説明

溶接装置

【課題】溶接に方向性がなく、任意の方向に自在に溶接を進行させることのできる溶接装置を提供すること。
【解決手段】ワークWに対して連続して抵抗溶接を行う溶接装置10であって、溶接装置本体20と、溶接装置本体に回転可能に保持されるボール電極50と、ボール電極に溶接電流を供給する給電ブラシ60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に関する。詳しくは、シーム溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば2枚のワーク(被溶接部材)をその両側から円盤状のローラ電極で挟み込み、両ローラ電極を加圧、回転させながら通電を行うことによりワークを連続的に溶接するシーム溶接機が知られている。
【0003】
また、一方のワークを置き台上に載せ、他方のワークの表面側に円盤状のローラ電極を圧接、回転させながら、ローラ電極と置き台との間で通電を行うことによりワークを連続的に溶接するシーム溶接機も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3158409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、いずれのシーム溶接機も円盤状のローラ電極を使用するため、溶接は、ローラ電極の周面が回転により進行する方向に沿って行われる。溶接の進行する方向は、ローラ電極の平面の延長線上に限られる。つまり、円盤状のローラ電極を使用するシーム溶接には、方向性が生じる。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、溶接に方向性がなく、任意の方向に自在に溶接を進行させることのできる溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接装置は、被溶接部材(例えば、後述のワークW1、W2)に対して連続して抵抗溶接を行う溶接装置(例えば、後述の溶接装置10)であって、溶接装置本体(例えば、後述の溶接装置本体20)と、前記溶接装置本体に回転可能に保持されるボール状の電極(例えば、後述のボール電極50)と、前記ボール状の電極に溶接電流を供給する給電ブラシ(例えば、後述の給電ブラシ60)と、を備える。
【0008】
この発明によれば、電極がボール状であるため、溶接の方向が電極によって左右されず、任意の方向に自在に溶接を進行させる連続溶接を実現することができる。
【0009】
この場合、前記溶接装置本体は、中央に形成された開口(例えば、後述の開口35)に向かって径が小さくなるテーパ面(例えば、後述のテーパ面36)を有し、前記開口から前記ボール状の電極の先端部が突出するケーシング(例えば、後述のケーシング31)と、前記テーパ面上に前記ボール状の電極を囲んで配置されて当該電極と接触する複数の球体(例えば、後述のボールベアリング42)を有し、前記球体を前記ボール状の電極に向かって加圧する加圧部材(例えば、後述の加圧部材41)と、を備える。
【0010】
この発明によれば、電極が摩耗してその直径が減少しても、複数の球体がそれに追従してテーパ面に沿って移動するため、ボール状の電極をテーパ面の中央に保持し続けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極がボール状であるため、溶接の方向が電極によって左右されず、任意の方向に自在に溶接を進行させる連続溶接を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による溶接装置のボール電極が摩耗していない状態を示す概略的縦断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った横断平面図である。
【図3】本発明の一実施形態による溶接装置のボール電極が摩耗した状態を示す概略的縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態による溶接装置10のボール電極が摩耗していない状態を示す概略的縦断面図、図2は、図1のII−II線に沿った横断平面図、図3は、ボール電極が摩耗した状態を示す概略的縦断面図、図4は、図3のIV−IV線に沿った横断平面図である。
【0014】
溶接装置10は、図示しないロボットのアーム1に取り付けて使用される。
溶接装置10は、溶接装置本体20と、溶接装置本体20に回転可能に保持されるボール状の電極としてのボール電極50と、ボール電極50に電流を供給する給電ブラシ60と、を備える。
【0015】
溶接装置本体20は、ブラケット21と、ケーシング31と、加圧部材41と、を備える。
ブラケット21は、円形の外形を有する。ブラケット21は、ロードセル22を介してロボットのアーム1の先端に取り付けられる。4個(3個のみ図示する)のロードセル22が、ブラケット21の中心軸線の回りに、円周方向に沿って互いに90度の間隔で均等に配置される。
【0016】
ブラケット21には、ロードセル22の取り付け側とは反対側に、加圧部材41用の4本(2本のみ図示する)の加圧ガイドバー23が下向きに取り付けられる。
4本の加圧ガイドバー23は、ブラケット21の中心軸線の回りに、円周方向に沿って互いに90度の間隔で均等に配置される。
【0017】
ブラケット21には、4本の加圧ガイドバー23と同じ側に、給電ブラシ60用のブラシガイドバー24が下向きに取り付けられる。ブラシガイドバー24は、ブラケット21の中心軸線上に配置される。
【0018】
ケーシング31は、ねじ32によりブラケット21に着脱自在に取り付けられる円筒形の円筒部33と、円筒部33の下端に連なるテーパ部34と、を有する。テーパ部34は、周辺から中央に向かって径が小さくなり、その中央には開口35が形成される。
テーパ部34の上面には、周辺から中央の開口35に向かって下降するテーパ面36が形成される。
【0019】
テーパ部34の上面にはまた、テーパ面36から所定の深さを有する4本の溝37が形成される。4本の溝37の各々は、ケーシング31の中心軸線から半径方向に沿って延びる。4本の溝37は、ケーシング31の中心軸線の回りに、円周方向に沿って互いに90度の間隔で均等に配置される。
ケーシング31は、電気的に絶縁される必要があり、そのため、例えば耐摩耗性セラミック材料、或いは耐摩耗性セラミックを表面にコーティングした材料で構成されている。
【0020】
ケーシング31内には、ボール電極50が収容される。ボール電極50は、テーパ面36の傾斜によって自動的にテーパ面36の中央に位置する。そして、ボール電極50は、その先端部(図1、図3では下端部)が開口35から所要量突出する。
ボール電極50は、例えば銅製である。
【0021】
加圧部材41は、複数の球体としての4個のフリーボールベアリング42と、リング状の加圧盤43と、加圧盤43用の4個(2個のみ図示する)のコイルばね47と、給電ブラシ60用の1個のコイルばね48と、を備える。
【0022】
4個のボールベアリング42は、ケーシング31のテーパ面36の溝37に一部が当接してガイドされる大きさである。4個のボールベアリング42は、ケーシング31の中心軸線の回りに、円周方向に沿って互いに90度の間隔でボール電極50を囲んで配置される。ボールベアリング42は、テーパ面36と平行な溝37の傾斜によって自動的にボール電極50と接触する位置にくる。
ボールベアリング42は、耐熱性であることが好ましい。ボールベアリング42は、電気的に絶縁されることが好ましい。
【0023】
リング状の加圧盤43は、ケーシング31の円筒部33内に収容される。加圧盤43は、中央に貫通孔44を備え、上面に4個(2個のみ図示する)の収容筒45を備える。収容筒45は、上端にフランジ46を備える。
貫通孔44は、給電ブラシ60を十分なクリアランスを保って挿通させる。
4個の収容筒45は、ブラケット21から垂下する4本の加圧ガイドバー23を収容可能に構成される。
【0024】
加圧盤43用の4個のコイルばね47は、それぞれ、ブラケット21から垂下する4本の加圧ガイドバー23を挿通して、上端がブラケット21に支持され、下端が収容筒45の上端フランジ46に支持される。
【0025】
コイルばね47の作用により、加圧盤43は、図1、図3において下向きに加圧される。加圧盤43により、4個のボールベアリング42は、図1、図3において下向きに加圧される。テーパ面36(溝37)の傾斜により、4個のボールベアリング42は、ボール電極50に向かって加圧される。
【0026】
給電ブラシ60は、ブラシガイドバー24を挿通可能な筒部61の下部に取り付けられる。筒部61の中間高さにはフランジ62を備える。
給電ブラシ60は、溶接電流に応じた直径および接触面積を有する。給電ブラシ60は、例えば銀製である。銀製の給電ブラシ60には、例えば銅製のケーブル(図示省略)が接続される。ケーブルは、高圧トランス(図示省略)の出力端子に接続される。
【0027】
給電ブラシ60用のコイルばね48は、ブラケット21から垂下するブラシガイドバー24を挿通して、上端がブラケット21に支持され、下端が給電ブラシ60のフランジ62に支持される。
コイルばね48の作用により、給電ブラシ60は、図1、図3において下向きに加圧される。
【0028】
このように、溶接装置10では、コイルばね47の作用によるボールベアリング42の加圧機構(によるボール電極50の保持機構)と、コイルばね48の作用による給電ブラシ60の加圧機構とが、分離・独立して構成される。
【0029】
次に、上記のように構成された溶接装置10の作用について説明する。
まず、溶接装置10の使用条件として、ボール電極50と給電ブラシ60との摩擦力が、ボール電極50とワークW1との摩擦力よりも小さくなるように設定する。また、給電ブラシ60によるボール電極50の加圧力が、ボール電極50によるワークW1の加圧力よりも小さくなるように設定する。
【0030】
2枚の被溶接部材としてのワークW1、W2を重ね合わせ、ロボットのアーム1に取り付けた溶接装置10のボール電極50をワークW1の表面側に加圧させてアーム1を動かしながら、ボール電極50とワークW2の裏面側との間に溶接電流を流すと、アーム1の動く方向に沿ってシーム溶接される。
【0031】
このとき、上記の使用条件が設定されているため、溶接装置10のボール電極50は、ワークW1の表面側を加圧しながら、滑ることなく転がる。そのため、溶接装置10は、ロボットのアーム1の動きに追従して、自走(つまりボール電極50が転動)する。
しかも、球形のボール電極50は、その形状に方向性がないため、360度どの方向にでも容易に転動する。これにより、溶接装置10は、任意の方向に自在に溶接を進行させることができる。
【0032】
ボール電極50が、図1に示すように摩耗していない状態のときも、図3に示すように摩耗した状態のときも、コイルばね47の作用により、加圧盤43が下向きに加圧され、加圧盤43により、4個のボールベアリング42が下向きに加圧され、テーパ面36(溝37)の傾斜により、4個のボールベアリング42がボール電極50に向かって加圧される。
これにより、ボール電極50は、テーパ面36の中央位置(開口35)に強制的に保持(ポジションホールド)される。
【0033】
そのため、ボール電極50は、図1に示す摩耗していない状態から、図3に示す摩耗した状態に至るまでの間、常に強制的にテーパ面36の中央位置(開口35)に保持(ポジションホールド)される。
【0034】
一方、コイルばね47とは別個のコイルばね48の作用を受ける給電ブラシ60は、ボール電極50が図1に示すように摩耗していない状態のときも、図3に示すように摩耗した状態のときも、コイルばね48から受ける下向きの加圧力をそのままボール電極50に伝えて、給電ブラシ60の底面とボール電極50の頂面との間に所要の圧接状態を作り出す。
【0035】
そのため、給電ブラシ60は、ボール電極50が図1に示す摩耗していない状態から、図3に示す摩耗した状態に至るまでの間、常に強制的に給電ブラシ60の底面とボール電極50の頂面との間に所要の圧接状態を作り出す。
【0036】
この実施形態によれば、つぎのような効果がある。
(1)ボール電極50が球形であるため、溶接の方向が電極によって左右されず、任意の方向に自在に溶接を進行させる連続溶接を実現することができる。
【0037】
(2)ボール電極50が摩耗してその直径が減少しても、複数のボールベアリング42がそれに追従してケーシング31のテーパ面36に沿って移動するため、ボール電極50をテーパ面36の中央位置(開口35)に保持し続けることができる。
【0038】
(3)ボール電極50の保持機構と、給電ブラシ60の加圧機構とが、分離・独立しているため、ボール電極50が摩耗したときにも、給電ブラシ60からボール電極50に対する安定した給電を続けることができる。
【0039】
なお、上記の実施形態では、給電ブラシ60の加圧機構を、コイルばね48の作用によって実現したが、これに代えて、例えば、エアシリンダによって実現することも可能である。
【0040】
同様に、上記の実施形態では、ボール電極50の保持機構を、コイルばね48の作用によって実現したが、これに代えて、例えば、エアシリンダによって実現することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…溶接装置
20…溶接装置本体
31…ケーシング
35…開口
36…テーパ面
41…加圧部材
42…ボールベアリング(球体)
50…ボール電極(ボール状の電極)
60…給電ブラシ
W1、W2…ワーク(被溶接部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材に対して連続して抵抗溶接を行う溶接装置であって、
溶接装置本体と、
前記溶接装置本体に回転可能に保持されるボール状の電極と、
前記ボール状の電極に溶接電流を供給する給電ブラシと、
を備える溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置において、
前記溶接装置本体は、
中央に形成された開口に向かって径が小さくなるテーパ面を有し、前記開口から前記ボール状の電極の先端部が突出するケーシングと、
前記テーパ面上に前記ボール状の電極を囲んで配置されて当該電極と接触する複数の球体を有し、前記球体を前記ボール状の電極に向かって加圧する加圧部材と、
を備える溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−31857(P2013−31857A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167993(P2011−167993)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)