説明

湿気硬化型樹脂組成物及びそれを用いた立体装飾品と立体装飾方法

【課題】自由な形状を有する立体装飾品を、使用後には被装飾基材から簡単に剥離することのできる、湿気硬化型樹脂組成物及びそれを用いた立体装飾品と立体装飾方法を提供する。
【解決手段】基材を立体的に装飾するのに使用する湿気硬化型樹脂組成物及びそれを用いた立体装飾品と立体装飾方法を提供する。樹脂組成物に、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含む湿気硬化型樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、プラスチック、セラミックス、木質材料、布等の各種の基材を立体的に装飾するのに使用する湿気硬化型樹脂組成物及びそれを用いた立体装飾品と立体装飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な文字や図柄等からなる装飾や表示を窓ガラスや壁面などのインテリアに施したり、立体デコパージュのような3次元クラフトを行なったりする、いわゆる立体装飾が近年広まってきている。これらの立体装飾用に、粘着性の高いカラフルなゴム成型品からなる立体装飾品が市販されている。このゴム成型品は、取付けも簡単で、必要が無くなれば手で簡単に剥がすことができる。しかしながらこのゴム成型品は、メーカー側の製造した形状しかなく、自由な形状にできないという問題がある。
【0003】
自由な形状の立体装飾品を作製する方法としては、シリコーン系の湿気硬化型樹脂をノズルの形状などを変えて好きな形に押し出して、携帯や手鏡を装飾するという方法が知られている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、現在一般に市販されているシリコーン系や変成シリコーン系の湿気硬化型樹脂組成物は、接着剤、シーリング材として販売されているため各種基材に良く接着し、硬化後基材から剥がすのは非常に困難である。装飾の対象が住宅の窓、壁、床や家具の場合、このように剥がすのが困難であると季節による装飾替えができないし、また剥がす際に木面などを痛めてしまう恐れのため試しに施工してみるということに抵抗がある場合も多い。これに対し、接着付与成分を使用しないことによりコンクリートへの接着を防ぐ方法が提案されているが(特許文献1,2)、ガラスに対しては十分な効果が得られていない。
【0005】
また、自由な形状の立体装飾品を作製する別の方法として、水系アクリルエマルジョン樹脂組成物(特許文献3)やホットメルト系樹脂組成物(特許文献4)を用いる試みもある。これらの組成物は、シリコーン系の組成物に比べれば剥がし易いが、やはり強力に基材に接着する。また、水系アクリルエマルジョン樹脂組成物の場合、材料内の水分が揮発して硬化するため(乾燥硬化)、肉やせし、想定していた形状とは異なる形状となるという問題がある。また、ホットメルト系樹脂組成物の場合、肉やせは無いが、加熱する必要があり、取り扱いが面倒であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−189134号公報
【特許文献2】特開2002−249761号公報
【特許文献3】特開2004−167826号公報
【特許文献4】特開2009−61168号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「粘土で作るデコスイーツ」、パッチワーク通信社、2008年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、自由な形状を有する立体装飾品を、使用後には被装飾基材から簡単に剥離することのできる、湿気硬化型樹脂組成物及びそれを用いた立体装飾品と立体装飾方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の湿気硬化型樹脂組成物は、基材を立体的に装飾するのに使用する樹脂組成物であって、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の湿気硬化型樹脂組成物は、上記重合体(I)と上記重合体(II)の加水分解性基が、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0011】
また、さらに蓄光性顔料、光輝性無機顔料及び香料からなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の立体装飾品は、基材を立体的に装飾するのに使用する立体装飾品であって、該立体装飾品が、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含む湿気硬化型樹脂組成物からなることを特徴する。
【0013】
本発明の立体装飾品は、上記重合体(I)と上記重合体(II)の加水分解性基が、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0014】
また、上記湿気硬化型樹脂組成物が、さらに蓄光性顔料、光輝性無機顔料及び香料からなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の立体装飾方法は、基材を樹脂組成物を用いて立体的に装飾する立体装飾方法であって、該樹脂組成物に、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含む湿気硬化型樹脂組成物を用いることを特徴とする。
【0016】
本発明の立体装飾方法は、上記重合体(I)と上記重合体(II)の加水分解性基が、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0017】
また、上記湿気硬化型樹脂組成物が、さらに蓄光性顔料、光輝性無機顔料及び香料からなる群から選択された少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0018】
また、上記湿気硬化型樹脂組成物を、基材に直接塗布した後で硬化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、自由な形状を有する立体装飾品を作製することができ、かつその立体装飾品が不要となれば、基材から簡単に剥離することができる。特に、従来剥離が困難であったガラスからも簡単に剥離することができる。また、湿気硬化型樹脂組成物を直接基材に塗布して、その場で立体装飾品を作製することも可能であり、予め立体装飾品を作製する場合に比べ、より短時間で装飾を行うことができる。また、本発明で用いる湿気硬化型樹脂組成物は、硬化が速く、かつ化学的に安定であるので、蓄光剤、蛍光顔料、そして芳香成分等の種々の効果付与成分を配合することにより、視覚や嗅覚を利用した特殊効果を利用してより自由度の大きい装飾も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の立体装飾方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の湿気硬化型樹脂組成物は、基材を立体的に装飾するのに使用する樹脂組成物であって、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含むことを特徴とするものである。
【0022】
本発明の対象とする基材には、固体材料であれば特に限定されず、例えば、金属、ガラス、プラスチック、セラミックス、コンクリート、木質材料、布等の各種の材料が含まれる。具体例としては、住宅やオフィスビルの窓ガラスや壁面等の住宅・オフィスの内装材、食器棚や本棚等の家具、自動車内装材、モバイルフォンやモバイルPC、ポータブルカーナビゲーション、テレビ等のリモコンなどの携帯型電化製品、額縁や写真立ての縁取り、ピアノや水槽などの鑑賞品、灰皿やライターといった小物用品等への種々の装飾用途を挙げることができる。
【0023】
(重合体)
本発明に用いる重合体(I)と(II)の主鎖には、ポリオキシアルキレン重合体又はビニル系重合体を用いる。ポリオキシアルキレン重合体には、−CHCHO−、−CHCH(CH)O−、−CHCH(C)O−、−CH(CH)CHO−、−CH(C)CHO−、−CHCHCHO−、及び−CHCHCHCHO−から選択された1種以上の繰り返し単位からなるものを用いることができる。好ましくは、−CHCH(CH)O−である。また、ビニル系重合体には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及びこれら重合体のいずれか2種以上を成分として含む共重合体等を挙げることができる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリレートである。
【0024】
主鎖にポリオキシアルキレン重合体を用いた場合、重合体(I)の分子量は500〜30000、好ましくは1000〜20000である。また、重合体(II)の分子量は500〜30000、好ましくは5000〜20000である。ここで、重合体(I)及び(II)の分子量は、原料である水酸基末端ポリオキシアルキレン重合体の水酸基価換算価分子量に基づいて算出した値である。
【0025】
また、主鎖にビニル系重合体を用いた場合、重合体(I)の数平均分子量は500〜30000、好ましくは1500〜15000である。また、重合体(II)の数平均分子量は500〜30000、好ましくは2000〜15000である。
【0026】
また、重合体(I)の加水分解性ケイ素基は分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満であり、25%以上50%未満が好ましい。また、重合体(II)の加水分解性ケイ素基は分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上100%以下であり、60%以上100%以下が好ましい。
ここで、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率は、末端基が水酸基である重合体の場合、加水分解性ケイ素基導入後の未反応の水酸基を水酸基価分析法を用いて算出することができる。また、末端基の種類に限定されない方法として、IR法やNMR法を用いて加水分解性ケイ素基導入後の末端基を定量することにより算出する方法を用いることもできる。
【0027】
また、重合体(I)及び(II)の加水分解性ケイ素基は、アルキルジアルコキシシリル基やトリアルコキシシリル基を用いることができる。アルキルジアルコキシシリル基は、アルキル基が炭素数1から6のアルキル基が好ましく、アルコキシ基が炭素数1から6のアルコキシ基、すなわち、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基又はn−ヘキシルオキシ基が好ましく、より好ましくはメチルジメトキシシリル基又はメチルジエトキシシリル基、さらに好ましくはメチルジメトキシシリル基である。また、トリアルコキシシリル基は、アルコキシ基が炭素数1から6のアルコキシ基、すなわち、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基が好ましく、より好ましくはトリメトキシシリル基である。重合体(I)及び(II)の加水分解性ケイ素基の組み合わせは特に限定されない。
【0028】
重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜250重量部、好ましくは5〜200重量部使用する。5重量部より少ないとガラスに付着し易くなり、250重量部より多いと、ガラスに接着し易くなるからである。
【0029】
ポリオキシアルキレン重合体に加水分解性ケイ素基を導入する方法としては、2官能の開始剤の存在下、環状エーテルを開環重合させてポリオキシアルキレンジオールを製造し、このジオールの水酸基に加水分解性ケイ素基を導入する方法等の公知の方法を用いることができる。また、ビニル系重合体に加水分解性ケイ素基を導入する方法としては、ビニル系モノマーと、加水分解性ケイ素基含有モノマーとを共重合する方法を用いることができる。加水分解性ケイ素基の導入率を変化させる方法としては、ポリオキシアルキレン重合体の場合、ジオールの水酸基に対する加水分解性ケイ素基のモル数を変化させることに行うことができる。また、ビニル系重合体の場合、共重合させる加水分解性ケイ素基含有モノマーの配合比を変化させることにより加水分解性ケイ素基の導入率を変化させることができる。
【0030】
(硬化触媒)
本発明に用いる湿気硬化型樹脂組成物には、硬化反応を促進させるために硬化触媒を用いる。具体例としては、アルキルチタン酸塩、有機ケイ素チタン酸塩、ビスマストリス−2−エチルヘキサノエート等の金属塩、リン酸、p−トルエンスルホン酸、フタル酸等の酸性化合物、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン等の脂肪族モノアミン、エチレンジアミン、ヘキサンジアミン等の脂肪族ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン類、ピペリジン、ピペラジン等の複素環式アミン類、メタフェニレンジアミン等の芳香族アミン類、エタノールアミン類、トリエチルアミン、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミン等のアミン化合物を挙げることができる。また、ジオクチル酸錫、ジナフテン酸錫、ジステアリン酸錫等の2価の錫と上記アミン類の混合物を挙げることもできる。
【0031】
また、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート及び以下のカルボン酸型有機錫化合物並びにこれらのカルボン酸型有機錫化合物と上記のアミン類との混合物を挙げることもできる。
(n−CSn(OCOCH=CHCOOCH
(n−CSn(OCOCH=CHCOO−(n−C))
(n−C17Sn(OCOCH=CHCOOCH
(n−C17Sn(OCOCH=CHCOO−(n−C))
(n−C17Sn(OCOCH=CHCOO−(iso−C17))
【0032】
また、以下の含硫黄型有機錫化合物を挙げることもできる。
(n−CSn(SCHCOO)
(n−C17Sn(SCHCOO)
(n−C17Sn(SCHCHCOO)
(n−C17Sn(SCHCOOCHCHOCOCHS)
(n−CSn(SCHCOO−(iso−C17))
(n−C17Sn(SCHCOO−(iso−C17))
(n−C17Sn(SCHCOO−(n−C17))
(n−CSnS
【0033】
また、以下の有機錫オキシドを挙げることもできる。
(n−CSnO
(n−C17SnO
【0034】
また、上記の有機錫オキシドとエチルシリケート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル等のエステル化合物との反応生成物を挙げることもできる。
【0035】
また、以下のキレート錫化合物およびこれらのキレート錫化合物とアルコキシシランとの反応生成物(但し、acacはアセチルアセトナト配位子を表す。)を挙げることもできる。
(n−CSn(acac)
(n−C17Sn(acac)
(n−C(C17O)Sn(acac)
【0036】
また、以下の−SnOSn−結合含有有機錫化合物を挙げることもできる。
(n−C(CHCOO)SnOSn(OCOCH)(n−C
(n−C(CHO)SnOSn(OCH)(n−C
【0037】
硬化触媒は、重合体(I)及び(II)の合計量100重量部に対し、0.01〜10重量部使用する。0.01重量部より少ないと効果が十分でなく、10重量部より多いとい硬化物に耐久性が低下するので好ましくない。
【0038】
本発明に用いる湿気硬化型樹脂組成物には、必要に応じて、充填剤、脱水剤、可塑剤等の添加剤を添加することができる。
【0039】
(充填剤)
充填剤としては、公知の充填剤を使用することができる。具体例としては、表面を脂肪酸または樹脂酸系有機物で表面処理した炭酸カルシウム、さらにこれを微粉末化した平均粒径1μm以下の膠質炭酸カルシウム、沈降法により製造した平均粒径1〜3μmの軽質炭酸カルシウム、平均粒径1〜20μmの重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、フュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、およびカーボンブラック、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、活性亜鉛華、シラスバルーン、木粉、パルプ、木綿チップ、マイカ、くるみ穀粉、もみ穀粉、グラファイト、アルミニウム微粉末、フリント粉末等の粉体状充填剤。ガラス繊維、ガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバー等の繊維状充填剤等を挙げることができる。これらの充填剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0040】
充填剤の使用量は重合体(I)及び(II)の合計量に対して1〜1000重量%であり、好ましくは10〜300重量%である。
【0041】
(可塑剤)
本発明に用いる湿気硬化型樹脂組成物には、硬度調整のために可塑剤を使用することもできる。可塑剤としては公知の可塑剤を使用することができる。具体例としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸アルキルエステル類;アジピン酸ジオクチル、コハク酸ジイソデシル、セバシン酸ジブチル、オレイン酸ブチル等の脂肪族カルボン酸アルキルエステル類;ペンタエリスリトールエステル等;リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ベンジル等のエポキシ可塑剤;ポリプロピレングリコール;ポリエチレングリコール;塩素化パラフィン;等を挙げることができる。これらの可塑剤を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0042】
(脱水剤)
また、本発明に用いる湿気硬化型樹脂組成物には、硬化物の物性や硬化性及び貯蔵安定性を調節する目的で加水分解性ケイ素化合物を任意に添加できる。具体例としては、テトラメチルシリケート、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシランなどやこれらのメトキシ基がエトキシ基に置換された化合物などを挙げることができるが、これらに限定されない。添加量は重合体(I)及び重合体(II)の合計量100重量部に対し、0.5〜5重量部である。0.5重量よりも少ないと貯蔵安定性が悪くなる。また5重量部よりも多いとガラスに接着し易くなるからである。
【0043】
その他の添加剤として、チキソ性付与剤、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、顔料、各種の安定剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、オリゴエステルアクリレートのような表面改質を目的とした光硬化性化合物、粘度調整のための溶剤等を添加することもできる。しかし、湿気硬化性樹脂組成物に一般的に使用される各種のシランカップリング剤といった粘着付与剤は添加しない。粘着付与剤を用いると、基材に対し強力に接着するようになるからである。
【0044】
本発明で用いる湿気硬化型樹脂組成物には、さらに、視覚的あるいは嗅覚的な特殊効果を付与する成分を添加することもできる。視覚的あるいは嗅覚的な特殊効果を付与することにより、形状のみの場合に比べ、立体装飾の自由度をさらに大きくすることができる。視覚的な特殊効果を付与する成分としては、蓄光剤、光輝性無機顔料、蛍光顔料、色の変わるコレステリック液晶顔料等を挙げることができる。また、嗅覚的な特殊効果を付与する成分としては香料を挙げることができる。これらの特殊効果付与成分を単独で用いることもでき、あるいは複数種を用いることもできる。特に、蓄光剤、光輝性無機顔料、香料からなる群から選択された少なくとも1種を用いることが好ましい。本発明で用いる湿気硬化型樹脂組成物は、硬化が早く且つ貯蔵安定性がよいので、これら成分を長期に亘り保持することが可能であり、これら成分の効果を十分に発揮させることが可能である。例えば、クリスマスシーズンなど街中がイルミネーションで飾られる時期に、この組成物に蓄光剤などを含む任意の着色剤を配合したものを窓ガラスに装飾しておけば、夜間に光らせることができ、シーズンが終われば剥がすことができる。また芳香成分を徐放する装飾物として利用すれば、持続性が期待でき、これも芳香成分の効果がなくなれば容易に剥がすことができる。
蓄光性顔料は特に限定されないが、ZnS:Cu系化合物(根本特殊化学社製蓄光性顔料)やSrAl系化合物(イージーブライト社製蓄光性顔料)などを挙げることができる。また、光輝性無機顔料は特に限定されないが、薄板状雲母粒子の表面に、各種金属酸化物を被覆した所謂パール顔料や、ガラスフレークの表面に、各種金属酸化物を被覆した商品名メタシャイン(日本板硝子社製)などを挙げることができる。また、香料は芳香成分であれが特に限定されない。
【0045】
本発明の湿気硬化型樹脂組成物は、環境条件下で硬化可能であり、加熱することにより又は水分を添加することにより硬化を促進させることができる。
【0046】
本発明においては、「装飾する」とは、文字、記号、図形、模様又はそれらの2種以上の組み合わせを形成することを意味し、必ずしも美しく装い飾ることを必要としない意味で用いている。
【0047】
(立体装飾品)
本発明の立体装飾品は、基材に付着させ、基材に美的外観や表示機能を付与するものであれば特に限定されない。本発明の立体装飾品には、予め型等を利用して基材に付着させる前に所望の形状に作製したもの、そして基材に直接塗布して形成したものが含まれる。また、本発明の立体装飾品は、本発明の湿気硬化型樹脂組成物を用いて作製したものであれば、形状、色彩、模様、大きさ、厚さ、数量は特に限定されない。
【0048】
(立体装飾方法)
本発明の立体装飾方法は、本発明の湿気硬化型樹脂組成物を用いて基材を装飾する方法であれば特に限定されない。例えば、湿気硬化型樹脂組成物を直接、基材に所望の形状又は模様に塗布しても良く、あるいは型等を利用して所望の形状の立体装飾品を作製し、その立体装飾品を基材に貼り付けることもできる。湿気硬化型樹脂組成物を直接、基材に塗布することが好ましい。より短時間で、装飾を行うことができるからである。
また、図1は、本発明の立体装飾方法の一例であり、手持ち式のガンタイプの塗布装置を用い、カートリッジに収容した湿気硬化型樹脂組成物を塗布ノズルから吐き出して、直接、窓ガラスに塗布して立体装飾品を作製する例を示している。使用する塗布ノズルの形状を工夫することで、様々な表面模様を作り出すことが可能となる。しかし、本発明はこの方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における「部」は、特に断らない限り「重量部」を表す。
【0050】
(重合体の合成)
合成例1.
グリセリンを開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒の存在下プロピレンオキシドを反応させて得られたポリオキシプロピレントリオールの末端水酸基をアリルオキシ基に変換した後精製した。さらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランと反応させ、分子鎖末端の35%にメチルジメトキシシリルプロピル基を導入した重合体Aを合成した。
【0051】
合成例2.
ジターシャリーブチルパーオキサイドを開始剤とし、アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸ブチル、加水分解性シリル基含有単量体としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランからなる単量体混合物を、一定の供給速度で反応温度を250℃に制御しながら25分反応した結果、分子鎖末端の15%にシラン基を導入した重合体Bを合成した。
【0052】
合成例3.
エチレングリコールを開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒の存在下プロピレンオキシドを反応させて得られたポリオキシプロピレンジオールの末端水酸基をアリルオキシ基に変換した後精製した。さらに塩化白金酸を触媒としてメチルジメトキシシランと反応させ、分子鎖末端の60% にメチルジメトキシシリルプロピル基を導入した重合体Cを合成した。
【0053】
合成例4.
亜鉛ヘキサシアノコバルテート−グライム錯体触媒の存在下、ポリオキシプロピレンジオールにプロピレンオキシドを開環重合させてポリオキシプロピレンジオール(重合体P)を得た。耐圧反応器に重合体Pを入れ、内温を110℃に保持しながら減圧脱水した。つぎに、反応器内雰囲気を窒素ガスに置換し、内温を50℃に保持しながら、NCO/OHが0.97となるように、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(純度95%)を投入した。つづいて、内温を80℃に8時間保持して、重合体(P)と3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランをウレタン化反応させて、分子鎖末端の90%にトリメトキシシリル基を導入した重合体Dを得た。
【0054】
ここで、重合体中の加水分解性ケイ素の導入率は、1H−NMR分析から求めた。
【0055】
実施例1〜5及び比較例1〜4.
重合体(I)として重合体A及びB、重合体(II)として重合体C及びDを用いた。これら重合体に、可塑剤としてポリプロピレングリコール、充填剤として加熱乾燥により水分を除去したシリカを加え、遊星式攪拌器(クラボウ社製)を使用して攪拌・混合した。得られた混合物を室温まで温度を下げてから、脱水剤としてシラン化合物と硬化触媒としてジブチルスズビス(アセチルアセトネート)[(n−CSn(acac)]を加えて攪拌・混合して湿気硬化型樹脂組成物を得た。表1に実施例1〜5および比較例1〜4の配合を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
(評価)
(1)対ガラス剥離性試験
温度23℃湿度55%雰囲気下で、JIS R 3202に規定されるガラス板に湿気硬化型樹脂組成物を打設した後3日間養生した。簡易接着性試験(日本シーリング材工業会発刊建築用シーリング材ハンドブック記載方法に準拠)を行い、以下の評価基準を用いてガラスからの剥離性を評価した。
○:樹脂組成物をガラスから容易に剥がすことができる。
×:樹脂組成物の一部がガラスに付着して残る。
【0058】
(2)硬化性試験
温度23℃湿度55%雰囲気下で湿気硬化型樹脂組成物を10mm幅で10mmの高さのアルミチャネルに打設し24時間後切り出した厚み(単位:mm)を測定した。硬化反応は、樹脂組成物の表面から進むため、表面に形成される皮膜の厚さ(以下、硬化厚みという。)が大きい方が、硬化速度が大きいことを示す。
【0059】
(3)貯蔵安定性試験
カートリッジ容器に充填した湿気硬化型樹脂組成物を温度50℃湿度80%のオーブンに7日間に保存した後押し出して外観の変化の有無、タックフリー時間(指蝕乾燥時間)を確認した。以下の評価基準を用いた。
○:外観の変化が無くタックフリー時間が2倍以上変化しない。
×:タックフリー時間が2倍を超える。
なお、比較例3は、硬化性が悪いため、貯蔵安定性の試験は行わなかった。
【0060】
(評価結果)
表2に実施例1〜6および比較例1〜5の評価結果を示す。
【0061】
【表2】


【0062】
比較例1、2は重合体(I)が配合されていないため、硬化性は良好だが、対ガラス剥離性が不合格となった。さらに比較例1はアミノシランを配合していないため、貯蔵安定性が悪かった。比較例3は重合体(I)が配合されているが、重合体(II)の配合量が少ないため硬化厚みが0.5mm以下と実用には不十分な値であった。硬化性が不十分なため、ガラスに対して付着している状態となり、対ガラス剥離性が不合格になった。比較例4は重合体(I)及び重合体(II)がともに配合されているが、重合体(I)100部に対して、重合体(II)が300部と多いために、対ガラス剥離性において、一部剥離せずにガラスに接着した。また、比較例5は、重合体(II)が配合されておらず、比較例3と同じく、硬化性が不十分であり、対ガラス剥離性においても、ガラスに対して付着している状態となり、不合格になった。また、実施例1と2、そして実施例3と4との比較から、加水分解性トリアルコシシリル基を有する重合体を添加すると、硬化速度が増加することがわかった。
【0063】
実施例7.
実施例1で作製した湿気硬化型樹脂組成物にイージーブライト社製蓄光顔料SrAl1425を樹脂組成物100部に対し10部添加し打設用組成物を作製し、図1のように窓ガラスに打設した。夜間に室内の灯りを消すと打設した組成物が光って浮かび上がり装飾効果が確認できた。14日後、打設した組成物をガラスから剥がしたところ、跡も残さずきれいに取ることができた。
【0064】
実施例8.
実施例7で作製した蓄光剤入りの打設用組成物をコンクリートの廊下の両端に打設した。電灯を消した後見ると電灯をつけなくとも廊下の方向が確認できた。また、交換のため剥がしたところ、跡も残さずきれいに取ることができた。
【0065】
実施例9.
実施例1で作製した湿気硬化型樹脂組成物に日本板硝子社製の金属コートマイクロガラス「メタシャイン MC5480PS」を樹脂組成物100部に対し0.5部添加して打設用組成物を作製し実施例7と同様に窓ガラスに打設した。見る方向によりきらきらと光り、装飾効果が得られた。14日後、打設した組成物をガラスから剥がしたところ、跡も残さずきれいに取ることができた。
【0066】
実施例10.
実施例1で作製した湿気硬化型樹脂組成物に株式会社松井色素化学工業所の感温色素「Chromicolor PVC Spray Lacquer Type45,BLUE−PINK」を樹脂組成物100部に対し1部添加して打設用組成物を作成し、実施例7のようにガラス製のコップに打設した。常温室温で青色の組成物がコップに熱いお茶を注ぐと直ぐにピンク色に変化した。そのままお茶が常温まで冷えると組成物が再び青色に変化した。このように温度で色調が繰り返し変化するという装飾効果が得られた。14日後、打設した組成物をコップから剥がしたところ、跡も残さずきれいに取ることができた。
【0067】
実施例11.
実施例1で作製した湿気硬化型樹脂組成物に曽田香料社製の香料「MASKING MO−712」を、樹脂組成物100部に対し0.3部添加して打設用組成物を作製し車のダッシュボードに少量塗りつけたところ、車内にストロベリーの匂いが一週間持続した。一週間後ダッシュボードから剥がしたところ跡も残らずきれいに取れた。
【0068】
以上の通り、本発明によれば、自由な形状を有する立体装飾品を簡単に作製することができ、かつガラス、コンクリート、プラスチック等の種々の基材から簡単に剥離することができる。なお、本発明の湿気硬化型樹脂組成物は、立体装飾用に特に限定されるものではなく、仮止め等の一時的に固定する必要がある種々の用途にも使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を立体的に装飾するのに使用する樹脂組成物であって、
分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含む湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
上記重合体(I)と上記重合体(II)の加水分解性基が、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基である請求項1記載の湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
さらに蓄光性顔料、光輝性無機顔料及び香料からなる群から選択された少なくとも1種
を含む請求項1記載の湿気硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
基材を立体的に装飾するのに使用する立体装飾品であって、
該立体装飾品が、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含む湿気硬化型樹脂組成物からなる立体装飾品。
【請求項5】
上記重合体(I)と上記重合体(II)の加水分解性基が、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基である請求項4記載の立体装飾品。
【請求項6】
上記湿気硬化型樹脂組成物が、さらに蓄光性顔料、光輝性無機顔料及び香料からなる群から選択された少なくとも1種を含む請求項4記載の立体装飾品。
【請求項7】
基材を樹脂組成物を用いて立体的に装飾する立体装飾方法であって、
該樹脂組成物に、分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%未満である重合体(I)と分子鎖末端に対する加水分解性ケイ素基の導入率が50%以上である重合体(II)とを含み、重合体(I)100重量部に対し、重合体(II)を5〜200重量部を含む湿気硬化型樹脂組成物を用いる、立体装飾方法。
【請求項8】
上記重合体(I)と上記重合体(II)の加水分解性基が、アルキルジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基である請求項1記載の立体装飾方法。
【請求項9】
上記湿気硬化型樹脂組成物が、さらに蓄光性顔料、光輝性無機顔料及び香料からなる群から選択された少なくとも1種を含む請求項1記載の立体装飾方法。
【請求項10】
上記湿気硬化型樹脂組成物を、基材に直接塗布した後で硬化させる、請求項7記載の立体装飾方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−859(P2011−859A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147779(P2009−147779)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000107000)シャープ化学工業株式会社 (12)