説明

潤滑剤組成物の製造方法

【課題】低騒音化や低トルク化、耐摩耗性、耐焼付き性等の更なる改善を図った潤滑剤組成物を簡易な方法で提供する。
【解決手段】基油に、特定のウレア化合物及びベンジリデンソルビトール誘導体を加熱溶解させた後、冷却してウレア化合物及びベンジリデンソルビトール誘導体を再結晶化することを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業機械や各種モータ、自動車部品等に組み込まれる転がり軸受等に好適な潤滑剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種産業機械や各種モータ、自動車部品に組み込まれる転がり軸受には、潤滑性を付与するためにグリースや潤滑油が使用されている。このうち、グリースは、軸受に密封できるという利点があり、転がり軸受では非常に広く使用されている。反面、潤滑油を供給する油潤滑方式に比べてグリースは流動性が悪いため、転送面への供給性が悪く、潤滑不足から種々の不具合を招く可能性がある。
【0003】
このような背景から、増ちょう剤となるウレア化合物を基油中に加熱溶解させ、ろ過することにより、リチウム石けん系グリース並みに低騒音性を図ったグリースが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−162790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、各種産業機械や各種モータ、自動車部品に組み込まれる転がり軸受は、高速化が一層進んでおり、更なる性能向上、具体的には低騒音化や低トルク化、耐摩耗性、耐焼付き性等の更なる改善が望まれている。そこで本発明は、これらの特性により優れる潤滑剤組成物を簡易な方法により提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は下記の潤滑剤組成物の製造方法を提供する。
(1) 基油に、下記一般式(1)または(2)で表されるウレア化合物と、ベンジリデンソルビトール誘導体とを加熱溶解させた後、冷却してウレア化合物及びベンジリデンソルビトール誘導体を再結晶化することを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法。
【0007】
【化2】

【0008】
〔(1)式中、C2m+1及びC2n+1は直鎖アルキル基であり、m+nは16〜36である。また、(2)式中、C2x+1及びC2y+1は直鎖アルキル基であり、x+yは20〜36である。〕
(2)基油がエステル油であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定のウレア化合物とベンジリデンソルビトール誘導体とを含み、低騒音化や低トルク化、耐摩耗性、耐焼付き性等の各種特性が改善された潤滑剤組成物を、加熱溶融後に、冷却して再結晶化するという簡易な方法により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
本発明では、基油に、下記一般式(1)または(2)で表されるウレア化合物と、ベンジリデンソルビトール誘導体とを加熱溶解させた後、冷却してウレア化合物及びベンジリデンソルビトール誘導体を再結晶化する。
【0012】
【化3】

【0013】
(1)式中、C2m+1及びC2n+1は直鎖アルキル基であり、m+nは16〜36である。また、(2)式中、C2x+1及びC2y+1は直鎖アルキル基であり、x+yは20〜36である。
【0014】
基油としてはウレア化合物及びベンジリデンソルビトール誘導体との親和性が高く、加熱によりこれらを完全に溶解できることから、エステル油が好ましい。エステル油としては、制限はないが、芳香族系三塩基酸または芳香族系四塩基酸と、分岐アルコールとの反応から得られる芳香族エステル油、一塩基酸と多価アルコールとの反応から得られるポリオールエステル油等を好適に挙げることができる。
【0015】
具体的には、芳香族エステル油としては、芳香族系三塩基酸と分岐アルコールとの反応から得られるエステル油としてピロメリット酸エステル油、トリメシン酸エステル油、具体的にはトリオクチルトリメリテートやトリデシルトリメリテート、芳香族系四塩基酸と分岐アルコールとの反応から得られるピロメリット酸エステル油、具体的にはテトラオクチルピロメリテート等が挙げられる。
【0016】
また、ポリオールエステル油としては、以下に示す多価アルコールと一塩基酸とを適宜組み合わせて反応させて得られるものが挙げられる。尚、一塩基酸は単独でもよいし、複数を用いてもよい。更に、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステルとして用いてもよい。多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ネオペンチルグルコール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。一方、一塩基酸としては、主に炭素数4〜16の一価脂肪酸が用いられ、具体的には、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、エナント酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミステリン酸、パルミチン酸、牛脂脂肪酸、ステアリン酸、カプロレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アスクレピン酸、バクセン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノイン酸、アビニン酸、リシノール酸等が挙げられる。
【0017】
上記のウレア化合物は、ジイソシアネートと、モノアミンとを基油中で反応させて得られる。例えば、第1の容器にて所定量の半分の量の基油にジイソシアネートとを添加して溶解しておき、第2の容器にて所定量の半分の量の基油にモノアミンを添加して溶解しておき、第1の容器の内容物と第2の容器の内容物とを混合し、加熱することで基油中にウレア化合物が生成する。
【0018】
ここで、ジイソシアネートとしては、一般式(1)で表されるウレア化合物ではヘキサメチレンジイソシアネートを、一般式(2)で表されるウレア化合物では4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネートを用いる。一方、モノアミンとしては、一般式(1)で表されるウレア化合物では直鎖のC2m+1を有する脂肪族アミン及び直鎖のC2n+1を有する脂肪族アミンを用い、一般式(2)で表されるウレア化合物では直鎖のC2x+1を有する脂肪族アミン及び直鎖のC2y+1を有する脂肪族アミンを用いる。尚、m+nは16〜36であり、x+yは20〜36であるが、炭素数が多いほど基油との親和性が高く、溶解温度が低下するようなり、特にエステル油において顕著になる。
【0019】
ベンジリデンソルビトール誘導体は、上記のウレア化合物が生成した基油に添加される。ベンジリデンソルビトール誘導体としては、ジベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール、非対称のジアルキルベンジリデンソルビトール等を好適に挙げることができる。
【0020】
ベンジリデンソルビトール誘導体は、数質量%の添加量で基油をNLGI No.2〜No.3程度の硬さに増ちょうできる能力を備えている。また、せん断を受けた時に結晶粒子が分散して流動性を示し、せん断を受けない時には結晶粒子が凝集して流動性を示さなくなるという、流動−復元可逆性を有する。しかし、せん断の有無を繰り返すうちに短時間での構造復元が困難になり、軟化するようになる。そこで、この流動−復元可逆性が緩やかであるウレア化合物を併用することにより、ベンジリデンソルビトール流動体の結晶粒子がウレア化合物の結晶粒子を架橋して再凝集し易くなり、安定した流動−復元可逆性が得られるようになる。
【0021】
このような作用を効果的に得るために、ウレア化合物とベンジリデンソルビトール誘導体とを、(ベンジリデンソルビトール誘導体/ウレア化合物)重量比で0.1〜1.0となるように混合することが好ましい。この混合比が0.1未満であると、ベンジリデンソルビトール誘導体の結晶粒子の凝集が起こり難く、せん断を受けない時に増ちょう剤網目構造の復元が遅くなり、適用箇所から漏洩しやすくなる。一方、この混合比が1を超えると、分散・凝集の可逆性が損なわれ、漏洩しやすくなる。
【0022】
ウレア化合物とベンジリデンソルビトール誘導体とを基油に溶解させるには、150〜210℃に加熱すればよい。この加熱により、透明な液状物が得られる。
【0023】
そして、液状物を冷却することにより、エステル油中にそれぞれの結晶粒子が析出(再結晶化)する。結晶粒子は粒径が小さく、分散性に優れる。
【0024】
尚、得られる潤滑剤組成物は、せん断力が加わる状態ではウレア化合物とベンジリデンソルビトール誘導体とからなる網目構造が切断され、ウレア化合物の結晶粒子及びベンジリデンソルビトール誘導体の結晶粒子が配向され著しい硬さ変化が起こり、油状となる。一方、せん断が加わらない状態では網目構造が復元してゲル状となる。従って、転がり軸受に封入した場合、作動時に一部の潤滑剤組成物は転送面から排出されても、保持器とシールとの隙間や転送面付近に存在する潤滑剤組成物と接触すると、極く弱いせん断力が加わり流動性が付与され、転送面に再度供給される。このように、潤滑剤組成物は、潤滑油に近い良好な流動性を有し、低トルクで、耐久性能が良好となる。また、シールに付着した潤滑剤組成物は、せん断力が加わらない状態となるため、ゲル状となり漏洩を防止することもできる。
【0025】
また、潤滑剤組成物には、その用途に応じて添加剤を配合することにより、各種性能を向上させることができる。例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛等の酸化防止剤;スルホン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩、コハク酸誘導体等の防錆剤;リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤;脂肪酸、動植物油等の油性向上剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて適量添加することができる。これら添加剤は、基油に添加してもよいし、潤滑剤組成物の製造過程で添加してもよい。
【実施例】
【0026】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0027】
(実施例1)
第1の容器にて、42部のペンタエリスリトールエステル(PET)にヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を4部添加して溶解し、70℃まで加熱した。第2の容器にて、45部のPETにオクチルアミン(CNH)を6部溶解した。そして、第1の容器に第2の容器の内容物を入れ、攪拌しながら徐々に昇温して140℃で30分保持してウレア化合物を合成した。次いで、第1の容器にジベンジリデンソルビトール(DBS)を3部添加し、十分に攪拌して混合した後、195℃まで昇温してウレア化合物とDBSとを完全に溶解させた。次いで、予め水冷したアルミニウム製バットに第1の容器の内容物を流し込み、バットを流水で冷却することでゲル状物を得た。そして、ゲル状物を3本ロールミルにかけて供試潤滑剤組成物を得た。
【0028】
(実施例2〜6)
表1に示す基油、ジイソシアネート、モノアミン及びベンジリデンソルビトール誘導体を用い、実施例1に準じて供試潤滑剤組成物を得た。
【0029】
(比較例1)
PET中で、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とシクロへキシルアミン(CHA)とを反応させてウレア化合物を合成し、供試潤滑剤組成物を得た。
【0030】
(比較例2)
PETにDBSを添加して供試潤滑剤組成物を得た。
【0031】
(比較例3)
鉱油(MO)に、12ヒドロキシステアリン酸リチウム及びDBSを配合して供試潤滑剤組成物を得た。
【0032】
(比較例4)
MO中で、MDIとp−トルイジンとを反応させてウレア化合物を合成し、N−アシルアミノ酸ジアミドを添加して供試潤滑剤組成物を得た。
【0033】
(比較例5)
PET中で、HDIとCNHとを反応させてウレア化合物を合成し、供試潤滑剤組成物を得た。
【0034】
(比較例6)
PET中で、トリレンジイソシアネート(TDI)とCNHとを反応させてウレア化合物を合成し、DBSを添加して供試潤滑剤組成物を得た。
【0035】
上記の各供試潤滑剤組成物について、下記の評価を行なった。
【0036】
(1)せん断の有無と見かけ粘度との関係
実施例1の供試潤滑剤組成物と比較例1の供試潤滑剤組成物とを用い、初期の見かけ粘度(図中●)、せん断を1回受けた後の見かけ粘度(図中▲)、せん断を1回受け所定時間放置した後の見かけ粘度(図中■)、放置後更にせん断を受けたとき(せん断2回目)の見かけ粘度(図中◆)を測定した。図1に実施例1の供試潤滑剤組成物の測定結果を示すが、せん断を受けたときに油状となって流動性を示し、放置すると元の硬さのゲル状に戻る特性を有することがわかる。一方、図2に比較例1の供試潤滑剤組成物の測定結果を示すが、ウレア化合物のみを含むため、せん断を受けた時と放置時とで見かけ粘度の変化が少ない。
【0037】
(2)混和ちょう度、不混和ちょう度の評価
各供試潤滑剤組成物について、混和ちょう度(60W)と不混和ちょう度(0W)との差を求めた。結果を表1及び表2に示すが、50以上を合格とした。
【0038】
(3)流動−復元可逆性試験
各供試潤滑剤組成物を、自転−公転式攪拌機(せん断条件:自転1370r/min、公転1370r/min、3min)で攪拌して不混和ちょう度を測定した後、40℃で3時間放置して不混和ちょう度を測定するサイクルを4回繰り返した。結果を表1及び表2に示すが、1回目のせん断後の不混和ちょう度と、2〜4回のせん断後の各不混和ちょう度との差、並びに1回目の放置後の不混和ちょう度と、2〜4回目の放置後の各不混和ちょう度との差が、何れも±15以内であれば、良好な流動−復元可逆性を有すると見なすことができ、各実施例の供試潤滑剤組成物はこの基準を満足している。
【0039】
また、図3に、実施例1、比較例1及び比較例2の各供試潤滑剤組成物の測定結果をグラフ化して示すが、比較例1及び比較例2の供試潤滑剤組成物は、攪拌と放置とを繰り返すうちに、放置後の不混和ちょう度の上昇が大きく、流動−復元可逆性が低下している。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1の供試潤滑剤組成物におけるせん断応力と見かけ粘度との関係を示すグラフである。
【図2】比較例1の供試潤滑剤組成物におけるせん断応力と見かけ粘度との関係を示すグラフである。
【図3】(3)流動−復元可逆性試験における実施例1、比較例1及び比較例2の各供試潤滑剤組成物の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に、下記一般式(1)または(2)で表されるウレア化合物と、ベンジリデンソルビトール誘導体とを加熱溶解させた後、冷却してウレア化合物及びベンジリデンソルビトール誘導体を再結晶化することを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法。
【化1】

〔(1)式中、C2m+1及びC2n+1は直鎖アルキル基であり、m+nは16〜36である。また、(2)式中、C2x+1及びC2y+1は直鎖アルキル基であり、x+yは20〜36である。〕
【請求項2】
基油がエステル油であることを特徴とする請求項1記載の潤滑剤組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−280475(P2008−280475A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127726(P2007−127726)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】