説明

溶接部可視化方法及び装置

【課題】板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接部であっても、影の影響を受けることなく観察できるようにする。
【解決手段】板厚差のある被溶接材10a,10b同士を突合せ配置した開先部11の真上となる垂直面内に、溶接部12を撮影するためのCCDカメラ13を、観測対象法線14より所要角度傾斜させて設ける。開先部11真上の垂直面内に、フラッシュランプ15を、観測対象法線14を対称軸とするCCDカメラ13と対称な角度配置より±10°〜20°ずれた角度配置で設ける。開先部11の真上に配置してあるフラッシュランプ15より照明光を照射することにより、被溶接材10a,10b同士の突合せ溶接部12に影が発生する虞を解消させる。フラッシュランプ15より溶接部12へ照射する高輝度照明光の正反射成分がCCDカメラ13へ強く入射しないようにして、画像処理に適した輝度の溶接部12画像を得るようにさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランク材製造時等に、被溶接材同士の突合せ溶接を行う溶接部を観察するために用いる溶接部可視化方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接を行う場合、発生する溶融池及びその周辺部、たとえば、溶接進行方向前方に位置する開先の状態等の溶接部を観察することは、溶接品質の管理、安定化のために重要なことである。
【0003】
しかし、溶接時における溶接部からは、溶接に用いるレーザ、プラズマ、アークの散乱光等の光が強烈に発せられ、特に、レーザ溶接やプラズマ溶接では、溶融池の発光よりもレーザやプラズマの散乱光の方が強いため、たとえば、光学的な減光フィルタを装備したカメラで撮影しようとしても、溶融池の部分が過度の光量によりハレーションを引き起こすようになることから、溶融池の観察を行なうことは極めて困難である。
【0004】
そのために、強い光を放射する溶接部を監視する手法としては、強力(高輝度)な照明光源を用いてカメラにより直接観測する手法が従来提案されている。
【0005】
かかる溶接部の直接監視を行う手法の1つとしては、ガスシールドアーク溶接を行う際、アーク光は主に短波長側で強く発光し、溶融池は長波長側で強く発光することから、発光波長領域が近赤外域発光が顕著で、具体的には、600〜800nmでピークを有するハロゲンランプの如き光源により溶接中のアーク及び溶融池とその近傍を照明し、この照明された溶接部を、観察波長領域が550〜700nmの光学フィルターを装着したCCDカメラで撮影することにより、アーク光強度の強い波長域を遮光し、溶融池からの発光強度の強い波長域において観察を行なうようにするものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
又、溶接部の直接監視を行う別の手法としては、溶融池や散乱光等の発光強度と同等かあるいはより高輝度な照明を溶接部に向けて間欠的に照射するための光源と、溶融池及びその周辺部を撮影する高速度シャッタ付きのカメラと、上記光源による照射間隔と上記カメラのシャッタの開閉を同期させるタイミング装置(同期装置)を備えた構成として、溶接トーチにより母材に形成される溶融池に向けて、溶融池よりも高輝度な光を照明として上記光源より照射することにより、溶融池及びその周辺部に、該溶融池自体の発光や散乱光以上の発光強度を与え、同時に、上記光源の照射間隔に同期する高速度シャッタにより、上記高輝度照明された溶融池からの光はカメラに入射させる一方、それ以外の散乱光等の有害光をほとんどカットして入射光量を大幅に減らすことにより、溶接部における溶融池及びその周辺部の可視観察を行なうことができるようにすることが提案されている。この場合に、上記溶接部を高輝度照明するための光源として、たとえば、パルスレーザ光を用いるようにしたもの(たとえば、特許文献2参照)、キセノンストロボランプの如きストロボランプを用いるようにしたもの(たとえば、特許文献3参照)、更には、溶接部より発光されるプラズマ光とは発光波長領域の異なる紫外線ストロボを用いるようにしたもの(たとえば、特許文献4参照)、等が提案されている。
【0007】
更に、上記パルスレーザ光による溶接部の間欠的な高輝度照明を行うと共に、このパルスレーザ光により高輝度照明される溶接部を高速度シャッタを備えたカメラ(CCDカメラ)にて撮影して溶接部を直接観察できるようにするための装置において、図6(イ)(ロ)に示す如く、溶接トーチ1の下方に形成される溶接部2を撮影するためのCCDカメラ3を、溶接方向(溶接進行方向)を270度方向とする平面的配置における時計回りで0度の位置に、母材(被溶接材)4平面に対して上下方向30度前後の傾斜角度で配置すると共に、上記と同様に溶接方向を270度とする平面的配置における時計回りで20度から45度の範囲内、及び、315から340度の範囲内に、パルスレーザ発生装置(図示せず)より導いたパルスレーザ6を照射するための第1と第2のレーザ照射器5aと5bを、母材4平面に対し上下方向30〜45度の傾斜角度でそれぞれ配設したものも提案されており、上記各レーザ照射器5a,5bよりパルスレーザ6を照射する際に生じる溶接トーチ1の影の範囲を小さくして、溶接部2の観察に対する上記影の影響を小さくさせるようにしてある(たとえば、特許文献5参照)。
【0008】
又、図7(イ)(ロ)に示す如く、上記と同様に、溶接方向を270度方向とする平面的配置における時計回りで0度の位置に、溶接部を撮影するためのCCDカメラ3を、母材表面に対し上下方向30度の傾斜角度で配置すると共に、上記と同様に溶接進行方向を270度方向とする平面的配置における135度から225度の範囲に、1つのパルスレーザ照射器5cを、母材表面に対し上下方向30〜45度の角度で傾斜配置するようにしたものも提案されている(たとえば、特許文献6参照)。
【0009】
更に又、図8に示す如く、照明光源としてパルスレーザに代えて高輝度フラッシュランプを用いるようにし、該2基の高輝度フラッシュランプ7を、開先部8の左右両側位置に配置し、且つ溶接部を撮影するための電子シャッタを備えた高画素CCDカメラ9を備え、該CCDカメラ9の上記電子シャッタの開閉作動に、上記フラッシュランプ7による溶接部への照明光の照射タイミングを同期させることができるようにしてなる構成のものも従来提案されている。この構成によれば、上記各フラッシュランプ7により、溶融池及びその周辺部を高輝度照明して溶融池自体の発光や散乱光以上の発光強度を与え、同時に、上記電子シャッタにより上記高輝度照明された溶接部からの光はCCDカメラ9に入射させる一方、それ以外の散乱光等の有害光をほとんどカットして入射光量を大幅に減らすことにより、上記溶接部の画像を得ることができるようにしてある。更に、上記CCDカメラ9による溶接部の画像上にて、開先部8と直交する方向に沿って配列されている一列のピクセル(画素)について、各ピクセルごとの輝度を求め、上記一列に配列された各ピクセルの輝度変化より、開先部8の位置を自動的に検出させるようにしてある(たとえば、特許文献7参照)。
【0010】
ところで、自動車のボディーを製造する工法に近年採用されてきている技術の1つに、テーラードブランク技術がある。これは、自動車のボディーでは、安全確保のため板厚を厚くして高強度化を図るべきところと、それほど強度を必要としない個所が混在していることから、強度が必要な個所だけ厚い鋼板を採用し、そうでない個所には薄い鋼板を採用したり、あるいは、強度が必要な個所とそうでない個所に、厚さは同等であるが、強度自体が異なる鋼板を適宜採用して、これらの板厚や強度が異なる複数の鋼板をプレス前に予め溶接して繋ぎ合わせて1枚の複合鋼板、所謂テーラードブランク材を形成しておき、このテーラードブランク材を用いてプレス加工等を行なうことで自動車のボディーパネルを製造するようにする手法である。かかるテーラードブランク技術を採用することにより、板厚が均一に分厚い鋼板を使用すると共に、特に強度が必要な場所には更にプレス部品を溶接して補強するようにしていた従来の工法に比して、車体の計量化を図ることができるものとなっている。
【0011】
【特許文献1】特開平8−174217号公報
【特許文献2】特開平11−179578号公報
【特許文献3】特開平6−304754号公報
【特許文献4】特開2001−12924号公報
【特許文献5】特開2000−196924号公報
【特許文献6】特開2000−184243号公報
【特許文献7】特開2004−74264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記したテーラードブランク技術におけるテーラードブランク材を製造するときには、板厚が異なる鋼板同士の突合せ溶接を行なうことが必要とされることがあるが、このような板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接部の観察を、上記図6(イ)(ロ)に示した如き従来の溶接部可視化装置を用いて行おうとする場合には、各パルスレーザ照射器5a,5bが、開先部の延びる方向である溶接進行方向の前後方向より平面的に所要角度ずれた位置に配置されているため、被溶接材同士に板厚差があって、該各被溶接材同士の突合せ溶接部に段差が存在している状態では、各被溶接材同士の突合せ溶接部に影が生じる虞があるというのが実状である。
【0013】
又、図7(イ)(ロ)に示した溶接部可視化装置においても、パルスレーザ照射器5cは、開先部の延びる方向である溶接進行方向の前後方向より平面的に所要角度ずれた位置に配置されていることから、この場合にも、板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接部に影が生じる虞が懸念される。
【0014】
更に、図8に示した如き従来の溶接部可視化装置では、開先部8の左右両側にフラッシュランプ7が配置してあるため、この場合にも、板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接部には、該各被溶接材の板厚差に伴う影が生じる虞が懸念される。
【0015】
このように、板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接部に影が発生すると、監視要素として画像処理にて抽出する開先部のギャップ幅が、実際のギャップ幅より大きいと誤判断されたり、被溶接材同士の突合せ位置、すなわち、開先位置が実際の位置よりずれているように誤判断される虞がある。
【0016】
特に、近年のテーラードブランク材の製造時に採用されることのある板厚差の大きく異なる被溶接材同士の突合せ溶接部では、上述した影の影響が顕著となり、このため、ギャップ幅や開先位置の誤判断に与える影響が顕著になってきている。
【0017】
なお、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4には、いずれも、照明光源とカメラの配置位置について具体的な記載はなく、したがって、照明光源とカメラを特定の位置関係で配置することについて何ら示唆されるものではない。
【0018】
そこで、本発明は、テーラードブランク材製造時のような板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接の溶接部を、影の影響を受けることなく観察できるようにする溶接部可視化方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に係る発明に対応して、被溶接材同士の突合わせ溶接を行う開先真上に、溶接部を撮影するカメラを、観測対象法線に対して所要角度として配置し、該観測対象法線を対称軸として上記カメラとは対称の位置近傍の開先真上に配置する照明光源の上記観測対象法線に対する配置角度を、上記カメラの観測対象法線に対する配置角度に対して±10°〜20°とし、該照明光源により高輝度照明される上記被溶接材同士の突合せ溶接部を、上記カメラにて撮影する溶接部可視化方法とする。
【0020】
又、請求項2に係る発明に対応して、被溶接材同士の突合せ溶接部近傍の開先真上に、溶接部を撮影するカメラを、観測対象法線に対して所要角度傾斜させて配置し、且つ照明光源の配置を、開先真上で上記観測対象法線を対称軸として上記カメラと対称の位置近傍とし、該位置近傍を、観測対象法線に対する配置角度が上記カメラの観測対象法線に対する配置角度に対して±10°〜20°ずれるような位置としてなる構成を有する溶接部可視化装置とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)被溶接材同士の突合せ溶接を行う開先真上に、カメラを、観測対象法線に対して所要角度傾斜させて配置し、上記観測対象法線を対称軸として上記カメラと対称の位置近傍の開先真上に配置する照明光源の観測対象法線となす配置角度を、上記カメラの観測対象法線に対する配置角度に対して±10°〜20°として、該照明光源により高輝度照明される上記被溶接材同士の突合せ溶接部を、上記カメラにて撮影する溶接部可視化方法及び装置としてあるので、板厚差のある被溶接材同士を突き合わせた開先部であっても板厚差に伴う影の発生を防止できる。
(2)又、カメラを開先真上に配置してあるため、板厚差のある被溶接材同士の突合せ溶接部であっても、該各被溶接材同士の突合せ部に形成される段差により視界が遮られることなく溶接部の撮影を行なうことができる。
(3)したがって、板厚差のある被溶接在同士の突合せ溶接部の観察時であっても、影が影響する虞を除外できて、溶接部の観察を正確に行なうことができる。
(4)更に、照明光源より溶接部へ向けて照射した高輝度照明光の正反射成分が、カメラに入射する虞を未然に防止できることから、対象物の表面状況が変化しても、ハレーション等を生じることなく安定した溶接部の観察を行なうことができる。
(5)したがって、被溶接材同士の突合せ溶接部の観察を行うときに、該各被溶接材同士に板厚差がある場合であっても該板厚差に基づく影の影響を除外でき、なお且つ、板厚差の有無にかかわらず被溶接材の表面状況の変化に対する許容度を大きくすることができることから、開先部の位置やギャップ幅等の監視要素の安定した抽出が可能となり、溶接部の良否判定の精度を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1(イ)(ロ)は本発明の溶接部可視化方法及び装置の実施の一形態として、たとえば、板厚差のある被溶接材同士の溶接部の観察を行う場合について示すもので、板厚の異なる被溶接材10aと10b同士の突合せ溶接を行う開先部11の真上となる垂直面内に、レーザ溶接トーチ(図示せず)により形成される溶接部12を撮影するための電子シャッタを備えた高画素CCDカメラ13を、上記レーザ溶接トーチと干渉しないよう観測対象となる上記溶接部12位置における各被溶接材10a,10bの法線(以下、観測対象法線という)14に対し溶接進行方向の後方側へ所要角度(θ)傾斜させて設けるようにする。
【0024】
一方、上記開先部11の真上となる垂直面内にて観測対象法線14を対称軸とする上記CCDカメラ13との正対称位置より上記観測対象法線14となす角度が+10°〜+20°、又は、−10°〜−20°ずれた角度配置となるように照明光源としての高輝度フラッシュランプ15を設ける。すなわち、該高輝度フラッシュランプ15が観測対象法線14に対して溶接進行方向の前方へ傾斜してなす角度をθとすると、該θが、上記CCDカメラ13が観測対象法線14に対してなす角度θに対し、
θ = θ±10°〜20°
の条件を満たす角度配置となるように上記フラッシュランプ15を設けるようにする。
【0025】
なお、12aは溶接ビードである。上記においてはフラッシュランプ15を溶接進行方向の前方に、又、CCDカメラ13を溶接進行方向の後方にそれぞれ配置したものとして示してあるが、上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15を溶接進行方向に対して前後逆に配置するようにしてもよい。又、図示してないが、本発明の溶接部可視化装置は、上記フラッシュランプ15の発光間隔に、上記CCDカメラ13の電子シャッタの開閉タイミングを同期させるためのタイミング装置を備えている。これにより、図7に示した従来の溶接部可視化装置と同様に、上記フラッシュランプ15により、溶融池及びその周辺部を高輝度照明して溶融池自体の発光や散乱光以上の発光強度を与え、同時に、上記電子シャッタにより上記高輝度照明された溶接部12からの光はCCDカメラ13へ入射させる一方、それ以外の散乱光等の有害光をほとんどカットして入射光量を大幅に減らすことにより、上記溶接部12の画像を得ることができるようにしてある。
【0026】
ここで、上記フラッシュランプ15を配置する角度条件について説明する。
【0027】
本発明者等は、板厚差のある被溶接材10a,10b同士の突合せ溶接部12を高輝度照明する際、該溶接部12に影を生じさせないようにするために、光源であるフラッシュランプ15を、開先部11の真上位置に1基配置することを考えた。又、板厚差のある被溶接材10a、10b同士の突合せ溶接部12を、該各被溶接材10a,10b同士の板厚差に伴って形成される段差により視界が妨げられることなく溶接部12の撮影、観察を行うことができるようにするために、CCDカメラ13も、開先部11の真上位置に配置することを考えた。
【0028】
上記のようにCCDカメラ13と光源であるフラッシュランプ15を共に開先部11の真上位置、すなわち、開先部11の真上の垂直面内に配置する場合、通常、溶接部12の上方位置にはレーザ溶接トーチ等の溶接トーチが配設されているため、上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15を、溶接トーチに対して開先部の延びる方向である溶接進行方向前方側又は後方側のいずれか一方に一緒に配設することはスペース的に難しい。そのために、上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15は、開先部11の真上の垂直面内にて、溶接トーチを挟んで溶接進行方向の前後両側に分けて配置することとなる。
【0029】
本発明者等は、CCDカメラ13とフラッシュランプ15を、上記のように開先部11に沿って溶接部12を中心に対向配置とする場合において、上記フラッシュランプ15の照射角を変化させて、CCDカメラ13による溶接部12の観察を行ったところ、上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15とを、単に観測対象法線14を対称軸として対称的な角度配置とした場合には、フラッシュランプ15より溶接部12へ向けて照射した高輝度照明光が被溶接材10a,10bの表面で正反射する、いわゆる正反射成分が、上記CCDカメラ13に強く入射してしまうため、該CCDカメラ13により撮影される溶接部12の観察画像は、開先位置の検出等の画像処理を実施するには不都合な状態となることが判明した。
【0030】
この現象を解決するために、本発明者等は、以下のような実験を行い、画像処理に適した溶接部観察像が得られるCCDカメラ13とフラッシュランプ15の適切な配置があることを実験的に解明した。
【0031】
図2は本発明者等の実験に用いた装置の構成を示すもので、被溶接材10a,10bを亜鉛メッキ鋼板とし、開先部11に相当する該各亜鉛メッキ鋼板の突合せ部の真上となる垂直面内に、CCDカメラ13を、観測対象法線14に対する傾斜角度θが、θ=30°となるように配置する。この条件下にて、上記観測対象法線14を挟んで反対側にフラッシュランプ15を、該観測対象法線14に対する傾斜角度θが、30°から45°まで5°刻みで変更するように配置して、該各所定の傾斜角度θごとに、上記CCDカメラ13による上記被溶接材10a,10bとしての亜鉛メッキ鋼板同士の突合せ部の観察画像を得るようにしてある。更に、得られたそれぞれの観察画像については、画像処理により開先部11の位置を検出する場合と同様に、上記CCDカメラ13による溶接部の画像上にて、亜鉛メッキ鋼板同士の突合せ部(開先部11)と直交する方向に沿って配列されている一列のピクセル(画素)について、各ピクセルごとの輝度を求め、上記一列に配列された各ピクセル位置に対し、それぞれのピクセルの輝度をプロットした輝度変化グラフを作成して、画像処理による開先位置やギャップ幅等の監視要素の抽出について検討した。
【0032】
上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15の配置角度以外の条件は、以下のようにしてある。カメラ位置:CCD面から観察対象位置まで250mm、レンズ絞り:F22.6、電子シャッター:1/13400秒、フラッシュランプ光量:射出レンズ(コリメートレンズ)端で4.0mJ、フラッシュランプ位置:射出レンズ端から観察対象位置まで200mm。
【0033】
その結果、フラッシュランプ15の傾斜角度θを30°、35°、40°、45°とした場合について、図3(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に示す如き輝度変化グラフがそれぞれ得られた。
【0034】
図3(イ)に示す結果より明らかなように、θ=30°、すなわち、θ=θの場合は、被溶接材10a,10bである亜鉛メッキ鋼板の平面部における正反射が大きく、ハレーションを起こすか、明るさにむらが現れてしまい、斑模様が出現する傾向にあると共に、各ピクセルごとの輝度変化が大きくなってしまっていることが判明した。これは、上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15が、観測対象法線14を対称軸として対称な角度配置としてあるため、フラッシュランプ15より亜鉛メッキ鋼板へ向けて照射された後、CCDカメラ13へ入射する光は、亜鉛メッキ鋼板表面での正反射成分が主となり、このために、亜鉛メッキ鋼板の材料表面の凹凸、メッキ量のばらつきに起因する反射率の違い、表面に塗布されている油量の多少等による反射率の違いが、直接的に輝度の分布に影響しているものと考えられる。画像処理により開先部11位置を検出させる場合、通常は輝度変化の谷となる部分を検出するようにしているため、上記図3(イ)に示すように全体的に輝度変化が激しい場合には、画像処理による開先部11位置の検出は難しい。
【0035】
図3(ロ)に示すθ=35°の場合は、上記θ=30°の場合に比して、輝度変化は多少小さくなるが、この場合であっても、輝度変化グラフ上の絶対的な輝度変化が大きく、画像処理により開先部11位置を検出させることは難しい。
【0036】
図3(ハ)に示すθ=40°の場合には、輝度変化がかなり収束するようになる。更に、図3(ニ)に示すように、θ=45°とすると、CCDカメラ13の観察画像における亜鉛メッキ鋼板表面のむらが最も抑制され、且つ開先部11近傍の輝度変化グラフにおいてもハレーションの発生がほぼ抑えられると共に、輝度変化が小さくなっている。これは、θとθとの角度差が大きくなるに従い、フラッシュランプ15より亜鉛メッキ鋼板へ向けて照射された後、CCDカメラ13へ入射する光は、反射光ではなく散乱光が主となるため、亜鉛メッキ鋼板の上述したような表面状態のばらつきに起因する反射率の違いの影響が緩和され、CCDカメラ13への入射光の強度が平均化されるためと考えられる。このことから、図3(ニ)に示す輝度変化グラフでは、開先部11と対応する個所のピクセルの輝度が、開先部11以外の位置に対応する他のピクセルの比較的平均化された輝度に対して大きく低下しており、輝度変化グラフ上で大きな谷を示すようになることから、画像処理による開先部11位置の検出に適切な輝度変化となっていることが判明した。
【0037】
次に、上記と同様の試験条件の下で、フラッシュランプ15の観測対象法線14に対する傾斜角度θを、25°から15°まで5°刻みで変更して、該各所定の傾斜角度θごとに、CCDカメラ13による上記被溶接材10a,10bとしての亜鉛メッキ鋼板同士の突合せ部の観察画像を得るようにし、更に、得られたそれぞれの観察画像について、上記と同様に輝度変化グラフを作成して、画像処理による開先位置やギャップ幅等の監視要素の抽出について検討した。
【0038】
その結果、フラッシュランプ15の傾斜角度θを25°、20°、15°とした場合について、図4(イ)(ロ)(ハ)に示す如き輝度変化グラフがそれぞれ得られた。
【0039】
図4(イ)に示す結果より明らかなように、θ=25°とした場合には、θがθに比較的近く、すなわち、上記CCDカメラ13とフラッシュランプ15が、観測対象法線14を対称軸とする対称な角度配置から5度しかずれていないため、フラッシュランプ15より亜鉛メッキ鋼板へ向けて照射された後、CCDカメラ13へ入射する光は、亜鉛メッキ鋼板表面での正反射成分が多くなり、このために、図3(ロ)に示したθ=35°の場合と同様に、ハレーションを生じる等、輝度変化グラフ上の絶対的な輝度変化が大きく、画像処理により開先部11位置を検出させることは難しい。
【0040】
図4(ロ)に示すθ=20°の場合には、輝度変化がかなり収束してハレーションの発生がほぼ抑えられるようになる。更に、図4(ハ)に示すように、θ=15°とすると、開先部11近傍の輝度変化グラフにおいてもハレーションの発生が抑えられている。これは、図3(ハ)に示したθ=40°の場合、及び、図3(ニ)に示したθ=45°の場合と同様に、θとθとの角度差が大きくなるに従い、フラッシュランプ15より亜鉛メッキ鋼板へ向けて照射された後、CCDカメラ13へ入射する光は、反射光ではなく散乱光が主となるため、亜鉛メッキ鋼板の表面状態のばらつきに起因する反射率の違いの影響が緩和されて、CCDカメラ13への入射光の強度が平均化されることから、図4(ロ)及び図4(ハ)に示す輝度変化グラフでは、輝度変化の谷となっている部分を基に、画像処理による開先部11位置の検出が可能な輝度変化となっていることが判明した。
【0041】
ところで、SUS材は、亜鉛メッキ鋼板に比べて表面が滑らかで、光をよく正反射する。実際の溶接生産ラインでもSUS材程度に滑らかな表面を有するワークを処理する可能性がある。
【0042】
そのため、次いで、観察対象となる被溶接材10a,10bとして、上記亜鉛メッキ鋼板に代えてSUS材を用い、上記と同様な試験条件の下で、フラッシュランプ15の観測対象法線14に対する傾斜角度θを、30°から45°まで5°刻みで変更して、該各所定の傾斜角度θごとに、CCDカメラ13による上記被溶接材10a,10bとしてのSUS材同士の突合せ部の観察画像を得るようにし、更に、得られたそれぞれの観察画像について、上記亜鉛メッキ鋼板の場合と同様に、輝度変化グラフを作成して、画像処理による開先位置やギャップ幅等の監視要素の抽出について検討した。なお、被溶接材10a,10bとしてSUS材を使用すること以外の試験条件は、上記亜鉛メッキ鋼板の場合と同様としてある。
【0043】
その結果、フラッシュランプ15の傾斜角度θを30°、35°、40°、45°とした場合について、図5(イ)(ロ)(ハ)(ニ)に示す如き輝度変化グラフがそれぞれ得られた。
【0044】
図5(イ)(ロ)(ハ)に示す結果より明らかなように、θ=30°〜40°程度では、ハレーションが起こることが確認された。これは、被溶接材10a,10bとしてのSUS材は、亜鉛メッキ鋼板に比して表面が滑らかであるため、フラッシュランプ15よりSUS材へ向けて照射された後、CCDカメラ13へ入射する光は、SUS材表面での正反射成分が非常に多くなるため、該CCDカメラ13の各ピクセルに入射する光の輝度が高すぎるためと考えられる。この場合、画像処理により開先部11位置を検出させようとしても、全体的に輝度が高すぎるため、画像処理による開先部11位置の検出は難しい。
【0045】
図5(ニ)に示すように、θ=45°とすると、CCDカメラ13の観察画像における開先部11近傍の輝度変化グラフにおけるハレーションが収まり、画像処理による開先部11位置の検出が可能な輝度変化となっていることが判明した。
【0046】
これらの実験結果を鑑みて、本発明者等は、開先部11の上方位置に該開先部11の方向にCCDカメラ13とフラッシュランプとを対向配置する場合であっても、CCDカメラ13の観測対象法線14からの傾斜角度θに対して、フラッシュランプ15を、上記観測対象法線14を対称軸とするCCDカメラ13と対称な角度配置から観測対象法線14となす角度が±10°〜20°ずれるようにすれば、フラッシュランプ15より被溶接材10a,10bへ向けて照射した高輝度照明光の正反射成分が、CCDカメラ13に直接入射することを抑制でき、被溶接材10a,10bを、上記フラッシュランプ15より照射された高輝度照明光による散乱光の下で観測できることを見出した。
【0047】
そこで、本発明の溶接部可視化方法及び装置では、上記被溶接材10aと10b同士の突合せ溶接を行う開先部11の真上となる垂直面内に、溶接部12を撮影するためのCCDカメラ13を、観測対象法線14に対し所要角度θ傾斜させて設けると共に、上記観測対象法線14を対称軸とする上記CCDカメラ13と対称となる角度配置より上記観測対象法線14となす角度が、±10°〜20°ずれた角度配置となるように高輝度フラッシュランプ15を設けるようにしてある。
【0048】
上記本発明の溶接部可視化方法及び装置によれば、フラッシュランプ15を開先部11の真上となる垂直面内に配置するようにしてあるので、板厚差のある被溶接材10a,10b同士の突合せ溶接部12であっても、上記フラッシュランプ15より照射する高輝度照明光により上記溶接部12に影が発生する虞を防止できる。
【0049】
又、CCDカメラ13も開先部11の真上となる垂直面内に配置するようにしてあるため、被溶接材10a、10b同士の間に、両者の板厚差に伴う段差が存在していても、視界を妨げられることなく上記CCDカメラ13にて溶接部12の撮影を行なうことができる。
【0050】
しかも、この撮影の際、上記フラッシュランプ15より被溶接材10a,10bへ向けて照射した高輝度照明光が該被溶接材10a,10bの表面で正反射する正反射成分が、CCDカメラ13に直接入射する虞を抑制できることから、上記CCDカメラ13にて撮影される溶接部12の画像にハレーションが発生する虞を未然に防止できる。これにより、開先部11位置やギャップ幅等の監視要素の抽出を、上記溶接部12画像の画像処理により正確に行なうことが可能になる。したがって、溶接部12の良否判定の精度を向上させることが可能になる。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の溶接部可視化方法及び装置は、板厚差のある被溶接材10a,10bに代えて、板厚差のない被溶接材同士の突合せ溶接を行う場合にも適用できる。この場合は、フラッシュランプ15より被溶接材へ向けて照射した高輝度照明光のうち、該被溶接材の表面で正反射する正反射成分がCCDカメラ13に直接入射する虞を抑制した状態で溶接部の観察を行うことができることから、上記CCDカメラ13にて撮影される溶接部12の画像にハレーションが発生する虞を未然に防止できて、開先部位置やギャップ幅等の監視要素の抽出を、上記溶接部12画像の画像処理により正確に行なうことが可能になり、このため、溶接部12の良否判定の精度を向上させることが可能になるという効果を得ることができる。
【0052】
又、テーラードブランク材の製造時以外の被溶接材同士の突合せ溶接部の観察にも適用できる。
【0053】
更に、亜鉛メッキ鋼板やSUS材以外の材質としてある被溶接材10a,10b同士の突合せ溶接部の観察に用いることができること、更には、レーザ溶接以外の溶接法による溶接部の観察にも適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の溶接部可視化方法及び装置の実施の一形態を示すもので、(イ)は概略切断側面図、(ロ)は(イ)のA−A方向矢視図である。
【図2】図1の装置におけるCCDカメラとフラッシュランプの配置を決定するための実験に用いた装置を示す概略側面図である。
【図3】図2の実験装置の被溶接材を亜鉛メッキ鋼板として行った実験の結果を示すもので、(イ)はフラッシュランプを観測対象法線に対し30°の角度配置とした場合、(ロ)は35°の角度配置とした場合、(ハ)は40°の角度配置とした場合、(ニ)は45°の角度配置とした場合について、CCDカメラの画像上にて開先部を直角に横切る方向に配列されたピクセルで検出される輝度変化グラフをそれぞれ示す図である。
【図4】図2の実験装置の被溶接材を亜鉛メッキ鋼板として行った実験の結果を示すもので、(イ)はフラッシュランプを観測対象法線に対し25°の角度配置とした場合、(ロ)は20°の角度配置とした場合、(ハ)は15°の角度配置とした場合について、CCDカメラの画像上にて開先部を直角に横切る方向に配列されたピクセルで検出される輝度変化グラフをそれぞれ示す図である。
【図5】図2の実験装置の被溶接材をSUS材として行った実験の結果を示すもので、(イ)はフラッシュランプを観測対象法線に対し30°の角度配置とした場合、(ロ)は35°の角度配置とした場合、(ハ)は40°の角度配置とした場合、(ニ)は45°の角度配置とした場合について、CCDカメラの画像上にて開先部を直角に横切る方向に配列されたピクセルで検出される輝度変化グラフをそれぞれ示す図である。
【図6】従来提案されている溶接部可視化装置の一例を示すもので、(イ)は概略平面図、(ロ)は(イ)のB−B方向矢視図である。
【図7】従来提案されている溶接部可視化装置の他の例を示すもので、(イ)は概略平面図、(ロ)は(イ)のC−C方向矢視図である。
【図8】従来提案されている溶接部可視化装置の更に他の例を示す概要図である。
【符号の説明】
【0055】
10a,10b 被溶接材
11 開先部(開先)
12 溶接部
13 CCDカメラ(カメラ)
14 観測対象法線
15 フラッシュランプ(照明光源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材同士の突合わせ溶接を行う開先真上に、溶接部を撮影するカメラを、観測対象法線に対して所要角度として配置し、該観測対象法線を対称軸として上記カメラとは対称の位置近傍の開先真上に配置する照明光源の上記観測対象法線に対する配置角度を、上記カメラの観測対象法線に対する配置角度に対して±10°〜20°とし、該照明光源により高輝度照明される上記被溶接材同士の突合せ溶接部を、上記カメラにて撮影することを特徴とする溶接部可視化方法。
【請求項2】
被溶接材同士の突合せ溶接部近傍の開先真上に、溶接部を撮影するカメラを、観測対象法線に対して所要角度傾斜させて配置し、且つ照明光源の配置を、開先真上で上記観測対象法線を対称軸として上記カメラと対称の位置近傍とし、該位置近傍を、観測対象法線に対する配置角度が上記カメラの観測対象法線に対する配置角度に対して±10°〜20°ずれるような位置としてなる構成を有することを特徴とする溶接部可視化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−35226(P2006−35226A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213858(P2004−213858)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)