説明

溶液製膜方法

【課題】加工適正及びリワーク性に優れたポリマーフィルムを、高い製造効率で製造する。
【解決手段】第1〜第3ダクト36〜38により、流延膜32を加熱して乾燥をすすめる。この加熱により一旦降温してから昇温し始めた流延膜32を、第2ローラ28によりバンド29を介して冷却し、一定温度範囲に保持する。第3ダクト38によりこの温度保持を継続する。第4位置P4に達した流延膜32を、第1ローラ27によりバンド29を介して冷却する。この冷却は、ポリマーの結晶化がすすむことなく流延膜32が固まるように行う。冷却により達した温度を保持しながら、流延膜32をバンド29から剥ぎ取る。剥ぎ取った湿潤フィルムをテンタとローラ乾燥装置とにより乾燥してフィルム23とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板用途のポリマーフィルムを製造する溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置等の光学用途に用いるポリマーフィルムとしてはセルロースアシレートフィルムや環状ポリオレフィンフィルム等がある。これらのポリマーフィルムの製造方法として、溶液製膜方法がある。溶液製膜方法は、ポリマーを溶剤に溶かしたドープを、支持体の上に流延して流延膜を形成し、この流延膜を固めて剥ぎ取り、剥ぎ取った流延膜、すなわち湿潤フィルムを乾燥してポリマーフィルムにする製造方法である。この溶液製膜には、流延膜の固め方によって、周知のように、乾燥流延方式と冷却ゲル化流延方式とがある。
【0003】
乾燥流延方式は、周知のように、流延膜を所期の乾燥レベルにまで乾燥し、この乾燥により流延膜を固めるものである。すなわち、剥ぎ取った後に、湿潤フィルムが搬送可能となるような程度にまで流延膜を乾燥して固める。
【0004】
これに対し、冷却ゲル化流延方式は、同じく周知のように、流延膜を冷却することによりゲル状にし、剥ぎ取っても搬送可能な程度に固くなるまでゲル化をすすめるものである。
【0005】
乾燥流延方式を基本としながらも、剥ぎ取り直前で流延膜を冷却する方法もあり、例えば特許文献1に記載される。この特許文献1の方法では、剥ぎ取り直前で、流延膜を6℃以下となるように、冷却風の吹き付けにより冷却する。この方法によると、曇りのないフィルムを効率よく製造することができる。
【0006】
また、特許文献2では、乾燥流延方式を用い、予め設定されたゲル化温度に達するまで乾燥を当てて乾燥をし、ゲル化温度到達後に、よりはやく乾かすように乾燥をするという2段階の乾燥工程を実施する。これにより、ポリマーフィルムの厚みむらを小さくすることができる。
【0007】
さらに、幅方向に延伸される工程を経た長尺のポリマーフィルムの製造方法として、特許文献3がある。この方法では、溶液製膜過程で幅方向での延伸処理を、従来よりも早いタイミングで実施することで、製造効率を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−306059号公報
【特許文献2】特開平11−058425号公報
【特許文献3】特許第4169183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ポリマーフィルムは、用途に応じた寸法に切断されて利用される。切断は、組み合わせる部材と組み合わせる前に、ポリマーフィルムだけで為される場合もあるが、組み合わせるべき部材と組み合わせた後に、その部材とともに為されることもある。例えば、偏光板を製造する場合には、偏光膜と、これを保護する保護フィルムとして用いるポリマーフィルムとを貼り合わせてから、切断処理をする。なお、偏光膜の両面に配される一対の保護フィルムのうち一方を、光学補償フィルム(位相差フィルムを含む)に代える場合も同様である。すなわち、光学補償フィルムを保護フィルムとして用いることもある。
【0010】
偏光膜と保護フィルムとの貼り合わせからなる複層構造のフィルムから偏光板とするために、所期の寸法に切断する場合には、複層構造フィルムに対して、一方のフィルム面から切断刃を押しつけて切断する。このように複層構造フィルムを切断すると、切断により形成された切断面から保護フィルムの内部へとクラックが生じてしまうことがある。切断によりこのようにクラックが生じる保護フィルムは、加工適正が悪いとの評価が為され、得られる偏光板についてもその商品価値が著しく低くなることがある。
【0011】
また、液晶ディスプレイを製造する際には、偏光板をガラス基板に貼り付ける。この貼り合わせに際し、その貼り合わせ状態が所期の状態にならない場合には、偏光板をガラス基板から一旦剥がしてから再び貼り合わせるといういわゆるリワークを実施する。偏光板の保護フィルムの中には、このリワークの中でも特にガラス基板から剥がす剥離時に、保護フィルムの一部がガラス基板上に残ってしまうことがある。このように全体が剥がれることなく一部がガラス基板上に剥げ残るような保護フィルムは、リワーク性が悪いとの評価が為され、好ましくない。
【0012】
上記の乾燥流延方式と冷却ゲル化流延方式とを比べると、後者の方が製造効率の点で著しく優位にある。しかし、冷却ゲル化流延方式で得られるポリマーフィルムは、上記の加工適正とリワーク性との観点では、乾燥流延方式で得られるポリマーフィルムに劣る。
【0013】
このように、乾燥流延方式と冷却ゲル化流延方式は、互いに異なる観点でともに優劣付けがたく、ポリマーフィルムの用途等に応じて要望される各種性能に基づいて、選択されるのが現状である。
【0014】
しかしながら、特許文献1〜3の方法を用いても、冷却ゲル化流延方式に並ぶ製造効率と、乾燥流延方式に並ぶレベルの加工適正及びリワーク性の改善とを両立することはできない。
【0015】
そこで本発明は、乾燥流延方式でつくられるフィルムの加工適正とリワーク性とのレベルをもつポリマーフィルムを、冷却ゲル化流延方式における製造効率で製造することができる溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、ポリマーが溶剤に溶解したドープを、支持体の上に流延して流延膜を形成する流延工程と、流延膜を加熱して乾燥をすすめる流延膜乾燥工程と、この流延膜乾燥工程で一旦降温した後に昇温し始めた流延膜を、一定の温度範囲に保持する加熱温度保持工程と、この温度保持工程の後に、流延膜中で前記ポリマーの結晶化がすすむことなく流延膜が固まるように、流延膜を冷却する冷却工程と、前記冷却により達した温度を保持しながら、流延膜を、溶剤を含んだ状態の湿潤フィルムとして支持体から剥ぎ取る剥取工程と、湿潤フィルムを乾燥するフィルム乾燥工程とを有することを特徴として構成されている。
【0017】
この溶液製膜方法では、周面温度を調整することで支持体を介して流延膜の温度を制御し、周方向に回転するローラ対により、周面に接した帯状で無端の前記支持体を搬送し、前記流延工程では、支持体のうち一方の前記ローラに巻き掛けられている巻き掛け領域に対して、ドープを流延し、他方の前記ローラに向かう流延膜に対して前記流延膜乾燥工程を開始し、前記加熱温度保持工程は、前記他方のローラに巻き掛けられている支持体の第2の巻き掛け領域を介して、前記他方のローラにより流延膜の温度を保持し、前記冷却工程は、前記一方のローラにより前記流延膜を冷却し、前記剥ぎ取り工程は、第1の巻き掛け領域から流延膜を剥ぎ取ることが好ましい。
【0018】
流延膜のゲル化点をTG(℃)とするときに、前記冷却工程では、流延膜をTG以上TG+20℃以下の温度範囲となるように冷却することが好ましい。
【0019】
加熱温度保持工程は、前記流延膜における前記溶剤の残留率が100質量%になるまで前記流延膜の温度を保持することが好ましい。流延膜乾燥工程における昇温の開始時から加熱温度保持工程の終了時までの時間を10秒以上100秒以下の範囲にすることが好ましい。
【0020】
冷却工程における冷却により降温し始めた流延膜を、剥ぎ取り工程の前で一定の温度範囲に保持する冷却温度保持工程を有し、前記冷却による降温の開始時から冷却温度保持工程の終了時までの時間を1秒以上30秒以下の範囲にすることが好ましい。
【0021】
活線の照射により硬化する活線硬化材料を予めドープに含ませておき、流延膜に対して活線を照射することが好ましく、活線は、加熱温度保持工程が開始された後の流延膜に対して照射することがより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、乾燥流延方式でつくられるフィルムの加工適正とリワーク性とのレベルをもつポリマーフィルムを、冷却ゲル化流延方式における製造効率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図2】湿潤フィルム形成装置の概略図である。
【図3】流延膜の温度変化を示すグラフである。
【図4】経路制御部の概略図である。
【図5】経路制御部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1の溶液製膜設備10は、ポリマー11が溶剤12に溶解したドープ13から湿潤フィルム16を形成する湿潤フィルム形成装置17と、形成した湿潤フィルム16に幅方向での張力を適宜加えながら乾燥をすすめるテンタ18と、テンタ18を経た湿潤フィルム16をローラ21で搬送しながら乾燥をさらにすすめてフィルム23にするローラ乾燥装置22と、乾燥したフィルム23をロール状に巻き取る巻取装置24とを有する。なお、溶液製膜設備10は、テンタ18とローラ乾燥装置22との間、ローラ乾燥装置22と巻取装置24との間の各搬送路には、湿潤フィルム16とフィルム23との各側端部を切除するスリット装置(図示無し)を備えるが図示は略す。
【0025】
湿潤フィルム形成装置17は、周方向に回転する第1のローラ27と第2のローラ28とを備える。第1のローラ27と第2のローラ28とには、無端の流延支持体としてのバンド29が巻き掛けられる。第1のローラ27と第2のローラ28との少なくともいずれか一方が、駆動手段を有する駆動ローラであればよい。この第1のローラ27と第2のローラ28とからなるローラ対の少なくともいずれか一方が周方向に回転することにより、周面に接するバンド29が搬送される。バンド29の上方にはドープ13を流出する流延ダイ31とが備えられており、搬送されているバンド29に流延ダイ31からドープ13を連続的に流出することにより、ドープ13はバンド29上で流延されて流延膜32が形成される。なお、ダイ31からバンド29に至るドープ13に関して、バンド29の走行方向における上流には、減圧チャンバが設けられるが図示は略す。この減圧チャンバは、流出したドープ13の上流側エリアの雰囲気を吸引して前記エリアを減圧する。
【0026】
流延膜32を、テンタ18への搬送が可能な程度にまで固くしてから、溶剤を含む状態でバンド29から剥がす。剥ぎ取りの際には、湿潤フィルム16を剥ぎ取り用のローラ(以下、剥取ローラと称する)33で支持し、流延膜32がバンド29から剥がれる剥取位置PP(図2参照)を一定に保持する。
【0027】
湿潤フィルム形成装置17には、バンド29の走行路に沿って上流側から順に、乾燥した気体を流延膜32に向けて送り出す第1ダクト36、第2ダクト37、第3ダクト38が設けられる。ただし、ダクトの数は3に限定されない。第1〜第3ダクト36〜38については、別の図面を用いて後述する。
【0028】
第3ダクト38の下流には、活線を射出する光源が備えられる。
【0029】
剥取ローラ33の上流側には、剥取ローラ33に向かう湿潤フィルム16の経路を制御する経路制御部46が設けてある。
【0030】
流延膜32を固める方法と剥ぎ取る方法については、それぞれ別の図面を用いて後述する。
【0031】
フィルム形成装置17からテンタ18への渡りには、複数のローラ48が備えられる。剥ぎ取りによって形成された湿潤フィルム16はこれらのローラ48で搬送されて、テンタ18に案内される。テンタ18では、湿潤フィルム16の側端部を保持手段(図示無し)で保持し、この保持手段で搬送しながら湿潤フィルム16を乾燥する。保持手段は、湿潤フィルム16を所定のタイミングで幅方向に所定の張力を適宜かけるように、搬送方向における所定の位置で湿潤フィルム16の幅方向に変位する。
【0032】
テンタ18は、搬送路を囲むチャンバとして形成されている。テンタ18の内部には、ダクト(図示無し)が備えられ、このダクト(図示無し)には、湿潤フィルム16の搬送路に対向して給気ノズル(図示無し)と吸引ノズル(図示無し)とがそれぞれ複数形成されてある。給気ノズルからの乾燥気体の送出と吸引ノズルからの気体の吸引により、テンタ18の内部は一定の湿度及び溶剤ガス濃度に保持される。このテンタ18の内部を通過させることにより、湿潤フィルム16の乾燥をすすめる。
【0033】
テンタ18を経た湿潤フィルム16はスリット装置(図示無し)で、保持手段による保持跡がある各側端部を、切断刃で連続的に切断して除去される。一方の側端部と他方の側端部との間の中央部はローラ乾燥装置22へ送る。
【0034】
湿潤フィルム16は、テンタ18からローラ乾燥装置22へ送られると、搬送方向に並んで配された複数のローラ21の周面で支持される。これらのローラ21の中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により搬送される。
【0035】
ローラ乾燥装置22は、乾燥した気体を流出するダクト(図示無し)を備え、乾燥気体が送り込まれる空間を外部と仕切るチャンバとして形成されている。ローラ乾燥装置22には排気口が形成され、ダクトからの乾燥気体の送出と排気口からの排気により、ローラ乾燥装置22の内部は一定の湿度及び溶剤ガス濃度に保持される。このローラ乾燥装置22の内部を通過させることにより、湿潤フィルム16は乾燥してフィルム23になる。
【0036】
ローラ乾燥装置22で乾燥したフィルム23はスリット装置(図示無し)で、各側端部を切断刃で連続的に切断して除去される。一方の側端部と他方の側端部との間の中央部は巻取装置24へ送り、ロール状に巻き取る。
【0037】
流延から剥取までの工程について、より具体的に説明する。図2に示すように、バンド29は、第1ローラ27と第2ローラ28とに掛け渡される。第1ローラ27に巻き掛けられてあるバンド29が、移動することによって第1ローラ27から離れる位置を第1位置P1、第1位置P1から第2ローラ28に向かうバンド29が第2ローラに接触し始める位置を第2位置P2、第2ローラ28に巻き掛けられてあるバンド29が第2ローラ28から離れる位置を第3位置P3、第3位置P3から第1ローラ27に向かうバンド29が、第1ローラ27に接触し始める位置を第4位置P4、ドープ13が流延する位置を流延位置PCとし、流延膜32を剥がす位置を剥取位置PPとする。なお、図2では、経路制御部46の図示は略してある。
【0038】
バンド29のうち、第1ローラ27に巻き掛けられてある領域を第1領域、第2ローラ28に巻き掛けられてある領域を第2領域と称する。すなわち、第1領域は第4位置P4から第1位置P1に至る領域であり、第2領域は、第2位置P2から第3位置P3に至る領域である。なお、図2では、図の煩雑化を避けるために、吸引ダクト46、静圧制御手段47の図示は略す。
【0039】
第1ダクト〜第3ダクト36〜38には、乾燥した気体を流出する流出口36a,37a,38aがバンド29の走行路に対向してそれぞれ複数形成される。各流出口36a,37a,38aは、バンド29の幅方向に延びたスリット形状としてある。しかし、流出口36a,37a,38aの形状はこれに限定されない。
【0040】
第1ダクト〜第3ダクト36〜38は、それぞれ送風機41に接続し、送風機41から供給された気体を流出口から流出する。送風機41には、第1ダクト〜第3ダクト36〜38のそれぞれへ供給する気体の温度、湿度、流量を独立して制御する送風コントローラ42が接続する。第1ダクト〜第3ダクト36〜38による気体の流出により、第4位置P4に向かう流延膜32の乾燥をすすめる。このように、流延膜乾燥工程は、第1〜第3ダクト36〜38と、送風機41と、送風コントローラ42とからなる乾燥手段により実施し、第2ローラ28に向かう流延膜32に対して流延膜乾燥工程を開始する。
【0041】
第1〜第3ダクト36〜38からの気体は、加熱された温風であり、この温風により流延膜32を加熱する。流延膜32の温度は、この温風の温度及び流量の制御と、第1ローラ2727及び第2ローラ28の後述の温度制御とにより、調整される。
【0042】
第1ローラ27及び第2ローラには、周面温度を所定の温度に制御する第1コントローラ51及び第2コントローラ52がそれぞれ備えられる。バンド29の走行路の近傍には、第4位置P4における流延膜32の温度を検知する第1温度検知手段53と、第2位置における流延膜32の温度を検知する第2温度検知手段54とが備えられる。
【0043】
第1温度検知手段53により流延膜32の温度が検知されると、この検知結果に基づき、第1ローラ27の周面温度を設定する。設定した温度に対応する信号が第1コントローラ51に入力されると、第1コントローラ51は第1ローラ27の周面温度を調整する。第1ローラ27は、バンド29を介して第4位置P4から剥取位置PPに至る流延膜32の温度を制御する。
【0044】
同様に、第2温度検知手段54により流延膜32の温度が検知されると、この検知結果に基づき、第2ローラ28の周面温度を設定する。設定した温度に対応する信号が第2コントローラ52に入力されると、第2コントローラ52は第27ローラ28の周面温度を調整する。第2ローラ28は、バンド29を介して第2位置P2から第4位置P4に至る流延膜32の温度を制御する。
【0045】
以上のように、第2位置P2に向かう流延膜32は、第1ダクト36からの気体により、第2位置P2から第4位置P4に向かう流延膜32は第2ダクト37及び第3ダクト38からの気体と第2ローラ28とにより、第4位置P4から剥取位置PPに向かう流延膜32は第1ローラ27によりそれぞれ所期の温度に制御される。なお、図2では、流延位置PCを第1位置P1よりも上流としてあるが、バンド29の第1領域のうち、剥取位置PPよりも下流であれば構わない。したがって、流延位置PCは第1位置P1と一致してもよい。
【0046】
流延膜乾燥工程を実施するために、本実施形態では、第1〜第3ダクト36〜38を含む乾燥手段を用いる。しかし、乾燥手段はこれに限定されず、流延膜32の性状及びその経時変化に応じて他の乾燥手段を用いてもよい。他の乾燥手段としては、例えば、凝縮器を含む乾燥手段があり、これを第1〜第3ダクト36〜38を含む乾燥手段に代えて、または加えてもよい。
【0047】
凝縮器は、所定の温度に制御可能な冷却部を備えるものであり、これを、冷却部が流延膜32と対向するように第1〜第3ダクト36〜38に代えて配する。冷却部を流延膜32周辺の雰囲気よりも低い温度等に設定することにより、流延膜32から蒸発した溶剤12が冷却部で凝縮し、液体となる。雰囲気における溶剤ガス濃度が凝縮により一定範囲に保持されるので、流延膜32の乾燥がすすむ。凝縮器による乾燥は、気体の吹き付けよりも流延膜32の露出面の平滑性を保持する上で優れる。したがって、一定の乾燥状態に達するまでは凝縮器を用いて流延膜32を乾燥し、一定の乾燥状態に達したら気体の吹き付けによる乾燥に切り替えてもよい。なお、バンド29の走行路に関し、凝縮器とは反対側のエリアに、バンド29を加熱するヒータを設けると、流延膜32の乾燥がより速くすすむとともに、後述の第1降温と第1昇温とがより確実に起こる。
【0048】
図3では、縦軸を流延膜32の温度とし、横軸を時間とする。図3のグラフ中で、「PC」,「P1」,「P2」,「P3」,「P4」,「PP」は、流延位置PC,第1位置P1,第2位置P2,第3位置P3,第4位置P4,剥取位置PPのそれぞれにおける温度であることを示す。なお、図3の横軸では、第2位置P2から第3位置P3に至る時間及び第4位置P4から第1位置に至る時間を、第1位置P1から第2位置P2までの時間及び第3位置P3から第4位置P4に至る時間に対して大きく誇張して描いてある。
【0049】
図3に示すように、第1位置P1における流延膜32の温度は、その後の流延膜32に比べて非常に高くされる。これは、ドープ13の温度が低すぎると流動性が低すぎて流延しにくく、所期の流延膜32が形成できないためである。したがって、第1位置P1における流延膜32の温度は、流延されるドープ13の温度に概ね等しい。
【0050】
ポリマー11がセルロースアシレートであり、ドープ13におけるセルロースアシレート等の固形成分の濃度が15質量%以上35質量%の範囲である場合には、流延時のドープの温度を20℃以上40℃以下の範囲にすることが好ましい。ただし、この温度範囲は、バンド29の走行速度ないしフィルム23の製造速度によって、多少変わる。上記の温度範囲は、フィルム23の製造速度が10m/分以上120m/分以下の場合である。
【0051】
第2位置P2に向かう流延膜32は、乾燥の進みに伴い、一旦温度が下がってから上がり始める。この降温と昇温とは、第1ダクト36からの気体が混じった流延膜32周辺の雰囲気から流延膜32に入る熱と、流延膜32からの溶剤12(図1参照)の蒸発潜熱とのいわゆる熱収支による。すなわち、雰囲気から流延膜32に入る熱よりも蒸発潜熱が大きい場合には流延膜32は降温し、小さい場合には流延膜32は昇温する。
【0052】
流延膜32は、形成されてから一定の期間は、溶剤の蒸発量が大きいので、蒸発潜熱が雰囲気からの熱よりも大きくために流延膜32が降温する。溶剤の単位時間あたりの蒸発量は、その後徐々に漸減し、やがて蒸発潜熱よりも雰囲気からの熱の方が大きくなるので、昇温しはじめる。このように、本発明では、蒸発潜熱と雰囲気からの熱との熱収支による降温と昇温との熱履歴を利用し、一旦降温すること(以下、第1降温と称する)、及び降温した後の昇温(以下、第1昇温と称する)を待つ。
【0053】
第1昇温を経ることにより、ポリマー11の分子の向きをよりランダムにすることができる。
【0054】
ポリマー11がセルロースアシレートであり、ドープ13におけるセルロースアシレート等の固形成分の濃度が15質量%以上35質量%の範囲であり、溶剤12のうち蒸発速度が最も高い成分の沸点が40℃以上100℃以下である場合には、第1降温で達する温度は5℃以上30℃以下の範囲である。ただし、この温度範囲は、第1ダクト36からの気体の温度及び第1ダクト36からの気体の温度により、多少変わる。上記の温度範囲は、第1ダクト36からの気体の温度が10℃以上120℃以下、流量が10m/分以上250m/分の場合である。
【0055】
後で行う各工程のタイミングを考慮すると、流延膜32の上記第1降温及び第1昇温は、第2位置P2に達する前の流延膜32に発現させることが好ましい。すなわち、第1ローラ27と第2ローラ28とから構成されるローラ対によりバンド29を繰り返し循環走行させる場合には、第1ローラ27から第2ローラ28までと、第2ローラ28から第1ローラ27までとのバンド29の走行路の長さが等しく、この場合には、第2位置P2に向かう流延膜32に上記の第1降温及び第1昇温を起こすことが好ましい。
【0056】
第2位置P2に向かう流延膜32に上記の第1降温及び第1昇温をより確実に発現させるためには、第1ダクト36からの気体の温度及び流量と、ドープ13における溶剤の割合及びドープ13の流延時の温度と、第1ダクト36とバンド29との距離との少なくともいずれかひとつを調整し、これらの均衡をとるとよい。
【0057】
ポリマー11としてセルロースアシレートを用いた場合には、第1ダクト36からの気体の温度は10℃以上120℃以下、流量は10m/分以上200m/分以下、ドープ13における溶剤のうち最も蒸発速度が大きい溶剤のセルロースアシレートに対する質量割合は200%以上550%以下、ドープ13の流延時における温度は20℃以上40℃以下、第1ダクトとバンド29との距離は10mm以上200mm以下の各範囲で設定することが好ましい。なお、これらの値は、製造するフィルム23の厚みが20〜80μmの範囲である場合である。
【0058】
なお、第1降温で一定の温度に達すると、すぐに第1昇温が始まる場合と、前記一定の温度が保持されてから第1昇温が始まる場合とがある。この違いは、溶剤12の種類及び配合と、第1ダクト36からの気体の温度及び流量とによる。すぐに第1昇温が始まるよりも、前記一定の温度が保持されてから第1昇温が始まる方が好ましい。前記一定の温度を保持した方が、溶剤の蒸発が急激に起こることがなく流延膜32の発泡をより確実に防止することができるからである。そこで、第1昇温が始まる前に、第1降温で達した温度に流延膜32の温度を一定時間保持するように、第1ダクト36からの気体の温度と流量とを調整することがより好ましい。
【0059】
第1降温で達した温度に、流延膜32の温度を一定時間保持する場合には、第1降温の開始時から、昇温開始時にあたる温度保持終了時までの時間t1を、5秒以上100秒以下の範囲とすることが好ましい。
【0060】
第1位置P1から第2位置P2に至る区間で昇温し始めると、流延膜32は、第1ダクト36からの気体の流出で昇温を続けることが多い。流延膜32は一定の温度を超えると発泡することがある。そこで、その一定温度を超えないように、流延膜32の温度を一定の範囲に保持する。この工程を加熱温度保持工程と称する。
【0061】
加熱温度保持工程を実施することにより、後工程である冷却工程及び剥取工程による面配向の抑制の効果が確実に得られる。
【0062】
加熱温度保持工程は、第2ローラ28と第2ダクト37との少なくともいずれか一方により行う。したがって、第2ローラ28に達する前に発泡等が起きないように、第2位置P2までの流延膜32の温度が過度に上昇しないように、第1ダクト36からの気体の温度と流量とを制御することが好ましい。
【0063】
第2位置P2から第3位置P3に至る間では、流延膜32の乾燥をすすめつつも、温度を一定の範囲に保持する。そこで、第2ダクト37からの気体の流出条件と、第2ローラ28の周面温度との少なくとも一方を制御して、流延膜32の乾燥と温度調整との均衡を図る。
【0064】
例えば、流延膜32をより低い温度範囲に保持する場合には、乾燥速度の低下を抑えるために、第2ダクト37からの気体の流量を低下させることなく、気体の温度をより低くしたり、第2ローラ28の周面温度をより低くするとよい。
【0065】
加熱温度保持工程では、流延膜32の温度を一定に保持することがより好ましい。これは、レベリング効果による流延膜32の厚みむらの改良(厚みの均一化)、ポリマー11の向きのランダム化による光学むらと加工適性とリワーク性の改良がより確実になるからである。
【0066】
ポリマーがセルロースアシレートである場合には、加熱温度保持工程における流延膜32は、5℃以上40℃以下の範囲、より好ましくは10℃以上40℃以下の範囲、さらに好ましくは15℃以上40℃以下の範囲に保持することが好ましい。特に好ましくは、上記範囲で10秒以上100秒以内の時間、流延膜32の温度を10℃以内の範囲で一定にすることである。
【0067】
加熱温度保持工程は、流延膜32の溶剤残留率が200質量%になるまで、より好ましくは150質量%になるまで、さらに好ましくは100質量%になるまで行うことが好ましい。これにより、流延膜32の厚みがより確実に均一になるとともに、光学むらの抑制効果と、加工適性及びリワーク性の向上とがより確実になる。
【0068】
そこで、第3位置P3を通過した流延膜32に対しても加熱温度保持工程を続けて行うことが好ましい。第3位置P3より下流では、第3ダクト38により加熱温度保持工程を行うとよい。
【0069】
第1昇温の開始時から加熱温度保持工程の終了時までの時間t2は、10秒以上100秒以下の範囲とすることが好ましい。10秒以上にすると、10秒未満の場合に比べて、流延膜32の厚みの均一性と、フィルム22の光学むら、加工適性、リワーク性とがより向上するのでより好ましい。また、100秒よりも長くしても、ポリマー11の分子の向きは既に十分ランダム化しているので上記の効果がより上がるものではなく、かえってフィルム22の製造効率を下げたり溶液製膜設備10の長大化を招くことになる。ただし、この時間は、バンド29の走行速度ないしフィルム22の製造速度と、流延膜32の厚みによっても若干変わる。上記時間範囲は、フィルム22の製造速度が15m/分以上100mm/分以下の範囲であり、かつ、流延膜32の厚みが20μm以上80μm以下の範囲の場合である。
【0070】
活線を照射することにより硬化する活線硬化素材を、ドープ13に予め含ませておくことが好ましい。ドープ13は、流延膜32が複層構造で少なくともその一層を形成するものであっても良い。この場合には、流延膜32が対向して通過するように、光源45をバンド29の走行路の近傍に設ける。本実施形態では、活線硬化素材として、紫外線(UV)等の光の照射で硬化する光硬化素材を用いているので、活線照射手段として光源45を用いた。活線硬化素材としては、熱を与えることで硬化する熱硬化素材や、紫外線(UV)を照射することで硬化する紫外線(UV)硬化素材がある。活線照射手段は、これら活線硬化素材の種類に応じて選定する。
【0071】
本実施形態では、下流端が第4位置P4よりも上流となるように第3ダクト38を配し、流延膜乾燥工程後かつ冷却工程前の流延膜32に対して実施している。また、この実施形態における活線照射は、加熱温度保持工程中に実施している。この態様に代えて、流延膜乾燥工程中の流延膜32に対して実施してもよい。ただし、加熱温度保持工程の開始後のタイミングで活線照射を実施することが特に好ましい。これは、流延膜32におけるポリマー分子が、加熱温度保持工程の開始前よりも安定しているからである。この観点からは、加熱温度保持工程を一定時間実施した後、または終了した後に、活線照射を実施することがより好ましい。
【0072】
加熱温度保持工程の後に、流延膜を冷却して温度を下げる冷却工程を行う。加熱温度保持工程の後に活線照射を実施する場合には、この活線照射実施は、冷却工程前でも冷却工程後でも良い。より好ましくは冷却工程前に実施することである。
【0073】
冷却工程は、流延膜32中のポリマーの結晶化がすすむことなく流延膜32が固まるようにこれを冷却する工程である。結晶化が、冷却工程開始前に始まっていない場合には結晶化が起きないようにし、冷却工程開始前に既に始まる場合には結晶化度が大きくならないようにする。
【0074】
この冷却工程と後述の剥取工程とにより、剥ぎ取り時及び剥ぎ取り後の湿潤フィルム16におけるポリマーの面配向が抑制される。この面配向の抑制により、得られるフィルム23の加工適正とリワーク性とは、従来の乾燥流延方式により得られるフィルムと同等またはそれ以上になる。また、この冷却工程と後述の剥取工程とを、前述の流延膜乾燥工程及び加熱温度保持工程と組み合わせることにより、製造効率が従来の冷却流延方式と同等またはそれ以上になる。なお、面配向とは、フィルム面に沿って配向することを意味する。本発明のように面配向を抑制することにより、厚み方向でもポリマー分子がより均一に絡みあったフィルム23を製造することができるので、加工適正とリワーク性とがより向上する。
【0075】
ポリマーの結晶化がすすまないように流延膜32を固める流延膜32の温度は、ポリマー11及び溶剤12の各種類と冷却時における流延膜32の溶剤残留率とによる。したがって、冷却工程で達すべき流延膜32の温度は、ポリマー11及び溶剤12の種類と流延膜32の溶剤残留率とに基づいて設定する。そこで、用いるポリマー11及び溶剤12の組み合わせ毎に、例えば、結晶化度と、溶剤残留率及び温度との関係を予め求めておき、求めた関係に基づいて温度を設定するとよい。
【0076】
結晶化度は、種々の公知の方法で求めることができる。例えば、示差走査熱量(DSC)測定機を用いる熱分析や赤外線(IR)スペクトルでの分析等である。なお、結晶化度に代えて、結晶化と一定の関係をもつ他の因子を用い、この因子と温度との関係を予め求めて冷却工程において達すべき流延膜32の温度を設定してもよい。
【0077】
上記方法と同程度に確実でありながらも、より簡易に、冷却工程で達すべき流延膜32の温度を設定する方法としては、流延膜32のゲル化温度TG(℃)を予め求めておき、流延膜32をTG以上(TG+20℃)以下の範囲になるように冷却するとよい。
【0078】
ゲル化温度TGについては、ドープ11が、粘度Pと絶対温度Tの間で温度T<TGの場合のP1=a×1n(b/T)式と、T>TGの場合のP2=c×1n(d/T)式との2式で近似される場合、この高分子溶液はゲル化点を持つとし、その変化点TGをゲル化温度と定義する(但し、a,b,c,dは実験的に求めた定数)。
【0079】
ポリマーがセルロースアシレートであり、冷却工程開始時における溶剤残留率が100質量%以上200質量%以下の範囲である場合には、ゲル化温度TGは−10℃以上20℃以下の範囲である。なお、本明細書においては、溶剤残留率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶剤の質量をx、流延膜31の質量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0080】
冷却工程は、本実施形態では第2ローラ27により行う。したがって、流延膜32は、図3に示すように、第4位置P4を通過してから降温し始める。この降温を、以下第2降温と称する。なお、第2ローラ27に加えて、所定の温度の気体を流出するダクト(図示せず)を用い、ダクトからの冷却された気体により流延膜32の冷却を促進してもよい。
【0081】
第2降温が始まった流延膜32に対して、ポリマーの結晶化がすすむことのない温度範囲に保持する冷却温度保持工程を行うことが好ましい。これにより、加工適性とリワーク性とがより確実に向上する。
【0082】
冷却温度保持工程を実施する場合には、冷却工程の開始時から冷却温度保持工程終了時までの時間t3を、1秒以上30秒以下の範囲にすることがより好ましい。t3を1秒以上にすることで、1秒未満の場合と比べて、バンド29から流延膜32をより剥離しやすくなり、このため製造効率がより向上する。また、t3を30秒以下にすることで、30秒よりも長い場合に比べて、加工適性とリワーク性とを悪化させるポリマー11の結晶化の進行を防止することができる。なお、冷却温度保持工程を実施する場合には、冷却温度保持工程の終了時は剥取時に一致し、冷却温度保持工程を実施しない場合には、冷却工程の終了時が剥取時に一致する。
【0083】
流延膜32をバンド29から剥ぎ取る剥取時には、冷却工程で達した温度を保持しながた、剥ぎ取る。したがって、図3では、剥取位置PPにおける温度が冷却保持工程での温度と同じとなっている。
【0084】
剥取のタイミングは、流延膜32の溶剤残留率が20質量%以上200質量%以下の範囲であるときが好ましく、30質量%以上150質量%以下の範囲であるときがより好ましく、40質量%以上100質量%以下の範囲であるときがさらに好ましい。剥取時における溶剤残留率が20質量%以上であると、20質量%未満の場合と比べて、剥ぎ取りに要する力を抑制することができ、剥ぎ取り時に発生する湿潤フィルム17のフィルム面の形状悪化を防止することができる。また、剥取時における溶剤残留率が200質量%以下であると、200質量%よりも大きい場合と比べて、フィルム23の厚みむらや光学むらを一定レベル以下に抑制することができる。
【0085】
以上のように、本発明では、所定の流延膜乾燥、加熱温度保持、冷却、剥取の各工程を実施することにより、剥ぎ取り時及び剥ぎ取り後の湿潤フィルム16におけるポリマーの面配向を抑制する。これにより、十分な加工適正とリワーク性とをフィルム23に発現させるとともに、従来の冷却ゲル化流延方式と同等以上の製造速度で、フィルム23を製造することができる。さらに、従来の方法で製造されたフィルムは、液晶ディスプレイ等の表示装置に組み込まれて、過酷な使用環境に置かれた場合に、画像むらを起こす原因のひとつにもなっていた。しかし、本発明により製造されたフィルム23は、このような画像むらの発生を低減することができるという効果もある。
【0086】
本発明では、流延膜32の一定の昇温と降温とを繰り返すので、バンド29としては、低温脆性耐性をもつ素材を選択することが好ましい。低温脆性とは、周知のように、低温において急激にもろくなる現象である。低温脆性耐性とは、低温でも脆性破壊しない性質である。ここでの低温とは第1降温と第2降温とで達する温度である。
【0087】
以上の面配向の抑制は、剥ぎ取り工程で以下の方法を適用することにより、さらに効果が向上する。
【0088】
バンド29から流延膜32を剥ぎ取る工程について、図4及び図5を参照しながら具体的に説明する。図4,図5においては、矢線Z1は湿潤フィルム16の搬送方向、矢線Z2は湿潤フィルム16の幅方向を示す。なお、バンド29の幅方向は、湿潤フィルム16の幅方向Z1に一致する。図4及び図5は、概略図であり、バンド29と湿潤フィルム16との各厚みに対して剥取ローラ33を小さく描いてある。
【0089】
以降の説明においては、湿潤フィルム16のバンド29から剥がれた一方のフィルム面側の空間を第1空間、他方のフィルム面側の空間を第2空間と称する。剥取ローラ33は、長手方向が、バンド29のドープ流延面である露出面29aの幅方向に一致するように配される。剥取ローラ33は、湿潤フィルム16の搬送路に関し、バンド29とは反対側に備えられる。つまり、バンド29は第1空間に備わるので剥取ローラ33は第2空間に備えられることになる。
【0090】
剥取ローラ33は、駆動手段70とこの駆動手段70を制御するコントローラ71とを備える。この駆動手段70により剥取ローラ33は所定の回転速度で周方向に回転する。コントローラ71は、設定した剥取ローラ33の回転の速度の信号が入力されると、剥取ローラ33がその設定速度で回転するように駆動手段70を制御する。
【0091】
剥取ローラ33は、案内されてきた湿潤フィルム16を周面で支持し、回転することにより湿潤フィルム16を搬送する。湿潤フィルム16が剥取ローラ33に巻き掛かるように、バンド29と剥取ローラ33とを配置しておくとともに剥取ローラ33の下流の搬送路を定めておく。このように、剥取ローラ33に湿潤フィルム16を巻き掛けて、湿潤フィルム16を剥取ローラ33で搬送させることにより、流延膜32をバンド29から剥ぎ取る。
【0092】
なお、剥取ローラ33は、必ずしも駆動ローラでなくてもよく、搬送されている湿潤フィルム16に周面が接することにより従動するいわゆる従動ローラであってもよい。この場合には、他の搬送手段を剥取ローラ33の下流に設ける。そして、湿潤フィルム16を剥取ローラ33で支持し、設けた搬送手段で湿潤フィルム16を搬送させることにより、流延膜32をバンド29から剥ぎ取る。
【0093】
経路制御部46は、バンド29と剥取ローラ33との間の第2空間に備えてあり、湿潤フィルム16が所期の経路で搬送されるように制御する。経路制御部46は、減圧すべき空間を外部空間と仕切るチャンバ55と、チャンバ55の内部の雰囲気を吸引するポンプ56と、ポンプ56の吸引力を制御するコントローラ57とを備える。コントローラ57は、チャンバ55の内部における設定した圧力の信号が入力されると、その設定圧力になるようにポンプ56の吸引力を調整する。
【0094】
チャンバ55は、減圧すべき第2空間を、湿潤フィルム16の搬送方向Z1における上流側の外部空間と仕切る第1部材61と、下流側の外部空間と仕切る第2部材62と、幅方向Z2の各側部側の外部空間と仕切る第3部材63及び第4部材64、下方の外部空間と仕切る第5部材65とを備える。また、チャンバ55には、第1部材〜第4部材61〜64に囲まれるようにして、湿潤フィルム16に対向する第1の開口68が形成され、チャンバ55の外部の気体がこの第1開口68から吸引される。板状の第1〜第5部材61〜65のうち第1〜第4部材61〜64は起立した姿勢で配されてある。
【0095】
第1部材61は、第1ローラ27上のバンド29に対向するように配され、第1ローラ27上のバンド29に沿う曲面を有する。第1部材61は、流延膜32の厚みを考慮して、バンド29との距離が100μm以上2500μm以下の範囲となるように配される。搬送方向Z1における第1部材61の上流端61Uは、バンド29の下流端29Dよりも上流に位置する。
【0096】
第2部材62は、剥取ローラ33に対向するように配され、剥取ローラ33の周面に沿う曲面を有する。第2部材62は、湿潤フィルム16の厚みを考慮して、剥取ローラ33との距離が100μm以上2500μm以下の範囲となるように配される。搬送方向Z1における第2部材62の下流端62Dは、剥取ローラ33の上流端33Uよりも下流に位置する。第2部材62には、ポンプ56に接続し、チャンバ55の内部の気体が流出する第2の開口69が形成されている。
【0097】
第3部材63と第4部材64とは、その各内面が湿潤フィルム16の側縁16eよりも外側になるように配される。これにより、経路が安定するまでの間の湿潤フィルム16は、第3部材63と第4部材64とぶつからない。湿潤フィルム16と対向する対向面は、側方から見たときに、本実施形態では図4に示すように、湿潤フィルム16の所期の経路に重ならないように曲面とされてあるが、必ずしも曲面でなくてもよい。
【0098】
チャンバ55の内部は、気体が吸引されることにより減圧状態となる。チャンバ55の内部が減圧されると、バンド29と剥取ローラ33との間の第2空間も減圧されて、第1空間よりも低い圧力とすることができる。これにより、剥取ローラ33に向かう湿潤フィルム16はチャンバ55側に引き寄せられるように、直線経路(図4中の破線で示す符号A)から曲線経路に経路を変え、図4のように側方から見たときに、搬送路は第2空間側に凸の形状とされる。このように、経路制御部46は、バンド29と剥取ローラ33との間の第2空間の気体を吸引する吸引部であり、この吸引によりバンド29と剥取ローラ33との間の第2空間を減圧して、湿潤フィルム16の搬送路を第2空間側に凸形状にする。
【0099】
湿潤フィルム16の搬送路を第2空間側に凸形状にすることにより、剥ぎ取りのために湿潤フィルム16に付与する力のうち湿潤フィルム16の長手方向にかかる力を従来よりも大幅に小さくして、付与する力のうち、より多くを剥ぎ取りのために用いることができるようになる。このため、湿潤フィルム16のポリマーの面配向を抑制することができ、結果として加工適正とリワーク性とがともに、さらに向上する。
【0100】
従来は、剥ぎ取りの力が過度に大きすぎると湿潤フィルム16が剥ぎ取り時に切断することがあった。製造速度を速くする場合ほど、剥ぎ取り時の溶剤残留率が高いので、流延膜32とバンド29との密着力がより大きい。したがって、製膜速度を速くする場合ほど剥ぎ取りの力がより大きくなるので切断もしやすい。これに対し、この実施態様によると、一定の製造速度のもとで剥ぎ取りのために付与する力をより少なくすることができるので、結果として、製造速度をより大きくすることができ、製造効率がより向上するという効果もある。しかも、上記の方法によると、剥ぎ取り直後という非常に溶剤残留率が高い湿潤フィルム16に、気体の吹付も実施しないので、湿潤フィルム16のフィルム面の平滑性が維持されるとともに、異物による汚染も回避することができるという利点もある。
【0101】
以上のように剥取ローラ33に向かう湿潤フィルム16の搬送の経路を制御することにより、剥取位置PPにおけるバンド29の露出面29aと湿潤フィルム16とのなす角θ1を大きくすることができ、このため、剥ぎ取りのために要する力を低く抑えやすくなる。
【0102】
剥取位置PPにおけるバンド29と湿潤フィルム16とのなす角θ1は、30°以上80°以下の範囲にすることがより好ましい。
【0103】
剥取位置PPにおけるバンド29と湿潤フィルム16とのなす角θ1を大きくすると、剥取ローラ33に対する巻き掛け中心角θ2は、直線経路Aの場合の巻き掛け中心角よりも大きくなる。巻き掛け中心角θ2が大きく保持されやすいと、バンド29と剥取ローラ33との間の搬送路の形状も、凸形状のまま、より保持しやすくなる。
【0104】
なお、巻き掛け中心角θ2は、湿潤フィルム16が剥取ローラ33に巻き掛かった巻き掛け領域72と剥取ローラ33の断面円形の中心とからなる扇形における中心角である。
【0105】
剥取位置PPにおけるバンド29と湿潤フィルム16とのなす角θ1と、巻き掛け中心角θ2とを、より大きくする観点からは、本実施形態のように、剥取ローラ33を従動ローラではなく駆動ローラとすることがより好ましい。第2空間側に凸とした搬送の経路の形状を保持する、もしくはより大きな凸とする場合には、駆動ローラの回転速度を低下させるとよい。このように、剥取位置PPにおけるバンド29と湿潤フィルム16とのなす角θ1と、巻き掛け中心角θ2とは、剥取ローラ33に向かう湿潤フィルム16の搬送の経路をチャンバ55による吸引のみでより大きくする方法の他に、剥取ローラ33を駆動ローラにすることによってもより大きくすることができる。
【0106】
本実施形態では、第2空間を第1空間よりも低い圧力となるように、第2空間を減圧したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第2空間の減圧に代えて、あるいは加えて、第1空間を加圧してもよい。ただし、この加圧は、動圧での加圧ではなく、静圧での加圧である。
【0107】
静圧としての加圧は、バンド29の下流側の一部と剥取ローラ33の上流側の一部とを含むように、第1空間と湿潤フィルム16の直線経路Aをチャンバ(図示せず)で囲み、このチャンバ内に気体を一定時間送り込む送り込み操作と、送り込み操作を一定時間停止する停止操作とを繰り返すことで行うことができる。この方法によると、気体の吹付という動圧の発生を大幅に抑止することができるとともに、湿潤フィルム16に対して第1空間側から圧力を付与することができる。また、バンド29と剥取路ローラ33との間を数mm程度という極小さな隙間にする場合でも、この方法によると確実に第1空間と第2空間とに圧力差をつけることができる。さらに、幅方向Z2に延びたスリット状の開口から気体を吸引するよりも、フィルム面の平滑性をより確実に保持することができる。
【0108】
バンド29と剥取ローラ33までの第1空間と第2空間とに圧力差を設けるための方法として、さらに別の方法もある。例えば、チャンバ55や、第1空間と湿潤フィルム16の直線経路Aを囲む上記チャンバ(図示せず)を用いずに、チャンバ17(図1参照)の中に、内部空間を仕切る仕切り部材を設けて、該圧力差をつける方法がある。仕切り部材によって形成された各空間の圧力をそれぞれ制御することにより、湿潤フィルム16の搬送路よりも上方の第1空間と、下方の第2空間とに、圧力差をつけることができる。バンド29と剥取ローラ33との距離が5000μm以上の場合には、チャンバ55を用いて該圧力差をつけることがより好ましく、5000μm未満の場合には、チャンバ55や第1空間と湿潤フィルム16の直線経路Aを囲む上記チャンバ(図示せず)を用いずにチャンバ17を仕切り部材で仕切って該圧力差をつける方法でもよい。
【0109】
第1空間と第2空間との圧力の差は、剥取位置PPから剥取ローラ33における巻き掛け領域を通過するまでの湿潤フィルム16の溶剤残留率に基づいて決定することが好ましい。溶剤残留率が大きいほど圧力差を大きくして搬送路をより大きく凸にすることが好ましい。溶剤残留率が大きいほど、バンド29と流延膜32との密着力が強いとともに、湿潤フィルム16が破断しやすいからである。
【0110】
剥取位置PPは、幅方向Z2における中央に向かうほど、バンド29の回転方向における下流側に形成される。このため、剥ぎ取りに際して湿潤フィルム16の長手方向に付与される力は、幅方向Z2における中央に向かうほど大きくなり、面配向が大きくなる。そこで、剥取位置PPでは、中央に向かうに従い、第2空間の圧力が低くなるようにすることがより好ましい。これにより、面配向が幅方向Z2において一定であるフィルム23を製造することができる。剥取位置PPにおいて中央に向かうに従い第2空間の圧力が低くなるようにするためには、例えば、チャンバ55の内部に、独立したチャンバ(図示無し)をさらに設け、このチャンバとチャンバ55との各内部圧力を独立して制御するという方法がある。
【0111】
以上の剥ぎ取り工程における剥取方法は、ポリマー11(図1参照)がセルロースアシレートである場合に特に効果がある。
【0112】
なお、テンタ18(図1参照)は、各側端部を保持する保持手段としてピンとクリップとが配され、所定のタイミングでピンからクリップに切り替わるものが好ましい。これにより湿潤フィルム形成装置から案内されてきた湿潤フィルム16におけるポリマーの面配向の抑制効果を損なうことなく、湿潤フィルム16を所定の方向に延伸するとともに、製造効率がさらに向上する。
【0113】
このようにピンとクリップとの両方の保持手段を備えるテンタ18としては、例えば、特許第4169183号公報に記載される横延伸装置がある。また、テンタ18に代えて、ピンを保持手段とする第1テンタと、この第1テンタの下流に配され、クリップを保持手段とする第2テンタとを含む複数のテンタに代えてもよい。このような複数のテンタを直列に配する態様及び各テンタの構成については特許第4169183号公報に記載されるものがある。このような直列に接続された複数のテンタを用いる場合には、テンタとテンタとの間の搬送路で、湿潤フィルムに対して下方からエアを吹き付けて湿潤フィルムを浮上させるという同公報記載の方法を用いてもよい。また、搬送方向に延伸するいわゆる縦延伸工程を含む方法を用いても良い。
【0114】
本発明は、厚みが20μm以上80μm以下の範囲、幅が1000mm以上2600mm以下の範囲であるフィルム23を製造する場合に特に効果がある。また、本発明では、ドープ13における固形分の濃度が15質量%以上35質量%以下の範囲とすることが、ポリマーの面配向の抑制とフィルム23の製造効率との両観点から好ましい。さらに、本発明の加工適正とリワーク性とに関する効果は、テンタ18における拡幅率が1.1倍以上1.5倍以下の範囲である場合に特に顕著である。なお、ドープ13における上記の固形分濃度は、固形分の質量をA1、溶剤の質量をB1とするときに、{A1/(A1+B1)}×100で求める百分率である。また、上記の拡幅率は、拡幅前の湿潤フィルム16の幅をA2、拡幅後の湿潤フィルム16の幅をB2とするときに、B2/A2で求める比である。
【0115】
なお、幅が2000mm以上のフィルム23を製造する場合には、幅が2000mmを超えるバンド29を使用することになる。このような場合には、バンドを形成する複数のバンド素材が溶接により互いに接合されたバンド29を用いざるを得ない。このような場合には、溶接により接合される接合部が、バンド29の長手方向に延びたものを用いることが好ましい。幅方向に接合部が延びたバンド29を用いると、フィルム面の形状や他の領域と異なる光学的性質が、周期的に発現する可能性が高まるからである。
【0116】
以下に、本発明の実施例と、本発明に対する比較例とを記載する。詳細については実施例1に記載し、他の実施例及び比較例では、実施例と異なる条件のみを記載する。
【実施例1】
【0117】
図1に示す溶液製膜設備10を用いて、以下の処方のドープ13から厚みが40μmのフィルム23を製造した。
【0118】
<ドープ13の処方>
固形成分 ・・・ドープ13における質量割合が20質量%
溶剤 ・・・ジクロロメタンとアルコールとの混合物であり、ジクロロメタン:アルコール=80:20
なお、上記の固形成分とは、ポリマー11としてのセルローストリアセテートと、可塑剤と、マット剤と、UV吸収剤とである。
【0119】
流延時のドープ13の温度は34℃である。湿潤フィルム形成装置17では流延膜乾燥工程、加熱温度保持工程、冷却工程、剥取工程を実施した。第1降温で達した流延膜32の温度は10℃、第1昇温で達した温度及び加熱温度保持工程での流延膜32の温度は16℃以上23℃以下の範囲、冷却工程での第2降温で達した流延膜32の温度及び剥ぎ取り工程時の流延膜32の温度は15℃である。なお、冷却工程開始時における流得膜32のゲル化温度TGは10℃であった。
【0120】
テンタ18としては保持手段としてピンとクリップとを備え、一定のタイミングでピンからクリップに切り替えるものを用いた。拡幅率は0(ゼロ)である。
【0121】
得られたフィルム23について、下記の方法で加工適正とリワーク性とを評価した。
[加工適正]
得られたフィルム23を偏光膜の両面に接着剤を介して重ねて接着し、偏光板を作製した。偏光板を刃物で10cm×10cmの長方形に打ち抜き、評価用サンプルとした。この評価用サンプルの一辺のエッジすなわち切断面から、フィルム23の内部へとクラックが発生しているか否か、及び、確認されたクラックの程度を以下の基準に基づいて加工適性を評価した。クラックは、フィルム23の切断面から内部に向かう割れである場合もあるし、偏光膜とフィルム23との間での剥がれである場合もある。以下の基準で、A〜Cは加工適性が合格であるレベル、Dは加工適性が不合格であるレベルである。
A:クラックが認められない、または、クラックが発生してはいるが発生したクラックの範囲が一辺の長さの25%未満におさまっている
B:クラックが発生している範囲が一辺の長さの25%以上50%未満の範囲におさまっている
C:クラックが発生している範囲が一辺の長さの50%以上75%未満の範囲に収まっている
D:クラックが発生している範囲が、一辺の長さの75%以上である
【0122】
[リワーク性]
得られたフィルム23を偏光膜の両面に接着剤を介して重ねて接着し、偏光板を作製した。偏光板をガラス基板に貼り合わせた後、ガラス基板から剥がした。ガラス基板上における、フィルム23の剥げ残りの程度について目視で確認し、以下の基準に基づいてリワーク性を評価した。以下の基準で、A〜Cはリワーク性が合格であるレベル、Dはリワーク性が不合格であるレベルである。
A:剥げ残りが全く確認されない
B:極わずかに剥げ残りがある程度
C:わずかに剥げ残りはあるが、実用上問題無い程度
D:剥げ残りが多くある
【0123】
また、加工適正とリワーク性とが共に合格となるフィルム23の製造速度の上限を求めた。
【0124】
以上の結果、本実施例で得られたフィルム23の加工適正はB、リワーク性はBであった。また、製造速度の上限は120m/分であった。
【実施例2】
【0125】
実施例1のテンタ18を、保持手段がクリップであるものに代えた。その他の条件は実施例1と同じである。
【0126】
本実施例で得られたフィルム23の加工適正はA、リワーク性はAであった。また、製造速度の上限は80m/分であった。
【実施例3】
【0127】
実施例1で使用のドープ13を他の処方のドープ13に代えてフィルム23を製造した。本実施例で用いたドープ13は、実施例1のドープ13の処方に、レタデーション発現剤を固形分20質量%に対し2質量%を添加したものである。レタデーション発現剤とは、セルロースアシレートに添加することにフィルム23のレタデーションを上昇させる機能をもつものである。なおレタデーション発現剤の種類は本発明では特に限定されない。
【0128】
テンタ18として実施例1と同じものを用い、拡幅率を1.3とした。その他の条件は実施例1と同じである。
【0129】
本実施例で得られたフィルム23の加工適正はC、リワーク性はCであった。また、製造速度の上限は120m/分であった。
【実施例4】
【0130】
実施例で使用のドープ13を他の処方のドープ13に代えてフィルム23を製造した。本実施例で用いたドープ13は、実施例3で使用したドープ13と同じである
【0131】
テンタ18として実施例2と同じものを用い、拡幅率を1.3とした。その他の条件は実施例2と同じである。
【0132】
本実施例で得られたフィルム23の加工適正はC、リワーク性はCであった。また、製造速度の上限は70m/分であった。
【実施例5】
【0133】
実施例で使用のドープ13を他の処方のドープ13に代えてフィルム23を製造した。本実施例で用いたドープ13は、実施例1のドープ13の処方に、紫外線(UV)硬化素材を添加したものである。
【0134】
テンタ18として実施例2と同じものを用い、拡幅率を0(ゼロ)とした。その他の条件は実施例2と同じである。
【0135】
本実施例で得られたフィルム23の加工適正はB、リワーク性はBであった。また、製造速度の上限は100m/分であった。
【0136】
[比較例1]
支持体を、バンド29に代えて、周方向に回転するドラム(図示無し)とし、ドラムの周面温度を−5℃にした。すなわち、本比較例は、従来の冷却ゲル化流延方式である。34℃のドープを流延して流延膜を形成し、この流延膜をドラムにより−5℃にした。冷却工程開始時における流延膜32のゲル化温度TGは−2℃であった。テンタ18として、保持手段がピンであるものを用いた。その他の条件は実施例1と同じである。
【0137】
本比較例で得られたフィルムの加工適正はD、リワーク性はDであり、いずれも不合格であった。なお、本比較例では、加工適正とリワーク性とがともに合格となる製造速度が確認されず、フィルムとして得られる製造速度の上限を求めた。その結果120m/分であった。
【0138】
[比較例2]
テンタ18として比較例1と同じものを用い、拡幅率を1.3とした。その他の条件は実施例1と同じである。
【0139】
この比較例では、フィルムがテンタ18で破断してしまい、フィルムを得ることができなかった。
【符号の説明】
【0140】
10 溶液製膜設備
16 湿潤フィルム
17 湿潤フィルム形成装置
23 フィルム
27,28 第1,第2ローラ
29 バンド
32 流延膜
33 剥取ローラ
36〜38 第1〜第3ダクト
45 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーが溶剤に溶解したドープを、支持体の上に流延して流延膜を形成する流延工程と、
前記流延膜を加熱して乾燥をすすめる流延膜乾燥工程と、
前記流延膜乾燥工程で一旦降温した後に昇温し始めた前記流延膜を、一定の温度範囲に保持する加熱温度保持工程と、
前記加熱温度保持工程の後に、前記流延膜中で前記ポリマーの結晶化がすすむことなく前記流延膜が固まるように、前記流延膜を冷却する冷却工程と、
前記冷却により達した温度を保持しながら、前記流延膜を、溶剤を含んだ状態の湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取る剥取工程と、
前記湿潤フィルムを乾燥するフィルム乾燥工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
周面温度を調整することで前記支持体を介して前記流延膜の温度を制御し、周方向に回転するローラ対により、周面に接した帯状で無端の前記支持体を搬送し、
前記流延工程では、前記支持体のうち一方の前記ローラに巻き掛けられている巻き掛け領域に対して、前記ドープを流延し、
他方の前記ローラに向かう前記流延膜に対して前記流延膜乾燥工程を開始し、
前記加熱温度保持工程は、前記他方のローラに巻き掛けられている前記支持体の第2の巻き掛け領域を介して、前記他方のローラにより前記流延膜の温度を保持し、
前記冷却工程は、前記一方のローラにより前記流延膜を冷却し、
前記剥ぎ取り工程は、前記第1の巻き掛け領域から前記流延膜を剥ぎ取ることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記流延膜のゲル化点をTGとするときに、
前記冷却工程では、前記流延膜をTG以上TG+20℃以下の温度範囲となるように冷却することを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記加熱温度保持工程は、前記流延膜における前記溶剤の残留率が100質量%になるまで前記流延膜の温度を保持することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記流延膜乾燥工程における昇温の開始時から前記加熱温度保持工程の終了時までの時間を10秒以上100秒以下の範囲にすることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記冷却工程における冷却により降温し始めた前記流延膜を、前記剥ぎ取り工程の前で一定の温度範囲に保持する冷却温度保持工程を有し、
前記冷却による降温の開始時から前記冷却温度保持工程の終了時までの時間を1秒以上30秒以下の範囲にすることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
活線の照射により硬化する活線硬化材料を予め前記ドープに含ませておき、
前記流延膜に対して前記活線を照射することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
前記活線は、前記加熱温度保持工程が開始された後の前記流延膜に対して照射することを特徴とする請求項7記載の溶液製膜方法。
【請求項9】
前記流延工程では、前記ドープを連続して流延し、
前記支持体の流延面の幅方向に長手方向が一致するように配され、前記湿潤フィルムの搬送路に関し前記支持体とは反対側に備えられた剥取ローラの周面に、前記湿潤フィルムを巻き掛けて、前記湿潤フィルムを搬送させることにより前記流延膜を剥ぎ取り、
前記湿潤フィルムの前記支持体から剥がれた一方のフィルム面上の空間を第1空間とし、他方のフィルム面上の空間を第2空間とするときに、前記剥取ローラに向かう前記湿潤フィルムの搬送路が前記第2空間側に凸となるように、前記剥取ローラより上流の前記第2空間の圧力を前記第1空間の圧力よりも小さくすることを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項10】
気体を吸引する吸引装置により、前記剥取ローラより上流の前記第2空間の気体を吸引して、前記剥取ローラと前記支持体から前記湿潤流延膜が剥がれる剥取位置との間の前記第2空間を減圧することを特徴とする請求項9記載の溶液製膜方法。
【請求項11】
前記吸引装置は、減圧すべき前記第2空間を外部空間と仕切るチャンバを備え、前記チャンバ内の圧力を調整することにより、前記剥取ローラに向かう前記湿潤フィルムの搬送の経路を制御することを特徴とする請求項10記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−208011(P2011−208011A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77166(P2010−77166)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】