説明

溶接構造の疲労性能向上方法

【課題】第1部材を第2部材に対して略垂直方向に溶接した構造において、第2部材の面外変形を最小になるまで矯正することで発生応力を小さくすることができ、しかも熟練した技能を必要とせずに簡単に処理作業を好適に行なえる。
【解決手段】継手部材1を母材2に対して略垂直方向に溶接した溶接構造で、継手部材1において、母材2における継手部材1との接合部の変形が設定した最小値となるまで、第1溶接止端部1Aから所定の範囲に超音波衝撃処理法によるピーニングによって打撃を付与するようにした疲労性能向上方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1部材を第2部材に対して溶接した溶接構造の疲労性能向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1部材を第2部材に対して略垂直方向に溶接する構造では、溶接時に組み立て時に許容されている1mm程度のギャップが収縮し、このギャップ部での縮み分は両部材が拘束される状態において第2部材に局部的な面外変形として残留する。この変形が局部的である理由は、溶接時の高温によって近傍の鋼材の温度は上昇し、その部分の強度が低下するためである。このときの局部的な面外変形は第1部材との接合部(溶接部)の近傍10〜20mm程度の範囲に集中的に発生しており、この面外変形が疲労性能低下の原因となっている場合がある。
【0003】
ところで、大型溶接構造物などの金属製品の耐久性は疲労によって規定されることがあり、このような疲労強度を向上させるために様々な疲労強度向上方法により行われている(例えば、特許文献1参照)。
このような疲労強度向上方法として、疲労が問題となる部分の形状を変えて応力集中を少なくする方法と、疲労が問題となる部分に圧縮残留応力を与えて実質的な繰り返し応力の範囲を小さくする方法と、の2つの方法が知られている。応力集中を低減する方法として、グラインダーを使用したグラインディング等による処理方法がある。また、残留応力を低減する方法として、ハンマーピーニング、ニードルピーニング、ショットピーニング等のピーニングによる処理方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−113418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の溶接構造の疲労強度向上方法では、以下のような問題があった。
すなわち、グラインダーにより応力集中を低減させる方法では、鋼板を削り過ぎるとその断面積が小さくなり、かえって発生応力が大きくなってしまうおそれがあり、厚さの薄い材料に対してはグラインダーの使用が困難となっていた。しかも、グラインダー処理には熟練した技能が必要であるうえ、検査も難しく、処理の状態によっては疲労強度を低下させてしまう。
また、ピーニングによる処理方法では、作用する応力が大きくなってくると、圧縮残留応力が再配分により消失し、十分な効果が期待できなくなるという問題があった。
このようなことから、熟練した技能を必要とせずに簡単に処理作業を行なえる好適な疲労性能向上方法が求められており、その点で改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、第1部材を第2部材に対して溶接した構造において、第2部材の局部的な面外変形を矯正することで発生応力を小さくすることができ、しかも熟練した技能を必要とせずに簡単に処理作業を好適に行なえる溶接構造の疲労性能向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る溶接構造の疲労性能向上方法では、第1部材を第2部材に対して溶接した溶接構造の疲労性能向上方法であって、第1部材において、溶接止端部から所定の範囲にピーニングによって打撃を付与することによって、第2部材における第1部材との接合部の変形を低減させることを特徴としている。
【0008】
本発明では、第2部材の第1部材との接合部の面外変形(残留変形)をもたらしている第1部材に対して、その変形が減少するように、継続的にピーニングを行うことで、前記変形を矯正して溶接ビードの止端形状を改善するとともに、第2部材の溶接止端部に作用する発生応力を小さくすることができる。
例えば、第1部材と第2部材とのギャップの間隔を1mm設けて両部材を溶接すると、第2部材は高温によって剛性が低下した溶接部分の近傍10〜20mm程度で局部的な変形が起こって軸線のずれが生じるが、この軸線のずれを本方法によるピーニング処理によって矯正することで、前記10〜20mm程度の範囲における変形を低減して、発生応力を小さくすることができる。
【0009】
つまり、本発明の疲労性能向上方法では、第2部材の面外変形が減少するまで継続してピーニング処理を行う方法であって、従来のように単に溶接部に残留応力を入れるだけの目的で例えば1分程度の短時間の処理作業で、溶接止端部から2〜3mmまでの範囲にピーニングによる効果を施すものとは異なり、処理時間を長くすることによってピーニングに別の付加的な効果をもたらすことができる。したがって、従来のピーニングによる圧縮残留応力の付与効果だけでなく、グラインダーによる応力集中効果だけでもなく、作用する発生応力そのものを低減することができる効果を奏する。
【0010】
また、ピーニングによる処理方法であるので、従来のグラインダーによる方法のように削り過ぎによって圧縮残留応力を大きくしてしまうことがなく、厚さ寸法の薄い材料に対しても対応が可能である。なお、厚さ寸法が薄い材料の場合には、変形が容易に生じることから、発生応力が大きくなるのを抑制できる効果は大きい。さらに、本発明の方法では、グラインダー処理等の熟練した技能が不要であり、簡単に処理作業を行うことができる。
【0011】
また、本発明に係る溶接構造の疲労性能向上方法では、ピーニングによる打撃方法は、超音波衝撃処理法によるものであることが好ましい。
【0012】
この場合、超音波衝撃処理法は第1部材を常温によって変形させることができるので、処理終了時点が変形の最終状態となる。そのため、加熱矯正のように加熱時の変形状態と常温に下がったときの変形状態とが異なることがなく、変形値の管理が容易になる利点がある。
【0013】
また、本発明に係る溶接構造の疲労性能向上方法では、打撃範囲は、第1部材において、溶接止端部から第1部材の板厚寸法の最大で20倍に相当する距離の範囲に対して打撃を付与することがより好ましい。
【0014】
この場合には、第1部材の溶接止端部のみでなく、溶接止端部から前記第1部材の板厚寸法の最大で20倍に相当する距離の範囲といった広範囲をピーニング処理することで、第2部材におけるピーニング効果の範囲をより拡大することができる。
【0015】
また、本発明に係る溶接構造の疲労性能向上方法では、定規によって接合部の変形量を測定しながらピーニングによる打撃が行われることが好ましい。
【0016】
本発明では、定規により第2部材の変形量を管理しながらピーニングによる打撃を行うことで、第2部材に作用する発生応力が最も小さくなる軸線のずれがゼロとなる位置の精度を高めることができる。そして、定規を第2部材に当てて計測するといった簡単な方法であるので、管理が容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の溶接構造の疲労性能向上方法によれば、第2部材の面外変形を最小になるまで第1部材にピーニング処理により打撃を与えて矯正することで、第2部材に作用する発生応力を小さくすることができ、部材の疲労寿命を大幅に改善することができる。しかも、熟練した技能を必要とせずに簡単に処理作業を行なえる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態による疲労性能向上方法を使用する溶接構造の例の概要を示す斜視図である。
【図2】図1に示すA−A線矢視図であって、ピーニング処理前の状態を示す図である。
【図3】図2において、ピーニングによる処理作業後の状態の一例を示す図である。
【図4】ピーニングと変形の関係を確認するための試験の概要を示す斜視図である。
【図5】図4の試験結果を示す図である。
【図6】第1実施例によるピーニング処理前後における発生応力の変化を示す図である。
【図7】第2実施例によるFEM解析モデルの形状を示し、(a)は変形を付与した状態の図、(b)は変形無しの状態の図である。
【図8】第2実施例による解析結果を示す図であって、母材に作用する発生応力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態による溶接構造の疲労性能向上方法について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施の形態による溶接構造の疲労性能向上方法は、例えば大型溶接構造物などに採用され、板状の継手部材1(第1部材)を板状の母材2(第2部材)に対して略垂直方向にT字型に溶接した溶接構造に適用されている。
【0020】
図2および図3に示すように、具体的に疲労性能向上方法は、継手部材1において、第1溶接止端部1Aと、この継手部材1の板厚寸法tの10〜20倍に相当する距離Dの範囲に対して、ピーニングによって打撃を付与することによって、母材2における継手部材1との接合部の変形を低減させる方法となっている。
【0021】
このピーニング処理は、例えば30cm程の長さに対して10分程度の処理時間を上述した打撃範囲で面的に、且つ継続的に行う。ピーニング処理時間は、例えば継手部材1の板厚寸法が9mmの場合に2分以上、6mmの場合に1分以上、行うことが好ましい。なお、継手部材1に対して面的にピーニングを行う方法としては、第1溶接止端部1Aに沿った多列(繰り返し)処理により形成される打撃痕を幅広にすることでも行うことができる。
【0022】
また、継手部材1だけでなく、母材2においても第2溶接止端部2Aと、母材2の板厚寸法の10〜20倍に相当する距離と範囲に対して打撃を付与するようにしてもよい。
【0023】
金属表面を打撃するピーニングとして、本実施の形態では、超音波衝撃処理法を採用する。これは、一回一回の打撃のエネルギーが小さい代わり、1秒間に1万回以上の振動を与えることによって塑性変形を実現するものであり、例えば超音波ハンマリング衝撃加工機(図示省略)を使用する。この超音波ハンマリング衝撃加工機は、例えばApplied Ultrasonic社(略称AU社、正式名称UIT,L,L,C.)製のUIT(Ultrasonic Impact Treatment)装置、あるいは例えば特許文献2(特開2004−169063号公報)に記載の装置を用いることができる。
【0024】
具体的に、超音波ハンマリング衝撃加工機は、超音波を発信するトランスデューサーと、その前方に取り付けられ、トランスデューサーで発生した超音波を先端部に導く筒状のウェーブガイドと、このウェーブガイドの先端、即ち処理対象物と対向する側に取り付けられたヘッドと、を備えて構成されている。このヘッドは、複数の孔が設けられ、これら孔の上下方向に挿入された棒状のピンと、ピンの上端とウェーブガイドの先端との間に設けられた空間とを含んで収納するホルダーとを備えている。
【0025】
このように構成される超音波ハンマリング衝撃加工機は、トランスデューサーが超音波を発信すると、生じた超音波はこれに接続されたウェーブガイドに伝達され、ウェーブガイドの径が絞られていることによって速度が変性される。超音波はウェーブガイドの先端からヘッドに至り、これと接しているピンを振動させる。この振動によりピンの先端が処理対象物の表面を打撃することによって、衝撃加工されることになる。
【0026】
ピンの押圧力は、例えば2kg程度であり、この場合1.5mm程度の溝ができ、圧縮残留応力を付与することができる。また、ピン径としては、5mm以下のものが良く、用途によってはさらに小さい方がより好ましく、例えば3mmとされる。
【0027】
ここで、ピーニングと変形の関係について、試験例に基づいて詳細に説明する。
本試験例は、超音波衝撃処理法によるピーニングの処理時間に伴う変形量の変化を測定し、ピーニング時間と矯正の有効性について確認したものである。
図4に示すように、本試験例で用いた試験体4は、縦横30cmの鋼板4Aの幅方向中央に溶接ビード4Bを設け、その溶接ビード4Bを中心とした溶接変形を与えている。つまり、ピーニング処理前において、溶接ビード4Bを中心とした左右のうち一方の第1鋼板41を床面5に平置きした初期状態で、他方の第2鋼板42が床面5より浮き上がった面外変形となっている。その変形量σ0は、第2鋼板42の浮き上がった先端における下縁端42aと床面5との間隔をなし、初期値が4mmとなるように設定している。
【0028】
そして、本試験では、浮き上がった第2鋼板42の溶接ビード4B近傍を所定の時間だけピーニング処理し、時間の経過に伴う下縁端42aと床面5との間隔(変位σ)を測定した。この変位σは、第2鋼板の初期値となる4mmの位置から変形が戻る方向(図4で下向きの方向)の移動量を示す。
なお、本試験では、SS400で厚さ寸法が6mmの第1部材S1、SM400で厚さ寸法が9mmの第2部材S2、SM570で厚さ寸法が9mmの第3部材S3の3種の鋼板4Aを使用し、これら部材毎に試験を行った。
【0029】
図5は、上述した測定結果を示しており、横軸がピーニングによる処理時間(分)を示し、縦軸が変位σ(mm)を示している。図5に示すように、第1部材S1、第2部材S2、および第3部材S3は、それぞれ処理時間の経過とともに変位が大きくなっている。なお、第2鋼板42の初期値が4mmであるので、変位σが4mmのとき鋼板4は平面となる。
【0030】
さらに具体的には、厚さ寸法が9mmの第2部材S2と第3部材S3は、時間経過に伴う変位の推移がほぼ同様な傾向であり、例えば3分の処理時間で略2.5mmの変位、すなわち略2.5mmだけ変形が矯正されることとなる。そして、処理時間が8分で、第2部材S2が略3mmの変位、第3部材S3が略3.8mmの変位となる。
厚さ寸法が6mmで薄い第1部材S1は、第2部材S2および第3部材S3よりも処理時間に伴う変位が大きく、変形矯正能力が大きいことがわかる。例えば2分の処理時間ですでに略4mmの変位となり、この時点で変形が0となり、さらに3分で6mmを超える変位となっており、変形方向が反転する(床面5より下側へ向く)ほどの矯正能力が得られた。このことから、厚さ寸法が薄いほど変形矯正の効果が大きくなることがわかる。
【0031】
次に、上述したように構成された溶接構造の疲労性能向上方法の作用について、図面に基づいて説明する。
図2および図3に示すように、母材2の継手部材1との接合部の面外変形R(残留変形)をもたらしている継手部材1に対して、その変形Rが減少するように、継続的に超音波衝撃処理法によるピーニングを行うことで、前記変形を矯正して溶接ビード3の止端形状を改善するとともに、母材2の第2溶接止端部2Aに作用する発生応力を小さくすることができる。
【0032】
例えば、継手部材1と母材2とのギャップの間隔を1mm設けて両部材を溶接すると、母材2は高温によって剛性が低下した溶接部分の近傍10〜20mm程度で局部的な変形が起こって軸線(図2に示す符号C)のずれが生じるが、この軸線Cのずれをピーニング処理によって矯正することで、前記10〜20mm程度の範囲における変形を低減して、発生応力を小さくすることができる。
【0033】
つまり、母材2の面外変形Rが戻るまで継続してピーニング処理を行う方法であって、従来のように単に溶接部に残留応力を入れるだけの目的で例えば1分程度の短時間の処理作業で、第2溶接止端部2Aから2〜3mmまでの範囲にピーニングによる効果を施すものとは異なり、処理時間を長くすることによってピーニング効果による疲労性能向上効果を拡大することができる。したがって、従来のピーニングによる圧縮残留応力の低減効果だけでもなく、グラインダーによる応力集中効果だけでもなく、作用する発生応力そのものを低減することができる。
【0034】
また、ピーニングによる処理方法であるので、従来のグラインダーによる方法のように削り過ぎによって圧縮残留応力を大きくしてしまうことがなく、厚さ寸法の薄い材料に対しても対応が可能である。なお、厚さ寸法が薄い材料の場合には、変形が容易に生じることから、発生応力が大きくなるのを抑制できる効果は大きい。
さらに、グラインダー処理等の熟練した技能が不要であり、簡単に処理作業を行うことができる。
【0035】
また、ピーニングによる打撃方法が超音波衝撃処理法によるものであるため、継手部材1を常温によって変形させることができるので、処理終了時点が変形の最終状態となる。そのため、加熱矯正のように加熱時の変形状態と常温に下がったときの変形状態とが異なることがなく、変形値の管理が容易になる利点がある。
【0036】
さらに、ピーニングによる打撃範囲が継手部材1の第1溶接止端部1Aのみでなく、この第1溶接止端部1Aから継手部材1の板厚寸法tの20倍に相当する距離の範囲といった広範囲をピーニング処理することで、母材2におけるピーニング効果の範囲Dをより拡大することができる。
【0037】
さらにまた、本ピーニング処理作業では、定規により母材2の変形量を測定して管理しながらピーニングによる打撃を行うことで、母材2に作用する発生応力が最も小さくなる軸線Cのずれがゼロとなる位置の精度を高めることができる。そして、定規を母材2に当てて計測するといった簡単な方法であるので、管理が容易である。
【0038】
上述した本実施の形態による溶接構造の疲労性能向上方法では、母材2の面外変形を最小になるまで継手部材1にピーニング処理により打撃を与えて矯正することで、母材2に作用する発生応力を小さくすることができ、部材の疲労寿命を大幅に改善することができる。しかも、熟練した技能を必要とせずに簡単に処理作業を行なえる利点がある。
【0039】
次に、上述した実施の形態による溶接構造の疲労性能向上方法の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0040】
(第1実施例)
第1実施例では、鋼床版に対して超音波衝撃処理法によるピーニングを施し、その処理前と処理後において鋼床版上で車両を走行させたときの発生応力の変化を測定し、本実施の形態の有効性について確認した。
本実施例1では、鋼床版のデッキプレートが上述した実施の形態の母材(第2部材)に相当し、デッキプレート下面に溶接される複数のU字リブの縦リブが継手部材(第1部材)に相当する。そして、ピーニング処理部から略10mm離れた箇所に3軸ゲージを取り付けて、上下方向、軸方向、45度方向の3軸について、ピーニング処理前とピーニング処理後の発生応力を計測した。
【0041】
図6において、横軸が時間、縦軸に発生応力(MPa)を示しており、3軸ゲージの3方向のうち上下方向の処理前を符号P10、軸方向の処理前を符号P20、45度方向の処理前を符号P30、上下方向の処理後を符号P11、軸方向の処理後を符号P21、45度方向の処理後を符号P31とする。
また、図6に示す符号Paの第1ピークは車両の前輪がピーニング処理部の真上を通過したときであり、符号Pbの第2ピークは車輌の後輪がピーニング処理部の真上を通過したときを示している。
【0042】
図6に示すように、第1ピークPaにおいては、上下方向の処理前P10が略18MPaで、処理後P11が略2MPaとなり、軸方向の処理前P20が略22MPaで、処理後P21が略6MPaとなり、45度方向の処理前P30が略38MPaで、処理後P31が略12MPaとなり、いずれもピーニング処理後の発生応力が1/3以下に低減している。
また、第2ピークPbにおいては、上下方向の処理前P10が略20MPaで、処理後P11が略4MPaとなり、軸方向の処理前P20が略22MPaで、処理後P21が略7MPaとなり、45度方向の処理前P30が略43MPaで、処理後P31が略14MPaとなり、いずれもピーニング処理後の発生応力が略1/3以下に低減している。
このように、ピーニング処理後において、デッキプレート(第2部材)に作用する発生応力を大幅に低減できることが確認できた。
【0043】
(第2実施例)
次に、第2実施例では、設計モデル(FEM)解析を用いて局部的に生じる面外変形の発生応力への影響を検討し、上述した実施の形態における疲労性能向上方法の有効性を確認した。
図7(a)、(b)に示すように、解析モデルとして、板厚6mmのJ形断面の母材M2(第2部材)の長手方向中央部に板厚6mmの継手部材M1(第1部材)が溶接された構成をモデル化したものを使用している。
【0044】
図7(a)の第1解析モデルF1は、母材M2の継手部材M1との接合点2a(溶接部)において長手方向の範囲(符号d)に継手部材M1側に1mmの寸法で突出する面外変形をもたせたモデルである。つまり、第1解析モデルF1は、通常の溶接に伴う母材M2の面外変形を模式的に示しており、母材M2と継手部材M1との溶接部に収縮が生じる高温域における1mmのギャップの縮み分、すなわち母材M2の面外変形としての残留応力が継手部材M1の近傍10〜20mm程度に集中的に発生することから、ここでは継手部材M1との接合点2aから長手方向の両側のそれぞれ20mmの範囲dに面外変形を与えたモデルとしている。
図7(b)の第2解析モデルF2は、平面状の母材M2において継手部材M1に起因する面外変形を与えないモデルである。
【0045】
そして、第1解析モデルF1と第2解析モデルF2において、軸方向Y(前記長手方向)に荷重を与えたときの母材M2の発生応力を比較した。
図8は、本第2実施例の解析も出るに基づく解析結果であって、横軸が母材M2の位置(mm)を示し、縦軸が発生応力(MPa)を示している。
図8に示すように、第1解析モデルF1では、母材M2の面外変形が最大となる接合点2aにおいて最も発生応力が300MPaを超える値となり、面外変形が小さくなるに従って0に小さくなっているのがわかる。
一方、面外変形のない第2解析モデルF2では、略20MPa以内の発生応力で推移しているのが確認された。つまり、母材M2の面外変形を矯正することで、発生応力を1/10以下と小さくできることが確認できた。
【0046】
以上、本発明による溶接構造の疲労性能向上方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では継手部材1の板厚寸法tの10〜20倍に相当する距離Dの範囲に対して、母材2における継手部材1との接合部の変形が設定した最小値となるまでピーニングによって打撃を付与する方法としているが、その打撃範囲は継手部材1の板厚寸法tの10〜20倍に相当する距離Dであることに限定されることはなく、母材2の面外変形の変形量、変形範囲などの条件に応じて適宜設定可能である。
【0047】
また、ピーニング処理時間についても、上述したように母材2における継手部材1との接合部の変形が設定した最小値となるまでピーニング処理を継続的に行う方法であって、ピーニング対象となる部材の材質、板厚寸法、母材2の変形量などに応じて変わるものである。
さらに、ピーニング処理を施す継手部材1(第1部材)の板厚は、12mm程度までが好ましいが、とくに制限されるものではない。例えば、パワーの大きな加工装置を用いれば適用範囲は拡大可能である。もしくは、処理時間を長く取ることによっても板厚の大きい場合に対応することができる。
【0048】
さらにまた、本実施の形態ではピーニングとして超音波衝撃処理法を採用しているが、必ずしもこの処理法に制限されることはない。
【0049】
また、本実施の形態では継手部材1(第1部材)を母材2(第2部材)に対して略垂直方向に溶接した構造を一例としているが、第1部材の第2部材に対する取り付け角度は略垂直であることに制限されるものではなく、例えば30度、45度といった適宜な取り付け角度で溶接された溶接構造も本疲労性向上方法は適用可能である。なお、第1部材と第2部材との溶接には、突き合わせ溶接やすみ肉溶接などの溶接が行われる。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0050】
1、M1 継手部材(第1部材)
1A 第1溶接止端部
2、M2 母材(第2部材)
2A 第2溶接止端部
3 溶接ビード
C 母材2の軸線
D ピーニング効果範囲
F1 第1解析モデル
F2 第2解析モデル
R 変形部
σ 変位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材を第2部材に対して溶接した溶接構造の疲労性能向上方法であって、
前記第1部材において、溶接止端部から所定の範囲にピーニングによって打撃を付与することによって、前記第2部材における前記第1部材との接合部の変形を低減させることを特徴とする溶接構造の疲労性能向上方法。
【請求項2】
前記ピーニングによる打撃方法は、超音波衝撃処理法によるものであることを特徴とする請求項1に記載の溶接構造の疲労性能向上方法。
【請求項3】
前記打撃範囲は、前記第1部材において、溶接止端部から前記第1部材の板厚寸法の最大で20倍に相当する距離の範囲に対して打撃を付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接構造の疲労性能向上方法。
【請求項4】
定規によって前記接合部の変形量を測定しながら前記ピーニングによる打撃が行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接構造の疲労性能向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−18046(P2013−18046A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155593(P2011−155593)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)