説明

漁具用錘

【課題】釣り糸や漁網等から脱落して、海、湖沼あるいは河川の水の中乃至底に放置された際にも、動植物の必須ミネラルである二価の鉄イオンを供給し得るとともに、時間と共にその体積が極めて小さくなる漁具用錘を提供すること。
【解決手段】少なくとも、鉄、酸化鉄及び水酸化鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる鉄含有粒状体と、炭素粉と、好ましくはさらに結着剤と、が混交して塊状に固められて、好ましくは焼結により成型されていることを特徴とする漁具用錘10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣りや網漁等漁猟の際に、漁具乃至その一部として用いる漁具用錘に関する。なお、本発明においては、ルアーフィッシングに用いられるルアー(疑似餌)も「漁具用錘」の概念に含めるものとする。以下、「漁具用錘」を単に「錘」と表記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
魚釣りや網漁(底曳網漁、投網漁など)等の漁猟の際には、漁具乃至その一部として錘が用いられている。当該錘としては、加工がし易く安価な鉛製の物が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる錘は、使用後、海、湖沼あるいは河川の水(以下、単に「海水等」と称する場合がある。)中から引き上げられて、再度使用に供するものである。しかし、根掛かり、釣り糸や結索紐の切断、劣化等によって、釣り糸や漁網等から脱落して、海、湖沼あるいは河川の底(以下、単に「海底等」と称する場合がある。)に放置されることが少なくない。
【0004】
歴史的に、漁猟の際には鉛製の錘が用いられてきており、長い年月の末に、海底等には大量の当該鉛製の錘が放置されていることが予想される。特に、人気の釣り場や良好な漁場では、大量の鉛製の錘の堆積が予想され、また、一部確認されている。
【0005】
鉛は毒性が強いため、我が国では、大気中や土壌・水中への排出が各種法令によって厳しく制限されている。また、鉛乃至鉛化合物の多くに、毒性や発がん性が認められ、あるいは疑われており、鉛を海底等に放置することが望ましくないことが想像される。
【0006】
この点、鉛は、酸化によってその表面に強固で安定した酸化膜が形成されるため、それ以上の酸化が進まず、化学的に海水等の中で溶解することは無く、水圏に生きる生物に対して害を及ぼすことはないとする主張も見受けられる。
【0007】
しかし、多くの河川水が流れ込み、あるいは、各種工業廃水や生活廃水が放出されている海水等においては、どのような環境変化が生じているのか明確に知ることが困難であり、放置された鉛製の錘が化学的に変化し、魚介類に取り込まれて蓄積される可能性は否定できない。
【0008】
また、河川の水流や湖沼及び海の波によって、放置された鉛製の錘が、石、岩、砂、岸壁、堤防壁、消波ブロック等と擦れ合えば、その摩擦で軟らかい鉛が微粒子や細粒になることが明らかであり、それが魚介類の消化器官に取り込まれれば、胃酸によって溶解され、当該魚介類の体内に吸収・蓄積することが容易に予想される。
【0009】
魚介類に蓄積された鉛乃至その化合物が、食物連鎖の中で人体に取り込まれ、やがて重金属障害を引き起こす可能性も否定できない。
【0010】
これに対して、錘の材質として、鉛害の無い鉄が近年用いられてきている(例えば、特許文献2参照)。また、使用時における鉄の腐食や結索紐鉄の角等に擦れて損傷するのを防止する目的で、鉄製の錘の表面を生分解性の樹脂材料で覆う技術も提案されている(特許文献3参照)。
【0011】
鉄は、鉛に比して有害性が大幅に少なく、根掛かりや劣化等によって、釣り糸や漁網から脱落して海底等に放置されても問題が極めて少ない。それどころか、海水等においては、近年、鉄分の不足によって植物プランクトンの量が減少しており、鉄分を寧ろ積極的に海中等に供給することが望まれるとの見解もある(非特許文献1、特許文献4参照)。
【0012】
そのため、鉄製の錘を用いることは、それが脱落して海底等に放置してしまうことになった場合にも、却って動植物の必須ミネラルである鉄分を供給することに貢献し、自然に優しいので、積極的に推奨されるべきとも思われる。
【0013】
しかし、鉄は、鉛と同様海水等によってその表面に三価の鉄の酸化膜を形成することが知られており、鉛の表面酸化膜ほど強固ではないものの、海水等の中において、当該酸化膜が酸化による鉄の溶出速度を大幅に減速させる。
【0014】
また、酸化による鉄の溶出速度が遅いことから錘は長く海底等にとどまり、錘の材質を鉄に代えても海底等における錘の堆積の問題自体は、ほとんど解消されない。
【0015】
このため、鉄素地からなる塊状体から錘を形成した場合に比して、海底等で比較的短期間で形状が崩壊して、上記錘の堆積の問題が解決されるとともに、海水等への接触面積が増大して、その鉄分が有効に活用されやすくなる漁具用錘が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−136252号公報
【特許文献2】特開2011−10647号公報
【特許文献3】特開2001−292661号公報
【特許文献4】特開2007−289923号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】畠山重篤著、「鉄が地球温暖化を防ぐ」、株式会社文芸春秋発行、2008年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、釣り糸や漁網等から脱落して、海、湖沼あるいは河川の水の中乃至底に放置された際にも、動植物の必須ミネラルである鉄分を供給し得るとともに、鉄素地からなる塊状体から錘を形成した場合に比して、海底等で比較的短期間で塊形状が崩壊して、錘の堆積問題が解決されるとともに、海水等への接触面積が増大して、その鉄イオンが有効に活用されやすい漁具用錘を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下に示す本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくとも、鉄、酸化鉄及び水酸化鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる鉄含有粒状体と、炭素粉と、が混交して塊状に固められて成型されていることを特徴とする漁具用錘である。
【0020】
本発明の漁具用錘においては、前記鉄含有粒状体及び前記炭素粉に加えて、さらに結着剤が混交して塊状に固められて成型されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明の漁具用錘においては、焼結により成型されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の漁具用錘は、電気陰性度の高い炭素粉と低い鉄含有粒状体との接触界面が多量に形成された状態となっており、本発明の漁具用錘を海水等の中に存在させると、前記界面においてアノード・カソード反応が生じ易く、しかもその反応点が多量にある状態になっている。即ち、本発明の漁具用錘においては、いわゆる局部電池反応が起こりやすいため、水中において鉄分が積極的に溶出する。
【0023】
そのため、本発明の漁具用錘によれば、それが脱落して海底等に放置されてしまうことになった場合にも、海水等において不足しがちな鉄イオンの供給源となり得、環境に優しいばかりか寧ろ好ましいものとなり得る。そして、本発明の漁具用錘は、鉄素地を水中放置した場合に比して、鉄の溶出が遥かに速く、海底等に放置された際にも経時と共に小さくなり、やがて消滅するため、海底等における錘の堆積の問題を抑制乃至解消することができる。
【0024】
本発明においては、前記鉄含有粒状体及び前記炭素粉に加えて、さらに結着剤が混交した状態で、塊状に固められて成型されていることが好ましい。結着剤を添加することにより、鉄含有粒状体と炭素粉とを良好に結合させて強固に成型された塊状の錘を提供することができる。
【0025】
また、本発明においては、各材料を混合して混交状態になったものについて、焼結することにより成型することがより好ましい。焼結することによって、より一層強固でかつ耐久性が高く、高密度に成型された塊状の錘を提供することができる。さらに、焼結によって成型することにより、炭素粉の少なくとも一部が酸化されて、孔部が形成されるので、焼結により成型された錘は海底等で比較的短期間でその形状が崩壊して、上記錘の堆積の問題が解決されるとともに、このとき海水等への接触面積がさらに増大して、その鉄分がより有効に活用されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る漁具用錘の例示的一態様である実施形態の釣用錘を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施例にかかる漁具用錘を人工海水に浸漬したときの鉄の溶出量を調べる水槽実験における水温の変化を示すグラフである。図2(a)平成24年5月における水温の変化を示すグラフである。図2(b)平成24年6月における水温の変化を示すグラフである。
【図3】図2での水槽実験における人工海水のpHの変化を示すグラフである。図3(a)平成24年5月におけるpHの変化を示すグラフである。図3(b)平成24年6月におけるpHの変化を示すグラフである。
【図4】図2での水槽実験における人工海水の塩濃度の変化を示すグラフである。図4(a)平成24年5月における塩濃度の変化を示すグラフである。図4(b)平成24年6月における塩濃度の変化を示すグラフである。
【図5】図2での水槽実験における人工海水の鉄含有量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の漁具用錘について、図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る漁具用錘の例示的一態様である実施形態の釣用錘を示す概略構成図である。本実施形態の釣用錘10は、錘として機能する錘本体2と、釣り糸や浮き乃至それらに接続された接続金具を係止するための係止具4と、からなる。
【0029】
本実施形態においては、錘本体2と係止具4とが、同一の材料から一体成型により形成されてなる。詳しくは、少なくとも鉄含有粒状体と炭素粉とが混交して塊状に固められて成型されている。本発明においては、前記鉄含有粒状体及び前記炭素粉に加えて、さらに結着剤が混交した状態で、塊状に固められて成型されていてもよい。また、必要に応じて、その他の成分をさらに混交させても構わない。
【0030】
以下、成分ごとに詳細を説明し、ついで成型法について説明し、最後に水中での反応について述べる。なお、以下の説明において、単に「%」とあるのは、特に断りが無い限り質量基準である。
【0031】
<鉄含有粒状体>
本発明に使用可能な鉄含有粒状体としては、鉄そのもののほか、酸化鉄や水酸化鉄を挙げることができる。
【0032】
鉄としては、勿論、純度の高い鉄であることが望ましいが、一般的に鉄材として扱われる程度の不純物(炭素、ケイ素、リン等)が含まれる物や、鉄の割合が高い合金を用いても構わない。具体的には、不純物が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下の鉄材や、鉄の割合が85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上の鉄合金を用いることができる。
【0033】
一方、酸化鉄や水酸化鉄についても同様に、純度の高いものが望ましいが、一般的に酸化鉄や水酸化鉄の粒(粉)として扱われる程度の不純物が含まれる物であっても構わない。好ましい純度については、上記鉄の純度に準ずる。
【0034】
酸化鉄や水酸化鉄内の鉄は、三価であっても二価であっても構わない。
【0035】
三価の鉄を含む酸化鉄としては、酸化鉄(III)(Fe23)、四酸化三鉄(FeO.Fe23)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)等を、二価の酸化鉄としては、酸化鉄(II)(FeO)等を、例示することができる。
【0036】
一方、三価の鉄を含む水酸化鉄としては、水酸化第二鉄(FeO(OH))を、二価の水酸化鉄としては、水酸化第一鉄(Fe(OH)2)等を、例示することができる。
【0037】
本発明において鉄含有粒状体は、鉄または酸化鉄の粒乃至粉を指すが、粒であるか粉であるかの区別は意義が無い。粒径等による境界を設けることなく、広く、粒あるいは粉と称される性状の鉄、酸化鉄あるいは水酸化鉄を好適に用いることができる。さらに、形状としては、粒乃至粉の範疇に含め得るか議論が分かれる繊維状、棒状等各種形状の物も本発明における鉄含有粒状体の概念に問題なく含まれる。本発明においては、これらを総称して「鉄含有粒状体」としている。
【0038】
本発明における鉄含有粒状体の粒径としては、小さいほど反応性が高まるため好ましく、大きくても炭素粉と多数の界面が生ずる限り、鉄素地に比して著しく反応性が高まるため、特に制限はない。
【0039】
ただし、鉄含有粒状体の粒径があまりに大きすぎると反応性が低下し、逆に小さすぎると反応性が高くなりすぎて安定性が低下するため、その粒径(球状でない場合には、同体積における球相当径)としては、1μm〜10mm程度から選択され、5μm〜1mm程度の範囲が好ましく、10μm〜500μm程度の範囲がより好ましい。なお、鉄含有粒状体の形状が繊維状である場合には、その短径が上記範囲であることがそれぞれ適切である。
【0040】
本発明において鉄含有粒状体として使用可能な一般的な材料としては、天然あるいは人工の鉄粉や砂鉄、製鉄工場で生ずる鉄鋼スラグ、各種工場で排出される鉄切粉や鉄研削粉、鉄鋳物屑、その他各種屑鉄(鉄ダスト)、これらの酸化物、使い捨てカイロや酸化防止剤の使用前後の内容物(鉄粉乃至酸化鉄の粉)等を利用することができる。
【0041】
<炭素粉>
本発明に使用可能な炭素粉としては、炭素の結晶性あるいは非晶性(アモルファス)の粒乃至粉を挙げることができる。この場合の粒及び粉についても、粒であるか粉であるかの区別は意義が無く、鉄含有粒状体と同様、粒径等による境界を設けることなく、広く、粒あるいは粉と称される性状の炭素を好適に用いることができる。また、繊維状、棒状の物についても、鉄含有粒状体と同様、本発明における炭素粉の概念に問題なく含まれる。本発明においては、これらを総称して「炭素粉」としている。
【0042】
本発明に使用可能な炭素粉として、具体的には、コークス(石炭コークス、ピッチコークス等)、黒鉛(人工及び天然の別は問わない)、活性炭、各種炭素繊維等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
これらの中でも、本発明に使用可能な炭素粉として好適なのは、炭素含有率が70%以上の物であり、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上がさらに特に好ましい。勿論、炭素の純度が高ければ高いほうが好ましい。
【0044】
炭素粉の混合割合としては、錘としての比重確保の観点からあまり大きくすることはできないが、水中における反応点の確保のためにはある程度以上の量にすることが望まれる。
【0045】
鉄含有粒状体及び炭素粉の粒径、組成、純度等にもよるため、具体的に好ましい炭素粉の混合割合は一概には言えないが、大凡、(鉄含有粒状体):(炭素粉)が、質量基準で、98:2〜75:25の範囲から選択され、95:5〜80:20の範囲が好ましい。
【0046】
<結着剤>
本発明の漁具用錘は、以上説明した鉄含有粒状体及び炭素粉を混合し、固めて成型することで得られるが、粒乃至粉状の物質を錘として十分な硬度の塊状に固めるには、何らかの手段が必要であり、たとえば圧して固めるだけでは、錘としての使用に耐えうる強度を確保することが困難である。
【0047】
そのため、鉄含有粒状体や炭素粉の粒子同士を相互に結着させるための結着剤をさらに混合させた上で塊状に固めることが望ましい。また、後述する焼結による成型法によれば、焼結の過程で結着剤は炭化して前記炭素粉の供給源となり得る。このとき、焼結前の半成形品を形作る上で、結着剤を用いることが有効である。
【0048】
結着剤としては、従来公知の糊剤(でんぷん糊、ゴム糊等)、各種合成接着剤、各種天然接着剤、各種樹脂等を用いることができる。最終製品の中に当該結着剤が残る場合には、これらの中でも、生分解性に優れたでんぷん糊、生分解性の高い接着剤、及び生分解性樹脂が好適であり、低コストでかつ取り扱いが容易なでんぷん糊が特に好ましい。
【0049】
結着剤の添加量は、あまりに多すぎて鉄含有粒状体や炭素粉が埋もれてしまうようだと、鉄含有粒状体と炭素粉との接触点が確保できないため、これら粒乃至粉を結着し得る最小限の量とすることが好ましい。
【0050】
鉄含有粒状体及び炭素粉の粒径や、結着剤の組成等にもよるため、具体的に好ましい結着剤の添加量は一概には言えないが、鉄含有粒状体、炭素粉及び結着剤を混合した時点における結着剤の混合割合(結着剤/(鉄含有粒状体+炭素粉+結着剤))が、体積基準で、大凡、0.1体積%〜30体積%の範囲から選択され、0.5体積%〜10体積%の範囲が好ましい。
【0051】
なお、測定に際し、計算式の分子に当たる「結着剤」はそれ単独で容量測定し、分母に当たる「鉄含有粒状体+炭素粉+結着剤」は混合し十分に攪拌した後に容量測定する。
【0052】
<その他の成分>
本発明の漁具用錘には、以上説明した成分のほか、目的や必要性に応じて、その他各種成分を添加することができる。
【0053】
たとえば、水中での溶解反応後に生じた鉄イオン(II)をキレート化させることで安定化する目的で、各種キレート剤を添加することもできる。使用可能なキレート剤としては、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)やクエン酸が挙げられ、2価の鉄イオンと安定した錯体を形成し得る点でクエン酸が特に好ましい。
【0054】
キレート剤の添加量としては、一概には言えないが、鉄含有粒状体100質量部に対して、大凡0.001〜1質量部の範囲から選択される。
【0055】
本発明の漁具用錘に添加し得るその他の各種成分としては、着色剤、香料、安定剤等公知の各種添加剤を挙げることができ、本発明の目的・機能を阻害しない範囲の量を適宜添加することができる。
【0056】
<錘の成型法>
本発明の漁具用錘は、以上説明した各種材料を混合し、錘としての形状に固めて成型することで得られる。このとき、結着剤が材料に含まれる場合には、材料の混合物を、たとえば図1に示すような錘の形状となる型等に入れて締固め、乾燥や紫外線照射等結着剤に応じた硬化手段を講じるだけで最終製品を得ることができる。このとき、結着剤の種類によっては、適宜水やアルコール、有機溶剤等の溶剤を添加したものを材料の混合物として用いることが好ましい。
【0057】
結着剤を用いない場合、あるいは、より強固な完成品を製造しようとする場合には、以上説明した各種材料の混合後、焼結させて塊状に成型することが好ましい。
【0058】
焼結は、従来公知の成型法の一種であり、本発明に適用する場合における条件や方法、使用装置は従来公知の通りであるが、公知の焼結炉を用いて、錘として要求される十分な強度を有しながら、海底等に放置された場合には比較的短期間で塊形状が崩壊するように、炭素粉の含有量等にも左右されるが、例えば温度条件は500℃以上、あるいは700℃以上、あるいは、1000℃以上とし、上限としては、処理コスト、あるいは、焼結炉作製の費用を勘案して、例えば1300℃とし、焼結時間を10分〜120分程度として、焼結処理を行えばよい。この焼結処理により、強固で密度の高い錘を製造することができる。
【0059】
成型の際には、図1に示すような錘の形状となる型に入れて締固める。その後、型から取りだし、必要に応じて風乾や熱風乾燥等の公知の手段によって乾燥する。その後、必要に応じて上記のように焼結による成型を行う。
【0060】
焼結処理は通常、酸素存在下、例えば大気中で行うが、高温で焼結処理を行った場合、結着剤成分や炭素粉が酸化されて(二酸化炭素となって放出)、形状が保たれないことがある。このときには、非酸化雰囲気中(例えば窒素ガス中やアルゴンガス中)で焼結処理を行う。
【0061】
以上のようにして、本発明の漁業用錘を製造することができる。完成した漁業用錘は、勿論、水よりも比重が高いことが要求されるが、錘としての機能を発現するために、好ましくは、水に対する比重が3以上であることが望まれ、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましく、7以上であることが特に好ましい。なお、焼結による成型を行った場合には、多孔質となることがあり、このときには、真比重を上記範囲とすることが好ましい。
【0062】
完成した漁業用錘には、所望により、その他の部品を取り付けたり、着色して装飾したり、文字を書き込んだり等することができる。
【0063】
以上、本発明について、釣用錘の好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の漁具用錘はかかる実施形態の構成に限定されるものではない。たとえば、その形状は、図1に示すような液滴状の形状に限定されるものではなく、球状、ラグビーボール状、円柱状、角柱状、円錐状、載頭円錐状、角錐状、載頭角錐状、水滴形、不定形、その他任意の各種形状とすることができる。
【0064】
また、上記実施形態では、図1に示す釣用錘10における、錘本体2と係止具4とが、同一の材料から一体成型により形成されてなる例を挙げているが、両者を別個独立して成型することもできる。この場合、錘本体2が本発明に特徴的な鉄含有粒状体及び炭素粉が混交して塊状に固められて成型されていれば、それは本発明の漁具用錘の範疇に含まれる。
【0065】
錘本体2と係止具4とを別個独立して成型する場合には、両者を同一の材料(本発明に特徴的な材料)で成型して両者を公知の方法で接着(後述する、一部を埋め込む場合を含む)してもよいが、係止具4については、その他の材料を用いても構わない。
【0066】
錘本体2と係止具4とを異なる材料にする場合、係止具4としては、あらゆる材料から選択することができる。たとえば、鉄やステンレス、アルミニウム等の金属のほか、各種樹脂やその他各種硬質材料を任意に選択することができる。ただし、錘本体2と係止具4の全体としての水に対する比重が、所望の値であることが望まれる。
【0067】
勿論、海底等に釣用錘10が放置された際に、この係止具4についても環境への配慮が望まれることから、放置されても問題が少ない(より好ましくは、問題の無い)材質の物を選択することが望ましく、たとえば鉄、生分解性樹脂、釣り糸や結索紐と同一の材料等が好ましい材料として挙げられる。
【0068】
以上の場合、本発明の漁具用錘は、水に対して比重の高いことが必須となる錘本体2の部分が相当し、係止具4はその付属物と捉えられる。勿論、本実施形態のように一体成型される場合にはその限りでない。
【0069】
上記実施形態及び上記変形例においては、釣り用の錘を例に挙げて説明したが、本発明の漁具用錘は、広く漁具として用いる各種錘として利用することができ、たとえば、定置網や底曳網、投げ網等の漁網に用いるための錘(漁網用錘)として用いることも可能である。その場合にも、図1に示す形状のままでも、その他各種形状とすることも可能である。
【0070】
また、本発明の漁具用錘は、ルアー(疑似餌)の形状に成型し、必要に応じて着色することで、ルアーとして用いることができる。当該ルアーも本発明の漁具用錘の範疇に含まれる物であり、上記釣り用錘や漁網用錘と同様に製造することができる。
【0071】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の漁具用錘を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の漁具用錘の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0072】
<漁具用錘サンプルの作製>
漁具用錘サンプルの作製には表1に示す各原料を用いた。これら原料を、表1にそれぞれ示す配合割合で均一に混合し、それぞれ、長さ:約80mm、太さ:約35mmの水滴形で、尖端側に鉄製の針金によって係止具を設けた中間品を3種類作製した。
【0073】
これら中間品を室内で7日間乾燥させたのち、ヤマト科学社製電気炉(F0200)にて表1に示した温度で、それぞれ約2時間焼結して、漁具用錘サンプルの錘1〜3を得た。
【0074】
【表1】

【0075】
<水槽実験>
これら漁具用錘1〜3からの鉄の溶出実験を、平成24年5月4日から7月18日までの期間、下記のように室内に設置した水槽内で行った。
【0076】
実験水槽(45cm規格水槽。24L(マルカン社ニッソー事業部製))を2槽準備した。そのうちの一方の水槽(以下、「A水槽」あるいは「A」と云う)には大磯砂利(10kg)を敷き詰めた後、人工海水(日本海水社製シーライフ(SEALIFE))を液位が水槽上端から50mmの高さとなるように入れ、他方の水槽(以下、「B水槽」あるいは「B」と云う)にも、大磯砂利と人工海水とを同様に入れた後、大磯砂利上に上記の漁具用錘A〜Cを載置した。試験期間を通じ、これら水槽内の人工海水に対してマルカン社(ニッソー事業部)製エアポンプ「静」を用いて空気のバブリングを行った。
【0077】
試験開始(平成24年5月4日)後、6月28日まで、毎日ないし3日程度の間隔で、各水槽内の人工海水の水温、pH(淡水・海水両用測定器(マーフィード社製「エコペーハー」)による)、及び、塩濃度(積水ポリマテック社製塩濃度計による。但し、塩濃度計の故障のために塩濃度データは6月11日以降は測定せず)を測定した。また、実験開始後11日目の5月14日と、47日目の6月19日、及び、56日目の6月28日の3回、両水槽からそれぞれ少量の人工海水を採取し、鉄含有量を調べた(ICP質量分析法(ICP−SF−MS)(国立大学法人 東京海洋大学海洋科学部による分析))。
【0078】
さらに、5月14日には、B水槽にはマダイ2匹(ともに、約80g)を入れ、その後66日間、飼育飼料(オメガワン(OMEGA ONE)(名婦個リミテッド社製魚用飼育飼料「マリーン・ペレット」)により飼育し、51日後の7月3日にそのうちの1匹について、そして、66日後の7月18日に残りの1匹について、体重100g当たりの鉄含有量を測定した(マダイ全身をすりつぶしてサンプルとし、原子吸光法(ビジョンバイオ社)にて測定)。
【0079】
<評価結果>
上記期間の水槽A及びB内の人工海水の水温に対する調査結果について、5月における結果を図2(a)に、6月における結果を図2(b)に、それぞれ示した。これらより両水槽の間の水温変化に大きな違いがないことが確認された。
【0080】
また、槽内A及びB内の人工海水のpHに対する調査結果について、5月における結果を図3(a)に、6月における結果を図3(b)に、それぞれ示した。両水槽の間の液温変化に大きな違いがないことが確認された。
【0081】
さらに、槽内A及びB内の人工海水の塩濃度に対する調査結果について、5月における結果を図4(a)に、6月における結果を図4(b)に、それぞれ示した。両水槽の間の塩濃度の変化に大きな違いがないことが確認された。
【0082】
人工海水の鉄含有量の変化について図5に示した。水槽Aの人工海水では測定結果は3回の測定とも検出限度(0.0037ppm)未満であったが、水槽Bの人工海水では、時間とともに鉄含有量が上昇し、実験開始当初の70倍以上の値となり、本発明にかかる漁具用錘により海水の鉄濃度上昇効果が得られることが示唆された。
【0083】
7月18日に、漁具用錘1〜3を引き上げて観察をした。いずれの漁具用錘も3ないし4の小塊に割れており、手で触ると黒い粉が発生し、脆化の進行が確認された。
【0084】
また、マダイについては、飼育期間内に異常は認められず、その体内鉄分は、7月3日採取の個体では体重100g当たり0.6mgであったが、7月18日採取の個体では体重100g当たり1.2mgと、約2週間で2倍となっていた。
【0085】
以上より、人工海水を使った実験結果から、本発明に係る漁具用錘により海水中に鉄分が効果的に供給されることが判った。これは、釣りにおける根掛かりや操作ミスにより錘が海底等に残存した場合でも、比較的短期間で塊形状が崩壊し、海底等での錘の堆積問題が解決されるとともに、崩壊の結果、海水等に鉄分を迅速に供給することができ、さらに、その鉄分は魚介類の育成に役立つことが確認された。
【符号の説明】
【0086】
2:錘本体
4:係止具
10:釣用錘(漁具用錘)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、鉄、酸化鉄及び水酸化鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる鉄含有粒状体と、炭素粉と、が混交して塊状に固められて成型されていることを特徴とする漁具用錘。
【請求項2】
前記鉄含有粒状体及び前記炭素粉に加えて、さらに結着剤が混交して塊状に固められて成型されていることを特徴とする請求項1に記載の漁具用錘。
【請求項3】
焼結により成型されていることを特徴とする請求項1または2に記載の漁具用錘。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66464(P2013−66464A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−198303(P2012−198303)
【出願日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【出願人】(511219722)
【Fターム(参考)】