説明

潜水機の通信装置及び方法

【課題】 潜水機と母船等との間の通信に、音波よりも伝搬速度が速い電磁場(電磁波)を用いることにより、リアルタイムな潜水機の制御等を可能とし、しかも雑音等の影響が少ない潜水機の通信装置及び方法を提供する。
【解決手段】 水中の潜水機10と陸上又は水上との間で、無線通信を行うための通信装置であって、伝送しようとするデータを圧縮し、この圧縮データを低周波の電磁場により送受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潜水機の通信装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中の調査・探査等に用いられる無人潜水機は、当該潜水機を運搬・運用する母船との間が送電用又は通信用のケーブルによってつながれた有索式のものと、つながれていない無索式のものとに大別され、各々、その特性に応じた場面で利用されるようになっている。
【0003】
このうち無索式の潜水機は、ケーブルによる制限が無いために自在な動きが可能であり、特に、深海での探査等に有利である。また、ケーブルの巻き取り等が不要であるため、小型の母船で運搬・運用ができるという利点がある。
【0004】
しかし、ケーブルでつながれていないが故に、当然情報伝達(通信)等の点で不利であり、これを解消するために従来から様々な手法が採用されている。
【0005】
下記特許文献1には、潜水機と母船との間の通信に関する技術が開示されている。具体的には、母船に設けられた送受波器と、潜水機に設けられた送受波器とによって、潜水機と母船との間で水中音響伝送による双方向の伝送を行い、洋上からの音波信号に応じて、潜水機が取得した水中の情報を水中音響伝送装置を介して洋上へと伝送し、また、洋上からの音波信号の指令内容に応じて、潜水機の行動パターンを変更することができるものになっている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−48088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低周波の音波は、水中での減衰が少ないために潜水機の通信に適している。しかし、音波は伝搬速度が遅いため、リアルタイムの遠隔制御に用いることができないという欠点があった。
【0008】
例えば、有索式の潜水機では、水中で撮影した画像(映像)をケーブルを介して瞬時に母船に送信し、母船で画像を観ながら潜水機に備えたマニピュレータ等をリアルタイムに制御し、作業を行うことが可能であった。
【0009】
しかし、無索式の潜水機で、音波信号による通信を行った場合、通信遅延時間が生じるため、潜水機で現実に撮影している画像と、母船で観ることができる画像とが時間的にずれた異なる画像となり、したがって、その画像を見ながらマニピュレータ等を制御し、作業を行うことは、実質的に不可能であった。
【0010】
また、音波信号による通信では、潜水機自身が出す雑音の影響を受けやすいという欠点もあった。さらに、音波信号による通信では、浅海や限られた空間内における通信の場合、マルチパスフェージングにより良好な通信が行えないという欠点もあった。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、潜水機と母船等との間の無線通信に、電磁場(電磁波)を用いることにより、高速なデータの伝送を可能とし、しかも雑音の影響のない安定した通信を可能にした潜水機の通信装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、水中の潜水機同士や、潜水機と陸上又は水上との間で、無線通信を行うための通信装置であって、伝送しようとするデータを圧縮し、この圧縮されたデータを低周波の電磁場を用いて送受信することを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、データを圧縮及び伸張する符号制御器と、圧縮されたデータを変調及び復調するデジタル変復調器と、変調されたデータを低周波数の電磁場により送受信する送受信器と、を有している。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、電磁場による送受信の周波数が100kHz以下である。
【0015】
請求項4記載の発明は、水中の潜水機と、陸上又は水上との間で、無線通信を行うための通信方法であって、伝送しようとするデータを圧縮し、この圧縮されたデータを低周波の電磁場により送受信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1及び請求項4の発明によれば、潜水機と陸上又は水上との間の無線通信が電磁場を用いて行われるため、音波を用いる場合に比べて高速なデータの伝送ができ、潜水機をリアルタイムに制御することが可能になる。また、電磁場を用いることによって潜水機の雑音の影響やフェージングの影響も少なくなるため、通信の安定性を高めることができる。
【0017】
通信に用いる電磁場は、周波数が高い場合には(例えば、100kHz以上)、より多くの情報を伝達することができるものの、水中で急激に減衰するために数メートル程度の通信しか行うことができず、逆に、周波数が低い場合には、水中での減衰が少なく遠隔通信は可能であるが、伝送できる情報量が少なくなる、という性質を有する。このため、本発明では、低周波の電磁場を用いることによって通信距離を確保し、さらに、伝送するデータを圧縮することによって、低周波であってもより多くのデータを伝送できるようにしている。これによって、映像等の大量のデータの伝送であっても十分実用に耐え得るものにすることができる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1及び請求項4の発明を好適に実現することができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、水中における電磁場の減衰を少なくし、遠隔通信を好適に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる潜水機10と、母船11とを示す斜視図であり、この潜水機10は、無索式であって母船11とケーブルで繋がれておらず、無線を利用して通信するようになっている。
【0021】
図2は、潜水機10と母船11を示す概略図であり、両者10,11にはそれぞれ相互に通信を行うための通信装置12が設けられている。また、潜水機10には、スラスタ等の推進器や、水中カメラ、ソナー等の観測機器、マニピュレータ等の作業装置など、各種周辺機器13が設けられている。また、これら周辺機器13は、制御装置14により制御され、この制御装置14は、通信装置12を介して母船11から送られる制御信号に従って周辺機器13を制御するようになっている。
【0022】
すなわち、本実施形態の潜水機10は、通信装置12を介して母船11から遠隔操作可能な構成とされている。
【0023】
図3は、通信装置12を示す概略図であり、この通信装置12は、送受信器15と、デジタル変復調器16と、符号制御器17とを備えている。
【0024】
本発明の通信装置12は、従来の潜水機10に搭載されていたような音波信号を用いるものではなく、電磁場(電磁波)を用いてデータの送受信を行うものであり、送受信器15は、受信アンテナ18、送信アンテナ19、又はこれら両方の機能を有する共用アンテナ、送信に必要な電力を発生する増幅器、受信信号を増幅する前置増幅器、フィルタ、混合機、発信器等で構成されている。また、この送受信器15で用いられる電磁場の周波数帯は、いわゆる低周波(LF)の帯域(300kHz〜30kHz)、超低周波(VLF)の帯域(30kHz〜3kHz)、又は超極低周波(ELF)の帯域(3kHz〜3Hz)であり、より詳しくは、100kHz〜数百Hzの帯域が利用される。
【0025】
符号制御器17は、伝送しようとするデータを圧縮し、圧縮されたデータを伸張する機能を備えている。また、必要に応じて、データを暗号化、復号化する機能を備えていてもよい。
【0026】
デジタル変復調器16は、符号制御器17において圧縮されたデータを、送受信器15により送受信できる形式に変調し、また、変調された信号を復調する機能を備えている。本実施形態では、圧縮されたデータを多値変調・復調し、必要に応じて誤り検出及び誤り訂正をする機能を備えている。
【0027】
上記の通信装置12において、例えば、潜水機10によって取得されたデータ(例えば、カメラによって撮影された画像)を母船11に送信する場合を説明する。まず、カメラによって撮影された画像のデータは、制御装置14による制御によって通信装置12に送られ、通信装置12の符号制御器17に入力される。
【0028】
符号制御器17では、データを所定の符号形式にデジタル圧縮し、データ容量を小さくする。言い換えると、単位時間あたりに伝送可能なデータ量を増大する。
【0029】
次に、デジタル圧縮されたデータを、デジタル変復調器16によって多値変調する。この変調方法としては、従来公知の方法(振幅変調、周波数変調、位相変調等)を採用することができる。データの多値変調を行うことによって、1符号あたりの情報量を増大することが可能となる。
【0030】
デジタル変復調器16によって送信可能に変換された信号は、送受信器15のアンテナから発信された電磁場を用いて送信され、母船11の送受信器15にアンテナを介して受信される。
【0031】
この際、電磁場の周波数は100kHz以下の低周波であり、水中での減衰が少ないことから、潜水機10から遠く離れた母船11への通信が可能となっている。さらに、伝送されるデータは圧縮されているため、低周波の電磁場であっても多量のデータを送ることが可能となっている。そして、電磁場の伝送速度は、音波と比較しても高速であり、送信されたデータ信号は瞬時に受信されるようになっている。
【0032】
母船11の送受信器15で受信されたデータ信号は、増幅等の処理を経た後、デジタル変復調器16に入力され、復調される。さらに、符号制御器17に入力されて圧縮が解除(伸張)され、また、暗号化されていた場合には復号化され、元のデータに再現される。再現されたデータは、例えば、モニター装置等の再生機器によりリアルタイムに再生できるようになっている。
【0033】
以上、潜水機10で採取したデータの伝送について説明したが、母船側からのデータの伝送についても同様に行うことができる。例えば、潜水機10で採取したデータを母船11に送るための伝送指令の制御信号や、母船11で再生した画像にしたがってマニピュレータ等により作業を行う場合の制御信号等を伝送することができる。
【0034】
このように、潜水機10と母船11との間で採取データや制御信号等を瞬時にやり取りできるため、母船から潜水機をリアルタイムに制御し、各種作業や操縦等を行うことが可能になり、また、電磁場を用いていることから潜水機の雑音による影響がなく、安定した通信を行うことができる。
【0035】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、適宜設計変更可能である。例えば、本発明は、無索式の潜水機だけでなく、有索式の潜水機にも採用することができ、この場合、ケーブルによる通信と、無線通信とを併用することができる。また、光遠隔通信、音響遠隔通信等を併用し、状況によって最適な通信方式に切り替えるようにしてもよい。
【0036】
本発明は、無人潜水機に限らず有人潜水機にも採用することができる。また、潜水機との通信相手は、海上(水上)の母船に限らず陸上の基地や水中の他の潜水機等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、潜水機で取得したデータの伝送や母船からの潜水機への制御信号の伝送等に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態にかかる潜水機と母船とを示す斜視図である。
【図2】潜水機と母船を示す概略図である。
【図3】通信装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0039】
10 潜水機
11 母船
12 通信装置
13 周辺機器
14 制御装置
15 送受信器
16 デジタル変復調器
17 符号制御器
18 送信アンテナ
19 受信アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の潜水機と陸上若しくは水上との間、又は、水中の潜水機同士の間で無線通信を行うための通信装置であって、伝送しようとするデータを圧縮し、この圧縮されたデータを低周波の電磁場を用いて送受信することを特徴とする潜水機の通信装置。
【請求項2】
データを圧縮及び伸張する符号制御器と、圧縮されたデータを変調及び復調するデジタル変復調器と、変調されたデータを低周波数の電磁場により送受信する送受信器と、を有している、請求項1記載の潜水機の通信装置。
【請求項3】
電磁場による送受信の周波数が100kHz以下である、請求項1又は2記載の潜水機の通信装置。
【請求項4】
水中の潜水機と陸上又は水上との間で無線通信を行うための通信方法であって、伝送しようとするデータを圧縮し、この圧縮されたデータを低周波の電磁場により送受信することを特徴とする潜水機の通信方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213265(P2006−213265A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30357(P2005−30357)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(390008338)広和株式会社 (21)