールは、ビスフェノールA及び/又はその変性物であり、
(B)ポリエステルポリオールは、ドデカン二酸とジオールとの反応で得られる、上記1又は2に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
4.
ウレタンプレポリマーは、炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造を有する、上記1〜3のいずれかに記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
5.
炭素数10未満のジカルボン酸に由来する化学構造は、(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオールに基づく、上記4に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
6.
ウレタンプレポリマーは、(A)〜(D)成分を反応させることによって得られる、上記1〜5のいずれかに記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
(A)ビスフェノール系ポリオール
(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール
(C)炭素数が10未満のジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオール
(D)イソシアネート化合物
7.
(A)〜(C)の総量100重量部に対し、
(A)が20〜40重量部、(B)が8〜40重量部である、上記6に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
8.
成分(B)は、60℃より高く、120℃より低い融点を有する、ポリエステルポリオールであり、
成分(C)は、40〜60℃の融点を有するポリエステルポリオールである、上記6又は7に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
9.
上記1〜8のいずれかに記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤で化粧材と基材とを貼り合わせることで得られる積層品。
10.
上記化粧材と基材とを100〜130℃に熱した状態で貼り合わせ、放冷した後、60〜90℃に化粧材及び基材を再度加熱することで得られる上記9に記載の積層品。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0066】
実施例及び比較例の湿気硬化型ホットメルト接着剤組成物の調製に用いた、成分(A)〜(E)を以下に示す。
成分(A)ビスフェノール系液状ポリオールとして、下記を用いた。
(A−1):(ニューポールBPE−100、三洋化成社製)(組成:ビスフェノールAエチレンオキサイド変性物、液状)
成分(B)結晶性ポリエステルポリオールとして、下記を用いた。
(B−1):(エテルナコール3010、宇部興産社製)(ドデカン二酸とヘキサンジオールからなる結晶性ポリエステルポリオール、融点72℃)
(B−2):(ダイナコール7330、エボニックデグサ社製)(ドデカン二酸とエチレングリコールからなる結晶性ポリエステルポリオール、融点85℃)
【0067】
成分(C)結晶性ポリエステルポリオールとして、下記を用いた。
(C−1):(HS 2H−351A、豊国製油社製)(アジピン酸とヘキサンジオールからなる結晶性ポリエステルポリオール、融点55℃)
(C−2):(HS 2H−458T、豊国製油社製)(アジピン酸及びテレフタル酸とヘキサンジオールからなる結晶性ポリエステルポリオール、融点60℃)
(C−3):(ダイナコール7390、エボニックデグサ社製)(コハク酸とブタンジオールからなる結晶性ポリエステルポリオール、融点115℃)
成分(D)イソシアネート化合物として、下記を用いた。
(D−1):(コスモネートpH、三井化学ポリウレタン社製)(組成:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI))
添加剤(E)として、下記を用いた。
(E−1):(サゾールワックスC80、サゾールワックス社製)(パラフィンワックス、融点80℃)を用いた。
【0068】
<実施例1〜9、比較例1〜6の湿気硬化型ホットメルト接着剤の製造及び評価>
表1及び表2に示される重量部にて、成分(A)〜(C)、(E)をセパラブルフラスコに入れ、125℃で90分間減圧撹拌して脱水し、温度を105℃に下げた後、成分(D)をフラスコに投入し、ウレタンプレポリマーを調製した。ウレタンプレポリマーをそのまま2時間減圧攪拌して、ガラス瓶に取り出して密閉し、湿気硬化型ホットメルト接着剤とした。いずれも120℃で塗工可能な粘度を有するものであった。得られた湿気硬化型ホットメルト接着剤について、下記評価試験を行い、その結果を表1及び表2に示した。
【0069】
<評価方法>
(1)固化性能(タックフリータイム(T.F.T.))
密閉容器内で120℃に加温され溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を開封し、直ちに室温(20〜25℃)下のガラス板上に200μmの厚さに塗工した。指触により表面タックが消失するまでの時間(T.F.T.)を測定した。
評価基準は、下記のとおりである。
◎:タックフリータイムが8秒未満のもの。
○:タックフリータイムが8〜15秒のもの。
△:タックフリータイムが15〜30秒のもの。
×:タックフリータイムが30秒を超えるもの。
【0070】
(2)固化収縮率
120℃に加温した溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を、容積が100cmの円柱状のPP製カップの中に100cm流し込み、そのまま室温(20〜25℃)下で4時間放冷した。
湿気硬化型ホットメルト接着剤は収縮するので、その表面に注意して目視で観察すると、わずかに凹部を生じた。その凹部がなくなるまで、密度0.860g/cm(20℃)のオイル(SK Phasol 36、 SKコーポレーション社製)を凹部に流し込んだ。流し込んだオイルの重量を測定し、下記の式より固化収縮率を算定した。

固化収縮率(%)=
{{(凹部に流し込まれたオイルの重量(g))/ オイルの密度(0.860g/cm)}/(カップの体積(100cm))}×100
評価基準は、下記のとおりである。
◎:固化収縮率が2%以内のもの。
○:固化収縮率が2%より高く、3%以内のもの。
△:固化収縮率が3%より高く、4%以内のもの。
×:固化収縮率が4%より高いもの。
【0071】
(3)熱再活性特性(湿気による未硬化時70℃せん断弾性率(G’))
動的粘弾性測定装置AR-G2 (TAインスルメントジャパン社製)を用い、未硬化時の湿気硬化型ホットメルト接着剤の70℃のせん断弾性率(G’)を求めた。2枚のプレートを湿気硬化型ホットメルト接着剤で貼り合わせ、せん断弾性率(G’)を測定した。
具体的には、検出器に25mm径のアルミニウム製のパラレルプレートを用い、別のパラレルプレートを120℃に加温し、加温されたプレート上に、密閉容器内で120℃に加温されて溶融状態の湿気硬化型ホットメルト接着剤を垂らした。湿気硬化型ホットメルト接着剤を介して検出器のプレートと加熱されたプレートとを挟み込み、プレート間の距離が1500μmになるように調整した。2枚のプレートを一旦室温(20〜25℃)まで冷却し、昇温速度5℃/分 周波数1Hzにて70℃のせん断弾性率(G’)を測定した。
評価基準は、下記のとおりである。
○:せん断弾性率(G’)が0.1〜10万Paのもの。
×:せん断弾性率(G’)が10万Paを超えるもの。
【0072】
(4)接着剤を養生する前(湿気硬化前)の積層品の打ち抜き性(目視)
易接着処理を施した100μm厚のPETフィルム(O300EW36、三菱化学ポリエステル社製)上に、120℃で溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を厚みが700μmになるように塗工した。そのまま30分間放冷し、塗工層上に同じ易接着処理PETフィルムをかぶせ、70℃に加温された回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるよう通過させた。接着剤層表面が熱的に再活性され、積層品が得られた。積層品を23℃、55%RH環境下で30分間放置した。その後、硬度計(アスカー C)による硬度値が70である15mm厚のシリコンゴム基板の上に、積層品を置き、JIS K6251ダンベル試験に参照される3号ダンベルの刃枠を用いて積層品を打ち抜いた。この時、目視で観察して、破断面にバリがなく、きれいに打ち抜けたものを○、破断面にバリがでたものを×とした。積層品を得られなかったものを、−とした。
【0073】
(5)硬化皮膜(湿気硬化後)の破断時伸び率
離型処理を施した25μm厚のPETフィルム(PET25×2CBD フジモリ産業社製)上に120℃で溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を垂らした。更に接着剤の上から同離型処理PETフィルムをかぶせ、接着剤層の厚みが200μmになるようにナイフコーターで調整した。そのまま23℃、55%RH環境下で1週間養生し、湿気硬化型ホットメルト接着剤皮膜を作製した。養生後、得られた皮膜を硬度計(アスカー JA)による硬度値が98である15mm厚のPP基板の上に置き、JIS K6251のダンベル試験に参照される3号ダンベルの刃枠を用いて皮膜を打ち抜いて試験片とした。試験片をJIS K6251に準拠し、引っ張り速度100mm/分で破断に至るまでの標線間距離を測定した。以下の式より破断時の伸び率(%)を算定した。

破断時の伸び率(%)
=(破断時の標線間距離(mm)−初期の標線間距離(20mm))×100/(初期の標線間距離(20mm))
評価基準は、下記のとおりである。
◎:破断伸び率が400%以内のもの。
○:破断伸び率が400%より高く、600%以内のもの。
×:破断伸び率が600%より高いもの。
【0074】
(6)硬化物(湿気硬化後)の60℃引っ張り弾性率(MPa)
動的粘弾性測定装置Rhogel−E4000 (UBM社製)を用い、以下の手順で硬化後の湿気硬化型ホットメルト接着剤の60℃引っ張り弾性率(E’)を求めた。
離型フィル上に120℃で溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を垂らし、接着剤層が1mmになるように調整し、その後、23℃、55%RH環境下で1週間養生した。養生後、フィルムを幅5mm、長さ40mmに切り出し、試験片とした。室温下で試験片をセットし、昇温速度3℃/分 周波数1.6Hzにて、60℃における引っ張り弾性率(E’)を測定した。
評価基準は、下記のとおりである。
◎:引っ張り弾性率が100MPaより大きいもの。
○:引っ張り弾性率が10〜100MPaのもの。
×:引っ張り弾性率が10MPa未満のもの。
【0075】
(7)接着剤を養生した後(湿気硬化後)の積層品の打ち抜き性(目視)
易接着処理を施した100μm厚のPETフィルム(O300EW36、三菱化学ポリエステル社製)上に、120℃で溶融状態にある湿気硬化型ホットメルト接着剤を厚みが700μmになるように塗工した。そのまま30分間放冷し、塗工層上に同じ易接着処理PETフィルムをかぶせ、70℃に加温された回転速度1.5m/分の二つの金属ロールの間を圧締圧力が0.1MPaとなるよう通過させた。接着剤層表面が熱的に再活性され、積層品が得られた。積層品を23℃、55%RH環境下で2週間養生させた後、硬度計(アスカー C)による硬度値が70である15mm厚のシリコンゴム基板の上に、積層品を置き、JIS K6251ダンベル試験に参照される3号ダンベルの刃枠を用いて積層品を打ち抜いた。この時、破断面にバリがなく、きれいに打ち抜けたものを○、破断面にバリがでたものを×とした。積層品を得られなかったものを、−とした。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1に示すように、実施例1〜9の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、(A)、(B)の両成分を有するので、固化性能(タックフリータイム)が良く、固化収縮率が小さく、得られた積層品の裁断性(打ち抜き性、破断伸び、熱再活特性(未硬化時のせん断弾性率))に優れる。
表2に示す比較例1〜6の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、(A)、(B)の両成分のいずれかを有さないので、実施例1〜9の湿気硬化型ホットメルト接着剤と比較して、性能が劣る。
【0079】
比較例1は、(A)成分を有さないので、固化収縮率が上昇し、硬化物の破断時に伸びて高伸張化する。従って、積層品(接着剤養生後)の打ち抜き性が悪くなっている。
比較例2は、(A)成分のみを有し、(B)及び(C)を含まないので、タックフリータイムが高く、固化性能に劣る。積層品の打ち抜き性(接着剤養生前)も低下する。
比較例3は、(B)成分を有さないので、タックフリータイムが短縮できない。積層品(接着剤養生前)の打ち抜き性も、比較例2と同様、劣る。
比較例4は、(A)成分がないので、固化収縮量が大きい。(A)成分がないので、硬化物の破断時に伸びて、高伸張化する。従って、積層品(接着剤養生後)の打ち抜き性が低い。
比較例5は、(B)成分を有さないので、タックフリータイムが短縮できない。
比較例6は、(A)成分を有さないので、固化収縮率が上昇する。未硬化時の接着剤組成物が脆くなり、積層品の打ち抜き性(接着剤養生前)が低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを含む湿気硬化型ホットメルト接着剤であって、
ウレタンプレポリマーは、ビスフェノール構造、及び炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造を有する、湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項2】
ビスフェノール構造は、(A)ビスフェノール系ポリオールに由来し、
炭素数10〜18の脂肪族ジカルボン酸に由来する化学構造は、(B)炭素数が10〜18の脂肪族ジカルボン酸とジオールとの反応で得られるポリエステルポリオールに基づく、請求項1に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤で化粧材と基材とを貼り合わせることで得られる積層品。

【公開番号】特開2009−286941(P2009−286941A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142538(P2008−142538)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(391047558)ヘンケルジャパン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】