説明

湿球ウイック給水装置

【課題】 フロートをなくし構造を簡素化し雑菌の繁殖を防止する。
【解決手段】 乾球及び湿球温度センサ4及び1により乾球、湿球温度t、t´を測定して給水制御部6に入れ、(t−t´)から予め記憶されている式によってウイック水消費量を出し、少量の余剰水を加えた水量を送水するように電磁ポンプ4の運転率を制御する。余剰水はウイックパン3の水入れ部からオーバーフローさせる。
【効果】 フロートによる水位制御が不要になる。使用条件により送水量を変えて制御するので、余剰水を少なくすることができ、その回収が不要になり、装置が簡素化される。ウイックパンの水入れ部が短く、水位制御用のタンク等がなくなるので、保有水量が少なくなり、水の滞留時間が短くなり、雑菌の繁殖を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、湿球温度検出部に被せられたウイックに水を供給するための水溜めに給水する湿球ウイック給水装置に関し、例えば恒温恒湿器等の環境試験装置や空調設備の乾球及び湿球による湿度測定に利用される。
【0002】
【従来の技術】例えば恒温恒湿器等の湿球ウイック給水装置としては、従来、図7に示すように、恒温恒湿器の断熱壁101を貫通して長いウイックパンアーム3´を配設し、器内側では、導設された湿球温度センサ1に被せられたウイック2をウイックパンアーム3´の中に浸すと共に、器外側に給水器20を結合し、その給水ノズル21に給水管22を接続し、給水器内に設けたフロート23で給水ノズルの先端を開閉し、給水器を介してウイックパンアームに水を供給するようにしていた。この場合、給水ノズル21には0.01〜0.1kgf/cm2 G程度の圧力の水が供給されるので、フロート力でこれを閉鎖できるように、給水ノズルを例えば1mm程度の小口径のものにしていた。なお、給水器20の上に更に図示しないヘッドタンクを設けることもあった。
【0003】しかしながら、このような湿球ウイック給水装置では、給水ノズルが小さいので、給水系に混入した空気や異物が抜けず水が出なくなることがあった。又、ウイックパンアームが長いと共に給水器20があるため保有水量が多くなり、従って水の滞留時間が長くなり、雑菌が溜まり易い傾向になっていた。更に、ウイックパンアームが長いため水位調節が難しく、これに時間がかかった。そして更に、給水器20やその上に設けられることがあるヘッドタンクや附属配管系が恒温恒湿器の本体の外部に突出してスペースを占有し、装置全体の外形が大きくなるという問題があった。
【0004】一方、必要不可欠な給水タンクの外に、前記給水器に相当する水位検知タンク及びこれからオーバーフローした水を回収する第2の給水タンクを設け、予め入力されたウイック給水槽からの水の蒸発量をエアポンプで水位検知タンクに送り、これからオーバーフローした水を第2の給水タンクを介して給水タンクに回収し、フロートスイッチを廃止することによってメンテナンスフリー化を図るようにした湿球ウイック給水装置が提案されている(特開平8ー108079号公報参照)。この装置では、給水量を予め定めた一定量にしているため、恒温恒湿器の運転条件中でウイックからの水の蒸発量が最大になるときの量にする必要がある。そのため、多くの運転条件で給水量が過大になるので、これをオーバーフローさせるための水位検知タンクやオーバーフロー水の回収用として第2の給水タンクを設けている。
【0005】しかしながら、このような装置では、図7に示す装置におけるフロートスイッチに関連した問題を解決できるものの、雑菌が溜まり易くウイックが乾燥し易いこと、タンクや配管が外部に突出して装置の外形が大きくなること、等の問題は解決されない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は従来技術に於ける上記問題を解決し、小型で簡単な構造で雑菌の繁殖しにくい湿球ウイック給水装置を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために、請求項1の発明は、湿球温度検出部に被せられたウイックに水を供給するための水溜めに給水する湿球ウイック給水装置において、前記水溜めに水を送る送水手段と、主として前記ウイックを介して前記水溜めから蒸発する水の蒸発量に関連する状態変数を検出する検出手段と、該検出手段の検出値に基づいて前記蒸発量に近い推定蒸発量を出してこれに基づいて前記蒸発量と該蒸発量より所定量多い割増蒸発量との間の水量を供給するように前記送水手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする湿球ウイック給水装置。
【0008】請求項2の発明は、上記に加えて、前記検出手段は湿球温度を検出する前記温度検出部と前記ウイックの置かれた環境温度を検出する温度検出手段とを有し、前記制御手段は前記環境温度と前記湿球温度との差から前記推定蒸発量を出すことを特徴とする。
【0009】請求項3の発明は、請求項1の発明の特徴に加えて、前記送水手段は電源を供給されたときにその供給時間に比例した水量を吐出する電磁ポンプであり、前記制御手段は前記供給時間を制御することを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明を適用した湿球ウイック給水装置の全体構成の一例を示す。湿球ウイック給水装置は、断熱壁101で囲われた本体100を備えた恒温恒湿器に装備され、湿球温度検出部である湿球温度センサ1に被せられたウイック2に水を供給するための水溜めであるウイックパン3に給水する装置であり、送水手段としての電磁ポンプ4、検出手段としての温度センサ5及び前記湿球温度センサ1、制御手段としての給水制御部6等を有する。又、水を運搬するための携帯タンク7、恒温恒湿器に据え付けられた給水タンク8、恒温恒湿器の本体100内の底部に形成され湿度調節用の加湿器9、排水管10及び排水用の電磁弁10a、送水管11、ドレン管12等が設けられている。
【0011】図2は、上記湿球ウイック給水装置に使用されるウイックパン3の構造例を示す。ウイックパン3の外筒31は、被支持部としての取付座31a、支持部としての一端側及び他端側の支持板31b及び31c並びに支持座31d、水路部としてのドレン受け部31e、排出口としてのノズル部31f等を有する。取付座31aは、断熱壁101の内側に固定された支持金具102にネジ等によって固定され、支持金具を介して恒温恒湿器に取り付けられる。支持板31b及び31cは穴を備え、その中に内筒32の両端が挿入され支持される。
【0012】ドレン受け部31eは、内筒32の下方でこれに対応して水路を構成するように形成されている。即ち、図1(c)に示す如く、内筒32の先端まで延設されていてその側部及び下部を囲うように断面が馬蹄形状を成し、水路として適当な勾配を持つように形成されている。ノズル部31fには図1に示すドレン管12が結合される。
【0013】内筒32は、管を部分的に切除した構造のものになっていて、図1に示す送水管11が接続管33を介して結合される結合部としての管端部32a、水の入れられる水入れ部32b、堰部としての仕切堰32c、これを越えたオーバーフロー水を排水するための排水路32d、外筒の支持板31cで支持される端部材32e等備えている。
【0014】管端部32aは、前記の如く外筒の支持板31bの穴に挿入されて支持される。水入れ部32bは、同図(d)にも示す如く、管の上方が切除された断面が馬蹄形状をなし、水を供給されると、仕切堰32cによって同図(a)の一点鎖線で示す程度の水位になる。
【0015】仕切堰32cは、送水管の結合される管端部32aから離れた位置であってウイック2の水吸い上げ部分の端2aに近い位置に設けられていて、同図(d)にも示す如く、水入れ部32bの底からhの高さになっている。この高さhは、ウイック2が水を吸い上げるために必要な最低水位以上の水位を保持できる高さである。但し、水を短い時間間隔で送水する場合には、水位は殆ど変動しないので、上記必要最低水位から適当な高さだけ上にあればよい。なお、堰部は、図示のような全堰のほか、V字形堰、U字形堰、円弧形堰、これらの部分堰等、種々の形状のものにすることができる。
【0016】なお、同図(e)に示す如く、外筒31の支持板31bにボス部31gを一体形成し、この部分に内筒32の端管部32aとを嵌合させ、この部分のみで内筒を支持するように構造を簡素化することもできる。この場合には、接続管33は内筒32から下向きに内筒32と一体形成される。
【0017】ウイックパン3の上方には、断熱壁101を貫通して図1にも示した湿球温度センサ1が取り付けられ、これにウイック2が被せられ、その下端部分が水入れ部32b内の水に浸漬される。ウイック2はその水を湿球温度センサ1の部分まで吸い上げる。ウイックに吸い上げられた水は、その周囲の環境条件によって定まる量だけ蒸発する。
【0018】なお、図2に示すウイックパンは本発明の湿球ウイック給水装置に極めて好都合に適用される。しかし、本発明の湿球ウイック給水装置には、送水した水の一部をオーバーフローして排出できるウイックパンであれば、図2に示すもののほか種々の構造のものを採用できる。例えば、図2において外筒31がなく、内筒32が直接断熱壁101に取り付けられ、排水路32dに直接排水管を接続できるようにした構造のものも使用可能である。
【0019】図3は、ウイックパン3から主としてウイックを介して蒸発する水量であるウイック水消費量を求めるために行った実験結果の一例を示す。この実験は、図1に示すような恒温恒湿器を用いて、器内へ吹き出す空気の流速を5〜6m/sの範囲に維持し、器内を種々の温湿度条件にして行われた。ウイック水消費量は、それぞれの温湿度条件において4時間以上連続運転して測定された。図において、横軸は乾球温度(t)と湿球温度(t´)との差(t−t´)°Cであり、立軸はウイック水消費量(cc/h)である。又、図中の数値は温湿度条件を示し、例えば85/20は、温度85°C、相対湿度20%を意味する。
【0020】液体が蒸発して一方向へ拡散するときの拡散量Gは、一般に次式で示すStephan の法則によって得られることが知られている: G=−〔D/RT〕・〔P/(P−p)〕・dp/dx−−−−−(1)
ここで、水が蒸発して大気中に拡散する場合には、Dは大気中に拡散する水蒸気の拡散係数、Rは水蒸気のガス定数、Tは水及び水蒸気の絶対温度、Pは水の周囲にある混合気体である湿り空気の全圧即ち恒温恒湿器内の圧力でほぼ大気圧、pは水蒸気の分圧、(dp/dx)はウイック表面から拡散方向への水蒸気分圧勾配である。ウイックの表面では水が蒸発して水蒸気の分圧が高いので、(dp/dx)は負の値になる。
【0021】上式は、分圧が全圧に較べて小さいときには、近似的に G=(D/RT)・(ps−pa)/δ−−−−−(2)
で表される。ここで、psは水の温度における飽和蒸気圧、paは、ウイックから蒸発する水蒸気の影響を受けないだけ十分離れた位置、即ち恒温恒湿器内の適当な位置における水蒸気の分圧、δは分圧勾配が0になるまでの距離、即ち境界層の厚さである。この式において、(ps−pa)=αP(t−t´)であるから(αは風速等により定まる係数)、式(2)は、 G=(D/RT)・αP(t−t´)/δ−−−−−(3)
として表すことができる。
【0022】式(3)において、D、R、Pは一定値である。(t−t´)は温湿度条件によって変化する。Tとδも温湿度条件によって変化するが、その変化率は比較的小さく又互い相殺する方向に変化する。従って、ウイックからの水の蒸発量は、(t−t´)即ち乾球温度と湿球温度との差によって支配されると考えられ、図3の如く(t−t´)を横軸にして実験値を表した。その結果、種々の温湿度条件において、測定点が直線Lに近い位置にプロットされ、ウイック水消費量と乾球/湿球温度差とはかなりの精度で比例関係を形成することが判明した。なお、図示の直線Mは、直線Lの約10%上の線で、直線NはMが小さい値のときにこれを一定量にした線である。
【0023】以上のような実験に準拠して、本例では、既述の如く検出手段として湿球温度センサ1及び温度センサ5を用いて、主としてウイックを介してウイックパン3から蒸発する水の蒸発量に関連する状態変数として、ウイックの置かれた環境温度即ち恒温恒湿器内の温度tと湿球温度t´とを測定するようにしている。
【0024】給水制御部6は、検出値である温度t及び湿球温度t´に基づいて、例えば図3の直線M及びNで示す水量を供給するように、電磁ポンプ4を制御する。即ち、直線Lを、ウイックパン3から蒸発する真の蒸発量に近い推定蒸発量Gを表す線とし、直線Mを、直線Lに基づいて真の蒸発量とこれより所定量として10%程度多い割増蒸発量との間の水量を表す線とし、直線Mの水量を供給するように電磁ポンプ4を制御する。
【0025】このため、まず、湿球ウイック給水装置が装着される恒温恒湿器等の実際の装置において、試運転等によって推定蒸発量線L及びこれに基づく割増蒸発量線Mを予め決定し、線L又はMのデータをグラフ、数式、数値表等の何れかの形にして、給水制御部6の制御プログラムに組み込んでおく。数式の場合に図3のような結果を用いるとすれば、M=L+b=a(t−t´)+b −−−−−(4)
として表す。ここで、図3の例では係数aは0.94になる。又、定数bは余裕水量を表し、5(cc/h)である。なお、M=a´L=a´(t−t´)とし、例えばa´=1.1aとするような数式を用いてもよい。給水制御部6は、乾球及び湿球温度センサ5及び1の測定値を入力し、(t−t´)を計算した後、例えば上式(3)によりウイック消費水量Gを決定する。
【0026】なお、(t−t´)が小さくなり、ウイック2からの水の蒸発量が一定量以下になるような使用条件では、ウイックパン3内の水の滞留時間が長くなるため、これを防止できるように、本例では最小流量を確保する一定量線Nを設けている。従って、制御部6は、(t−t´)が10°C程度以下のときには、常に水量Nを流すように電磁ポンプ4を制御する。
【0027】図4は電磁ポンプ4の流量特性の一例を示す。図において、横軸は、電源供給時間、即ち電磁ポンプ4が運転されている時間の割合を示し、この場合には、一定周期10秒の間に運転される時間割合φを示す。例えばφ=0.04であれば、4%の時間、即ち10秒間毎に0.4秒間運転されることを意味する。縦軸は、その運転時間割合で運転されたときの電磁ポンプ4の時間当たりの流量を示す。このように、電磁ポンプは、電源が供給されたときに、その供給時間に比例した直線で示される水量Qを吐出する。図3のウイック水消費量の場合には、φは0.01〜0.05程度の範囲の値になる。
【0028】本例では、このような特性を持つ電磁ポンプ4を用いるので、給水制御部6の制御プログラムには、ウイック水消費量と同様に、図4に示す電磁ポンプ4の流量特性がグラフ、数式、数値表等の何れかの形で予め組み入れられる。数式の場合には、例えばφ=cQ −−−−−(5)
として与えられる。図4の例では、係数cは0.001になる。給水制御部6は、前記のようにウイック消費水量Gを決定した後、その水量をQとし、式(5)から運転時間φを計算して出力し、ドライバーとして固体継電器(SSR)61を介して電磁ポンプ4の運転時間を制御する。SSR61では、交流半波からなる電圧を印加する。
【0029】図5は電磁ポンプ4の流量特性の他の例を示す。運転時間の制御方式としては、1回の電源供給時間即ち運転時間を一定にして、そのような運転をする時間間隔即ち周期の長さを制御する方法を用いることもできる。図示の例では、図4の場合よりも流量の多いポンプを用いて、1回の運転時間を40msec とし、必要ポンプ流量Qから周期Tを計算し、給水制御部6はこの周期T毎に電磁ポンプ4を40msec の間運転するように制御する。この場合には、:T=k/Q −−−−−−−(6)
となる。図5の例ではk=400である。なお、上式に代えて、グラフや数表等を用いてもよいことは前例と同様である。
【0030】給水制御部6には操作部分6aが設けられていて、自動給水、初期給水及び停止を選択できるようになっている。自動給水を選択すれば、上記のように運転条件に対応した給水量制御が行われる。初期給水を選択すると、電磁ポンプ4を100%の出力即ち連続で運転し、ウイックパン3に必要な水量が満たされるだけの時間が経過すると、図示しないタイマで電磁ポンプを停止させるような制御が行われる。これにより、速やかに初期給水することができる。
【0031】以上のような湿球ウイック給水装置は次のように作動する。ウイックパン3内には、上記の初期給水操作によって予め水が入れられていて、自動給水状態にされている。恒温恒湿器が運転されると、図示しない循環送風機、加熱器、冷却器や加湿器9等が運転され、温湿度を調整された空気が本体内部を循環し、器内に入れられた電子部品等の試料が目的とする環境条件で試験される。この間、必要に応じて環境条件が変更されるが、湿球ウイック給水装置は、これに対応できるように自動運転される。
【0032】即ち、乾球及び湿球温度センサ4及び1で測定された温度t及び湿球温度t´が給水制御部6に入力され、制御部では、式(4)、(5)等に基づいて、順次(t−t´)、G、φを計算し、SSR61を介して電磁ポンプ4を制御周期毎に間欠運転し、水量Gをウイックパン3に送水する。例えば、(t−t´)が20°Cのときには、実測消費水量を18.8cc/hとし、給水量Gを23.8cc/hとし、これだけの水量がウイックパン3に送水されるように、電磁ポンプ4の運転率φを0.0238にし、10秒間毎に0.238秒間運転することになる。恒温恒湿器の運転状態が変化し、(t−t´)の値が変わったときには、これに対応して電磁ポンプ4の送水量が変化する。
【0033】恒温恒湿器における運転条件が0°C〜100°Cの範囲外のときや長期間運転を停止するような場合には、内筒32内の水の凍結や蒸発、雑菌の繁殖の防止等のために、排水用の電磁弁10aを開き、送水管11及び排水管10を介して内筒の水入れ部32b内の水を排水する。この場合にも、図2に示したウイックパンによれば、内筒の端管部32aに送水管11を直接的に結合できるので、その排水を容易且つ迅速に行うことができる。
【0034】このような給水装置によれば、推定消費水量がウイックパンからの真の蒸発量に近い値になると共に、これを計算して、その計算値に対応した給水量に制御するので、無駄になる過剰給水量を極めて小さい値にすることができる。即ち、従来技術における一定量給水の場合のように、常に最大水量として例えば50cc/h程度の水量を供給すれば、上記の例では31.2cc/hの水が余分になるが、本例の装置では、これを5cc/h程度にすることができる。
【0035】一方、このように、精度良く消費水量を推定し、運転条件に対応して制御するので、過剰水量を少ない量にしても、必要な水量を確実に送水でき、ウイック2が給水不足になることはない。
【0036】そして、余剰水量が少ないため、これを回収する必要がなくなり、従来技術のようなタンクやこれに付属した配管系等を不要のものとし、給水装置の構成を必要最小限の極めて簡素なものにすることができる。そして、当然に設備費用も低減することができる。
【0037】ウイックパン3の内筒の水入れ部32bに送水された水のうちの5cc/h程度の僅かな余剰水は、仕切堰32cを越えて外筒のドレン受け部31eに落とされ、ドレン管12から加湿器9内に入れられる。この水は少量であるから、加湿器が恒温恒湿器等の底部に設けられていない場合には、底部の排水溝等に流すことができる。なお、(t−t´)が小さくなる運転状態では、オーバーフロー水が多少増えるが、この程度の水の加湿器への流入又は排水は問題にならない。
【0038】又、本例の湿球ウイック給水装置によれば、電磁ポンプ4から送水管11を介してウイックパンに直接送水し、従来のようにフロートタンクや水位検知タンクを設けないこと、及び、ウイックパンが恒温恒湿器等の本体内にあって断熱壁を貫通せず、その長さが短くなることから、ウイックパン部分の保有水量を大幅に少なくすることができる。一方、ウイックからの水の蒸発量は同じであるから、保有水量が少なくなればそれだけ水の滞留時間が短くなり、ウイックにはより新鮮な水が給水される。その結果、温度検出精度が向上すると共に、ウイックパン部分における雑菌の繁殖や付着を大幅に低減させることができる。
【0039】そして、フロートタンクを設けないので、その水位調整等が不要になる。又、ウイックパンの長さが短くなることにより、その傾斜調整が容易になる。その結果、湿球ウイック給水装置の取付及び調整が容易化される。更に、電磁ポンプ4からウイックパンに直接送水するので、フロートタンクを設ける場合のように配管サイズの制約がなくなり、これを必要十分な大きさにすることができる。その結果、空気や雑菌による閉塞のおそれがなくなる。更に、フロートによる水位調整を行わないので、水位を安定させるための均圧管を設ける必要がなくなり、そのための工事が不要になる。
【0040】又、ウイックパン3を図2のような構造にすれば、器内を高温高湿条件にしたような場合に内筒の水入れ部32bの下に結露が生じても、結露は外筒のドレン受け部31cに落ちるので、直接下方に落下して試料にかかるような不具合も防止される。一方、ドレン管には僅かなオーバーフロー水が落ちるだけで水が溜まらないので、その外部に結露を生ずることはない。従って、ウイックパンの結露問題が解消される。
【0041】更に、オーバーフロー用の仕切堰32cがウイック2に近い位置にあるので、水面に多少の傾斜が生じてもウイック部分においてそれほど水深が変わらないことから、従来技術のように水入れ部32bを傾斜させたり深くする必要がない。従って、この点からもウイックパン部分の保有水量を少なくすることができる。又、内筒32では、端管部32aから送水しウイックを浸漬する水入れ部32bを介して管端部から離れた仕切堰32cから送水した水をオーバーフローさせるようにしているので、水の滞留部分が発生せず、新しい水がウイックに供給されると共に、内部の水がウイック消費水とオーバーフロー水とによって順次均等に置換されるので、上記の雑菌繁殖抑制効果等が一層向上する。
【0042】なお、以上の例では、ウイックからの水の蒸発量に関連する状態変数として乾球温度と湿球温度とを用いたが、この方法によれば、通常設けられる温度センサを利用して簡易且つ精度良くウイック水消費量を出すことができる。しかし、化学的湿度計や電気湿度計等の湿度計が設けられ場合には、これらを利用して、測定した湿度からウイック水消費量を計算させるようにしてもよい。例えば相対湿度も、乾球・湿球の温度差と一定の関係にあるので、これを用いてウイック水消費量を精度良く計算することができる。又、恒温恒湿器等では、試験すべき温度や湿度を設定器で設定し、その温湿度になるように加熱器、冷却器、及び加湿器を制御するので、温湿度変更時を除いて実測値と設定値とはほぼ一致する。従って、ウイック水消費量を推定するための乾球温度、湿球温度、相対湿度等は、必ずしも直接センサで検出した実測値でなくてもよく、温度や湿度等の設定値を検出値とし、これらを給水制御部6に入力するようにしてもよい。
【0043】又、以上では送水手段として電磁ポンプ4を用いて、その運転時間を制御する例を示した。そのようにすれば、微小流量の水を短い周期で送水することができ、ごく僅かの水をオーバーフローさせつつウイックパン内の水を常に一定且つ最大の水位に維持し、ウイックに安定した良好な給水条件を与えることができる。但し、他の形式の容積式ポンプ等を使用することも可能である。なお、運転時間の制御方式として、制御周期を一定にしてその間における電源供給時間を制御する例を示したが、1回に運転する時間を一定にして、そのような運転をする時間間隔即ち周期の長さを制御する方法を用いてもよい。
【0044】図6はウイックパンの構造の他の例を示す。本例のウイックパンは自己洗浄式ウイックに適用される。即ち、ウイック2が水を吸い上げる吸水部2bと、吸い上げた水の一部分を下端から滴下させる洗浄部2cとを備え、ウイックパン3の排水部32dが図2のものより長くなっていて、その中に洗浄部2cが入るようになっている。洗浄部2cから滴下する水は、オーバーフロー水と共にドレン受け部31eから排水される。このようなウイックでは、本発明を適用したウイックパンによってウイック洗浄水の処理も容易になる。このウイックパンでも、これまで述べた種々の作用効果は維持される。
【0045】
【発明の効果】請求項1の発明によれば、ウイックを浸す水溜めに水を送る送水手段と測定手段と制御手段とを設けるので、測定手段により、主としてウイックを介して水溜めから蒸発する水の蒸発量に関連する状態変数として例えば乾球及び湿球温度を測定し、これを制御手段に送り、制御手段により、測定値に基づいて計算等によって真の蒸発量に近い実測蒸発量を出し、これに準拠して、真の蒸発量とこれより所定量として例えば10%程度多い割増蒸発量との間の水量を供給するように送水手段を制御することにより、必要な給水量を確保すると共に、無駄になる余剰給水量を少なくすることができる。
【0046】その結果、フロートタンクを設けて水位制御したり、余剰給水を回収する必要がなくなり、そのためのタンク類や付属配管類が不要になり、給水装置の構成を大幅に簡素化し、その設備費用の低減を図ることができる。又、湿球ウイック給水装置の設置スペースを縮小し、これが装着される装置全体のサイズを小型化することができる。
【0047】更に、送水手段から水溜めに直接送水するので、水溜めが断熱層等を貫通する必要がなくなって短縮されること、及び、付属タンク類が不要になることから、水溜め部分の保有水量を大幅に減少させることができる。その結果、水の滞留時間が短くなり、新鮮な水の供給によってウイックの温度検出性能が良くなり、雑菌の繁殖や付着が大幅に抑制される。又、フロートの水位調整等が不要になり、水溜めの傾斜調整も容易になり、湿球ウイック給水装置の取付及び調整を容易化することができる。そして更に、送水手段から水溜めへの直接送水により、配管サイズに制約がなくなり、これを必要十分なサイズにして空気や雑菌による閉塞を防止することができる。
【0048】請求項2の発明によれば、測定手段として、湿球温度を検出する温度検出部とウイックの置かれた環境温度を検出する温度検出手段と用いるので、実際には測定手段として温度検出手段のみが追加されることになる。ところが、温度検出手段は、湿球ウイック給水装置の装着される例えば恒温恒湿器等に通常設けられる手段であるから、測定手段として実質的に追加されるものは何もなくなる。そして、実験等によれば、乾球温度と湿球温度との差によって精度良くウイックからの水の蒸発量を計算することができる。その結果、簡易に精度良くウイック水消費量を出すことができる。
【0049】請求項3の発明によれば、送水手段を、電源が供給されたときにその供給時間に比例した水量を吐出する電磁ポンプとし、制御手段によってこの電源供給時間を制御するので、微小流量の水を短い周期で送水し、水溜め内の水位を殆ど変動しない最高水位に維持することができる。その結果、ウイックに安定した良好な給水条件を与え、湿球温度の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した湿球ウイック給水装置の構成例を示す説明図である。
【図2】上記装置に適用できるウイックパンの構造例を示し、(a)は断面図、(b)は平面図、(c)は側面図、(d)は仕切堰の断面図、そして(e)は他の構造例の断面図である。
【図3】ウイック水消費量を測定した実験結果を示す曲線図である。
【図4】電磁ポンプの流量特性の一例を示す曲線図である。
【図5】電磁ポンプの流量特性の他の例を示す曲線図である。
【図6】自己洗浄式ウイックに適用するウイックパンの構造例を示し、(a)は断面図で(b)は平面図である。
【図7】従来の湿球ウイック給水装置のウイックパンアーム部分の構造例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 湿球温度センサ(湿球温度検出部)
2 ウイック
3 ウイックパン(水溜め)
4 電磁ポンプ(送水手段)
5 温度センサ(検出手段)
6 給水制御部(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 湿球温度検出部に被せられたウイックに水を供給するための水溜めに給水する湿球ウイック給水装置において、前記水溜めに水を送る送水手段と、主として前記ウイックを介して前記水溜めから蒸発する水の蒸発量に関連する状態変数を検出する検出手段と、該検出手段の検出値に基づいて前記蒸発量に近い推定蒸発量を出してこれに基づいて前記蒸発量と該蒸発量より所定量多い割増蒸発量との間の水量を供給するように前記送水手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする湿球ウイック給水装置。
【請求項2】 前記検出手段は湿球温度を検出する前記温度検出部と前記ウイックの置かれた環境温度を検出する温度検出手段とを有し、前記制御手段は前記環境温度と前記湿球温度との差から前記推定蒸発量を出すことを特徴とする請求項1に記載の湿球ウイック給水装置。
【請求項3】 前記送水手段は電源を供給されたときにその供給時間に比例した水量を吐出する電磁ポンプであり、前記制御手段は前記供給時間を制御することを特徴とする請求項1に記載の湿球ウイック給水装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平10−246675
【公開日】平成10年(1998)9月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−67337
【出願日】平成9年(1997)3月4日
【出願人】(000108797)タバイエスペック株式会社 (282)