説明

溶融金属搬送路用継手

【課題】溶融金属の搬送路が振動や変位を受けても、それを吸収することが可能であり、しかも溶融金属の高温に耐えることが出来るという耐熱性と耐振動性の双方の耐性を備え、これにより溶融金属の漏れが起こり難い溶融金属搬送路用継手を提供する。
【解決手段】金属製のワイヤを芯材とし、この芯材に黒鉛を被覆したパッキン材17により溶融金属の通路を囲む搬送路を形成し、且つそれらパッキン材17が前記搬送路の長手方向に複数層重なるように積み重ねる。これらパッキン材17により形成される筒状のパッキン部を耐熱性を有するセラミックからなる一対の配管接続用のフランジ16、16で挟持する。パッキン材17の積み重ねからなるパッキン部の外側はステンレス製等のベローズ20で覆い、このベローズ20の両端を前記フランジ16、16に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融アルミニウムや溶融亜鉛等の溶融金属を搬送するのに使用される溶融金属搬送路を接続するための継手に関し、特にダイキャストマシンの金型に溶融アルミニウム等の溶融金属を送り出す射出シリンダのように、振動や変位を伴う部分に接続する配管の接続に好適な振動吸収機能或いは変位吸収機能を有する溶融金属搬送路用継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイキャスト鋳造の分野では、下記特許文献の特開平07−214291号公報や特開9−278564号公報に記載されたように、溶融アルミニウム等の溶融金属を保持した溶融金属槽から電磁ポンプを用いてダクト管及びノズル管を通して溶融金属をダイキャストマシンの射出スリーブに送り、この射出スリーブ内の溶融金属をプランジャで金型に押し出し、鋳造することが行われている。
【0003】
このようなダイキャストマシンでは、1回鋳造を行う毎に射出スリーブ内のプランジャが往復すると共に、金型の可動型の往復と鋳造物の脱型が繰り返し行われる。そのため、射出スリーブとそれに接続されたノズル管とは耐えず振動や変位を受ける。しかしながら、前記公報に記載されたように、従来のダイキャスト鋳造設備では、ノズル管と射出スリーブとが直接接続されており、前記振動や変位を吸収する機能は備えていなかった。それ故、ノズル管と射出スリーブとの接続部分がずれて、溶融金属が漏れ出す等のトラブルを生じることがある。このような問題はダイキャストマシンに限らず、振動や変位を伴う溶融金属の搬送路全般に起こり得る問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−043843号公報
【特許文献2】特開平09−278564号公報
【特許文献3】特開平07−214291号公報
【特許文献4】特開平05−177329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の溶融金属搬送路の接続部分における課題に鑑み、溶融金属の搬送路が振動や変位を受けても、それを吸収することが可能であり、しかも溶融金属の高温に耐えることが出来るという耐熱性と耐振動性の双方の耐性を備え、これにより溶融金属の漏れが起こり難い溶融金属搬送路用継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、前記の目的を達成するため、カーボン素材と金属スプリングとを組み合わせたパッキンを使用し、このパッキンを多重に巻き付けてパッキン部を構成し、これを耐熱性および耐食性を有するセラミック製のフランジで挟み込み、その両側に溶融金属搬送路を接続可能とし、耐熱性及び耐振動性を有する継手を構成したものである。
【0007】
すなわち、本発明による溶融金属搬送路用継手は、溶融金属搬送路を接続するための継手であって、パッキン材17を円筒状に積み重ねて溶融金属の通路を囲む搬送路としてのパッキン部を形成し、このパッキン材17により形成される筒状のパッキン部を耐熱性を有するセラミックからなる一対の配管接続用のフランジ16、16で挟持したものである。
【0008】
パッキン材17は金属製のワイヤを芯材22とし、この芯材22に黒鉛を被覆してなる。
芯材22としては、例えば耐熱性、耐蝕性、耐酸化性、耐クリープ性などの高温特性に優れたニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等の合金(商品名「インコネル」)の線材を用いるのがよい。この芯材22に黒鉛21を被覆してリング状としたパッキン材17を複数個積み重ねて筒状のパッキン部とする。或いは長尺なパッキン材17をらせん状に密巻きして筒状筒状のパッキン部ととする。このパッキン部を両側から耐熱性を有するセラミックからなる一対の配管接続用のフランジ16、16で挟持し、このフランジ16、16に溶融金属を搬送するノズル管等を接続可能とする。
【0009】
前記パッキン材17の積み重ねからなるパッキン部の外側はステンレス製等のベローズ20で覆い、このベローズ20の両端を前記フランジ16、16に固定する。このベローズ20にマイクロヒータ等を組み込み、パッキン部の内側を通る溶融金属の凝固を防止する。
【0010】
このような溶融金属流路用継手では、金属製のワイヤを芯材22とし、この芯材22に黒鉛21を被覆したパッキン材17が溶融金属の流路の長手方向に幾重にも重ね合わせられるため、その部分が撓んときに、パッキン材17が少しずつずれて、その撓みを吸収する。また溶融金属の流路の長手方向への伸びや縮みに対しても、パッキン材17がこれを吸収する。これにより、振動や変位を吸収しやすい継手となり得る。しかも、金属製のワイヤからなる芯材22を黒鉛21で被覆したパッキン材17は、高い耐熱性と耐腐蝕性とを有する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した通り、前記本発明による溶融金属流路用継手では、溶融金属の流路の長手方向や径方向の何れの振動や変位に対しても振動、変位吸収性を有し、よって振動や不定期の変位を吸収してそれらの柔軟に対応出来る。しかも、溶融金属の温度や腐蝕に対して高い耐性を有する継手が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】溶融金属搬送路用継手が適用される溶融金属供給装置の一例として、溶融金属用電磁ポンプにより溶融金属槽から射出スリーブを経てダイキャスト金型に溶融アルミニウムを給湯する設備の概略を示す図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】溶融金属流路用継手を給湯ダクト8の部分で断面した正面図
【図4】図3のA方向の半断面図である。
【図5】溶融金属流路用継手に使用されるパッキン材の例を示す断面図である。
【図6】溶融金属流路用継手に使用されるベローズの例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、前記の目的を達成するため、カーボン素材と金属スプリングとを組み合わせたパッキンを使用し、このパッキンを多重に巻き付けて溶融金属の流路となる円筒形のパッキン部を構成し、これを耐熱性を有するセラミック製のフランジで挟み込んだ。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の溶融金属搬送路用継手が適用される溶融金属供給装置の一例として、溶融金属用電磁ポンプ1により溶融金属槽3から射出スリーブ11を経てダイキャスト金型2に溶融アルミニウムを給湯する設備の概略を示している。図2はその要部拡大図である。
【0015】
図1に示すように、溶融金属槽3の溶融アルミニウムである溶融金属に溶融金属用電磁ポンプ1の下部が浸漬され、この溶融金属用電磁ポンプ1の下部に設けられた下部誘導子5の駆動により、溶融金属槽3の中の溶融金属が中心にコア7を配置したポンプダクト4の中に汲み上げられる。この下部誘導子5の駆動により溶融金属は上部誘導子6の高さまで汲み上げられ、この上部誘導子6の駆動により、溶融金属が給湯ダクト8を通して調整筒9まで送られる。図2にも示すように、この調整筒9は継手10を介して射出スリーブ12に接続されており、調整筒9から継手10を通して溶融金属が送られる。
【0016】
ポンプダクト4、給湯ダクト8、調整筒9及び射出スリーブ12に至る溶融金属の通路は、何れも窒化珪素等の耐熱性及び溶融アルミニウムに対して耐蝕性のあるセラミックで作られている。給湯ダクト8、調整筒9は熔融アルミ等の溶融金属の溶損保護用コーティングした鉄材が使用されることもある。
図2に示すように、調整筒9はその手前の給湯ダクト8やその先の継手10側より高く立ち上がっており、そこに溶融金属が或る程度の高さまで保持され、その湯面の上下により、溶融金属の射出スリーブ11への供給を調整、緩衝する。調整筒9における湯面の高さは誘導コイル式の液面検知器13により監視される。この液面検知器13は、ケイ酸カルシウム等のボード14により熱や溶融アルミニウムの蒸気等に対して保護されている。またこの調整筒9にはガスノズル15が接続され、このガスノズル15から調整筒9の中に窒素等の不活性ガスが注入され、調整筒9内の溶融金属の湯面における酸化が防止される。
【0017】
継手10を介して調整筒9に接続された射出スリーブ11は、プランジャ機構を備え、その中でいわゆるチップ12と呼ばれる耐熱性、耐蝕性を有する摺動子が図1と図2において紙面手前と奥側を往復駆動される。このチップ12の摺動により、調整筒9側から送られてくる溶融金属が定量ずつ所定のサイクルでダイキャスト金型2のキャビティの中に送り込まれ、鋳造が行われる。射出スリーブ11とチップ12のスライド方向は、図1と図2で示した例では、紙面手前−奥方向であるが、上下方向、斜め上下方向等、必要に応じて任意のレイアウトが採用される。
【0018】
図1と図2に示した溶融金属水路用継手10については、図3に給湯ダクト8の部分で断面した正面図を示しており、図4に図3に矢印Aで示した方向の半断面図を示している。この溶融金属水路用継手10においては、図5に示すような金属線を芯材22として用い、この芯材22に黒鉛21を被覆してリング状としたパッキン材17を使用している。
【0019】
図5(A)に示すように、同一内外径のリング状のパッキン材17を円筒形となるように複数個積み重ね、さらにその外側により大きな内外径のパッキン材17を円筒形となるように複数個積み重ね、溶融金属の流路となる筒状のパッキン部を形成する。或いは図5(B)に示すように金属線を芯材22として用い、この芯材22に黒鉛21を被覆したパッキン材17をらせん状に密巻きコイル状とし、溶融金属の流路となる筒状のパッキン部を形成しても良い。何れの場合も隣接するパッキン材17は相互に密に積み重ねて筒状のパッキン部を形成し、これを溶融金属の流路とする。
【0020】
芯材22としては、例えば耐熱性、耐蝕性、耐酸化性、耐クリープ性などの高温特性に優れたニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等の合金(商品名「インコネル」)の線材が好適である。これに黒鉛21を被覆し、前述のリング状或いは密巻きコイル状のパッキン材17とする。
【0021】
さらにこのパッキン部を両側から耐熱性を有するセラミックからなる一対の配管接続用のフランジ16、16で挟持する。このフランジ16、16は、窒化珪素等の耐熱性及び溶融アルミニウムに対して耐蝕性のあるセラミックで作られている。
前記パッキン材17の外側に図6に示すようなステンレス等の薄い金属板からなるベローズ20を被せ、このベローズ20の両端をフランジ押え金具19、19と共に前記フランジ16、16を挟むベローズ押え金具18、18でフランジ16、16に固定している。
【0022】
前記フランジ16、16に溶融金属を搬送する給湯ダクト8を接続する。これにより、例えば図1と図2に示すように、調整筒9と射出スリーブ11と継手10を介してが接続される。
射出スリーブ11では、プランジャのチップ12の摺動に伴い、溶融金属をダイキャスト金型2に毎回定量ずつ射出する度に振動又は変位し、この振動や変位が給湯ダクト8に及ぶ。このとき、金属線を芯材22とし、これに黒鉛21を被覆してリング状としたパッキン材17が積み重ねられているため、パッキン材17が相互に摺動して振動や変位を吸収し、その前後の給湯ダクト8に及ぼす振動や変位を小さくする。これにより、前記射出スリーブ11内でプランジャのチップ12が摺動しても、継手部分における溶融金属の漏れ等を未然に防止することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明による溶融金属流路用継手は、溶融金属を搬送するダクト配管等の流路の振動や変位を吸収し、安定した流路の接続を可能とするので、前述したダイキャスト鋳造設備やその他振動や変位を伴う溶融金属の流路の接続に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0024】
16 配管接続用フランジ
17 パッキン材
18 給湯ダクト
21 黒鉛
22 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属搬送路を接続するための継手であって、パッキン材17を円筒状に積み重ねて溶融金属の通路を囲む搬送路としてのパッキン部を形成し、このパッキン材17により形成される筒状のパッキン部を耐熱性を有するセラミックからなる一対の配管接続用のフランジ16、16で挟持したことを特徴とする溶融金属搬送路用継手。
【請求項2】
パッキン材17が金属製のワイヤを芯材22とし、この芯材22に黒鉛を被覆してなることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属搬送路用継手。
【請求項3】
芯材22が耐熱性、耐蝕性、耐酸化性、耐クリープ性などの高温特性に優れたニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等の合金の線材からなることを特徴とする請求項2に記載の溶融金属搬送路用継手。
【請求項4】
リング状のパッキン材17を複数個積み重ねて筒状のパッキン部としたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の溶融金属搬送路用継手。
【請求項5】
長尺なパッキン材17をらせん状に密巻きして筒状筒状のパッキン部としたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の溶融金属搬送路用継手。
【請求項6】
パッキン材17の積み重ねからなるパッキン部の外側をステンレス製等のベローズ20で覆い、このベローズ20の両端を前記フランジ16、16に固定したことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の溶融金属搬送路用継手。
【請求項7】
ベローズ20にマイクロヒータ等を組み込んだことを特徴とする請求項6に記載の溶融金属搬送路用継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−200732(P2012−200732A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64862(P2011−64862)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000183945)助川電気工業株式会社 (79)