説明

溶接ロボットの制御装置及び制御方法

【課題】本発明の課題は、重ね継手に対して溶接位置を精度よく検出することができる溶接ロボットの制御装置及び制御方法を提供することにある。
【解決手段】ワイヤ先端が母材7の表面に接触していると判定されたときには、現在位置から、離れ方向Ve且つ進行方向Vsに離れた位置が、溶接ワイヤの次の目標位置として設定される。ワイヤ先端が母材7の表面に接触していないと判定されたときには、現在位置から、近接方向Vc、且つ、進行方向Vsに離れた位置が溶接ワイヤの次の目標位置として設定される。近接方向Vcへのワイヤ先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときには、第1位置P4と第2位置P5との間の所定位置P1が、母材7の端部の位置として検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ロボットを用いて溶接を行う場合には、溶接ロボットに溶接位置を正確に認識させる必要がある。そこで、ワイヤタッチセンサを用いて、溶接位置を検出することが行われている(特許文献1参照)。例えば、図11に示すように、溶接ロボットの制御装置は、溶接ワイヤWの先端を移動させることにより、溶接位置を検出する。具体的には、まず、矢印R100で示すように、制御装置は、溶接ワイヤWの先端が上板102から離れるように溶接ワイヤWを上昇させる。次に、矢印R101で示すように、制御装置は、溶接位置となる上板102の端部を越える位置まで、溶接ワイヤWの先端を水平方向に移動させる。次に、矢印R102で示すように、制御装置は、溶接ワイヤWの先端を下板101に近づく方向に移動させる。そして、矢印R103で示すように、制御装置は、溶接ワイヤWの先端を下板101の表面に平行な方向に、上板102に向かって移動させる。そして、制御装置は、溶接ワイヤWの先端が上板102に接触したことをワイヤタッチセンサによって検出して、そのときの溶接ワイヤWの先端の位置を溶接位置として認識する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−300724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1のような溶接位置の検出方法では、図11において矢印R101で示す水平方向への移動距離が予め把握されている必要がある。この水平方向への移動距離が、あまりに小さいときには、溶接ワイヤWの先端が上板に当たってしまう。このため、水平方向への移動距離を、余裕を持って設定しておくことが好ましい。しかし、水平方向への移動距離が、あまりに大きいときには、溶接位置の誤検出が発生したり、溶接位置の検出が不可能になることがある。例えば図12(a)に示すように、下板201上に異物203が存在する場合には、下板201上の異物203の位置を溶接位置として誤検出する可能性がある。或いは、図12(b)に示すように、溶接の熱歪みによって下板301が曲がっている場合には、溶接ワイヤWの先端が上板302の端部に接触せず、溶接位置を検出できない可能性がある。さらに、図12(c)に示すように、母材が円筒状の場合のように、曲面状の下板401と曲面状の上板402とを溶接する場合にも同様に、溶接位置を検出できない可能性がある。
【0005】
本発明の課題は、重ね継手に対して溶接位置を精度よく検出することができる溶接ロボットの制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る溶接ロボットの制御装置は、母材の端部の位置を検出する溶接ロボットの制御装置であって、接触判定部と、目標位置設定部と、駆動制御部と、端部検出部とを備える。接触判定部は、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触しているか否かを判定する。目標位置設定部は、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときには、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面から離れる方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置を溶接ワイヤの次の目標位置として設定する。目標位置設定部は、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときには、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面に近づく方向、且つ、所定の進行方向に離れた位置を溶接ワイヤの次の目標位置として設定する。駆動制御部は、溶接ワイヤの先端が、目標位置設定部によって順次設定された目標位置に移動するように、溶接ロボットの駆動を制御する。端部検出部は、母材の表面に近づく方向への溶接ワイヤの先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときには、第1位置と第2位置との間の所定位置を、母材の端部の位置として検出する。第1位置は、最後に溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。第2位置は、第1位置の検出後に最初に母材の表面に近づく方向に移動して溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。
【0007】
本発明の第2の態様に係る溶接ロボットの制御装置は、第1の態様の溶接ロボットの制御装置であって、所定位置は、第1位置の次の目標位置である。
【0008】
本発明の第3の態様に係る溶接ロボットの制御装置は、第1又は第2の態様の溶接ロボットの制御装置であって、端部検出部によって母材の端部の位置が検出されると、目標位置設定部は、溶接ワイヤの先端の現在位置から所定位置に向かって所定距離戻った位置を溶接ワイヤの先端の待機位置として設定する。駆動制御部は、溶接ワイヤの先端を待機位置に移動させて停止させる。
【0009】
本発明の第4の態様に係る溶接ロボットの制御装置は、第1又は第2の態様のいずれかの溶接ロボットの制御装置であって、端部検出部によって母材の端部の位置が検出されると、駆動制御部は、溶接ワイヤの先端を現在位置から所定の進行方向と逆方向に移動させ、溶接ワイヤの先端が母材に接触していると判定されたときに溶接ワイヤの先端を停止させる。
【0010】
本発明の第5の態様に係る溶接ロボットの制御装置は、第1又は第2の態様の溶接ロボットの制御装置であって、端部検出部によって母材の端部の位置が検出されると、目標位置設定部は、所定位置から母材の表面に近づく方向に母材の板厚に等しい距離進んだ位置を、溶接ワイヤの先端の待機位置として設定する。駆動制御部は、溶接ワイヤの先端を待機位置に移動させて停止させる。
【0011】
本発明の第6の態様に係る溶接ロボットの制御方法は、母材の端部の位置を検出する溶接ロボットの制御方法であって、以下の第1から第5ステップを備える。第1ステップでは、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触しているか否かを判定する。第2ステップでは、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときに、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面から離れる方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置を溶接ワイヤの次の目標位置として設定する。第3ステップでは、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときに、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面に近づく方向、且つ、所定の進行方向に離れた位置を溶接ワイヤの次の目標位置として設定する。第4ステップでは、溶接ワイヤの先端が、目標位置設定部によって順次設定される目標位置に移動するように、溶接ロボットの駆動を制御する。第5ステップでは、母材の表面に近づく方向への溶接ワイヤの先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときには、第1位置と第2位置との間の所定位置を、母材の端部の位置として検出する。第1位置は、最後に溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。第2位置は、第1位置の検出後に最初に母材の表面に近づく方向に移動して溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の態様に係る溶接ロボットの制御装置では、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときには、次の目標位置が、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面から離れる方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置に設定される。また、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときには、次の目標位置が、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面に近づく方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置に設定される。このため、例えば、母材の上板上に溶接ワイヤの先端が位置しているときには、溶接ワイヤの先端は、上板に近づく方向への移動と上板から離れる方向への移動とを繰り返しながら、上板の表面に沿って移動する。そして、溶接ワイヤの先端が上板の端部を超えた位置まで移動すると、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないという判定が繰り返し行われ、溶接ワイヤの先端が、母材の表面に近づく方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に続けて移動することになる。そして、母材の表面に近づく方向への溶接ワイヤの先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときに、第1位置と第2位置との間の所定位置が、母材の端部の位置として検出される。第1位置は、最後に溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。このため、第1位置は、上板上に位置しているはずである。また、第2位置は、第1位置の検出後に最初に母材の表面に近づく方向に移動して溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。このため、第2位置は、上板の端部を越えた位置のはずである。従って、上板の端部は、第1位置と第2位置との間に位置しているはずであるので、第1位置と第2位置との間の所定位置を母材の端部の位置として検出することにより、母材の端部の位置を精度よく検出することができる。以上のように、本態様に係る溶接ロボットの制御装置は、重ね継手に対して溶接位置を精度よく検出することができる。
【0013】
本発明の第2の態様に係る溶接ロボットの制御装置では、第1位置の次の目標位置を母材の端部の位置として検出する。これにより、母材の端部の位置を精度よく検出することができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る溶接ロボットの制御装置では、母材の端部の位置が検出されると、溶接ワイヤの先端は、現在位置から所定位置に向かって所定距離戻った位置に移動して停止する。すなわち、溶接ワイヤの先端は、溶接の開始位置に近い位置へと移動して停止する。このため、溶接を速やかに開始することができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る溶接ロボットの制御装置では、母材の端部の位置が検出されると、溶接ワイヤの先端は、現在位置から所定の進行方向と逆方向に移動し、母材に接触したときに停止する。すなわち、溶接ワイヤの先端は、溶接の開始位置に近い位置へと移動して停止する。このため、溶接を速やかに開始することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る溶接ロボットの制御装置では、母材の端部の位置が検出されると、溶接ワイヤの先端は、所定位置から母材の表面に近づく方向に母材の板厚に等しい距離進んだ位置に移動して停止する。すなわち、溶接ワイヤの先端は、溶接の開始位置に近い位置へと移動して停止する。このため、溶接を速やかに開始することができる。
【0017】
本発明の第6の態様に係る溶接ロボットの制御方法では、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときには、次の目標位置が、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面から離れる方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置に設定される。また、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときには、次の目標位置が、溶接ワイヤの先端の現在位置から、母材の表面に近づく方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置に設定される。このため、例えば、母材の上板上に溶接ワイヤの先端が位置しているときには、溶接ワイヤの先端は、上板に近づく方向への移動と上板から離れる方向への移動とを繰り返しながら、上板の表面に沿って移動する。そして、溶接ワイヤの先端が上板の端部を超えた位置まで移動すると、溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないという判定が繰り返し行われ、溶接ワイヤの先端が、母材の表面に近づく方向、且つ、母材の表面に沿った所定の進行方向に続けて移動することになる。そして、母材の表面に近づく方向への溶接ワイヤの先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときに、第1位置と第2位置との間の所定位置が、母材の端部の位置として検出される。第1位置は、最後に溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していると判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。このため、第1位置は、上板上に位置しているはずである。また、第2位置は、第1位置の検出後に最初に母材の表面に近づく方向に移動して溶接ワイヤの先端が母材の表面に接触していないと判定されたときの溶接ワイヤの先端の位置である。このため、第2位置は、上板の端部を越えた位置のはずである。従って、上板の端部は、第1位置と第2位置との間に位置しているはずであるので、第1位置と第2位置との間の所定位置を母材の端部の位置として検出することにより、母材の端部の位置を精度よく検出することができる。以上のように、本態様に係る溶接ロボットの制御方法は、重ね継手に対して溶接位置を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】溶接システムの構成を示す概略図。
【図2】制御装置の構成を示すブロック図。
【図3】制御装置による端部検出機能の処理を示すフローチャート。
【図4】端部検出機能が実行されているときの、ワイヤ先端と母材との位置を示す模式図。
【図5】端部検出機能が実行されているときの、ワイヤ先端と母材との位置を示す模式図。
【図6】他の実施形態に係る制御装置による端部検出機能の処理を示すフローチャート。
【図7】他の実施形態に係る制御装置による端部検出機能が実行されているときの、ワイヤ先端と母材との位置を示す模式図。
【図8】他の実施形態に係る制御装置による端部検出機能の処理を示すフローチャート。
【図9】他の実施形態に係る制御装置による端部検出機能が実行されているときの、ワイヤ先端と母材との位置を示す模式図。
【図10】他の実施形態に係る制御装置による端部検出機能が実行されているときの、ワイヤ先端の移動の軌跡を示す模式図。
【図11】従来技術に係る母材の端部の検出方法を示す模式図。
【図12】従来技術に係る母材の端部の検出方法を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る溶接ロボットの制御装置を備える溶接システム1を図1に示す。溶接システム1は、母材と溶接ワイヤWとの間にアークを発生させることにより、母材および溶接ワイヤWを溶融させて接合する。溶接システム1は、溶接ロボット2と、ワイヤ送給装置3と、溶接電源装置4と、制御装置5と、ティーチング操作装置6とを備える。
【0020】
溶接ロボット2は、いわゆる多関節型のロボットであり、複数の支持部材21−26とトーチ26と複数の駆動モータM1−M6(図2参照)を有する。複数の支持部材21−26は互いに揺動可能に取り付けられている。トーチ26は、支持部材21−26によって支持されている。トーチ26の先端から所定の長さの溶接ワイヤWが突出するようにトーチ26に溶接ワイヤWが供給される。また、トーチ26には、図示しないガス供給装置からシールドガスが供給される。駆動モータM1−M6は、支持部材21−26を駆動する。駆動モータM1−M6は、サーボモータであり、制御装置5からの指令信号に基づいて回転角度と回転速度を制御される。溶接ロボット2は、通信線を介して制御装置5に接続されている。溶接ロボット2は、制御装置5からの指令信号に基づいて駆動モータM1−M6が制御されることにより、溶接ワイヤの先端(以下、簡略に「ワイヤ先端」と呼ぶ)を所望の位置に移動させる。
【0021】
ワイヤ送給装置3は、溶接ワイヤWをトーチ26に送り込む装置である。ワイヤ送給装置3は、溶接ワイヤWがロール状に巻回された溶接コイル31から溶接ワイヤWを引き出して、トーチ26に送り込む。ワイヤ送給装置3は、制御装置5と通信線によって接続されており、制御装置5からの指令信号に基づいて、トーチ26への溶接ワイヤWの供給速度を制御する。
【0022】
溶接電源装置4は、アーク放電を生起させるための電力を母材および溶接ワイヤWに供給する。溶接電源装置4は、電気ケーブルを介して溶接ロボット2のトーチ26に接続されている。また、溶接電源装置4は、接地ケーブルを介して母材に接続されている。溶接電源装置4は、図示しない外部電源に接続されており、外部電源からの電力を制御して母材および溶接ワイヤWに供給する。溶接電源装置4は、通信線を介して、制御装置5と接続されている。溶接電源装置4は、制御装置5からの指令信号に基づいて、溶接ワイヤWと母材との間に印可される電圧を制御する。溶接電源装置4は、溶接ワイヤWおよび母材に流れている電流を検出する。溶接電源装置4は、溶接ワイヤWと母材との間に印可されている電圧を検出する。溶接電源装置4は、検出した電流の値と電圧の値とを制御装置5へ送信する。
【0023】
制御装置5は、制御装置5からの指令信号に基づいて、ワイヤ送給装置3からの溶接ワイヤWの供給速度を制御する。制御装置5は、溶接電源装置4を操作して、溶接ワイヤWと母材との間に印可される電圧を制御する。制御装置5は、溶接ロボット2を制御して、ワイヤ先端を母材の溶接位置に沿って移動させる。制御装置5は、ティーチング操作装置6によって入力された作業プラグラムに従って、ワイヤ送給装置3と溶接電源装置4と溶接ロボット2とを制御することにより、母材の溶接を行う。
【0024】
ティーチング操作装置6は、オペレータがティーチングを行うために操作される装置である。ティーチングとは、実際にワイヤ先端を溶接位置に移動させて、溶接位置を制御装置5に記憶させる作業である。ティーチングによって、母材に対する溶接ロボット2の姿勢やワイヤ先端の狙い位置が決定される。また、オペレータは、ティーチング操作装置6を操作することによって、溶接電流、溶接電圧、溶接速度を入力する。
【0025】
オペレータがティーチングを行う際に、制御装置5に溶接位置を認識させる必要がある。重ね継手の溶接を行う場合、母材の端部が溶接位置となる。制御装置5は、母材の端部の位置を自動的に検出する端部検出機能を有する。以下、この端部検出機能に関して詳細に説明する。
【0026】
図2に示すように、制御装置5は、接触判定部51と、目標位置設定部52と、駆動制御部53と、端部検出部54と、記憶部55とを備える。接触判定部51と目標位置設定部52と駆動制御部53と端部検出部54とは、例えばCPUなどの演算装置によって実現される。記憶部55は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、或いは、ハードディスクなどの記録装置によって実現される。
【0027】
接触判定部51は、ワイヤ先端が母材の表面に接触しているか否かを判定する。接触判定部51は、溶接電源装置4が検出した電流値に基づいて、ワイヤ先端と母材との接触を判定する。具体的には、制御装置5は、溶接ワイヤWに電圧を印加して溶接ワイヤWを移動させる。接触判定部51は、溶接電源装置4が検出した電流値に基づいて短絡の発生を検出することにより、ワイヤ先端が母材の表面に接触しているか否かを判定する。目標位置設定部52は、ワイヤ先端の目標位置を演算して設定する。目標位置は順次、更新され、ワイヤ先端は、目標位置へ向けての移動を繰り返し行う。駆動制御部53は、ワイヤ先端が、目標位置設定部52によって順次設定された目標位置に移動するように、溶接ロボット2の駆動を制御する。具体的には、駆動制御部53は、ワイヤ先端が目標位置に移動するように、溶接ロボット2の支持部材21−26の軸の角度を演算する。駆動制御部53は、演算結果を指令信号として溶接ロボット2の駆動モータM1−M6へ送信する。端部検出部54は、ワイヤ先端を移動させ、ワイヤ先端が母材に接触しているか否かを判定することにより、母材の端部の位置を検出する。記憶部55は、端部検出機能に必要な情報を記憶する。例えば、記憶部55は、目標位置設定部52によって設定されたワイヤ先端の目標位置を記憶する。
【0028】
図3は、制御装置5による端部検出機能の処理を示すフローチャートである。図4は、端部検出機能が実行されているときの、ワイヤ先端と母材7との位置を示す模式図である。なお、母材7は、上板71と下板72とを有しており、上板71が下板72の上に重ねられている。端部検出機能は、溶接位置である上板71の端部の位置を検出する。
【0029】
ステップS101において、制御装置5は、端部検出機能の開始位置P0から上板71の表面に近づく方向Vc(以下、「近接方向Vc」と呼ぶ)にワイヤ先端を移動させる。なお、図4に示すように、開始位置P0は、上板71の上方に位置している。
【0030】
ステップS102において、ワイヤ先端が上板71の表面に接触しているか否かが、接触判定部51によって判定される。ワイヤ先端が上板71の表面に接触していると判定されたときには、ステップS103において、駆動制御部53は、ワイヤ先端を停止させる。すなわち、図4において矢印R1で示すように、制御装置5は、ワイヤ先端が上板71の表面に接触するまでワイヤ先端を移動させて、ワイヤ先端が上板71の表面に接触したときに、ワイヤ先端を停止させる。
【0031】
ステップS104において、ワイヤ先端が上板71の表面に接触しているか否かが接触判定部51によって判定される。ワイヤ先端が上板71の表面に接触していると判定されたときは、ステップS105に進む。ステップS105では、ワイヤ先端の現在位置から、所定の進行方向Vs且つ上板71の表面から離れる方向Ve(以下、「離れ方向Ve」と呼ぶ)に、所定距離、離れた位置が、溶接ワイヤWの次の目標位置として、目標位置設定部52によって設定される。所定の進行方向Vsは、上板71の表面に沿った方向である。例えば、所定の進行方向Vsは、上板71の表面に平行である。所定の進行方向Vsは、上板71の端部が延びる方向に交差する方向である。所定距離は、端部検出機能の実行時のワイヤ先端の移動時間と移動速度によって規定される。移動時間と移動速度とは、記憶部55に記憶されている。そして、ステップS106において、駆動制御部53が、ワイヤ先端を目標位置に移動させる(図4の矢印R2参照)。また、ステップS107では、ステップS106において設定された目標位置が、上板71の端部の仮の検出位置P1として記憶部55に記憶される。なお、ステップS105において、目標位置が更新されたときには、ステップS107において、上板71の端部の仮の検出位置P1が新たに設定された目標位置に更新されて、記憶部55に記憶される。
【0032】
ステップS104において、ワイヤ先端が上板71の表面に接触していないと判定されたときは、ステップS108に進む。ステップS108では、ワイヤ先端の現在位置から、所定の進行方向Vs且つ近接方向Vcに、所定距離、離れた位置が、溶接ワイヤWの次の目標位置として、目標位置設定部52によって設定される。そして、ステップS109において、駆動制御部53が、ワイヤ先端を目標位置に移動させる(図4の矢印R3参照)。
【0033】
次に、ステップS110では、近接方向Vcへのワイヤ先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったか否かが端部検出部54によって判定される。所定の閾値は、上板71の板厚D1よりも小さな値である。所定の閾値は、例えば、上板71の板厚D1の1/2の値である。近接方向Vcへのワイヤ先端の連続移動距離が所定の閾値以上になっていないと判定されたときには、ステップS104に戻る。
【0034】
ステップS110において、近接方向Vcへのワイヤ先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったと判定されたときには、ステップS111において、駆動制御部53は、ワイヤ先端を停止させる(図4の位置P2参照)。そして、ステップS112において、記憶部55に記憶されている仮の検出位置P1が、上板71の端部の位置として決定される。
【0035】
また、ステップS113において、目標位置設定部52が、ワイヤ先端の現在位置から検出位置P1に向かって所定距離L戻った位置をワイヤ先端の待機位置P3として設定する。そして、ステップS114において、駆動制御部53が、ワイヤ先端を待機位置P3に移動させて停止させる。所定距離Lは、近接方向Vcへのワイヤ先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったと判定されたときのワイヤ先端の位置P2と検出位置P1との間の距離よりも小さい。或いは、所定距離Lは、検出位置P1と位置P2との間の距離と等しくてもよい。すなわち、ワイヤ先端が、位置P2から検出位置P1に戻されてもよい。
【0036】
本実施形態に係る溶接ロボットの制御装置5は、以下の特徴を有する。
【0037】
ワイヤ先端が母材7の表面に接触していると判定されたときには、ワイヤ先端が、現在位置から、所定の進行方向Vs、且つ、離れ方向Veに離れた位置に移動する。また、ワイヤ先端が母材7の表面に接触していないと判定されたときには、ワイヤ先端が、所定の進行方向Vs、且つ、近接方向Vcに離れた位置に移動する。この動作が繰り返されるにより、図4に示すように、ワイヤ先端は、上板71の表面に沿って上板71の端部に向かって移動する。
【0038】
ワイヤ先端が上板71の端部を通過すると、ワイヤ先端が近接方向Vcに移動しても、上板71の表面に接触しなくなる。従って、ワイヤ先端が母材7の表面に接触していないという判定が繰り返し行われることになる。このため、ワイヤ先端は、所定の進行方向Vs、且つ、近接方向Vcに向かって、繰り返し移動する。そして、近接方向Vcへのワイヤ先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときに、仮の検出位置P1が、母材7の端部の位置として検出される。このとき、図4に示すように、仮の検出位置P1は、第1位置P4と第2位置P5との間に位置している。第1位置P4は、最後にワイヤ先端が上板71の表面に接触していると判定されたときのワイヤ先端の位置である。このため、第1位置P4は、上板71上に位置している。また、第2位置P5は、第1位置P4の検出後に最初に近接方向Vcに移動してワイヤ先端が母材7の表面に接触していないと判定されたときのワイヤ先端の位置である。このため、第2位置P5は、上板71の端部を越えた位置である。上板71の端部は、第1位置P4と第2位置P5との間に位置しているはずなので、第1位置P4と第2位置P5との間の検出位置P1を上板71の端部の位置として決定することにより、上板71の端部の位置を精度よく検出することができる。また、ワイヤ先端が、上板71の端部から大きく離れることなく、上板71の端部近傍に位置するときに、上板71の端部の位置を検出することができる。以上のような端部検出機能によれば、例えば、図5(a)に示すように、下板72が曲がっていても、上板71の端部の位置を精度よく検出することができる。また、図5(b)に示すように、上板71と下板72とが曲面状であっても、上板71の端部の位置を精度よく検出することができる。以上のように、本実施形態に係る溶接ロボットの制御装置5は、重ね継手に対して溶接位置を精度よく検出することができる。特に、上板が薄い場合には溶接位置を検出することが困難であるが、本実施形態に係る溶接ロボットの制御装置5によれば、上板が薄い重ね継手においても、溶接位置を精度よく検出することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る溶接ロボットの制御装置5では、上板71の端部の位置が検出されると、ワイヤ先端は、上述した待機位置P3へ移動する。すなわち、ワイヤ先端は、溶接の開始位置に近い位置へと移動して停止する。このため、溶接を速やかに開始することができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
母材7の端部の検出後の処理は、上述したステップS113,S114の処理に限られない。例えば、図6に示すフローチャートのように、ステップS213以降の処理が行われてもよい。ステップS213では、駆動制御部53は、ワイヤ先端を現在位置P2から所定の進行方向Vsと逆方向に移動させる。そして、ステップS214において、ワイヤ先端が上板71に接触しているか否かが判定される。ワイヤ先端が上板71に接触していると判定されたときには、ステップS215において、駆動制御部53は、ワイヤ先端を停止させる。すなわち、図7に示すように、駆動制御部53は、母材7の端部が検出されると、ワイヤ先端が上板71に接触するまで、ワイヤ先端を現在位置P2から所定の進行方向Vsと逆方向に移動させる(矢印R4参照)。そして、ワイヤ先端が上板71に接触した位置を待機位置P3とする。このような処理によっても、上記の実施形態と同様に、ワイヤ先端を、溶接の開始位置に近い位置へ移動させて待機させることができる。このため、溶接を速やかに開始することができる。なお、図6に示すフローチャートにおいて、ステップS201−S212の処理は、上述した実施形態のステップS101−S112の処理とそれぞれ同様であるため説明を省略する。
【0042】
母材7の端部の検出後の処理は、上述したステップS113,S114の処理に限られない。例えば、図8に示すフローチャートのように、ステップS313以降の処理が行われてもよい。ステップS313では、目標位置設定部52は、検出位置P1から近接方向Vcに上板71の板厚D1に等しい距離進んだ位置を、ワイヤ先端の待機位置P3として設定する。そして、ステップS314において、駆動制御部53は、ワイヤ先端を待機位置に移動させて停止させる。これにより、図9に示すように、ワイヤ先端を、溶接の開始位置にさらに近い位置へ移動させて待機させることができる。このため、溶接を速やかに開始することができる。なお、図8に示すフローチャートにおいて、ステップS301−S312の処理は、上述した実施形態のステップS101−S112の処理とそれぞれ同様であるため説明を省略する。
【0043】
上記の実施形態では、溶接ワイヤの先端は、現在位置から次の目標位置まで直接的に最短距離で移動している。しかし、溶接ワイヤの先端は、結果的に次の目標位置に移動すればよく、目標位置への移動の軌跡は、上記のような軌跡に限らない。例えば、図10に示すように、現在位置が位置A1であり次の目標位置が位置A2である場合に、溶接ワイヤの先端が、矢印R11に示すように、位置A1から母材の表面から離れる方向に進み、次に、矢印R12に示すように、母材の表面に沿った進行方向に進んでもよい。また、現在位置が位置A2であり、次の目標位置が位置A3である場合に、溶接ワイヤの先端が、矢印R21に示すように、位置A2から、母材の表面に沿った進行方向に進み、次に、矢印R22に示すように、母材の表面に近づく方向に進んでもよい。位置A3から位置A4に進む場合も上記と同様に、溶接ワイヤの先端が、矢印R31に示すように、位置A3から、母材の表面に沿った進行方向に進み、次に、矢印R32に示すように、母材の表面に近づく方向に進んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、重ね継手に対して溶接位置を精度よく検出することができる溶接ロボットの制御装置及び制御方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
5 制御装置
51 接触判定部
52 目標位置設定部
53 駆動制御部
54 端部検出部
P1 検出位置(所定位置)
P3 待機位置
P4 第1位置
P5 第2位置
W 溶接ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の端部の位置を検出する溶接ロボットの制御装置であって、
溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触しているか否かを判定する接触判定部と、
前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していると判定されたときには、前記溶接ワイヤの先端の現在位置から、前記母材の表面から離れる方向、且つ、前記母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置を前記溶接ワイヤの次の目標位置として設定し、前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していないと判定されたときには、前記溶接ワイヤの先端の現在位置から、前記母材の表面に近づく方向、且つ、前記所定の進行方向に離れた位置を前記溶接ワイヤの次の目標位置として設定する目標位置設定部と、
前記溶接ワイヤの先端が、前記目標位置設定部によって順次設定された前記目標位置に移動するように、前記溶接ロボットの駆動を制御する駆動制御部と、
前記母材の表面に近づく方向への前記溶接ワイヤの先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときには、最後に前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していると判定されたときの前記溶接ワイヤの先端の第1位置と、前記第1位置の検出後に最初に前記母材の表面に近づく方向に移動して前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していないと判定されたときの前記溶接ワイヤの先端の第2位置との間の所定位置を、前記母材の端部の位置として検出する端部検出部と、
を備える溶接ロボットの制御装置。
【請求項2】
前記所定位置は、前記第1位置の次の前記目標位置である、
請求項1に記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項3】
前記端部検出部によって前記母材の端部の位置が検出されると、前記目標位置設定部は、前記溶接ワイヤの先端の現在位置から前記所定位置に向かって所定距離戻った位置を前記溶接ワイヤの先端の待機位置として設定し、
前記駆動制御部は、前記溶接ワイヤの先端を前記待機位置に移動させて停止させる、
請求項1又は2に記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項4】
前記端部検出部によって前記母材の端部の位置が検出されると、前記駆動制御部は、前記溶接ワイヤの先端を現在位置から前記所定の進行方向と逆方向に移動させ、前記溶接ワイヤの先端が前記母材に接触していると判定されたときに前記溶接ワイヤの先端を停止させる、
請求項1又は2に記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項5】
前記端部検出部によって前記母材の端部の位置が検出されると、前記目標位置設定部は、前記所定位置から前記母材の表面に近づく方向に前記母材の板厚に等しい距離進んだ位置を、前記溶接ワイヤの先端の待機位置として設定し、
前記駆動制御部は、前記溶接ワイヤの先端を前記待機位置に移動させて停止させる、
請求項1又は2に記載の溶接ロボットの制御装置。
【請求項6】
母材の端部の位置を検出する溶接ロボットの制御方法であって、
溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触しているか否かを判定するステップと、
前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していると判定されたときに、前記溶接ワイヤの先端の現在位置から、前記母材の表面から離れる方向、且つ、前記母材の表面に沿った所定の進行方向に離れた位置を前記溶接ワイヤの次の目標位置として設定するステップと、
前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していないと判定されたときに、前記溶接ワイヤの先端の現在位置から、前記母材の表面に近づく方向、且つ、前記所定の進行方向に離れた位置を前記溶接ワイヤの次の目標位置として設定するステップと、
前記溶接ワイヤの先端が、前記目標位置設定部によって順次設定される前記目標位置に移動するように、前記溶接ロボットの駆動を制御するステップと、
前記母材の表面に近づく方向への前記溶接ワイヤの先端の連続移動距離が所定の閾値以上になったときには、最後に前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していると判定されたときの前記溶接ワイヤの先端の第1位置と、前記第1位置の検出後に最初に前記母材の表面に近づく方向に移動して前記溶接ワイヤの先端が前記母材の表面に接触していないと判定されたときの前記溶接ワイヤの先端の第2位置との間の所定位置を、前記母材の端部の位置として検出するステップと
を備える溶接ロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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