説明

溶接装置

【課題】 省スペース、低コスト、加工時間を短縮可能な溶接装置を提供することである。
【解決手段】 緩衝器のシリンダCの端部外周に仮組みしたブラケットBと側部外周に仮組みした懸架バネ受けKを溶接する溶接装置において、ブラケットBを上方に配置させかつ鉛直方向に対し斜めとなる所定の角度にてシリンダCを保持する保持手段3と、シリンダCを軸回りに回転させる回転駆動手段2と、ブラケットB端部とシリンダC端部および懸架バネ受けK端部とシリンダC側部外周とを溶接する溶接手段4とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に関し、特に、緩衝器のシリンダにブラケットおよび懸架バネ受けを溶接するのに最適な溶接装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器、特に、シリンダにナックルブラケットと言われるブラケットと懸架バネの下端を支持する懸架バネ受けを備えたストラット型の緩衝器を製造するにあたり、シリンダの端部とブラケットとの端部とを溶接し、さらに、シリンダの側部外周と懸架バネ受けの内周とを溶接するようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、上記したシリンダの端部とブラケットとの端部との溶接およびシリンダの側部外周と懸架バネ受けの端部との溶接は、従来、それぞれ図3および図4に示すような2つの溶接装置を利用して行われていた。
【0004】
図3の溶接装置では、シリンダCは、保持手段HによってシリンダCの外周側に仮組みされたブラケットBを上方に向けて鉛直に保持されており、シリンダCを回転させながら、ブラケットBの上端とシリンダCの上端にトーチTを接近させてブラケットBの上端とシリンダCの上端とをアーク溶接するようにしていた。
【0005】
このように、シリンダCの外周側に仮組みされたブラケットBを上方に向け、かつシリンダCを鉛直に保持させるのは、溶融される溶接金属WがブラケットBとシリンダCとの間に入り込み、上記ブラケットBとシリンダCとが強固に溶接されることが期待されるからであり、また、シリンダCを水平に保持すると、溶接金属がブラケットBの端部とシリンダCの端部に蓄積されず下方に落下してしまうので、不十分な溶接となってしまいかねず、上述のように、シリンダCを鉛直に保持するようにしているのである。
【0006】
図4の溶接装置では、シリンダCは、保持手段HによってシリンダCの外周側に懸架バネ受けKを仮組みした状態で水平に保持されており、シリンダCを回転させながら、懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周の溶接部にトーチTを接近させて懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周とをアーク溶接するようにしていた。
【0007】
このように、シリンダCを水平に保持させるのは、溶融される溶接金属を懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周である溶接部に留めることができ、上記懸架バネ受けKとシリンダCの外周と強固に溶接されることが期待されるからであり、また、シリンダCを鉛直に保持すると、溶接金属が懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周に蓄積されず懸架バネ受けKを伝って下方に落下してしまうので、不十分な溶接となってしまいかねず、上述のように、シリンダCを水平に保持するようにしているのである。
【特許文献1】特開平9−303476号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来では、シリンダにブラケットおよび懸架バネ受けを溶接するのに、2つの異なる溶接装置を使用していることから、溶接装置の設置場所の確保が必要で、コスト的にも無駄が多い。さらに、2つの溶接工程が必要なことから加工時間の点でも無駄となる。
【0009】
そこで、本発明は、上記不具合を改善する為に創案されたものであって、省スペース、低コスト、加工時間を短縮可能な溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、緩衝器のシリンダの端部外周に仮組みしたブラケットと側部外周に仮組みした懸架バネ受けを溶接する溶接装置において、ブラケットを上方に配置させかつ鉛直方向に対し斜めとなる所定の角度にてシリンダを保持する保持手段と、シリンダを軸回りに回転させる回転駆動手段と、ブラケット端部とシリンダ端部および懸架バネ受け端部とシリンダ側部外周とを溶接する溶接手段とを備えることで、課題解決を図るものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶接装置によれば、シリンダを鉛直方向に対し所定の角度をもって斜めに保持されるので、溶接部であるブラケット端部とシリンダ端部および懸架バネ受け端部とシリンダ外周とを溶接するに際して、一つの溶接装置で充分な溶接することが可能となり、溶接装置が一つで済む分、省スペースとなり、コスト的にも安価となり、さらに、シリンダの付け替え作業を行う無駄が省かれるので加工時間も短縮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における溶接装置の正面図である。図2は、一実施の形態における溶接装置の右側面図である。
【0013】
図1に示すように、一実施の形態における溶接装置は、基台1と、基台1に設けた回転駆動手段となる回転電機2と、基台1に軸線が鉛直方向に対し斜めとなる所定の角度となるように取付けられた保持手段たるチャック3と、基台1に設けられ溶接手段4を支持するフレーム5とを備えて構成されている。
【0014】
詳しく説明すると、基台1には、基台1に対して所定の角度θをなす斜板11が取付けられており、この斜板11には、上記した回転電機2およびチャック3が取付けられている。
【0015】
そして、チャック3は、上記斜板11に回転自在に取付けられるとともに、チャック3の後端からは軸3aが延設され、この軸3aには、従動歯車3bが取付けられている。
【0016】
チャック3は、地面に設置される基台1に所定の角度で取付けられる上記斜板11に取付けられることによって、その軸線が鉛直方向に対し所定の角度θをなすようにされている。
【0017】
さらに、回転電機2の出力軸2aには、駆動歯車2bが取付けられ、この駆動歯車2bは上記従動歯車3bに噛合され、回転電機2の出力軸2aの回転が減速されたチャック3に伝達される。
【0018】
また、溶接手段4は、ブラケット端部とシリンダ端部とを溶接する第1のトーチ4aと、懸架バネ受け端部とシリンダ側部とを溶接する第2のトーチ4bとで構成され、これらトーチ4a,4bは、トーチ保持部4c,4dによって保持され、トーチ保持部4c,4dは各々テーブル4e,4fにスライド自在に取付けられている。
【0019】
具体的には、第1のトーチ4aは、テーブル4eに対しテーブル4eの長手方向に移動することが可能なようになっており、また、トーチ保持部4cとテーブル4eとの間には空圧アクチュエータ4gが介装されており、この空圧アクチュエータ4gの駆動によって第1のトーチ4aがテーブル4e上をスライド移動することが可能なようになっている。
【0020】
なお、第2のトーチ4bも同様に、トーチ保持部4dとテーブル4fとの間に介装された空圧アクチュエータ4hの駆動によって第1のトーチ4aがテーブル4f上をスライド移動することが可能なようになっている。
【0021】
第1のトーチ4aおよび第2のトーチ4bは、具体的にはたとえば、それぞれシールドガスノズルを備え、該シールドガスノズル内に通電されるとともに自動送給される溶接ワイヤで母材となるシリンダ、ブラケット、懸架バネ受けの各溶接部Y,Zにアークを発生させてアーク溶接を行うものであるが、これ以外の構成の溶接器具を使用してもよい。
【0022】
また、これらテーブル4e,4fは、フレーム5にスライド自在に取付けられており、スライドする方向は、チャック3の軸線に平行になるように設定される。
【0023】
具体的には、フレーム5には、ガイド孔5a,5bが設けられ、このガイド孔5a,5b内にガイド孔5a,5bの上記チャック3の軸線に沿う二つ端面に摺接するブロック5c,5dがそれぞれ挿入され、このブロック5c,5dと斜板11との間には図2に示すように、ブロック5c,5dに設けられチャック3の軸線に沿って貫通する図示しない雌螺子孔に螺合する螺子軸と螺子軸を回転駆動する回転電機とからなるブロック駆動装置5e,5fがそれぞれ介装されている。
【0024】
そして、上記テーブル4eはブロック5cに、テーブル4fはブロック5dに、それぞれブロック5c,5dがスライドする方向に対して後述する溶接部Y,Zを溶接する都合を考慮した適宜の角度をもって固定されており、ブロック駆動装置5e,5fを駆動することによってテーブル4e,4fは独立してチャック3の軸線に沿って移動することが可能となっている。
【0025】
なお、上記テーブル4eおよびテーブル4fは、各トーチ4a,4bの溶接部Y,Zに対し角度調節可能なように、それぞれ自身が固定されるブロック5c,5dに対して回動可能なように取付けられてもよい。
【0026】
そして、上述したところから、この実施の形態の場合、第1のトーチ4aおよび第2のトーチ4bをシリンダCに対して軸方向へ移動させる移動手段は、それぞれ、ブロック駆動装置5e,5f、ブロック5c,5dおよびガイド孔5a,5bということになる。
【0027】
さらに、斜板11には、シリンダCの側部を回転自在に支持する支持手段たる支持装置7が取付けられており、この支持装置7は、斜板11に回転自在に設けられ回転電機12によって回転駆動される螺子軸7aと、螺子軸7aに螺合するナット7bと、ナット7bに取付けられ螺子軸7aに対して回り止めされるブロック7cと、ブロック7c上を空圧アクチュエータ7dによってスライド駆動されるスライド部材7eと、スライド部材7eの先端に取付けられた半円状の軸受7fとを備えて構成されている。
【0028】
この支持装置7におけるブロック7cは、上記した螺子軸7aとナット7bからなる送り螺子機構によってチャック3の軸線に沿って移動されること可能であって、また、空圧アクチュエータ7dの駆動によって軸受7fはチャック3の軸線に対して垂直方向の移動が可能なようになっている。
【0029】
そして、この溶接装置で、ブラケット端部とシリンダ端部および懸架バネ受け端部とシリンダ側部外周とを溶接するには以下のようにする。
【0030】
まず、シリンダCにブラケットBと懸架バネ受けKを仮組みしておき、シリンダCの端部をブラケットBが上方に配置されるようにチャック3に保持させる。
【0031】
したがって、シリンダCは、チャック3で保持された状態で溶接装置に、鉛直方向に対して所定の角度θをなして斜めに取付けられることになる。なお、上記した溶接装置の各部材は、基台1の上部に取付けられた筐体1a内に収納されている。なお、筐体1aは、図示しない扉が設けられており、この扉を開けてシリンダCをチャック3に取付けられることが可能なようになっている。
【0032】
その状態で、上記送り螺子機構および空圧アクチュエータ7dの駆動によって、軸受7fでシリンダCの側部を支持させる。したがって、シリンダCを回転電機2の駆動によって軸回りに回転させても、シリンダCの軸ぶれが防止されることになる。
【0033】
つづいて、第1のトーチ4aを空圧アクチュエータ4gおよびブロック駆動装置5eの駆動によって溶接部YであるシリンダCの端部およびブラケットBの端部に接近させるとともに、第2のトーチ4bを空圧アクチュエータ4hおよびブロック駆動装置の駆動によって溶接部ZであるシリンダCの側部外周および懸架バネ受けKの端部に接近させ、回転電機2を駆動してシリンダCを回転させ各溶接部Y,Zを溶接する。
【0034】
このとき、第1のトーチ4aは、溶接部Yの最上端となる部位に位置決めされ、他方の第2のトーチ4bも溶接部Zの最上端となる部位に位置決めされ、この状態でシリンダCが回転されるので、第1のトーチ4aは常に溶接部Yの最上端を溶接し、第2のトーチ4bも常に溶接部Zの最上端を溶接することができる。
【0035】
そうして、シリンダCを一回転させると、溶接部Y,Zの溶接が終了する。ここで、ブラケット端部とシリンダ端部の溶接部Yについては、シリンダCが鉛直方向に対し所定の角度θをもって斜めに保持されることから、溶接金属の下方への落下を防止して、溶接金属をブラケットBとシリンダCとの間に溶融される溶接金属を入り込ませることができ、上記ブラケットBとシリンダCとを強固に溶接することが可能である。
【0036】
また、懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周の溶接部Zについても、溶接金属の下方への落下を防止して、溶融される溶接金属を懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周である溶接部Zに留めることができるので、上記懸架バネ受けKとシリンダCの外周と強固に溶接することが可能である。
【0037】
なお、所定の角度θは、上記したように各溶接部Y,Zの溶接に際し適当となる角度に設定されればよいが、各溶接部Y,Zのそれぞれの要求から概ね30度から60度の範囲内に設定されることが望ましい。
【0038】
したがって、本発明の溶接装置によれば、シリンダCを鉛直方向に対し所定の角度θをもって斜めに保持されるので、溶接部であるブラケット端部とシリンダ端部および懸架バネ受け端部とシリンダ外周とを溶接するに際して、一つの溶接装置で充分な溶接することが可能となり、溶接装置が一つで済む分、省スペースとなり、コスト的にも安価となり、さらに、シリンダCの付け替え作業を行う無駄が省かれるので加工時間も短縮される。
【0039】
また、この実施の形態にあっては、第1のトーチ4aおよび第2のトーチ4bの2つのトーチを備えているので、2箇所の溶接部Y,Zを同時に溶接することが可能であるので、さらに、加工時間が短縮されることになる。
【0040】
さらに、上記各トーチ4a,4bは、常に、それぞれ溶接部Y,Zの最上端となる部位を溶接することになるので、溶接金属をブラケットBとシリンダCとの間に効果的に入り込ませることができるとともに、懸架バネ受けKの端部とシリンダCの外周に溶接金属を効果的に蓄積させることができる。
【0041】
そして、シリンダCを支持する支持手段たる支持装置7を備えているので、シリンダCの軸ぶれが防止され、これにより各トーチ4a,4bは、溶接部Y,Zを外さずに確実に溶接することができ、溶接加工精度が向上する。
【0042】
またさらに、第1のトーチ4aおよび第2のトーチ4bをシリンダCに対して軸方向へ移動させることができるので、シリンダCの長さや、ブラケットBおよび懸架バネ受けKの取付け位置によらず、一つの溶接装置で溶接加工を行うことが可能となる。
【0043】
そしてさらに、この実施の形態では、支持手段たる支持装置における軸受7fは、シリンダCの軸線に沿って移動可能とされることから、ブラケットBおよび懸架バネ受けKの取付け位置を回避してシリンダCを支持することが可能であり、仕様の異なるシリンダCを支持することが可能である。
【0044】
なお、第1のトーチ4aおよび第2のトーチ4b、第1のトーチ4aおよび第2のトーチ4bをシリンダCに対して軸方向へ移動させる移動手段であるブロック駆動装置、支持手段の位置決め、各トーチ4a,4bをテーブルに対して移動させる手段および保持手段は適宜の設計変更により、他の構成を採用することが可能である。
【0045】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】一実施の形態における溶接装置の正面図である。
【図2】一実施の形態における溶接装置の右側面図である。
【図3】シリンダにブラケットを溶接する従来の溶接装置の正面図である。
【図4】シリンダに懸架バネ受けを溶接する従来の溶接装置の右側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 基台
2 回転駆動手段となる回転電機
3 保持手段たるチャック
4 溶接手段
4a 第1のトーチ
4b 第2のトーチ
4c,4d トーチ保持部
4e,4f テーブル
4g,4h,7d 空圧アクチュエータ
5 フレーム
5a,5b ガイド孔
5c,5d,7c ブロック
5e,5f ブロック駆動装置
7 支持手段たる支持装置
7a 螺子軸
7b ナット
7e スライド部材
7f 軸受
11 斜板
12 回転電機
C シリンダ
B ブラケット
K 懸架バネ受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器のシリンダの端部外周に仮組みしたブラケットと側部外周に仮組みした懸架バネ受けを溶接する溶接装置において、ブラケットを上方に配置させかつ鉛直方向に対し斜めとなる所定の角度にてシリンダを保持する保持手段と、シリンダを軸回りに回転させる回転駆動手段と、ブラケット端部とシリンダ端部および懸架バネ受け端部とシリンダ側部外周とを溶接する溶接手段とを備えたことを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
溶接手段は、溶接中、常に、ブラケット端部とシリンダ端部との溶接部位および懸架バネ受け端部とシリンダ側部外周との溶接部位の上端となる部位を溶接することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
シリンダを側部に回転自在に支持する支持手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
溶接手段は、ブラケット端部とシリンダ端部とを溶接する第1のトーチと、懸架バネ受け端部とシリンダ側部とを溶接する第2のトーチを備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかにに記載の溶接装置。
【請求項5】
第1のトーチおよび第2のトーチはシリンダに対して軸方向へ移動可能とされることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−263789(P2006−263789A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87550(P2005−87550)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】