溶出試験方法およびスラグ製品の製造方法
【課題】製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、溶出時間を短縮し、かつ、公定法による溶出試験結果との相関及び測定結果の再現性がスラグ製品の用途の一次決定に利用するのに十分な程度である溶出量の測定結果を得る。
【解決手段】水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕し、粉砕後の製鋼スラグを45℃以上90℃以下の浸漬水中に浸漬させ、浸漬水に超音波を5分以上の時間加えた後に、浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定することとした。
【解決手段】水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕し、粉砕後の製鋼スラグを45℃以上90℃以下の浸漬水中に浸漬させ、浸漬水に超音波を5分以上の時間加えた後に、浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法およびこの方法を用いたスラグ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業の副産物である製鋼スラグは、路盤材等の土木資材などに用いられる際には、スラグの用途ごとに、公に定められた無機物質の水中への溶出量の上限値や、この溶出量を測定するための溶出試験方法(以下、「公定法」とも称する。)、例えば、JIS K0058−1等に定められている溶出量の上限値や溶出試験方法を遵守する必要がある。
【0003】
また、製鋼スラグは、製鋼工程における精錬操作によって溶融状態で生成され、溶鉄との比重差により溶鉄の上部(転炉内の表層側)に存在する。このようにして生成された溶融状態のスラグ(以下、「溶融スラグ」とも称する。)は、一般に、スラグ成分の測定等の溶融時の処理、溶融スラグを凝固させてスラグ半製品とする処理、およびスラグ半製品に事前処理を施してスラグ製品とする処理が行われる。さらに、スラグ製品は、使用を予定している用途に適用可能であることが公定法に従った溶出試験により確認された後に、出荷される。
【0004】
ここで、スラグ半製品に施される事前処理としては、粒度分布を調整する処理やエージング処理等があるが、これらの粒度分布調整処理やエージング処理は、スラグ製品の用途に応じて処理条件が異なる場合がある。実際の操業においては、溶融スラグとともに生成された溶鉄の鋼種を参考にして経験的にスラグ製品の用途が一次決定され、この一次決定された用途に即した粒度分布調整処理やエージング処理の条件が選択され、選択された条件で各処理が実行される。そして、スラグ製品を製造した段階で行われる公定法による溶出試験の結果に基づいて、スラグ製品の用途が最終決定される。
【0005】
このように、過去の経験に基づいてスラグ製品の用途を決定する際、製鋼工程の原料の組成や操業条件等によっては、一次決定された用途と最終決定された用途とが異なる場合があり、この場合、一次決定後に施した事前処理が無駄になったり、最終決定後に更なる事前処理を追加で実施することが必要になったりするため、スラグ製品の製造効率が低下する、という課題があった。
【0006】
これらの課題を解決するため、スラグ半製品の段階で、すなわち、溶融スラグを凝固させた時点で、公定法による溶出試験結果あるいはそれと同等の結果を得て(中間判定)、この結果に基づいてスラグ製品の用途を一次決定することにより、一次決定された用途と最終決定された用途とを極めて高い精度で合致させることが望ましい。
【0007】
ところが、公定法による溶出試験方法では、溶出時間が6時間と定められているため、スラグ半製品の段階での中間判定の方法として、公定法による溶出試験を採用しようとすると、スラグ半製品の段階における用途の一次決定のために許容される時間に対して、中間判定の時間が長くかかり過ぎることになる。より詳細には、例えば、中間判定を実施せずにスラグ製品の用途を一次決定してスラグ半製品に事前処理を施す場合に、スラグ半製品ヤードでのスラグ半製品の貯蔵時間を1時間とする。これに対して、公定法による溶出試験を利用して中間判定を実施した場合には、スラグ半製品をヤードに6時間以上貯蔵しなければならないこととなり、中間判定の実施により、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力が6倍以上必要となることとなる。また、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力を増加させたとしても、スラグ製品の用途の変更が発生した場合は、事前処理装置の稼働率や生産能力が低下する場合もある。このため、中間判定の方法として、公定法による溶出試験を採用することは困難である。
【0008】
よって、最終的なスラグ製品の出荷時には公定法による溶出試験を実施することを前提として、より迅速な中間判定の方法(溶出試験方法)を確立することが希求されている。
【0009】
ところで、スラグやその他の無機物からの可溶出成分の溶出量の測定方法(溶出試験方法)としては、例えば、凝固したスラグを対象として、カラムに充填したスラグをpHが既知の水に24時間浸漬して検液を作成し、検液中の水素イオン指数(pH)から鉛イオンやヒ素イオンの濃度を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0010】
また、鉱物や石炭灰に代表される副産物等の試料を対象として、公定法の1つであるJIS K0058−1に準拠した方法を利用して、より短時間で溶出量を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2では、JIS K0058−1の粗粉試料による方法においては粒径が2mm以下の試料を用いるのに対して、粒径が0.15mm以上2.0m以下の試料を用い、この試料を浸漬した水を撹拌装置で撹拌することにより、JIS K0058−1で6時間必要であった溶出時間を、1時間程度に短縮することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−149197号公報
【特許文献2】特開2008−232699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載された方法は、検液中のイオンが、鉛イオン、ヒ素イオン、水酸化物イオン及び水素イオンのみから構成されている前提で考えられたもので、この方法を、カルシウム(酸化カルシウム、炭酸カルシウム等)を多量に含む製鋼スラグからの溶出量の測定に採用しようとすると、構成成分の前提が大きく異なるため、測定結果のばらつき(再現性)の観点で問題がある。また、特許文献1には、公定法の測定結果との対比が記載されているが、スラグ製品の用途の一次決定に利用する中間判定の方法としては、十分な相関関係があるとはいえない。さらに、特許文献1の方法では、スラグを水中に24時間浸漬させる必要があり、中間判定の方法としては時間がかかり過ぎる。このように、特許文献1の方法は、測定結果のばらつき(再現性)、公定法との相関、試験時間の長さ等の観点から、スラグ製品の用途の一次決定に利用する中間判定の方法として適用することは困難であり、適用した場合には、例えば、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とが頻繁に相違することが予想される、という問題があった。
【0013】
また、上記特許文献2に記載された方法は、1時間という短時間の溶出時間を実現するに当たり、試料からの化学物質の溶出速度を速くするために0.15mm未満の粒径のものを除去して溶出試験を実施している。ただし、この方法は、上述したように、鉱物や石炭灰に代表される副産物等の試料を対象としたものであり、例えば、製鋼スラグ等にこの方法をそのまま適用すると、1時間を超える溶出時間が必要となる。一方、スラグ製品の用途を一次決定するための中間判定方法では、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力の観点から、1時間程度(例えば、40分以内)の判定時間が求められるが、この中間判定に、特許文献2の方法をそのまま適用した場合、スラグからの可溶出成分が十分に溶出し切っていない状態で溶出量を測定することとなる。そのため、公定法による溶出試験の結果との相関が悪くなる(大きなばらつきが生じる)、という問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、溶出時間を短縮し、かつ、公定法による溶出試験結果との相関及び測定結果の再現性がスラグ製品の用途の一次決定に利用するのに十分な程度である溶出量の測定結果を得ることを目的とする。また、本発明は、上記溶出試験方法をスラグ製品の製造方法に適用して、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とを極めて高い精度で合致させ、スラグ製品の製造効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、試料となる製鋼スラグを浸漬させる浸漬水の温度を所定範囲とし、この浸漬水に所定時間超音波を加えながら可溶出成分を溶出させることにより、溶出時間を1時間以内とし、かつ、公定法との相関が良く、再現性に優れた溶出量の測定結果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明によれば、水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、前記試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕し、前記粉砕後の製鋼スラグを45℃以上90℃以下の浸漬水中に浸漬させ、前記浸漬水に超音波を5分以上の時間加えた後に、前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する、溶出試験方法が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品に少なくとも破砕処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて決定された前記破砕処理の条件で、前記スラグ半製品に前記破砕処理を施す、スラグ製品の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品をヤードに貯蔵した後に、前記スラグ半製品に対して所定の事前処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、前記スラグ半製品をヤードに貯蔵するために搬送する際に、当該搬送前の前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する、スラグ製品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、試料となる製鋼スラグを浸漬させる浸漬水の温度を所定範囲とし、この浸漬水に所定時間超音波を加えながら可溶出成分を溶出させることにより、溶出時間を短縮し(例えば、1時間以内)、かつ、公定法による溶出試験結果との相関及び測定結果の再現性がスラグ製品の用途の一次決定に利用するのに十分な程度である溶出量の測定結果を得ることが可能となる。また、この溶出試験方法をスラグ製品の製造方法に適用することにより、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とを極めて高い精度で合致させ、スラグ製品の製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】振とう処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。
【図1B】図1Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【図2A】超音波処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。
【図2B】図2Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【図3】6価クロムの溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図4】6価クロムの相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】鉛の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図6】鉛の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図7】フッ素の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図8】フッ素の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図9】6価クロムの溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図10】鉛の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図11】フッ素の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
[スラグ製品の製造方法の流れ]
まず、本発明の一実施形態に係る溶出試験方法について説明する前提として、このような溶出試験方法が実施されるスラグ製品の製造方法の概略的な流れについて説明する。
【0023】
上述したように、スラグ製品の原料となる製鋼スラグは、製鋼工程における精錬操作によって溶融状態で生成される。この溶融状態のスラグは、以下の(1)〜(4)の処理等を経て出荷される。
(1)スラグ溶融時の処理
(2)スラグ半製品とする処理
(3)スラグ製品とする処理
(4)スラグ製品の溶出試験
【0024】
(1.スラグ溶融時の処理)
精錬工程においては、溶鉄の成分が分析され、この分析結果に応じて、製造する鋼種によっては造滓剤、合金鉄、脱酸剤等が添加され、溶鋼成分が調整される。その結果、溶鉄の上部に(上澄みとして)存在している溶融スラグの成分も同時に調整されることとなる。また、溶融スラグの成分を測定することも可能であり、溶融スラグ自体の成分調整を目的として造滓剤等を添加する場合もあり、造滓剤等を添加した場合には、さらにガス吹き込み等による撹拌処理を施すこともある。このようにして、成分調整を行った後に、溶融スラグを、例えば、スラグ鍋等の容器に排出する。
【0025】
なお、スラグ中の成分はその化合物の形態によって、溶出する場合と溶出しない場合があるため、溶融スラグの成分分析の結果は、分析精度の高低に関わらず、公定法による溶出試験の結果の代替にはならず、スラグ製品の出荷前に、最終的なスラグ製品の溶出試験を公定法に従って実施する必要がある。
【0026】
また、本実施形態における製鋼スラグとは、例えば溶銑予備処理スラグ(脱珪スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ等)、転炉スラグ(脱炭スラグ、等)、二次精錬スラグ、造塊スラグ、がある。本実施形態における製鋼スラグの溶融状態とは、スラグ温度が1200〜1750℃で、スラグが溶融していることを指す。
【0027】
(2.スラグ半製品とする処理)
上述した(1)溶融時の処理の後、容器に貯蔵された溶融スラグを、土間やスラグパン等に放流した後に、必要に応じて散水処理を施しながら凝固させ、スラグ半製品とする。あるいは、溶融スラグを水砕処理や粉砕後の水冷処理等により凝固させ、スラグ半製品としてもよい。
【0028】
(3.スラグ製品とする処理)
次に、スラグ半製品に事前処理(粒度分布調整処理、エージング処理等)を施し、スラグ製品とする。具体的には、スラグ半製品を、その種類ごとにスラグ半製品ヤードに貯蔵し、路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等の用途に応じて、必要な粒度分布調整処理(例えば、磁選処理、粉砕処理、磨砕処理、分級処理等)等を施す。その後、粒度分布が調整されたスラグ半製品に対し、必要に応じてエージング処理(例えば、蒸気エージング処理、大気エージング処理、水浸漬エージング処理等)を施し、スラグ製品とする。製造されたスラグ製品は、スラグ製品ヤードに保管される。
【0029】
なお、スラグ半製品ヤードは、最終的なスラグ製品の用途(路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等)ごとに設けられるほか、必要に応じて、スラグ半製品に施す事前処理の種類ごとに設けられる場合もある。
【0030】
(4.スラグ製品の溶出試験)
上述したようにして得られたスラグ製品については、通常は、スラグ製品ヤードにて保管中に、あるいは、スラグ製品ヤードで保管される直前に(少なくとも、スラグ製品を出荷する前には)、公定法による溶出試験を行う。なお、上述した路盤材(陸上向け)、海洋用途地盤改良材、セメント原料等の用途に応じて、許容される溶出量の上限値が異なるため、出荷前の公定法による溶出試験の結果に基づいて、スラグ製品の用途(出荷先)を最終決定する。
【0031】
(中間判定の必要性)
ここで、上述したように、スラグ半製品に施される粒度分布調整処理やエージング処理は、スラグ製品の用途に応じて処理条件が異なる場合があり、この場合、スラグ半製品の段階でスラグ製品の用途が一次決定され、この一次決定された用途に即した粒度分布調整処理やエージング処理の条件が選択される。このとき、一次決定された用途と最終決定された用途とを高い精度で合致させるために、スラグ半製品の段階で、スラグ製品をいずれの用途とするかについて、溶出試験等により中間判定する必要がある。
【0032】
このような中間判定では、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力の向上や、一次決定された用途と最終決定された用途とを合致させるという目的から、主に、(1)短時間で判定できること、(2)分析の精度(測定結果の再現性)に優れていること、(3)公定法との相関が良いことが必要とされる。本発明者らは、このような観点から、上記中間判定に用いることが可能な溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)について検討した。
【0033】
(中間判定の対象)
中間判定の対象、すなわち、中間判定に用いる溶出試験における測定対象となる試料は、製鋼スラグである。製鋼スラグは、遊離した酸化カルシウム(CaO:フリーCaOとも呼ばれる。)やシリカ(SiO2)を主成分として含有するものであり、通常は、CaOを20質量%以上60質量%以下含有している。また、製鋼スラグは、CaOやSiO2の他に、微量成分や不純物として、鉛(Pb)、六価クロム(Cr(VI))、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)、ボロン(B)等を酸化物等の形態で含有している。これらの製鋼スラグの成分のうち、鉛(Pb)、六価クロム(Cr(VI))、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)、ボロン(B)等は、その酸化物等の形態によっては製鋼スラグを水中に浸漬させた場合に水中に溶出する可溶出成分であり、中間判定に用いる溶出試験や公定法による溶出試験では、これらの可溶出成分の溶出量を測定する。
【0034】
ここで、中間判定に用いる溶出試験や公定法による溶出試験における「溶出」とは、溶出量の測定対象の試料である製鋼スラグ(固体)と、試料を浸漬させる水である浸漬水(液体)とが接触し、固体中の可溶出成分が液体中にイオンの形で溶け出すことや、ろ紙を通過する程度の微細粒(例えば粒径0.45μm以下)となって前記液体中に懸濁する(溶出する)ことを指す。また、「溶出量」とは、浸漬水中に溶出した可溶出成分の浸漬水中における濃度[mg/l]を指す。
【0035】
(可溶性成分の溶出に影響を与える因子)
この「溶出」の定義からわかるように、製鋼スラグからの可溶出成分の溶出は、スラグ(固体)と浸漬水(液体)との接触により生じ、溶出量は、可溶出成分が浸漬水(液体)中へ溶け出した量、すなわち、溶解した量である。従って、製鋼スラグからの可溶出成分の溶出量に対しては、固体であるスラグと液体である浸漬水との接触面積と、可溶出成分の浸漬水への溶解度が大きく影響する。そこで、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積、および、可溶出成分の浸漬水への溶解度を好適な範囲とすることにより、短時間で可溶出成分の溶出を飽和状態とすることができれば、(1)短時間で判定でき、(2)分析の精度(測定結果の再現性)に優れ、かつ、(3)公定法との相関が良い中間判定(溶出試験)を行うことができると考えた。
【0036】
そこで、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積、および、可溶出成分の浸漬水への溶解度について検討した。その結果について以下に詳細に述べる。
【0037】
(スラグと浸漬水との接触面積に関する検討)
まず、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積に関して検討した。
【0038】
<スラグと浸漬水との接触面積と溶出方法との関係>
溶出試験中における製鋼スラグと浸漬水との接触面積の大きさには、固体である製鋼スラグ粒子の崩壊状況が関与すると考えられる。そこで、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積の大きさは、スラグを浸漬水に浸漬させ、可溶出成分を溶出させるときの溶出方法によって制御し得ると考えた。
【0039】
具体的には、溶出試験の際の可溶出成分の溶出方法としては、公定法で規定されている振とうや撹拌等の処理や、付着したコンタミを洗浄する際に汎用される超音波処理(超音波洗浄)等があり得るが、本検討においては、公定法に代表的に用いられている溶出方法として振とう処理を選択し、この処理と対比させる形で超音波処理を選択し、試料となる製鋼スラグ粒子の崩壊状況を検討した。
【0040】
<検討方法(実験方法)>
試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して全量を2mmの篩目(JIS Z 8801−1:2006記載のふるい網の公称目開き2mm)を通過させた(以下、「2mmアンダー」とも記載する。)。
【0041】
ジョークラッシャーは、圧縮力で試料を破砕するもので、間隔を有して対向配置された対となる板の間に試料を入れて破砕するものである。対となる板は、試料との接触面に歯が設けられた歯板であっても良い。この対となる板の一方は固定され(「固定ジョー」とも呼ばれる。)、他方は上部を支点として吊り下げ、これが主軸の偏心運動に伴い固定ジョーに対して往復運動をする(「可動ジョー」とも呼ばれる。)構造となっている。このような構造を有するジョークラッシャーでは、対となる板による試料全体への圧縮応力により、まず最も強度が低くなっている部分、すなわち最も大きな亀裂を持つ部分が破砕されるが、試料が対となる板の間を通り抜ける時間中は引き続き圧縮力がかかり続けるため、小さな内部亀裂まで破壊できる。このジョークラッシャーは、対となる板の間隔(クリアランス)を調整することで破砕する試料の最大粒径を制御することができる。なお、ジョークラッシャーと類似した粉砕機構を備える破砕機には、コーンクラッシャーやダブルロールクラッシャー等がある。
【0042】
a)振とう処理の場合
次に、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に浸漬させた。なお、試料である製鋼スラグの水中への浸漬は、ポリエチレン製容器(以下、「溶出容器」と記載する。)内で行った。
【0043】
次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて振とう処理し、一定時間溶出を行った後のスラグ全質量を100%として、粒度分布を測定した。具体的には、本実験では、2mmアンダーの粒度分布では、比較的大きな粒度である0.71mm〜1.18mm及び1.18mm〜2mmの粒子のそれぞれの存在割合[質量%]に基づいて、粒度分布(質量組成比)の変化を求めた。
【0044】
ここで、本試験における製鋼スラグの粒度分布の測定は、以下のようにして、溶出処理、粒度分布測定用試料の採取、粒度分布測定の順に行った。粒度分布測定は、JIS R1629のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法に準拠して行った。
【0045】
a−1)溶出処理
まず、上述のようにして水中に浸漬させたスラグ試料(製鋼スラグ)に対して、一定時間(1〜360分)溶出処理(振とう処理または超音波処理)を行った後に、0.45μmのメンブランフィルターを用いてろ過した。
【0046】
a−2)粒度分布測定用試料の採取
次に、メンブランフィルター上の残留物を蒸留水で磁性皿に洗い落とし、全量を回収した後に、磁性皿上の試料を100℃の乾燥機内で6時間乾燥させて、粒度分布測定用の試料とした。
【0047】
a−3)粒度分布測定
次に、上記a−2)のようにして得られた試料(製鋼スラグ粒子)1.0gを100mlの分散媒(水)に加え、超音波振動を与えることで、試料を分散媒中に分散させて試料溶液を調製した。試料の分散は、超音波振動を与えることでなく、攪拌することによって行ってもよい。さらに、試料溶液を調製し、セイシン企業製のレーザ回折散乱式粒度分布測定器(SKレーザーマイクロンサイザーLMS−2000e)の循環経路に循環させ、分散媒に分散させた粒子にレーザ光を照射し、散乱パターンを検出した。この散乱パターンに基づき、散乱分布強度から粒度分布を求めた。
【0048】
なお、スラグ試料は、調査する溶出時間毎に調製し、各溶出時間における溶出処理後の試料について、それぞれ上記1)〜3)の処理を行うことにより、粒度分布を測定した。
【0049】
以上のようにして測定した振とう処理による粒度分布の変化を図1A及び図1Bに示した。図1Aは、振とう処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。図1Bは、図1Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【0050】
b)超音波処理の場合
また、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
【0051】
次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波処理し、振とう処理の場合と同様にして粒度分布を測定した。なお、この超音波処理による粒度分布の変化を図2A及び図2Bに示した。図2Aは、超音波処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。図2Bは、図2Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【0052】
<検討結果(実験結果)>
図1A及び図2Aに示すように、振とう処理と超音波処理のいずれの処理を行った場合でも、溶出試験中に製鋼スラグの粒度分布に変化が起こり、0.71mm〜1.18mmの粒度の小さな粒子の質量組成比が増加し、1.18mm〜2mmの粒度の大きな粒子の質量組成比が減少していることから、製鋼スラグ粒子が崩壊して細粒化していることがわかる。従って、振とう処理と超音波処理のいずれの処理を行った場合でも、溶出試験中に、製鋼スラグ粒子が細粒化して製鋼スラグ粒子の全表面積が増加することから、固体である製鋼スラグと液体である水(浸漬水)との接触面積が増大しているものといえる。しかし、振とう処理を行った場合と超音波処理を行った場合とでは、製鋼スラグ粒子の崩壊状況が以下の2点で異なっていた。
【0053】
第1に、製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和するまでの時間が異なっていた。具体的には、図1Aに示すように、振とう処理により溶出させた場合には、粒度分布の変化(細粒化)がほとんど起こらなくなる、すなわち、製鋼スラグ粒子の崩壊がそれ以上進まなくなる(飽和する)までに120分〜180分程度要していた。これに対し、図2Aに示すように、超音波処理により溶出させた場合には、製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和するまでに10分〜20分程度と、溶出開始から非常に早期の段階で粒子の崩壊が飽和することがわかった。
【0054】
第2に、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが異なっていた。具体的には、図1Bに示すように、振とう処理により溶出させた場合には、溶出開始からの経過時間(溶出時間)が60分までは、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが大きく、粒度分布の変化の傾向を特定することができなかった。これに対して、図2Bに示すように、超音波処理により溶出させた場合には、溶出時間が5分〜60分までの間では、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが、振とう処理の場合と比べて非常に小さく、粒度分布の変化の傾向を特定することができた。すなわち、超音波処理により溶出させた場合には、溶出の非常に早期の段階から、溶出時間の経過に応じて粒子が細粒化する傾向を認識することができた。
【0055】
その結果、振とう処理を用いて溶出させた場合に比べて超音波処理を用いて溶出させた場合の方が、浸漬水中における製鋼スラグ粒子の崩壊が、溶出経過時間が早期の段階で飽和し、かつ、早期の段階(溶出開始からの経過時間が5分以上)から、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが小さいこと判明した。すなわち、本発明者らは、製鋼スラグ中の可溶出成分の溶出方法として、公定法で用いられている振とう処理ではなく、超音波処理を採用することにより、製鋼スラグと浸漬水との接触面積を短時間で飽和する大きさまで増大させることができ、しかも、溶出時間が短くても接触面積のばらつきが小さい、ということを見出した。
【0056】
以上の検討結果から、本発明者らは、中間判定に利用する溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)における溶出方法としては、超音波処理を採用し、かつ、この超音波処理を5分以上(60分以下)行って、製鋼スラグ中の可溶出成分を溶出(以下、「超音波溶出」とも記載する。)させることが適当であるとの知見を得た。このように、中間判定に利用する溶出試験において超音波溶出を行うことにより、中間判定に要する時間を著しく短縮することができる。また、超音波溶出を用いた溶出試験は、接触面積のばらつきが少ないことから、溶出量の測定結果の再現性にも優れている。
【0057】
<超音波処理と振とう処理との崩壊状況が異なる理由>
まず、製鋼スラグ中の可溶出成分は、2mmアンダーに粉砕した試料である製鋼スラグ粒子の表面と、溶出中に製鋼スラグ粒子が崩壊することにより細粒化して新たに発生した粒子の表面から、それぞれ溶出し得る。この場合、製鋼スラグ粒子の崩壊は、製鋼スラグ粒子が有する亀裂などの隙間に浸漬水が浸透し、製鋼スラグ中のフリーライム(遊離状態のCaO)と反応することによる製鋼スラグ粒子の体積膨張に起因して生じるものと考えられる。このような製鋼スラグ粒子の崩壊の機構に鑑みると、振とう処理による溶出よりも超音波溶出の方が、早期に製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和し、しかも、崩壊状況のばらつきが小さい理由は、振とう処理による溶出と超音波溶出とが、製鋼スラグ粒子への振動の与え方が異なることによるものと考えられる。すなわち、超音波溶出では、超音波洗浄機等を用いて超音波を溶出容器に加えるのであるが、この場合、浸漬水中の製鋼スラグ粒子全体に均一に震動を与えることができることから、製鋼スラグ粒子中の隙間へ浸漬水が浸透する時間が短い。そのため、浸漬水が浸透した製鋼スラグ粒子が、その粒子中の隙間を基点として分離(崩壊)することが、振とう処理による溶出の場合よりも容易である。このような理由により、振とう処理による溶出よりも超音波溶出の方が、早期に製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和し、しかも、崩壊状況のばらつきが小さくなるものと推定される。
【0058】
<超音波溶出における発振周波数>
なお、超音波洗浄装置の発振周波数は28〜68kHz程度が常用されており、上述した通り、発振周波数28kHzで製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきの安定効果、すなわち、製鋼スラグ粒子の崩壊の促進効果が得られている。また、上述した製鋼スラグ粒子の崩壊の機構であれば、発振周波数が高いほど、製鋼スラグ粒子の崩壊は促進されるものと考えられる。従って、発振周波数28kHz以上であれば安定したスラグ崩壊が得られるか、あるいは、少なくとも超音波洗浄装置で常用される発振周波数の上限(68kHz)までは同様の効果が得られるものと予測される。
【0059】
(可溶出成分の浸漬水への溶解度(溶出温度)に関する検討)
次に、本発明者らは、可溶出成分の浸漬水への溶解度に関して検討した。
【0060】
溶出試験中における製鋼スラグ中の可溶出成分の浸漬水への溶解度は、可溶出成分の物性や、浸漬水およびスラグの温度等による定まるものである。そこで、本発明者らは、これらの可溶出成分の溶解度を決める要因のうち浸漬水の温度に着目し、溶出試験の測定結果の再現性に優れ、かつ、公定法との相関が良くなる条件について検討した。
【0061】
<検討方法(実験方法)>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
【0062】
次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(浸漬水の温度)を室温(本実験時の室温は25℃)、45℃、50℃、60℃、90℃のそれぞれに維持した状態で超音波溶出処理を行った。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、可溶出成分が溶出した浸漬水(以下、「溶出液」とも記載する。)を採取した。さらに、溶出液中の可溶出成分として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法(6価クロムに関しては、ジフェニルカルバジド吸光光度法、鉛に関しては、ICP発光分光分析法、フッ素に関しては、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)を用いて測定し、この測定結果から溶出率(%)と相対標準偏差(%)を求めた。
【0063】
ここで、上記溶出率は、公定法で定められている振とう処理による溶出(以下、「振とう溶出」とも記載する。)の場合の溶出量を100%としたときの超音波溶出の場合の溶出量の比率として求めた。具体的には、公定法(JIS K0058)における振とう溶出を360分間行った後の溶出量(mg/l)をQS360とし、超音波溶出をt分行った後の溶出量(mg/l)をQUtとしたとき、超音波溶出によるt分後の溶出率(%)を、(QUt/QS360)×100として求めた。また、上記相対標準偏差は、各温度条件における3回の溶出量(mg/l)測定結果の平均値をXiとし、標準偏差をσとしたとき、相対標準偏差(%)を、(σ/Xi)×100として求めた。なお、溶出率が高いほど、公定法による6時間の溶出試験の測定結果との相関が良いことを示し、相対標準偏差が小さいほど、測定結果のばらつきが小さい(すなわち、分析精度が高い)ことを示している。
【0064】
以上のようにして求めた溶出率(%)および相対標準偏差(%)の結果を図3〜図8に示す。図3は、6価クロムの溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図4は、6価クロムの相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図5は、鉛の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図6は、鉛の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図7は、フッ素の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図8は、フッ素の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。なお、図3〜図8において、縦軸は、溶出率(%)または相対標準偏差(%)、横軸は、溶出時間(分)を示している。また、図6において、溶出温度が室温で、溶出時間が5分の場合の相対標準偏差の値は、62.8%である。
【0065】
<検討結果(実験結果)>
図3、図5および図7に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度45℃〜90℃の範囲では、超音波溶出の開始後5分以降に溶出率(溶出量)が大幅に増加する傾向にあった。また、図3〜図8に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度が45℃以上で5分以上の超音波溶出を行った場合、溶出率が高く、相対標準偏差が低く、溶出量の測定値のばらつきが小さいものであった。特に、超音波溶出による溶出時間を10分以上とした場合には、溶出率は70%以上であり、また、相対標準偏差が5%程度以下であり、溶出量の測定値のばらつきが極めて小さいものであった。このように、超音波溶出を採用した場合、溶出温度を45℃以上、溶出時間を5分以上とすることで、溶出量の測定値のばらつきを小さくできるため、測定された溶出量に所定の係数を乗ずることで、精度良く公定法による溶出(振とう溶出)を360分間行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
【0066】
なお、図3〜図8には、6価クロム、鉛およびフッ素の結果について記載したが、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素も同様の傾向を示していた。
【0067】
また、製鋼スラグ中のCaOは、溶出液のpHを上昇させ、溶出量が変動する可能性があるが、20質量%および60質量%のいずれの場合も、上述した検討結果(CaOが45質量%の場合)と同様の傾向があった。
【0068】
以上の検討の結果、中間判定に用いる溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)における溶出温度を45℃以上、溶出時間を5分以上と規定することとした。また、溶出温度が90℃を超えると、目視で溶出液の蒸発が大きくなり、分析に適さないと判断し、本発明の溶出試験方法における溶出温度を90℃以下とした。
【0069】
さらに、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度が45℃〜90℃の範囲で溶出時間5分〜10分で溶出率が飽和傾向にあり、また、溶出温度を60℃以上とし、超音波溶出の時間を10分以上とすることで、ほぼ100%の溶出率を得ることができていた。従って、本発明の溶出試験方法においては、溶出温度は60℃以上であることが好ましく、溶出時間は10分以上であることが好ましいと判断した。
【0070】
(溶出時間に関する検討)
次に、本発明者らは、超音波溶出を行い、溶出温度を上述した45℃〜90℃の範囲とした場合の溶出時間の範囲について、さらに詳細に検討した。より具体的には、溶出温度60℃で超音波溶出を行った場合と、公定法に規定されるように常温で振とう溶出を行った場合とで、両溶出方法の溶出率(%)および相対標準偏差(%)を比較することにより、最適な溶出時間を検討した。
【0071】
<検討方法(試験方法)>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して2mmアンダーの製鋼スラグを得た。
【0072】
振とう溶出の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて常温(本実験においては25℃)で振とう溶出を行った。
【0073】
超音波溶出の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(溶出温度)を60℃に維持した状態で超音波溶出を行った。
【0074】
また、以上の振とう溶出および超音波溶出のそれぞれにおいては、溶出時間(溶出開始からの経過時間)を5分、10分、20分、30分、60分、90分、180分および360分とした。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、溶出液を採取した。さらに、溶出液中の可溶出成分として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法(6価クロムに関しては、ジフェニルカルバジド吸光光度法、鉛に関しては、ICP発光分光分析法、フッ素に関しては、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)を用いて測定し、この測定結果から溶出率(%)と相対標準偏差(%)を求めた。なお、溶出率(%)および相対標準偏差(%)は、上述した溶出温度の検討の際と同様にして求めた。
【0075】
以上のようにして求めた溶出率(%)および相対標準偏差(%)の結果を図9〜図11に示す。図9は、6価クロムの溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図10は、鉛の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図11は、フッ素の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。なお、図9〜図11において、縦軸は溶出率(%)、横軸は溶出時間(分)を示している。また、図9〜図11において、相対標準偏差(%)は、各プロット上に記載している。
【0076】
<検討結果(実験結果)>
図9〜図11に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、超音波溶出の場合には、溶出処理開始後10分程度で溶出率が飽和する(溶出率がほとんど増加しなくなり、ほぼ一定となる)傾向が見られた。一方、振とう溶出の場合には、溶出処理開始後180分程度経過してから飽和する傾向が見られた。
【0077】
また、超音波溶出の場合には、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出処理開始後5分程度で相対標準偏差が10%以下となり、さらに、溶出処理開始後10分程度で相対標準偏差が5%以下となり、測定値のばらつきが非常に小さいものであった。一方、振とう溶出の場合には、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出処理開始後の各測定時刻における測定値のばらつきを超音波溶出の場合と比較すると、相対標準偏差が約2.5倍となっており、超音波溶出処理よりも測定値のばらつきが大きいという結果になった。
【0078】
以上の結果を整理すると、超音波溶出を採用した場合、以下の2点が言える。
(1)6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する(ほとんど溶出が起こらなくなる)傾向があった。
(2)6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が5分以降は、溶出量の測定値のばらつきが小さいものであった。
【0079】
従って、中間判定に用いる溶出試験において、溶出方法として超音波溶出を採用した場合には、溶出量の測定値に所定の係数を乗ずることで、精度良く公定法による溶出(振とう溶出)を360分間行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
【0080】
なお、図3〜図8には、6価クロム、鉛およびフッ素の結果について記載したが、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素も同様の傾向を示していた。
【0081】
また、製鋼スラグ中のCaOは、溶出液のpHを上昇させ、溶出量が変動する可能性があるが、20質量%および60質量%のいずれの場合も、上述した検討結果(CaOが45質量%の場合)と同様の傾向があった。
【0082】
以上の検討の結果、中間判定に用いる溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)における溶出時間を5分以上と規定することとした。さらに、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する傾向にあり、また、溶出時間を10分以上とすることで、相対標準偏差が5%以下と非常にばらつきの小さな測定結果を得ることができていた。従って、本発明の溶出試験方法においては、溶出時間は10分以上であることが好ましいと判断した。
【0083】
また、本発明の溶出試験方法では、スラグ製品の用途の一次決定の際に用いる中間判定の判定時間を、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力を向上させるために短縮する(概ね1時間以内とする)という目的から、溶出時間の上限値を60分とした。
【0084】
以上のような検討により、本発明者らは、スラグ製品の用途の一次決定の際に行う中間判定に用いる試験方法として、以下に説明する溶出試験方法が適用可能であることを見出した。以下、図12を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法について詳細に説明する。図12は、本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法の流れを示すフローチャートである。
【0085】
[本実施形態に係る溶出試験方法]
本実施形態に係る溶出試験方法は、水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する方法であって、下記の条件を必須とするものである。
(A)試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕する。
(B)粉砕後の製鋼スラグを浸漬水中に浸漬させ、浸漬水の温度を45℃以上90℃以下とし、かつ、浸漬水に超音波を5分以上60分以下の時間加えることにより、浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する。
【0086】
(本実施形態に係る溶出試験方法の処理の流れ)
具体的には、図12に示すように、まず、試料となる製鋼スラグを粉砕機で2mmアンダーの粒度となるように粉砕する(S101)。このとき使用する粉砕機としては、特に限定はされないが、上述したように、例えば、ジョークラッシャーやダブルロールクラッシャー等を用いることができる。次いで、粉砕された試料(製鋼スラグ粒子)を篩い分けし、2mmメッシュの篩い目を通過した粒度が2mm以下のものを回収する(S103)。
【0087】
次に、回収された粉砕後(2mmアンダー)の試料を、溶出容器中にて、45℃以上90℃以下の水(浸漬水)中に浸漬する(S105)。さらに、浸漬水に超音波を5分以上60分以下加えることにより、可溶性成分を溶出させる(S107:超音波溶出処理)。この超音波溶出処理に用いる装置としては、上述したような温度制御が可能な恒温槽を有する超音波洗浄装置を用いることができる。
【0088】
ここで、超音波溶出処理を採用した理由、浸漬水の温度(溶出温度)を45〜90℃とした理由、超音波を加える時間(溶出時間)を5〜60分とした理由等については、上述した通りであるので、詳細な説明は省略する。
【0089】
次に、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、メンブランフィルター等のフィルターを用いて吸引ろ過し、浮遊物や不溶解成分を分離した溶出液(ろ液)を回収する(S109)。このとき、溶出容器中の溶出液が、微細な浮遊物を多く有する濁った状態である場合には、ろ過中にフィルターの目詰まりを起こす可能性があるため、吸引ろ過前に遠心分離を行うことが望ましい。遠心分離を行う場合には、例えば、遠心分離機を用いて3000回転/分程度で遠心分離し、浮遊物等の不純物を沈降させ、上澄み液を吸引ろ過することにより、浮遊物や不溶解成分を分離した溶出液を回収し、以降の可溶出成分の定量に用いる検液とする。
【0090】
次に、ステップS109で回収された溶出液中の溶出物のうち、特定の成分の溶出量を測定する(S111)。このとき、測定対象となるのは、主に、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素のうちの少なくとも1種以上の成分である。これらの成分の定量方法については特に限定されないが、例えば、6価クロム、鉛、フッ素の場合には、以下のような測定方法により溶出量を測定することができる。
【0091】
1)6価クロムの場合
6価クロムの溶出量の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ジフェニルカルバジド吸光光度法を使用することができる。具体的には、前処理を行った検液にジフェニルカルバジド試薬を添加し、Cr6+を呈色させる。この呈色溶液に光を照射し、波長540nm付近の吸光度から、Cr(VI)の量を測定する。
【0092】
2)鉛の場合
鉛の溶出量の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ICP発光分光分析法を使用することができる。具体的には、前処理を行った検液に溶媒抽出操作を行い、この溶液を発光部に導入し、Pbの発光強度からPb量を測定する。
【0093】
3)フッ素の場合
フッ素の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法を使用することができる。具体的には、検液中フッ素化合物を蒸留分離し、ランタン(III)とアリザリンコンプレキソンとの錯体を加え、この錯体がフッ素化物イオンと反応して生じる青い色の複合錯体を含んだ溶液に対して光を照射し、波長620nm付近の吸光度からF量を測定する。
【0094】
(本実施形態に係る溶出試験方法の効果)
以上のステップS101〜S111を含む本実施形態に係る溶出試験方法によれば、製鋼スラグ中の可溶出成分の溶出量を短時間(例えば、1時間以内)に測定することができ、しかも、ばらつきが小さく、公定法との相関も良い測定結果を得ることができる。
【0095】
また、このような本実施形態に係る溶出試験方法を、スラグ製品の製造における用途の一次決定の際の中間判定に利用することにより、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とを極めて高い精度で合致させ、スラグ製品の製造効率を向上させることができる。
【0096】
[本実施形態に係る溶出試験方法を利用したスラグ製品の製造方法]
次に、上述した溶出試験方法を利用したスラグ製品の製造方法について詳細に説明する。
【0097】
スラグ製品の製造においては、一般に、スラグ凝固処理を行い、スラグ半製品とした後に、スラグ半製品に事前処理を施し、スラグ製品とする。事前処理としては、各スラグ製品(路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等)に応じた粒度分布とすることによりスラグ製品の比重を調整する処理や、各スラグ製品に応じたエージング処理等があり、これらの処理が必要に応じてスラグ半製品に施される。そして、最終的にスラグ製品をヤードに貯蔵し、出荷前に、公定法による溶出試験を実施する。下記表1に、代表的なスラグ製品の製造工程の概略を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、スラグ製品の種類によって、適した粒度分布や、エージングの有無および方法が異なっており、スラグ半製品には、これらの用途に応じた粒度分布の調整やエージングを施す必要がある。
【0100】
また、一般に、スラグ製品ヤードに、製鋼工程における鋼種単位またはチャージ単位で山積みして貯蔵されたスラグ製品は、公定法による溶出試験の結果に基づいて、その用途(製品の種類)が最終決定される。用途が最終決定されたスラグ製品は、必要に応じて粒度分布調整等の処理が施され、出荷先に応じて出荷用のヤードに、他の鋼種や他のチャージのスラグ製品と共に貯蔵される。
【0101】
ここで、スラグ製品は、公定法による溶出試験によって各種の溶出物の浸漬水中における濃度が測定されるが、各溶出物には、その種類ごとに溶出濃度の上限値が設定されている。例えば、路盤材や海洋用途地盤改良材であれば、それぞれに適用される公定法によって溶出濃度の上限値が設定され、セメント原料であれば、セメントの製造条件に応じた溶出濃度の上限値が当業者によって適宜設けられている。
【0102】
このような溶出濃度の上限値に対して、公定法による溶出試験で測定した溶出濃度の値が小さな値(すなわち、溶出濃度の上限値以下の濃度)であれば、各用途(路盤材、海洋用途地盤改良材等)のスラグ製品として出荷することが可能である。しかし、公定法による溶出試験で測定した溶出濃度の値が、スラグ半製品の段階で一次決定された用途(例えば、路盤材用)のスラグ製品の溶出濃度の上限値を超える場合には、一次決定された用途を、測定された溶出濃度の値が設定された溶出濃度の上限値以下となる用途(例えば、海洋用途地盤改良材用)に変更する必要が生じる。この場合、例えば、スラグ製品の出荷前に、変更後の用途のスラグ製品に応じた粒度分布となるように粒度分布を調整するための新たな処理が必要となる。また、変更前の用途では必要であるが、変更後の用途では必要のない事前処理を行ってしまう場合などもあり、処理の無駄が生じてしまう。
【0103】
また、スラグ半製品は、用途別、さらには、製鋼工程における鋼種やチャージ単位別に区別して保管される。そのため、一次決定された用途と最終決定された用途とが一致しない場合には、一次決定された用途のスラグ半製品ヤードに貯蔵されたスラグ半製品ロットを、最終決定された用途のスラグ半製品ヤードに移送することが必要となる。この場合、一次決定された用途のスラグ半製品ヤードの貯蔵能力が、スラグ半製品ロットの移送が完了するまでは低下していたことになる。スラグ半製品ヤードの貯蔵能力は、スラグ半製品をヤードに持ち込むために極めて重要で、ヤードの貯蔵能力に不足があればスラグ半製品の持ち込みができず、スラグ半製品の事前処理の停止につながる場合もある。
【0104】
しかし、一次決定されたスラグ製品の用途と最終決定された用途とを高精度で合致させることができれば、上記のような処理の無駄を省き、また、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力を向上させてスラグ半製品の事前処理の停止という事態を回避することができる。
【0105】
そこで、本実施形態では、スラグ半製品の段階でスラグ製品の用途を一次決定する際に、一次決定された用途と最終決定された用途とを高精度で一致させるために、上述した本実施形態に係る溶出試験方法を用いて中間判定を行い、この中間判定の結果に基づいて、スラグ製品の用途を一次決定している。本実施形態に係る溶出試験方法によれば、製鋼スラグ中の可溶出成分の溶出量を短時間(例えば、1時間以内)に測定することができ、しかも、ばらつきが小さく、公定法との相関も良い測定結果を得ることができるため、この溶出試験方法により中間判定を行えば、一次決定された用途と最終決定された用途とを高精度で一致させることができる。
【0106】
このような本実施形態に係る溶出試験方法を利用したスラグ製品の製造方法としては、例えば、以下のような2つの態様が挙げられる。
【0107】
第1に、本実施形態に係る溶出試験方法を、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品に少なくとも破砕処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法に利用することができる。具体的には、本実施形態に係るスラグ製品の製造方法は、スラグ半製品について、上述した本実施形態に係る溶出試験方法を用いて浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて中間判定を行い、この中間判定の結果に応じて一次決定された用途のスラグ製品に適した破砕処理の条件で、スラグ半製品に破砕処理を施す方法である。このように、本実施形態に係る溶出試験方法を用いて中間判定した結果に応じてスラグ製品の用途を一次決定することにより、一次決定されたスラグ製品の用途と最終決定された用途とを高精度で一致させることができる。
【0108】
第2に、本実施形態に係る溶出試験方法を、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品をヤードに貯蔵した後に、このスラグ半製品に対して所定の事前処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法に利用することができる。具体的には、本実施形態に係るスラグ製品の製造方法は、スラグ半製品をヤードに貯蔵するために搬送する際に、当該搬送前のスラグ半製品について、上述した本実施形態に係る溶出試験方法を用いて浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する方法である。このように、本実施形態に係る溶出試験方法を用いて溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて中間判定した結果に応じて、スラグ製品の用途を一次決定することにより、一次決定されたスラグ製品の用途と最終決定された用途とを高精度で一致させることができる。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0110】
次に、本発明について実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0111】
以下に説明するように、実施例1では、スラグ製品の用途を一次決定する際に、本発明に係る溶出試験方法を用いた中間判定を用いた場合の事前処理の無駄を省く効果について確認し、実施例2では、スラグ製品の用途を一次決定する際に、本発明に係る溶出試験方法を用いた中間判定を用いた場合のスラグ半製品ヤードの貯蔵能力が向上する効果について検討した。
【0112】
ここで、公定法による溶出試験の溶出量の上限値に対し、測定した溶出量が下回る値であれば、各用途(路盤材や海洋用途地盤改良材等)の製品として出荷することは可能である。ただし、スラグ出荷者の都合に応じて、公定法による溶出試験で規定されている溶出量の上限値に1未満の係数(例えば、0.5〜0.9の範囲の係数)を乗じて、より低い値の溶出量の上限値を公定法で規定されている上限値に代用する管理が実施される場合がある。そこで、以下の実施例では、公定法で規定された溶出量の上限値より低い値の溶出量の上限値(以下、「製造管理値」と称する。)を用いた場合の例について述べる。
【0113】
(実施例1)
例えば、スラグ製品ヤードにおける一次決定で路盤材向けとされたスラグ製品の公定法による溶出試験に基づいて測定された溶出量が、路盤材の製造管理値を超え、この溶出量が海洋用途地盤改良材の製造管理値未満である場合、このスラグ製品ロットは用途を路盤材から海洋用途地盤改良材へ変更する最終決定がなされる。この際、当該スラグ製品ロット(以下、「ロットA」と記す。)の比重を、海洋用途地盤改良材として望まれるより大きな比重に変更する必要があるため、当該スラグ製品ロットと異なる海洋用途地盤改良材向けのスラグ半製品ロット(以下、「ロットB」と記す。)と混合し、この2つのロットを混合して1つのロットとすることで比重が調整される。
【0114】
この際、ロットの混合後の粒度分布を、海洋用途地盤改良材用の粒度分布とするため、混合処理、ロットAやロットBのロット分割や、ロットAの再度の篩分け処理や破砕処理、ロットBの通常とは異なる破砕処理、のうちの1つあるいは2つ以上の処理が必要となる場合がある。
【0115】
このような場合に、製鋼スラグからの溶出量の中間判定を、例えば、粒度分布の作り込み工程の入側やエージング処理工程の処理前に実施していれば、当該スラグ製品ロットAに施した蒸気エージング処理は、実施する必要が無く、処理費用の安い大気エージング処理を実施することができる。また、ロットAやロットBのロット分割、ロットBの通常とは異なる破砕処理、この破砕処理に必要な粉砕機の調整時間が不要となる。
【0116】
以上のように、中間判定をスラグ製品の製造工程の途中で適宜実施することで、上述した蒸気エージング処理、混合を前提とした粉砕機による破砕処理、篩分け処理、等の無駄が省略できるためこれら処理能力を向上させることができる。
【0117】
本発明者らは、表1の路盤材用の粒度分布の調整工程、海洋用途地盤改良材用の粒度分布の調整工程、セメント原料用粒度分布の調整工程、の入側で、本発明に係る溶出処理方法を用いた中間判定を実施したところ、例えば、粉砕機の生産量が5%増加した。また、蒸気エージング処理能力や篩分け処理の処理能力も同様に増加した。
【0118】
(実施例2)
また、スラグ半製品は、その保管に際して、用途(路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等)別に、さらに、製鋼工程の鋼種やチャージ単位別に区別して保管される。上述したような用途の一次決定と最終決定が合致しない場合には、例えば、路盤材向けのスラグ半製品ヤードに貯蔵したスラグ半製品ロットを、海洋用途地盤改良材向けのスラグ半製品ヤードに移送する必要が生じる。
【0119】
このとき、路盤材向けのスラグ半製品ヤードの貯蔵能力が、上記の移送が完了するまでは低下していたことになる。スラグ半製品ヤードの貯蔵能力は、スラグ半製品を持ち込むために極めて重要で、貯蔵能力に不足があればスラグ半製品の持ち込みができず、スラグ半製品の事前処理の停止につながる場合もある。
【0120】
このような場合においても、中間判定をスラグ持ち込み前に実施し、上述したスラグ製品の用途変更によるスラグ半製品の移送を無くせば、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力の無駄が省略でき、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力向上につながり、スラグ半製品の事前処理作業の停止をいう事態を回避できる。
【0121】
本発明者らは、表1の粒度分布調整工程(路盤材向け、海洋用途地盤改良材向け)の処理後のスラグ半製品ロットに、本発明に係る溶出試験方法を用いた中間判定を実施し、中間判定後に、エージング工程(蒸気エージングあるいは大気エージング)が行われるスラグ半製品ヤードに、上記の中間判定を実施したスラグ半製品ロットを持ち込む操業を実施した。その結果、エージング工程のスラグ半製品ヤードやスラグ製品ヤードの貯蔵能力の無駄が無くなり、ヤード貯蔵能力不足による粉砕機の停止回数や、他のヤードへの移送作業回数が10%以上削減できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法およびこの方法を用いたスラグ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業の副産物である製鋼スラグは、路盤材等の土木資材などに用いられる際には、スラグの用途ごとに、公に定められた無機物質の水中への溶出量の上限値や、この溶出量を測定するための溶出試験方法(以下、「公定法」とも称する。)、例えば、JIS K0058−1等に定められている溶出量の上限値や溶出試験方法を遵守する必要がある。
【0003】
また、製鋼スラグは、製鋼工程における精錬操作によって溶融状態で生成され、溶鉄との比重差により溶鉄の上部(転炉内の表層側)に存在する。このようにして生成された溶融状態のスラグ(以下、「溶融スラグ」とも称する。)は、一般に、スラグ成分の測定等の溶融時の処理、溶融スラグを凝固させてスラグ半製品とする処理、およびスラグ半製品に事前処理を施してスラグ製品とする処理が行われる。さらに、スラグ製品は、使用を予定している用途に適用可能であることが公定法に従った溶出試験により確認された後に、出荷される。
【0004】
ここで、スラグ半製品に施される事前処理としては、粒度分布を調整する処理やエージング処理等があるが、これらの粒度分布調整処理やエージング処理は、スラグ製品の用途に応じて処理条件が異なる場合がある。実際の操業においては、溶融スラグとともに生成された溶鉄の鋼種を参考にして経験的にスラグ製品の用途が一次決定され、この一次決定された用途に即した粒度分布調整処理やエージング処理の条件が選択され、選択された条件で各処理が実行される。そして、スラグ製品を製造した段階で行われる公定法による溶出試験の結果に基づいて、スラグ製品の用途が最終決定される。
【0005】
このように、過去の経験に基づいてスラグ製品の用途を決定する際、製鋼工程の原料の組成や操業条件等によっては、一次決定された用途と最終決定された用途とが異なる場合があり、この場合、一次決定後に施した事前処理が無駄になったり、最終決定後に更なる事前処理を追加で実施することが必要になったりするため、スラグ製品の製造効率が低下する、という課題があった。
【0006】
これらの課題を解決するため、スラグ半製品の段階で、すなわち、溶融スラグを凝固させた時点で、公定法による溶出試験結果あるいはそれと同等の結果を得て(中間判定)、この結果に基づいてスラグ製品の用途を一次決定することにより、一次決定された用途と最終決定された用途とを極めて高い精度で合致させることが望ましい。
【0007】
ところが、公定法による溶出試験方法では、溶出時間が6時間と定められているため、スラグ半製品の段階での中間判定の方法として、公定法による溶出試験を採用しようとすると、スラグ半製品の段階における用途の一次決定のために許容される時間に対して、中間判定の時間が長くかかり過ぎることになる。より詳細には、例えば、中間判定を実施せずにスラグ製品の用途を一次決定してスラグ半製品に事前処理を施す場合に、スラグ半製品ヤードでのスラグ半製品の貯蔵時間を1時間とする。これに対して、公定法による溶出試験を利用して中間判定を実施した場合には、スラグ半製品をヤードに6時間以上貯蔵しなければならないこととなり、中間判定の実施により、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力が6倍以上必要となることとなる。また、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力を増加させたとしても、スラグ製品の用途の変更が発生した場合は、事前処理装置の稼働率や生産能力が低下する場合もある。このため、中間判定の方法として、公定法による溶出試験を採用することは困難である。
【0008】
よって、最終的なスラグ製品の出荷時には公定法による溶出試験を実施することを前提として、より迅速な中間判定の方法(溶出試験方法)を確立することが希求されている。
【0009】
ところで、スラグやその他の無機物からの可溶出成分の溶出量の測定方法(溶出試験方法)としては、例えば、凝固したスラグを対象として、カラムに充填したスラグをpHが既知の水に24時間浸漬して検液を作成し、検液中の水素イオン指数(pH)から鉛イオンやヒ素イオンの濃度を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0010】
また、鉱物や石炭灰に代表される副産物等の試料を対象として、公定法の1つであるJIS K0058−1に準拠した方法を利用して、より短時間で溶出量を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2では、JIS K0058−1の粗粉試料による方法においては粒径が2mm以下の試料を用いるのに対して、粒径が0.15mm以上2.0m以下の試料を用い、この試料を浸漬した水を撹拌装置で撹拌することにより、JIS K0058−1で6時間必要であった溶出時間を、1時間程度に短縮することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−149197号公報
【特許文献2】特開2008−232699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に記載された方法は、検液中のイオンが、鉛イオン、ヒ素イオン、水酸化物イオン及び水素イオンのみから構成されている前提で考えられたもので、この方法を、カルシウム(酸化カルシウム、炭酸カルシウム等)を多量に含む製鋼スラグからの溶出量の測定に採用しようとすると、構成成分の前提が大きく異なるため、測定結果のばらつき(再現性)の観点で問題がある。また、特許文献1には、公定法の測定結果との対比が記載されているが、スラグ製品の用途の一次決定に利用する中間判定の方法としては、十分な相関関係があるとはいえない。さらに、特許文献1の方法では、スラグを水中に24時間浸漬させる必要があり、中間判定の方法としては時間がかかり過ぎる。このように、特許文献1の方法は、測定結果のばらつき(再現性)、公定法との相関、試験時間の長さ等の観点から、スラグ製品の用途の一次決定に利用する中間判定の方法として適用することは困難であり、適用した場合には、例えば、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とが頻繁に相違することが予想される、という問題があった。
【0013】
また、上記特許文献2に記載された方法は、1時間という短時間の溶出時間を実現するに当たり、試料からの化学物質の溶出速度を速くするために0.15mm未満の粒径のものを除去して溶出試験を実施している。ただし、この方法は、上述したように、鉱物や石炭灰に代表される副産物等の試料を対象としたものであり、例えば、製鋼スラグ等にこの方法をそのまま適用すると、1時間を超える溶出時間が必要となる。一方、スラグ製品の用途を一次決定するための中間判定方法では、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力の観点から、1時間程度(例えば、40分以内)の判定時間が求められるが、この中間判定に、特許文献2の方法をそのまま適用した場合、スラグからの可溶出成分が十分に溶出し切っていない状態で溶出量を測定することとなる。そのため、公定法による溶出試験の結果との相関が悪くなる(大きなばらつきが生じる)、という問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、溶出時間を短縮し、かつ、公定法による溶出試験結果との相関及び測定結果の再現性がスラグ製品の用途の一次決定に利用するのに十分な程度である溶出量の測定結果を得ることを目的とする。また、本発明は、上記溶出試験方法をスラグ製品の製造方法に適用して、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とを極めて高い精度で合致させ、スラグ製品の製造効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、試料となる製鋼スラグを浸漬させる浸漬水の温度を所定範囲とし、この浸漬水に所定時間超音波を加えながら可溶出成分を溶出させることにより、溶出時間を1時間以内とし、かつ、公定法との相関が良く、再現性に優れた溶出量の測定結果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明によれば、水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、前記試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕し、前記粉砕後の製鋼スラグを45℃以上90℃以下の浸漬水中に浸漬させ、前記浸漬水に超音波を5分以上の時間加えた後に、前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する、溶出試験方法が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品に少なくとも破砕処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて決定された前記破砕処理の条件で、前記スラグ半製品に前記破砕処理を施す、スラグ製品の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品をヤードに貯蔵した後に、前記スラグ半製品に対して所定の事前処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、前記スラグ半製品をヤードに貯蔵するために搬送する際に、当該搬送前の前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する、スラグ製品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製鋼スラグから溶出する成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、試料となる製鋼スラグを浸漬させる浸漬水の温度を所定範囲とし、この浸漬水に所定時間超音波を加えながら可溶出成分を溶出させることにより、溶出時間を短縮し(例えば、1時間以内)、かつ、公定法による溶出試験結果との相関及び測定結果の再現性がスラグ製品の用途の一次決定に利用するのに十分な程度である溶出量の測定結果を得ることが可能となる。また、この溶出試験方法をスラグ製品の製造方法に適用することにより、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とを極めて高い精度で合致させ、スラグ製品の製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】振とう処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。
【図1B】図1Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【図2A】超音波処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。
【図2B】図2Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【図3】6価クロムの溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図4】6価クロムの相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】鉛の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図6】鉛の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図7】フッ素の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図8】フッ素の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図9】6価クロムの溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図10】鉛の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図11】フッ素の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。
【図12】本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
[スラグ製品の製造方法の流れ]
まず、本発明の一実施形態に係る溶出試験方法について説明する前提として、このような溶出試験方法が実施されるスラグ製品の製造方法の概略的な流れについて説明する。
【0023】
上述したように、スラグ製品の原料となる製鋼スラグは、製鋼工程における精錬操作によって溶融状態で生成される。この溶融状態のスラグは、以下の(1)〜(4)の処理等を経て出荷される。
(1)スラグ溶融時の処理
(2)スラグ半製品とする処理
(3)スラグ製品とする処理
(4)スラグ製品の溶出試験
【0024】
(1.スラグ溶融時の処理)
精錬工程においては、溶鉄の成分が分析され、この分析結果に応じて、製造する鋼種によっては造滓剤、合金鉄、脱酸剤等が添加され、溶鋼成分が調整される。その結果、溶鉄の上部に(上澄みとして)存在している溶融スラグの成分も同時に調整されることとなる。また、溶融スラグの成分を測定することも可能であり、溶融スラグ自体の成分調整を目的として造滓剤等を添加する場合もあり、造滓剤等を添加した場合には、さらにガス吹き込み等による撹拌処理を施すこともある。このようにして、成分調整を行った後に、溶融スラグを、例えば、スラグ鍋等の容器に排出する。
【0025】
なお、スラグ中の成分はその化合物の形態によって、溶出する場合と溶出しない場合があるため、溶融スラグの成分分析の結果は、分析精度の高低に関わらず、公定法による溶出試験の結果の代替にはならず、スラグ製品の出荷前に、最終的なスラグ製品の溶出試験を公定法に従って実施する必要がある。
【0026】
また、本実施形態における製鋼スラグとは、例えば溶銑予備処理スラグ(脱珪スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ等)、転炉スラグ(脱炭スラグ、等)、二次精錬スラグ、造塊スラグ、がある。本実施形態における製鋼スラグの溶融状態とは、スラグ温度が1200〜1750℃で、スラグが溶融していることを指す。
【0027】
(2.スラグ半製品とする処理)
上述した(1)溶融時の処理の後、容器に貯蔵された溶融スラグを、土間やスラグパン等に放流した後に、必要に応じて散水処理を施しながら凝固させ、スラグ半製品とする。あるいは、溶融スラグを水砕処理や粉砕後の水冷処理等により凝固させ、スラグ半製品としてもよい。
【0028】
(3.スラグ製品とする処理)
次に、スラグ半製品に事前処理(粒度分布調整処理、エージング処理等)を施し、スラグ製品とする。具体的には、スラグ半製品を、その種類ごとにスラグ半製品ヤードに貯蔵し、路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等の用途に応じて、必要な粒度分布調整処理(例えば、磁選処理、粉砕処理、磨砕処理、分級処理等)等を施す。その後、粒度分布が調整されたスラグ半製品に対し、必要に応じてエージング処理(例えば、蒸気エージング処理、大気エージング処理、水浸漬エージング処理等)を施し、スラグ製品とする。製造されたスラグ製品は、スラグ製品ヤードに保管される。
【0029】
なお、スラグ半製品ヤードは、最終的なスラグ製品の用途(路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等)ごとに設けられるほか、必要に応じて、スラグ半製品に施す事前処理の種類ごとに設けられる場合もある。
【0030】
(4.スラグ製品の溶出試験)
上述したようにして得られたスラグ製品については、通常は、スラグ製品ヤードにて保管中に、あるいは、スラグ製品ヤードで保管される直前に(少なくとも、スラグ製品を出荷する前には)、公定法による溶出試験を行う。なお、上述した路盤材(陸上向け)、海洋用途地盤改良材、セメント原料等の用途に応じて、許容される溶出量の上限値が異なるため、出荷前の公定法による溶出試験の結果に基づいて、スラグ製品の用途(出荷先)を最終決定する。
【0031】
(中間判定の必要性)
ここで、上述したように、スラグ半製品に施される粒度分布調整処理やエージング処理は、スラグ製品の用途に応じて処理条件が異なる場合があり、この場合、スラグ半製品の段階でスラグ製品の用途が一次決定され、この一次決定された用途に即した粒度分布調整処理やエージング処理の条件が選択される。このとき、一次決定された用途と最終決定された用途とを高い精度で合致させるために、スラグ半製品の段階で、スラグ製品をいずれの用途とするかについて、溶出試験等により中間判定する必要がある。
【0032】
このような中間判定では、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力の向上や、一次決定された用途と最終決定された用途とを合致させるという目的から、主に、(1)短時間で判定できること、(2)分析の精度(測定結果の再現性)に優れていること、(3)公定法との相関が良いことが必要とされる。本発明者らは、このような観点から、上記中間判定に用いることが可能な溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)について検討した。
【0033】
(中間判定の対象)
中間判定の対象、すなわち、中間判定に用いる溶出試験における測定対象となる試料は、製鋼スラグである。製鋼スラグは、遊離した酸化カルシウム(CaO:フリーCaOとも呼ばれる。)やシリカ(SiO2)を主成分として含有するものであり、通常は、CaOを20質量%以上60質量%以下含有している。また、製鋼スラグは、CaOやSiO2の他に、微量成分や不純物として、鉛(Pb)、六価クロム(Cr(VI))、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)、ボロン(B)等を酸化物等の形態で含有している。これらの製鋼スラグの成分のうち、鉛(Pb)、六価クロム(Cr(VI))、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、セレン(Se)、フッ素(F)、ボロン(B)等は、その酸化物等の形態によっては製鋼スラグを水中に浸漬させた場合に水中に溶出する可溶出成分であり、中間判定に用いる溶出試験や公定法による溶出試験では、これらの可溶出成分の溶出量を測定する。
【0034】
ここで、中間判定に用いる溶出試験や公定法による溶出試験における「溶出」とは、溶出量の測定対象の試料である製鋼スラグ(固体)と、試料を浸漬させる水である浸漬水(液体)とが接触し、固体中の可溶出成分が液体中にイオンの形で溶け出すことや、ろ紙を通過する程度の微細粒(例えば粒径0.45μm以下)となって前記液体中に懸濁する(溶出する)ことを指す。また、「溶出量」とは、浸漬水中に溶出した可溶出成分の浸漬水中における濃度[mg/l]を指す。
【0035】
(可溶性成分の溶出に影響を与える因子)
この「溶出」の定義からわかるように、製鋼スラグからの可溶出成分の溶出は、スラグ(固体)と浸漬水(液体)との接触により生じ、溶出量は、可溶出成分が浸漬水(液体)中へ溶け出した量、すなわち、溶解した量である。従って、製鋼スラグからの可溶出成分の溶出量に対しては、固体であるスラグと液体である浸漬水との接触面積と、可溶出成分の浸漬水への溶解度が大きく影響する。そこで、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積、および、可溶出成分の浸漬水への溶解度を好適な範囲とすることにより、短時間で可溶出成分の溶出を飽和状態とすることができれば、(1)短時間で判定でき、(2)分析の精度(測定結果の再現性)に優れ、かつ、(3)公定法との相関が良い中間判定(溶出試験)を行うことができると考えた。
【0036】
そこで、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積、および、可溶出成分の浸漬水への溶解度について検討した。その結果について以下に詳細に述べる。
【0037】
(スラグと浸漬水との接触面積に関する検討)
まず、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積に関して検討した。
【0038】
<スラグと浸漬水との接触面積と溶出方法との関係>
溶出試験中における製鋼スラグと浸漬水との接触面積の大きさには、固体である製鋼スラグ粒子の崩壊状況が関与すると考えられる。そこで、本発明者らは、製鋼スラグと浸漬水との接触面積の大きさは、スラグを浸漬水に浸漬させ、可溶出成分を溶出させるときの溶出方法によって制御し得ると考えた。
【0039】
具体的には、溶出試験の際の可溶出成分の溶出方法としては、公定法で規定されている振とうや撹拌等の処理や、付着したコンタミを洗浄する際に汎用される超音波処理(超音波洗浄)等があり得るが、本検討においては、公定法に代表的に用いられている溶出方法として振とう処理を選択し、この処理と対比させる形で超音波処理を選択し、試料となる製鋼スラグ粒子の崩壊状況を検討した。
【0040】
<検討方法(実験方法)>
試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して全量を2mmの篩目(JIS Z 8801−1:2006記載のふるい網の公称目開き2mm)を通過させた(以下、「2mmアンダー」とも記載する。)。
【0041】
ジョークラッシャーは、圧縮力で試料を破砕するもので、間隔を有して対向配置された対となる板の間に試料を入れて破砕するものである。対となる板は、試料との接触面に歯が設けられた歯板であっても良い。この対となる板の一方は固定され(「固定ジョー」とも呼ばれる。)、他方は上部を支点として吊り下げ、これが主軸の偏心運動に伴い固定ジョーに対して往復運動をする(「可動ジョー」とも呼ばれる。)構造となっている。このような構造を有するジョークラッシャーでは、対となる板による試料全体への圧縮応力により、まず最も強度が低くなっている部分、すなわち最も大きな亀裂を持つ部分が破砕されるが、試料が対となる板の間を通り抜ける時間中は引き続き圧縮力がかかり続けるため、小さな内部亀裂まで破壊できる。このジョークラッシャーは、対となる板の間隔(クリアランス)を調整することで破砕する試料の最大粒径を制御することができる。なお、ジョークラッシャーと類似した粉砕機構を備える破砕機には、コーンクラッシャーやダブルロールクラッシャー等がある。
【0042】
a)振とう処理の場合
次に、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に浸漬させた。なお、試料である製鋼スラグの水中への浸漬は、ポリエチレン製容器(以下、「溶出容器」と記載する。)内で行った。
【0043】
次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて振とう処理し、一定時間溶出を行った後のスラグ全質量を100%として、粒度分布を測定した。具体的には、本実験では、2mmアンダーの粒度分布では、比較的大きな粒度である0.71mm〜1.18mm及び1.18mm〜2mmの粒子のそれぞれの存在割合[質量%]に基づいて、粒度分布(質量組成比)の変化を求めた。
【0044】
ここで、本試験における製鋼スラグの粒度分布の測定は、以下のようにして、溶出処理、粒度分布測定用試料の採取、粒度分布測定の順に行った。粒度分布測定は、JIS R1629のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法に準拠して行った。
【0045】
a−1)溶出処理
まず、上述のようにして水中に浸漬させたスラグ試料(製鋼スラグ)に対して、一定時間(1〜360分)溶出処理(振とう処理または超音波処理)を行った後に、0.45μmのメンブランフィルターを用いてろ過した。
【0046】
a−2)粒度分布測定用試料の採取
次に、メンブランフィルター上の残留物を蒸留水で磁性皿に洗い落とし、全量を回収した後に、磁性皿上の試料を100℃の乾燥機内で6時間乾燥させて、粒度分布測定用の試料とした。
【0047】
a−3)粒度分布測定
次に、上記a−2)のようにして得られた試料(製鋼スラグ粒子)1.0gを100mlの分散媒(水)に加え、超音波振動を与えることで、試料を分散媒中に分散させて試料溶液を調製した。試料の分散は、超音波振動を与えることでなく、攪拌することによって行ってもよい。さらに、試料溶液を調製し、セイシン企業製のレーザ回折散乱式粒度分布測定器(SKレーザーマイクロンサイザーLMS−2000e)の循環経路に循環させ、分散媒に分散させた粒子にレーザ光を照射し、散乱パターンを検出した。この散乱パターンに基づき、散乱分布強度から粒度分布を求めた。
【0048】
なお、スラグ試料は、調査する溶出時間毎に調製し、各溶出時間における溶出処理後の試料について、それぞれ上記1)〜3)の処理を行うことにより、粒度分布を測定した。
【0049】
以上のようにして測定した振とう処理による粒度分布の変化を図1A及び図1Bに示した。図1Aは、振とう処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。図1Bは、図1Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【0050】
b)超音波処理の場合
また、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
【0051】
次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波処理し、振とう処理の場合と同様にして粒度分布を測定した。なお、この超音波処理による粒度分布の変化を図2A及び図2Bに示した。図2Aは、超音波処理により溶出を行った場合の製鋼スラグ粒子の粒度分布の変化の一例を示すグラフである。図2Bは、図2Aのグラフの溶出時間0〜60分の部分を拡大したものである。
【0052】
<検討結果(実験結果)>
図1A及び図2Aに示すように、振とう処理と超音波処理のいずれの処理を行った場合でも、溶出試験中に製鋼スラグの粒度分布に変化が起こり、0.71mm〜1.18mmの粒度の小さな粒子の質量組成比が増加し、1.18mm〜2mmの粒度の大きな粒子の質量組成比が減少していることから、製鋼スラグ粒子が崩壊して細粒化していることがわかる。従って、振とう処理と超音波処理のいずれの処理を行った場合でも、溶出試験中に、製鋼スラグ粒子が細粒化して製鋼スラグ粒子の全表面積が増加することから、固体である製鋼スラグと液体である水(浸漬水)との接触面積が増大しているものといえる。しかし、振とう処理を行った場合と超音波処理を行った場合とでは、製鋼スラグ粒子の崩壊状況が以下の2点で異なっていた。
【0053】
第1に、製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和するまでの時間が異なっていた。具体的には、図1Aに示すように、振とう処理により溶出させた場合には、粒度分布の変化(細粒化)がほとんど起こらなくなる、すなわち、製鋼スラグ粒子の崩壊がそれ以上進まなくなる(飽和する)までに120分〜180分程度要していた。これに対し、図2Aに示すように、超音波処理により溶出させた場合には、製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和するまでに10分〜20分程度と、溶出開始から非常に早期の段階で粒子の崩壊が飽和することがわかった。
【0054】
第2に、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが異なっていた。具体的には、図1Bに示すように、振とう処理により溶出させた場合には、溶出開始からの経過時間(溶出時間)が60分までは、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが大きく、粒度分布の変化の傾向を特定することができなかった。これに対して、図2Bに示すように、超音波処理により溶出させた場合には、溶出時間が5分〜60分までの間では、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが、振とう処理の場合と比べて非常に小さく、粒度分布の変化の傾向を特定することができた。すなわち、超音波処理により溶出させた場合には、溶出の非常に早期の段階から、溶出時間の経過に応じて粒子が細粒化する傾向を認識することができた。
【0055】
その結果、振とう処理を用いて溶出させた場合に比べて超音波処理を用いて溶出させた場合の方が、浸漬水中における製鋼スラグ粒子の崩壊が、溶出経過時間が早期の段階で飽和し、かつ、早期の段階(溶出開始からの経過時間が5分以上)から、製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきが小さいこと判明した。すなわち、本発明者らは、製鋼スラグ中の可溶出成分の溶出方法として、公定法で用いられている振とう処理ではなく、超音波処理を採用することにより、製鋼スラグと浸漬水との接触面積を短時間で飽和する大きさまで増大させることができ、しかも、溶出時間が短くても接触面積のばらつきが小さい、ということを見出した。
【0056】
以上の検討結果から、本発明者らは、中間判定に利用する溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)における溶出方法としては、超音波処理を採用し、かつ、この超音波処理を5分以上(60分以下)行って、製鋼スラグ中の可溶出成分を溶出(以下、「超音波溶出」とも記載する。)させることが適当であるとの知見を得た。このように、中間判定に利用する溶出試験において超音波溶出を行うことにより、中間判定に要する時間を著しく短縮することができる。また、超音波溶出を用いた溶出試験は、接触面積のばらつきが少ないことから、溶出量の測定結果の再現性にも優れている。
【0057】
<超音波処理と振とう処理との崩壊状況が異なる理由>
まず、製鋼スラグ中の可溶出成分は、2mmアンダーに粉砕した試料である製鋼スラグ粒子の表面と、溶出中に製鋼スラグ粒子が崩壊することにより細粒化して新たに発生した粒子の表面から、それぞれ溶出し得る。この場合、製鋼スラグ粒子の崩壊は、製鋼スラグ粒子が有する亀裂などの隙間に浸漬水が浸透し、製鋼スラグ中のフリーライム(遊離状態のCaO)と反応することによる製鋼スラグ粒子の体積膨張に起因して生じるものと考えられる。このような製鋼スラグ粒子の崩壊の機構に鑑みると、振とう処理による溶出よりも超音波溶出の方が、早期に製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和し、しかも、崩壊状況のばらつきが小さい理由は、振とう処理による溶出と超音波溶出とが、製鋼スラグ粒子への振動の与え方が異なることによるものと考えられる。すなわち、超音波溶出では、超音波洗浄機等を用いて超音波を溶出容器に加えるのであるが、この場合、浸漬水中の製鋼スラグ粒子全体に均一に震動を与えることができることから、製鋼スラグ粒子中の隙間へ浸漬水が浸透する時間が短い。そのため、浸漬水が浸透した製鋼スラグ粒子が、その粒子中の隙間を基点として分離(崩壊)することが、振とう処理による溶出の場合よりも容易である。このような理由により、振とう処理による溶出よりも超音波溶出の方が、早期に製鋼スラグ粒子の崩壊が飽和し、しかも、崩壊状況のばらつきが小さくなるものと推定される。
【0058】
<超音波溶出における発振周波数>
なお、超音波洗浄装置の発振周波数は28〜68kHz程度が常用されており、上述した通り、発振周波数28kHzで製鋼スラグ粒子の崩壊状況のばらつきの安定効果、すなわち、製鋼スラグ粒子の崩壊の促進効果が得られている。また、上述した製鋼スラグ粒子の崩壊の機構であれば、発振周波数が高いほど、製鋼スラグ粒子の崩壊は促進されるものと考えられる。従って、発振周波数28kHz以上であれば安定したスラグ崩壊が得られるか、あるいは、少なくとも超音波洗浄装置で常用される発振周波数の上限(68kHz)までは同様の効果が得られるものと予測される。
【0059】
(可溶出成分の浸漬水への溶解度(溶出温度)に関する検討)
次に、本発明者らは、可溶出成分の浸漬水への溶解度に関して検討した。
【0060】
溶出試験中における製鋼スラグ中の可溶出成分の浸漬水への溶解度は、可溶出成分の物性や、浸漬水およびスラグの温度等による定まるものである。そこで、本発明者らは、これらの可溶出成分の溶解度を決める要因のうち浸漬水の温度に着目し、溶出試験の測定結果の再現性に優れ、かつ、公定法との相関が良くなる条件について検討した。
【0061】
<検討方法(実験方法)>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。
【0062】
次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(浸漬水の温度)を室温(本実験時の室温は25℃)、45℃、50℃、60℃、90℃のそれぞれに維持した状態で超音波溶出処理を行った。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、可溶出成分が溶出した浸漬水(以下、「溶出液」とも記載する。)を採取した。さらに、溶出液中の可溶出成分として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法(6価クロムに関しては、ジフェニルカルバジド吸光光度法、鉛に関しては、ICP発光分光分析法、フッ素に関しては、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)を用いて測定し、この測定結果から溶出率(%)と相対標準偏差(%)を求めた。
【0063】
ここで、上記溶出率は、公定法で定められている振とう処理による溶出(以下、「振とう溶出」とも記載する。)の場合の溶出量を100%としたときの超音波溶出の場合の溶出量の比率として求めた。具体的には、公定法(JIS K0058)における振とう溶出を360分間行った後の溶出量(mg/l)をQS360とし、超音波溶出をt分行った後の溶出量(mg/l)をQUtとしたとき、超音波溶出によるt分後の溶出率(%)を、(QUt/QS360)×100として求めた。また、上記相対標準偏差は、各温度条件における3回の溶出量(mg/l)測定結果の平均値をXiとし、標準偏差をσとしたとき、相対標準偏差(%)を、(σ/Xi)×100として求めた。なお、溶出率が高いほど、公定法による6時間の溶出試験の測定結果との相関が良いことを示し、相対標準偏差が小さいほど、測定結果のばらつきが小さい(すなわち、分析精度が高い)ことを示している。
【0064】
以上のようにして求めた溶出率(%)および相対標準偏差(%)の結果を図3〜図8に示す。図3は、6価クロムの溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図4は、6価クロムの相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図5は、鉛の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図6は、鉛の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図7は、フッ素の溶出率(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図8は、フッ素の相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。なお、図3〜図8において、縦軸は、溶出率(%)または相対標準偏差(%)、横軸は、溶出時間(分)を示している。また、図6において、溶出温度が室温で、溶出時間が5分の場合の相対標準偏差の値は、62.8%である。
【0065】
<検討結果(実験結果)>
図3、図5および図7に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度45℃〜90℃の範囲では、超音波溶出の開始後5分以降に溶出率(溶出量)が大幅に増加する傾向にあった。また、図3〜図8に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度が45℃以上で5分以上の超音波溶出を行った場合、溶出率が高く、相対標準偏差が低く、溶出量の測定値のばらつきが小さいものであった。特に、超音波溶出による溶出時間を10分以上とした場合には、溶出率は70%以上であり、また、相対標準偏差が5%程度以下であり、溶出量の測定値のばらつきが極めて小さいものであった。このように、超音波溶出を採用した場合、溶出温度を45℃以上、溶出時間を5分以上とすることで、溶出量の測定値のばらつきを小さくできるため、測定された溶出量に所定の係数を乗ずることで、精度良く公定法による溶出(振とう溶出)を360分間行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
【0066】
なお、図3〜図8には、6価クロム、鉛およびフッ素の結果について記載したが、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素も同様の傾向を示していた。
【0067】
また、製鋼スラグ中のCaOは、溶出液のpHを上昇させ、溶出量が変動する可能性があるが、20質量%および60質量%のいずれの場合も、上述した検討結果(CaOが45質量%の場合)と同様の傾向があった。
【0068】
以上の検討の結果、中間判定に用いる溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)における溶出温度を45℃以上、溶出時間を5分以上と規定することとした。また、溶出温度が90℃を超えると、目視で溶出液の蒸発が大きくなり、分析に適さないと判断し、本発明の溶出試験方法における溶出温度を90℃以下とした。
【0069】
さらに、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出温度が45℃〜90℃の範囲で溶出時間5分〜10分で溶出率が飽和傾向にあり、また、溶出温度を60℃以上とし、超音波溶出の時間を10分以上とすることで、ほぼ100%の溶出率を得ることができていた。従って、本発明の溶出試験方法においては、溶出温度は60℃以上であることが好ましく、溶出時間は10分以上であることが好ましいと判断した。
【0070】
(溶出時間に関する検討)
次に、本発明者らは、超音波溶出を行い、溶出温度を上述した45℃〜90℃の範囲とした場合の溶出時間の範囲について、さらに詳細に検討した。より具体的には、溶出温度60℃で超音波溶出を行った場合と、公定法に規定されるように常温で振とう溶出を行った場合とで、両溶出方法の溶出率(%)および相対標準偏差(%)を比較することにより、最適な溶出時間を検討した。
【0071】
<検討方法(試験方法)>
上述した方法と同様に、試料として、CaO含有率が45質量%の製鋼スラグを約200g採取し、ジョークラッシャーにより粉砕して2mmアンダーの製鋼スラグを得た。
【0072】
振とう溶出の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを50g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(500ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、公定法であるJIS K0058−1で定められた方法を用いて常温(本実験においては25℃)で振とう溶出を行った。
【0073】
超音波溶出の場合は、上述のようにして得られた2mmアンダーの製鋼スラグを10g採取し、採取した製鋼スラグの質量の10倍量(100ml)の水(pH5.8〜6.3の純水)中に、溶出容器内で浸漬させた。次いで、発振周波数が28kHzの超音波洗浄装置を用いて超音波溶出を行った。このとき、超音波洗浄装置として温度制御が可能な恒温槽を有するものを使用し、溶出容器内の液温(溶出温度)を60℃に維持した状態で超音波溶出を行った。
【0074】
また、以上の振とう溶出および超音波溶出のそれぞれにおいては、溶出時間(溶出開始からの経過時間)を5分、10分、20分、30分、60分、90分、180分および360分とした。それぞれの条件での溶出処理後、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、0.45μmのメンブランフィルターで吸引ろ過し、溶出液を採取した。さらに、溶出液中の可溶出成分として、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素の溶出量(mg/l)をJIS K0102に定められた方法(6価クロムに関しては、ジフェニルカルバジド吸光光度法、鉛に関しては、ICP発光分光分析法、フッ素に関しては、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)を用いて測定し、この測定結果から溶出率(%)と相対標準偏差(%)を求めた。なお、溶出率(%)および相対標準偏差(%)は、上述した溶出温度の検討の際と同様にして求めた。
【0075】
以上のようにして求めた溶出率(%)および相対標準偏差(%)の結果を図9〜図11に示す。図9は、6価クロムの溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図10は、鉛の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。図11は、フッ素の溶出率(%)および相対標準偏差(%)の測定結果の一例を示すグラフである。なお、図9〜図11において、縦軸は溶出率(%)、横軸は溶出時間(分)を示している。また、図9〜図11において、相対標準偏差(%)は、各プロット上に記載している。
【0076】
<検討結果(実験結果)>
図9〜図11に示すように、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、超音波溶出の場合には、溶出処理開始後10分程度で溶出率が飽和する(溶出率がほとんど増加しなくなり、ほぼ一定となる)傾向が見られた。一方、振とう溶出の場合には、溶出処理開始後180分程度経過してから飽和する傾向が見られた。
【0077】
また、超音波溶出の場合には、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出処理開始後5分程度で相対標準偏差が10%以下となり、さらに、溶出処理開始後10分程度で相対標準偏差が5%以下となり、測定値のばらつきが非常に小さいものであった。一方、振とう溶出の場合には、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出処理開始後の各測定時刻における測定値のばらつきを超音波溶出の場合と比較すると、相対標準偏差が約2.5倍となっており、超音波溶出処理よりも測定値のばらつきが大きいという結果になった。
【0078】
以上の結果を整理すると、超音波溶出を採用した場合、以下の2点が言える。
(1)6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する(ほとんど溶出が起こらなくなる)傾向があった。
(2)6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が5分以降は、溶出量の測定値のばらつきが小さいものであった。
【0079】
従って、中間判定に用いる溶出試験において、溶出方法として超音波溶出を採用した場合には、溶出量の測定値に所定の係数を乗ずることで、精度良く公定法による溶出(振とう溶出)を360分間行った場合の溶出量の測定値を予測することができる。
【0080】
なお、図3〜図8には、6価クロム、鉛およびフッ素の結果について記載したが、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素も同様の傾向を示していた。
【0081】
また、製鋼スラグ中のCaOは、溶出液のpHを上昇させ、溶出量が変動する可能性があるが、20質量%および60質量%のいずれの場合も、上述した検討結果(CaOが45質量%の場合)と同様の傾向があった。
【0082】
以上の検討の結果、中間判定に用いる溶出試験方法(本発明の溶出試験方法)における溶出時間を5分以上と規定することとした。さらに、6価クロム、鉛、フッ素のいずれの成分についても、溶出時間が10分以降は溶出量が飽和する傾向にあり、また、溶出時間を10分以上とすることで、相対標準偏差が5%以下と非常にばらつきの小さな測定結果を得ることができていた。従って、本発明の溶出試験方法においては、溶出時間は10分以上であることが好ましいと判断した。
【0083】
また、本発明の溶出試験方法では、スラグ製品の用途の一次決定の際に用いる中間判定の判定時間を、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力を向上させるために短縮する(概ね1時間以内とする)という目的から、溶出時間の上限値を60分とした。
【0084】
以上のような検討により、本発明者らは、スラグ製品の用途の一次決定の際に行う中間判定に用いる試験方法として、以下に説明する溶出試験方法が適用可能であることを見出した。以下、図12を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法について詳細に説明する。図12は、本発明の好適な実施形態に係る溶出試験方法の流れを示すフローチャートである。
【0085】
[本実施形態に係る溶出試験方法]
本実施形態に係る溶出試験方法は、水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する方法であって、下記の条件を必須とするものである。
(A)試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕する。
(B)粉砕後の製鋼スラグを浸漬水中に浸漬させ、浸漬水の温度を45℃以上90℃以下とし、かつ、浸漬水に超音波を5分以上60分以下の時間加えることにより、浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する。
【0086】
(本実施形態に係る溶出試験方法の処理の流れ)
具体的には、図12に示すように、まず、試料となる製鋼スラグを粉砕機で2mmアンダーの粒度となるように粉砕する(S101)。このとき使用する粉砕機としては、特に限定はされないが、上述したように、例えば、ジョークラッシャーやダブルロールクラッシャー等を用いることができる。次いで、粉砕された試料(製鋼スラグ粒子)を篩い分けし、2mmメッシュの篩い目を通過した粒度が2mm以下のものを回収する(S103)。
【0087】
次に、回収された粉砕後(2mmアンダー)の試料を、溶出容器中にて、45℃以上90℃以下の水(浸漬水)中に浸漬する(S105)。さらに、浸漬水に超音波を5分以上60分以下加えることにより、可溶性成分を溶出させる(S107:超音波溶出処理)。この超音波溶出処理に用いる装置としては、上述したような温度制御が可能な恒温槽を有する超音波洗浄装置を用いることができる。
【0088】
ここで、超音波溶出処理を採用した理由、浸漬水の温度(溶出温度)を45〜90℃とした理由、超音波を加える時間(溶出時間)を5〜60分とした理由等については、上述した通りであるので、詳細な説明は省略する。
【0089】
次に、溶出容器中の内容物(浸漬水および製鋼スラグ)を、メンブランフィルター等のフィルターを用いて吸引ろ過し、浮遊物や不溶解成分を分離した溶出液(ろ液)を回収する(S109)。このとき、溶出容器中の溶出液が、微細な浮遊物を多く有する濁った状態である場合には、ろ過中にフィルターの目詰まりを起こす可能性があるため、吸引ろ過前に遠心分離を行うことが望ましい。遠心分離を行う場合には、例えば、遠心分離機を用いて3000回転/分程度で遠心分離し、浮遊物等の不純物を沈降させ、上澄み液を吸引ろ過することにより、浮遊物や不溶解成分を分離した溶出液を回収し、以降の可溶出成分の定量に用いる検液とする。
【0090】
次に、ステップS109で回収された溶出液中の溶出物のうち、特定の成分の溶出量を測定する(S111)。このとき、測定対象となるのは、主に、6価クロム、鉛、フッ素、カドミウム、ヒ素、セレンおよびホウ素のうちの少なくとも1種以上の成分である。これらの成分の定量方法については特に限定されないが、例えば、6価クロム、鉛、フッ素の場合には、以下のような測定方法により溶出量を測定することができる。
【0091】
1)6価クロムの場合
6価クロムの溶出量の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ジフェニルカルバジド吸光光度法を使用することができる。具体的には、前処理を行った検液にジフェニルカルバジド試薬を添加し、Cr6+を呈色させる。この呈色溶液に光を照射し、波長540nm付近の吸光度から、Cr(VI)の量を測定する。
【0092】
2)鉛の場合
鉛の溶出量の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ICP発光分光分析法を使用することができる。具体的には、前処理を行った検液に溶媒抽出操作を行い、この溶液を発光部に導入し、Pbの発光強度からPb量を測定する。
【0093】
3)フッ素の場合
フッ素の測定方法としては、JIS K0102に定められた所謂ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法を使用することができる。具体的には、検液中フッ素化合物を蒸留分離し、ランタン(III)とアリザリンコンプレキソンとの錯体を加え、この錯体がフッ素化物イオンと反応して生じる青い色の複合錯体を含んだ溶液に対して光を照射し、波長620nm付近の吸光度からF量を測定する。
【0094】
(本実施形態に係る溶出試験方法の効果)
以上のステップS101〜S111を含む本実施形態に係る溶出試験方法によれば、製鋼スラグ中の可溶出成分の溶出量を短時間(例えば、1時間以内)に測定することができ、しかも、ばらつきが小さく、公定法との相関も良い測定結果を得ることができる。
【0095】
また、このような本実施形態に係る溶出試験方法を、スラグ製品の製造における用途の一次決定の際の中間判定に利用することにより、スラグ製品の用途の一次決定結果と最終決定結果とを極めて高い精度で合致させ、スラグ製品の製造効率を向上させることができる。
【0096】
[本実施形態に係る溶出試験方法を利用したスラグ製品の製造方法]
次に、上述した溶出試験方法を利用したスラグ製品の製造方法について詳細に説明する。
【0097】
スラグ製品の製造においては、一般に、スラグ凝固処理を行い、スラグ半製品とした後に、スラグ半製品に事前処理を施し、スラグ製品とする。事前処理としては、各スラグ製品(路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等)に応じた粒度分布とすることによりスラグ製品の比重を調整する処理や、各スラグ製品に応じたエージング処理等があり、これらの処理が必要に応じてスラグ半製品に施される。そして、最終的にスラグ製品をヤードに貯蔵し、出荷前に、公定法による溶出試験を実施する。下記表1に、代表的なスラグ製品の製造工程の概略を示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、スラグ製品の種類によって、適した粒度分布や、エージングの有無および方法が異なっており、スラグ半製品には、これらの用途に応じた粒度分布の調整やエージングを施す必要がある。
【0100】
また、一般に、スラグ製品ヤードに、製鋼工程における鋼種単位またはチャージ単位で山積みして貯蔵されたスラグ製品は、公定法による溶出試験の結果に基づいて、その用途(製品の種類)が最終決定される。用途が最終決定されたスラグ製品は、必要に応じて粒度分布調整等の処理が施され、出荷先に応じて出荷用のヤードに、他の鋼種や他のチャージのスラグ製品と共に貯蔵される。
【0101】
ここで、スラグ製品は、公定法による溶出試験によって各種の溶出物の浸漬水中における濃度が測定されるが、各溶出物には、その種類ごとに溶出濃度の上限値が設定されている。例えば、路盤材や海洋用途地盤改良材であれば、それぞれに適用される公定法によって溶出濃度の上限値が設定され、セメント原料であれば、セメントの製造条件に応じた溶出濃度の上限値が当業者によって適宜設けられている。
【0102】
このような溶出濃度の上限値に対して、公定法による溶出試験で測定した溶出濃度の値が小さな値(すなわち、溶出濃度の上限値以下の濃度)であれば、各用途(路盤材、海洋用途地盤改良材等)のスラグ製品として出荷することが可能である。しかし、公定法による溶出試験で測定した溶出濃度の値が、スラグ半製品の段階で一次決定された用途(例えば、路盤材用)のスラグ製品の溶出濃度の上限値を超える場合には、一次決定された用途を、測定された溶出濃度の値が設定された溶出濃度の上限値以下となる用途(例えば、海洋用途地盤改良材用)に変更する必要が生じる。この場合、例えば、スラグ製品の出荷前に、変更後の用途のスラグ製品に応じた粒度分布となるように粒度分布を調整するための新たな処理が必要となる。また、変更前の用途では必要であるが、変更後の用途では必要のない事前処理を行ってしまう場合などもあり、処理の無駄が生じてしまう。
【0103】
また、スラグ半製品は、用途別、さらには、製鋼工程における鋼種やチャージ単位別に区別して保管される。そのため、一次決定された用途と最終決定された用途とが一致しない場合には、一次決定された用途のスラグ半製品ヤードに貯蔵されたスラグ半製品ロットを、最終決定された用途のスラグ半製品ヤードに移送することが必要となる。この場合、一次決定された用途のスラグ半製品ヤードの貯蔵能力が、スラグ半製品ロットの移送が完了するまでは低下していたことになる。スラグ半製品ヤードの貯蔵能力は、スラグ半製品をヤードに持ち込むために極めて重要で、ヤードの貯蔵能力に不足があればスラグ半製品の持ち込みができず、スラグ半製品の事前処理の停止につながる場合もある。
【0104】
しかし、一次決定されたスラグ製品の用途と最終決定された用途とを高精度で合致させることができれば、上記のような処理の無駄を省き、また、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力を向上させてスラグ半製品の事前処理の停止という事態を回避することができる。
【0105】
そこで、本実施形態では、スラグ半製品の段階でスラグ製品の用途を一次決定する際に、一次決定された用途と最終決定された用途とを高精度で一致させるために、上述した本実施形態に係る溶出試験方法を用いて中間判定を行い、この中間判定の結果に基づいて、スラグ製品の用途を一次決定している。本実施形態に係る溶出試験方法によれば、製鋼スラグ中の可溶出成分の溶出量を短時間(例えば、1時間以内)に測定することができ、しかも、ばらつきが小さく、公定法との相関も良い測定結果を得ることができるため、この溶出試験方法により中間判定を行えば、一次決定された用途と最終決定された用途とを高精度で一致させることができる。
【0106】
このような本実施形態に係る溶出試験方法を利用したスラグ製品の製造方法としては、例えば、以下のような2つの態様が挙げられる。
【0107】
第1に、本実施形態に係る溶出試験方法を、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品に少なくとも破砕処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法に利用することができる。具体的には、本実施形態に係るスラグ製品の製造方法は、スラグ半製品について、上述した本実施形態に係る溶出試験方法を用いて浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて中間判定を行い、この中間判定の結果に応じて一次決定された用途のスラグ製品に適した破砕処理の条件で、スラグ半製品に破砕処理を施す方法である。このように、本実施形態に係る溶出試験方法を用いて中間判定した結果に応じてスラグ製品の用途を一次決定することにより、一次決定されたスラグ製品の用途と最終決定された用途とを高精度で一致させることができる。
【0108】
第2に、本実施形態に係る溶出試験方法を、溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品をヤードに貯蔵した後に、このスラグ半製品に対して所定の事前処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法に利用することができる。具体的には、本実施形態に係るスラグ製品の製造方法は、スラグ半製品をヤードに貯蔵するために搬送する際に、当該搬送前のスラグ半製品について、上述した本実施形態に係る溶出試験方法を用いて浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定する方法である。このように、本実施形態に係る溶出試験方法を用いて溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて中間判定した結果に応じて、スラグ製品の用途を一次決定することにより、一次決定されたスラグ製品の用途と最終決定された用途とを高精度で一致させることができる。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0110】
次に、本発明について実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0111】
以下に説明するように、実施例1では、スラグ製品の用途を一次決定する際に、本発明に係る溶出試験方法を用いた中間判定を用いた場合の事前処理の無駄を省く効果について確認し、実施例2では、スラグ製品の用途を一次決定する際に、本発明に係る溶出試験方法を用いた中間判定を用いた場合のスラグ半製品ヤードの貯蔵能力が向上する効果について検討した。
【0112】
ここで、公定法による溶出試験の溶出量の上限値に対し、測定した溶出量が下回る値であれば、各用途(路盤材や海洋用途地盤改良材等)の製品として出荷することは可能である。ただし、スラグ出荷者の都合に応じて、公定法による溶出試験で規定されている溶出量の上限値に1未満の係数(例えば、0.5〜0.9の範囲の係数)を乗じて、より低い値の溶出量の上限値を公定法で規定されている上限値に代用する管理が実施される場合がある。そこで、以下の実施例では、公定法で規定された溶出量の上限値より低い値の溶出量の上限値(以下、「製造管理値」と称する。)を用いた場合の例について述べる。
【0113】
(実施例1)
例えば、スラグ製品ヤードにおける一次決定で路盤材向けとされたスラグ製品の公定法による溶出試験に基づいて測定された溶出量が、路盤材の製造管理値を超え、この溶出量が海洋用途地盤改良材の製造管理値未満である場合、このスラグ製品ロットは用途を路盤材から海洋用途地盤改良材へ変更する最終決定がなされる。この際、当該スラグ製品ロット(以下、「ロットA」と記す。)の比重を、海洋用途地盤改良材として望まれるより大きな比重に変更する必要があるため、当該スラグ製品ロットと異なる海洋用途地盤改良材向けのスラグ半製品ロット(以下、「ロットB」と記す。)と混合し、この2つのロットを混合して1つのロットとすることで比重が調整される。
【0114】
この際、ロットの混合後の粒度分布を、海洋用途地盤改良材用の粒度分布とするため、混合処理、ロットAやロットBのロット分割や、ロットAの再度の篩分け処理や破砕処理、ロットBの通常とは異なる破砕処理、のうちの1つあるいは2つ以上の処理が必要となる場合がある。
【0115】
このような場合に、製鋼スラグからの溶出量の中間判定を、例えば、粒度分布の作り込み工程の入側やエージング処理工程の処理前に実施していれば、当該スラグ製品ロットAに施した蒸気エージング処理は、実施する必要が無く、処理費用の安い大気エージング処理を実施することができる。また、ロットAやロットBのロット分割、ロットBの通常とは異なる破砕処理、この破砕処理に必要な粉砕機の調整時間が不要となる。
【0116】
以上のように、中間判定をスラグ製品の製造工程の途中で適宜実施することで、上述した蒸気エージング処理、混合を前提とした粉砕機による破砕処理、篩分け処理、等の無駄が省略できるためこれら処理能力を向上させることができる。
【0117】
本発明者らは、表1の路盤材用の粒度分布の調整工程、海洋用途地盤改良材用の粒度分布の調整工程、セメント原料用粒度分布の調整工程、の入側で、本発明に係る溶出処理方法を用いた中間判定を実施したところ、例えば、粉砕機の生産量が5%増加した。また、蒸気エージング処理能力や篩分け処理の処理能力も同様に増加した。
【0118】
(実施例2)
また、スラグ半製品は、その保管に際して、用途(路盤材、海洋用途地盤改良材、セメント原料等)別に、さらに、製鋼工程の鋼種やチャージ単位別に区別して保管される。上述したような用途の一次決定と最終決定が合致しない場合には、例えば、路盤材向けのスラグ半製品ヤードに貯蔵したスラグ半製品ロットを、海洋用途地盤改良材向けのスラグ半製品ヤードに移送する必要が生じる。
【0119】
このとき、路盤材向けのスラグ半製品ヤードの貯蔵能力が、上記の移送が完了するまでは低下していたことになる。スラグ半製品ヤードの貯蔵能力は、スラグ半製品を持ち込むために極めて重要で、貯蔵能力に不足があればスラグ半製品の持ち込みができず、スラグ半製品の事前処理の停止につながる場合もある。
【0120】
このような場合においても、中間判定をスラグ持ち込み前に実施し、上述したスラグ製品の用途変更によるスラグ半製品の移送を無くせば、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力の無駄が省略でき、スラグ半製品ヤードの貯蔵能力向上につながり、スラグ半製品の事前処理作業の停止をいう事態を回避できる。
【0121】
本発明者らは、表1の粒度分布調整工程(路盤材向け、海洋用途地盤改良材向け)の処理後のスラグ半製品ロットに、本発明に係る溶出試験方法を用いた中間判定を実施し、中間判定後に、エージング工程(蒸気エージングあるいは大気エージング)が行われるスラグ半製品ヤードに、上記の中間判定を実施したスラグ半製品ロットを持ち込む操業を実施した。その結果、エージング工程のスラグ半製品ヤードやスラグ製品ヤードの貯蔵能力の無駄が無くなり、ヤード貯蔵能力不足による粉砕機の停止回数や、他のヤードへの移送作業回数が10%以上削減できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、
前記試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕し、
前記粉砕後の製鋼スラグを45℃以上90℃以下の浸漬水中に浸漬させ、前記浸漬水に超音波を5分以上の時間加えた後に、前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定することを特徴とする、溶出試験方法。
【請求項2】
溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品に少なくとも破砕処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、
前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて決定された前記破砕処理の条件で、前記スラグ半製品に前記破砕処理を施すことを特徴とする、スラグ製品の製造方法。
【請求項3】
溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品をヤードに貯蔵した後に、前記スラグ半製品に対して所定の事前処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、
前記スラグ半製品をヤードに貯蔵するために搬送する際に、当該搬送前の前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定することを特徴とする、スラグ製品の製造方法。
【請求項1】
水中に浸漬させた試料から溶出した成分の溶出量を測定する溶出試験方法において、
前記試料となる製鋼スラグを、粒度が2mm以下の範囲となるように粉砕し、
前記粉砕後の製鋼スラグを45℃以上90℃以下の浸漬水中に浸漬させ、前記浸漬水に超音波を5分以上の時間加えた後に、前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定することを特徴とする、溶出試験方法。
【請求項2】
溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品に少なくとも破砕処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、
前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定し、当該測定結果に基づいて決定された前記破砕処理の条件で、前記スラグ半製品に前記破砕処理を施すことを特徴とする、スラグ製品の製造方法。
【請求項3】
溶融状態の製鋼スラグを凝固させたスラグ半製品をヤードに貯蔵した後に、前記スラグ半製品に対して所定の事前処理を施すことによりスラグ製品を得るスラグ製品の製造方法であって、
前記スラグ半製品をヤードに貯蔵するために搬送する際に、当該搬送前の前記スラグ半製品について、請求項1に記載の溶出試験方法を用いて前記浸漬水に溶出した成分の溶出量を測定することを特徴とする、スラグ製品の製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−226812(P2011−226812A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94201(P2010−94201)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
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