説明

溶接制御方法及び溶接装置

【課題】 簡単な構成で溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向と狙い位置ずれ量を検出し、高精度な溶接線倣い制御を行う。
【解決手段】 視覚センサ4で被溶接部材7の溶融池とその近傍を撮影し、撮影した画像から溶融池16の輪郭15を抽出し、抽出した輪郭15から溶融池16の左端点LPと右端点RP及び溶融池16先端の左端点FLPと右端点FRPの4個所の特異点を抽出する。抽出した4個所の特異点で構成された四角形の2本の対角線L1,L2の長さの差を算出し、算出した2本の対角線の長さの差ΔLから溶接線に対する電極2の狙い位置ずれの有無と電極2の狙い位置ずれ方向及び狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極2の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチ3の位置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アーク溶接を行うときに、溶接トーチ位置を自動的に修正してアーク位置を溶接線に倣わせる溶接制御方法及び溶接装置、特に溶接線倣い精度の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、造船や橋梁、建築、パイプライン、機械、鉄鋼などの分野において、自動溶接のニーズが高まっている。この自動溶接で最適な接合を行うために最も必要な機能の一つは溶接アークを溶接線に自動的に倣わせることである。この溶接線倣いを実現するため、アークセンサやレーザセンサ及び視覚センサが使用されている。
【0003】
アークセンサを使用する場合、溶接トーチ(アーク)を開先内で溶接線に対して左右に揺動する必要がある。その際に得たトーチ揺動中心の両側における溶接電流や電圧の特徴量、例えば、積分値や最高値の差を最適値(通常ゼロ)にするように、溶接トーチの位置を調整して溶接線倣いを行う。このアークセンサは溶接線倣いや自動溶接装置に最も使用されているが、センサ感度がトーチ揺動速度に影響されることや、計測精度も瞬間的なアーク短絡やアーク不安定、溶融池形状変化などの影響を受け易い弱点がある。そのため、短絡溶滴移行の溶接プロセスでは倣い精度がそれ程高くなく、特にトーチ揺動周波数が比較的低い場合には、ほとんど溶接線に追従できない場合もある。
【0004】
レーザセンサを使用する場合は、溶接トーチの前方にレーザセンサヘッドを設ける必要がある。このレーザセンサヘッドで溶接アークから十分離れた溶接前方の開先上にレーザ光を照射し、そのレーザ光切断像をCDDカメラなどで撮影して画像処理し、開先中心位置あるいは開先上の他の特殊な位置を決め、これらのデータを一旦メモリに記憶し、後に溶接アークが先の計測位置に移動してきたときに、メモリから記憶値を読み出して溶接アークの狙い位置を修正するようにしている。
【0005】
一般的にレーザセンサ自身は高い計測精度を持たせるのは容易であるが、CCDカメラ等が撮影したレーザ光切断画像は開先表面の反射状況の影響を受け易く、例えば、グラインダーをかけた開先表面の場合、ときにはCCDカメラ等に入射する反射光が弱すぎてレーザ光切断画像の一部が欠如するような不完全な画像になったり、逆に反射光が強すぎて、ハレーション現像を起こして画像が歪んでしまったりすることがよくあるので、計測結果が使用環境によって変わり易い欠点がある。また、溶接線倣いは、センサと溶接ワイヤとの位置関係が一定であることを前提にした上で行うもので、溶接ワイヤの曲がり癖が変化した場合には倣いずれが生じてしまう。さらに、計測から実際にその計測値に基づく制御までにタイムラグがあるため、その間にもし溶接トーチとセンサが載った走行台車(マニピュレータ)の想定姿勢が変化してしまうと、倣いも溶接線から外れることもある。
【0006】
視覚センサは、レーザセンサと違ってアーク直下の溶融池、あるいはその周辺の開先形状も含めて撮影するので、時間的な遅れなしにフィードバッグ制御を行うことができ、近年注目を浴びている。例えば特許文献1に示された溶接制御方法は、消耗電極式アーク溶接に視覚センサを使用して溶接線倣いを行う方法であり、溶接進行方向に配置したCCDカメラで溶接状況を撮影し、撮影した画像を画像処理して溶接トーチ下部から出た溶接ワイヤの挿入位置と、溶融池輪郭の左端位置及び右端位置をそれぞれ求め、この左右端の中央位置とワイヤ挿入位置との差を算出して、その差を溶接トーチの位置ずれ量として溶接トーチ位置を修正して溶接線倣いを行っている。
【0007】
また、特許文献2に示された溶接制御方法は、非消耗電極式アーク溶接に視覚センサを使用して溶接線倣いを行う方法であり、CCDカメラで撮影した画像からタングステン電極の先端位置と、溶接進行方向の開先底面の左右両端位置を検出し、電極先端位置と開先底面の左右両端位置との水平距離を求め、この左右両端位置の距離の差を電極狙い位置のずれ量と判断し、このずれ量に基づいて溶接トーチ位置を左右に調整して溶接倣いを行っている。
【特許文献1】特開平7−299565号公報
【特許文献2】特開2000−301340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1と特許文献2に示された溶接線倣い方法は、適用する溶接法は相違しているが、両者とも電極先端を基準にして求めた溶融池の左右先端や開先底面の左右先端までの距離差から倣いずれ量を検出しているため、電極の先端位置を正確に求めなければならない。この電極の先端にはアークが存在し、それが鮮明な電極先端の画像を撮影するのに妨げになる。この電極先端の鮮明な画像を撮影するためには、溶接電流を極小レベル以下に低減して撮影するか、あるいは特許文献2が示すように、部分的に異なる透過率分布をもつ減光フィルタを使用する必要がある。
【0009】
溶接電流を通常レベルから瞬間的に極小レベルに低減するためには、溶接電源に極めて高い動特性を持たせる必要があり、溶接電源が高価になってしまう。また、溶接電源が極めて高い動特性を有しても、現場溶接のような場合、普通長い溶接ケーブルを使用することが多く、そのような場合、溶接ケーブルのインピーダンスが増加し、溶接電流を通常レベルから所定の極小レベル以下に低減させるに必要な時間が長くなり、アーク不安定を引き起こすことがある。
【0010】
また、部分的に異なる透過率分布を持つ減光フィルタのような特殊フィルタを使用すると、フィルタの制作費が高価になってしまう。さらに、消耗電極式アーク溶接においては、電極チップからワイヤ先端までの距離、すなわちワイヤ突出し長が変化し、CCDカメラから見たワイヤ先端位置が上下方向に変化するため、部分的に異なる透過率分布をもつ減光フィルタを使用しても、ときには電極先端位置が低い透過率の減光フィルタ範囲から逸脱して、鮮明な電極先端の画像を得られず、正確な電極先端位置の認識ができなくなるおそれもある。
【0011】
この発明は、このような問題点を解消し、TIG溶接かGMA溶接を問わず、簡単な構成で高精度な溶接線倣い制御を行うことができる溶接制御方法及び溶接装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の溶接制御方法は、被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、抽出した輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した4個所の特異点により溶融池の形状を特定し、特定した溶融池の形状から電極の狙い位置ずれの有無と、溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出することを特徴とする。
【0013】
前記抽出した特異点で構成された四角形の2本の対角線の長さの差を算出し、算出した2本の対角線の長さの差から被溶接部材の溶接線に対する電極の狙い位置ずれの有無を検出し、算出した2本の対角線の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、算出した2本の対角線の長さの差と、あらかじめ求めた2本の対角線の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御すると良い。
【0014】
また、抽出した4個所の特異点で構成された四角形の左辺の長さと右辺の長さの差から被溶接部材の溶接線に対する電極の狙い位置ずれの有無を検出し、算出した線分の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、算出した2本の線分の長さの差と、あらかじめ求めた2本の線分の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御しても良い。
【0015】
さらに、抽出した4個所の特異点で構成された四角形の底辺及び左辺で構成された三角形の面積と、底辺及び右辺で構成された三角形の面積との差から被溶接部材の溶接線に対する電極の狙い位置ずれの有無を検出し、算出した面積の差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、算出した二つの三角形の面積の差と、あらかじめ求めた二つの三角形の面積の差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御しても良い。
【0016】
この発明の溶接装置は、視覚センサと画像処理装置及び溶接制御装置を有し、視覚センサは、被溶接部材の溶融池及びその近傍を撮影し、撮影した画像を画像処理装置に出力し、画像処理装置は、前処理部と特異点抽出部及び位置ずれ量算出部を有し、前処理部は、視覚センサから出力された画像信号から溶融池の輪郭を抽出し、特異点抽出部は、抽出した輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、位置ずれ量算出部は、抽出した特異点から溶融池の形状を特定し、特定した溶融池の形状から電極の狙い位置ずれの有無と、溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、溶接制御装置は、位置ずれ量算出部で算出した電極の位置ずれの有無と位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御することを特徴とする。
【0017】
また、位置ずれ量算出部は、抽出した溶融池の特異点で構成された四角形の2本の対角線の長さの差を算出し、算出した2本の対角線の長さの差と、あらかじめ記憶した2本の対角線の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した2本の対角線の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出したり、抽出した4個所の特異点で構成された四角形の左辺の長さと右辺の長さの差と、あらかじめ記憶した2本の線分の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から溶接電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した2本の線分の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出したり、あるいは抽出した4個所の特異点で構成された四角形の底辺及び左辺で構成された三角形の面積と、底辺及び右辺で構成された三角形の面積との差と、あらかじめ求めた二つの三角形の面積の差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した二つの三角形の面積の差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出すると良い。
【発明の効果】
【0018】
この発明の溶接制御方法は、被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した溶融池の画像から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した4個所の特異点で溶融池の形状を特定するようにしたから、視覚センサで確実に検出することができる溶融池の輪郭を利用して溶接線倣い制御を行うことができ、高精度な溶接線倣い制御を行うことができる。
【0019】
また、抽出した4個所の特異点で構成された四角形の2本の対角線の長さの差や、四角形の左辺の長さと右辺の長さの差から電極の狙い位置ずれの有無を検出し、2本の対角線や線分の長さの差の正負から溶接線に対する電極の位置ずれ方向を検出するから、溶融池の形状を利用して溶接線倣い制御を行うことができ、高精度な溶接線倣い制御を行うことができる。
【0020】
また、溶融池の形状を特定する4個所の特異点として、溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点を抽出することにより、電極の位置ずれの有無や位置ずれ方向を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1はこの発明の溶接装置の構成図である。図に示すように、溶接装置1は、先端に電極2を有する溶接トーチ3と例えばCCDカメラを有する視覚センサ4とトーチ上下移動機構部5及びトーチ左右移動機構部6を搭載し、被溶接部材7の開先(溶接線)に沿って移動する移動台車8と、溶接電源9と画像処理装置10と溶接制御装置11を有する。視覚センサ4は溶接トーチ3より溶接方向の前方に近接して配置され、被溶接部材7の溶融池及びその近傍を撮影する。この視覚センサ4は溶接トーチ3とともにトーチ上下移動機構部5に固定され、トーチ上下移動機構部5により上下方向に移動する。トーチ上下移動機構部5は移動台車8に固定されたトーチ左右移動機構部6に固定され、トーチ左右移動機構部6により溶接線と直交する方向に移動して、溶接トーチ3及び視覚センサ4の位置を可変する。
【0022】
画像処理装置10は、図2のブロック図に示すように、前処理部12と特異点抽出部13及び位置ずれ量算出部14を有する。前処理部12は視覚センサ4から出力される画像の輝度むら等を補正するシェーディング補正や2値化処理やノイズ除去等を行う。特異点抽出部13は前処理部12で処理された画像信号から溶融池の特異点を抽出する。位置ずれ量算出部14は特異点抽出部13で抽出した溶融池の特異点から溶接線と直交する方向に対する電極2の狙い位置ずれ量を算出する。溶接制御装置11は位置ずれ量算出部13で算出した電極2の狙い位置ずれ量に応じてトーチ左右移動機構部6を駆動制御して電極2の倣い制御やウィービング幅や移動台車8の移動速度及び溶着量を制御する。
【0023】
この溶接装置1で移動台車8を被溶接部材7の開先に沿って移動しながら被溶接部材7を溶接するとき、溶接トーチ3先端の電極2を溶接線に沿って適切に移動させる必要がある。この電極2を溶接線に沿って適切に移動させるために行う溶接線倣い処理を図3のフローチャートを参照して説明する。
【0024】
移動台車8を被溶接部材7の開先に沿って配置して溶接を開始すると(ステップS1)、溶接線倣いを行うために、視覚センサ4で被溶接部材7の溶融池及びその近傍を撮影する。この視覚センサ4による撮影は溶接中にいつでも可能であるが、溶接トーチ3を揺動させながら溶接する場合、溶融池の形状は溶接トーチ3の揺動位置により変化するので、一定の揺動位置、例えば揺動中心位置で撮影する必要がある。そこで視覚センサ4は溶接制御装置11から所定の揺動位置信号が出力されると被溶接部材7の溶融池及びその近傍を撮影し、画像信号を画像処理装置10に送る(ステップS2,S3)。ここで溶接トーチ3を揺動させない場合、視覚センサ4はあらかじめ定めた一定タイミング毎に溶融池及びその近傍を撮影すれば良い。
【0025】
画像処理装置10は視覚センサ4から画像信号が送られると、送られた画像信号を前処理部12で画像処理して、図4に示すように、溶融池画像の輪郭15を抽出して特異点抽出部13に送る。特異点抽出部13は送られた溶融池画像の輪郭15から溶融池16の左端点LPと右端点RP及び溶融池16の左先端点FLPと右先端点FRPを特異点として特定し、各特異点の座標LP(Xl,Yl)とRP(Xr,Yr)とFLP(Xfl,Yfl)及びFRP(Xfr,Yfr)をそれぞれ算出して位置ずれ量算出部14に送る(ステップS4)。位置ずれ量算出部14は、送られた特異点の座標LP(Xl,Yl),RP(Xr,Yr),FLP(Xfl,Yfl),FRP(Xfr,Yfr)で構成する四角形17で溶融池16の形状を特定し、左端点LPと右先端点FRPを結ぶ対角線の長さL1と、右端点RPと左先端点FLPを結ぶ対角線の長さL2を下記式で算出し、この2本の対角線長さの差ΔLを算出して、開先18にある溶接線に対する電極2の狙い位置ずれの有無を検出する(ステップS5)。
【0026】
L1={(Xfr−Xl)+(Yfr−Yl)1/2
L2={(Xr−Xfl)+(Yr−Yfl)1/2
ΔL=L1−L2
【0027】
例えば被溶接部材7の開先18の左右ベベル角度が等しい場合、電極2の先端が開先18の中心である溶接線と一致していると、図4に示すように、溶融池16の形状は溶接線に対して左右対称であり、対角線の長さの差ΔL=0になる。これに対して図5(a)に示すように、電極2の狙い位置が開先18の中心に対して右側にずれると、溶融池16の形状は左右で対称でなくなり、開先18の中心である溶接線に対して右側の溶融池16の面積が大きくなり、2本の対角線の長さはL1>L2となってΔL>0になる。また、図5(b)に示すように、電極2の狙い位置が開先18の中心に対して左側にずれると、2本の対角線の長さはL1<L2となり、ΔL<0になる。このΔLの値と正負を検出することにより開先18の中心である溶接線に対する電極2の狙い位置ずれの有無とずれ方向を検出することができる。また、検出したΔLの値に応じて溶接トーチ2の位置を左側又は右側に移動して、ΔL=0になるように電極2の狙い位置を修正することにより、電極2の狙い位置を溶接線と一致させることができる。
【0028】
この2本の対角線の長さL1,L2の差ΔLは、一般的に電極2の狙い位置のずれ量δの変化に対応して変化する。このずれ量δに応じて変化するΔL、すなわち対角線の長さの差ΔLとずれ量δの変換特性を、図6に示すように、あらかじめ求めて位置ずれ量算出部12に記憶しておく。図6は、簡単のために、この変換特性を線形で近似したが、必要によっては非線形の変換特性でも良い。また、電極2の狙い位置のずれ修正は、絶えず行なわれるため、視覚センサ4で毎回検出した画像から得た対角線の長さの差ΔLはあまり大きくならないので、このΔLがある程度大きくなった場合、かえって不自然で、ノイズなどによる影響の可能性がある。そこで図6に示すように、ΔLがある程度大きくなったら変換特性を飽和させ、ΔLが一定値ΔLpt,ΔLmtを超えたら電極2の狙い位置のずれ量δを一定値δmとみなす。
【0029】
位置ずれ量算出部13は、算出した2本の対角線長さの差ΔLと、対角線の長さの差ΔLとずれ量δの変換特性から電極2の狙い位置のずれ量δを算出して溶接制御装置11に送る(ステップS6)。溶接制御装置11は送られたずれ量δに基づいてトーチ左右移動機構部5を駆動制御し、溶接トーチ3の位置を可変して電極2の溶接線に対するずれを修正する(ステップS7)。この処理を被溶接部材7の溶接が終了するまで逐次繰り返す(ステップS8,S2)。
【0030】
前記説明では開先18の左右ベベル角度が等しい場合のΔLとずれ量δの変換特性について示したが、開先18の左右のベベル角度が異なる非対称性開先を溶接する場合、電極2が溶接線に対してずれていなくても溶融池16は、図4に示すように左右対称とならず、溶融池16の特異点を結んだ四角形17の対角線の差ΔLに固有値ΔL0が存在する。この固有値ΔL0は開先18の左右ベベル角度の差により異なる。そこで開先18の左右ベベル角度に応じた固有値ΔL0とずれ量δに応じて変化するΔLをあらかじめ求め、図7(a),(b)に示すように、ΔLとずれ量δの変換特性を求めて位置ずれ量算出部12に記憶させておけば良い。
【0031】
前記説明では、溶接トーチ3を揺動させながら溶接するとき、視覚センサ4は揺動中心位置で被溶接部材7の溶融池16及びその近傍を撮影する場合について説明したが、溶接トーチ3の揺動中心以外の特殊な位置、例えば揺動の両端のいずれか一方又は両方の位置に合わせて視覚センサ4で溶融池を含む電極2及びその近傍を撮影しても良い。この場合は、視覚センサ4の撮影位置に応じて、図7(a),(b)に示すΔLとずれ量δの変換特性を使用してずれ量δを算出して溶接トーチ3の位置を制御することにより、溶接トーチ3の揺動中心を溶接線に倣わせることができる。
【0032】
前記説明では、溶融池16の形状を特定した4個所の特異点で構成された四角形17の2本の対角線の長さL1と長さL2の差ΔLを算出した場合について説明したが、その四角形17の左辺と右辺の長さの差を算出したり、特異点LPと特異点RPを結ぶ四角形17の底辺と左辺で構成された三角形の面積と、底辺及び右辺で構成された三角形の面積の差を算出して、電極2の狙い位置ずれ量と狙い位置ずれ方向を求めても良い。
【実施例】
【0033】
例えば外径が406.5mmの管をGMA溶接で全姿勢溶接したときの溶接線倣いの結果を図8に示す。図8において、横軸は溶接位置を示し、縦軸は開先中心位置のずれ量を示す。溶接は、ほぼ下向き(11時の位置)から開始し、立向き下進{15(3)時の位置}、上向き{18(6)時の位置}、立向き上進{21(9)時の位置}を経て下向き{23(11)時の位置}に戻った。そして12時の位置と6時の位置での開先中心位置のズレ量を約7.5mm、アークスタート点のワイヤ(溶接トーチ)の狙い位置ずれを零にセットして、溶融池16の特異点を抽出して対角線の差ΔLを算出して溶接線倣い制御を行って溶接を行った。この溶接の結果、図8に示すように、倣い精度は良好で、かつ追従性も十分に満足できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の溶接装置の構成図である。
【図2】画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図3】溶接線倣い処理を示すフローチャートである。
【図4】溶融池画像の輪郭と特異点及び特異点で構成する四角形を示す模式図である。
【図5】電極狙い位置が溶接線からずれた状態の溶融池画像の輪郭と特異点及び特異点で構成する四角形を示す模式図である。
【図6】溶融池の特異点を結ぶ四角形の2本の対角線の長さの差ΔLと溶接線に対する溶接トーチのずれ量δの変換特性図である。
【図7】開先左右のベベル角度が異なる場合のΔLとずれ量δの変換特性図である。
【図8】管を全姿勢溶接したときの溶接線倣いの結果を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1;溶接装置、2;電極、3;溶接トーチ、4;視覚センサ、
5;トーチ上下移動機構部、6;トーチ左右移動機構部、7;被溶接部材、
8;移動台車、9;溶接電源、10;画像処理装置、11;溶接制御装置、
12;前処理部、13;特異点抽出部、14;位置ずれ量算出部、
15;溶融池画像の輪郭、16;溶融池、17;開先、LP;溶融池の左端点、
RP;溶融池の右端点、FLP;溶融池の左先端点,FRP;溶融池の右先端点。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材の溶融池及びその近傍を視覚センサで撮影し、撮影した画像から溶融池の輪郭を抽出し、抽出した輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、抽出した4個所の特異点により溶融池の形状を特定し、特定した溶融池の形状から電極の狙い位置ずれの有無と、溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出することを特徴とする溶接制御方法。
【請求項2】
前記抽出した特異点で構成された四角形の2本の対角線の長さの差を算出し、算出した2本の対角線の長さの差から被溶接部材の溶接線に対する電極の狙い位置ずれの有無を検出し、算出した2本の対角線の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、算出した2本の対角線の長さの差と、あらかじめ求めた2本の対角線の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御する請求項1記載の溶接制御方法。
【請求項3】
前記抽出した4個所の特異点で構成された四角形の左辺の長さと右辺の長さの差から被溶接部材の溶接線に対する電極の狙い位置ずれの有無を検出し、算出した線分の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、算出した2本の線分の長さの差と、あらかじめ求めた2本の線分の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御する請求項1記載の溶接制御方法。
【請求項4】
前記抽出した4個所の特異点で構成された四角形の底辺及び左辺で構成された三角形の面積と、底辺及び右辺で構成された三角形の面積との差から被溶接部材の溶接線に対する電極の狙い位置ずれの有無を検出し、算出した面積の差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、算出した二つの三角形の面積の差と、あらかじめ求めた二つの三角形の面積の差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した電極の位置ずれ量と電極の狙い位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御する請求項1記載の溶接制御方法。
【請求項5】
視覚センサと画像処理装置及び溶接制御装置を有し、
前記視覚センサは、被溶接部材の溶融池及びその近傍を撮影し、撮影した画像を前記画像処理装置に出力し、
前記画像処理装置は、前処理部と特異点抽出部及び位置ずれ量算出部を有し、前記前処理部は、前記視覚センサから出力された画像信号から溶融池の輪郭を抽出し、前記特異点抽出部は、抽出した輪郭から溶融池の左端点と右端点及び溶融池先端の左端点と右端点の4個所の特異点を抽出し、前記位置ずれ量算出部は、抽出した特異点から溶融池の形状を特定し、特定した溶融池の形状から電極の狙い位置ずれの有無と、溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出し、
前記溶接制御装置は、前記位置ずれ量算出部で算出した電極の位置ずれの有無と位置ずれ方向に基づいて溶接トーチの位置を制御することを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
前記位置ずれ量算出部は、抽出した溶融池の特異点で構成された四角形の2本の対角線の長さの差を算出し、算出した2本の対角線の長さの差と、あらかじめ記憶した2本の対角線の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した2本の対角線の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出する請求項5記載の溶接装置。
【請求項7】
前記位置ずれ量算出部は、抽出した4個所の特異点で構成された四角形の左辺の長さと右辺の長さの差と、あらかじめ記憶した2本の線分の長さの差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から溶接電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した2本の線分の長さの差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出する請求項5記載の溶接装置。
【請求項8】
前記位置ずれ量算出部は、抽出した4個所の特異点で構成された四角形の底辺及び左辺で構成された三角形の面積と、底辺及び右辺で構成された三角形の面積との差と、あらかじめ求めた二つの三角形の面積の差と溶接線に対する電極の狙い位置ずれ量の変換特性から電極の狙い位置ずれ量を算出し、算出した二つの三角形の面積の差の正負から溶接線に対する電極の狙い位置ずれ方向を検出する請求項5記載の溶接装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−55858(P2006−55858A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236895(P2004−236895)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)