溶接構造体及びその製造方法
【課題】製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部におけるき裂の発生を抑制可能な溶接構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】溶接構造体100は、第1短手ビード部320aと、第1延在ビード部330aと、を有する回し溶接部30を備える。第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aに連結され、長手方向において板状部材20と反対向きに延在する。短手方向において、第1短手ビード部320aの幅320Wは、板状部材20から離れるほど小さい。短手方向において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxよりも小さい。
【解決手段】溶接構造体100は、第1短手ビード部320aと、第1延在ビード部330aと、を有する回し溶接部30を備える。第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aに連結され、長手方向において板状部材20と反対向きに延在する。短手方向において、第1短手ビード部320aの幅320Wは、板状部材20から離れるほど小さい。短手方向において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxよりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回し溶接部を有する溶接構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基礎面を有する基礎部材と、基礎面上に立設され、基礎面に当接される当接部を有する板状部材と、基礎面上において板状部材の当接部を取り囲む回し溶接部と、を備える溶接構造体が広く用いられている。
このような溶接構造体では、基礎部材に荷重が加えられた場合、回し溶接部の表面と基礎部材の基礎面との境界(以下、「止端」という。)に応力が集中することにより、止端を起点とするき裂が回し溶接部に発生する場合がある。
【0003】
そこで、回し溶接部におけるき裂の発生を抑制するために、超音波衝撃処理によって、回し溶接部に溝を形成する手法が提案されている(特許文献1参照)。この手法によれば、溝を形成することで止端の形状を改善することによって、止端に応力が集中することを緩和できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−167516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、回し溶接部を形成する工程の後に、回し溶接部自体を加工する工程が必要となるので、製造工程が増加してしまう。
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部におけるき裂の発生を抑制可能な溶接構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る溶接構造体は、基礎部材と、板状部材と、回し溶接部と、を備える。基礎部材は、基礎面を有する。板状部材は、基礎面上に立設されている。板状部材は、基礎面に対して垂直な第1主面と、第1主面の反対に設けられる第2主面と、第1主面と第2主面とに連通する第1側面と、第1側面の反対に設けられる第2側面と、基礎面に当接される当接部と、を有する。回し溶接部は、基礎面上において板状部材の当接部を取り囲んでいる。回し溶接部は、第1長手ビード部と、第2長手ビード部と、第1短手ビード部と、第1延在ビード部と、を有する。第1長手ビード部は、第1主面上において第1側面に垂直な長手方向に沿って配置される。第2長手ビード部は、第2主面上において長手方向に沿って配置される。第1短手ビード部は、第1側面上に配置され、第1長手ビード部及び第2長手ビード部に連結される。第1延在ビード部は、第1短手ビード部に連結され、長手方向において板状部材と反対向きに延在する。長手方向と交差する短手方向において、第1短手ビード部の幅は、板状部材から離れるほど小さくなっている。短手方向において、第1延在ビード部の全幅は、第1短手ビード部の全幅よりも小さい。
【0007】
本発明の第1の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部が第1短手ビード部から長手方向に延在しているので、第1延在ビード部の先端部を板状部材から離すことができる。これによって、第1短手ビード部及び第1延在ビード部それぞれの表面と基礎面との境界(以下、「短手止端」という。)の全長を長くすることができる。そのため、短手止端における応力集中が抑えられるので、回し溶接部における短手止端を基点とするき裂の発生を抑制することができる。また、第1短手ビード部の幅が板状部材から離れるほど小さくなっているので、平面視において、第1短手ビード部から第1延在ビード部への繋がりを滑らかにすることができる。そのため、短手止端のうち第1短手ビード部と第1延在ビード部との連結点に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部におけるき裂の発生をより抑制することができる。さらに、第1短手ビード部の幅が一様に設定される場合に比べて、溶着量(すなわち、溶接中に付加される金属材料の使用量)を少なくすることができる。また、第1延在ビード部の全幅は、第1短手ビード部の全幅よりも小さい。そのため、第1延在ビード部を第1短手ビード部よりも幅広に形成する場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。さらに、回し溶接部を溶接工程のみによって形成できるので、回し溶接部自体を加工する工程を追加する必要がない。そのため、製造工程の増加を抑えることができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る溶接構造体は、第1の態様に係り、短手方向において、第1短手ビード部の全幅は、板状部材の厚みよりも大きい。
本発明の第2の態様に係る溶接構造体によれば、第1短手ビード部の全幅が板状部材の厚みの同等以下である場合に比べて、短手止端の全長をより長くすることができる。その結果、回し溶接部におけるき裂の発生をより抑制できる。
【0009】
本発明の第3の態様に係る溶接構造体は、第1又は第2の態様に係り、短手方向において、第1延在ビード部の全幅は、板状部材の厚みよりも小さい。
本発明の第3の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部の全幅が板状部材の厚みの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第3のいずれかの態様に係り、短手方向において、第1延在ビード部の幅は、第1短手ビード部から離れるほど小さい。
本発明の第4の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部の幅が一様に設定される場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0011】
本発明の第5の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第4のいずれかの態様に係り、長手方向において、第1延在ビード部の長さは、第1短手ビード部の長さよりも大きい。
本発明の第5の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部の長さが第1短手ビード部の長さの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0012】
本発明の第6の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第4のいずれかの態様に係り、長手方向において、第1延在ビード部の長さは、第1短手ビード部の長さよりも小さい。
本発明の第6の態様に係る溶接構造体によれば、第1短手ビード部から第1延在ビード部への繋がりをより滑らかにしやすいので、短手止端のうち第1短手ビード部と第1延在ビード部との連結点に応力が集中することをより抑制できる。
【0013】
本発明の第7の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第6のいずれかの態様に係り、基礎面及び1側面に垂直な長手断面において第1延在ビード部の表面と基礎面とが成す延在ビード止端角度は、基礎面及び第1主面に垂直な短手断面において第1長手ビード部の表面と基礎面とが成す長手ビード止端角度よりも大きい。
本発明の第7の態様に係る溶接構造体によれば、延在ビード止端角度が長手ビード止端角度の同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部の表面と基礎面とを滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち第1延在ビード部の表面と基礎面との境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部におけるき裂の発生をより抑制することができる。
【0014】
本発明の第8の態様に係る溶接構造体は、第7の態様に係り、長手断面において第1延在ビード部の表面と第1短手ビード部の表面とが成す短手ビード連結角度は、長手ビード止端角度よりも大きい。
本発明の第8の態様に係る溶接構造体によれば、短手ビード連結角度が長手ビード止端角度の同等以下である場合に比べて、第1短手ビード部の表面と第1延在ビード部の表面とを滑らかに繋げることができる。そのため、第1短手ビード部の表面と第1延在ビード部の表面との境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部において第1短手ビード部と第1延在ビード部との境界を起点とするき裂が発生することを抑制することができる。
【0015】
本発明の第9の態様に係る溶接構造体は、第8の態様に係り、延在ビード止端角度は、短手ビード連結角度よりも大きい。
本発明の第9の態様に係る溶接構造体によれば、延在ビード止端角度が短手ビード連結角度の同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部の表面と基礎面とをより滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち第1延在ビード部の表面と基礎面との境界に応力が集中することをより抑制できる。
【0016】
本発明の第10の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第9のいずれかの態様に係り、回し溶接部は、第2側面上に配置され、第1長手ビード部及び第2長手ビード部に連結される第2短手ビード部と、第2短手ビード部に連結され、長手方向において板状部材と反対向きに延在する第2延在ビード部と、を有する。
本発明の第10の態様に係る溶接構造体によれば、第2延在ビード部によって、上述した第1延在ビード部と同様の効果を得ることができるので、板状部材の長手方向両側において回し溶接部にき裂が発生することを抑制できる。
【0017】
本発明の第11の態様に係る溶接構造体の製造方法は、立設工程と、第1短手ビード部形成工程と、第1延在ビード部形成工程と、第1長手ビード部形成工程と、第2長手ビード部形成工程と、を備える。立設工程では、基礎部材の基礎面上において、基礎面に対して垂直な第1主面と、第1主面の反対に設けられる第2主面と、第1主面と第2主面とに連通する第1側面と、第1側面の反対に設けられる第2側面と、を有する板状部材を立設させる。第1短手ビード部形成工程では、第1側面と基礎面との境界を溶接した後、第1側面に垂直な長手方向と交差する短手方向における溶接幅を徐々に小さくしながら長手方向に沿って溶接する。第1延在ビード部形成工程では、第1短手ビード部から長手方向に沿って真っ直ぐに溶接する。第1長手ビード部形成工程では、第1主面と基礎面との境界を溶接する。第2長手ビード部形成工程では、第2主面と基礎面との境界を溶接する。
本発明の第11の態様に係る溶接構造体の製造方法によれば、回し溶接部は、溶接工程のみによって形成される。そのため、回し溶接部自体を加工する工程を追加する必要がないので、製造工程の増加を抑えることができる。
【0018】
本発明の第12の態様に係る溶接構造体の製造方法は、第11の態様に係り、第2側面と基礎面との境界を溶接する第2短手ビード部形成工程と、第2短手ビード部形成工程の後、第2短手ビード部から長手方向に真っ直ぐ溶接する第2延在ビード部形成工程と、を備える。
本発明の第12の態様に係る溶接構造体の製造方法によれば、第2短手ビード部についても溶接工程のみによって形成できるので、製造工程が増加することを回避できる。また、板状部材の長手方向両側において回し溶接部にき裂が発生することを抑制できる。
【0019】
本発明の第13の態様に係る溶接構造体の製造方法は、第11又は第12の態様に係り、第1長手ビード部形成工程及び第2長手ビード部形成工程は、第1延在ビード部形成工程の後に行われる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部におけるき裂の発生を抑制可能な溶接構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る溶接構造体の斜視図である。
【図2】実施形態に係る溶接構造体の斜視図である。
【図3】実施形態に係る溶接構造体の平面図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】図4のX−X線における断面図である。
【図6】図4のY−Y線における断面図である。
【図7】図5の部分拡大図である。
【図8】実施形態に係る溶接構造体の製造方法を説明するための図である。
【図9】実施形態に係る溶接構造体の平面図である。
【図10】実施形態に係る第1短手ビード部の拡大平面図である。
【図11】実施形態に係る第1短手ビード部の拡大平面図である。
【図12】実施形態に係る第1短手ビード部の拡大平面図である。
【図13】実施例に係る溶接構造体の斜視図である。
【図14】比較例に係る溶接構造体の斜視図である。
【図15】一軸引張疲労試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0023】
(溶接構造体の構成)
実施形態に係る溶接構造体100の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る溶接構造体100を長手方向の一方側から見た斜視図である。図2は、本実施形態に係る溶接構造体100を長手方向の他方側から見た斜視図である。図3は、本実施形態に係る溶接構造体100の平面図である。
溶接構造体100は、基礎部材10と、板状部材20と、回し溶接部30と、を備える。溶接構造体100は、例えば建設機械の内部に配置され、後述する長手方向に沿って、引張荷重又は圧縮荷重が繰り返し加えられる。
基礎部材10は、溶接構造体100の基礎である。基礎部材10は、基礎面10Sを有する。本実施形態において、基礎部材10は板状に形成されているが、これに限られるものではない。基礎部材10は、金属材料によって構成される。
【0024】
板状部材20は、基礎面10S上に立設されている。板状部材20は、基礎面10Sに当接される当接部20E(図1及び図2において不図示、図5及び図6参照)を有する。
また、板状部材20は、第1主面20M1と、第2主面20M2と、第1側面20N1と、第2側面20N2と、を有する。第1主面20M1は、基礎面10Sに対して垂直に設けられる。第2主面20M2は、基礎面10Sに対して垂直であり、第1主面20M1の反対に設けられる。第1側面20N1は、基礎面10Sに対して垂直であり、第1主面20M1及び第2主面20M2に連通する。第2側面20N2は、基礎面10Sに対して垂直であり、第1側面20N1の反対に設けられる。第1主面20M1及び第2主面20M2それぞれの面積は、第1側面20N1及び第2側面20N2それぞれの面積よりも大きい。板状部材20は、金属材料によって構成される。板状部材20を構成する金属材料は、基礎部材10を構成する金属材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
ここで、本実施形態では、第1側面20N1及び第2側面20N2に垂直な方向(すなわち、第1主面20M1及び第2主面20M2それぞれと基礎面10Sとに平行な方向)を「長手方向」と称する。また、第1主面20M1及び第2主面20M2に垂直な方向(すなわち、第1側面20N1及び第2側面20N2それぞれと基礎面10Sとに平行な方向)を「短手方向」と称する。
【0026】
回し溶接部30は、基礎面10S上に配置される。回し溶接部30は、板状部材20の当接部20E(図5及び図6参照)の外周を取り囲んでいる。回し溶接部30は、基礎部材10と板状部材20とを溶接することによって形成される。従って、回し溶接部30は、基礎部材10を構成する金属材料と、板状部材20を構成する金属材料と、溶接中に付加される金属材料(いわゆる、「溶加材」。後述する「溶接ワイヤ」を含む。)と、が溶融凝固した溶接金属によって構成される。基礎部材10と板状部材20との溶接には、例えば、溶接ロボットによる自動溶接(ロボットアーク溶接など)が用いられるが、これに限られるものではない。
【0027】
本実施形態において、回し溶接部30は、第1長手ビード部310aと、第2長手ビード部310bと、第1短手ビード部320aと、第2短手ビード部320bと、第1延在ビード部330aと、第2延在ビード部330bと、を有する。ただし、各ビード部は互いに連結されており、回し溶接部30は全体として連続的に形成されている。
第1長手ビード部310aは、第1主面20M1上において、長手方向に沿って配置される。第1長手ビード部310aの長手方向両端は、第1短手ビード部320a及び第2短手ビード部320bに連結される。第2長手ビード部310bは、第2主面20M2上において、長手方向に沿って配置される。第2長手ビード部310bの長手方向両端は、第1短手ビード部320a及び第2短手ビード部320bに連結される。第1長手ビード部310aと第2長手ビード部310bとは、板状部材20を基準として対称的に配置されており、互いに同様の構成を有している。
【0028】
第1短手ビード部320aは、第1側面20N1上において、短手方向に沿って配置される。第1短手ビード部320aの短手方向両端は、第1長手ビード部310a及び第2長手ビード部310bに連結される。第2短手ビード部320bは、第2側面20N2上において、短手方向に沿って配置される。第2短手ビード部320bの短手方向両端は、第1長手ビード部310a及び第2長手ビード部310bに連結される。第1短手ビード部320aと第2短手ビード部320bとは、板状部材20を基準として対称的に配置されており、互いに同様の構成を有している。
【0029】
第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aの先端(図4の「短手ビード先端部322」参照)に連結される。第1延在ビード部330aは、長手方向に沿って配置される。第1延在ビード部330aは、板状部材20とは反対向きに第1短手ビード部320aから延在している。第2延在ビード部330bは、第2短手ビード部320bの先端に連結される。第2延在ビード部330bは、長手方向に沿って配置される。第2延在ビード部330bは、板状部材20とは反対向きに第2短手ビード部320bから延在している。第1延在ビード部330aと第2延在ビード部330bとは、板状部材20を基準として対称的に配置されており、同様の構成を有している。
【0030】
(回し溶接部の構成)
次に、本実施形態に係る回し溶接部30の詳細な構成について、図面を参照しながら説明する。図4は、図3の部分拡大図である。図5は、図4のX−X線における断面図である。図6は、図4のY−Y線における断面図である。
なお、以下においては、第1長手ビード部310a、第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの構成について主に説明し、第2長手ビード部310b、第2短手ビード部320b及び第2延在ビード部330bの構成については説明を省略する。
【0031】
〈1.第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの幅〉
まず、第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの短手方向における幅について、図4を参照しながら説明する。
第1短手ビード部320aは、板状部材20から第1延在ビード部330aに向かってテーパー状に形成されている。具体的には、第1短手ビード部320aの短手方向における幅320Wは、板状部材20から離れるほど小さくなっている。すなわち、幅320Wは、第1延在ビード部330aに近づくほど小さくなっている。そのため、幅320Wは、第1短手ビード部320aの短手ビード基端部321において最も大きく、短手ビード先端部322において最も小さい。第1短手ビード部320aの短手方向における全幅320Wmax(幅320Wの最大値)は、板状部材20の短手方向における幅20Wよりも大きい。
【0032】
第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aの短手ビード先端部322から長手方向に沿ってテーパー状に形成されている。具体的には、第1延在ビード部330aの短手方向における幅330Wは、第1短手ビード部320a及び板状部材20から離れるほど、小さくなっている。そのため、幅330Wは、第1延在ビード部330aの延在ビード基端部331において最も大きく、延在ビード先端部332において最も小さい。ただし、本実施形態において、第1延在ビード部330aの大部分は、長手方向に沿って直線的に形成されているので、幅330Wは、第1延在ビード部330aの大部分において略一定である。第1延在ビード部330aの短手方向における全幅330Wmax(幅330Wの最大値)は、第1短手ビード部320aの短手方向における全幅320Wmaxよりも小さい。また、第1延在ビード部330aの短手方向における全幅330Wmaxは、板状部材20の短手方向における幅20Wよりも小さい。
【0033】
なお、板状部材20の短手方向における幅20Wは、板状部材20の「厚み」に相当し、長手方向において略一定である。
【0034】
〈2.第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの長さ〉
次に、第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの長手方向における長さについて、図4を参照しながら説明する。
第1短手ビード部320aの長手方向における長さ320Lは、第1延在ビード部330aの長手方向における長さ330Lよりも小さい。
なお、第1短手ビード部320aの長さ320Lは、短手ビード基端部321と短手ビード先端部322との長手方向における間隔である。第1延在ビード部330aの長さ330Lは、延在ビード基端部331と延在ビード先端部332との長手方向における間隔である。本実施形態において、短手ビード先端部322と延在ビード基端部331とは、長手方向において一部重なっている。
【0035】
〈3.各ビード部の断面構成〉
次に、回し溶接部30の各ビード部の断面構成について、図5及び図6を参照しながら説明する。なお、図5は、基礎面10S及び第1側面20N1のそれぞれに垂直な溶接構造体100の断面(以下、「長手断面」という。)を示している。図6は、基礎面10S及び第1主面20M1のそれぞれに垂直な溶接構造体100の断面(以下、「短手断面」という。)を示している。
【0036】
まず、第1延在ビード部330aは、図5に示すように、基礎部材10に溶け込んでいる。具体的には、第1延在ビード部330aの底部が、基礎部材10の基礎面10Sに溶け込んでいる。第1延在ビード部330aの延在ビード先端部332には、クレータ330CRが形成されている。
ここで、第1延在ビード部330aは、外部に露出する延在ビード表面330Sを有する。第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと、基礎部材10の基礎面10Sとは、延在ビード止端角度330θを成している。なお、「止端」とは、回し溶接部30の表面と基礎部材10の基礎面10Sとの境界のことである。
【0037】
次に、第1短手ビード部320aは、図5に示すように、基礎部材10及び板状部材20に溶け込んでいる。具体的には、第1短手ビード部320aの底部が、基礎部材10の基礎面10Sに溶け込んでおり、第1短手ビード部320aの短手ビード基端部321が、板状部材20の当接部20Eに溶け込んでいる。
ここで、第1短手ビード部320aは、外部に露出する短手ビード表面320Sを有する。第1短手ビード部320aは、第1延在ビード部330aに一体的に連結されており、第1短手ビード部320aの短手ビード表面320Sと、第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sとは、短手ビード連結角度320θを成している。
【0038】
次に、第1長手ビード部310aは、図6に示すように、基礎部材10及び板状部材20に溶け込んでいる。具体的には、第1長手ビード部310aの底部が、基礎部材10の基礎面10Sに溶け込んでおり、第1長手ビード部310aの側部が、板状部材20の当接部20Eに溶け込んでいる。
ここで、第1長手ビード部310aは、外部に露出する長手ビード表面310Sを有する。第1長手ビード部310aの長手ビード表面310Sと、基礎部材10の基礎面10Sとは、長手ビード止端角度310θを成している。
【0039】
本実施形態において、長手断面における延在ビード止端角度330θは、短手断面における長手ビード止端角度310θよりも大きい(330θ>310θ)。また、長手断面における短手ビード連結角度320θは、短手断面における長手ビード止端角度310θよりも大きい(320θ>310θ)。さらに、長手断面における延在ビード止端角度330θは、長手断面における短手ビード連結角度320θよりも大きい(330θ>320θ)。
【0040】
従って、本実施形態では、330θ>320θ>310θが成立している。
なお、延在ビード止端角度330θは、上述の通り、「延在ビード表面330Sと基礎面10Sとが成す角度」として定義されるが、以下のように、より具体的に定義することもできる。すなわち、図7(図5の部分拡大図に相当)に示すように、延在ビード止端角度330θは、「延在ビード表面330Sと基礎面10Sとの境界点である止端点pと、止端点pから長手方向に間隔rだけ離れた延在ビード表面330S上の表面点qとを結ぶ直線pqが、基礎面10Sと成す角度」として定義されうる。なお、間隔rは、例えば0.5mm程度に設定することができるが、これに限られるものではない。
また、図示しないが、延在ビード止端角度330θと同様に、短手ビード連結角度320θ及び長手ビード止端角度310θのそれぞれも具体的に定義することができる。
【0041】
(溶接構造体の製造方法)
次に、本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法を説明するための図である。図8では、回し溶接部30を形成する際の溶接線S(第1溶接線Sa、第2溶接線Sb、第3溶接線Sc、第4溶接線Sd、第5溶接線Se、第6溶接線Sfを含む)と、溶接方向(矢印の向き)と、が示されている。なお、本実施形態において、溶接順序はSa→Sb→Sc→Sd→Se→Sfであり、溶接線に付されたアルファベット順に溶接ロボットによる自動溶接が行われる。
【0042】
まず、基礎部材10の基礎面10S上に板状部材20を立設する。これによって、第1主面20M1、第2主面20M2、第1側面20N1、及び第2側面20N2のそれぞれは、基礎面10Sと接し、基礎面10Sとの間に境界を形成する。また、図示しないが、基礎部材10の当接部20Eは、基礎面10Sに当接される。
次に、第1溶接線Saに沿って、図示された溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始めに、始点a1から折返し点a2まで溶接ロボットの溶接トーチ(不図示)を移動させて、第1側面20N1と基礎面10Sとの境界を溶接する。続いて、折返し点a2から折返し点a3、折返し点a4、折返し点a5、及び折返し点a6を介して中点a7まで、長手方向に沿ってジグザグに溶接トーチを移動させて、第1側面20N1から徐々に離れながら溶接する。この際、溶接トーチのウィービング幅を徐々に狭くすることによって、短手方向における溶接幅を徐々に小さくしている。以上によって、テーパー状の第1短手ビード部320aが形成される。
【0043】
次に、第2溶接線Sbに沿って、図示された溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、中点a7と同位置の始点b1から終点b2まで溶接トーチを真っ直ぐ移動させる。これによって、第1短手ビード部320aから長手方向に延在する第1延在ビード部330aが形成される。なお、終点b2において溶接トーチを所定時間保持した後に引き上げることによって、第1延在ビード部330aの延在ビード先端部332には、クレータ330CRが形成される。
【0044】
次に、第3溶接線Scに沿って、溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始めに、始点c1から折返し点c2まで溶接トーチを移動させて、第2側面20N2と基礎面10Sとの境界を溶接する。続いて、折返し点c2から折返し点c3、折返し点c4、折返し点c5、及び折返し点c6を介して中点c7まで、ジグザグに溶接トーチを移動させて、第2側面20N2から徐々に離れながら溶接する。この際、溶接トーチのウィービング幅を徐々に狭くすることによって、短手方向における溶接幅を徐々に小さくしている。以上によって、テーパー状の第2短手ビード部320bが形成される。
【0045】
次に、第4溶接線Sdに沿って、図示された溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、中点c7と同位置の始点d1から終点d2まで溶接トーチを真っ直ぐ移動させる。これによって、第2短手ビード部320bから長手方向に延在する第2延在ビード部330bが形成される。なお、終点d2においても溶接トーチを所定時間保持させることが好ましい。
【0046】
次に、第5溶接線Seに沿って、溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始点e1から終点e2まで(すなわち、第2側面20N2側から第1側面20N1側に向かって)溶接トーチを移動させて、第1主面20M1と基礎面10Sとの境界を溶接する。これによって、長手方向に沿って配置される第1長手ビード部310aが形成される。
次に、第6溶接線Sfに沿って、溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始点f1から終点f2まで(すなわち、第2側面20N2側から第1側面20N1側に向かって)溶接トーチを移動させて、第2主面20M2と基礎面10Sとの境界を溶接する。これによって、長手方向に沿って配置される第2長手ビード部310bが形成される。
【0047】
(作用及び効果)
(1)本実施形態に係る溶接構造体100は、第1短手ビード部320aと、第1延在ビード部330aと、を有する回し溶接部30を備える。第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aに連結され、長手方向において板状部材20と反対向きに延在する。短手方向において、第1短手ビード部320aの幅320Wは、板状部材20から離れるほど小さい。短手方向において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxよりも小さい。
【0048】
このように、本実施形態に係る溶接構造体100では、第1延在ビード部330aが第1短手ビード部320aから長手方向に延在しているので、第1延在ビード部330aの先端部332を板状部材20から離すことができる。そのため、短手止端における応力集中が抑えられるので、回し溶接部30における短手止端を基点とするき裂の発生を抑制することができる。
【0049】
また、第1短手ビード部320aの幅320Wが板状部材20から離れるほど小さくなっているので、平面視において、第1短手ビード部320aから第1延在ビード部330aへの繋がりを滑らかにすることができる。そのため、短手止端のうち第1短手ビード部320aと第1延在ビード部330aとの連結点に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部30におけるき裂の発生をより抑制することができる。さらに、第1短手ビード部320aの幅320Wが一様に設定される場合に比べて、溶着量(すなわち、溶接中に付加される金属材料の使用量)を少なくすることができる。
【0050】
また、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxよりも小さい。そのため、第1延在ビード部330aを第1短手ビード部320aよりも幅広に形成する場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
さらに、回し溶接部30を溶接工程のみによって形成できるので、回し溶接部30自体を加工する工程を追加する必要がない。そのため、製造工程の増加を抑えることができる。
【0051】
(2)本実施形態に係る溶接構造体100では、短手方向において、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxは、板状部材20の幅20W(板状部材の厚み)よりも大きい。そのため、全幅320Wmaxが幅20Wの同等以下である場合に比べて、短手止端の全長をより長くすることができる。その結果、回し溶接部30におけるき裂の発生をより抑制できる。
【0052】
(3)本実施形態に係る溶接構造体100では、短手方向において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、板状部材20の幅20W(板状部材の厚み)よりも小さい。そのため、全幅330Wmaxが幅20Wの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
(4)本実施形態に係る溶接構造体100では、短手方向において、第1延在ビード部330aの幅330Wは、第1短手ビード部320aから離れるほど小さい。そのため、幅330Wが一様に設定される場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0053】
(5)本実施形態に係る溶接構造体100では、長手方向において、第1延在ビード部330aの長さ330Lは、第1短手ビード部320aの長さ320Lよりも大きい。そのため、長さ330Lが長さ320Lの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0054】
(6)本実施形態に係る溶接構造体100では、長手断面において第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと基礎部材10の基礎面10Sとが成す延在ビード止端角度330θは、短手断面において第1長手ビード部310aの長手ビード表面310Sと基礎部材10の基礎面10Sとが成す長手ビード止端角度310θよりも大きい(330θ>310θ)。
従って、延在ビード止端角度330θが長手ビード止端角度310θの同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと基礎面10Sとを滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち長手ビード表面310Sと基礎面10Sとの境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部30におけるき裂の発生をより抑制することができる。
【0055】
(7)本実施形態に係る溶接構造体100では、長手断面において第1短手ビード部320aの短手ビード表面320Sと第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sとが成す短手ビード連結角度320θは、長手ビード止端角度310θよりも大きい(320θ>310θ)。
従って、短手ビード連結角度320θが長手ビード止端角度310θの同等以下である場合に比べて、第1短手ビード部320aの短手ビード表面320Sと第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sとを滑らかに繋げることができる。そのため、短手ビード表面320Sと延在ビード表面330Sとの境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部30において短手ビード表面320Sと延在ビード表面330Sとの境界を起点とするき裂が発生することを抑制することができる。
【0056】
(8)本実施形態に係る溶接構造体100では、延在ビード止端角度330θは、短手ビード連結角度320θよりも大きく、330θ>320θ>310θが成立する。
従って、延在ビード止端角度330θが短手ビード連結角度320θの同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと基礎面10Sとをより滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち延在ビード表面330Sと基礎面10Sとの境界に応力が集中することをより抑制できる。
【0057】
(9)本実施形態に係る溶接構造体100では、回し溶接部30は、第2短手ビード部320bに連結され、長手方向において板状部材20と反対向きに延在する第2延在ビード部330bを有する。第2延在ビード部330bによれば、上述した第1延在ビード部330aと同様の効果を得ることができるので、板状部材20の長手方向両側において回し溶接部30にき裂が発生することを抑制できる。
【0058】
(10)本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法では、回し溶接部30は、溶接工程のみによって形成される。そのため、回し溶接部30自体を加工する工程を追加する必要がないので、製造工程の増加を抑えることができる。
(11)本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法は、第2延在ビード部形成工程を備える。このように、第2短手ビード部320bについても溶接工程のみによって形成できるので、製造工程が増加することを回避できる。また、板状部材20の長手方向両側において回し溶接部30にき裂が発生することを抑制できる。
【0059】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
(A)上記実施形態において、回し溶接部30は、第2短手ビード部320bと第2延在ビード部330bとを有することとしたが、これに限られるものではない。図9に示すように、板状部材20の第2側面20N2が隣接部材40に接触している場合には、回し溶接部30は、第1長手ビード部310aと、第2長手ビード部310bと、第1短手ビード部320aと、第1延在ビード部330aとによって構成されていてもよい。この場合においても、第1延在ビード部330aによって、製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部30におけるき裂の発生を抑制できる。
【0060】
(B)上記実施形態において、第1短手ビード部320aの平面形状は、図4に示すように、全幅320Wmaxから漸減するタイプのテーパー形状であることとしたが、これに限られるものではない。第1短手ビード部320aの平面形状は、任意のテーパー状であってよい。具体的には、第1短手ビード部320aの平面形状は、図10或いは図11に示すようなテーパー形状であってもよい。
【0061】
(C)上記実施形態において、第1延在ビード部330aの平面形状は、図4に示すように、所定幅の区間が長いタイプのテーパー形状であることとしたが、これに限られるものではない。第1延在ビード部330aの平面形状は、図12に示すような直線形状(すなわち、略矩形状)であってもよい。
(D)上記実施形態において、第1短手ビード部320aの長さ320Lは、第1延在ビード部330aの長さ330Lよりも小さいこととしたが、これに限られるものではない。第1短手ビード部320aの長さ320Lは、第1延在ビード部330aの長さ330L以上であってもよい。この場合には、第1短手ビード部320aから第1延在ビード部330aへの繋がりをより滑らかにしやすいので、短手止端のうち第1短手ビード部320aと第1延在ビード部330aとの連結点に応力が集中することをより抑制できる。
【0062】
(E)上記実施形態において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、板状部材20の幅20Wよりも小さいこととしたが、これに限られるものではない。全幅330Wmaxは、幅20W以下であってもよい。
(F)上記実施形態において、延在ビード止端角度330θ>短手ビード連結角度320θ>長手ビード止端角度310θの関係が成立することとしたが、当該関係は成立していなくてもよい。
【0063】
(G)上記実施形態において、回し溶接部30は、“とつ”すみ肉溶接によって形成されることとしたが、これに限られるものではない。回し溶接部30は、“凹み”すみ肉溶接によって形成されていてもよい。
(H)上記実施形態において特に触れていないが、基礎部材10及び板状部材20それぞれと回し溶接部30との間には、熱影響部が形成されていてもよい。
【0064】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0065】
以下、本発明に係る溶接構造体の実施例について具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができるものである。
(実施例)
上記実施形態に係る製造方法に従って、図13に示すような実施例に係る溶接構造体100aを作成した。
【0066】
(比較例)
基礎部材210と板状部材220とを一様に溶接することによって、図14に示すような比較例に係る溶接構造体200aを作成した。比較例に係る溶接構造体200aでは、回し溶接部230の脚幅は略一様であった。
(一軸引張疲労試験)
次に、実施例に係る溶接構造体100aと、比較例に係る溶接構造体200aと、を用いて一軸引張疲労試験を行った。
【0067】
具体的には、図13に示すように、基礎部材10に長手方向に沿った荷重Fを繰り返し印加して、回し溶接部30の止端を起点とするき裂が回し溶接部30に発生するまでの荷重印加回数をカウントした。
同様に、図14に示すように、基礎部材10に長手方向に沿った荷重Fを繰り返し印加して、回し溶接部230の止端を起点とするき裂が回し溶接部230に発生するまでの荷重印加回数をカウントした。
【0068】
このような一軸引張疲労試験を、荷重Fの大きさを低レベル、中レベル、高レベルの3段階に分けて行った。図15(a)は、低レベルの荷重Fを印加した場合の結果を示している。図15(b)は、中レベルの荷重Fを印加した場合の結果を示している。図15(c)は、高レベルの荷重Fを印加した場合の結果を示している。
図15(a)〜図15(c)に示すように、荷重Fの大きさが低レベル、中レベル、高レベルのいずれの場合においても、実施例に係る溶接構造体100aのカウント回数C1は、比較例に係る溶接構造体200aのカウント回数C2の4倍以上であった。
【0069】
これは、実施例に係る溶接構造体100aにおいて、回し溶接部30が上記実施形態に係る第1延在ビード部330a及び第2延在ビード部330bを備えていることによるものである。従って、この一軸引張疲労試験によって、上記実施形態に係る溶接構造体100の効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0070】
100…溶接構造体、10…基礎部材、10S…基礎面、20…板状部材、20E…当接部、20M1…第1主面、20M2…第2主面、20N1…第1側面、20N2…第2側面、30…回し溶接部、40…隣接部材、310a…第1長手ビード部、310b…第2長手ビード部、320a…第1短手ビード部、320b…第2短手ビード部、321…短手ビード基端部、322…短手ビード先端部、330a…第1延在ビード部、330b…第2延在ビード部、331…延在ビード基端部、332…延在ビード先端部、330CR…クレータ、320W…第1短手ビード部320aの幅、320Wmax…第1短手ビード部320aの全幅、330W…第1延在ビード部330aの幅、330Wmax…第1延在ビード部330aの全幅、20W…板状部材20の幅(厚み)、320L…第1短手ビード部320aの長さ、330L…第1延在ビード部330aの長さ、310θ…長手ビード止端角度、320θ…短手ビード連結角度、330θ…延在ビード止端角度、S…溶接線、100a…実施例に係る溶接構造体、200a…比較例に係る溶接構造体、210…比較例に係る基礎部材、220…比較例に係る板状部材、230…比較例に係る回し溶接部
【技術分野】
【0001】
本発明は、回し溶接部を有する溶接構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基礎面を有する基礎部材と、基礎面上に立設され、基礎面に当接される当接部を有する板状部材と、基礎面上において板状部材の当接部を取り囲む回し溶接部と、を備える溶接構造体が広く用いられている。
このような溶接構造体では、基礎部材に荷重が加えられた場合、回し溶接部の表面と基礎部材の基礎面との境界(以下、「止端」という。)に応力が集中することにより、止端を起点とするき裂が回し溶接部に発生する場合がある。
【0003】
そこで、回し溶接部におけるき裂の発生を抑制するために、超音波衝撃処理によって、回し溶接部に溝を形成する手法が提案されている(特許文献1参照)。この手法によれば、溝を形成することで止端の形状を改善することによって、止端に応力が集中することを緩和できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−167516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、回し溶接部を形成する工程の後に、回し溶接部自体を加工する工程が必要となるので、製造工程が増加してしまう。
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部におけるき裂の発生を抑制可能な溶接構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る溶接構造体は、基礎部材と、板状部材と、回し溶接部と、を備える。基礎部材は、基礎面を有する。板状部材は、基礎面上に立設されている。板状部材は、基礎面に対して垂直な第1主面と、第1主面の反対に設けられる第2主面と、第1主面と第2主面とに連通する第1側面と、第1側面の反対に設けられる第2側面と、基礎面に当接される当接部と、を有する。回し溶接部は、基礎面上において板状部材の当接部を取り囲んでいる。回し溶接部は、第1長手ビード部と、第2長手ビード部と、第1短手ビード部と、第1延在ビード部と、を有する。第1長手ビード部は、第1主面上において第1側面に垂直な長手方向に沿って配置される。第2長手ビード部は、第2主面上において長手方向に沿って配置される。第1短手ビード部は、第1側面上に配置され、第1長手ビード部及び第2長手ビード部に連結される。第1延在ビード部は、第1短手ビード部に連結され、長手方向において板状部材と反対向きに延在する。長手方向と交差する短手方向において、第1短手ビード部の幅は、板状部材から離れるほど小さくなっている。短手方向において、第1延在ビード部の全幅は、第1短手ビード部の全幅よりも小さい。
【0007】
本発明の第1の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部が第1短手ビード部から長手方向に延在しているので、第1延在ビード部の先端部を板状部材から離すことができる。これによって、第1短手ビード部及び第1延在ビード部それぞれの表面と基礎面との境界(以下、「短手止端」という。)の全長を長くすることができる。そのため、短手止端における応力集中が抑えられるので、回し溶接部における短手止端を基点とするき裂の発生を抑制することができる。また、第1短手ビード部の幅が板状部材から離れるほど小さくなっているので、平面視において、第1短手ビード部から第1延在ビード部への繋がりを滑らかにすることができる。そのため、短手止端のうち第1短手ビード部と第1延在ビード部との連結点に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部におけるき裂の発生をより抑制することができる。さらに、第1短手ビード部の幅が一様に設定される場合に比べて、溶着量(すなわち、溶接中に付加される金属材料の使用量)を少なくすることができる。また、第1延在ビード部の全幅は、第1短手ビード部の全幅よりも小さい。そのため、第1延在ビード部を第1短手ビード部よりも幅広に形成する場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。さらに、回し溶接部を溶接工程のみによって形成できるので、回し溶接部自体を加工する工程を追加する必要がない。そのため、製造工程の増加を抑えることができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る溶接構造体は、第1の態様に係り、短手方向において、第1短手ビード部の全幅は、板状部材の厚みよりも大きい。
本発明の第2の態様に係る溶接構造体によれば、第1短手ビード部の全幅が板状部材の厚みの同等以下である場合に比べて、短手止端の全長をより長くすることができる。その結果、回し溶接部におけるき裂の発生をより抑制できる。
【0009】
本発明の第3の態様に係る溶接構造体は、第1又は第2の態様に係り、短手方向において、第1延在ビード部の全幅は、板状部材の厚みよりも小さい。
本発明の第3の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部の全幅が板状部材の厚みの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第3のいずれかの態様に係り、短手方向において、第1延在ビード部の幅は、第1短手ビード部から離れるほど小さい。
本発明の第4の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部の幅が一様に設定される場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0011】
本発明の第5の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第4のいずれかの態様に係り、長手方向において、第1延在ビード部の長さは、第1短手ビード部の長さよりも大きい。
本発明の第5の態様に係る溶接構造体によれば、第1延在ビード部の長さが第1短手ビード部の長さの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0012】
本発明の第6の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第4のいずれかの態様に係り、長手方向において、第1延在ビード部の長さは、第1短手ビード部の長さよりも小さい。
本発明の第6の態様に係る溶接構造体によれば、第1短手ビード部から第1延在ビード部への繋がりをより滑らかにしやすいので、短手止端のうち第1短手ビード部と第1延在ビード部との連結点に応力が集中することをより抑制できる。
【0013】
本発明の第7の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第6のいずれかの態様に係り、基礎面及び1側面に垂直な長手断面において第1延在ビード部の表面と基礎面とが成す延在ビード止端角度は、基礎面及び第1主面に垂直な短手断面において第1長手ビード部の表面と基礎面とが成す長手ビード止端角度よりも大きい。
本発明の第7の態様に係る溶接構造体によれば、延在ビード止端角度が長手ビード止端角度の同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部の表面と基礎面とを滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち第1延在ビード部の表面と基礎面との境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部におけるき裂の発生をより抑制することができる。
【0014】
本発明の第8の態様に係る溶接構造体は、第7の態様に係り、長手断面において第1延在ビード部の表面と第1短手ビード部の表面とが成す短手ビード連結角度は、長手ビード止端角度よりも大きい。
本発明の第8の態様に係る溶接構造体によれば、短手ビード連結角度が長手ビード止端角度の同等以下である場合に比べて、第1短手ビード部の表面と第1延在ビード部の表面とを滑らかに繋げることができる。そのため、第1短手ビード部の表面と第1延在ビード部の表面との境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部において第1短手ビード部と第1延在ビード部との境界を起点とするき裂が発生することを抑制することができる。
【0015】
本発明の第9の態様に係る溶接構造体は、第8の態様に係り、延在ビード止端角度は、短手ビード連結角度よりも大きい。
本発明の第9の態様に係る溶接構造体によれば、延在ビード止端角度が短手ビード連結角度の同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部の表面と基礎面とをより滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち第1延在ビード部の表面と基礎面との境界に応力が集中することをより抑制できる。
【0016】
本発明の第10の態様に係る溶接構造体は、第1乃至第9のいずれかの態様に係り、回し溶接部は、第2側面上に配置され、第1長手ビード部及び第2長手ビード部に連結される第2短手ビード部と、第2短手ビード部に連結され、長手方向において板状部材と反対向きに延在する第2延在ビード部と、を有する。
本発明の第10の態様に係る溶接構造体によれば、第2延在ビード部によって、上述した第1延在ビード部と同様の効果を得ることができるので、板状部材の長手方向両側において回し溶接部にき裂が発生することを抑制できる。
【0017】
本発明の第11の態様に係る溶接構造体の製造方法は、立設工程と、第1短手ビード部形成工程と、第1延在ビード部形成工程と、第1長手ビード部形成工程と、第2長手ビード部形成工程と、を備える。立設工程では、基礎部材の基礎面上において、基礎面に対して垂直な第1主面と、第1主面の反対に設けられる第2主面と、第1主面と第2主面とに連通する第1側面と、第1側面の反対に設けられる第2側面と、を有する板状部材を立設させる。第1短手ビード部形成工程では、第1側面と基礎面との境界を溶接した後、第1側面に垂直な長手方向と交差する短手方向における溶接幅を徐々に小さくしながら長手方向に沿って溶接する。第1延在ビード部形成工程では、第1短手ビード部から長手方向に沿って真っ直ぐに溶接する。第1長手ビード部形成工程では、第1主面と基礎面との境界を溶接する。第2長手ビード部形成工程では、第2主面と基礎面との境界を溶接する。
本発明の第11の態様に係る溶接構造体の製造方法によれば、回し溶接部は、溶接工程のみによって形成される。そのため、回し溶接部自体を加工する工程を追加する必要がないので、製造工程の増加を抑えることができる。
【0018】
本発明の第12の態様に係る溶接構造体の製造方法は、第11の態様に係り、第2側面と基礎面との境界を溶接する第2短手ビード部形成工程と、第2短手ビード部形成工程の後、第2短手ビード部から長手方向に真っ直ぐ溶接する第2延在ビード部形成工程と、を備える。
本発明の第12の態様に係る溶接構造体の製造方法によれば、第2短手ビード部についても溶接工程のみによって形成できるので、製造工程が増加することを回避できる。また、板状部材の長手方向両側において回し溶接部にき裂が発生することを抑制できる。
【0019】
本発明の第13の態様に係る溶接構造体の製造方法は、第11又は第12の態様に係り、第1長手ビード部形成工程及び第2長手ビード部形成工程は、第1延在ビード部形成工程の後に行われる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部におけるき裂の発生を抑制可能な溶接構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る溶接構造体の斜視図である。
【図2】実施形態に係る溶接構造体の斜視図である。
【図3】実施形態に係る溶接構造体の平面図である。
【図4】図3の部分拡大図である。
【図5】図4のX−X線における断面図である。
【図6】図4のY−Y線における断面図である。
【図7】図5の部分拡大図である。
【図8】実施形態に係る溶接構造体の製造方法を説明するための図である。
【図9】実施形態に係る溶接構造体の平面図である。
【図10】実施形態に係る第1短手ビード部の拡大平面図である。
【図11】実施形態に係る第1短手ビード部の拡大平面図である。
【図12】実施形態に係る第1短手ビード部の拡大平面図である。
【図13】実施例に係る溶接構造体の斜視図である。
【図14】比較例に係る溶接構造体の斜視図である。
【図15】一軸引張疲労試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0023】
(溶接構造体の構成)
実施形態に係る溶接構造体100の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る溶接構造体100を長手方向の一方側から見た斜視図である。図2は、本実施形態に係る溶接構造体100を長手方向の他方側から見た斜視図である。図3は、本実施形態に係る溶接構造体100の平面図である。
溶接構造体100は、基礎部材10と、板状部材20と、回し溶接部30と、を備える。溶接構造体100は、例えば建設機械の内部に配置され、後述する長手方向に沿って、引張荷重又は圧縮荷重が繰り返し加えられる。
基礎部材10は、溶接構造体100の基礎である。基礎部材10は、基礎面10Sを有する。本実施形態において、基礎部材10は板状に形成されているが、これに限られるものではない。基礎部材10は、金属材料によって構成される。
【0024】
板状部材20は、基礎面10S上に立設されている。板状部材20は、基礎面10Sに当接される当接部20E(図1及び図2において不図示、図5及び図6参照)を有する。
また、板状部材20は、第1主面20M1と、第2主面20M2と、第1側面20N1と、第2側面20N2と、を有する。第1主面20M1は、基礎面10Sに対して垂直に設けられる。第2主面20M2は、基礎面10Sに対して垂直であり、第1主面20M1の反対に設けられる。第1側面20N1は、基礎面10Sに対して垂直であり、第1主面20M1及び第2主面20M2に連通する。第2側面20N2は、基礎面10Sに対して垂直であり、第1側面20N1の反対に設けられる。第1主面20M1及び第2主面20M2それぞれの面積は、第1側面20N1及び第2側面20N2それぞれの面積よりも大きい。板状部材20は、金属材料によって構成される。板状部材20を構成する金属材料は、基礎部材10を構成する金属材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
ここで、本実施形態では、第1側面20N1及び第2側面20N2に垂直な方向(すなわち、第1主面20M1及び第2主面20M2それぞれと基礎面10Sとに平行な方向)を「長手方向」と称する。また、第1主面20M1及び第2主面20M2に垂直な方向(すなわち、第1側面20N1及び第2側面20N2それぞれと基礎面10Sとに平行な方向)を「短手方向」と称する。
【0026】
回し溶接部30は、基礎面10S上に配置される。回し溶接部30は、板状部材20の当接部20E(図5及び図6参照)の外周を取り囲んでいる。回し溶接部30は、基礎部材10と板状部材20とを溶接することによって形成される。従って、回し溶接部30は、基礎部材10を構成する金属材料と、板状部材20を構成する金属材料と、溶接中に付加される金属材料(いわゆる、「溶加材」。後述する「溶接ワイヤ」を含む。)と、が溶融凝固した溶接金属によって構成される。基礎部材10と板状部材20との溶接には、例えば、溶接ロボットによる自動溶接(ロボットアーク溶接など)が用いられるが、これに限られるものではない。
【0027】
本実施形態において、回し溶接部30は、第1長手ビード部310aと、第2長手ビード部310bと、第1短手ビード部320aと、第2短手ビード部320bと、第1延在ビード部330aと、第2延在ビード部330bと、を有する。ただし、各ビード部は互いに連結されており、回し溶接部30は全体として連続的に形成されている。
第1長手ビード部310aは、第1主面20M1上において、長手方向に沿って配置される。第1長手ビード部310aの長手方向両端は、第1短手ビード部320a及び第2短手ビード部320bに連結される。第2長手ビード部310bは、第2主面20M2上において、長手方向に沿って配置される。第2長手ビード部310bの長手方向両端は、第1短手ビード部320a及び第2短手ビード部320bに連結される。第1長手ビード部310aと第2長手ビード部310bとは、板状部材20を基準として対称的に配置されており、互いに同様の構成を有している。
【0028】
第1短手ビード部320aは、第1側面20N1上において、短手方向に沿って配置される。第1短手ビード部320aの短手方向両端は、第1長手ビード部310a及び第2長手ビード部310bに連結される。第2短手ビード部320bは、第2側面20N2上において、短手方向に沿って配置される。第2短手ビード部320bの短手方向両端は、第1長手ビード部310a及び第2長手ビード部310bに連結される。第1短手ビード部320aと第2短手ビード部320bとは、板状部材20を基準として対称的に配置されており、互いに同様の構成を有している。
【0029】
第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aの先端(図4の「短手ビード先端部322」参照)に連結される。第1延在ビード部330aは、長手方向に沿って配置される。第1延在ビード部330aは、板状部材20とは反対向きに第1短手ビード部320aから延在している。第2延在ビード部330bは、第2短手ビード部320bの先端に連結される。第2延在ビード部330bは、長手方向に沿って配置される。第2延在ビード部330bは、板状部材20とは反対向きに第2短手ビード部320bから延在している。第1延在ビード部330aと第2延在ビード部330bとは、板状部材20を基準として対称的に配置されており、同様の構成を有している。
【0030】
(回し溶接部の構成)
次に、本実施形態に係る回し溶接部30の詳細な構成について、図面を参照しながら説明する。図4は、図3の部分拡大図である。図5は、図4のX−X線における断面図である。図6は、図4のY−Y線における断面図である。
なお、以下においては、第1長手ビード部310a、第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの構成について主に説明し、第2長手ビード部310b、第2短手ビード部320b及び第2延在ビード部330bの構成については説明を省略する。
【0031】
〈1.第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの幅〉
まず、第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの短手方向における幅について、図4を参照しながら説明する。
第1短手ビード部320aは、板状部材20から第1延在ビード部330aに向かってテーパー状に形成されている。具体的には、第1短手ビード部320aの短手方向における幅320Wは、板状部材20から離れるほど小さくなっている。すなわち、幅320Wは、第1延在ビード部330aに近づくほど小さくなっている。そのため、幅320Wは、第1短手ビード部320aの短手ビード基端部321において最も大きく、短手ビード先端部322において最も小さい。第1短手ビード部320aの短手方向における全幅320Wmax(幅320Wの最大値)は、板状部材20の短手方向における幅20Wよりも大きい。
【0032】
第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aの短手ビード先端部322から長手方向に沿ってテーパー状に形成されている。具体的には、第1延在ビード部330aの短手方向における幅330Wは、第1短手ビード部320a及び板状部材20から離れるほど、小さくなっている。そのため、幅330Wは、第1延在ビード部330aの延在ビード基端部331において最も大きく、延在ビード先端部332において最も小さい。ただし、本実施形態において、第1延在ビード部330aの大部分は、長手方向に沿って直線的に形成されているので、幅330Wは、第1延在ビード部330aの大部分において略一定である。第1延在ビード部330aの短手方向における全幅330Wmax(幅330Wの最大値)は、第1短手ビード部320aの短手方向における全幅320Wmaxよりも小さい。また、第1延在ビード部330aの短手方向における全幅330Wmaxは、板状部材20の短手方向における幅20Wよりも小さい。
【0033】
なお、板状部材20の短手方向における幅20Wは、板状部材20の「厚み」に相当し、長手方向において略一定である。
【0034】
〈2.第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの長さ〉
次に、第1短手ビード部320a及び第1延在ビード部330aの長手方向における長さについて、図4を参照しながら説明する。
第1短手ビード部320aの長手方向における長さ320Lは、第1延在ビード部330aの長手方向における長さ330Lよりも小さい。
なお、第1短手ビード部320aの長さ320Lは、短手ビード基端部321と短手ビード先端部322との長手方向における間隔である。第1延在ビード部330aの長さ330Lは、延在ビード基端部331と延在ビード先端部332との長手方向における間隔である。本実施形態において、短手ビード先端部322と延在ビード基端部331とは、長手方向において一部重なっている。
【0035】
〈3.各ビード部の断面構成〉
次に、回し溶接部30の各ビード部の断面構成について、図5及び図6を参照しながら説明する。なお、図5は、基礎面10S及び第1側面20N1のそれぞれに垂直な溶接構造体100の断面(以下、「長手断面」という。)を示している。図6は、基礎面10S及び第1主面20M1のそれぞれに垂直な溶接構造体100の断面(以下、「短手断面」という。)を示している。
【0036】
まず、第1延在ビード部330aは、図5に示すように、基礎部材10に溶け込んでいる。具体的には、第1延在ビード部330aの底部が、基礎部材10の基礎面10Sに溶け込んでいる。第1延在ビード部330aの延在ビード先端部332には、クレータ330CRが形成されている。
ここで、第1延在ビード部330aは、外部に露出する延在ビード表面330Sを有する。第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと、基礎部材10の基礎面10Sとは、延在ビード止端角度330θを成している。なお、「止端」とは、回し溶接部30の表面と基礎部材10の基礎面10Sとの境界のことである。
【0037】
次に、第1短手ビード部320aは、図5に示すように、基礎部材10及び板状部材20に溶け込んでいる。具体的には、第1短手ビード部320aの底部が、基礎部材10の基礎面10Sに溶け込んでおり、第1短手ビード部320aの短手ビード基端部321が、板状部材20の当接部20Eに溶け込んでいる。
ここで、第1短手ビード部320aは、外部に露出する短手ビード表面320Sを有する。第1短手ビード部320aは、第1延在ビード部330aに一体的に連結されており、第1短手ビード部320aの短手ビード表面320Sと、第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sとは、短手ビード連結角度320θを成している。
【0038】
次に、第1長手ビード部310aは、図6に示すように、基礎部材10及び板状部材20に溶け込んでいる。具体的には、第1長手ビード部310aの底部が、基礎部材10の基礎面10Sに溶け込んでおり、第1長手ビード部310aの側部が、板状部材20の当接部20Eに溶け込んでいる。
ここで、第1長手ビード部310aは、外部に露出する長手ビード表面310Sを有する。第1長手ビード部310aの長手ビード表面310Sと、基礎部材10の基礎面10Sとは、長手ビード止端角度310θを成している。
【0039】
本実施形態において、長手断面における延在ビード止端角度330θは、短手断面における長手ビード止端角度310θよりも大きい(330θ>310θ)。また、長手断面における短手ビード連結角度320θは、短手断面における長手ビード止端角度310θよりも大きい(320θ>310θ)。さらに、長手断面における延在ビード止端角度330θは、長手断面における短手ビード連結角度320θよりも大きい(330θ>320θ)。
【0040】
従って、本実施形態では、330θ>320θ>310θが成立している。
なお、延在ビード止端角度330θは、上述の通り、「延在ビード表面330Sと基礎面10Sとが成す角度」として定義されるが、以下のように、より具体的に定義することもできる。すなわち、図7(図5の部分拡大図に相当)に示すように、延在ビード止端角度330θは、「延在ビード表面330Sと基礎面10Sとの境界点である止端点pと、止端点pから長手方向に間隔rだけ離れた延在ビード表面330S上の表面点qとを結ぶ直線pqが、基礎面10Sと成す角度」として定義されうる。なお、間隔rは、例えば0.5mm程度に設定することができるが、これに限られるものではない。
また、図示しないが、延在ビード止端角度330θと同様に、短手ビード連結角度320θ及び長手ビード止端角度310θのそれぞれも具体的に定義することができる。
【0041】
(溶接構造体の製造方法)
次に、本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法を説明するための図である。図8では、回し溶接部30を形成する際の溶接線S(第1溶接線Sa、第2溶接線Sb、第3溶接線Sc、第4溶接線Sd、第5溶接線Se、第6溶接線Sfを含む)と、溶接方向(矢印の向き)と、が示されている。なお、本実施形態において、溶接順序はSa→Sb→Sc→Sd→Se→Sfであり、溶接線に付されたアルファベット順に溶接ロボットによる自動溶接が行われる。
【0042】
まず、基礎部材10の基礎面10S上に板状部材20を立設する。これによって、第1主面20M1、第2主面20M2、第1側面20N1、及び第2側面20N2のそれぞれは、基礎面10Sと接し、基礎面10Sとの間に境界を形成する。また、図示しないが、基礎部材10の当接部20Eは、基礎面10Sに当接される。
次に、第1溶接線Saに沿って、図示された溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始めに、始点a1から折返し点a2まで溶接ロボットの溶接トーチ(不図示)を移動させて、第1側面20N1と基礎面10Sとの境界を溶接する。続いて、折返し点a2から折返し点a3、折返し点a4、折返し点a5、及び折返し点a6を介して中点a7まで、長手方向に沿ってジグザグに溶接トーチを移動させて、第1側面20N1から徐々に離れながら溶接する。この際、溶接トーチのウィービング幅を徐々に狭くすることによって、短手方向における溶接幅を徐々に小さくしている。以上によって、テーパー状の第1短手ビード部320aが形成される。
【0043】
次に、第2溶接線Sbに沿って、図示された溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、中点a7と同位置の始点b1から終点b2まで溶接トーチを真っ直ぐ移動させる。これによって、第1短手ビード部320aから長手方向に延在する第1延在ビード部330aが形成される。なお、終点b2において溶接トーチを所定時間保持した後に引き上げることによって、第1延在ビード部330aの延在ビード先端部332には、クレータ330CRが形成される。
【0044】
次に、第3溶接線Scに沿って、溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始めに、始点c1から折返し点c2まで溶接トーチを移動させて、第2側面20N2と基礎面10Sとの境界を溶接する。続いて、折返し点c2から折返し点c3、折返し点c4、折返し点c5、及び折返し点c6を介して中点c7まで、ジグザグに溶接トーチを移動させて、第2側面20N2から徐々に離れながら溶接する。この際、溶接トーチのウィービング幅を徐々に狭くすることによって、短手方向における溶接幅を徐々に小さくしている。以上によって、テーパー状の第2短手ビード部320bが形成される。
【0045】
次に、第4溶接線Sdに沿って、図示された溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、中点c7と同位置の始点d1から終点d2まで溶接トーチを真っ直ぐ移動させる。これによって、第2短手ビード部320bから長手方向に延在する第2延在ビード部330bが形成される。なお、終点d2においても溶接トーチを所定時間保持させることが好ましい。
【0046】
次に、第5溶接線Seに沿って、溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始点e1から終点e2まで(すなわち、第2側面20N2側から第1側面20N1側に向かって)溶接トーチを移動させて、第1主面20M1と基礎面10Sとの境界を溶接する。これによって、長手方向に沿って配置される第1長手ビード部310aが形成される。
次に、第6溶接線Sfに沿って、溶接方向に従って前進法により溶接する。具体的には、始点f1から終点f2まで(すなわち、第2側面20N2側から第1側面20N1側に向かって)溶接トーチを移動させて、第2主面20M2と基礎面10Sとの境界を溶接する。これによって、長手方向に沿って配置される第2長手ビード部310bが形成される。
【0047】
(作用及び効果)
(1)本実施形態に係る溶接構造体100は、第1短手ビード部320aと、第1延在ビード部330aと、を有する回し溶接部30を備える。第1延在ビード部330aは、第1短手ビード部320aに連結され、長手方向において板状部材20と反対向きに延在する。短手方向において、第1短手ビード部320aの幅320Wは、板状部材20から離れるほど小さい。短手方向において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxよりも小さい。
【0048】
このように、本実施形態に係る溶接構造体100では、第1延在ビード部330aが第1短手ビード部320aから長手方向に延在しているので、第1延在ビード部330aの先端部332を板状部材20から離すことができる。そのため、短手止端における応力集中が抑えられるので、回し溶接部30における短手止端を基点とするき裂の発生を抑制することができる。
【0049】
また、第1短手ビード部320aの幅320Wが板状部材20から離れるほど小さくなっているので、平面視において、第1短手ビード部320aから第1延在ビード部330aへの繋がりを滑らかにすることができる。そのため、短手止端のうち第1短手ビード部320aと第1延在ビード部330aとの連結点に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部30におけるき裂の発生をより抑制することができる。さらに、第1短手ビード部320aの幅320Wが一様に設定される場合に比べて、溶着量(すなわち、溶接中に付加される金属材料の使用量)を少なくすることができる。
【0050】
また、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxよりも小さい。そのため、第1延在ビード部330aを第1短手ビード部320aよりも幅広に形成する場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
さらに、回し溶接部30を溶接工程のみによって形成できるので、回し溶接部30自体を加工する工程を追加する必要がない。そのため、製造工程の増加を抑えることができる。
【0051】
(2)本実施形態に係る溶接構造体100では、短手方向において、第1短手ビード部320aの全幅320Wmaxは、板状部材20の幅20W(板状部材の厚み)よりも大きい。そのため、全幅320Wmaxが幅20Wの同等以下である場合に比べて、短手止端の全長をより長くすることができる。その結果、回し溶接部30におけるき裂の発生をより抑制できる。
【0052】
(3)本実施形態に係る溶接構造体100では、短手方向において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、板状部材20の幅20W(板状部材の厚み)よりも小さい。そのため、全幅330Wmaxが幅20Wの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
(4)本実施形態に係る溶接構造体100では、短手方向において、第1延在ビード部330aの幅330Wは、第1短手ビード部320aから離れるほど小さい。そのため、幅330Wが一様に設定される場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0053】
(5)本実施形態に係る溶接構造体100では、長手方向において、第1延在ビード部330aの長さ330Lは、第1短手ビード部320aの長さ320Lよりも大きい。そのため、長さ330Lが長さ320Lの同等以上である場合に比べて、溶着量をより少なくすることができる。
【0054】
(6)本実施形態に係る溶接構造体100では、長手断面において第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと基礎部材10の基礎面10Sとが成す延在ビード止端角度330θは、短手断面において第1長手ビード部310aの長手ビード表面310Sと基礎部材10の基礎面10Sとが成す長手ビード止端角度310θよりも大きい(330θ>310θ)。
従って、延在ビード止端角度330θが長手ビード止端角度310θの同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと基礎面10Sとを滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち長手ビード表面310Sと基礎面10Sとの境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部30におけるき裂の発生をより抑制することができる。
【0055】
(7)本実施形態に係る溶接構造体100では、長手断面において第1短手ビード部320aの短手ビード表面320Sと第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sとが成す短手ビード連結角度320θは、長手ビード止端角度310θよりも大きい(320θ>310θ)。
従って、短手ビード連結角度320θが長手ビード止端角度310θの同等以下である場合に比べて、第1短手ビード部320aの短手ビード表面320Sと第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sとを滑らかに繋げることができる。そのため、短手ビード表面320Sと延在ビード表面330Sとの境界に応力が集中することを抑制できる。その結果、回し溶接部30において短手ビード表面320Sと延在ビード表面330Sとの境界を起点とするき裂が発生することを抑制することができる。
【0056】
(8)本実施形態に係る溶接構造体100では、延在ビード止端角度330θは、短手ビード連結角度320θよりも大きく、330θ>320θ>310θが成立する。
従って、延在ビード止端角度330θが短手ビード連結角度320θの同等以下である場合に比べて、第1延在ビード部330aの延在ビード表面330Sと基礎面10Sとをより滑らかに繋げることができる。そのため、短手止端のうち延在ビード表面330Sと基礎面10Sとの境界に応力が集中することをより抑制できる。
【0057】
(9)本実施形態に係る溶接構造体100では、回し溶接部30は、第2短手ビード部320bに連結され、長手方向において板状部材20と反対向きに延在する第2延在ビード部330bを有する。第2延在ビード部330bによれば、上述した第1延在ビード部330aと同様の効果を得ることができるので、板状部材20の長手方向両側において回し溶接部30にき裂が発生することを抑制できる。
【0058】
(10)本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法では、回し溶接部30は、溶接工程のみによって形成される。そのため、回し溶接部30自体を加工する工程を追加する必要がないので、製造工程の増加を抑えることができる。
(11)本実施形態に係る溶接構造体100の製造方法は、第2延在ビード部形成工程を備える。このように、第2短手ビード部320bについても溶接工程のみによって形成できるので、製造工程が増加することを回避できる。また、板状部材20の長手方向両側において回し溶接部30にき裂が発生することを抑制できる。
【0059】
(その他の実施形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
(A)上記実施形態において、回し溶接部30は、第2短手ビード部320bと第2延在ビード部330bとを有することとしたが、これに限られるものではない。図9に示すように、板状部材20の第2側面20N2が隣接部材40に接触している場合には、回し溶接部30は、第1長手ビード部310aと、第2長手ビード部310bと、第1短手ビード部320aと、第1延在ビード部330aとによって構成されていてもよい。この場合においても、第1延在ビード部330aによって、製造工程の増加を抑えつつ回し溶接部30におけるき裂の発生を抑制できる。
【0060】
(B)上記実施形態において、第1短手ビード部320aの平面形状は、図4に示すように、全幅320Wmaxから漸減するタイプのテーパー形状であることとしたが、これに限られるものではない。第1短手ビード部320aの平面形状は、任意のテーパー状であってよい。具体的には、第1短手ビード部320aの平面形状は、図10或いは図11に示すようなテーパー形状であってもよい。
【0061】
(C)上記実施形態において、第1延在ビード部330aの平面形状は、図4に示すように、所定幅の区間が長いタイプのテーパー形状であることとしたが、これに限られるものではない。第1延在ビード部330aの平面形状は、図12に示すような直線形状(すなわち、略矩形状)であってもよい。
(D)上記実施形態において、第1短手ビード部320aの長さ320Lは、第1延在ビード部330aの長さ330Lよりも小さいこととしたが、これに限られるものではない。第1短手ビード部320aの長さ320Lは、第1延在ビード部330aの長さ330L以上であってもよい。この場合には、第1短手ビード部320aから第1延在ビード部330aへの繋がりをより滑らかにしやすいので、短手止端のうち第1短手ビード部320aと第1延在ビード部330aとの連結点に応力が集中することをより抑制できる。
【0062】
(E)上記実施形態において、第1延在ビード部330aの全幅330Wmaxは、板状部材20の幅20Wよりも小さいこととしたが、これに限られるものではない。全幅330Wmaxは、幅20W以下であってもよい。
(F)上記実施形態において、延在ビード止端角度330θ>短手ビード連結角度320θ>長手ビード止端角度310θの関係が成立することとしたが、当該関係は成立していなくてもよい。
【0063】
(G)上記実施形態において、回し溶接部30は、“とつ”すみ肉溶接によって形成されることとしたが、これに限られるものではない。回し溶接部30は、“凹み”すみ肉溶接によって形成されていてもよい。
(H)上記実施形態において特に触れていないが、基礎部材10及び板状部材20それぞれと回し溶接部30との間には、熱影響部が形成されていてもよい。
【0064】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0065】
以下、本発明に係る溶接構造体の実施例について具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができるものである。
(実施例)
上記実施形態に係る製造方法に従って、図13に示すような実施例に係る溶接構造体100aを作成した。
【0066】
(比較例)
基礎部材210と板状部材220とを一様に溶接することによって、図14に示すような比較例に係る溶接構造体200aを作成した。比較例に係る溶接構造体200aでは、回し溶接部230の脚幅は略一様であった。
(一軸引張疲労試験)
次に、実施例に係る溶接構造体100aと、比較例に係る溶接構造体200aと、を用いて一軸引張疲労試験を行った。
【0067】
具体的には、図13に示すように、基礎部材10に長手方向に沿った荷重Fを繰り返し印加して、回し溶接部30の止端を起点とするき裂が回し溶接部30に発生するまでの荷重印加回数をカウントした。
同様に、図14に示すように、基礎部材10に長手方向に沿った荷重Fを繰り返し印加して、回し溶接部230の止端を起点とするき裂が回し溶接部230に発生するまでの荷重印加回数をカウントした。
【0068】
このような一軸引張疲労試験を、荷重Fの大きさを低レベル、中レベル、高レベルの3段階に分けて行った。図15(a)は、低レベルの荷重Fを印加した場合の結果を示している。図15(b)は、中レベルの荷重Fを印加した場合の結果を示している。図15(c)は、高レベルの荷重Fを印加した場合の結果を示している。
図15(a)〜図15(c)に示すように、荷重Fの大きさが低レベル、中レベル、高レベルのいずれの場合においても、実施例に係る溶接構造体100aのカウント回数C1は、比較例に係る溶接構造体200aのカウント回数C2の4倍以上であった。
【0069】
これは、実施例に係る溶接構造体100aにおいて、回し溶接部30が上記実施形態に係る第1延在ビード部330a及び第2延在ビード部330bを備えていることによるものである。従って、この一軸引張疲労試験によって、上記実施形態に係る溶接構造体100の効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0070】
100…溶接構造体、10…基礎部材、10S…基礎面、20…板状部材、20E…当接部、20M1…第1主面、20M2…第2主面、20N1…第1側面、20N2…第2側面、30…回し溶接部、40…隣接部材、310a…第1長手ビード部、310b…第2長手ビード部、320a…第1短手ビード部、320b…第2短手ビード部、321…短手ビード基端部、322…短手ビード先端部、330a…第1延在ビード部、330b…第2延在ビード部、331…延在ビード基端部、332…延在ビード先端部、330CR…クレータ、320W…第1短手ビード部320aの幅、320Wmax…第1短手ビード部320aの全幅、330W…第1延在ビード部330aの幅、330Wmax…第1延在ビード部330aの全幅、20W…板状部材20の幅(厚み)、320L…第1短手ビード部320aの長さ、330L…第1延在ビード部330aの長さ、310θ…長手ビード止端角度、320θ…短手ビード連結角度、330θ…延在ビード止端角度、S…溶接線、100a…実施例に係る溶接構造体、200a…比較例に係る溶接構造体、210…比較例に係る基礎部材、220…比較例に係る板状部材、230…比較例に係る回し溶接部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎面を有する基礎部材と、
前記基礎面上に立設されており、前記基礎面に対して垂直な第1主面と、前記第1主面の反対に設けられる第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに連通する第1側面と、前記第1側面の反対に設けられる第2側面と、前記基礎面に当接される当接部と、を有する板状部材と、
前記基礎面上において前記板状部材の前記当接部を取り囲んでおり、前記第1主面上において前記第1側面に垂直な長手方向に沿って配置される第1長手ビード部と、前記第2主面上において前記長手方向に沿って配置される第2長手ビード部と、前記第1側面上に配置され、前記第1長手ビード部及び前記第2長手ビード部に連結される第1短手ビード部と、前記第1短手ビード部に連結され、前記長手方向において前記板状部材と反対向きに延在する第1延在ビード部と、を有する回し溶接部と、
を備え、
前記長手方向と交差する短手方向において、前記第1短手ビード部の幅は、前記板状部材から離れるほど小さくなり、
前記短手方向において、前記第1延在ビード部の全幅は、前記第1短手ビード部の全幅よりも小さい、
溶接構造体。
【請求項2】
前記短手方向において、前記第1短手ビード部の前記全幅は、前記板状部材の厚みよりも大きい、
請求項1に記載の溶接構造体。
【請求項3】
前記短手方向において、前記第1延在ビード部の全幅は、前記板状部材の厚みよりも小さい、
請求項1又は2に記載の溶接構造体。
【請求項4】
前記短手方向において、前記第1延在ビード部の幅は、前記第1短手ビード部から離れるほど小さい、
請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項5】
前記長手方向において、前記第1延在ビード部の長さは、前記第1短手ビード部の長さよりも大きい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項6】
前記長手方向において、前記第1延在ビード部の長さは、前記第1短手ビード部の長さよりも小さい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項7】
前記基礎面及び前記第1側面に垂直な長手断面において前記第1延在ビード部の表面と前記基礎面とが成す延在ビード止端角度は、前記基礎面及び前記第1主面に垂直な短手断面において前記第1長手ビード部の表面と前記基礎面とが成す長手ビード止端角度よりも大きい、
請求項1乃至6のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項8】
前記長手断面において前記第1延在ビード部の前記表面と前記第1短手ビード部の表面とが成す短手ビード連結角度は、前記長手ビード止端角度よりも大きい、
請求項7に記載の溶接構造体。
【請求項9】
前記延在ビード止端角度は、前記短手ビード連結角度よりも大きい、
請求項8に記載の溶接構造体。
【請求項10】
前記回し溶接部は、
前記第2側面上に配置され、前記第1長手ビード部及び前記第2長手ビード部に連結される第2短手ビード部と、
前記第2短手ビード部に連結され、前記長手方向において前記板状部材と反対向きに延在する第2延在ビード部と、
を有する、
請求項1乃至9のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項11】
基礎部材の基礎面上において、前記基礎面に対して垂直な第1主面と、前記第1主面の反対に設けられる第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに連通する第1側面と、前記第1側面の反対に設けられる第2側面と、を有する板状部材を立設させる立設工程と、
前記第1側面と前記基礎面との境界を溶接した後、前記第1側面に垂直な長手方向と交差する短手方向における溶接幅を徐々に小さくしながら前記長手方向に沿って溶接する第1短手ビード部形成工程と、
前記第1短手ビード部から前記長手方向に沿って真っ直ぐに溶接する第1延在ビード部形成工程と、
前記第1主面と前記基礎面との境界を溶接する第1長手ビード部形成工程と、
前記第2主面と前記基礎面との境界を溶接する第2長手ビード部形成工程と、
を備える、
溶接構造体の製造方法。
【請求項12】
前記第2側面と前記基礎面との境界を溶接する第2短手ビード部形成工程と、
前記第2短手ビード部形成工程の後、前記第2短手ビード部から前記長手方向に真っ直ぐ溶接する第2延在ビード部形成工程と、
を備える、
請求項11に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第1長手ビード部形成工程及び前記第2長手ビード部形成工程は、前記第1延在ビード部形成工程の後に行われる、
請求項11又は12に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項1】
基礎面を有する基礎部材と、
前記基礎面上に立設されており、前記基礎面に対して垂直な第1主面と、前記第1主面の反対に設けられる第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに連通する第1側面と、前記第1側面の反対に設けられる第2側面と、前記基礎面に当接される当接部と、を有する板状部材と、
前記基礎面上において前記板状部材の前記当接部を取り囲んでおり、前記第1主面上において前記第1側面に垂直な長手方向に沿って配置される第1長手ビード部と、前記第2主面上において前記長手方向に沿って配置される第2長手ビード部と、前記第1側面上に配置され、前記第1長手ビード部及び前記第2長手ビード部に連結される第1短手ビード部と、前記第1短手ビード部に連結され、前記長手方向において前記板状部材と反対向きに延在する第1延在ビード部と、を有する回し溶接部と、
を備え、
前記長手方向と交差する短手方向において、前記第1短手ビード部の幅は、前記板状部材から離れるほど小さくなり、
前記短手方向において、前記第1延在ビード部の全幅は、前記第1短手ビード部の全幅よりも小さい、
溶接構造体。
【請求項2】
前記短手方向において、前記第1短手ビード部の前記全幅は、前記板状部材の厚みよりも大きい、
請求項1に記載の溶接構造体。
【請求項3】
前記短手方向において、前記第1延在ビード部の全幅は、前記板状部材の厚みよりも小さい、
請求項1又は2に記載の溶接構造体。
【請求項4】
前記短手方向において、前記第1延在ビード部の幅は、前記第1短手ビード部から離れるほど小さい、
請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項5】
前記長手方向において、前記第1延在ビード部の長さは、前記第1短手ビード部の長さよりも大きい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項6】
前記長手方向において、前記第1延在ビード部の長さは、前記第1短手ビード部の長さよりも小さい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項7】
前記基礎面及び前記第1側面に垂直な長手断面において前記第1延在ビード部の表面と前記基礎面とが成す延在ビード止端角度は、前記基礎面及び前記第1主面に垂直な短手断面において前記第1長手ビード部の表面と前記基礎面とが成す長手ビード止端角度よりも大きい、
請求項1乃至6のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項8】
前記長手断面において前記第1延在ビード部の前記表面と前記第1短手ビード部の表面とが成す短手ビード連結角度は、前記長手ビード止端角度よりも大きい、
請求項7に記載の溶接構造体。
【請求項9】
前記延在ビード止端角度は、前記短手ビード連結角度よりも大きい、
請求項8に記載の溶接構造体。
【請求項10】
前記回し溶接部は、
前記第2側面上に配置され、前記第1長手ビード部及び前記第2長手ビード部に連結される第2短手ビード部と、
前記第2短手ビード部に連結され、前記長手方向において前記板状部材と反対向きに延在する第2延在ビード部と、
を有する、
請求項1乃至9のいずれかに記載の溶接構造体。
【請求項11】
基礎部材の基礎面上において、前記基礎面に対して垂直な第1主面と、前記第1主面の反対に設けられる第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とに連通する第1側面と、前記第1側面の反対に設けられる第2側面と、を有する板状部材を立設させる立設工程と、
前記第1側面と前記基礎面との境界を溶接した後、前記第1側面に垂直な長手方向と交差する短手方向における溶接幅を徐々に小さくしながら前記長手方向に沿って溶接する第1短手ビード部形成工程と、
前記第1短手ビード部から前記長手方向に沿って真っ直ぐに溶接する第1延在ビード部形成工程と、
前記第1主面と前記基礎面との境界を溶接する第1長手ビード部形成工程と、
前記第2主面と前記基礎面との境界を溶接する第2長手ビード部形成工程と、
を備える、
溶接構造体の製造方法。
【請求項12】
前記第2側面と前記基礎面との境界を溶接する第2短手ビード部形成工程と、
前記第2短手ビード部形成工程の後、前記第2短手ビード部から前記長手方向に真っ直ぐ溶接する第2延在ビード部形成工程と、
を備える、
請求項11に記載の溶接構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第1長手ビード部形成工程及び前記第2長手ビード部形成工程は、前記第1延在ビード部形成工程の後に行われる、
請求項11又は12に記載の溶接構造体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−110950(P2012−110950A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263474(P2010−263474)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
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