説明

溶融紡糸口金パック

【課題】パック内部構造を変えることなく、パック外部に回転を抑制する突起を有することで均一加熱によりポリマー粘度バラツキに起因する繊度差を改善する溶融紡糸口金パックを提供する。
【解決手段】水平方向にポリマーが供給されるポリマー供給孔と該ポリマー供給孔部を紡糸機のポリマー配管と連通させ、かつシールするための締め付けボルト受け部が口金パックの水平中心に対して相向かい合う構造を有する溶融紡糸口金パックにおいて、取り付け時、締め付け方向である時計回りの方向への口金パックの回転を抑制する突起を有することを特徴とする溶融紡糸口金パック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性合成繊維を製造する際に用いる溶融紡糸口金パックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性合成繊維は、高強度、取り扱いの容易さ等に優れた繊維として、衣料、産業の各種用途に用いられている。中でもポリエステル、ポリアミド等の溶融紡糸により得られる繊維は、断面形状や粒子添加により様々な機能を付加することが可能であることが知られており、広く用いられている。
【0003】
一方、溶融紡糸により得られる繊維は、溶融紡糸の性質上、その特性のバラツキの課題を抱えている。中でも繊度のバラツキは、強度、伸度、収縮率といった一般的な物理特性のみならず、織物や編物といった最終製品の外観上の品位にも影響を与える重要な課題である。
【0004】
一般的に、熱可塑性重合体を溶融紡糸する場合、得られる繊維の特性はポリマーの粘度に依存することが知られている。したがって、ポリマーの粘度を均一にすることで繊維の特性を均一にすることが可能となる。
【0005】
ところが、溶融ポリマーは、溶融紡糸時に管路あるいは溶融紡糸口金パック内を流れる際、管路内壁の流動抵抗により管壁近くで遅く、中心部で速く流れることが知られており、かつ溶融紡糸口金パックおよび管路の外側から高温加熱していることと合わせて、管壁近くのポリマーと中心部のポリマーでは熱履歴差が生じ、ポリマーの粘度バラツキが発生する。したがって、溶融紡糸口金パックから吐出される溶融ポリマーは少なからず粘度のバラツキを持つことになり、これが原因となって繊度差を発生することがしばしば起こる。
【0006】
よって、上記粘度バラツキを小さくすることが、得られる繊維の繊度差を抑制する点において重要な課題となっている。
【0007】
かかる課題を解決するために、糸条間の繊度差を小さくすることを目的に、ノズルの直径や形状を規定した紡糸口金が提案されている(、特許文献1参照)。また、互いに熱履歴差を有する溶融ポリマーを下流側で合流させる多孔板の形状を規定したもの(、特許文献2参照)、ノズル上に計量プレートを有するもの(、特許文献3参照)などが提案されているが、いずれも大幅なコストがかかる点、溶融紡糸口金パックの組み立て作業を繁雑にする点、あるいは粘度のバラツキを抑制しきれていない点で不十分なものであるのが現状である。
【特許文献1】特開昭52−91916号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平9−268418号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平9−268419号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、粘度バラツキに起因する繊度差を改善するために種々の検討を行ってきた。その際、従来ノズルやノズル上の計量プレート、多孔板等のパック内部構造ではなく、部品コスト、製作容易性ならびに組み立て容易性を考慮し、外部構造に着目して鋭意検討した結果、本発明の溶融紡糸口金パックに到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、溶融紡糸口金パックにおいて一般的である、上部からスピンブロック内へ挿入する形式の溶融紡糸口金パックにおいて、パック内部構造を変えることなく、均一加熱によりポリマー粘度バラツキに起因する繊度差を改善することができる溶融紡糸口金パックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)水平方向にポリマーが供給されるポリマー供給孔と該ポリマー供給孔部を紡糸機のポリマー配管と連通させ、かつシールするための締め付けボルト受け部が口金パックの水平中心に対して相向かい合う構造を有する、口金パックがスピンブロック内に設置された溶融紡糸口金パックにおいて、取り付け時、締め付け方向である時計回りの方向への口金パックの回転を抑制する突起を口金パックとスピンブロックとの間に有することを特徴とする溶融紡糸口金パック。
(2)口金パックの取り付け時の締め付け軸をX軸、これに垂直となる鉛直、水平方向をそれぞれY軸、Z軸としたとき、Y、Z座標位置(Y,Z)がYZ>0を満たす位置に2〜6個回転を抑制する突起を有することを特徴とする前記(1)項記載の溶融紡糸口金パック。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上部からポリマーが供給される口金パックにおいては効果なく、水平方向にポリマーが供給される口金パックにおいて、取り付け時、締め付け方向である時計回りの方向への口金パックの回転を抑制し、均一加熱することでポリマー粘度バラツキに起因する繊度差を改善することができる。
【0012】
また、パック内部構造ではなく、パック外部構造に着目しているため、製作、および組立性も容易であり、低コストで加工可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図面を用いてさらに詳細に説明する。
【0014】
本口金パックの取り付け方法は上込め方式であり、図1、図2は本発明の溶融紡糸口金パックを示し、図1は口金パック1を熱媒を有したスピンブロック5内に設置された口金パック1の締め付け方向側面から見た本発明の溶融紡糸口金パックの一例を示す側面図であり、また図2は口金パック1の締め付け方向正面から見た本発明の溶融紡糸口金パックの一例を示す正面図である。また、図3は口金パック1の内部構造を表す断面図である。
【0015】
口金パック1は熱媒加熱方式であるスピンブロック5内に設置される。その際、口金パック1とスピンブロック5は加熱状態にあり、ほぼ一定の温度に保たれている。
【0016】
上記口金パック1をスピンブロック5内に設置後、ポリマーをポリマー供給部2へ供給する際、シール目的で口金パック1の水平中心に対してポリマー供給孔部2に相向かい合う方向から締め付けボルト3で締め付けを行う。口金パック1のポリマー供給部2にはパッキンが取り付けられており、相向かい合う方向から締め付けボルト3にて押さえつけることにより、ポリマー配管が連通し、かつシールされ溶融ポリマーが洩れることなく供給できる。
【0017】
締め付け完了後、口金パック1に溶融ポリマーを供給すると、溶融ポリマーはろ層7を通過することにより、内部異物が除去され、次いで多孔板8を介して複数の流れに分散し、口金9の吐出孔から紡出され、糸条4に形成される。
【0018】
このような溶融紡糸工程では、溶融ポリマーの熱履歴差によるポリマー粘度バラツキが生じ易くなる。溶融ポリマーに粘度バラツキが生じると口金9の各吐出孔からの吐出量がばらつき、得られた糸条間で繊度差が大きくなり、物性斑が生じ易くなる。
【0019】
溶融ポリマーの熱履歴差によるポリマー粘度バラツキを抑制するには、口金パック1の均一加熱が重要であり、口金パック1とスピンブロック5のクリアランスを一定に保つ必要がある。
【0020】
本発明の溶融紡糸口金パックは、図4で示すように、口金パック1の取り付け時の締め付け軸をX軸、これに垂直となる鉛直、水平方向をそれぞれY軸、Z軸としたとき、口金パック1の取り付け時、時計回りの方向へ回転するため、Y、Z座標位置(Y,Z)がYZ>0を満たす位置に突起6を有することが好ましく、これにより締め付け時、締め付け方向である時計回りの方向への口金パック1が回転し鉛直方向に対して傾くことによるポリマーの
熱履歴差を抑制することができる。
【0021】
また、Y、Z座標位置(Y,Z)がYZ>0を満たさない位置に突起6を有しても取り付け時、時計回りの方向へ回転するため、口金パック1の傾きを抑制することはできない。突起6の数は2〜6個が好ましい。1個では口金パック1の回転を抑制する効果が乏しい場合があり、また7個以上では上部からスピンブロック内へ挿入する口金パック1がスピンブロック5内に引っかかり、スムーズに取り付け、取り外しができなくなる場合がある。また、突起6の形状は加工の容易性から図2、図4に示すような円墳形状のものが好ましい。
【0022】
突起6の高さBは口金パック1とスピンブロック5のクリアランスAに対してB/Aが0.6以上1.0以下とすることが好ましい。0.6未満では口金パック1の回転を抑制する効果が乏しくなる場合があり、また1.0より大きい場合は口金パック1がスピンブロック5内にスムーズに取り付け、取り外しができなくなる。
【0023】
また、本発明は紡出時の糸条繊度が60デシテックス以下の場合、口金パック1内を通過する溶融ポリマーの流速が遅いため、口金パック1の均一加熱による繊度差抑制効果が得られるが、80デシテックス以上では、口金パック1内を通過する溶融ポリマーの流速が早いため、繊度差抑制効果は小さくなる。
【実施例】
【0024】
実施例1、2、3 比較例1
図2に示す溶融紡糸口金パックにおいて、取り付け時の締め付け部を正面から見て右上側面及び左下側面に突起を設け、締め付け方向への回転抑制を図った。
【0025】
上記溶融紡糸口金パックにて、33デシテックス、36フィラメントのポリエステル糸(1口金2糸条取り)を採取したものの繊度を測定した。口金パックに突起をそれぞれ2個、1個、あるいは7個設けたものを用いた場合をそれぞれ実施例1、2、3、口金パックに突起を設けていない通常溶融紡糸口金パック(図5)を用いた場合を比較例1として、糸条間繊度差の比較を実施した。その結果を表1に示す。実施例1〜3は比較例1と比較して糸条間繊度差が抑制されていることがわかる。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の溶融紡糸口金パックの一例を示す側面図である。
【図2】図1の溶融紡糸口金パックの締め付け方向から見た正面図である。
【図3】図1の溶融紡糸口金パックの内部構造を表した断面図である。
【図4】図2の締め付け軸をX軸、横方向をY軸、縦方向をZ軸とし、座標として表した図である。
【図5】突起を有していない通常溶融紡糸口金パックの締め付け方向から見た正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1:口金パック
2:ポリマー供給部
3:締め付けボルト
4:糸条
5:スピンブロック
6:突起
7:ろ層
8:多孔板
9:口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向にポリマーが供給されるポリマー供給孔と該ポリマー供給孔部を紡糸機のポリマー配管と連通させ、かつシールするための締め付けボルト受け部が口金パックの水平中心に対して相向かい合う構造を有する溶融紡糸口金パックにおいて、取り付け時、締め付け方向である時計回りの方向への口金パックの回転を抑制する突起を有することを特徴とする溶融紡糸口金パック。
【請求項2】
口金パックの取り付け時の締め付け軸をX軸、これに垂直となる鉛直、水平方向をそれぞれY軸、Z軸としてY、Z座標位置(Y,Z)がYZ>0を満たす位置に2〜6個回転を抑制する突起を有することを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸口金パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−138352(P2007−138352A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336094(P2005−336094)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】