説明

溶着縫製衣服

【課題】
接着剤による接合が難しい撥水素材などで溶着縫製衣服を構成した場合でも、十分な接合力が得られ、耐久性のある溶着縫製衣服を提供する。
【解決手段】
衣服を構成する部材同士の接合部分に接着材を介在させ、当該接着材を固着させることで部材同士を接合した溶着縫製衣服であって、接合する一方の部材の接合部分に部材の切断加工によって得られる貫通孔が設けられ、当該貫通孔に接着材が流れ込んで溶着していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着材を溶着させて部材を接合した溶着縫製衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ファスナーを取付基材に取り付ける方法として、ホットメルト樹脂を当接して加熱状態で圧着し、ファスナーと取付基材とを一体的に接着せしめる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、当該提案の方法では、撥水性を持つ素材などに対して、ホットメルト樹脂の接着力が得られにくく、接着部分の耐久性に問題があるものであった。
【0003】
一方、熱接着テープの溶着による部材の接合において、接着部分の耐久性を向上させるため、衣服構成生地にミシン機により拡大間隙部を形成し、当該熱接着テープを拡大間隙部内に浸透させて接合部と熱接着テープとを溶着する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、当該提案に記載されるように、ミシン針の挿入によって編目または織目を押し広げて拡大させた拡大間隙部に接着テープを浸透させる方法では、拡大間隙部の大きさが十分でなく、且つ時間の経過とともに次第に押し広げた拡大間隙部が閉じやすく、接着材が当該拡大間隙分内に十分に浸透しにくいものであった。また、当該提案に記載されるような編目または織目を構成する繊維を押し広げた拡大間隙部は、当該繊維の滑らかな側面で構成されるため、接着材が浸透したとしても接着材が当該繊維に絡みにくく十分な接着力が得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−73744号公報
【特許文献2】特開2008−291403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決することにあり、ホットメルト材の溶着が難しい撥水素材などに対しても十分な接合力を持った溶着縫製衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、次の構成を採用する。すなわち、
衣服を構成する部材同士の接合部分に接着材を介在させ、当該接着材を溶着させることで部材同士を接合した溶着縫製衣服であって、接合する一方の部材の接合部分に部材の切断加工によって得られる貫通孔が設けられ、当該貫通孔に接着材が流れ込んで溶着していることを特徴とする溶着縫製衣服、である。
【0007】
本発明の接着縫製衣服は、当該貫通孔の孔径と形状が、直径2mmの円を内接できる孔径と形状であることが好ましい。
【0008】
また、本発明の接着縫製衣服は、当該貫通孔を有する接合部分が、接合する部材の接合部分と接着材を介して両面から接合され、当該貫通孔を有する接合部分の両面に当接された接着材同士が、当該貫通孔の中で互いに固着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着剤での接合が難しい撥水素材などに対しても十分な接合力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の衣服における溶着接合部分の一態様を模式的に示す図である。
【図2】切断により得られる貫通孔の孔径と形状の例を示す図である。ここで、点線で表示した円は、直径2mmの円を示す。
【図3】本発明の衣服における溶着接合部分の一態様を模式的に示す図である。
【図4】本発明の衣服における溶着接合部分の一態様を模式的に示す図である。
【図5】本発明の衣服における貫通孔の一態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の衣服は、衣服を構成する部材同士の接合部分に接着材を介在させ、当該接着材を溶着させることで部材同士を接合した溶着縫製衣服であって、接合する一方の部材の接合部分に部材の切断加工によって得られる貫通孔が設けられ、当該貫通孔に接着材が流れ込んで溶着していることが重要である。特に、接合する一方の部材の接合部分に切断加工によって得られる貫通孔が設けられていることが重要である。そうすることにより、貫通孔の切断された繊維や部材の中に接着材がしみ込んで絡み、溶着されることで局部的に強固な接合を得ることができる。その結果、撥水性のある素材表面への溶着が不十分である場合も、貫通孔部分の接合により、全体の接合力を向上させることができるものである。接着剤は、液状、ジェル状、ペースト状などの一般的な接着材に含まれる溶剤を乾燥させて接着成分を固着させるものなどを使用することができるが、衣料品の製造においては、ホットメルト材を予め熱溶融させたあと部材の接合部分に塗布し、冷却して溶着させるものや、ホットメルト材を部材の接合部分に当接した状態で熱溶融させて部材同士を溶着する方法が好適である。
【0012】
図1に本発明の衣服の一態様を示す。接合する部材1の接合部分に、切断加工によって得た貫通孔5が設けられている。当該接合部分は、ホットメルト材3aを介して他方の部材2と当接され、溶着されていることを示す。溶着しようする部材1および2が撥水性能を有する部材で合った場合、特に部材1の表面はホットメルト材3aの溶着が難しくなるが、部材の切断加工によって得られる貫通孔5が設けられていることにより熱溶融したホットメルト材3aが貫通孔5に流れ込み、両者の接合力を向上させている。すなわち、図5に示すように、切断された部材(繊維)の端が多数形成されることでホットメルト材3aがからみつく手がかりが増え、当該切断された部材の端を包むようにホットメルト材3aが溶着することで、両者の接合力を向上させているものである。
【0013】
また、当該貫通孔の孔径と形状が、直径2mmの円を内接できる孔径と形状であることが好ましい。そうすることにより、接着材が当該貫通孔の内部に流れ込みやすくなり、上述した貫通孔の接合を促進せしめることが出来るものである。
【0014】
図2に本発明の衣服に設けられる貫通孔の一態様を示す。ここで、図示する点線の円は、直径2mmの円の大きさと形状を表している。それぞれ多様な形状であるが、直径2mmの円を内接できる孔径と形状であることが特徴である。貫通孔の孔径と形状が直径2mmの円を内接できるものであった場合、熱溶融したホットメルト材が貫通孔の中に容易に流れ込むようになる。また、切断線の長さが長くなり前述した切断した部材(繊維)との接合に好適であり、ホットメルト材が流れ込む隙間も大きくなるので好適である。
【0015】
当該貫通孔を有する接合部分が、接合する部材の接合部分と接着材を介して両面から接合され、当該貫通孔を有する接合部分の両面に当接された接着材同士が、当該貫通孔の中で互いに溶着されていることがさらに好ましい。そうすることにより、上述した貫通孔部分の接合だけでなく、貫通孔の両面に当接された接着材同士の溶着が加わり、全体の接合力を更に向上させることが出来るものである。
【0016】
図3に本発明の衣服の一態様である、貫通孔を有する接合部分が、接合する部材の接合部分とホットメルト材を介して両面から溶着されている態様を示す。貫通孔を有する部材1の接合部分の両面から部材2および部材4がホットメルト材3aおよび3bを介して溶着されている態様を示す。溶融したホットメルト材3aおよび3bは、それぞれ貫通孔5に流れ込み、貫通孔5の中で互いに交わって溶着されることにより、より強固な接合を得ることができるものである。
【0017】
本発明の衣服を構成する部材としては、特に制限はなく、天然繊維や化学繊維からなる素材を適用することができる。また、当該素材においては、織物、編物、不織布などの組織に関わらず、フィルムやプラスチック板などの樹脂素材なども適用することができる。防水性能を有する素材を適用することも好適である。それにより、本発明の溶着縫製と合わせて、部材の接合部分においても防水性を有する衣服を得ることができる。更に、ファスナー類やワッペン類などの複合資材なども好適な部材の一つである。
【0018】
貫通孔を形成するために部材を切断する手段としては、ポンチ、ノミ、裁断包丁、ハサミといった刃物類だけでなく、型抜きによる金型切断などが適用できる。また、超音波や高周波を利用した溶断も適用できる。更に、貫通孔の孔径や形状を比較的容易にコントロールできるレーザー裁断などは部材の特徴にあわせた貫通孔の孔径や形状を形成しやすく好適である。
【0019】
貫通孔の孔径は、直径2mmの円を内接できるものであれば好ましい。そうすることで、溶融したホットメルト材が容易に貫通孔の内部へ流れ込むことができ好ましい。貫通孔の形状としては、円、楕円のように曲線で構成された形状や、三角形、四角形などの多角形の形状が考えられる。また、十字形や多葉形などの複雑な形状でも良く、これらを複合させた複数の異形の切断孔を組み合わせることもできる。貫通孔の形状は、部材同士を接合させたとき、貫通孔のない部材の表側から見たときにうっすら確認することができ、エンボス加工のような立体的な表面形状を得ることができる。そのため、表側から見て見栄えの良い形状と大きさ、配列とすると良い。
【0020】
ホットメルト材としては、溶融したジェル状の樹脂を塗布するもの、ウレタン系の樹脂をシート状にしたもの、エチレン酢酸ビニル共重合体などをシート状にしたものなどがあるが、ホットメルト材単体のシート状の部材を適用することが好適である。厚みは、50μm〜200μmのものが好適であり、より好ましくは、100〜150μmのものである。それにより、接着力と硬さのバランスが得られやすい。接着力が得られにくい場合は、二重にして使用することもできる。また、ホットメルト材として、基布に接着樹脂(ポリエチレン系、ポリアミド系、ポリエステル系樹脂)を付着させた接着芯地や接着テープを適用しても良い。
【0021】
貫通孔を有する接合部分を両面からホットメルト材を介して溶着する場合、両面から接合する部材は、縫製仕様によってさまざまな態様が適用できる。同一の部材を折りたたんで挟み込むようにして接合しても良く、別の部材同士を両側から当接して溶着しても良い。
【0022】
ホットメルト材を熱溶着させる手段としては、加熱しながら圧力を加えられるものが適用できる。ヒートアイロンをはじめ、平板型の熱プレスや高周波プレス、ローラー型の熱プレスや超音波プレスなどが適用できる。好ましくは、温度や圧力を管理・調整しやすい平板型のプレス類が好適である。特に高周波プレスは、内部過熱による熱溶着が可能であるため、熱が伝わりにくい部材を使用する場合や、多層構造の接合体を構成する場合に好適である。
【0023】
本発明の衣服の特徴であるホットメルト材の溶着による部材の接合は、衣服を構成するさまざまな部位に適用することができる。例えばブランドラベルや品質ラベルなどの部材を衣服の素材に溶着する仕様、スライドファスナーや面ファスナーなどの部材を衣服の素材に溶着する仕様、衣服を構成するパネルとパネルとをその裁ち端しに沿って溶着する仕様、衣服を構成するパネルに上に別のパーツを乗せて溶着する仕様、衣服の端の始末として端を折り返して溶着する仕様、ホットメルト材を衣服内部の芯地として溶着させる仕様などに適用できる。
【0024】
図4に、適用の具体例として、ファスナー9のスライダーキャップ6の溶着態様について示す。図4の(a)に示すスライダーキャップ6は、ファスナー9を最後まで閉じた位置に配置され、その位置でスライダー10を被覆する機能を有するものである。これを構成する部材として図4の(b)に示すような切断加工による貫通孔5を形成した部材を準備し、これをホットメルト材8bを介して二つ折りに溶着せしめる。次いで図4の(c)に示すスライダーキャップ6部分の断面図のように、貫通孔5を有するスライダーキャップ6と表素材7とを、ホットメルト材8aを介在させて当接し溶着せしめる。そうすることにより、撥水性を有する表生地7の素材と同じ素材で構成するためにホットメルト材による溶着が難しかったスライダーキャップ6と表生地7とを、貫通孔5の内部に流れ込んだホットメルト材8aおよび8bが互いに交わって溶着することにより、より強力に接合することができるものである。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例における各評価は次のとおり行った。
(1)はく離強さ
JIS L 1089 (2007)に記載されたはく離強さの試験方法に準じて試験を行い、各実施例により得られた溶着縫製試験片のはく離強さを評価した。
(2)溶着の程度
上記したはく離試験において、ホットメルト材を介して溶着されたウレタンコーティング面が、試験の強制剥離によりナイロン基布とコーティングとのはく離が生じるかどうかを観察した。当該剥離が発生した場合、両者の溶着が十分なものであると評価した。
(実施例1)
ナイロン100%の長繊維織物の裏面にウレタンコーティングを施した透湿防水素材を使用した試験片(幅2.5cm、長さ10cm)2枚を一方の裏面と他方の表面が接するように重ね合わせ、ウレタン系ホットメルトシート(幅2.5cm、長さ10cm、厚さ100μm)を介して両者を平板型熱プレス(160℃、2.0kg/cm、10秒)で溶着させ、溶着縫製試験片を得た。この時、下側に重ねた試験片には、レーザー裁断機を使用して貫通孔(直径2mmの正円)を設け、1cm当たり6〜7個(合計約0.20cm)になるように配置した。
(実施例2)
貫通孔が直径3mmの正円で、1cm当たり2〜3個(合計約0.18cm)になるように配置したこと以外は、実施例1と同じ方法で溶着縫製試験片を得た。
(実施例3)
ナイロン100%の長繊維織物の裏面にウレタンコーティングを施した透湿防水素材を使用した試験片(幅2.5cm、長さ10cm)3枚を一方の裏面と他方の表面が接するように重ね合わせ、ウレタン系ホットメルトシート(幅2.5cm、長さ10cm、厚さ100μm)を介して3者を平板型熱プレス(160℃、2.0kg/cm、10秒)で溶着させ、溶着縫製試験片を得た。この時、真ん中に重ねた試験片には、レーザー裁断機を使用して貫通孔(直径2mmの正円)を設け、1cm当たり6〜7個(合計約0.20cm)になるように配置した。
(実施例4)
貫通孔が直径3mmの正円で、1cm当たり2〜3個(合計約0.18cm)になるように配置したこと以外は、実施例3と同じ方法で溶着縫製試験片を得た
(比較例1)
ナイロン100%の長繊維織物の裏面にウレタンコーティングを施した透湿防水素材を使用した試験片(幅2.5cm、長さ10cm)2枚を一方の裏面と他方の表面が接するように重ね合わせ、ウレタン系ホットメルトシート(幅2.5cm、長さ10cm、厚さ100μm)を介して両者を平板型熱プレス(160℃、2.0kg/cm、10秒)で溶着させ、溶着縫製試験片を得た。
(比較例2)
下側に重ねた試験片に、ミシン機で針穴を1cm当たり23〜25個になるように縫目を形成したこと以外は、比較例1と同じ方法で溶着縫製試験片を得た。
(比較例3)
貫通孔が直径1mmの正円で、1cm当たり23〜25個(合計約0.19cm)になるように配置したこと以外は、実施例1と同じ方法で溶着縫製試験片を得た。
(比較例4)
貫通孔が直径1mmの正円で、1cm当たり23〜25個(合計約0.19cm)になるように配置したこと以外は、実施例3と同じ方法で溶着縫製試験片を得た。
【0026】
実施例および比較例を評価した結果を表1にまとめた。表1から明らかなように、従来技術による比較例2は、当該従来技術を用いていない比較例1と比べ大きな効果のあるものではなかった。一方、本発明の実施例1〜4は、比較例に比べて溶着の接合力が優れていることが明らかである。特に、本発明のより好ましい態様である実施例2および3は、非常に優れた接合力が得られている。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の衣服によれば、ホットメルト材の溶着が難しい撥水素材などに対しても十分な接合力が得られ、耐久性のある溶着縫製衣服が得られる。
【符号の説明】
【0029】
1:部材
2:部材
3a:ホットメルト材
3b:ホットメルト材
4:部材
5:貫通孔
6:スライダーキャップ
7:表生地
8a:ホットメルト材
8b:ホットメルト材
9:ファスナー
10:スライダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服を構成する部材同士の接合部分に接着材を介在させ、当該接着材を固着させることで部材同士を接合した溶着縫製衣服であって、接合する一方の部材の接合部分に部材の切断加工によって得られる貫通孔が設けられ、当該貫通孔に接着材が流れ込んで固着していることを特徴とする溶着縫製衣服。
【請求項2】
当該貫通孔の孔径と形状が、直径2mmの円を内接させることができる孔径と形状であることを特徴とする請求項1に記載の溶着縫製衣服。
【請求項3】
当該貫通孔を有する接合部分が、接合する部材の接合部分と接着材を介して両面から接合され、当該貫通孔を有する接合部分の両面に当接された接着材同士が、当該貫通孔の中で互いに溶着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の溶着縫製衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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