説明

漆喰層を有する積層シート

【課題】折り目が生じた場合にも、折り目に沿って割れなどの発生が有効に防止された漆喰層を有する積層シートを提供する。
【解決手段】基材シート3と、基材シート3の上面に積層され且つ半固化状態の漆喰を含む漆喰層5とを有しており、漆喰層5には、引張強度が5N/25mm以上の連続した繊維シート9が埋設されており、繊維シート9の上面と漆喰層5の上面との間には、漆喰層の表層部5aとなる薄層が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半固化状態の漆喰を含む漆喰層が基材シートの表面に形成された積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
漆喰は水性スラリー中の水酸化カルシウムを炭酸化させて炭酸カルシウムに転化させて固化させたものであり、半固化状態の漆喰(スラリー中の水酸化カルシウムの一部が炭酸化されずに残存している状態)を含む漆喰層が基材シートの表面に形成された積層シートは、漆喰の特性を活かして、種々の用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、該漆喰層を印刷面とする印刷用シートが提案されている。かかる印刷用シートは、インクジェットプリンタ等の印刷用記録紙として使用されるものであり、漆喰層表面にインク像を形成したとき、このインクが速やかに漆喰層の内部に浸透して固定されるため、長期にわたって色落ちなどを生じない堅牢性に優れたインク像が形成されるという利点がある。また、漆喰層の表面には微細な凹凸が形成されているため、得られる像は、フレスコ画の如き、深みのあるものとなり、通常のデジタル画像とは全く異なったものとなるため、このような印刷用シートは注目されている。
【0004】
また、特許文献2には、漆喰層を備えた積層シートを、建築構造物の外面(例えば、壁、柱、天井など)に貼着して化粧シート(所謂、壁紙)として使用することが提案されている。従来、壁紙としては、塩化ビニル樹脂等の樹脂製のシートが広く使用されているが、この種のシートは、通気性に乏しいという欠点があり、シートの貼着面(壁等の表面)に結露を生じ、この結果、カビの発生やシートの剥離などを生じやすいという問題が指摘されている。また、シートの作製や貼着に使用する接着剤から発生する有害な揮発成分が様々な健康被害をもたらすことも指摘されている。しかるに、漆喰層を備えた積層シートは、通気性に富み、また有害な揮発成分を発生することもないという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/013294
【特許文献2】特開2010−89405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、漆喰層を備えた積層シートには、未だ解決すべき課題が残されている。即ち、漆喰層は、水酸化カルシウムの炭酸化により生成した炭酸カルシウムを結合成分とするものであり、樹脂などにより形成された層に比して、柔軟性や弾性に乏しく、折り曲げたときに割れなどを発生し易いという問題がある。
【0007】
例えば、この積層シートを印刷用シートとして用いる場合、印刷後のシートを丸めて持ち運んだりする際には折り目が生じ易く、また、印刷後のシートを木枠等に折り曲げて貼り付けて保存するときには必ず折り目が形成されてしまう。このように折り目が形成されたとき、印刷像が形成されている漆喰層には、折り目に沿って割れが生じてしまい、この結果、印刷像の外観が損なわれてしまう。
【0008】
同様の問題は、この積層シートを化粧シートとして使用する場合にもある。即ち、柱や壁などのコーナーに積層シートを貼着すると、コーナーに沿って積層シートが折り曲げられて折り目が生じてしまい、やはり、表面の漆喰層に割れを生じてしまう。このため、積層シートをコーナーが存在する部分に貼着する場合には、複数枚の積層シートを使用し、コーナーで積層シート同士が重なるようにして貼着するという手法を採用することが必要となってしまうが、この場合には、コーナーに沿って継ぎ目が生じてしまい、やはり、漆喰層の外観が損なわれてしまう。
【0009】
従って、本発明の目的は、折り目が生じた場合にも、折り目に沿って割れなどの発生が有効に防止された漆喰層を有する積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、基材シートと、該基材シートの上面に積層され且つ半固化状態の漆喰を含む漆喰層とを有しており、該漆喰層には、引張強度が5N/25mm以上の連続した繊維シートが埋設されており、該繊維シートの上面と該漆喰層の上面との間には、該漆喰層の表層部となる薄層が形成されていることを特徴とする積層シートが提供される。
【0011】
本発明の積層シートにおいては、
(1)前記繊維シートは、前記漆喰層の形成に用いる水酸化カルシウム粒子が透過し得る大きさの目開きを有していること、
(2)前記漆喰層の表層部となる薄層の厚みが20μm以下であること、
(3)前記漆喰層の表面には、剥離可能な保護フィルムが積層されていること、
が好ましい。
また、本発明の積層シートは、
(4)前記漆喰層に印刷像を形成する印刷用シートとして使用されること、
或いは、
(5)前記基材シートを建築構造物に貼着して化粧シートとして使用されること、
が好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層シートでは、基材シートの表面に形成されている漆喰層の表層部には、連続した繊維シートが存在しているため、漆喰層に折り目が発生した場合においても、漆喰層の表面に折り目に沿って割れが発生することを有効に防止することができる。
即ち、漆喰層に折り目が発生した場合、漆喰層の表面の伸びが最も大きく、このため、漆喰層の表層部に大きな応力が発生し、これが割れの発生要因となるが、本発明では、漆喰層の表層部に繊維シートが連続して存在しているため、漆喰層表層部の伸びが該繊維シートによって抑制され、これにより、折り目による割れの発生を有効に防止することができるのである。
【0013】
また、上記の繊維シートは、通気性を有しており、しかも埋め込まれているため、漆喰層表面に露出しておらず、従って、この繊維シートにより、漆喰層の特性が損なわれることはない。
例えば、この積層シートを印刷用シートとして使用する場合においても、繊維シートの上部には、漆喰層の薄層が形成されているため、その印刷適性は全く損なわれず、例えばインクジェット印刷などにより、深みのあるインク像を形成することができる。
また、化粧シートとして用いた場合においても、漆喰層の通気性は保持されているため、基材シートの材質を適宜選択することにより、この積層シート(化粧シート)の貼着面に結露の発生を防止することができ、且つ繊維シートが表面に露出していないため、漆喰層の外観が損なわれることもない。さらには、このような繊維シートを漆喰層中に設けるために接着剤は不要であり、有害な揮発成分が発生することもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の積層シートの構成を示す図。
【図2】図1の積層シートに形成されている漆喰層の表層部の拡大図。
【図3】本発明の積層シートを印刷用シートして使用する場合の使用方法を説明するための図。
【図4】本発明の積層シートの製造プロセスの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照して、全体として1で示す本発明の積層シート1は、基材シート3と、基材シート3の表面に積層された漆喰層5を有しており、漆喰層5上には、剥離可能な保護フィルム7が積層され、漆喰層5には、繊維シート9が埋設されている。
【0016】
(基材シート3)
基材シート3は、その表面に漆喰前駆体を含む漆喰層5が形成できるものであれば、特に制限されず、この積層体1の用途に応じて、適宜の材料で形成されていてよい。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリレート等のビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などの各種の樹脂シート乃至樹脂フィルム、或いは紙や混抄紙などからなっていてもよいし、また、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布、不織布またはこれらを用いた混抄紙からなっていてもよい。さらには、これらの積層フィルム乃至シートも基材シート3として好適である。これらの中でも、紙や各種混抄紙、あるいは繊維状物は、この積層体1を化粧シートとして使用する場合においても、適度な通気性を確保でき、貼着面での結露を防止し、カビの発生等を防止することができる点で好ましい。本発明における基材シート3は、炭酸カルシウム混抄紙が好適に使用される。炭酸カルシウム混抄紙は、木材パルプに炭酸カルシウムを混合して抄紙したものであり、可撓性や曲げ強さを有し、しかも漆喰層5との密着性を良好なものとすることができる。さらに、このような炭酸カルシウム混抄紙以外にも、水酸化アルミニウム混抄紙などを使用することができる。
本発明において、基材シート3として最も好適に使用される炭酸カルシウム混抄紙は、王子製紙株式会社製より「OKコスモCA110」の商品名で販売されている。
【0017】
尚、基材シート3の表面は、必要に応じてコロナ処理などの表面処理により親水性を向上させてもよく、これにより、以下に述べる漆喰層5と基材シート3との接合強度を向上させることができる。
【0018】
また、基材シート3の厚みは、その用途に応じて適宜の範囲に設定される。例えば、プリンタ用の記録材などの印刷用シートとして使用する場合には、この積層シート1が容易にプリンタを通すことができるように、その厚みが設定される。一般には20〜1000μm、好ましくは50〜500μmの範囲である。
また、本発明の積層シート1を化粧シートとして用いる場合には、施工に適した厚みに調整することが好ましく、例えば、50〜300μm、更に好ましくは100〜200μmの範囲とすることが好適である。これにより、施工の際、取り扱い時の強度が確保されると共に、柱や壁のコーナ部へ貼付る時に、適度な力により折り曲げることができ、効率的な作業性を得ることができる。
【0019】
(漆喰層5)
本発明において、漆喰層5は、消石灰(水酸化カルシウム)の粉末と水を含む混練物(スラリー)を基材シート3の親水性の面にコーティングして形成されるものである。かかる層を空気中に放置した場合、半固化状態の漆喰前駆体(消石灰と炭酸カルシウムとの混合物)が空気中の炭酸ガスを吸収し、漆喰前駆体中の消石灰が炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムを生成することにより、さらに固化が進行して漆喰を形成する。即ち、漆喰層5は、消石灰の一部が炭酸化して炭酸カルシウムが存在する半固化状態の漆喰前駆体を含む層である。
【0020】
本発明において、上記の漆喰層5は、水酸化カルシウム(消石灰)が完全に炭酸化して完全に固化する前の半固化状態の漆喰前駆体を含むものであればよいが、好ましくは、この漆喰層5中の水酸化カルシウム濃度(後述する繊維シート9を差し引いた量に対する濃度)が、少なくとも5重量%、好ましくは10重量%以上であるのがよい。水酸化カルシウムの炭酸化が進行し、水酸化カルシウム濃度が極端に低くなってしまうと、即ち、水酸化カルシウムの含有量が上記範囲よりも少ないと、この積層シート1の搬送時等において漆喰層5の柔軟性が失われ、漆喰層5の破損等を生じ易くなってしまったり、特に印刷用シートとして使用する場合には、漆喰層5に特有の印刷適性が低下してしまったりするおそれがあるからである。
具体的には、印刷インクの浸透が不十分となり、形成される印刷インク像の堅牢性が低下し、色落ちなどを生じ易くなる傾向がある。また、漆喰層5中に水酸化カルシウムが適度な量で残存している場合には、印刷インクを漆喰層5の表面に施して印刷を行なったとき、印刷インク中に水酸化カルシウムが溶出して、その後乾燥する際に印刷インク中の色材成分を包み込むように漆喰前駆体(消石灰と炭酸カルシウムとの混合物)が形成され、さらに炭酸化して漆喰となることによって、印刷インク像が保護され、例えば紫外線等による印刷インク像の劣化を抑制することができるという利点がある。しかるに、漆喰層5中の水酸化カルシウム量が少なくなってしまうと、水酸化カルシウムの溶出による印刷インク像の保護効果が低下してしまうこととなる。
【0021】
従って、漆喰層5中の水酸化カルシウム濃度は、上記目的を達成するために多いほどよいが、あまり多すぎると漆喰層5の強度が不十分となり、印刷工程或いは使用前の搬送中に漆喰層5の破損等を生じ易くなる。従って、漆喰層5中の水酸化カルシウム量は、85重量%以下、好ましくは、80重量%以下の割合とすることが好ましい。
尚、漆喰層5中の水酸化カルシウムの割合は、示差熱分析により確認することができる。
【0022】
本発明において、前記漆喰層5中の水酸化カルシウムの含有量の調整は、漆喰層5の形成に用いる水酸化カルシウムの炭酸化率(前述したスラリーの調製に用いた消石灰の重量に対し、生成した炭酸化カルシウムの重量割合を示す。)及び後述するバインダー材、無機細骨材、吸液性無機粉体などの添加剤の割合によって調整することができる。
上記調整方法のうち、漆喰層5の形成に用いる水酸化カルシウムの炭酸化率を調整する方法を採用する場合、炭酸化率の上限は、80%、特に40%とすることが望ましい。即ち、炭酸化が過度に進みすぎた場合、漆喰層5の表面が緻密化されて脆くなってしまい、漆喰層5の柔軟性が失われ、破損を生じ易くなったり、或いは印刷インクの浸透性が低下する傾向がある。
【0023】
本発明においては、例えば漆喰層5に印刷インキ像を形成した後或いは基材シート3を壁面等に貼着した状態で、積層シート1を大気中に放置することにより、漆喰層5中の水酸化カルシウム(漆喰前駆体)が炭酸化して最終的には漆喰となる。このような漆喰層5の靭性を向上させるために、漆喰層5には、バインダー材としてポリマーのエマルジョン固形分を含有していることが好適である。このようなポリマーのエマルジョンは、水媒体中にモノマー、オリゴマー或いはこれらの重合体等が分散したものであり、例えばアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン、スチレン/ブタジエンゴム系等の重合体のエマルジョンを挙げることができる。このようなエマルジョンは、乾燥工程で、媒体(水)が蒸発してエマルジョン中のポリマー成分が漆喰層5中に残存することとなる。
ただし、このようなエマルジョンの固形分(即ちポリマー)が過度に存在すると、印刷インキの漆喰層5中への浸透性が低下し或いは漆喰層5の通気性が低下する傾向があるため、漆喰層5におけるポリマーエマルジョンの固形分は、3〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0024】
また、漆喰層5中には、前述した特許文献1,2に記載されているとおり、上記のエマルジョン以外にも、漆喰層5の物性を調整するための各種添加剤、例えば各種繊維屑、無機細骨材、樹脂粉体、吸液性無機粉体等が配合されていてよい。これらの添加剤は、漆喰層5の強度等の物理特性を向上させるものである。
【0025】
繊維屑の例としては、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、金属繊維等を挙げることができる。これらのうち短繊維の繊維屑は、漆喰層5の靱性および切断加工性の向上に特に有効である。このような繊維屑の大きさは特に制限されないが、通常、繊維径が5〜50μm、特に10〜30μmであることが、漆喰層5の靱性をより向上させ、場合によっては、切断加工性においても優れたものとするために好適である。
【0026】
また、無機細骨材は、平均粒子径が1〜50μm程度の範囲内にある無機粒状物であり、この範囲内で、漆喰層5の厚みの1/2以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、珪砂、寒水砂、マイカ、施釉珪砂、施釉マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、シリカ、或いは炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
また、樹脂粉体は、平均粒子径が0.5〜50μm程度の範囲内にある粒状物であり、この範囲内で、漆喰層5の厚みの1/2以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエステルなどを挙げることができる。
【0027】
また、前述したポリマーエマルジョンの配合は、靭性を向上させ、さらには基材シート3と漆喰層5との接合強度を高めるためには有効であるが、反面、漆喰層5の親水性を低下させ、例えば親水性インクなどを用いて印刷を行った場合、インクをはじいてしまい、印刷インク像が滲んでしまうなどの不都合を生じることがある。また、漆喰層5の水酸化カルシウムの炭酸化の進行に伴い、漆喰層5の吸液性(インク浸透性)が低下する傾向もある。これらの不都合を回避するためには、漆喰層5中に吸液性無機粉体を配合することが好適である。
この吸液性無機粉体は、多孔質であり、吸油量が100ml/100g以上と高い、微細な無機粉末、例えばレーザ回折散乱法で測定される体積換算での平均粒径(D50)が0.1μm以下のアルミナ粉末、ゼオライト粉末、シリカ粉末などであり、0.5乃至10重量%程度の量で漆喰層5中に配合されていることが好ましい。
【0028】
また、積層シート1を化粧シートとして使用する場合には、その外観特性を高めるために、漆喰層5中に各種の無機顔料を配合することもできる。このような無機顔料は、一般に左官用に使用されるものであり、具体的には、平均粒子径が0.5〜50μmの酸化鉄、酸化チタン、酸化クロム等の金属酸化物や各種の石粉である。
【0029】
さらに、積層シート1を化粧シートとして使用する場合には、漆喰層5の防水性、耐凍結融解性、耐薬品性、耐候性を向上させるために、パラフィン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の有機質混和材;ジメチルポリシロキサンおよびそのメチル基の一部を水素原子、フェニル基、アルキル基、メルカプト基、ビニル基、シアノアルキル基、フルオロアルキル基等で置換したポリシロキサンを主成分としたシリコーンオイルまたはシリコーン樹脂;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘプチルジメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン;などを漆喰層5に配合することもできる。
【0030】
一方、積層シート1を印刷用シートとして使用する場合には、その耐光性を高めるために、漆喰層5中に各種の紫外線劣化防止剤などを配合することもできる。このような紫外線劣化防止剤は、一般に使用されるものであり、具体的には、ヒドロキシフェニルトリアジン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤あるいは、ヒンダードアミン系などの光安定剤である。
本発明において、漆喰層5中に配合され得る各種添加剤は、その目的に応じて、それぞれ1種単独でも、2種以上が配合されていてもよいが、何れにしろ、漆喰層5に特有の風合い、通気性及び印刷適性などが損なわれない程度の量で配合すべきであり、例えば、消石灰が炭酸化して形成される炭酸カルシウムの含有量(即ち、炭酸化率100%のときの炭酸カルシウム含有量)が50重量%以上に維持されるように、各種の添加剤を配合することが望ましい。
【0031】
上記のような漆喰層5の厚みは、積層体1の用途に応じて、漆喰層5の特性が十分に発揮し得る程度の厚みに設定されていればよく、一般的には、0.05乃至1.0mm、特に0.1乃至0.5mm程度の範囲でよい。
【0032】
(保護フィルム7)
漆喰層5上に積層される保護フィルム7は、剥離可能に設けられるものであり、積層シート1の使用時には引き剥がされるものである。即ち、漆喰層5は、無機粒子(水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの粒子)から形成されているため、比較的脆く、外部からの圧力によって傷が付いたりして商品価値が低下するおそれがある。このため、積層シート1の製造直後から一般需要者による印刷時或いは壁面への貼着などの施工時までの間に、漆喰層5の表面を保護することが必要となるわけである。
【0033】
このような保護フィルム7は、引き剥がしに際して漆喰層5の表面の一部を脱落させて表面に顕著な凹凸を形成させてしまうものであるため、引き剥がしが可能な程度で適度な剥離強度で設けられているのがよく、例えば、200〜4000mN/25mm、特に、800〜3000mN/25mmの剥離強度で設けられているのがよい。即ち、剥離強度が過度に高いと、印刷時に保護フィルム7を引き剥がすことが困難となってしまい、また、剥離強度があまり低いと、使用前に保護フィルム7が剥離してしまうおそれがあるからである。
【0034】
尚、前記剥離強度は、JIS−K6854−2の接着剤−剥離接着強さ試験方法−第2部:180度剥離に準じ、幅25mmの試験体を用い、引張速度300mm/分で引っ張ることにより測定した値である。
【0035】
上記のような保護フィルム7は、保護機能を有し且つ上記のような剥離強度で漆喰層5上に設けることが可能である限り、任意の材料から形成されていてよいが、一般的には、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布または不織布などが保護フィルム7として使用される。また、保護フィルム7として、非通気性のシート、例えばシリコンペーパーなどを用いて、漆喰層5の保護機能と同時に、使用時まで漆喰層5の炭酸化を防止するという機能を持たせることも可能である。
【0036】
保護フィルム7の厚みは、適度な保護機能が発現する程度のものであればよく、一般的には0.01乃至2.0mm程度である。
【0037】
(繊維シート9)
図1と共に、図2の要部拡大図を参照して、本発明の積層シート1では、前述した漆喰層5内に、繊維シート9が埋設されていることが重要である。即ち、この繊維シート9はシート状に連続しているものであり、繊維屑や裁断された繊維シートの断片が層状に分布しているものではなく、面方向の引張強度が5以上、好ましくは10乃至100の範囲にあるものであって、少なくとも繊維が絡み合ってシート状に一体化しているものである。
【0038】
このような繊維シート9は、図2から理解されるように、漆喰層5の上面(保護フィルム7側の表面)に繊維シート9の表面が露出しないように埋め込まれており、この結果、繊維シート9の上側には、漆喰層5の表層部5aとなる薄層が形成されている。本発明においては、漆喰層5に、このような繊維シート9が埋め込まれているために、この積層シート1が折り曲げられ、折り目が付けられたときにも、漆喰層5に割れなどの損傷が発生することを効果的に防止することができるのである。
【0039】
即ち、積層シート1は、漆喰層5が外面側となるようにして、所定の基材に折り曲げられて固定されることがあるが、このような場合、折り目が付けられてしまうと、この折り目に沿って漆喰層5(特に、表面側)に割れなどが生じてしまう。表面側が基材シート3側に比して大きく伸ばされてしまうからである。しかるに、上記のような表層部5aが形成されるように繊維シート9を漆喰層5に埋め込んでおくことにより、折り曲げによって発生する応力が有効に緩和され、折り目がつくほど折り曲げられた場合にも、割れの発生を有効に防止することができるのである。例えば、繊維シート9の引張強度が上記範囲よりも小さい場合には、折り曲げによって繊維シート9自体が破断してしまい、曲げにより発生する応力を緩和することができず、割れの発生を防止することができなくなってしまう。
【0040】
尚、繊維シート9の引張強度が必要以上に大きいと、その剛性が高くなり、積層シート1を折り曲げたとき、繊維シート9が支配的となって、漆喰層5が繊維シート9に追随できず、この結果、漆喰層5が内部から破断してしまうおそれがある。従って、繊維シート9の引張強度は、上記の好適範囲(10乃至100)にあるのがよい。
【0041】
また、繊維シート9は、繊維で形成されているため、通気性を有しており、しかも埋め込まれて漆喰層5の表面には露出していない。従って、繊維シート9により、漆喰層5の特性が損なわれることはないのである。
【0042】
本発明において、上記のような繊維シート9は、上記のような引張強度を有している範囲内で、その目開きが、前述した漆喰層5の形成に用いる消石灰粒子を通過し得る程度の大きさを有していることが好ましい。即ち、このような目開きを有していることにより、漆喰層5中に繊維シート9を埋め込んで固定することが可能となるからである。例えば、漆喰層5の形成には、通常、平均粒径が1乃至25μm程度の微細な消石灰粒子が水に分散された混練物(スラリー)が使用されるが、このような大きさの消石灰粒子が透過し得る程度の目開きを有していればよい。
【0043】
従って、繊維シート9としては、上述した引張強度や目開きを有しているものが使用され、例えば、各種の合成繊維、天然繊維やパルプで形成された不織布、紙あるいは合成紙から形成されているものが好適に使用され、最も好適には、和紙、レーヨン紙が使用される。
【0044】
また、繊維シート9の表面位置(上面の位置)は、繊維シート9の上面に形成される表層部5aの厚みdが、繊維シート9の上面が露出しないことを条件として、20μm以下、特に5乃至10μmの範囲にあることが好ましい。即ち、この表層部5aの厚みが大きくなりすぎると、折り曲げに際しての漆喰層5の表面に発生する応力を有効に緩和することができず、割れ防止機能が低下してしまうこととなる。また、表層部5aの厚みが小さ過ぎると、保護フィルム7を剥がしたときに、繊維シート9の表面が漆喰層5の表面に露出してしまい、漆喰層5の外観や印刷適性などを阻害してしまうおそれがある。
【0045】
尚、本発明において、漆喰層5の表層部5aの厚みdは、図2に示されているように、漆喰層5の表面に形成されている凹部の底部と繊維シート9の表面との間隔の最小値である。
【0046】
<積層シート1の使用>
上述した本発明の積層シート1は、漆喰層5の特性を活かして、種々の用途に使用することができ、例えば、印刷用シート、化粧シート、或いは特開2010−20082号に開示されているような光透過型スクリーンとしての用途に使用することができるが、特に、折り目が付けられたときに漆喰層5の割れが効果的に防止されていることから、印刷用シート及び化粧シートとして、最も効果的に使用される。
【0047】
図3には、この積層シート1が、印刷用シートとして使用されたときの使用方法が示されている。
即ち、この積層シート1から保護フィルム7を引き剥がし(図3a)、次いでインクジェットプリンタなどを用いて印刷を行い、漆喰層5の表面に印刷インク像11が形成される(図3b)。
このようにして漆喰層5の表面に形成された印刷インク像11は、印刷インクが漆喰層5の内部に浸透して固定されており、しかもインク中に漆喰層5の内部に残存している水酸化カルシウムが溶出して、乾燥する際に印刷インク中の色材成分を包み込むようにして漆喰前駆体(消石灰と炭酸カルシウムとの混合物)が形成され、さらに炭酸化して漆喰となる。この結果、印刷インク像11は堅牢性に優れ、長期間にわたって保存された場合にも色落ちがなく、しかも、漆喰層5の表面の凹凸が印刷インク像11に反映されているため、深みのある像となっている。
【0048】
上記のようにして印刷インク像11が形成された印刷シート15は、そのまま、フラットな状態で保存される場合が多いが、例えば図3cに示されているように、所定の形状の基台20(例えば木枠、各種ボード、パネルなど)に固定されて保存される場合がある。この場合には、印刷インク像11が形成された印刷シート15は、その周縁部が基台20のコーナー部で折り曲げられ、基台20の裏側で画鋲やピン或いは糊等の接着剤で固定される。従って、漆喰層5の表面には、基台20のコーナー部に沿って折り目が形成されるが、本発明においては、このような折り目が形成された場合にも、漆喰層5での割れの発生を有効に防止することができ、印刷インク像11の外観が損なわれることがないのである。
【0049】
図3では、印刷用シートを例にとって説明したが、化粧シートの場合にも、保護フィルム7は引き剥がされて使用される。即ち、施工現場で保護フィルム7を引き剥がした後、基材シート3の裏面に糊等の接着剤を塗布し、漆喰層5が表側となるように壁面などに貼着されることとなる。この場合においても、壁面などにコーナーが存在する場合には、このシートは折り曲げられ、漆喰層5には折り目が形成されることとなるが、やはり、このような折り目に沿って漆喰層5に割れが生じるという不都合は有効に防止することができる。
【0050】
<積層シート1の製造>
上述した構造を有する本発明の積層シート1は、例えば、基材シート3の表面に所定の添加剤が配合された消石灰の水性スラリーを塗布し、この塗布層の上に繊維シート9を置き、この繊維シート9の上から消石灰のスラリーを上塗りした後、保護シート7を積層するという手段により製造することができるが、工業的に連続生産する場合には、図4に示すプロセスで製造することが好ましい。
【0051】
即ち、図4に示されるように、送りローラ31の周囲に、該送りローラ31と対向して圧ローラ35を配置する。
【0052】
先ず、保護フィルム7と繊維シート9とを重ね合わせ、これを送りローラ31を介して、図示されていない巻き取りローラより巻き取っていくが、この際、保護フィルム7が送りローラ31のローラ面側に位置し、圧ローラ35とのニップ位置を通過せしめる。
一方、基材シート3は、圧ローラ35の表面に位置するように導入され、送りローラ31とのニップ位置を通過せしめる。
【0053】
この状態で、送りローラ31と圧ローラ35とのニップ位置に、漆喰層5を形成するための消石灰スラリー37を供給する。即ち、このニップ位置を保護フィルム7と繊維シート9との重ね合わせ体が通過する際、圧ローラ35による加圧により、保護フィルム7と繊維シート9との間に消石灰スラリー37が侵入し、前述した漆喰層5の表層部5aの薄層に相当する層が形成され、繊維シート9が埋め込まれた状態が形成される。
【0054】
また、送りローラ31と圧ローラ35のニップ部には、基材シート3が導入されるため、この部分での加圧によって、基材シート3の表面に消石灰スラリー37が加圧密着され、これにより、基材シート3が漆喰層5の下部に付着する。
【0055】
従って、保護フィルム7と繊維シート9との重ね合わせ体には、両者の間に消石灰スラリーが侵入して薄層が形成され且つ消石灰スラリーを介して基材シート3が付着した状態で、圧ローラ35のニップ部を通過することとなる。従って、このニップ部を通過した後、加熱乾燥を行って水分を除去することにより、目的とする本発明の積層体1が連続的に製造される。
【0056】
尚、圧ローラ35による圧力は、適度な厚みの表層部5a及び漆喰層5が形成されるように、適度な範囲に設定しておけばよい。即ち、これらの圧力が過度に大きいと、消石灰スラリー37が繊維シート9と保護フィルム7との間から押し出されてしまい、適度な厚みの表層部5aを形成することができず、また、形成される漆喰層5の厚みも極めて薄くなってしまい、その特性を活かすことが困難となってしまう。また、圧力が小さ過ぎると、消石灰スラリーが繊維シート9と保護フィルム7との間に侵入せず(繊維シート9を通過しない)、表層部5aを形成できず、繊維シート9が漆喰層5の表面に露出してしまうこととなる。
【0057】
このようにして得られた積層シート1は、その用途に応じて、例えば適度な大きさに裁断されて包装されて市販され、或いは巻き取りローラに巻き取られた状態のまま、包装されて市販される。
【実施例】
【0058】
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
なお、以下に、各試験方法および実験例で用いた材料を示す。
(1)角部貼付試験
後述の製造例により得られた積層シートの漆喰層表面に、インクジェットプリンタ(エプソン製PX−5500型、顔料が分散された水性インク使用)を用いてブラックを印刷し、漆喰層表面の全面がブラックに印刷された100mm×100mmの貼付試験用の試験体を得た。
次に、厚さ1mm、大きさ150×150mmのステンレス鋼板の中央を直線に折り曲げ、曲げ角度90、70、50度のL型下地を作製し、その表面にアクリル共重合樹脂エマルジョン(製品名「パラダイン コンタクトセメント No1」、矢沢化学工業製)を所定量塗布した後に乾燥させ、試験用L型下地材を得た。
試験体の裏に壁紙施工用でん粉系接着剤(成分:エステル架橋化小麦澱粉+エチレン酢ビ共重合エマルジョン、商品名「ウォールボンド200」、矢沢化学工業製)を所定量塗布し、2分間放置後、試験用L型下地材の角部分に貼付け、印刷層表面にクラックが発生するかを目視で確認し、以下の評価基準で評価した。
○:角部上の印刷面にはクラック発生無し
△:角部上の印刷面の一部分にクラック発生
×:角部上の印刷面の全体にクラック発生
【0059】
(2)材料
基材シート;
炭カル紙:王子製紙株式会社製「OKコスモCA110」(商品名)
(厚み0.18mm、目つけ量110g/m
水酸化カルシウム;
消石灰:宇部マテリアルズ製「高純度消石灰CH」(商品名)
無機粉体;
炭酸カルシウム:薬仙石灰製「ホワイト7」(商品名)
水性エマルジョン;
ポリトロン:旭化成工業株式会社製「ポリトロンA1480」(商品名)(アクリル
系共重合体ラテックス、固形分40重量%)
保護フィルム;
不織布α:ユニセル株式会社製BT−1404WM(商品名)
繊維シートA〜G;
以下の画像保護フィルムを用いた。
【表1】

【0060】
(実施例1〜7)
消石灰80重量部、炭酸カルシウム20重量部、水性エマルジョン60重量部、水25重量部、吸液性無機粉体5重量部の配合比で混練し、消石灰スラリーを得た。次に、基材シートとして、炭カル紙(500×800mm)を使用し、その表面に得られた消石灰スラリーを二軸ロールコーターで塗布し、直後に繊維シートA〜Gを積層した不織布α(保護フィルム)を、繊維シートが消石灰スラリー側に位置するように消石灰スラリー表面に密着させ、70℃の乾燥機中で20分間乾燥させた。その後表面の不織布α(保護フィルム)を剥がし取り、繊維シートが漆喰層に埋設された半硬化状態の漆喰を含む漆喰層を有する積層シートを得た。
次に、得られた繊維シートA〜Gが埋設された積層シートA〜Gを用い、角部貼付試験の操作に従い、試験用L型下地材の角部分に貼付け、印刷層表面にクラックが発生するかを目視で確認し、評価した。その結果を表3に示す。
【0061】
(比較例1〜3)
表1に示した繊維シートA〜Gを表2に示す繊維シートX〜Zに変更した以外は、実施例1〜7と同様な操作を行い、角部貼付試験の操作に従って試験用L型下地材の角部分に貼付け、印刷層表面にクラックが発生するかを目視で確認し、評価した。その結果を表3に示す。
【表2】

【表3】

【符号の説明】
【0062】
1:積層シート
3:基材シート
5:漆喰層
5a:漆喰層の表層部
7:保護フィルム
9:繊維シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、該基材シートの上面に積層され且つ半固化状態の漆喰を含む漆喰層とを有しており、該漆喰層には、引張強度が5N/25mm以上の連続した繊維シートが埋設されており、該繊維シートの上面と該漆喰層の上面との間には、該漆喰層の表層部となる薄層が形成されていることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記繊維シートは、前記漆喰層の形成に用いる水酸化カルシウム粒子が透過し得る大きさの目開きを有している請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記漆喰層の表層部となる薄層の厚みが20μm以下である請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記漆喰層の表面には、剥離可能な保護フィルムが積層されている請求項1乃至3の何れかに記載の積層シート。
【請求項5】
前記積層シートは、前記漆喰層に印刷像を形成する印刷用シートとして使用される請求項1乃至4の何れかに記載の積層シート。
【請求項6】
前記積層シートは、前記基材シートを建築構造物に貼着する化粧シートとして使用される請求項1乃至4の何れかに記載の積層シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−250422(P2012−250422A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124300(P2011−124300)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】