説明

潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置及びその劣化診断方法

【課題】 前処理無しで微量の潤滑剤、粘稠性物質を用いて、これら潤滑剤、粘稠性物質の劣化状態を容易に診断することにある。
【解決手段】 所定長さの基台31a上の一端側に摺動可能に載置された試料受け部を有する第1の透明板体33a及び他端側に摺動可能に載置された試料を上方から所望の荷重で重ね合わせるように押し当てる試料押し当て部を設けたガラス製の第2の透明板体33bと、試料受け部に載置される試料が試料押し当て部を有する第2の透明板体の荷重を受けて放射状に所定の直径まで広がったとき、第2の透明板体を第1の透明板体とは逆の方向に引っ張る駆動装置37と、第1の透明板体側に設けられ、駆動装置によって第2の透明板体を引っ張ったときの試料の劣化程度と相関関係を有する引き剥がし力を測定する測定手段39とを備えた潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電路用開閉器並びに機構構造物を構成する操作機構部の摺動部分および摺動通電部分などに利用される潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置及びその劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から多くの電路用開閉器や機構構造物の操作機構部に潤滑剤や粘稠性物質が使用されている。これら潤滑剤や粘稠性物質は、使用年数とともに、経年劣化及び通電による酸化劣化や離油、設置環境中の腐食性ガスや環境紫外線、さらに塵埃や砂塵の付着等に伴って性状が変化し、徐々に潤滑性能が低下する。因みに、グリース等の粘稠性物質は、劣化や離油によって粘性が増加してくると、例えば操作機構部の摺動部分や回転機構部の回転部分の駆動力に対する抵抗や摩擦力が増大し、機器の動作特性に影響が出てくる。
【0003】
そこで、潤滑剤や粘稠性物質の潤滑性の機能維持や動作特性に支障が出てくるまでの間に早期に潤滑剤や粘稠性物質の劣化の兆候を把握する必要がある。そのためには、定期点検時などに微量の試料を採取し、潤滑剤や粘稠性物質の劣化を診断し、劣化度合いの把握や寿命を予測し、将来的な交換時期等の予防保全を計画することが重要である。
【0004】
ところで、従来、エンジンオイ,作動油,潤滑油等に関する劣化診断方法としては、硫酸基,硝酸基,カルボル基,レジン分,水分,全酸価,酸化防止剤,色,pH,酸性度,塩基性度,汚濁度,酸の電気抵抗,油の低分子量成分などの増加量の測定結果やレーザ光の照射による透過光量の測定結果から、劣化度を判定する方法が提案されている(特許文献1)。粘稠性物質の中でも、グリースの稠度の測定方法は、JISK2220に規定される針入法が一般的に使用されている。針入法は、試料であるグリースの面部に針を押し当て、そのときの針の下がり具合を見て判断する測定方法である。
【0005】
しかし、この針入法は、少なくとも5gの試料を採取する必要があり、また測定の前処理として約60回の攪拌処理を行う必要がある。また、針入法で得られる測定結果は、針を進入させた時の停止位置を見ていることから、実機の一般的な動特性の動きと異なる一種の静的特性と考えることができ、劣化の程度を的確に把握し難い。
【0006】
針入法以外の測定方法としては、2枚の板で試料を挟んだときの当該試料の広がり面積を測定する方法や試料を挟んだ2枚の透明板に対して、上方から荷重を与えた後、光源から光を照射し、下方に配置される受光体により試料の広がりに対する未受光面積を測定する方法である(特許文献2,特許文献3)。
【0007】
また、他の劣化測定方法としては、シリンダー内に試料であるグリースを充填した後、ピストンによってグリースを押し出す圧力を測定することにより、グリースの見掛け上の粘度を測定する方法やシリンダー内に試料を挿入した後、当該試料内にスクリュー状の回転羽を入れ、この回転羽を所定のトルクで回転させたときの回転羽に付設させた抵抗検知センサの検知抵抗から劣化を測定する方法である(特許文献4,特許文献5)。
【0008】
さらに、他の劣化測定方法としては、赤外線を利用してグリース中の基油の波数3500cm-1(ペルオキシド)による吸光度比を測定することにより、基油の種類や添加物の有無に依らず、劣化度を定量的に評価する方法やグリース中の基油の波数1250cm-1(メチルシリコーン)と増稠剤(グリース保持剤)の波数1250cm-1との赤外線の吸光度比を測定し、少量のグリースの劣化の程度を測定する方法である(特許文献6,特許文献7)
その他、類似技術の提案としては、磁気線輪を用いた荷重増減装置により試料に任意の荷重を加えるとともに、差動変圧器を用いた変位測定装置によって荷重に対する試料の変位量を測定し、その変位量から稠度を判定する方法がある。この測定方法は、事前に規格に準じて、測定した稠度と変位量との関係を規定する検量線が必要である(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−226896号公報
【特許文献2】特開昭58−055838号公報
【特許文献3】特開昭61−223631号公報
【特許文献4】特開昭62−119432号公報
【特許文献5】特開2000−241330号公報
【特許文献6】特開昭63−263451号公報
【特許文献7】特開昭63−053445号公報
【特許文献8】特開昭60−161545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、以上のような劣化診断の対象となる電路用開閉器並びに機構構造物を構成する操作機構部に使用される潤滑剤や粘稠性物質の量は微量である場合がほとんどであることから、稠度を測定するために必要な量を採取できない場合が多い。また、実際の機構操作部などで最初に操作した際にグリースの硬さなどから正常に動作しない,いわゆる初期動作不良などの動的特性は、針入法や広がり面積による稠度の測定値には反映されない。その理由は実際の機構操作部の中のグリースの状態を見ることができない為である。
【0011】
また、従来の針入法や広がり面積による稠度測方法は、人為的な寸法読み取り誤差や異物,砂塵などの混入による粘稠性物質の密度に応じて面積が変わるなど、測定データのバラツキが大きく、また十分な攪拌や不純物の除去などの前処理が必要となって煩雑である。
【0012】
さらに、赤外線の吸光度比による方法は、不純物の除去や基油と増稠剤とを分別するなとの前処理が必要であり、さらに、粘稠性物質の酸化程度は把握できるものの、粘稠性物質の動的特性について直接的に把握するのが困難である。
【0013】
一方、ピストンで粘稠性物質を押し出したり、試料中に回転羽を挿入して回転させる方法は、粘稠性物質の動的特性を捕らえていると推測できるが、試料の量がある程度必要となり、微量試料の測定には不向きである。また、従来の測定方法の大半は事前に規格に準じて測定した稠度と広がり面積との関係を表す検量線が必要となる問題がある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、前処理無しで微量の潤滑剤、粘稠性物質を用いて、これら潤滑剤、粘稠性物質の劣化を診断する動的特性や機械的特性を把握し、これら物質の劣化状態を容易に診断する潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置及びその劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る潤滑剤及び粘稠性物質(以下、試料と呼ぶ)の劣化診断装置は、直方体形状をなす所定長さの基台上の一端側に摺動可能に載置され、試料受け部を設けた第1の透明板体及び他端側に摺動可能に載置され、前記試料受け部に載置される試料を上方から所望の荷重で重ね合わせるように押し当てる試料押し当て部を設けたガラス製の第2の透明板体と、前記試料受け部に載置される試料が前記試料押し当て部を有する第2の透明板体の荷重を受けて放射状に所定の直径まで広がったとき、当該第2の透明板体を前記第1の透明板体とは逆の方向に引っ張る駆動装置と、前記第1の透明板体側に設けられ、前記駆動装置によって前記第2の透明板体を引っ張ったときの前記試料の劣化程度と相関関係を有する引き剥がし力(せん断力、引っ張り力)を測定する測定手段とを備えた構成である。
【0016】
また、本発明に係る潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断方法は、直方体形状をなす基台上の一端側に摺動可能に載置された第1の透明板体から突き出る試料受け部上面の所定部位に試料を塗布する第1のステップと、基台上の他端側に摺動可能に載置された第2のガラス透明板体に突き出して前記試料受け部に塗布される試料を上方から所望の荷重にて重ね合わさるように試料押し当て部を設定した第2のステップと、前記試料受け部に塗布される試料が前記試料押し当て部に重ね合せによって所定の直径まで拡大したとき、当該第2の透明板体を前記第1の透明板体とは逆の方向に引っ張る第3のステップと、この第3のステップにより前記第2の透明板体を引っ張ったときの前記試料の劣化程度と相関関係を有する引き剥がし力(せん断力、引っ張り力)を測定する第4のステップとを有する劣化診断方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前処理無しで微量の潤滑剤、粘稠性物質を用いて、これら潤滑剤、粘稠性物質の劣化の診断するための動的特性や機械的特性を把握でき、これら物質の劣化を容易に診断する潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置及びその劣化診断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置の実施形態を示す構成図。
【図2】試料を1Hzの周波数で、かつ、一定振幅値で交互に回転を繰り返しつつ、各周期ごとに求めた弾性率、粘性率及び損失正接(tanδ)をプロットした図。
【図3】新品,劣化品、寿命品に対する弾性率、粘性率を示す図。
【図4】本発明に係る潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置の実施形態を示す構成図であって、同図(a)は正面図、同図(b)は上面図。
【図5】定置基台と透明板体との嵌合状態を示す断面図。
【図6】一方の透明板体に設けた試料押し当て部の上面部に施された目盛りを示す図。
【図7】同一試料を5回にわたって当該試料に引っ張り力を与えたとき、試料のずれ移動距離とせん断力(引っ張り力)との関係を示すせん断特性図。
【図8】潤滑剤及び粘稠性物質の新品、劣化品及び寿命品に対する劣化の程度とせん断力との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置の実施の形態を示す構成図である。
【0020】
劣化診断装置は、下方側に配置され、試料1の劣化に関係する物理量を測定する試料測定系2と、この試料測定系2と対峙するように上方側に配置され、試料1を所望の厚さに設定する試料設定系3と、信号処理部4とで構成される。
【0021】
試料測定系2は、トルクセンサ11を内蔵した試料載置台12と、この試料載置台12に回転可能に支持される受動子13と、この受動子13の上側先端部に固定され、測定対象となる潤滑剤及び粘稠性物質である試料1を載置する例えば円板状の試料受け板14とが設けられている。なお、トルクセンサ11に代えてひずみセンサを用いてもよい。
【0022】
試料測定系2は、試料受け板14に所定厚さの試料1を設定した後、受動子13を所定周波数で、かつ、所定の振幅値で交互に繰り返し回転させる機能を有する。
【0023】
試料設定系3は、例えばアクチュエータドライバなどの駆動制御部21、この駆動制御部21からの駆動制御指示信号を受けて電気的に駆動制御する例えばアクチュエータ本体部に相当する駆動装置22、作動子23及び試料押し当板24が設けられている。
【0024】
駆動制御部21は、試料1を所望の厚さに設定するための距離が設定され、この設定距離に相当する駆動制御指示信号を出力し、駆動装置22に送出する。なお、設定距離は試料受け板14に載せる試料1の量に応じて異なるものであり、また必要に応じ異なる複数の距離を設定してもよい。
【0025】
アクチュエータ本体部などの駆動装置22は、駆動制御部21からの駆動制御指示信号に基づいて作動子23を所定距離前進させ、試料押し当て板24を降下させていく。試料押し当て板24は、試料受け板14と同じ直径を有する円板状の板体であって、作動子23の下側先端部に固定され、試料受け板14に載置される試料1に押し当てていくことにより、所定の厚さに設定する。
【0026】
なお、試料測定系2は、試料1を所定の厚さの設定した後、所定の周波数,例えば1Hzの周波数で、かつ、一定振幅で交互に繰り返し回転させるようにしたが、逆に駆動制御部21側に1Hz周波数で作動子23を所定方向に交互に繰り返し回転させる構成でもよい。
【0027】
なお、1Hzの周波数とした理由は、試料受け板14を所定周期で交互に繰り返し回転させたとき、当該周期ごとに試料1の稠度に応じた曲げ変形応力(回転トルク)が持続的に同期して追従変化する状態を維持することができる為であり、例えば周波数が大きくなると、試料1の稠度による曲げ変形応力の変化が繰り返し周期に全く追従できなくなり、曲げ変形応力が得られなくなる。
【0028】
次に、以上のような劣化診断装置の動作及び劣化診断方法の実施の形態について説明する。
(1) 駆動制御部21に駆動装置22の作動子23を所定距離前進させるための距離を設定する。また、初期の段階では、試料受け板14及び試料押し当て板24は十分に離れた定位置に設定されている。
【0029】
以上の状態において、試料受け板14の上面中央部分に微量の試料1を載せた後、駆動制御部21から設定距離に応じた駆動制御指示信号を駆動装置22に送出する。
【0030】
駆動装置22は、駆動制御指示信号を受けると、作動子23を設定距離相当分だけ前進させていく。これに伴って試料押し当て板24が降下して試料受け板14上の試料1を押し付けていく。その結果、試料1の面積が増大し、試料受け板14の全面積相当分まで広がったとき、設定距離に相当する所望の厚さとなる。そして、試料1が所定の厚さに設定されたとき、試料受け板14の面部から外側にはみ出した試料1を拭き取ることにより、試料1の面積と厚さと試料1の比重とから測定条件に見合う量を管理する。
【0031】
(2) 試料受け板14上の試料1が所望の厚さとなった後、駆動制御部21または信号処理部4からの回転制御指示に基づき、試料載置台12上の受動子13を例えば1Hz周波数で、かつ、所定振幅(所要する回転角度)で交互に繰り返し回転させる。このとき、試料押し当て板24は受動子13の回転力に抗して追従しようとする力が作用する。トルクセンサ11は、試料1の稠度による曲げ変形応力に応じた回転トルク信号(回転角速度と相関関係にある)を測定し、信号変換処理部4に送出する。
【0032】
なお、駆動装置22側の作動子23を所定周波数で、かつ、所定の振幅値で交互に繰り返し回転させてもよい。すなわち、駆動装置22は、駆動制御部21で設定された例えば1Hz周波数となる回転振動指示信号を受け、作動子23を所定方向に1Hz周波数で、かつ、所定の振幅値で交互に繰り返し回転する。このとき、試料受け板14を保持する受動子13は、試料1に加わる曲げ変形応力に応じた回転トルク信号を測定し、信号変換処理部4に送出する。
【0033】
(3) 信号変換処理部4は、トルクセンサ11で測定した回転トルク信号をアンプで所要とするレベルまで増幅した後、複数種類の物理特性量に変換する。つまり、信号変換処理部4は、試料1内の曲げ変形応力と回転トルク信号(ひずみ信号)とが比例関係にあるので、例えばフックの法則に基づき、所定の変換定数を用いて試料1の動的弾性率に変換する。そして、受動子13を1Hz周波数の一定振幅で繰り返し回転することにより、各周期ごとに試料1の動的弾性率を求めていき、当該動的弾性率が安定な値となるまで受動子13を交互に繰り返し回転させ、その安定域に入ったときに試料1の真の弾性率を取得する。なお、対象とする試料1の種類によって動的弾性率の安定域時間が異なるが、例えばグリースの場合には200秒前後にわたって1Hz周波数の一定振幅で繰り返し回転させることにより、動的弾性率が安定する。
【0034】
図2は、1Hz周波数で、かつ、一定振幅で受動子13を繰り返し回転させつつ、トルクセンサ11で測定されたトルク信号を信号変換処理部4で試料1の動的弾性率Pa、動的粘性率Pb及び損失正接(tanδ)を取得し、プロットした図である。なお、試料1の動的粘性率Pbは、1Hz周波数で、かつ、一定振幅で回転を繰り返すごとに消費されるエネルギー(熱消費エネルギー)に相当する。動的粘性率Pbは、粘稠性物質中の粘性応力は変形速度(ひずみ)の1次関数に相当するものと仮定することができ、そのときの速度勾配に対する比例係数で表すことができる。損失正接(tanδ)は、弾性率Paに対する粘性率Pbの割合を示す振動吸収性で表すことができる。
【0035】
図3は横軸方向の劣化の程度、縦軸方向に信号変換処理部4で得られた弾性率及び粘性率をとって折れ線グラフ化した図である。この図からも明らかなように、潤滑剤及び粘稠性物質の新品、劣化品及び寿命品について、潤滑剤及び粘稠性物質における弾性率及び粘性率をグラフ化したものであって、潤滑剤及び粘稠性物質の劣化の程度が進むほど、弾性率及び粘性率が高くなる。このことは、潤滑剤及び粘稠性物質の弾性率及び粘性率、tanδなどの物理的特性を測定することにより、これら弾性率及び粘性率、tanδと稠度(=劣化の程度)との間に高い相関関係を有することが分る。
【0036】
従って、以上のような実施の形態によれば、試料受け板14上に試料1を載せた後、作動子23ひいては試料押し当て板24を所定距離前進させつつ押し当てることにより、試料1を所定の厚さに設定した後、試料受け板14側または試料押し当て板24側を所定周波数で、かつ、所定の振幅値で交互に繰り返し回転させ、そのときの試料1の曲げ変形応力に応じたトルク信号を取り出し、試料1の劣化の指標となる物理量を得るので、潤滑剤及び粘稠性物質の初動動作不良を含む動的特性を取り出すことができ、ひいては劣化状態を容易に把握することができる。
【0037】
また、潤滑剤及び粘稠性物質の動的特性を取り出すために、大掛かりな前処理が不要であり、また検量線も必要とせず、複雑な作業を行うことなく比較的迅速に劣化状態を把握できる。
【0038】
図4は本発明に係る潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置の実施形態を示す図であって、同図(a)は正面図、同図(b)は上面図である。
【0039】
この劣化診断装置は、直方体形状をなす2つの金属製基台31a,31bが突き合わせるように配置されている。これら基台31a,31bの上面部長手方向に沿って凹状溝32a,32bが形成され、これら溝32a,32bには例えばガラスなどの透明板体33a,33bが当該透明板体33a,33bの高さの例えば6分の1程度入り込むように嵌合され、透明板体33a,33bの横方向のずれを防いでいる(図5参照)。
【0040】
基台31aに載置される透明板体33aは長手方向のほぼ2分する位置から図示右側方向にL字状に切り欠いて平坦な試料受け部34aが形成され、一方、基台31bに載置される透明板体33bは長手方向のほぼ2分する位置から図示左側方向に逆L字状に切り欠いて平坦な試料押し当て部34bが形成されている。つまり、透明板体33aの試料受け部34aと当該試料受け部34aの上部に位置する透明板体33bの試料押し当て部34bとが完全に重なり合う状態となる。
【0041】
このとき、各透明板体33a,33bが図示左右方向に可動可能にするために、各透明板体33a,33bの試料受け部34a,試料押し当て部34bの各先端部と相手側となる透明板体33b,33aの対峙面部との間に所定の隙間35が設けられている。
【0042】
なお、透明板体33aは、ガラス板体を用いたが、例えば重量の軽いアクリル板体でもよい。一方、透明板体33bは、適宜な重量を必要とすることから、ガラス板体を用いるのが望ましい。
【0043】
そして、透明板体33bの試料押し当て部34bの上面部の所定領域には図6に示すような目盛り36が施されている。この目盛り36は、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ0.5mm間隔でマーキングされ、かつ、中心部から外側方向に5mm間隔の円が描かれている。5mm間隔の円を描き、かつ、X軸方向及びY軸方向に0.5mm間隔でマーキングを施した理由は、潤滑剤及び粘稠性物質の設定位置と広がり径を視覚的に読み取り可能にする為である。
【0044】
前記透明板体33aの図示右側端部には電気的に駆動制御する例えばアクチュエータ本体部などの駆動装置37を介して例えばアクチュエータドライバなどの駆動制御部38が接続されている。駆動制御部38は、透明板体33aを図示右側方向に所要の引張り力で引張るための引張り力指示信号を駆動装置37に伝達する。駆動装置37は、引張り力指示信号を受けて透明板体33aを図示右側方向に引き寄せる。なお、所要のタイミングで透明板体33aに所定のばね力を有する引張りばねを接続し、透明板体33aを引っ張る構成であってもよい。
【0045】
さらに、前記透明板体33bの図示左側端部にはロードセル39を介して信号処理部40が接続されている。ロードセル39は試料1の引き剥がし力を測定する。信号処理部40は、ロードセル39で測定した引き剥がし力に相当する信号を受け取り、せん断力及び引っ張り力に変換し出力する。
【0046】
次に、以上のような劣化診断装置の動作及び本発明に係る劣化診断方法の一実施の形態について説明する。
(1) 先ず、電路用開閉器や機構構造物の操作機構部から採取した潤滑剤または粘稠性物質を透明板体33aの試料受け部34aの所定位置に塗布した後、当該試料受け部34a上に位置決めして透明板体33bの試料押し当て部34bを重ね合すように当該透明板体33bを基台31b上に設置する。
【0047】
(2) この状態においては、試料受け部34a上の試料1が透明板体33bの荷重を受けて広がっていくので、透明板体33bを載せた後一定時間経過後に目盛り36を通して試料1の広がり径を読み取るとともに、少なくとも透明板体33bをガラス板体とすることにより、広がった試料1から当該試料1内に気泡や異物の巻き込み、さらに密着度合いを観察し、記録する。
【0048】
(3) 試料1内に気泡や異物の巻き込みが少なく、また密着度合いから測定に十分であると判断したとき、駆動制御部38を稼動し、引っ張り制御指示信号を駆動装置37送出し、当該駆動装置37にて透明板体33bを図示右方向に引っ張る。
【0049】
(4) 駆動装置37により透明板体33bを図示右方向に引っ張ると、透明板体33bが徐々に右方向に移動し、それに伴って試料1の稠度に応じたずれ量(せん断力)となって現れる。その後、駆動装置37による引っ張り力が大きくなるにつれ、試料1が試料受け部34aの面部にそって相互に逆方向にずれようとする現象,つまり、互いに引き剥がれようとする作用が働きつつ、他方の透明板体33aが図示右方向に少しずつ可動する。
【0050】
このとき、ロードセル39は、透明板体33bを介して試料1の稠度に応じた引き剥がし力(せん断力,引っ張り力)に比例するレベルの信号を取り出し、信号処理部40に送出する。信号処理部40は、ロードセル39で測定したレベル信号をロードセルアンプで増幅した後、所要とする引き剥がし力(せん断力,引っ張り力)を算出し出力する。
【0051】
図7は試料1のせん断特性を示す図である。この図は同一試料1に対して測定回数N=5回にわたってせん断特性を求めた実験例であって、本来であれば、5回のせん断特性は互いに重なり合った状態で表されるが、ここでは説明の便宜上、見易くするために横軸方向に並べて示している。この図の横軸は、透明板体33bを介して試料1を引っ張ったときの当該試料1のずれ移動距離、縦軸はせん断力Fを示す。なお、各せん断特性の図示(イ)は引っ張り始め、各特性の頂点部(ロ)は最大せん断力(引っ張り力)、図示(ハ)は試料1の伸びきった収束点、図示(ニ)は試料1のずれ移動距離(mm)を示す。
【0052】
この図から明らかなように、5回の実験結果から分るように、同一試料1の場合には各最大せん断力にそれ程大きな変化が見られない。そこで、このように5回の実験結果で得られた最大せん断力を平均化し、当該試料1の最大せん断力Fとする。
【0053】
図8は図7の実験結果を踏まえて潤滑剤及び粘稠性物質の劣化の程度と最大せん断力(引っ張り力)Fとの関係を示した図である。同図に示すように、使用始めの新品と長期間使用した劣化品と交換を必要とする2つの寿命品1,2とについて、図6に示す実験によって最大せん断力Fを求めると、新品の場合には潤滑剤及び粘稠性物質がさらさらの状態にあるので、劣化品及び2つの寿命品1,2に比べて最大せん断力Fが小さいが、劣化品,寿命品1,2となるに従って最大せん断力Fが大きくなる。劣化品,寿命品1,2の場合には潤滑剤及び粘稠性物質が徐々硬くなってくる為である
よって、図8から潤滑剤及び粘稠性物質のせん断応力,引っ張り応力の如く機械的特性を測定することにより、これらせん断応力,引っ張り応力と稠度(=劣化の程度)との間に高い相関関係を有していることが分る。
【0054】
従って、以上のような実施の形態によれば、透明板体33aの試料受け部34aに試料1を載せた後、透明板体33bの試料押し当て部34bを重ね合わすように載せて荷重をかけ、駆動装置37で透明板体33bを引っ張り、そのとき、試料1を介して透明板体33aにかかる試料1の引き剥がし力(せん断力,引っ張り力)を測定し、ひいては、劣化の指標となる機械的特性を得ることにより、前述する実施の形態と同様に潤滑剤及び粘稠性物質の劣化状態を容易に把握することができる。
【0055】
また、潤滑剤及び粘稠性物質の機械的特性を取り出すために、大掛かりな前処理が不要であり、また検量線も必要とせず、複雑な作業を行うことなく比較的迅速に劣化状態を把握できる。
【0056】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば図4では、直方体形状をなす2つの金属製基台31a,31bが突き合わせるように配置したが、同等の長さを有する直方体形状をなす1つの金属製基台であっても構わない。
【符号の説明】
【0057】
1…試料、2…試料測定系、3…試料設定系、4…信号処理部、11…トルクセンサ、12…試料載置台、13…受動子、14…試料受け板、21…駆動制御部、22…駆動装置、23…作動子、24…試料押し当板、31a,31b…金属製定置基台、32a,32b…溝、33a,33b…透明板体、34a…試料受け部、34b…試料押し当て部、36…目盛り、37…駆動装置、38…駆動制御部、39…ロードセル、40…信号処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤及び粘稠性物質(以下、試料と呼ぶ)の劣化を診断する潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置において、
直方体形状をなす所定長さの基台上の一端側に摺動可能に載置され、試料受け部を設けた第1の透明板体及び他端側に摺動可能に載置され、前記試料受け部に載置される試料を上方から所望の荷重で重ね合わせるように押し当てる試料押し当て部を設けたガラス製の第2の透明板体と、
前記試料受け部に載置される試料が前記試料押し当て部を有する第2の透明板体の荷重を受けて放射状に所定の直径まで広がったとき、当該第2の透明板体を前記第1の透明板体とは逆の方向に引っ張る駆動装置と、
前記第1の透明板体側に設けられ、前記駆動装置によって前記第2の透明板体を引っ張ったときの前記試料の劣化程度と相関関係を有する引き剥がし力(せん断力、引っ張り力)を測定する測定手段と
を備えたことを特徴とする潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置において、
前記試料押し当て部の真上面部に前記試料の広がり直径を視認可能にする目盛りを施したことを特徴とする潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断装置。
【請求項3】
試料の劣化を診断する潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断方法において、
直方体形状をなす基台上の一端側に摺動可能に載置された第1の透明板体から突き出る試料受け部上面の所定部位に試料を塗布する第1のステップと、
基台上の他端側に摺動可能に載置された第2のガラス透明板体に突き出して前記試料受け部に塗布される試料を上方から所望の荷重にて重ね合わさるように試料押し当て部を設定した第2のステップと、
前記試料受け部に塗布される試料が前記試料押し当て部に重ね合せによって所定の直径まで拡大したとき、当該第2の透明板体を前記第1の透明板体とは逆の方向に引っ張る第3のステップと、
この第3のステップにより前記第2の透明板体を引っ張ったときの前記試料の劣化程度と相関関係を有する引き剥がし力(せん断力、引っ張り力)を測定する第4のステップとを有することを特徴とする潤滑剤及び粘稠性物質の劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242412(P2011−242412A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197373(P2011−197373)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【分割の表示】特願2006−235415(P2006−235415)の分割
【原出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(595019599)芝府エンジニアリング株式会社 (40)