説明

滑り止め材

【目的】 敷物のバッキング材に適した滑り止め材を提供する。
【構成】 カーペットマット1は、基材3と、基材3にタフティングしたパイル2と、基材3に裏打ちしたバッキング材4とから構成される。床面と接するバッキング材4の裏面5には、所定の型押模様6が施されている。バッキング材は、熱可塑性エラストマーを主材とする成形品であり、熱可塑性エラストマーとして、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、滑り止め材に関するものであり、より詳細には、床置マット等の敷物のバッキング材として好ましく用い得る滑り止め材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】台所マット、バスマット等の床置マット又はカーペットマットが広く実用に供されている。この種の敷物において、パイルの基部にバッキング材を裏打ちしたものが知られている(例えば、特開昭53−125472号公報、特開昭54−10525号公報、特開昭58−22015号公報、実開昭58−55683号公報、実開昭64−35083号公報、実公平4−11579号公報等)。
【0003】一般には、PVC(ポリ塩化ビニル)、ゴム又はSBRラテックスなどがバッキング材として用いられており、かかるバッキング材は、敷物の位置決めを容易にするとともに、床面との均等な摩擦接触を確保し、使用時における敷物の横滑りや、位置ずれ、或いは、皺等の発生による歪み又は変形を防止する。また、バッキング材は、パイルの基部を裏側から被覆し、パイルの脱けを防止するように機能する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、PVC製のバッキング材は、所望の滑り止め作用を奏さず、しかも、比較的重量が重い。加えて、PVC製バッキング材は、可塑剤の移行により床面を汚濁させる欠点を有する。また、ゴム製のバッキング材は、比較的良好な滑り止め作用を奏するが、クッションフロアや、PタイルなどのPVC系床材を黄変色させる欠点を有する。
【0005】更に、SBRラテックス製のバッキング材は、紫外線により脆弱化するので、使用箇所又は用途が極めて限定されてしまう。家庭用又は業務用マットは、一般に日射に曝され、しかも比較的頻繁に洗濯されるので、SBRラテックス製バッキング材は、この種の敷物のバッキング材としては、実用に耐えない。このように従来の各種バッキング材は夫々、克服し難い欠点を有しており、現在では、かようなバッキング材を用いず、帆布にパイルをタフティングし、洗濯による帆布の収縮を利用してパイルの抜けを防止するように構成されたマットが用いられている。しかしながら、かかる構成のマットが、横滑り、位置ずれ、歪み又は変形を生じ易いことはいうまでもない。
【0006】本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、敷物のバッキング材に適した滑り止め材を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段及び作用】本発明者は、従来のバッキング材が有していた材質による欠点を解消でき、しかも、良好な滑り止め効果を奏する材料によりバッキング材を製作するとの観点より、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーが滑り止め材として極めて有利であるとの結論に達した。かかる知見に基づき、本発明者は、熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーを主材として成形された滑り止め材により、上記目的を達成できた。
【0008】即ち、本発明は、床面等の平面と該平面に載置される敷物との間に介挿される滑り止め材において、熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーを主材として成形されたことを特徴とする滑り止め材を提供する。かかる滑り止め材は、PVC製の滑り止め材に比べ、載置平面に対する極めて優れた摩擦作用を発揮した。また、焼却時に塩化水素ガスを発生させず、PVCに比べ比重が軽い。更に、上記滑り止め材は、可塑剤の移行による床面の汚濁を回避できると判った。また、本発明の滑り止め材は、床材を変色させず、しかも、良好な耐候性を有し、敷物のバッキング材として好ましく用い得ると判った。
【0009】本発明の好ましい実施態様においては、上記滑り止め材の表面硬度は、80(JIS(A))未満である。本発明の他の好ましい実施態様においては、上記熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーは、50PHR 以下の充填剤を含有する。本発明は更に、床面等の平面に載置される敷物のバッキング材であって、熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーを主材とするバッキング材及び該バッキング材を裏打ちしたカーペットマットを提供する。
【0010】本発明の好ましい実施態様においては、床面等に面する上記バッキング材の表面に型押模様が形成される。
【0011】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明に係るバッキング材を備えたカーペットマットの実施例を示す部分縦断面図である。図1に示すごとく、カーペットマット1は、マット1の表面にタフティングしたパイル2と、パイル2の基材3と、基材3に裏打ちしたバッキング材4とから構成される。床面と接するバッキング材4の裏面5には、所定の型押模様6が施されており、型押模様6は、裏面5に凹凸を形成している。
【0012】パイル2の材料として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、又はレーヨン繊維等の各種繊維を好ましく用いることができ、また、基材3として、ポリエステル製不織布及び帆布を好ましく使用することができる。バッキング材は、熱可塑性エラストマーを主材とする成形品であり、熱可塑性エラストマーとして、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)が好ましい。このうち、特に、密度が0.88〜0.91g/cm3 、好ましくは0.88〜0.89g/cm3 、MFR(メルトフローレート)が15乃至50g/10分、曲げ初期弾性率が600Kg/cm2未満、ねじり剛性が10乃至70Kg/cm2のオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましく用いられる。これは、例えば、三井石油化学工業株式会社製:ミラストマー(商品名)、住友化学工業株式会社製:住友TPE(商品名)などとして販売されている。また、熱可塑性ポリオレフィンに充填剤を含有させても良い。充填剤として、軽炭カルシウム、重炭カルシウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、タルク、炭酸マグネシウムなどを好ましく用い得る。例えば、重炭カルシウムを50部使用した場合、市販のゴム製バッキング材と同等の滑り止め効果は得られるが、他方、軽量性を重視すると、重炭カルシウムを20部程度に制限し、製品比重を約1.0以下に抑制するのが良い。
【0013】以下、上記マット1の製造方法について説明する。上記熱可塑性ポリオレフィンをカレンダー圧延機を備えた押出し機にてシート状に成形し、バッキング材4のための長尺シートを製造する。また、パイル2を基材3にタフティングして、カーペットを製作する。シート状バッキング材4をラミネート型押機にて上記基材3の裏面に貼り合せると同時に、エンボスロールによってバッキング材4の裏面5にエンボス加工を行い、型押模様6を型押しする。貼り合せ及び型押し工程は、プレス成形機にて行っても良い。次いで、プレス打抜機を用いて、所定の寸法にマット1を打抜き、テープ又は縫製糸等によって縁取りを行う。
【0014】かくして製造された上記マット1は、台所マット、バスマット、玄関マット、トイレマット或いはカーマット等の用途に広く使用され、マット1に裏打ちされたバッキング材4は、良好な滑り止め作用を奏する。また、バッキング材4は、比重が比較的軽く、洗浄し易く、耐候性に優れている。従って、マット1は容易に持ち運びでき、家庭等で洗濯し易い。更に、マット1を焼却処理した場合、バッキング材4は、PVCの如く塩化水素ガスを発生させない。従って、焼却炉の損傷を回避する上で極めて有利である。
【0015】本発明者は、上記マット1の試験片を試作し、摩擦引張試験を実施した。試作された本実施例のマット1の仕様及び類似するマットの比較例の仕様は以下の通りである。
試験片のサイズ:230mm×180mm(平面寸法)
表面性状 :平滑バッキング材の材質実施例1 :熱可塑性ポリオレフィン(ミラストマー5030)
充填材含有せず実施例2 :熱可塑性ポリオレフィン(ミラストマー5030)
充填剤50PHR 含有比較例1 :EVA比較例2 :PVCペースト比較例3 :ゴム(SBR系、JIS(A)硬度50)
摩擦引張試験に使用された装置は以下の通りである。
測定装置 :FB型プッシュ・プル・スケール(ダイヤル型測定器・(株)今田製作所製)
最大測定値 5Kg単位目盛 0.05Kg荷重(分銅) :1kg直径 150mm上記試験片をPタイル仕上の床面に置き、試験片上に分銅を載せ、プッシュ・プル・スケールを介して試験片を床面と平行に引張り、試験片が動き出す際のプッシュ・プル・スケールの値により、試験片の移動初期における引張力を測定した。該引張力が大きい程、静摩擦が大きく、従って、良好な滑り止め作用が得られる。
【0016】上記摩擦引張試験の試験結果は以下の通りであった。
実施例1 :2.20Kg実施例2 :1.30Kg比較例1 :0.80Kg比較例2 :1.05Kg比較例3 :1.30Kg本発明者は又、環境による上記試験片(実施例1、2及び比較例1〜3)の摩擦力の変化を確証すべく、恒温恒湿機(タバイ社製品)を用いて、ジャングルテストと一般に呼ばれる環境試験を行い、上記実施例1、2及び比較例1〜3の各試験片を、所定の環境条件下(温度:50°C、湿度:90%、期間:7日間)に置いた。しかる後、摩擦引張試験により各試験片の摩擦力を測定した。また、かかるジャングルテストを課していない一般条件下の上記実施例1、2及び比較例1〜3の各試験片を用意し、同様の摩擦引張試験により摩擦力を測定した。
【0017】摩擦引張試験は、前述の摩擦引張試験と同じ測定装置((株)今田製作所製・FB型プッシュ・プル・スケール)及び荷重(分銅:1kg、150mm径)を用いて行われ、分銅を載せた試験片が100mm移動する際のプッシュ・プル・スケールの値により、試験片の移動初期の引張力を測定した。該引張力が大きい程、摩擦力が大きく、従って、良好な滑り止め作用が得られる。
【0018】上記摩擦引張試験の試験結果は以下の通りである。
──────────────────────────────────── Pタイル床面 カーペット床面──────────────────────────────────── 一般条件 ジャングルテスト後 ジャングルテスト後──────────────────────────────────── 実施例1 2.20Kg 2.20Kg 1.30Kg──────────────────────────────────── 実施例2 1.30Kg 1.35Kg 1.15Kg──────────────────────────────────── 比較例1 0.80Kg 0.75Kg 0.70Kg──────────────────────────────────── 比較例2 1.05Kg 1.00Kg 0.90Kg──────────────────────────────────── 比較例3 1.30Kg 1.30Kg 1.15Kg────────────────────────────────────上記試験結果より明らかな通り、本実施例のバッキング材は、環境条件の劣悪化による摩擦力の低減が比較的少なく、過酷な環境に曝された後であっても、比較的良好な滑り止め作用を依然として発揮する。
【0019】本発明者は更に、バッキング材の硬度の相違による摩擦力の変化を摩擦引張試験により測定した。試験に用いたバッキング材の試験片の仕様は以下の通りである。
試験片のサイズ:230mm×180mm×1mm(厚さ)
表面性状 :平滑バッキング材の材質実施例1 :熱可塑性ポリオレフィン、硬度50(ミラストマー5030)
実施例2 :熱可塑性ポリオレフィン、硬度60(ミラストマー6030)
実施例3 :熱可塑性ポリオレフィン、硬度70(ミラストマー7030)
実施例4 :熱可塑性ポリオレフィン、硬度85(ミラストマー8030)
実施例5 :熱可塑性ポリオレフィン、硬度90(ミラストマー9020)
比較例1 :ゴム、硬度50ミラストマーは三井石油化学工業(株)製品であり、型番は、同社の型番による。実施例1乃至5のバッキング材は、充填剤又は増量剤を含まない。また、硬度は、JIS・K6301によるJIS(A)の硬度表示である。各試験片は、BCFナイロン製パイルカーペットの床面及びPタイルの床面の上で、夫々3回(n─1〜n─3)ずつ摩擦引張試験に供された。摩擦引張試験において、各試験片は、プッシュ・プル・スケールを介して床面と平行に引張られ、試験片が100mm移動する際のプッシュ・プル・スケールの値により、試験片の引張力を測定した。試験結果は下表の通りである。
【0020】
【表1】


Pタイル床面上で試験を行なった実施例1乃至3の試験片(硬度50乃至70)では、プッシュ・プル・スケールは比較的高い引張力を指示し、従って、実施例1乃至3に係るバッキング材はPタイル上で良好な滑り止め作用を奏する。また、カーペット床面上で試験を行なった実施例1の試験片(硬度50)では、プッシュ・プル・スケールは比較的高い引張力を指示し、実施例1に係るバッキング材はカーペット上で良好な滑り止め作用を奏する。かかる試験により、三井化学工業(株)製のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO;ミラストマー)は、硬度80(JIS(A))未満のものを好ましく用い得ると判明した。
【0021】
【発明の効果】本発明によれば、熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーを主材として成形された滑り止め材により、従来のバッキング材の欠点を克服し、しかも優れた滑り止め作用を奏するバッキング材を提供することができる。かかる滑り止め材は、床面、テーブル面等に置かれる敷物類、例えば、カーペットマット、テーブルクロス、或いは置物等のバッキング材として使用し得る。
【0022】また、本発明によれば、横滑り、位置ずれ、歪み又は変形を生じ難く、床面の汚濁や変色を生じさせず、耐候性を有し、焼却時の塩化水素ガスの発生等がなく、しかも軽量なカーペットマットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るバッキング材を備えたカーペットマットの実施例を示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
1 カーペットマット
2 カットパイル
3 基材
4 バッキング材
5 裏面
6 型押模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】 床面等の平面と該平面に載置される敷物との間に介挿される滑り止め材において、熱可塑性ポリオレフィンのエラストマーを主材として成形されたことを特徴とする滑り止め材。
【請求項2】 表面硬度が、JIS(A)硬度80未満であることを特徴とする請求項1に記載の滑り止め材。
【請求項3】 50PHR 以下の充填剤を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の滑り止め材。
【請求項4】 請求項1、2又は3に記載の滑り止め材からなることを特徴とする敷物のバッキング材。
【請求項5】 前記平面に面する表面に型押模様が形成されたことを特徴とする請求項4に記載のバッキング材。
【請求項6】 請求項4又は請求項5に記載のバッキング材を裏打ちしたことを特徴とするカーペットマット。

【図1】
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