説明

溶接部の寿命評価方法

【課題】用いる金属材料を考慮して、溶接部の余寿命を精度良く推定することができる溶接部の寿命評価方法を提供する。
【解決手段】金属材料に溶接された溶接部に応力を与えて、溶接部の余寿命を推定する溶接部の寿命評価方法において、溶接部における金属材料の結晶粒界には、微小欠陥が形成され、結晶粒界に対し、応力を支持可能な有効領域と、応力を支持不能な無効領域と、を設定する領域設定工程と、有効領域および無効領域に基づいて、応力を支持可能な溶接部の有効断面積を導出する有効断面積導出工程と、溶接部に与えられる応力に対し、導出した有効断面積に応じた補正を行って、有効応力を導出する有効応力導出工程と、有効応力から溶接部の余寿命を推定する余寿命推定工程と、を備え、領域設定工程では、近接する微小欠陥同士を合体させて合体欠陥とみなす欠陥補正処理を行った後、微小欠陥および合体欠陥を、無効領域として設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に溶接された溶接部に応力を与えて、溶接部の余寿命を推定する溶接部の寿命評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接部の寿命評価方法として、評価対象となる金属材料の結晶粒界をモデル化し、モデル化した結晶粒界を、複数のセルに分割して、セル毎に損傷の進展を計算する金属材料の損傷評価方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この金属材料の損傷評価方法では、微小欠陥が生じたセルを、応力を支持不能なセルとして取り扱う一方で、応力を支持可能なセルを有効なセルとして取り扱う。そして、単位面積当たりにおける有効なセルの割合(有効断面積)に応じて、金属材料に与えられる応力を補正した有効応力を設定している。これにより、モデル化した結晶粒界に対し、有効断面積を考慮した有効応力を設定できるため、金属材料の損傷を好適に評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−3421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、評価対象となる金属材料としては、2クロム鋼等の低クロム鋼(低合金鋼)や、9クロム鋼等の高クロム鋼がある。このとき、従来の金属材料の損傷評価方法では、金属材料として低合金鋼を適用した場合、金属材料の損傷を好適に評価することができる。一方で、従来の金属材料の損傷評価方法では、金属材料として高クロム鋼を適用した場合、金属材料の損傷評価の精度が低下することが分かった。これは、溶接により形成される結晶粒径が、用いる金属材料に応じて変化するからであると考えられる。つまり、2クロム鋼の場合、形成される結晶粒径は大きなものとなり、9クロム鋼の場合、形成される結晶粒径は小さいものとなる。このとき、結晶粒を挟んで結晶粒界に発生する微小欠陥同士は、結晶粒径が大きい場合、微小欠陥同士の距離が遠いために、微小欠陥同士の間は、応力を支持可能な構成であると想定される。一方で、微小欠陥同士は、結晶粒径が小さい場合、微小欠陥同士の距離が近くなるために、微小欠陥同士の間は、応力を支持不能な構成であると想定される。以上から、従来の金属材料の損傷評価方法では、用いる金属材料を考慮して、金属材料の損傷を評価することができず、用いる金属材料によっては、損傷評価の精度が低下してしまう問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、用いる金属材料を考慮して、溶接部の余寿命を精度良く推定することができる溶接部の寿命評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の溶接部の寿命評価方法は、金属材料に溶接された溶接部に応力を与えて、溶接部の余寿命を推定する溶接部の寿命評価方法において、溶接部における金属材料の結晶粒界には、微小欠陥が形成され、結晶粒界に対し、応力を支持可能な有効領域と、応力を支持不能な無効領域と、を設定する領域設定工程と、有効領域および無効領域に基づいて、応力を支持可能な溶接部の有効断面積を導出する有効断面積導出工程と、溶接部に与えられる応力に対し、導出した有効断面積に応じた補正を行って、有効応力を導出する有効応力導出工程と、有効応力から溶接部の余寿命を推定する余寿命推定工程と、を備え、領域設定工程では、近接する微小欠陥同士を合体させて合体欠陥とみなす欠陥補正処理を行った後、微小欠陥および合体欠陥を、無効領域として設定することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、欠陥補正処理を行うことで、近接する微小欠陥同士を合体させた合体欠陥とみなすことができる。このため、微小欠陥同士の距離が近くなることによって、微小欠陥同士の間が、応力に対し支持不能である無効領域とすることができる。これにより、溶接により形成される結晶粒が小さい金属材料の場合、欠陥補正処理後の有効領域および無効領域に基づいて有効断面積を好適に導出することができるため、溶接部の余寿命を精度良く推定することができる。
【0008】
この場合、金属材料の結晶粒界をモデル化し、モデル化した結晶粒界を、複数の領域に分割する粒界モデル生成工程をさらに備え、粒界モデル生成工程では、結晶粒界が延在する方向をライン方向とし、応力が与えられる応力方向をライン方向と直交させ、複数の領域を、応力方向を一辺とし、ライン方向を一辺とする格子状に配置しており、領域設定工程では、複数の領域に、有効領域および無効領域をそれぞれ設定し、欠陥補正処理では、ライン方向の一辺に対して、応力方向における無効領域の有無を抽出し、有効断面積導出工程では、抽出後のライン方向の一辺における有効領域および無効領域に基づいて、有効断面積を導出することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、欠陥補正処理は、ライン方向の一辺に対して、応力方向における無効領域の有無を抽出するという簡単な処理で、近接する微小欠陥同士を合体させた合体欠陥とみなすことができる。
【0010】
この場合、金属材料の結晶粒界をモデル化し、モデル化した結晶粒界を、複数の領域に分割する粒界モデル生成工程をさらに備え、粒界モデル生成工程では、結晶粒界が延在する方向をライン方向とし、応力が与えられる応力方向をライン方向と直交させ、複数の領域を、応力方向を一辺とし、ライン方向を一辺とする格子状に配置しており、領域設定工程では、複数の領域に、有効領域および無効領域をそれぞれ設定し、欠陥補正処理では、無効領域と無効領域との間に挟まれた有効領域を無効領域とし、有効断面積導出工程では、欠陥補正処理後の有効領域および無効領域に基づいて、有効断面積を導出することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、欠陥補正処理は、無効領域の間に挟まれた有効領域を無効領域とすることができるため、近接する微小欠陥同士を合体させた合体欠陥として処理することができる。
【0012】
この場合、近接する微小欠陥同士とは、平均結晶粒径が10μm未満の結晶粒を挟んで一方の結晶粒界にある微小欠陥と、結晶粒を挟んで他方の結晶粒界にある微小欠陥であり、領域設定工程では、溶接部における金属材料の平均結晶粒径が10μm未満である場合、欠陥補正処理を行う一方で、平均結晶粒径が10μm以上である場合、欠陥補正処理を行わないことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、平均結晶粒径の大きさに応じて、欠陥補正処理の実行の有無を選択することができる。このため、結晶粒径が大きい場合でも、結晶粒径が小さい場合でも、有効断面積を好適に導出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接部の寿命評価方法によれば、用いる金属材料を考慮して、溶接部の余寿命を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1に係る溶接部の寿命評価方法の評価対象となる溶接部の断面図である。
【図2】図2は、時間経過に伴って変化する有効断面積のグラフである。
【図3】図3は、時間経過に伴って変化する有効応力のグラフである。
【図4】図4は、要素内における金属材料(高クロム鋼)の結晶粒界をモデル化した説明図である。
【図5】図5は、時間の経過に伴って変化するクリープラプチャー時間である。
【図6】図6は、要素内における金属材料(低クロム鋼)の結晶粒界をモデル化した説明図である。
【図7】図7は、実施例1に係る溶接部の寿命評価方法の欠陥補正処理を説明した説明図である。
【図8】図8は、実施例2に係る溶接部の寿命評価方法の欠陥補正処理を説明した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照して、本発明の溶接部の寿命評価方法について説明する。なお、以下の実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0017】
実施例1に係る溶接部の寿命評価方法は、金属材料に溶接された溶接部の余寿命を推定する方法である。この溶接部の寿命評価方法では、有限要素解析(FEM解析)が用いられ、クリープ現象による負荷を溶接部に与え続けることで、溶接部の破断までの寿命を推定している。ここで、クリープ現象とは、溶接部に持続的に応力が作用すると、時間の経過と共に、溶接部の変形が増大する現象である。先ず、図1を参照して、寿命の評価対象となる溶接部について説明する。
【0018】
図1は、実施例1に係る溶接部の寿命評価方法の評価対象となる溶接部の断面図である。溶接部10は、母材15に形成された開先部に対し、溶加材16を用いて肉盛溶接することで形成されている。このとき、母材15と溶融した溶加材(溶金)16との間には、溶接熱により溶接熱影響部(HAZ部)17が形成される。なお、母材15および溶加材16を構成する金属材料としては、9クロム鋼等の高クロム鋼が用いられる。
【0019】
この溶接部10において、クリープ現象の影響を最も受け易いのは、HAZ部17である。ここで、HAZ部17に与えられる応力は、板厚方向(図1の上下方向)に分布している。このとき、HAZ部17に与えられる応力は、内圧による応力、溶金16とHAZ部17と母材15との材料の不連続による拘束や、ビードの凹凸に起因する局所的な応力等のパラメータによって決定される。
【0020】
このHAZ部17では、クリープ現象により、クリープボイドと呼ばれる微小欠陥が、時間の経過に伴って形成される。ここで、図2は、時間経過に伴って変化する有効断面積のグラフであり、図3は、時間経過に伴って変化する有効応力のグラフである。図2に示すグラフは、その縦軸が有効断面積となっており、その横軸が時間となっている。また、従来における有効断面積の変化を表すラインがL1であり、本発明における有効断面積の変化を表すラインがL2である。図3に示すグラフは、その縦軸が有効応力となっており、その横軸が時間となっている。また、従来における有効応力の変化を表すラインがT1であり、本発明における有効応力の変化を表すラインがT2である。なお、従来におけるラインL1,T1と、本発明のラインL2,T2との比較については後述する。
【0021】
図2に示すように、時間の経過に伴って微小欠陥が発生すると、HAZ部17では、応力を支持可能な溶接部10の有効断面積が、微小欠陥の発生分だけ減少する。このため、図3に示すように、HAZ部17に与えられる応力は、有効断面積が減少する分、増大するように補正され、補正後の応力が有効応力となる。さらに、時間の経過に伴って、微小欠陥は、他の微小欠陥と結合したり、成長したりすることで、亀裂を形成することとなる。なお、時間の経過に伴う微小欠陥の形成過程モデルは、予め実験等に基づいて決定されている。
【0022】
続いて、溶接部10の寿命評価方法について説明する。この溶接部10の寿命評価方法では、特に、HAZ部17に対する余寿命を推定している。溶接部10の寿命評価方法では、溶接部10を有限個の要素20に分けた溶接部モデルを生成し、生成した溶接部モデルを用いて、溶接部10に与えられる応力を解析するクリープ応力解析工程を行っている。
【0023】
クリープ応力解析工程では、溶接部モデルを用い、応力に関する各パラメータを考慮して、HAZ部17の板厚方向における応力分布を求めている。また、応力を板厚方向に亘って積分することで、単位板厚あたりの荷重を求めている。
【0024】
また、図4に示すように、溶接部10の寿命評価方法では、各要素20内における金属材料の結晶粒を長方形状にモデル化すると共に、結晶粒と結晶粒との間の結晶粒界を線状にモデル化する粒界モデル生成工程を行っている。図4は、要素内における金属材料(高クロム鋼)の結晶粒界をモデル化した説明図である。
【0025】
粒界モデル生成工程では、応力方向に直交する方向に結晶粒界が一直線に延在するように粒界ライン21が複数生成され、生成された複数の粒界ライン21は、応力方向に亘って複数並べられる。なお、一直線となる粒界ライン21の延在方向をライン方向とする。また、ライン方向における複数の粒界ライン21の間をつなぐように、応力方向における結晶粒界もモデル化される。よって、結晶粒界で区画された部分が、モデル化された結晶粒22となっている。また、ライン方向における粒界ライン21は、複数のセル(領域)Cに分割されている。
【0026】
粒界モデル生成工程により粒界モデルが生成されると、複数のセルCに対し、有効セル(有効領域)C1と、欠損セル(無効領域)C2とをそれぞれ設定するセル設定工程(領域設定工程)が行われる。有効セルC1は、応力に対し有効に働くセルであり、応力を支持可能なセルである。欠損セルC2は、応力に対し無効なセルであり、応力を支持不能なセルである。つまり、結晶粒界に形成される微小欠陥は、欠損セルC2として設定され、微小欠陥以外は、有効セルC1として設定される。なお、詳細は後述するが、セル設定工程では、用いる金属材料が9クロム鋼である場合、欠陥補正処理を行っている。
【0027】
セル設定工程により複数のセルCに対し、有効セルC1および欠損セルC2が設定されると、有効セルC1および欠損セルC2に基づいて、応力に対して有効となる溶接部10の有効断面積を導出する有効断面積導出工程が行われる。有効断面積導出工程では、有効セルC1および欠損セルC2の総和に対する有効セルC1の割合を求めることで、溶接部10のライン方向の全長における有効断面積を導出している。
【0028】
有効断面積導出工程により有効断面積が導出されると、導出された有効断面積と、クリープ応力解析工程において導出された単位板厚における荷重とに基づいて、「有効応力=荷重/有効断面積」の式から、有効応力を導出する有効応力導出工程が行われる。
【0029】
有効応力導出工程により有効応力が導出されると、導出された有効応力から、有効応力と余寿命とを関連付けた図示しないグラフに基づいて、溶接部の余寿命を導出する余寿命推定工程が行われる。なお、有効応力と余寿命とを関連付けたグラフは、予め実験等に基づいて決定されている。そして、溶接部10における余寿命(破断に至るまでの時間:クリープラプチャー時間)は、微小欠陥の形成過程モデルの時間経過毎に行うことで、図5に示すグラフを得ることができる。図5は、時間の経過に伴って変化するクリープラプチャー時間であり、余寿命ラインJ1,J2のグラフを得ることができる。なお、余寿命ラインJ1は従来のものであり、余寿命ラインJ2は実施例1のものである。また、従来の寿命ラインJ1と、実施例1の寿命ラインJ2との比較については後述する。
【0030】
次に、図4および図6を参照し、金属材料が、2クロム鋼等の低クロム鋼(低合金鋼)の場合と、9クロム鋼等の高クロム鋼の場合とについてそれぞれ比較する。図6は、要素内における金属材料(低クロム鋼)の結晶粒界をモデル化した説明図である。なお、説明を簡単にするべく、低クロム鋼においてモデル化される溶接部の要素40の大きさと、高クロム鋼においてモデル化される溶接部10の要素20の大きさとが、同じ大きさであると仮定して説明する。
【0031】
図4および図6に示すように、溶接部10における金属材料の平均結晶粒径は、低クロム鋼の場合、10μm以上となる一方で、高クロム鋼の場合、10μm未満となる。このとき、低クロム鋼と高クロム鋼との場合で、発生する微小欠陥がそれぞれ同じ大きさであるとすると、結晶粒22を挟んで一方の結晶粒界にある微小欠陥と、他方の結晶粒界にある微小欠陥との間の距離は異なる。つまり、低クロム鋼の場合、結晶粒径が大きいため、微小欠陥同士の間の距離は遠く、一方で、高クロム鋼の場合、結晶粒径が小さいため、微小欠陥同士の間の距離は短い。
【0032】
図6に示すように、低クロム鋼の場合、微小欠陥(欠損セルC2)同士の間の距離は遠いため、微小欠陥同士の間は、応力を支持可能な構成となるが、一方で、高クロム鋼の場合、微小欠陥(欠損セルC2)同士の間の距離は短いため、微小欠陥同士の間は、応力を支持不能な構成となってしまう。このため、実施例1において、セル設定工程では、近接する微小欠陥同士を合体して合体欠陥とみなす欠陥補正処理を、結晶粒径の大きさに応じて実行している。つまり、近接する微小欠陥同士とは、10μm未満の結晶粒22を挟んで、一方の結晶粒界にある一方の微小欠陥と、結晶粒22を挟んで他方の結晶粒界にある他方の微小欠陥である。
【0033】
この欠陥補正処理は、結晶粒径が10μm以上である場合、未実行とする一方で、結晶粒径が10μm未満である場合、実行している。次に、図7を参照して、欠陥補正処理について説明する。
【0034】
図7は、実施例1に係る溶接部の寿命評価方法の欠陥補正処理を説明した説明図である。欠陥補正処理では、図4における要素20内の複数のセルCを、応力方向とライン方向とに亘って格子状にドット表示している。そして、欠陥補正処理では、ライン方向の一辺Dに対して、応力方向における欠損セルC2の有無を抽出(投影)する。つまり、ライン方向の一辺Dに対して、応力方向において欠損セルC2がなければ有効セルC1とし、応力方向において欠損セルC2があれば欠損セルC2とする。
【0035】
そして、有効断面積導出工程では、ライン方向の一辺Dにおける有効セルC1と欠損セルC2との総和(ライン方向の一辺Dの全長)に対する有効セルC1の割合を、有効断面積として導出する。
【0036】
ここで、図2、図3および図5を参照して、欠陥補正処理を行わない従来の溶接部の寿命評価方法と、欠陥補正処理を行う実施例1の溶接部10の寿命評価方法とを比較する。欠陥補正処理を行った場合、有効断面積は減少し易くなるため、図2における実施例1のL2は、従来のL1よりも、有効断面積の減少の時間変化量が大きくなる。また、欠陥補正処理を行った場合、有効断面積の減少の時間変化量は大きくなるため、図3における実施例1のT2は、従来のT1よりも、有効応力の増加の時間変化量が大きくなる。このため、図5に示すように、時間経過に伴って変化する溶接部の余寿命ラインJ1,J2は、従来の余寿命ラインJ1の時間変化に比して、実施例1の余寿命ラインJ2の時間変化のほうが早くなる。なお、実施例1の余寿命ラインJ2は、予め実験等により得られた余寿命の結果に対し、精度の良いものであると確認することができた。
【0037】
以上の構成によれば、金属材料として、結晶粒径が10μm未満となる高クロム鋼が用いられた場合、欠陥補正処理を行うことで、近接する微小欠陥同士を合体欠陥とみなすことができ、微小欠陥および合体欠陥を欠損セルC2とすることができる。このため、微小欠陥同士の距離が近くなることによって、微小欠陥同士の間が、応力に対し無効であるとみなすことができる。これにより、応力を支持可能な有効断面積を好適に導出することができ、有効応力を適切に導出することができるため、溶接部10の余寿命を精度良く推定することができる。
【0038】
また、欠陥補正処理は、ライン方向の一辺Dに、応力方向における欠損セルC2の有無を抽出するだけで、近接する微小欠陥同士を、合体欠陥とみなすことができる。このため、簡単な処理を追加するだけで、結晶粒径が10μm未満の金属材料を用いた溶接部10の余寿命評価の精度を向上させることができる。
【0039】
また、平均結晶粒径の大きさに応じて、欠陥補正処理の実行の有無を選択することができる。このため、用いる金属材料の種類によって欠陥補正処理を使い分けることができ、金属材料に応じた適切な溶接部10の余寿命評価を行うことが可能となる。
【実施例2】
【0040】
次に、図8を参照して、実施例2に係る溶接部の寿命評価方法について説明する。図8は、実施例2に係る溶接部の寿命評価方法の欠陥補正処理を説明した説明図である。なお、重複した記載を避けるべく異なる部分について説明する。実施例1の欠陥補正処理では、ライン方向の一辺Dに対し、応力方向における欠損セルC2の有無を抽出して、有効断面積を導出した。実施例2の欠陥補正処理では、欠損セルC2と欠損セルC2との間に挟まれた有効セルC1を、欠損セルC2とすることで、有効断面積を導出している。
【0041】
図8に示すように、欠陥補正処理では、実施例1と同様に、図8における複数のセルCを、応力方向とライン方向とに亘って格子状にドット表示している。そして、欠陥補正処理では、ライン方向において、欠損セルC2と欠損セルC2との間に挟まれた有効セルC1を欠損セルC2とすると共に、応力方向において、欠損セルC2と欠損セルC2との間にはさまれた有効セルC1を欠損セルC2とする。これにより、結晶粒22を挟んで一方の結晶粒界にある微小欠陥と、結晶粒22を挟んで他方の結晶粒界にある微小欠陥とを合体させて合体欠陥とすることができる。そして、有効断面積導出工程では、有効セルC1と欠損セルC2との総和(全セル)に対する有効セルC1の割合を、有効断面積として導出する。
【0042】
以上の構成においても、金属材料として、結晶粒径が10μm未満となる高クロム鋼が用いられた場合、欠陥補正処理を行うことで、近接する微小欠陥同士を合体欠陥とみなすことができ、微小欠陥および合体欠陥を欠損セルC2とすることができる。これにより、応力を支持可能な有効断面積を好適に導出することができ、有効応力を適切に導出することができるため、溶接部10の余寿命を精度良く推定することができる。
【0043】
なお、実施例2では、欠陥補正処理を1度行った場合について説明したが、欠陥補正処理を複数回実行してもよい。また、ライン方向と応力方向とにおいて、欠陥補正処理を実行したが、斜め方向において、欠陥補正処理を実行してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係る溶接部の寿命評価方法は、結晶粒径が10μm未満の金属材料の余寿命を推定する場合に有用であり、特に、9クロム鋼等の高クロム鋼の余寿命を推定する場合に適している。
【符号の説明】
【0045】
10 溶接部
15 母材
16 溶加材
17 溶接熱影響部(HAZ部)
20 要素
21 粒界ライン
22 結晶粒
C セル
C1 有効セル
C2 欠損セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に溶接された溶接部に応力を与えて、前記溶接部の余寿命を推定する溶接部の寿命評価方法において、
前記溶接部における前記金属材料の結晶粒界には、微小欠陥が形成され、
前記結晶粒界に対し、前記応力を支持可能な有効領域と、前記応力を支持不能な無効領域と、を設定する領域設定工程と、
前記有効領域および前記無効領域に基づいて、前記応力を支持可能な前記溶接部の有効断面積を導出する有効断面積導出工程と、
前記溶接部に与えられる前記応力に対し、導出した前記有効断面積に応じた補正を行って、有効応力を導出する有効応力導出工程と、
前記有効応力から前記溶接部の余寿命を推定する余寿命推定工程と、を備え、
前記領域設定工程では、近接する前記微小欠陥同士を合体させて合体欠陥とみなす欠陥補正処理を行った後、前記微小欠陥および前記合体欠陥を、前記無効領域として設定することを特徴とする溶接部の寿命評価方法。
【請求項2】
前記金属材料の前記結晶粒界をモデル化し、モデル化した前記結晶粒界を、複数の領域に分割する粒界モデル生成工程をさらに備え、
前記粒界モデル生成工程では、前記結晶粒界が延在する方向をライン方向とし、前記応力が与えられる応力方向を前記ライン方向と直交させ、前記複数の領域を、応力方向を一辺とし、ライン方向を一辺とする格子状に配置しており、
前記領域設定工程では、前記複数の領域に、前記有効領域および前記無効領域をそれぞれ設定し、
前記欠陥補正処理では、前記ライン方向の一辺に対して、前記応力方向における前記無効領域の有無を抽出し、
前記有効断面積導出工程では、抽出後の前記ライン方向の一辺における前記有効領域および前記無効領域に基づいて、前記有効断面積を導出することを特徴とする請求項1に記載の溶接部の寿命評価方法。
【請求項3】
前記金属材料の前記結晶粒界をモデル化し、モデル化した前記結晶粒界を、複数の領域に分割する粒界モデル生成工程をさらに備え、
前記粒界モデル生成工程では、前記結晶粒界が延在する方向をライン方向とし、前記応力が与えられる応力方向を前記ライン方向と直交させ、前記複数の領域を、応力方向を一辺とし、ライン方向を一辺とする格子状に配置しており、
前記領域設定工程では、前記複数の領域に、前記有効領域および前記無効領域をそれぞれ設定し、
前記欠陥補正処理では、前記無効領域と前記無効領域との間に挟まれた前記有効領域を前記無効領域とし、
前記有効断面積導出工程では、前記欠陥補正処理後の前記有効領域および前記無効領域に基づいて、前記有効断面積を導出することを特徴とする請求項1に記載の溶接部の寿命評価方法。
【請求項4】
近接する前記微小欠陥同士とは、粒径が10μm未満の結晶粒を挟んで一方の前記結晶粒界にある前記微小欠陥と、前記結晶粒を挟んで他方の前記結晶粒界にある前記微小欠陥であり、
前記領域設定工程では、前記溶接部における前記金属材料の平均結晶粒径が10μm未満である場合、前記欠陥補正処理を行う一方で、前記平均結晶粒径が10μm以上である場合、前記欠陥補正処理を行わないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の溶接部の寿命評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−117838(P2012−117838A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265330(P2010−265330)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】