説明

溶接制御方法及び溶接装置

【課題】TIG溶接かGMA溶接を問わず、ルートギャップや裏当て隙間や目違いが変わっても良好な裏ビード形状とビード品質を安定して得る。
【解決手段】被溶接部材7の溶融池12とその近傍を視覚センサ4で撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭25を抽出し、抽出した輪郭25から溶融池先端の左端点FLPと右端点FRPを抽出する。抽出した溶融池先端の左端点FLPと右端点FRPの座標から溶融池先端部幅Wを算出し、算出した溶融池先端部幅Woによりルートギャップの変化量ΔWを算出する。算出したルートギャップの変化量ΔWに基づいてトーチ揺動幅の制御量Wtと溶接速度の制御量Vwを算出し、算出したトーチ揺動幅Wtと溶接速度の制御量Vwで揺動幅と溶接速度を制御する.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アーク溶接を行うときに、トーチ揺動幅と溶接速度を適応制御する溶接制御方法及び溶接装置、特に、開先形状例えばルートギャップや目違いあるいは裏当て隙間などの変化が発生しても、初層溶接における所定の溶接ビード厚さを維持しながら良質な裏波ビードも得ることに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、造船や橋梁、建築、パイプライン、機械、鉄鋼などの分野において、自動溶接のニーズが高まっている。この自動溶接の際に、溶接アークを溶接線に自動的に倣わせることはもちろん、開先形状の変化有無にかかわらず良質な裏波ビードや各層の適切な溶接ビード厚さを維持する必要がある。これらを実現するためにレーザセンサ視覚センサを使用している。
【0003】
レーザセンサを使用する場合は、溶接トーチの前方にレーザセンサヘッドを設け、溶接アークから十分離れた溶接方向の前方の開先上にレーザ光を照射し、そのレーザ光切断画像をCCDカメラなどで撮影し、撮影した画像を画像処理して開先断面積を求め、求めたデータをメモリに記憶しておき、溶接アークが計測位置に移動してきたときに、メモリに記憶した開先断面積のデータを読み出して溶接条件を算出して制御に利用するようにしている。この制御方法は、一般的に制御による不安定現象が生じないため、システムを構築しやすい利点がある。
【0004】
一般的にレーザセンサ自身は高い計測精度を持たせるのは容易であるが、CCDカメラ等が撮影したレーザ光切断画像は開先表面の反射状況の影響を受け易く、例えば、グラインダをかけた開先表面の場合、ときにはCCDカメラ等に入射する反射光が弱すぎてレーザ光切断画像の一部が欠如するような不完全な画像になったり、逆に反射光が強すぎて、ハレーション現像を起こして画像が歪んでしまったりすることがよくあるので、計測結果が使用環境によって変わり易い欠点がある。
【0005】
視覚センサは、レーザセンサと違ってアーク直下の溶融池、あるいはその周辺の開先形状も含めて撮影するので、時間的な遅れなしにフィードバッグ制御を行うことができ、近年注目を浴びている。例えば特許文献1に示された溶接制御方法は、溶融池の後方に設置した赤外線カメラを用いて溶融池を直接撮像し、赤外線カメラからの撮像データに基づき、溶融池の温度分布や、溶融池の形状を示す面積と幅及び幾何学的重心と最後端部との距離等を特徴づける特徴データを抽出し、これらの特徴データを、あらかじめ理想的な溶接において得た溶融池の特徴データの目標値と一致するように、溶接電流、溶接速度又は溶接トーチの狙い位置等の溶接条件を制御して所定の溶接品質を得るようにしている。
【0006】
また、特許文献2に示された溶接制御方法は、多層盛アーク溶接の初層波溶接において、溶接進行方向の斜め上方に設置されたCCDカメラにより、溶接部溶融池の画像を撮像し、この画像を画像処理して、溶融池前縁位置とアーク光画像の開先長手方向における重心位置との画像上の距離を溶融池先行量として算出し、算出した溶融池先行量が所定の適正値になるように溶接速度を制御して自動裏波溶接を行うようにしている。
【特許文献1】特開2000−351071号公報
【特許文献2】特開2000−94130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1や特許文献2に示された溶接制御方法は、溶融池の形状変化を引き起こすルートギャップ変化に応じてトーチ揺動幅の適応制御をなんら講じていない。一般に、ルートギャップが変化したとき、トーチ揺動幅もルートギャップの変化に応じて変化させないと、開先壁(ベベル面)での溶け込み具合を確保するのは困難である。したがって、溶接速度や溶接電流すなわち溶着量の適応制御により裏波ビード形状やビード高さを期待どおりに確保しようとしても、必ず良好な溶接ビード品質が得られるとは限らない。また、溶融池先行量を、アーク光により輝度の高いアーク光画像の重心位置を基準にして算出しても、アーク光は一定ではなく変化するため、アーク光画像の重心位置を特定することは難しく、溶融池先行量の変動(ノイズ)が大きくなってしまう。
【0008】
この発明は、このような問題を解消し、TIG溶接かGMA溶接を問わず、ルートギャップや裏当て隙間や目違いが変わっても良好な裏ビード形状とビード品質を安定して得ることができる溶接制御方法及び溶接装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の溶接制御方法は、被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、抽出した輪郭から溶融池先端の左端点と右端点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、算出した溶融池先端部幅とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから溶接速度の制御量を算出し、算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする。
【0010】
この発明の他の溶接制御方法は、被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、抽出した輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、抽出した溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池高さを算出し、算出した溶融池先端部幅とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから補正溶接速度を算出し、算出した溶融池高さとあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得たビード高さとの差である溶融池高さの変化量を算出し、算出した溶融池高さの変化量に基づいて溶接速度修正量を演算し、演算した溶接速度修正量により前記補正溶接速度を修正して溶接速度の制御量を算出し、算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする。
【0011】
この発明の溶接装置は、視覚センサと溶接制御装置を有し、前記視覚センサは、被溶接部材の溶融池及びその近傍を撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、前記溶接制御装置は、画像処理部と演算処理部及び駆動制御部を有し、前記画像処理部は、前記視覚センサで撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、前記演算処理部は、特徴量演算部とギャップ変化量演算部と揺動幅演算部及び補正速度演算部を有し、前記特徴量演算部は、前記画像処理部で抽出した溶融池の輪郭から溶融池先端の左端点と右端点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、前記ギャップ変化量演算部は、前記特徴量演算部で算出した溶融池先端部幅とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、前記揺動幅演算部は、前記ギャップ変化量演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、前記補正速度演算部は、前記揺動幅演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから溶接速度の制御量を算出し、前記駆動制御部は、前記揺動幅演算部で算出したトーチ揺動幅と前記補正速度演算部で算出した溶接速度の制御量により揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする。
【0012】
この発明の他の溶接装置は、視覚センサと溶接制御装置を有し、前記視覚センサは、被溶接部材の溶融池及びその近傍を撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、前記溶接制御装置は、画像処理部と演算処理部及び駆動制御部を有し、前記画像処理部は、前記視覚センサで撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、前記演算処理部は、特徴量演算部とギャップ変化量演算部と揺動幅演算部と補正速度演算部と高さ変化量演算部と補正速度修正量演算部及び溶接速度演算部を有し、前記特徴量演算部は、前記画像処理部で抽出した溶融池の輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、抽出した溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池高さを算出し、前記ギャップ変化量演算部は、前記特徴量演算部で算出した溶融池先端部幅とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、前記揺動幅演算部は、前記ギャップ変化量演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、前記補正速度演算部は、前記揺動幅演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから補正溶接速度を算出し、前記高さ変化量演算部は、前記特徴量演算部で算出した溶融池高さとあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得たビード高さとの差である溶融池高さの変化量を算出し、前記補正速度修正量演算部は、前記高さ変化量演算部で算出した溶融池高さの変化量に基づいて溶接速度修正量を演算し、前記溶接速度演算部は、前記補正速度修正量演算部で演算した溶接速度修正量により前記補正速度演算部で算出した前記補正溶接速度を修正して溶接速度の制御量を算出し、前記駆動制御部は、前記揺動幅演算部で算出したトーチ揺動幅と前記溶接速度演算部で算出した溶接速度の制御量により揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、抽出した輪郭から溶融池先端の左端点と右端点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、算出した溶融池先端部幅によりルートギャップの変化量を算出し、算出したルートギャップの変化量に基づいてトーチ揺動幅の制御量と溶接速度の制御量を算出し、算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御することにより、TIG溶接かGMA溶接を問わず、ルートギャップが変わっても良好な裏ビード形状とビード品質を安定して得ることができる。
【0014】
また、撮影した画像から溶融池の輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、抽出した溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池高さを算出し、算出した溶融池先端部幅によりルートギャップの変化量を算出し、算出したルートギャップの変化量に基づいてトーチ揺動幅の制御量と補正溶接速度を算出し、算出した補正溶接速度を溶融池高さの変化量に基づいて修正して溶接速度の制御量を算出し、算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御することにより、TIG溶接かGMA溶接を問わず、ルートギャップや裏当て隙間や目違いが変わっても良好な裏ビード形状とビード品質を安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1はこの発明の溶接装置の構成図である。図に示すように、溶接装置1は、先端に電極2を有する溶接トーチ3と例えばCCDカメラを有する視覚センサ4とトーチ上下移動機構部5及びトーチ左右移動機構部6を搭載し、被溶接部材7の開先(溶接線)に沿って移動する移動台車8と、溶接電源9と溶接制御装置10を有する。視覚センサ4は溶接トーチ3より溶接方向の前方に近接して配置され、図2に示すように、被溶接部材7に溶接ビード11を形成する溶融池12とその近傍を撮影する。この視覚センサ4は溶接トーチ3とともにトーチ上下移動機構部5に固定され、トーチ上下移動機構部5により上下方向に移動する。トーチ上下移動機構部5は移動台車8に固定されたトーチ左右移動機構部6に固定され、トーチ左右移動機構部6により溶接線と直交する方向に移動して、溶接トーチ3及び視覚センサ4の位置を可変する。
【0016】
溶接制御装置10は、図3のブロック図に示すように、画像処理部13と演算処理部14及び駆動制御部15を有する。画像処理部13は視覚センサ4から出力される溶融池12とその近傍の画像の輝度むら等を補正するシェーディング補正や2値化処理やノイズ除去等を行い、溶融池画像の輪郭を抽出する。
【0017】
演算処理部14は、理想値設定部16と特徴量演算部17とギャップ変化量演算部18と高さ変化量演算部19と揺動幅演算部20と補正速度演算部21と補正速度修正量演算部22及び溶接速度演算部23を有する。理想値設定部16には、あらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅Woとトーチ揺動幅Wtoと溶接速度Vwoとビード断面積Sbo及びビード高さHboが設定されている。特徴量演算部17は画像処理部13で抽出した溶融池12の特異点を抽出し、抽出した特異点から溶融池先端部幅Wとビード高さすなわち溶融池高さHを演算する。ギャップ変化量演算部18は特徴量演算部17で演算した溶融池先端部幅Wと理想値設定部16に設定された理想的な溶融池先端部幅Woからルートギャップの変化量ΔWを演算する。高さ変化量演算部19は特徴量演算部17で演算した溶融池高さHと理想的なビード高さHboから溶融池高さの変化量ΔHを算出する。揺動幅演算部20はギャップ変化量演算部18で算出したルートギャップの変化量ΔWと理想値設定部16に設定された理想的なトーチ揺動幅Wtoから実際のトーチ揺動幅Wtを演算する。補正速度演算部21はギャップ変化量演算部18で算出したルートギャップの変化量ΔWと理想値設定部16に設定された理想的な溶接速度Vwoとビード断面積Sbo及びビード高さ(溶融池高さ)Hboにより補正溶接速度Vwを演算する。補正速度修正量演算部22は高さ変化量演算部19で算出している溶融池高さの変化量ΔHに基づいた溶接速度の増減量ΔVwを例えばファジー推論を用いて算出する。溶接速度演算部23は補正速度演算部21で算出した補正溶接速度Vwを補正速度修正量演算部22で算出した増減量ΔVwで修正する。
【0018】
駆動制御部15は揺動幅演算部20で算出したトーチ揺動幅Wtにより溶接トーチ3の揺動幅を制御し、溶接速度演算部23で修正した溶接速度により溶接速度を制御する。
【0019】
この溶接装置1で移動台車8を被溶接部材7の開先に沿って移動しながら被溶接部材7を溶接するときのトーチ揺動幅と溶接速度を制御して良好な裏ビード形状を形成するときの処理を図4のフローチャートを参照して説明する。
【0020】
移動台車8を被溶接部材7の開先に沿って配置して溶接を開始すると、視覚センサ4で被溶接部材7の溶融池12及びその近傍を撮影し、撮影した画像信号を溶接制御装置10の画像処理部13に逐次送る(ステップS1)。この視覚センサ4による撮影は溶接中にいつでも可能であるが、溶接トーチ3を揺動させながら溶接する場合、溶融池12の形状は溶接トーチ3の揺動位置により変化するので、一定の揺動位置、例えば揺動中心位置で撮影する。
【0021】
画像処理部13は視覚センサ4から画像信号が送られると、送られた画像信号を画像処理してノイズ等を除去して、図5(a)に示すように、溶融池画像24の輪郭25を抽出して演算処理部14の特徴量演算部17に送る(ステップS2)。特徴量演算部17は、送られた溶融池画像24の輪郭25から溶融池12の形状を特徴付ける左端点LPと右端点RP及び溶融池12の左先端点FLPと右先端点FRPを特異点として特定し、各特異点の座標LP(Xl,Yl)とRP(Xr,Yr)とFLP(Xfl,Yfl)及びFRP(Xfr,Yfr)をそれぞれ求める(ステップS3)。この溶融池画像24を形成した溶接ビード11に当てはめると、図5(b)に示すように、左端点LPと右端点RPは溶接ビード11表面における両端の点であり、左先端点FLPと右先端点FRPは開先ルート28の両端の点であることがわかる。
【0022】
特徴量演算部17は求めた各特異点の座標LP(Xl,Yl)とRP(Xr,Yr)とFLP(Xfl,Yfl)及びFRP(Xfr,Yfr)から下記(1)式と(2)式により溶融池先端部幅Wと溶融池高さHを特徴量として算出し、算出した溶融池先端部幅Wをギャップ変化量演算部18に送り、溶融池高さHを高さ変化量演算部19に送る(ステップS4)。
W=Xfr−Xfl (1)
H={(Yfl+Yfr)−(Yl+Yr)}/2 (2)
この算出した溶融池先端部幅Wは開先のルートギャップに関係し、溶融池高さHは溶接ビード11の高さに関係する。ここで、もし溶着量が一定とする場合、図5(b)に示すように、これらの特徴量はルートギャップと裏当て隙間や目違い、すなわち開先形状の変化にしたがって変化するはずである。例えば、ルートギャップが大きいほど、溶融池先端部幅Wは増大するが、溶融池高さHは減少する。一方、裏当て隙間が大きくなると、溶融池高さHは減少する。目違いによる影響も裏当て隙間と同様な傾向を示す。
【0023】
一般に、開先形状(ルートギャップ、目違い、裏当て隙間など)が変わっても、適正な溶融池高さH,すなわち溶接ビード厚さを保てば、良好な表溶接ビード形状のみならず、良好な裏ビード形状も得られる。したがって、開先形状が一定に保てない溶接の際に、溶融池高さHを維持できるような溶着量の適応制御が望ましい。また、ルートギャップが変化した場合、開先壁(ベベル面)での溶け込み具合を確保するためには、ルートギャップの変化に応じる溶接トーチ3の揺動幅の適応制御も必要である。
【0024】
そこでギャップ変化量演算部19は、送られた溶融池先端部幅Wとあらかじめ理想値設定部16に格納した理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅Woとからルートギャップの変化量ΔWを下記(3)式により算出して揺動幅演算部20と補正速度演算部21に送る(ステップS5)。
ΔW=K・(W−Wo) (3)
(3)式においてKは比例係数である。
揺動幅演算部20は、送られたルートギャップの変化量ΔWとあらかじめ理想値設定部16に格納した理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅Wtoから実際のトーチ揺動幅Wtを下記(4)式により算出して駆動制御部15に送る(ステップS6)。
Wt=Wto−ΔW (4)
【0025】
一方、補正速度演算部21は、送られたルートギャップの変化量ΔWとあらかじめ理想値設定部16に格納した理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度Vwoとビード断面積Sbo及びビード高さHboから補正溶接速度Vwを下記(5)式により算出する(ステップS7)。
Vw=Vwo・Sbo/(Sbo+ΔW・Hbo) (5)
【0026】
この補正速度演算部21で算出した補正溶接速度Vwはルートギャップの変化量ΔWのみに応じたもので、実際の溶接では、ルートギャップのほかに、目違いや裏当て隙間の変化もある。これらの変化は溶融池高さHの変化をもたらす。そこで補正速度演算部21で算出した補正溶接速度Vwは、計測した溶融池高さ(ビード高さ)Hと理想的な開先形状の溶接時に得たビード高さHboとの差ΔHを常に零にするように修正する。このため高さ変化量演算部19は、特徴量演算部17から送られた溶融池高さHとあらかじめ理想値設定部16に格納した理想的な開先形状の溶接時に得たビード高さHboとの差である溶融池高さの変化量ΔHを算出して補正速度修正量演算部22に送る(ステップS8)。補正速度修正量演算部22は送られた溶融池高さの変化量ΔHに基づいて溶接速度修正量ΔVwを演算する(ステップS9)。
【0027】
この溶融池高さの変化量ΔHが生じる原因となる裏当て隙間は裏当て銅板の継目において急変することがあるため、溶接速度修正量ΔVwを演算して補正溶接速度Vwを修正する場合高い応答性が求められている。そこで補正速度修正量演算部22は例えばファジー推論法を用いて溶接速度修正量ΔVwを求める。ここで、補正速度修正量演算部22で使用したファジー推論法は簡略推論法を用い、ファジー推論器の入力変数は、E0とE1及びE2の3つにし、入力変数E0の値は溶融池高さの変化量ΔHを用い、入力変数E1の値は溶融池高さの変化量ΔHの一階差分値を用い、入力変数E2の値は溶融池高さの変化量ΔHの二階差分値を用いる。各入力変数E0,E1,E2は、PとZとNの3つのファジーラベルを設け、各入力変数E0,E1,E2の値から各自のファジーラベルに変換するのは、図6(a)に示すように、三角形のメンバーシップ関数を用いる。一方、ファジー推論器の出力は溶接速度修正量ΔVwの一階差分値ΔUとし、この出力変数はPB(Positive Big)、PH(Positive High)、PM(Positive Medium)、PS(Positive Small)、ZE(Zero)、NS(Negative Small)、NM(Negative Medium)、NH(Negative High)、NB(Negative Big)の9つのファジーラベルを設け、ファジーラベルと溶接速度修正量ΔVwの一階差分値ΔUとの関係に図6(a)に示すように、シングルトンメンバーシップ関数を用いる。そして図7に示すファジー推論ルールを用いる。図7に示すファジー推論ルールは、27個のルールからなり、例えばルール1としては次のようなルールを示す。
if EO is P and E1 is P and E2 is P, then ΔU is PB
【0028】
そして補正速度修正量演算部22は、送られた溶融池高さの変化量ΔHに基づいて溶接速度修正量ΔVwを求めるとき、まず、送られた溶融池高さの変化量ΔHからファジー入力変数E0〜E2の値を求める。次に、求めたファジー入力変数のそれぞれのファジーラベル値を求め、前記表に示すファジー推論ルールに基づき、各ルールの適合度を積算方法にて求める。求めた各ルールの適合度と出力変数のファジィ値により溶接速度修正量ΔVwを重心法に基づいて算出して非ファジィ化し、算出した溶接速度修正量ΔVwを溶接速度演算部23に送る。
【0029】
溶接速度演算部23は、補正速度演算部21から送られた補正溶接速度Vwを補正速度修正量演算部22から送られた溶接速度修正量ΔVwにより修正し、修正した溶接速度Vtを駆動制御部15に送る(ステップS10)。駆動制御部15は揺動幅演算部20から送られたトーチ揺動幅Wtにより溶接トーチ3の揺動幅を制御し、溶接速度演算部23から送られた溶接速度Vtにより溶接速度を制御する(ステップS11)。この処理を溶接が終了するまで繰り返す(ステップS12,S1〜S11)。
【0030】
このようにルートギャップの変化に応じて求めたトーチ揺動幅Wtと、ルートギャップの変化と目違いや裏当て隙間の変化に応じて求めた溶接速度Vtにより溶接トーチ3の揺動幅と溶接速度を制御することにより、良好な表と裏ビード形状を形成することができた。例えば図8にはルートギャップが変化した場合、図9は目違いが変化した場合、図10は裏当て隙間が急変した場合のトーチ揺動幅と溶接速度の制御結果を示す。いずれの場合も良好な制御性能を持ち、形成したビードは、いずれも良好な表と裏ビード形状とビード品質を示していたことが確認できた。
【0031】
前記説明では溶接制御装置10に画像処理部13と演算処理部14及び駆動制御部15を設けた場合について説明したが、図11のブロック図に示すように、溶接制御装置10の演算処理部14を入力部30とCPU31とROM32とRAM33及び出力部34で構成し、あらかじめ前記処理プログラムをROM32に格納しておき、ROM32に格納した処理プログラムによりCPU31でトーチ揺動幅Wtと溶接速度Vtを演算するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の溶接装置の構成図である。
【図2】視覚センサにより溶融池とその近傍を撮影する状態を示す模式図である。
【図3】溶接制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】トーチ揺動幅と溶接速度の制御処理を示すフローチャートである。
【図5】溶融池画像と特異点を示す模式図である。
【図6】ファジー推論の入力変数と出力変数のメンバーシップ関数を示す模式図である。
【図7】ファジー推論ルールを示す図である。
【図8】ルートギャップが変化した場合のトーチ揺動幅と溶接速度の制御結果を示す図である。
【図9】目違いが変化した場合のトーチ揺動幅と溶接速度の制御結果を示す図である。
【図10】裏当て隙間が急変した場合のトーチ揺動幅と溶接速度の制御結果を示す図である。
【図11】溶接制御装置の他の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0033】
1;溶接装置、2;電極、3;溶接トーチ、4;視覚センサ、
5;トーチ上下移動機構部、6;トーチ左右移動機構部、7;被溶接部材、
8;移動台車、9;溶接電源、10;溶接制御装置、11;溶接ビード、
12;溶融池、13;画像処理部、14;演算処理部、15;駆動制御部、
16;理想値設定部、17;特徴量演算部、18;ギャップ変化量演算部、
19;高さ変化量演算部、20;揺動幅演算部、21;補正速度演算部、
22;補正速度修正量演算部、23;溶接速度演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、
抽出した輪郭から溶融池先端の左端点と右端点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、
算出した溶融池先端部幅とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、
算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、
算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから溶接速度の制御量を算出し、
算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする溶接制御方法。
【請求項2】
被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、
抽出した輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、抽出した溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池高さを算出し、
算出した溶融池先端部幅とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、
算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、
算出したルートギャップの変化量とあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから補正溶接速度を算出し、
算出した溶融池高さとあらかじめ理想的な開先形状の溶接時に得たビード高さとの差である溶融池高さの変化量を算出し、算出した溶融池高さの変化量に基づいて溶接速度修正量を演算し、
演算した溶接速度修正量により前記補正溶接速度を修正して溶接速度の制御量を算出し、
算出したトーチ揺動幅と溶接速度の制御量で揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする溶接制御方法。
【請求項3】
視覚センサと溶接制御装置を有し、
前記視覚センサは、被溶接部材の溶融池及びその近傍を撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、
前記溶接制御装置は、画像処理部と演算処理部及び駆動制御部を有し、
前記画像処理部は、前記視覚センサで撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、
前記演算処理部は、特徴量演算部とギャップ変化量演算部と揺動幅演算部及び補正速度演算部を有し、
前記特徴量演算部は、前記画像処理部で抽出した溶融池の輪郭から溶融池先端の左端点と右端点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、
前記ギャップ変化量演算部は、前記特徴量演算部で算出した溶融池先端部幅とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、
前記揺動幅演算部は、前記ギャップ変化量演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、
前記補正速度演算部は、前記揺動幅演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから溶接速度の制御量を算出し、
前記駆動制御部は、前記揺動幅演算部で算出したトーチ揺動幅と前記補正速度演算部で算出した溶接速度の制御量により揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
視覚センサと溶接制御装置を有し、
前記視覚センサは、被溶接部材の溶融池及びその近傍を撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、
前記溶接制御装置は、画像処理部と演算処理部及び駆動制御部を有し、
前記画像処理部は、前記視覚センサで撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、
前記演算処理部は、特徴量演算部とギャップ変化量演算部と揺動幅演算部と補正速度演算部と高さ変化量演算部と補正速度修正量演算部及び溶接速度演算部を有し、
前記特徴量演算部は、前記画像処理部で抽出した溶融池の輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池先端部幅を算出し、抽出した溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の座標から溶融池高さを算出し、
前記ギャップ変化量演算部は、前記特徴量演算部で算出した溶融池先端部幅とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶融池先端部幅とからルートギャップの変化量を算出し、
前記揺動幅演算部は、前記ギャップ変化量演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得たトーチ揺動幅からトーチ揺動幅の制御量を算出し、
前記補正速度演算部は、前記揺動幅演算部で算出したルートギャップの変化量とあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得た溶接速度とビード断面積及びビード高さから補正溶接速度を算出し、
前記高さ変化量演算部は、前記特徴量演算部で算出した溶融池高さとあらかじめ設定された理想的な開先形状の溶接時に得たビード高さとの差である溶融池高さの変化量を算出し、
前記補正速度修正量演算部は、前記高さ変化量演算部で算出した溶融池高さの変化量に基づいて溶接速度修正量を演算し、
前記溶接速度演算部は、前記補正速度修正量演算部で演算した溶接速度修正量により前記補正速度演算部で算出した前記補正溶接速度を修正して溶接速度の制御量を算出し、
前記駆動制御部は、前記揺動幅演算部で算出したトーチ揺動幅と前記溶接速度演算部で算出した溶接速度の制御量により揺動幅と溶接速度を制御することを特徴とする溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−281282(P2006−281282A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105565(P2005−105565)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)