漏油判別方法
【課題】漏油の有無を簡単に判別する。
【解決手段】漏油の判別方法であって、結合部Jの外周面に塗布したシール材50が無色から変色するか否かに基づいて漏油の発生を判別するようにしたことを特徴とする。シール材50は通常は無色透明である。これに対してパッキン40の劣化に伴い漏れ出た絶縁油Bがシール材50に吸収されると、シール材50は変色して見える。従って、シール材50の変色の有無を、目視などによって点検することで、漏油の発生を判別することが可能となる。
【解決手段】漏油の判別方法であって、結合部Jの外周面に塗布したシール材50が無色から変色するか否かに基づいて漏油の発生を判別するようにしたことを特徴とする。シール材50は通常は無色透明である。これに対してパッキン40の劣化に伴い漏れ出た絶縁油Bがシール材50に吸収されると、シール材50は変色して見える。従って、シール材50の変色の有無を、目視などによって点検することで、漏油の発生を判別することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器における漏油判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器、遮断器などの油入電気機器では、絶縁油の漏油を防ぐため、部品接合部にパッキンを介挿させている。しかし、パッキンが劣化すると、絶縁油が外部に漏れ出してしまう。この場合、絶縁性低下による機器の破損の恐れがあるため、補修作業を早急に行う必要がある。しかし、補修作業は、送電を一時的に止めて行う必要があり、大掛かりな作業となる。
【0003】
尚、下記特許文献1には、漏油発生箇所の補修方法(シーリング剤とキャップを併用させて補修を行うもの)についての提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−111318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、絶縁油が外部に漏れ出るまで漏油の発生を知ることが出来なかった。漏油の発生を、前もって知ることが出来れば、定期的に行うメンテナンス作業でパッキンを交換するなど油密部の補修作業を行うことが可能となる。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、絶縁油が外部に漏れ出る前に、漏油の発生を判別できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、油入電気機器における部品結合部の漏油判別方法であって、前記部品結合部は結合する2つの部品間にパッキンを介挿して油密を図った構造であるものにおいて、前記部品結合部の外周面に前記部品結合部の隙間を封止する硬化性のシール材を塗着させると共に、前記シール材はシリコーン系樹脂からなる無色のものであり、このシール材が硬化後に、無色から変色するか否かに基づいて前記パッキンからの漏油の発生を判別するところに特徴を有する。
【0008】
パッキンの劣化に伴って漏油が発生したとしても、シール材がこれを堰き止めるので、一定期間は絶縁油が外部に漏れない。そして、シール材が無色から変色するか否かに基づいて漏油の発生を判別することで、絶縁油が外部に漏れ出す前段階で漏油の発生を知ることが可能となる。
【0009】
この発明の実施態様として、以下のようにすることが好ましい。
・シール材の色から漏油の段階を判別する。このようにすれば、漏油の段階に応じてメンテナンス作業の実施時期を計画することが可能となり、機器の外側に絶縁油が漏れることを確実に回避できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁油が外部に漏れ出る前に、漏油の発生を判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る油入遮断器の構造図
【図2】コンサベータの断面図
【図3】コンサベータの結合構造を示す断面図
【図4】コンサベータの正面図
【図5】浸漬試験の試験方法を示す図
【図6】浸漬試験の前後における重量の変化をまとめた図表 (1)7日時点(2)14日時点(3)28日時点
【図7】赤外分光光度計分析の結果(絶縁油)
【図8】赤外分光光度計分析の結果(試験品a)
【図9】赤外分光光度計分析の結果(試験品c)
【図10】ガスクロマトグラフ質量分析計分析の結果(試験品a)
【図11】ガスクロマトグラフ質量分析計分析の結果(試験品c)
【図12】試験品aの絶縁油と新油を吸光度分析した結果を示す図
【図13】シール材が漏れた絶縁油を吸収した状態を示す断面図
【図14】浸漬試験の試験方法を示す図
【図15】試料の変色過程を示す図
【図16】シール材の変色過程を示す図
【図17】シール材の塗布厚とシール材の変色の関係を示すグラフ
【図18】漏油量と変色の進展速度の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<一実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図18によって説明する。
本実施形態は、本発明に係る漏油判別方法を油入遮断器10に適用したものである。
【0013】
1.油入遮断器10の全体説明
図1に示すように、油入遮断器10はタンク11と、消弧室12と、可動接触部13と、絶縁操作棒15と、一対のブッシング20と、一対のコンサベータ30を主体に構成されている。
【0014】
ブッシング20はタンク11の上壁において軸線Mを斜め傾けた状態で立設されており、内部には導体25が通されている。各ブッシング20の導体25は、タンク11内に引き込まれており、消弧室12に設けられた固定接触子(図略)に各々接続されている。
【0015】
可動接触部13は消弧室12に設けられた固定接触子と共に接点を構成するものであり、タンク11内において消弧室12の下方に配置されている。この可動接触部13は上下方向に移動可能となっており、絶縁操作棒15によりこれを下側に引き込むと、消弧室12内にて接点が開放する。一方、絶縁操作棒15によって可動接触部13を上側に移動させると、消弧室12内にて接点が閉じる構成となっている。
【0016】
そして、タンク11内は絶縁油(JIS2320−1999に規定された炭化水素を主成分とする鉱油で、第1種2号の電気絶縁油)が充填してあり、絶縁を行うと共に、機器を冷却する構成となっている。
【0017】
2.コンサベータ30の構造説明
図2に示すように、コンサベータ30は円筒型の金属製容器であり、下面側が開口している。そして、開口縁には、内向きに屈曲するフランジ35が全周に亘って形成されている。一方、ブッシング20の上部には端子座23が設置されている。端子座23は金属製であり概ね円盤状をしている。この端子座23の中央には導体25が貫通している。
【0018】
また、端子座23の上面には、環状の取付溝が形成され、そこにパッキン40が装着されている。パッキン40は、コルクと合成ゴムの成形品であり、フランジ35の外形形状より一回り小さい環状をしている。
【0019】
コンサベータ30はフランジ35を下に向けつつ、パッキン40を装着した端子座23の上面に載せられている。コンサベータ30は、周方向の6点をボルトBTで締めこまれて端子座23に固定されている。すなわち、図3に示すように、コンサベータ30のフランジ35には螺子孔35Aが形成してあり、これに、端子座23を貫通するボルトBTが螺合する構成となっている。
【0020】
そして、ボルトBTの締め込みに伴い、パッキン40が、フランジ35と端子座23の双方に対し全周に亘って密着することで、コンサベータ30と端子座23との結合部(本発明の「部品結合部」の一例)Jが全周に亘って油密される構成となっている。
【0021】
そして、上記したコンサベータ30は端子座23の開口を通じてタンク11に連通しており、内側には絶縁油Bが満たされると共に、油面上方の空間には窒素Nが充填されている。このような構成とすることで、絶縁油Bを空気から遮断して酸化を防止すると共に、油温による絶縁油Bの体積膨張を窒素Nにて吸収する構造となっている。
【0022】
3.漏油判別方法の説明
この漏油判別方法では、コンサベータ30と端子座23の結合部Jの外周面J1にシール材50を全周(結合部Jの全周)に渡って帯状に塗り付けると共に、端子座23と接触するボルトBTの周囲にシール材50を全周に渡って塗り付けることとしている。シール材50は、シリコーン(けい素の重合体)系樹脂を主成分とする一液縮合反応型のRTV(Room Temperature Vulcanizing)ゴムであり、塗布前はペースト状(不定形)をしている。そして、塗布後に空気中の水分と反応して硬化し、シール材50はゴム化する。これにより、結合部Jの隙間(コンサベータ30と端子座23の間の隙間)を結合部Jの全周に渡って封止でき、また端子座23とボルトBTの隙間をボルトBTの全周に渡って封止できる(図2〜図4参照)。
【0023】
このように結合部J及びボルトBTの周囲をシール材50により封止することで、パッキン40の劣化に伴って漏油が発生したとしても、シール材50が堰き止めるから、一定期間は絶縁油Bが外部に漏れることを防止できる。また、外部からの水の侵入を防ぐことも可能となり、結合部J及びボルトBTを防錆できる。尚、シール材50の帯の厚さDは20mm〜30mm程度であり、また、塗布厚dは1〜2mm程度であれば、通常、十分なシール効果が得られる。
【0024】
さて、シール材50は無色(より詳しく言えば、塗布厚dが1mm程度であれば無色透明であり、塗布厚dが数ミリ程度に厚くなると無色半透明となる)であり、塗布後(硬化後)も、通常は無色のままである。ところが、結合部Jの外周面やボルトBTの周囲に塗布したシール材50の色が「無色」から「黄色」などに変色する事例があった。
【0025】
ここで、出願人はシール材50の変色と漏油との関係に着目し、まず、シール材50の浸漬試験を、室内環境下で行った。浸漬試験では、図5に示すように、厚さ1mm程度のシート状をした試料100の上に、底が空いた筒型の容器120a、120bをそれぞれ載せた後、容器120aに絶縁油Bを入れ、容器120bに水道水を入れて、各試料100の外観変化を目視と顕微鏡写真にて観察した。尚、試料100は、シール材50と同じく、シリコーン系樹脂を主成分とする一液縮合反応型のRTVゴムであり、試験前は無色透明である。
【0026】
容器120aに絶縁油Bを入れた試験品aの試料100は、浸漬試験の開始から概ね1月経過した時点で、試料100の表面が黄色に変色した。一方、容器120bに水道水を入れた試験品bの試料100は、浸漬試験の開始から概ね1月経過しても、試料100の色は、無色透明のままであり変色はみられなかった。
【0027】
また、今回の浸漬試験では、図5の(c)に示すように、絶縁油Bを入れたビーカ120cの上に試料100を置いて、試料100を自然気化ガス雰囲気に晒した場合に、変色するかを合わせて観察した。結果は、試験の開始から概ね1月経過しても、自然気化ガス雰囲気に晒した試験品cの試料100の色は、無色透明のままであり変色はみられなかった。
【0028】
このように、試料100を絶縁油B中に浸した場合にだけ、試料100の色が無色透明から変色した。従って、シール材50の変色に絶縁油Bが強く関係していることが分かった。
【0029】
また、浸漬試験の前後で試料100の重量測定を行っており、その結果を図6に示す。図6に示すように、絶縁油Bに浸漬させた試験品aは、浸漬の前後で重量が約13〜14%増加している。その一方、それ以外(試験品b、試験品c)は、重量の変化がほとんどなかった。以上のことから、シール材50は自重の約1〜2割程度の膨潤能力(絶縁油Bを内部に取り込む性質)があることが分かった。
【0030】
尚、絶縁油Bに浸漬させた試験品aの試料100に対して赤外分光光度計分析を行ったところ、それから絶縁油Bのピークと同じスペクトルでピークが観測された。具体的に説明すると、図7に示すように絶縁油Bでは2952、2853、2920、1456、1376の波数にてピークが検出されているのに対して、図8に示すように試験品aの試料100では、絶縁油Bの場合と同じように2920、2850、1450付近の波数にてピークが検出され、ピークの位置が一致した。一方、それ以外のものでは、ピークの位置が絶縁油Bのそれに一致しなかった。尚、図9には、参考のため、赤外分光光度計分析を試験品cの試料100に対して行った結果を示した。
【0031】
また、絶縁油Bに浸漬させた試験品aの試料100に対してガスクロマトグラフ質量分析計分析を行ったところ、図10に示すように、ヘキサデカン、へプタデカン及びオクタデカンと、シリコーンゴムの成分であるポリシロキサンが合成されたクロマトグラフが検出された。一方、それ以外のものでは、シリコーンゴムの成分であるポリシロキサンだけが検出された。このことからも、シール材50が、絶縁油Bを内部に取り込む性質があることが確認できた。尚、図11には、参考のため、ガスクロマトグラフ質量分析計分析を試験品cの試料100に対して行った結果を示した。
【0032】
また、試験品aの絶縁油Bと新油(新品の絶縁油B)を吸光度分析したところ、図12に示すように、試験品aの絶縁油Bは、新油に比べて、視覚で黄色と認識できる波長帯(380〜500nm付近)で、吸光度が高くなっていた。従って、試験品aの絶縁油B、すなわち大気に晒された絶縁油Bは濃い黄色に変色することが確認された。これは、絶縁油Bが大気中の水分で酸化劣化して変色したものと思われる。また、絶縁油Bは大気に晒された場合の他に、太陽光に晒されると、紫外線の影響で劣化して、変色することが分かった。尚、絶縁油Bは新油の状態では、概ね無色で透明な色をしている。
【0033】
このように、シール材50は絶縁油Bを内部に取り込む性質があり、また、絶縁油Bは大気に晒されたり、太陽光にあたると黄色に変色する性質がある。以上のことから、シール材50の変色は劣化した絶縁油Bの変色が原因であり、シール材50が無色から変色するか否かを目視判断することで、漏油の発生を判断できることが分かった。
【0034】
すなわち、図13に示すように、パッキン40が劣化して漏油が発生すると、パッキン40の外側に漏れ出た絶縁油Bは大気に晒され劣化し始める。そして、劣化し始めた絶縁油Bはシール材50に吸収される。すると、シール材50に吸収された絶縁油Bはシール材50内部の水分や太陽光により、更に劣化する。これにより、絶縁油Bが黄色く変色する結果、シール材50も黄色く変色して見える。そのため、シール材50が無色から変色していれば、漏油が発生していると判断出来る。
【0035】
次に、シール材50に吸収される絶縁油Bの油量とシール材50の色の変化の関係を詳しく調べるため、図14に示すように、絶縁油Bを入れた容器170に短冊型に成形した試料150を吊るして、試料150の下部を絶縁油Bに浸漬させる試験を行った。そして、試験を開始してから1日目、1週間目、4週間目、8週間目のそれぞれについて試料150の色の変化を目視で調査した。尚、試料150は、シール材50と同じくシリコーン系樹脂を主成分とする一液縮合反応型のRTVゴムであり、試験前は無色透明である。
【0036】
試験開始から1日目の試料150は、図15の(a)に示すように、絶縁油Bとの界面L付近の位置を含め、色の変化は見られなかった。次に、試験開始から1週間目の試料150は、図15の(b)に示すように絶縁油Bとの界面Lより油中が黄色に変色し始めていた。ただ、試料150のうち界面Lより上側の領域では、ほとんど変色がなく、試料150を上から見ると黄色より薄いレモン色に見えた。尚、このレモン色に変色した試料150を容器170から出して室内に置いておくと、それ以上、色の変化はみられなかった。
【0037】
次に、試験開始から4週間目の試料150は、図15の(c)に示すように、界面Lより下側の領域に加えて上側の領域も変色し始めており、試料150を上から見ると黄色に見えた。尚、この黄色に変色した試料150を容器170から出して室内に置いておくと、それ以上、色の変化はみられなかった。
【0038】
そして、試験開始から8週間目の試料150は、図15の(d)に示すように、試料150の全体が変色しており、これを上側から見ると黄色より濃い茶色に見えた。
【0039】
このように試料150の浸漬状態が続くと、試料150の変色領域は界面Lから上面側に向けて広がってゆくことが分かった。そのため、シール材50の色から漏油の段階を判別出来ることが分かった。すなわち、図16の(a)、(b)に示すように、パッキン40の劣化により漏油が発生すると、漏れた絶縁油Bは、界面である裏面50bからシール材50に吸収されてゆく。
【0040】
しかし、漏油の初期では、吸収される油量は少量であり、また、吸収された絶縁油Bは裏面50b付近に広がっており、シール材50の表面50f側には広がっていない。そのため、このシール材50を表面側(図中のE方向)から見たときに、「レモン色」に変色して見える。
【0041】
次に、漏油が継続進行すると、シール材50に吸収される油量が増える。そして、吸収された絶縁油Bは、裏面50b側から表面50f側に広がってゆき、シール材50の中央部に達する。そのため、このシール材50を表面側(図中のE方向)から見ると、絶縁油Bの色の影響が強くなり、シール材50は黄色に変色して見える(漏油中期)。
【0042】
そして、漏油が継続し続けると、吸収された絶縁油Bがシール材50の表面50fに達する。そのため、このシール材50を、表面側(図中のF方向)から見ると、絶縁油Bの色の影響が益々強くなり、漏油の終期段階では、シール材50は「茶色、又は赤茶色」に変色して見える。
【0043】
従って、シール材50の色が「レモン色」であれば、それは漏油の初期段階(シール材50に吸収された漏油量小量)であると判別できる。また、シール材50の色が「黄色」であれば、漏油が継続進行している中期段階(シール材50に吸収された漏油量中量)であると判別できる。また、シール材50の色が「茶色、赤茶色」であれば、漏油が進行しシール材堰き止めが限界にきている終期段階(シール材50に吸収された漏油量多量)であると判別できる。
【0044】
尚、漏油が終期段階に到ると、シール材50の色が茶色から赤茶色へと濃い色に変色するのは、シール材50の表面50f側では、大気中の水分と太陽光(紫外線)が強く当たるので、吸収された絶縁油Bの劣化が進むためであると考えられる。そして、終期段階では絶縁油Bをそれ以上吸収できないので、シール材50が破れて絶縁油Bが機器外に漏れ出す可能性が高くなることが予想される。
【0045】
また、図17には、薄塗り(一点鎖線)、標準(実線)、厚塗り(二点鎖線)の3パターンについて、漏油の発生後、シール材50がどのような推移で色変化を起こすかを示した。尚、標準は、シール材50の塗布厚dを概ね1〜2mm程度としており、薄塗りはシール材50の塗布厚dを概ね1mm以下、厚塗りはシール材50の塗布厚dを概ね3〜5mmとしている。
【0046】
3パターンのいずれの場合も、シール材50は無色からレモン色→黄色→茶色→茶褐色の順に色が変化する。ただ、塗布厚dを薄くした場合は、図中一点鎖線で示すようにシール材50の色変化が早く現れる。そのため、漏油の発生を早期発見したい場合には、シール材50の塗布厚dを標準より薄く設定するとよい。
【0047】
一方、シール材50の塗布厚dを厚くしておけば、シール材50がより多くの絶縁油Bを内部に取り込むことが可能となり、色の変化は図中2点鎖線のように遅れて現れることになる。従って、漏油発生後、すぐにメンテナンス作業を行うことが出来ないような場合には、シール材50を標準より厚く塗っておくことが好ましい。
【0048】
また、シール材50の塗布厚dを標準の1〜2mmとした場合でも、パッキン40側から多量の絶縁油Bが継続して漏れ出てくる場合には、図18の一点鎖線で示すように、最初の変色発見時t1から修理レベルである茶色に変色する時点t2までの期間(図中のt2〜t1)が短期間になる。このように、シール材50の変色の進展が早い場合には、漏油の進展が早く、機器外に油が漏れるのは時間の問題であるから、修理手配を早急に計画することが好ましい。その一方、パッキン40側から絶縁油Bが少しづつ継続して漏れ出てくる場合には、図18の二点鎖線で示すように、最初の変色発見時t3から目視で色変化が次に確認できる時点t4までの期間(図中のt4〜t3)が長くなる。このように、シール材50の変色の進展が遅い場合には、漏油の進展が遅く、終期段階に到るまでに時間の余裕(図中のt4〜t5)があると判断できるので、次回点検などを利用した計画的な修理を手配することが可能である。尚、図17、図18のグレーゾーンは、目視でシール材50の変色を確認できないエリアである。
【0049】
4.効果説明
以上説明したように、本漏油判別方法では、シール材50が無色から変色するかを否かに基づいて漏油の発生を判断(目視判断)する。しかも、シール材50の色から漏油の段階(初期、中期、終期)を判別できる。そのため、漏油の発生を初期段階や中期段階で発見することが可能であり、漏油が終期段階に至る前の段階で、修理作業を計画してやれば、機器の外側に絶縁油Bが漏れることを確実に回避できる。
【0050】
また、シール材50は太陽光(紫外線)の影響で、それ自体が、無色透明から幾らか変色することがある。しかし、そうした経年劣化は、表面を汚損した色になり、油を膨潤した変色とは明らかに区別できる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
(1)上記実施形態では、コンサベータ30と端子座23の結合部Jの漏油を判定するものを例示したが、本発明は、部品結合部で油密構造をもつところであれば、適用可能であり、例えば、配管同士の継ぎ手(図1中のF部など)の漏油判別にも適用できる。また、対象となる設備も油入遮断器に限定されることはない。すなわち、絶縁油Bを使用する電気機器(例えば、変圧器など)なら適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10…油入遮断器(本発明の「油入電気機器」に相当)
20…ブッシング
23…端子座
30…コンサベータ
35…フランジ
40…パッキン
50…シール材
J…結合部(本発明の「部品結合部」に相当)
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入電気機器における漏油判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器、遮断器などの油入電気機器では、絶縁油の漏油を防ぐため、部品接合部にパッキンを介挿させている。しかし、パッキンが劣化すると、絶縁油が外部に漏れ出してしまう。この場合、絶縁性低下による機器の破損の恐れがあるため、補修作業を早急に行う必要がある。しかし、補修作業は、送電を一時的に止めて行う必要があり、大掛かりな作業となる。
【0003】
尚、下記特許文献1には、漏油発生箇所の補修方法(シーリング剤とキャップを併用させて補修を行うもの)についての提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−111318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、絶縁油が外部に漏れ出るまで漏油の発生を知ることが出来なかった。漏油の発生を、前もって知ることが出来れば、定期的に行うメンテナンス作業でパッキンを交換するなど油密部の補修作業を行うことが可能となる。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、絶縁油が外部に漏れ出る前に、漏油の発生を判別できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、油入電気機器における部品結合部の漏油判別方法であって、前記部品結合部は結合する2つの部品間にパッキンを介挿して油密を図った構造であるものにおいて、前記部品結合部の外周面に前記部品結合部の隙間を封止する硬化性のシール材を塗着させると共に、前記シール材はシリコーン系樹脂からなる無色のものであり、このシール材が硬化後に、無色から変色するか否かに基づいて前記パッキンからの漏油の発生を判別するところに特徴を有する。
【0008】
パッキンの劣化に伴って漏油が発生したとしても、シール材がこれを堰き止めるので、一定期間は絶縁油が外部に漏れない。そして、シール材が無色から変色するか否かに基づいて漏油の発生を判別することで、絶縁油が外部に漏れ出す前段階で漏油の発生を知ることが可能となる。
【0009】
この発明の実施態様として、以下のようにすることが好ましい。
・シール材の色から漏油の段階を判別する。このようにすれば、漏油の段階に応じてメンテナンス作業の実施時期を計画することが可能となり、機器の外側に絶縁油が漏れることを確実に回避できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絶縁油が外部に漏れ出る前に、漏油の発生を判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る油入遮断器の構造図
【図2】コンサベータの断面図
【図3】コンサベータの結合構造を示す断面図
【図4】コンサベータの正面図
【図5】浸漬試験の試験方法を示す図
【図6】浸漬試験の前後における重量の変化をまとめた図表 (1)7日時点(2)14日時点(3)28日時点
【図7】赤外分光光度計分析の結果(絶縁油)
【図8】赤外分光光度計分析の結果(試験品a)
【図9】赤外分光光度計分析の結果(試験品c)
【図10】ガスクロマトグラフ質量分析計分析の結果(試験品a)
【図11】ガスクロマトグラフ質量分析計分析の結果(試験品c)
【図12】試験品aの絶縁油と新油を吸光度分析した結果を示す図
【図13】シール材が漏れた絶縁油を吸収した状態を示す断面図
【図14】浸漬試験の試験方法を示す図
【図15】試料の変色過程を示す図
【図16】シール材の変色過程を示す図
【図17】シール材の塗布厚とシール材の変色の関係を示すグラフ
【図18】漏油量と変色の進展速度の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
<一実施形態>
本発明の一実施形態を図1ないし図18によって説明する。
本実施形態は、本発明に係る漏油判別方法を油入遮断器10に適用したものである。
【0013】
1.油入遮断器10の全体説明
図1に示すように、油入遮断器10はタンク11と、消弧室12と、可動接触部13と、絶縁操作棒15と、一対のブッシング20と、一対のコンサベータ30を主体に構成されている。
【0014】
ブッシング20はタンク11の上壁において軸線Mを斜め傾けた状態で立設されており、内部には導体25が通されている。各ブッシング20の導体25は、タンク11内に引き込まれており、消弧室12に設けられた固定接触子(図略)に各々接続されている。
【0015】
可動接触部13は消弧室12に設けられた固定接触子と共に接点を構成するものであり、タンク11内において消弧室12の下方に配置されている。この可動接触部13は上下方向に移動可能となっており、絶縁操作棒15によりこれを下側に引き込むと、消弧室12内にて接点が開放する。一方、絶縁操作棒15によって可動接触部13を上側に移動させると、消弧室12内にて接点が閉じる構成となっている。
【0016】
そして、タンク11内は絶縁油(JIS2320−1999に規定された炭化水素を主成分とする鉱油で、第1種2号の電気絶縁油)が充填してあり、絶縁を行うと共に、機器を冷却する構成となっている。
【0017】
2.コンサベータ30の構造説明
図2に示すように、コンサベータ30は円筒型の金属製容器であり、下面側が開口している。そして、開口縁には、内向きに屈曲するフランジ35が全周に亘って形成されている。一方、ブッシング20の上部には端子座23が設置されている。端子座23は金属製であり概ね円盤状をしている。この端子座23の中央には導体25が貫通している。
【0018】
また、端子座23の上面には、環状の取付溝が形成され、そこにパッキン40が装着されている。パッキン40は、コルクと合成ゴムの成形品であり、フランジ35の外形形状より一回り小さい環状をしている。
【0019】
コンサベータ30はフランジ35を下に向けつつ、パッキン40を装着した端子座23の上面に載せられている。コンサベータ30は、周方向の6点をボルトBTで締めこまれて端子座23に固定されている。すなわち、図3に示すように、コンサベータ30のフランジ35には螺子孔35Aが形成してあり、これに、端子座23を貫通するボルトBTが螺合する構成となっている。
【0020】
そして、ボルトBTの締め込みに伴い、パッキン40が、フランジ35と端子座23の双方に対し全周に亘って密着することで、コンサベータ30と端子座23との結合部(本発明の「部品結合部」の一例)Jが全周に亘って油密される構成となっている。
【0021】
そして、上記したコンサベータ30は端子座23の開口を通じてタンク11に連通しており、内側には絶縁油Bが満たされると共に、油面上方の空間には窒素Nが充填されている。このような構成とすることで、絶縁油Bを空気から遮断して酸化を防止すると共に、油温による絶縁油Bの体積膨張を窒素Nにて吸収する構造となっている。
【0022】
3.漏油判別方法の説明
この漏油判別方法では、コンサベータ30と端子座23の結合部Jの外周面J1にシール材50を全周(結合部Jの全周)に渡って帯状に塗り付けると共に、端子座23と接触するボルトBTの周囲にシール材50を全周に渡って塗り付けることとしている。シール材50は、シリコーン(けい素の重合体)系樹脂を主成分とする一液縮合反応型のRTV(Room Temperature Vulcanizing)ゴムであり、塗布前はペースト状(不定形)をしている。そして、塗布後に空気中の水分と反応して硬化し、シール材50はゴム化する。これにより、結合部Jの隙間(コンサベータ30と端子座23の間の隙間)を結合部Jの全周に渡って封止でき、また端子座23とボルトBTの隙間をボルトBTの全周に渡って封止できる(図2〜図4参照)。
【0023】
このように結合部J及びボルトBTの周囲をシール材50により封止することで、パッキン40の劣化に伴って漏油が発生したとしても、シール材50が堰き止めるから、一定期間は絶縁油Bが外部に漏れることを防止できる。また、外部からの水の侵入を防ぐことも可能となり、結合部J及びボルトBTを防錆できる。尚、シール材50の帯の厚さDは20mm〜30mm程度であり、また、塗布厚dは1〜2mm程度であれば、通常、十分なシール効果が得られる。
【0024】
さて、シール材50は無色(より詳しく言えば、塗布厚dが1mm程度であれば無色透明であり、塗布厚dが数ミリ程度に厚くなると無色半透明となる)であり、塗布後(硬化後)も、通常は無色のままである。ところが、結合部Jの外周面やボルトBTの周囲に塗布したシール材50の色が「無色」から「黄色」などに変色する事例があった。
【0025】
ここで、出願人はシール材50の変色と漏油との関係に着目し、まず、シール材50の浸漬試験を、室内環境下で行った。浸漬試験では、図5に示すように、厚さ1mm程度のシート状をした試料100の上に、底が空いた筒型の容器120a、120bをそれぞれ載せた後、容器120aに絶縁油Bを入れ、容器120bに水道水を入れて、各試料100の外観変化を目視と顕微鏡写真にて観察した。尚、試料100は、シール材50と同じく、シリコーン系樹脂を主成分とする一液縮合反応型のRTVゴムであり、試験前は無色透明である。
【0026】
容器120aに絶縁油Bを入れた試験品aの試料100は、浸漬試験の開始から概ね1月経過した時点で、試料100の表面が黄色に変色した。一方、容器120bに水道水を入れた試験品bの試料100は、浸漬試験の開始から概ね1月経過しても、試料100の色は、無色透明のままであり変色はみられなかった。
【0027】
また、今回の浸漬試験では、図5の(c)に示すように、絶縁油Bを入れたビーカ120cの上に試料100を置いて、試料100を自然気化ガス雰囲気に晒した場合に、変色するかを合わせて観察した。結果は、試験の開始から概ね1月経過しても、自然気化ガス雰囲気に晒した試験品cの試料100の色は、無色透明のままであり変色はみられなかった。
【0028】
このように、試料100を絶縁油B中に浸した場合にだけ、試料100の色が無色透明から変色した。従って、シール材50の変色に絶縁油Bが強く関係していることが分かった。
【0029】
また、浸漬試験の前後で試料100の重量測定を行っており、その結果を図6に示す。図6に示すように、絶縁油Bに浸漬させた試験品aは、浸漬の前後で重量が約13〜14%増加している。その一方、それ以外(試験品b、試験品c)は、重量の変化がほとんどなかった。以上のことから、シール材50は自重の約1〜2割程度の膨潤能力(絶縁油Bを内部に取り込む性質)があることが分かった。
【0030】
尚、絶縁油Bに浸漬させた試験品aの試料100に対して赤外分光光度計分析を行ったところ、それから絶縁油Bのピークと同じスペクトルでピークが観測された。具体的に説明すると、図7に示すように絶縁油Bでは2952、2853、2920、1456、1376の波数にてピークが検出されているのに対して、図8に示すように試験品aの試料100では、絶縁油Bの場合と同じように2920、2850、1450付近の波数にてピークが検出され、ピークの位置が一致した。一方、それ以外のものでは、ピークの位置が絶縁油Bのそれに一致しなかった。尚、図9には、参考のため、赤外分光光度計分析を試験品cの試料100に対して行った結果を示した。
【0031】
また、絶縁油Bに浸漬させた試験品aの試料100に対してガスクロマトグラフ質量分析計分析を行ったところ、図10に示すように、ヘキサデカン、へプタデカン及びオクタデカンと、シリコーンゴムの成分であるポリシロキサンが合成されたクロマトグラフが検出された。一方、それ以外のものでは、シリコーンゴムの成分であるポリシロキサンだけが検出された。このことからも、シール材50が、絶縁油Bを内部に取り込む性質があることが確認できた。尚、図11には、参考のため、ガスクロマトグラフ質量分析計分析を試験品cの試料100に対して行った結果を示した。
【0032】
また、試験品aの絶縁油Bと新油(新品の絶縁油B)を吸光度分析したところ、図12に示すように、試験品aの絶縁油Bは、新油に比べて、視覚で黄色と認識できる波長帯(380〜500nm付近)で、吸光度が高くなっていた。従って、試験品aの絶縁油B、すなわち大気に晒された絶縁油Bは濃い黄色に変色することが確認された。これは、絶縁油Bが大気中の水分で酸化劣化して変色したものと思われる。また、絶縁油Bは大気に晒された場合の他に、太陽光に晒されると、紫外線の影響で劣化して、変色することが分かった。尚、絶縁油Bは新油の状態では、概ね無色で透明な色をしている。
【0033】
このように、シール材50は絶縁油Bを内部に取り込む性質があり、また、絶縁油Bは大気に晒されたり、太陽光にあたると黄色に変色する性質がある。以上のことから、シール材50の変色は劣化した絶縁油Bの変色が原因であり、シール材50が無色から変色するか否かを目視判断することで、漏油の発生を判断できることが分かった。
【0034】
すなわち、図13に示すように、パッキン40が劣化して漏油が発生すると、パッキン40の外側に漏れ出た絶縁油Bは大気に晒され劣化し始める。そして、劣化し始めた絶縁油Bはシール材50に吸収される。すると、シール材50に吸収された絶縁油Bはシール材50内部の水分や太陽光により、更に劣化する。これにより、絶縁油Bが黄色く変色する結果、シール材50も黄色く変色して見える。そのため、シール材50が無色から変色していれば、漏油が発生していると判断出来る。
【0035】
次に、シール材50に吸収される絶縁油Bの油量とシール材50の色の変化の関係を詳しく調べるため、図14に示すように、絶縁油Bを入れた容器170に短冊型に成形した試料150を吊るして、試料150の下部を絶縁油Bに浸漬させる試験を行った。そして、試験を開始してから1日目、1週間目、4週間目、8週間目のそれぞれについて試料150の色の変化を目視で調査した。尚、試料150は、シール材50と同じくシリコーン系樹脂を主成分とする一液縮合反応型のRTVゴムであり、試験前は無色透明である。
【0036】
試験開始から1日目の試料150は、図15の(a)に示すように、絶縁油Bとの界面L付近の位置を含め、色の変化は見られなかった。次に、試験開始から1週間目の試料150は、図15の(b)に示すように絶縁油Bとの界面Lより油中が黄色に変色し始めていた。ただ、試料150のうち界面Lより上側の領域では、ほとんど変色がなく、試料150を上から見ると黄色より薄いレモン色に見えた。尚、このレモン色に変色した試料150を容器170から出して室内に置いておくと、それ以上、色の変化はみられなかった。
【0037】
次に、試験開始から4週間目の試料150は、図15の(c)に示すように、界面Lより下側の領域に加えて上側の領域も変色し始めており、試料150を上から見ると黄色に見えた。尚、この黄色に変色した試料150を容器170から出して室内に置いておくと、それ以上、色の変化はみられなかった。
【0038】
そして、試験開始から8週間目の試料150は、図15の(d)に示すように、試料150の全体が変色しており、これを上側から見ると黄色より濃い茶色に見えた。
【0039】
このように試料150の浸漬状態が続くと、試料150の変色領域は界面Lから上面側に向けて広がってゆくことが分かった。そのため、シール材50の色から漏油の段階を判別出来ることが分かった。すなわち、図16の(a)、(b)に示すように、パッキン40の劣化により漏油が発生すると、漏れた絶縁油Bは、界面である裏面50bからシール材50に吸収されてゆく。
【0040】
しかし、漏油の初期では、吸収される油量は少量であり、また、吸収された絶縁油Bは裏面50b付近に広がっており、シール材50の表面50f側には広がっていない。そのため、このシール材50を表面側(図中のE方向)から見たときに、「レモン色」に変色して見える。
【0041】
次に、漏油が継続進行すると、シール材50に吸収される油量が増える。そして、吸収された絶縁油Bは、裏面50b側から表面50f側に広がってゆき、シール材50の中央部に達する。そのため、このシール材50を表面側(図中のE方向)から見ると、絶縁油Bの色の影響が強くなり、シール材50は黄色に変色して見える(漏油中期)。
【0042】
そして、漏油が継続し続けると、吸収された絶縁油Bがシール材50の表面50fに達する。そのため、このシール材50を、表面側(図中のF方向)から見ると、絶縁油Bの色の影響が益々強くなり、漏油の終期段階では、シール材50は「茶色、又は赤茶色」に変色して見える。
【0043】
従って、シール材50の色が「レモン色」であれば、それは漏油の初期段階(シール材50に吸収された漏油量小量)であると判別できる。また、シール材50の色が「黄色」であれば、漏油が継続進行している中期段階(シール材50に吸収された漏油量中量)であると判別できる。また、シール材50の色が「茶色、赤茶色」であれば、漏油が進行しシール材堰き止めが限界にきている終期段階(シール材50に吸収された漏油量多量)であると判別できる。
【0044】
尚、漏油が終期段階に到ると、シール材50の色が茶色から赤茶色へと濃い色に変色するのは、シール材50の表面50f側では、大気中の水分と太陽光(紫外線)が強く当たるので、吸収された絶縁油Bの劣化が進むためであると考えられる。そして、終期段階では絶縁油Bをそれ以上吸収できないので、シール材50が破れて絶縁油Bが機器外に漏れ出す可能性が高くなることが予想される。
【0045】
また、図17には、薄塗り(一点鎖線)、標準(実線)、厚塗り(二点鎖線)の3パターンについて、漏油の発生後、シール材50がどのような推移で色変化を起こすかを示した。尚、標準は、シール材50の塗布厚dを概ね1〜2mm程度としており、薄塗りはシール材50の塗布厚dを概ね1mm以下、厚塗りはシール材50の塗布厚dを概ね3〜5mmとしている。
【0046】
3パターンのいずれの場合も、シール材50は無色からレモン色→黄色→茶色→茶褐色の順に色が変化する。ただ、塗布厚dを薄くした場合は、図中一点鎖線で示すようにシール材50の色変化が早く現れる。そのため、漏油の発生を早期発見したい場合には、シール材50の塗布厚dを標準より薄く設定するとよい。
【0047】
一方、シール材50の塗布厚dを厚くしておけば、シール材50がより多くの絶縁油Bを内部に取り込むことが可能となり、色の変化は図中2点鎖線のように遅れて現れることになる。従って、漏油発生後、すぐにメンテナンス作業を行うことが出来ないような場合には、シール材50を標準より厚く塗っておくことが好ましい。
【0048】
また、シール材50の塗布厚dを標準の1〜2mmとした場合でも、パッキン40側から多量の絶縁油Bが継続して漏れ出てくる場合には、図18の一点鎖線で示すように、最初の変色発見時t1から修理レベルである茶色に変色する時点t2までの期間(図中のt2〜t1)が短期間になる。このように、シール材50の変色の進展が早い場合には、漏油の進展が早く、機器外に油が漏れるのは時間の問題であるから、修理手配を早急に計画することが好ましい。その一方、パッキン40側から絶縁油Bが少しづつ継続して漏れ出てくる場合には、図18の二点鎖線で示すように、最初の変色発見時t3から目視で色変化が次に確認できる時点t4までの期間(図中のt4〜t3)が長くなる。このように、シール材50の変色の進展が遅い場合には、漏油の進展が遅く、終期段階に到るまでに時間の余裕(図中のt4〜t5)があると判断できるので、次回点検などを利用した計画的な修理を手配することが可能である。尚、図17、図18のグレーゾーンは、目視でシール材50の変色を確認できないエリアである。
【0049】
4.効果説明
以上説明したように、本漏油判別方法では、シール材50が無色から変色するかを否かに基づいて漏油の発生を判断(目視判断)する。しかも、シール材50の色から漏油の段階(初期、中期、終期)を判別できる。そのため、漏油の発生を初期段階や中期段階で発見することが可能であり、漏油が終期段階に至る前の段階で、修理作業を計画してやれば、機器の外側に絶縁油Bが漏れることを確実に回避できる。
【0050】
また、シール材50は太陽光(紫外線)の影響で、それ自体が、無色透明から幾らか変色することがある。しかし、そうした経年劣化は、表面を汚損した色になり、油を膨潤した変色とは明らかに区別できる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
(1)上記実施形態では、コンサベータ30と端子座23の結合部Jの漏油を判定するものを例示したが、本発明は、部品結合部で油密構造をもつところであれば、適用可能であり、例えば、配管同士の継ぎ手(図1中のF部など)の漏油判別にも適用できる。また、対象となる設備も油入遮断器に限定されることはない。すなわち、絶縁油Bを使用する電気機器(例えば、変圧器など)なら適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10…油入遮断器(本発明の「油入電気機器」に相当)
20…ブッシング
23…端子座
30…コンサベータ
35…フランジ
40…パッキン
50…シール材
J…結合部(本発明の「部品結合部」に相当)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入電気機器における部品結合部の漏油判別方法であって、
前記部品結合部は結合する2つの部品間にパッキンを介挿して油密を図った構造であるものにおいて、
前記部品結合部の外周面に前記部品結合部の隙間を封止する硬化性のシール材を塗着させると共に、
前記シール材はシリコーン系で無色のものであり、
このシール材が硬化後に無色から変色するか否かに基づいて前記パッキンからの漏油の発生を判別することを特徴とする漏油判別方法。
【請求項2】
前記シール材の色から前記漏油の段階を判別することを特徴とする請求項1に記載の漏油判別方法。
【請求項1】
油入電気機器における部品結合部の漏油判別方法であって、
前記部品結合部は結合する2つの部品間にパッキンを介挿して油密を図った構造であるものにおいて、
前記部品結合部の外周面に前記部品結合部の隙間を封止する硬化性のシール材を塗着させると共に、
前記シール材はシリコーン系で無色のものであり、
このシール材が硬化後に無色から変色するか否かに基づいて前記パッキンからの漏油の発生を判別することを特徴とする漏油判別方法。
【請求項2】
前記シール材の色から前記漏油の段階を判別することを特徴とする請求項1に記載の漏油判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−254054(P2011−254054A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128900(P2010−128900)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
[ Back to top ]