濃度計測装置及び溶液濃度を計測する方法
【課題】濃度を計測する際の温度依存性が小さく、構造が簡素で小型化が可能な濃度計測装置を提供する。
【解決手段】濃度計測装置においては、測定対象である溶液が満たされた配管1に振動が加えられ、その振動による配管1の半径方向の変位量が計測される。複数の異なる周波数で配管1を振動させ、それに応じた配管1の変位量が取得される。これらのデータを解析することで、配管1の固有振動数が算出される。この配管1の固有振動数及び溶液の温度と、予め定められた溶液の濃度及び配管1の固有振動数の対応関係から溶液の濃度が推定される。
【解決手段】濃度計測装置においては、測定対象である溶液が満たされた配管1に振動が加えられ、その振動による配管1の半径方向の変位量が計測される。複数の異なる周波数で配管1を振動させ、それに応じた配管1の変位量が取得される。これらのデータを解析することで、配管1の固有振動数が算出される。この配管1の固有振動数及び溶液の温度と、予め定められた溶液の濃度及び配管1の固有振動数の対応関係から溶液の濃度が推定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶液の濃度を計測する濃度計測装置及び溶液濃度を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液の濃度を計測する方法としては、溶液中における音速から溶液の密度を測定する方法及び特許文献1〜特許文献4並びに参考文献1に開示されるように溶液に接する振動体の振動数から溶液の密度を測定する方法が知られている。
【0003】
溶液中における音速を測定する方法では、溶液の密度ρFと溶液中の音速cとの間に成立する次式の関係が用いられている。
【数2】
【0004】
ここで、Kは、溶液の体積弾性率である。
【0005】
溶液の濃度が変化すると、密度及び体積弾性率の両方が変化し、その結果、この式(1)に示されるように音速が変化される。従って、予め濃度と音速の関係が判明していれば、音速を測定することにより溶液の濃度を知ることができる。しかし、一般的に、密度の温度依存性は、小さいが、体積弾性率の温度依存性が大きいため、音速も温度依存性も大きい関係にある。従って、音速を利用した濃度測定の際には、溶液の温度を精度良く知っておくことが必要とされる。
【0006】
例えば、液温40℃、重量比3%のメタノール溶液では、±15%の濃度変化を音速型の濃度センサーで計測する場合、±0.1℃以下の精度で液温を管理する必要がある。従って、液温を厳密に管理する機材が必要となり、濃度センサーを小型化できないという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献1〜特許文献4及び参考文献1に開示されるように、上記音速型濃度センサーより温度依存性の小さく濃度を算出することができる技術として、溶液に接する振動体の振動数から溶液の密度を測定する方法が提案されている。
【0008】
特許文献1及び2に開示されるように、この方法では、被測定溶液に接する水晶振動子を発振させて当該水晶振動子の固有振動数を求めることで、溶液の密度を測定して濃度を推定している。しかし、この方法では、水晶振動子の質量に比べ溶液の密度変化が小さい場合には、検出感度の制限から精度のよい測定はできない問題がある。
【0009】
特許文献3、4、及び非特許文献1に開示されるように、溶液に接する振動体の固有振動数から溶液の密度を測定する方法において、その測定における検出感度を向上させる方法が提案されている。
【0010】
特許文献3に開示されるように、溶液の濃度を検出する感度を向上させるために、流体が流通される配管、即ち、管路から分岐され、振動体に接する流体導入口を有する空洞を設けることが提案されている。この特許文献3に開示される測定系は、流体導入口の部分にある溶液を流体質量とする所謂ヘルムホルツ共鳴系を構成している。しかし、この測定系は、相対的に狭い流体導入口を介して空洞内に流体が導入されているため、流体を空洞内に導入することが困難となる問題があり、流体が空洞内に滞留してしまうという問題がある。
【0011】
非特許文献1に開示されるように、流路配管に微小なバイパス配管が設けられ、当該微小配管の固有振動数が溶液の密度変化に依存して変化することを利用する濃度を検出する測定方法がある。しかし、この方法も微小配管に溶液を導入することが困難であるという問題がある。
【0012】
特許文献4に開示されるように、溶液の濃度を検出する感度を向上させるために、振動体の振動により生ずる溶液の流動を制限するための遮蔽容器が振動体を包囲するように設けられている測定系が知られている。この測定系は、溶液を測定部に導入させるに困難が伴うことがなく、また、測定部に溶液が滞留するという問題を解決することができるが、遮蔽容器という付加的な部材が必要とされる問題がある。
【特許文献1】特開平6−18394号公報
【特許文献2】特開平9−89740号公報
【特許文献3】特開昭63−144233号公報
【特許文献4】特開2006−275987号公報
【非特許文献1】D.Sparks他、Proceedings IEEE TRANSDUCER’03、pp300-303
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、従来の濃度計測装置は、温度依存性が大きく、温度管理に機材が必要であり、小型化が難しいという問題がある。また、固有振動数から濃度を計測する濃度計測装置では、温度依存性を小さくすることができるが、溶液の流通される配管に複雑な構造の測定部を設けることが必要とされる。従って、溶液を測定部に導入させるが困難である、或いは、測定部に溶液が滞留するという信頼性上の問題がある。また、溶液の濃度の検出感度を向上するために、振動体を包囲する遮蔽容器を設置しなければならず、付加的な部材が必要であるという構造上の問題がある。濃度計測装置には、温度依存性が小さく、信頼性が高く、且つ、構造が簡素で小型化が可能であることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、上記問題点を解決するためになされてものであり、その目的は、濃度の測定精度の向上を図るとともに、構造が簡素化された濃度計測装置を提供することにある。
【0015】
この発明によれば、測定対象となる溶液が満たされ、当該溶液がその内を流出される配管であって、前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を測定する為の検出領域を有する配管と、
前記配管或いは前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を基準に定められた複数の振動周波数を次々に発生する周波数発生器と、
前記配管の検出領域に固定され、前記測定信号で附勢されて前記配管及び前記溶液に振動を与える加振素子と、
前記配管の検出領域に固定され、この領域における振動を検出して検出信号を発生する振動検出素子と、
予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が記述されたテーブルが格納された記憶部と、
前記検出信号と前記測定信号とを比較して前記溶液が満たされた前記検出領域における前記配管の固有振動数を導出する算出部と、
この導出固有振動数で前記記憶部の参照固有振動数を参照して当該参照固有振動数で特定される前記溶液濃度を出力する濃度取得部と、
を具備することを特徴とする濃度計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の濃度計測装置においては、溶液が流通する配管の固有振動数が測定され、この測定された固有振動数から配管中に満たされた溶液の濃度が取得される。従って、温度依存性を低減でき、溶液の温度管理に要するコストを削減できる濃度計測装置を提供することができる。
【0017】
さらに、この発明の濃度計測装置においては、温度管理に必要な部品が不要なことから、より小型な濃度計測装置を実現することが可能となる。また、配管に複雑な構造の測定部を設ける必要がなく、溶液が測定部に導入することが困難となる問題、或いは溶液が測定部に滞留するような問題を回避することができる。従って、信頼性の高い濃度計測装置を実現することができる。また、検出感度を向上させるために、付加的な部材を必要とせず、構造が簡素化され、且つ、小型な濃度計測装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、この発明に係る濃度計測装置の最良な実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る濃度計測装置を概略的に示している。
【0020】
図1に示される濃度測定装置においては、測定対象の溶液5が流通される配管1には、図2に示されるように、配管1の半径方向に沿って振動を与える加振アクチュエータ2が固定されている。また、この配管1には、配管1内の溶液濃度を検出するために溶液5が満ちている配管1の固有振動数を検出する為のひずみゲージ3が固定されている。ここで、溶液5は、一例として、燃料電池6の発電システムにおける、反応されないで回収され、濃度が検出されることが要求される希釈化燃料が該当する。燃料電池6の発電システムにおいては、加振用アクチュエータ2及びひずみゲージ3は、例えば、図2に示すように燃料電池6に燃料を供給する燃料パイプに設置される。後に、説明されるように配管1内の溶液濃度が変化されると、溶液5が満ちている配管1の固有振動数が変化され、この固有振動数を計測することによって溶液濃度が求められる。ここで、溶液の濃度と称する場合は、混合溶液中の被検知物質の濃度を意味し、一例としての燃料電池6の燃料濃度は、水で希釈されたメタノールの濃度を意味している。
【0021】
濃度計測装置は、周波数が離散的に可変される周波数f1〜fxを有する測定信号を発生させる周波数発生器12を備えている。ここで、周波数発生器12からは、測定対象の溶液5で満たされた配管1における固有振動数と推測される振動数を基準として予め定められ、時間の経過と共に変位される周波数で測定信号が発生される。
【0022】
この周波数発生器12で発生される測定信号は、駆動アンプ13及び固有振動数算出部15に与えられる。駆動アンプ13に与えられた測定信号は、増幅され、溶液5及び配管1を振動させるための加振用アクチュエータ2に与えられる。図3に示されるように、配管1は、振動が与えられことによって微小変形されこの変形に伴い配管1の表面が半径方向に沿って変位される。この変位量を検出する為にひずみゲージ3が配管1に貼付されている。このひずみゲージ3で検出される変位量は、アンプ14で増幅され、増幅された検出信号が固有振動数算出部15に与えられる。
【0023】
また、この固有振動数算出部15には、周波数発生器12で発生された次々と周波数が可変される測定信号が与えられる。そして、この固有振動数算出部15は、周波数発生器12で発生させた周波数を有する測定信号を参照して、アンプ14から入力された配管1の変位量に依存する検出信号に含まれる伝達関数を解析する。即ち、固有振動数算出部15には、周波数発生器12で次々に発生される周波数が入力されるとともに変位量としての検出信号が入力され、両者を比較して検出信号に含まれる伝達関数を解析し、溶液5で満たされた配管1の固有振動数を算出している。固有振動数算出部15で算出されたこの固有振動数は、濃度取得部17に与えられる。
【0024】
上述したように、周波数発生器12では、溶液の濃度の測定時に時間の経過と共に離散的に変位される複数の異なる周波数が発生されるが、変位される周波数に共鳴して出力がピークを取る固有振動数が固有振動数算出部15で検出され、溶液5で満たされた配管1の固有振動数を特定することができる。後に述べるように、溶液5で満たされた配管1は、複数の振動モード(円筒殻の周方向モード或いは円筒殻の断面が変形するモードと称せられる。)を有し、振動モード毎に固有振動数が固有振動数算出部15で検出される。
【0025】
また、配管1には、配管1内の溶液の温度を測定する為の温度センサー4が設置されている。この温度センサー4から出力される温度検出信号は、温度取得部16に与えられる。この温度検出信号から温度取得部16で溶液の温度が取得され、濃度取得部17に与えられる。
【0026】
上述した固有振動数と推測される周波数は、どのような判断基準から導出しても良い。例えば、濃度固有振動数対応テーブルが保持している固有振動数の値、或いは、配管1内に溶液5がない場合の配管1の固有振動数を基準として導出された値を用いる等がある。
【0027】
尚、本実施の形態は、配管1を振動させる素子は、加振用アクチュエータ2に限られるものではなく、配管1を所定の周波数で振動させることが可能なものであればどのような素子が利用されても良い。
【0028】
また、ひずみゲージ3は、配管1に貼付され、測定時振動数による振動時の配管1の変位量を電圧信号として出力している。換言すれば、振動時における物理的な変動量として変位量がひずみゲージ3により計測される。この変位量を計測する素子は、ひずみゲージ3に限られるものではなく、他の検出素子が用いられても良い。
【0029】
上述したように、濃度取得部17には、固有振動算出部15で算出される配管1の固有振動数及び温度取得部16で取得される溶液5の温度が与えられる。そして、この濃度取得部17は、与えられた配管の固有振動数及び溶液5の温度から、記憶部11に予め格納された濃度固有振動数対応テーブルを参照して溶液5の濃度を取得し、検出濃度信号を出力する。
【0030】
次に、図4及び図5を参照して、測定対象の溶液5が満たされた配管1の半径方向の固有振動数から溶液の濃度を測定する図1に示される測定系の原理を説明する。図4は、溶液5が満たされている配管1のモデルを示している。以下に、このモデルの固有振動数について考察する。この配管1は、厚みhを有する円筒殻で作られているものとする。ここで、uは、配管1の半径方向の変位量ベクトル及びvは、配管1の円周方向の変位量ベクトルを示している。
【0031】
まず、図5に示すように、配管1の微小部分における力の釣り合いを考える。ここで、lは、配管1の微小部分の奥行き(配管1の厚み方向、即ち、半径方向に沿った微小部分の長さ)、ρEは、配管1の密度、Eは、配管1のヤング率、Iは、配管1の断面2次モーメント、Rは、配管1の半径を示している。また、Sは、配管1の微小部分の半径方向に作用する力、Tは、配管1の微小部分の周方向に作用する力、Mは、配管1の微小部分の曲げモーメントを示している。
【0032】
ここで、配管1の微小部分の質量dmは、
【数3】
【0033】
で表される。配管1の微小部分の半径方向の運動方程式は、
【数4】
【0034】
で表される。配管1の微小部分の円周方向の運動方程式は、
【数5】
【0035】
で表される。配管1の微小部分の重心まわりの回転モーメントに関する釣り合いの式は、
【数6】
【0036】
で表される。配管1の微小部分の曲げモーメントの式は、
【数7】
【0037】
で表される。弾性体の中央線が伸びない条件は、
【数8】
【0038】
で表される。円筒殻の断面が変形するモードは、図6に示すようなn(=2,3,4…)角形の形となる。nは振動モードの次数を示す。ここで、角振動数ωで振動する配管1の半径方向の変位を
【数9】
【0039】
と置く。anは、振幅を表す。ここで、配管1の内側に溶液5がない場合と、溶液5が満たされている場合について考える。
【0040】
配管1の内側に溶液がない場合、式(2)右辺の第3項を無視すると、式(2)〜(7)よりn角形の振動モードの固有角振動数と固有周波数は以下のようになる。
【数10】
【0041】
ここで、ωn及びfnは、夫々溶液がない配管1の固有角振動数及び固有周波数であり、配管1の微小部分の断面は、長方形とみなすことができるので、断面二次モーメントは、次式で与えられる。
【数11】
【0042】
従って、式(9)は次のように書き換えることができる。
【数12】
【0043】
配管1の内側に密度ρFの溶液が満たされている場合には、溶液を非粘性、非圧縮性のポテンシャル流であると仮定する。速度ポテンシャルをφとすると、連続の式は、
【数13】
【0044】
となり、境界条件は
【数14】
【0045】
となる。ここで、uは、溶液が満たされた配管1の半径方向の変位であり、式(7)で与えられる。ただし、配管1の内側に溶液が満たされている場合の角振動数ω及び周波数fに符号の上にチルダを付す。
【0046】
速度ポテンシャルを
【数15】
【0047】
と置き、式(12)〜(14)に代入して計算すると、次式が得られる。
【数16】
【0048】
溶液の密度をρFとすると、圧力の変動成分は次式で表される。
【数17】
【0049】
(16)、(17)より、次式が得られる。
【数18】
【0050】
式(2)〜(7)、(18)より、円筒殻の断面が変形するモードの固有角振動数は、振動モードの次数nを用いて以下のように導出される。
【数19】
【0051】
ここで、
【数20】
【0052】
である。即ち、式(20)の関係から配管1の共振振動数を測定することにより、溶液の密度ρFを算出することができ、それにより溶液の濃度を算出することが可能となる。
【数21】
【0053】
【数22】
【0054】
となるような配管1を用いることで検出感度が向上する。この式(23)の不等式おける左辺の分母は、配管1の質量を意味し、同左辺の分子は、溶液5の質量を意味している。従って、この式(23)は、配管1の密度が小さく、配管1が薄肉に形成される場合に検出感度が向上することを示している。配管1の密度を小さくし、配管1を薄肉に形成することができる材料としては、一例として、板圧を薄く加工することができ、しかも、軽い材料であるアルミニュームが好適とされる。配管1の密度を小さくし、配管1を薄肉に形成する条件は、溶液5が流通する配管1の全長に亘って充足されることは、要求されず、加振用アクチュエータ2及びひずみゲージ3が設けられる配管5の一部のみが密度が小さく、薄肉に形成されれば良い。
【0055】
次に、発明者は、配管1に満たされた溶液5の濃度と配管1の固有振動数との関係を以下の実験を実施して上述した式(20)が成立することを検証している。
【0056】
図7に、実験に用いた円筒形状のガラス管7を示す。直径49.6mm、暑さ1.6mmのガラス管7内に濃度を変えた食塩水を満たし、ガラス管7の固有振動数を測定した。測定結果は、図8(a)〜図8(c)に示されている。ここで、図8(a)は、図6(a)に示す次数2(n=2)の振動モードにおける液体密度ρF、に対する固有振動数fnのグラフを示し、図8(b)は、図6(b)に示す次数3(n=3)の振動モードにおける液体密度ρF、に対する固有振動数fnのグラフを示し、及び、図8(c)は、図6(c)に示す次数4(n=4)の振動モードにおける液体密度ρF、に対する固有振動数fnのグラフを示している。また、図8(a)〜(c)において、直線は、計算値であり、丸示すプロットは、実験で得られた値を示している。図8(a)〜(c)に示されるように、実験結果と式(20)から求められる計算値とは良く一致していることが明らかであり、本発明の原理が正当であることをすることが理解できる。
【0057】
図9は、図1に示される測定装置にいて、モード2(n=2)における周波数発生器12で発生された複数の周波数f21、f22,f23に対応して生ずる変位量の出力V21、V22,V23から解析された伝達関数を概略的に示すグラフである。図9で示すように発生した周波数f21、f22,f23における変位量V21、V22,V23から伝達関数が求められる。この伝達関数で最も高い変位量を示した周波数f2が固有振動数として特定できる。つまり、複数の測定時振動数及び変位量の対応関係から、伝達関数が特定できるので、固有振動数を算出することができる。
【0058】
図10は、溶液温度に依存して変動する濃度固有振動数対応テーブルを概略的に示している。図10に示すように、濃度固有振動数対応テーブルでは、列の欄に配管1の固有振動数f2,f3,f4,f5が付され、行の欄に流体の温度が付され、各フィールドには、予め実験的に測定された溶液の濃度x12〜x35が記載されている。即ち、濃度計測装置は、配管1の固有振動数を算出し、溶液の温度を取得した後に、濃度固有振動数対応テーブルを参照することで溶液の濃度を取得することができる。各フィールドに設定される溶液の濃度には、予め実験や既知の物質の特性から求められる値を用いることができる。また、溶液5の濃度と配管1の固有振動数は、式(20)を充足させる関係にあり、各フィールドに設定される値は、この式から算出される値を用いることもできる。濃度固有振動数対応テーブルを格納する記憶部11は、例えばHDD、光ディスク、メモリカードなどの一般的に用いられるあらゆる記憶手段で構成することができる。
【0059】
また、溶液の濃度の値にひとつの振動モードだけでなく、複数の振動モードから取得される溶液の濃度を平均した値を用いることで、溶液の濃度の測定精度を向上させることができる。
【0060】
次に、図1に示す濃度計測装置の動作について図11を参照して説明する。始めに、周波数発生器12は、配管1を振動させるある周波数を発生させる(ステップS1)。この周波数は、配管1の固有振動数と推測される振動数を基準として定められる周波数f1,f2…fnが時間の経過と共に切り替えられて発生される。次に、駆動アンプ13は、配管1を振動させるために、ステップS1で発生された周波数を増幅する(ステップS2)。そして、加振用アクチュエータ2は、駆動アンプ13により駆動され、ステップS2で増幅された周波数で配管1を振動させる(ステップS3)。振動による配管1の変位量は、ひずみゲージ3により検出され電圧値として出力される。この変位量は、アンプによって増幅される(ステップS4)。次に、固有振動数算出部15は、ステップS1で発生した周波数及びステップS4で増幅された変位量から伝達関数を求め、この伝達関数において最も変位量が大きい振動数を配管1の固有振動数として算出する(ステップS5)。
【0061】
次に、配管1に備え付けられた温度センサー4及び温度取得部16で配管1中の溶液の温度が計測される。そして、濃度取得部17は、ステップS5で算出された固有振動数及び温度取得部で取得された溶液の温度から、記憶部11に予め格納された濃度固有振動数対応テーブルを参照し溶液の濃度を取得する(ステップS6)。
【0062】
ステップ7において、異なる振動モードから溶液の濃度を取得する場合には、ステップ1に再び戻され、以前とは異なる配管1の振動モードにおいて、溶液の濃度が計測される。ステップ7において、対象モードを変更しない場合、ステップ8に示すように、各モードから取得した溶液の濃度の平均値を算出する。
【0063】
上述した処理手順により、精度良く溶液の濃度を取得することが可能となる。なお、上述した処理手順は、本実施の形態による溶液の濃度を取得する処理手順の例を示したものであり、本発明をこの処理手順に制限するものではない。例えば、温度の取得を、固有振動数を算出する前に行う等が考えられる。
【0064】
上述したようにこの発明の実施形態においては、測定対象である溶液5が満たされた配管1の固有振動数を算出することで、溶液5の濃度を計測することができる。本実施の形態に係る濃度計測装置は、固有振動数より濃度を計測するため温度依存性が小さくなる。従って、溶液5の温度管理する負担が軽減されるとともに、温度管理に必要な費用を削減できる。さらに、温度管理に必要な部品を省略できるので、小型化が可能となる。また、配管1には、配管1を振動させる装置を設置するだけで良く、配管1に複雑な構造の測定部を設置する必要がない。そのため、本濃度計測装置は、配管1が複雑な構造であることによって起こる溶液5が測定部へ流入し難い、または溶液5が測定部に滞留するという問題がない。従って、信頼性が高い溶液5の濃度の計測が可能となる。また、配管1に密度の小さい材料を用い、配管1を薄肉に形成することで検出の感度を向上することができる。従って、検出の感度を向上させるための付加的な部材を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】この発明の実施の形態に係る濃度計測装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1に示される加振アクチュエータ及びひずみゲージを設けた配管を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示した濃度計測装置の配管が振動する様子を示す模式図である。
【図4】図1及び図2に示した溶液で満たされた配管を概略的に示す断面図である。
【図5】溶液が満たされた配管の固有振動数と溶液の密度の関係式を導出する為に、図4に示した配管の微小部分を示す説明図である。
【図6】(a)、(b)及び(c)は、図4に示した配管が異なるモードにおいて固有振動数で振動する様子を示した模式図である。
【図7】溶液が満たされた配管の固有振動数から溶液の密度を算出できることを明らかにする為の実験に用いたガラス管を示す図である。
【図8】(a)、(b)及び(c)は、図6(a)〜(c)に示される異なる振動モードにおいて、図7に示されたガラス管での実験から得られた固有振動数と理論値とを比較したグラフである。
【図9】周波数発生器により発生された複数の周波数及び対応する配管の変位量から解析される伝達関数を概略的に示すグラフである。
【図10】図1に示される記憶部に格納される濃度固有振動数対応関係を示すテーブルの内容を概略的に示す表である。
【図11】図1に示される濃度計測装置において、溶液の濃度を取得する処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1…配管、2…加振用アクチュエータ、3…ひずみゲージ、4…温度センサー、5…溶液、6…燃料電池、7…ガラス管、11…記憶部、12…周波数発生器、13…駆動アンプ、14…アンプ、15…固有振動数算出部、16…温度取得部、17…濃度取得部
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶液の濃度を計測する濃度計測装置及び溶液濃度を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液の濃度を計測する方法としては、溶液中における音速から溶液の密度を測定する方法及び特許文献1〜特許文献4並びに参考文献1に開示されるように溶液に接する振動体の振動数から溶液の密度を測定する方法が知られている。
【0003】
溶液中における音速を測定する方法では、溶液の密度ρFと溶液中の音速cとの間に成立する次式の関係が用いられている。
【数2】
【0004】
ここで、Kは、溶液の体積弾性率である。
【0005】
溶液の濃度が変化すると、密度及び体積弾性率の両方が変化し、その結果、この式(1)に示されるように音速が変化される。従って、予め濃度と音速の関係が判明していれば、音速を測定することにより溶液の濃度を知ることができる。しかし、一般的に、密度の温度依存性は、小さいが、体積弾性率の温度依存性が大きいため、音速も温度依存性も大きい関係にある。従って、音速を利用した濃度測定の際には、溶液の温度を精度良く知っておくことが必要とされる。
【0006】
例えば、液温40℃、重量比3%のメタノール溶液では、±15%の濃度変化を音速型の濃度センサーで計測する場合、±0.1℃以下の精度で液温を管理する必要がある。従って、液温を厳密に管理する機材が必要となり、濃度センサーを小型化できないという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献1〜特許文献4及び参考文献1に開示されるように、上記音速型濃度センサーより温度依存性の小さく濃度を算出することができる技術として、溶液に接する振動体の振動数から溶液の密度を測定する方法が提案されている。
【0008】
特許文献1及び2に開示されるように、この方法では、被測定溶液に接する水晶振動子を発振させて当該水晶振動子の固有振動数を求めることで、溶液の密度を測定して濃度を推定している。しかし、この方法では、水晶振動子の質量に比べ溶液の密度変化が小さい場合には、検出感度の制限から精度のよい測定はできない問題がある。
【0009】
特許文献3、4、及び非特許文献1に開示されるように、溶液に接する振動体の固有振動数から溶液の密度を測定する方法において、その測定における検出感度を向上させる方法が提案されている。
【0010】
特許文献3に開示されるように、溶液の濃度を検出する感度を向上させるために、流体が流通される配管、即ち、管路から分岐され、振動体に接する流体導入口を有する空洞を設けることが提案されている。この特許文献3に開示される測定系は、流体導入口の部分にある溶液を流体質量とする所謂ヘルムホルツ共鳴系を構成している。しかし、この測定系は、相対的に狭い流体導入口を介して空洞内に流体が導入されているため、流体を空洞内に導入することが困難となる問題があり、流体が空洞内に滞留してしまうという問題がある。
【0011】
非特許文献1に開示されるように、流路配管に微小なバイパス配管が設けられ、当該微小配管の固有振動数が溶液の密度変化に依存して変化することを利用する濃度を検出する測定方法がある。しかし、この方法も微小配管に溶液を導入することが困難であるという問題がある。
【0012】
特許文献4に開示されるように、溶液の濃度を検出する感度を向上させるために、振動体の振動により生ずる溶液の流動を制限するための遮蔽容器が振動体を包囲するように設けられている測定系が知られている。この測定系は、溶液を測定部に導入させるに困難が伴うことがなく、また、測定部に溶液が滞留するという問題を解決することができるが、遮蔽容器という付加的な部材が必要とされる問題がある。
【特許文献1】特開平6−18394号公報
【特許文献2】特開平9−89740号公報
【特許文献3】特開昭63−144233号公報
【特許文献4】特開2006−275987号公報
【非特許文献1】D.Sparks他、Proceedings IEEE TRANSDUCER’03、pp300-303
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、従来の濃度計測装置は、温度依存性が大きく、温度管理に機材が必要であり、小型化が難しいという問題がある。また、固有振動数から濃度を計測する濃度計測装置では、温度依存性を小さくすることができるが、溶液の流通される配管に複雑な構造の測定部を設けることが必要とされる。従って、溶液を測定部に導入させるが困難である、或いは、測定部に溶液が滞留するという信頼性上の問題がある。また、溶液の濃度の検出感度を向上するために、振動体を包囲する遮蔽容器を設置しなければならず、付加的な部材が必要であるという構造上の問題がある。濃度計測装置には、温度依存性が小さく、信頼性が高く、且つ、構造が簡素で小型化が可能であることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、上記問題点を解決するためになされてものであり、その目的は、濃度の測定精度の向上を図るとともに、構造が簡素化された濃度計測装置を提供することにある。
【0015】
この発明によれば、測定対象となる溶液が満たされ、当該溶液がその内を流出される配管であって、前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を測定する為の検出領域を有する配管と、
前記配管或いは前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を基準に定められた複数の振動周波数を次々に発生する周波数発生器と、
前記配管の検出領域に固定され、前記測定信号で附勢されて前記配管及び前記溶液に振動を与える加振素子と、
前記配管の検出領域に固定され、この領域における振動を検出して検出信号を発生する振動検出素子と、
予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が記述されたテーブルが格納された記憶部と、
前記検出信号と前記測定信号とを比較して前記溶液が満たされた前記検出領域における前記配管の固有振動数を導出する算出部と、
この導出固有振動数で前記記憶部の参照固有振動数を参照して当該参照固有振動数で特定される前記溶液濃度を出力する濃度取得部と、
を具備することを特徴とする濃度計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の濃度計測装置においては、溶液が流通する配管の固有振動数が測定され、この測定された固有振動数から配管中に満たされた溶液の濃度が取得される。従って、温度依存性を低減でき、溶液の温度管理に要するコストを削減できる濃度計測装置を提供することができる。
【0017】
さらに、この発明の濃度計測装置においては、温度管理に必要な部品が不要なことから、より小型な濃度計測装置を実現することが可能となる。また、配管に複雑な構造の測定部を設ける必要がなく、溶液が測定部に導入することが困難となる問題、或いは溶液が測定部に滞留するような問題を回避することができる。従って、信頼性の高い濃度計測装置を実現することができる。また、検出感度を向上させるために、付加的な部材を必要とせず、構造が簡素化され、且つ、小型な濃度計測装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、この発明に係る濃度計測装置の最良な実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る濃度計測装置を概略的に示している。
【0020】
図1に示される濃度測定装置においては、測定対象の溶液5が流通される配管1には、図2に示されるように、配管1の半径方向に沿って振動を与える加振アクチュエータ2が固定されている。また、この配管1には、配管1内の溶液濃度を検出するために溶液5が満ちている配管1の固有振動数を検出する為のひずみゲージ3が固定されている。ここで、溶液5は、一例として、燃料電池6の発電システムにおける、反応されないで回収され、濃度が検出されることが要求される希釈化燃料が該当する。燃料電池6の発電システムにおいては、加振用アクチュエータ2及びひずみゲージ3は、例えば、図2に示すように燃料電池6に燃料を供給する燃料パイプに設置される。後に、説明されるように配管1内の溶液濃度が変化されると、溶液5が満ちている配管1の固有振動数が変化され、この固有振動数を計測することによって溶液濃度が求められる。ここで、溶液の濃度と称する場合は、混合溶液中の被検知物質の濃度を意味し、一例としての燃料電池6の燃料濃度は、水で希釈されたメタノールの濃度を意味している。
【0021】
濃度計測装置は、周波数が離散的に可変される周波数f1〜fxを有する測定信号を発生させる周波数発生器12を備えている。ここで、周波数発生器12からは、測定対象の溶液5で満たされた配管1における固有振動数と推測される振動数を基準として予め定められ、時間の経過と共に変位される周波数で測定信号が発生される。
【0022】
この周波数発生器12で発生される測定信号は、駆動アンプ13及び固有振動数算出部15に与えられる。駆動アンプ13に与えられた測定信号は、増幅され、溶液5及び配管1を振動させるための加振用アクチュエータ2に与えられる。図3に示されるように、配管1は、振動が与えられことによって微小変形されこの変形に伴い配管1の表面が半径方向に沿って変位される。この変位量を検出する為にひずみゲージ3が配管1に貼付されている。このひずみゲージ3で検出される変位量は、アンプ14で増幅され、増幅された検出信号が固有振動数算出部15に与えられる。
【0023】
また、この固有振動数算出部15には、周波数発生器12で発生された次々と周波数が可変される測定信号が与えられる。そして、この固有振動数算出部15は、周波数発生器12で発生させた周波数を有する測定信号を参照して、アンプ14から入力された配管1の変位量に依存する検出信号に含まれる伝達関数を解析する。即ち、固有振動数算出部15には、周波数発生器12で次々に発生される周波数が入力されるとともに変位量としての検出信号が入力され、両者を比較して検出信号に含まれる伝達関数を解析し、溶液5で満たされた配管1の固有振動数を算出している。固有振動数算出部15で算出されたこの固有振動数は、濃度取得部17に与えられる。
【0024】
上述したように、周波数発生器12では、溶液の濃度の測定時に時間の経過と共に離散的に変位される複数の異なる周波数が発生されるが、変位される周波数に共鳴して出力がピークを取る固有振動数が固有振動数算出部15で検出され、溶液5で満たされた配管1の固有振動数を特定することができる。後に述べるように、溶液5で満たされた配管1は、複数の振動モード(円筒殻の周方向モード或いは円筒殻の断面が変形するモードと称せられる。)を有し、振動モード毎に固有振動数が固有振動数算出部15で検出される。
【0025】
また、配管1には、配管1内の溶液の温度を測定する為の温度センサー4が設置されている。この温度センサー4から出力される温度検出信号は、温度取得部16に与えられる。この温度検出信号から温度取得部16で溶液の温度が取得され、濃度取得部17に与えられる。
【0026】
上述した固有振動数と推測される周波数は、どのような判断基準から導出しても良い。例えば、濃度固有振動数対応テーブルが保持している固有振動数の値、或いは、配管1内に溶液5がない場合の配管1の固有振動数を基準として導出された値を用いる等がある。
【0027】
尚、本実施の形態は、配管1を振動させる素子は、加振用アクチュエータ2に限られるものではなく、配管1を所定の周波数で振動させることが可能なものであればどのような素子が利用されても良い。
【0028】
また、ひずみゲージ3は、配管1に貼付され、測定時振動数による振動時の配管1の変位量を電圧信号として出力している。換言すれば、振動時における物理的な変動量として変位量がひずみゲージ3により計測される。この変位量を計測する素子は、ひずみゲージ3に限られるものではなく、他の検出素子が用いられても良い。
【0029】
上述したように、濃度取得部17には、固有振動算出部15で算出される配管1の固有振動数及び温度取得部16で取得される溶液5の温度が与えられる。そして、この濃度取得部17は、与えられた配管の固有振動数及び溶液5の温度から、記憶部11に予め格納された濃度固有振動数対応テーブルを参照して溶液5の濃度を取得し、検出濃度信号を出力する。
【0030】
次に、図4及び図5を参照して、測定対象の溶液5が満たされた配管1の半径方向の固有振動数から溶液の濃度を測定する図1に示される測定系の原理を説明する。図4は、溶液5が満たされている配管1のモデルを示している。以下に、このモデルの固有振動数について考察する。この配管1は、厚みhを有する円筒殻で作られているものとする。ここで、uは、配管1の半径方向の変位量ベクトル及びvは、配管1の円周方向の変位量ベクトルを示している。
【0031】
まず、図5に示すように、配管1の微小部分における力の釣り合いを考える。ここで、lは、配管1の微小部分の奥行き(配管1の厚み方向、即ち、半径方向に沿った微小部分の長さ)、ρEは、配管1の密度、Eは、配管1のヤング率、Iは、配管1の断面2次モーメント、Rは、配管1の半径を示している。また、Sは、配管1の微小部分の半径方向に作用する力、Tは、配管1の微小部分の周方向に作用する力、Mは、配管1の微小部分の曲げモーメントを示している。
【0032】
ここで、配管1の微小部分の質量dmは、
【数3】
【0033】
で表される。配管1の微小部分の半径方向の運動方程式は、
【数4】
【0034】
で表される。配管1の微小部分の円周方向の運動方程式は、
【数5】
【0035】
で表される。配管1の微小部分の重心まわりの回転モーメントに関する釣り合いの式は、
【数6】
【0036】
で表される。配管1の微小部分の曲げモーメントの式は、
【数7】
【0037】
で表される。弾性体の中央線が伸びない条件は、
【数8】
【0038】
で表される。円筒殻の断面が変形するモードは、図6に示すようなn(=2,3,4…)角形の形となる。nは振動モードの次数を示す。ここで、角振動数ωで振動する配管1の半径方向の変位を
【数9】
【0039】
と置く。anは、振幅を表す。ここで、配管1の内側に溶液5がない場合と、溶液5が満たされている場合について考える。
【0040】
配管1の内側に溶液がない場合、式(2)右辺の第3項を無視すると、式(2)〜(7)よりn角形の振動モードの固有角振動数と固有周波数は以下のようになる。
【数10】
【0041】
ここで、ωn及びfnは、夫々溶液がない配管1の固有角振動数及び固有周波数であり、配管1の微小部分の断面は、長方形とみなすことができるので、断面二次モーメントは、次式で与えられる。
【数11】
【0042】
従って、式(9)は次のように書き換えることができる。
【数12】
【0043】
配管1の内側に密度ρFの溶液が満たされている場合には、溶液を非粘性、非圧縮性のポテンシャル流であると仮定する。速度ポテンシャルをφとすると、連続の式は、
【数13】
【0044】
となり、境界条件は
【数14】
【0045】
となる。ここで、uは、溶液が満たされた配管1の半径方向の変位であり、式(7)で与えられる。ただし、配管1の内側に溶液が満たされている場合の角振動数ω及び周波数fに符号の上にチルダを付す。
【0046】
速度ポテンシャルを
【数15】
【0047】
と置き、式(12)〜(14)に代入して計算すると、次式が得られる。
【数16】
【0048】
溶液の密度をρFとすると、圧力の変動成分は次式で表される。
【数17】
【0049】
(16)、(17)より、次式が得られる。
【数18】
【0050】
式(2)〜(7)、(18)より、円筒殻の断面が変形するモードの固有角振動数は、振動モードの次数nを用いて以下のように導出される。
【数19】
【0051】
ここで、
【数20】
【0052】
である。即ち、式(20)の関係から配管1の共振振動数を測定することにより、溶液の密度ρFを算出することができ、それにより溶液の濃度を算出することが可能となる。
【数21】
【0053】
【数22】
【0054】
となるような配管1を用いることで検出感度が向上する。この式(23)の不等式おける左辺の分母は、配管1の質量を意味し、同左辺の分子は、溶液5の質量を意味している。従って、この式(23)は、配管1の密度が小さく、配管1が薄肉に形成される場合に検出感度が向上することを示している。配管1の密度を小さくし、配管1を薄肉に形成することができる材料としては、一例として、板圧を薄く加工することができ、しかも、軽い材料であるアルミニュームが好適とされる。配管1の密度を小さくし、配管1を薄肉に形成する条件は、溶液5が流通する配管1の全長に亘って充足されることは、要求されず、加振用アクチュエータ2及びひずみゲージ3が設けられる配管5の一部のみが密度が小さく、薄肉に形成されれば良い。
【0055】
次に、発明者は、配管1に満たされた溶液5の濃度と配管1の固有振動数との関係を以下の実験を実施して上述した式(20)が成立することを検証している。
【0056】
図7に、実験に用いた円筒形状のガラス管7を示す。直径49.6mm、暑さ1.6mmのガラス管7内に濃度を変えた食塩水を満たし、ガラス管7の固有振動数を測定した。測定結果は、図8(a)〜図8(c)に示されている。ここで、図8(a)は、図6(a)に示す次数2(n=2)の振動モードにおける液体密度ρF、に対する固有振動数fnのグラフを示し、図8(b)は、図6(b)に示す次数3(n=3)の振動モードにおける液体密度ρF、に対する固有振動数fnのグラフを示し、及び、図8(c)は、図6(c)に示す次数4(n=4)の振動モードにおける液体密度ρF、に対する固有振動数fnのグラフを示している。また、図8(a)〜(c)において、直線は、計算値であり、丸示すプロットは、実験で得られた値を示している。図8(a)〜(c)に示されるように、実験結果と式(20)から求められる計算値とは良く一致していることが明らかであり、本発明の原理が正当であることをすることが理解できる。
【0057】
図9は、図1に示される測定装置にいて、モード2(n=2)における周波数発生器12で発生された複数の周波数f21、f22,f23に対応して生ずる変位量の出力V21、V22,V23から解析された伝達関数を概略的に示すグラフである。図9で示すように発生した周波数f21、f22,f23における変位量V21、V22,V23から伝達関数が求められる。この伝達関数で最も高い変位量を示した周波数f2が固有振動数として特定できる。つまり、複数の測定時振動数及び変位量の対応関係から、伝達関数が特定できるので、固有振動数を算出することができる。
【0058】
図10は、溶液温度に依存して変動する濃度固有振動数対応テーブルを概略的に示している。図10に示すように、濃度固有振動数対応テーブルでは、列の欄に配管1の固有振動数f2,f3,f4,f5が付され、行の欄に流体の温度が付され、各フィールドには、予め実験的に測定された溶液の濃度x12〜x35が記載されている。即ち、濃度計測装置は、配管1の固有振動数を算出し、溶液の温度を取得した後に、濃度固有振動数対応テーブルを参照することで溶液の濃度を取得することができる。各フィールドに設定される溶液の濃度には、予め実験や既知の物質の特性から求められる値を用いることができる。また、溶液5の濃度と配管1の固有振動数は、式(20)を充足させる関係にあり、各フィールドに設定される値は、この式から算出される値を用いることもできる。濃度固有振動数対応テーブルを格納する記憶部11は、例えばHDD、光ディスク、メモリカードなどの一般的に用いられるあらゆる記憶手段で構成することができる。
【0059】
また、溶液の濃度の値にひとつの振動モードだけでなく、複数の振動モードから取得される溶液の濃度を平均した値を用いることで、溶液の濃度の測定精度を向上させることができる。
【0060】
次に、図1に示す濃度計測装置の動作について図11を参照して説明する。始めに、周波数発生器12は、配管1を振動させるある周波数を発生させる(ステップS1)。この周波数は、配管1の固有振動数と推測される振動数を基準として定められる周波数f1,f2…fnが時間の経過と共に切り替えられて発生される。次に、駆動アンプ13は、配管1を振動させるために、ステップS1で発生された周波数を増幅する(ステップS2)。そして、加振用アクチュエータ2は、駆動アンプ13により駆動され、ステップS2で増幅された周波数で配管1を振動させる(ステップS3)。振動による配管1の変位量は、ひずみゲージ3により検出され電圧値として出力される。この変位量は、アンプによって増幅される(ステップS4)。次に、固有振動数算出部15は、ステップS1で発生した周波数及びステップS4で増幅された変位量から伝達関数を求め、この伝達関数において最も変位量が大きい振動数を配管1の固有振動数として算出する(ステップS5)。
【0061】
次に、配管1に備え付けられた温度センサー4及び温度取得部16で配管1中の溶液の温度が計測される。そして、濃度取得部17は、ステップS5で算出された固有振動数及び温度取得部で取得された溶液の温度から、記憶部11に予め格納された濃度固有振動数対応テーブルを参照し溶液の濃度を取得する(ステップS6)。
【0062】
ステップ7において、異なる振動モードから溶液の濃度を取得する場合には、ステップ1に再び戻され、以前とは異なる配管1の振動モードにおいて、溶液の濃度が計測される。ステップ7において、対象モードを変更しない場合、ステップ8に示すように、各モードから取得した溶液の濃度の平均値を算出する。
【0063】
上述した処理手順により、精度良く溶液の濃度を取得することが可能となる。なお、上述した処理手順は、本実施の形態による溶液の濃度を取得する処理手順の例を示したものであり、本発明をこの処理手順に制限するものではない。例えば、温度の取得を、固有振動数を算出する前に行う等が考えられる。
【0064】
上述したようにこの発明の実施形態においては、測定対象である溶液5が満たされた配管1の固有振動数を算出することで、溶液5の濃度を計測することができる。本実施の形態に係る濃度計測装置は、固有振動数より濃度を計測するため温度依存性が小さくなる。従って、溶液5の温度管理する負担が軽減されるとともに、温度管理に必要な費用を削減できる。さらに、温度管理に必要な部品を省略できるので、小型化が可能となる。また、配管1には、配管1を振動させる装置を設置するだけで良く、配管1に複雑な構造の測定部を設置する必要がない。そのため、本濃度計測装置は、配管1が複雑な構造であることによって起こる溶液5が測定部へ流入し難い、または溶液5が測定部に滞留するという問題がない。従って、信頼性が高い溶液5の濃度の計測が可能となる。また、配管1に密度の小さい材料を用い、配管1を薄肉に形成することで検出の感度を向上することができる。従って、検出の感度を向上させるための付加的な部材を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】この発明の実施の形態に係る濃度計測装置を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1に示される加振アクチュエータ及びひずみゲージを設けた配管を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示した濃度計測装置の配管が振動する様子を示す模式図である。
【図4】図1及び図2に示した溶液で満たされた配管を概略的に示す断面図である。
【図5】溶液が満たされた配管の固有振動数と溶液の密度の関係式を導出する為に、図4に示した配管の微小部分を示す説明図である。
【図6】(a)、(b)及び(c)は、図4に示した配管が異なるモードにおいて固有振動数で振動する様子を示した模式図である。
【図7】溶液が満たされた配管の固有振動数から溶液の密度を算出できることを明らかにする為の実験に用いたガラス管を示す図である。
【図8】(a)、(b)及び(c)は、図6(a)〜(c)に示される異なる振動モードにおいて、図7に示されたガラス管での実験から得られた固有振動数と理論値とを比較したグラフである。
【図9】周波数発生器により発生された複数の周波数及び対応する配管の変位量から解析される伝達関数を概略的に示すグラフである。
【図10】図1に示される記憶部に格納される濃度固有振動数対応関係を示すテーブルの内容を概略的に示す表である。
【図11】図1に示される濃度計測装置において、溶液の濃度を取得する処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1…配管、2…加振用アクチュエータ、3…ひずみゲージ、4…温度センサー、5…溶液、6…燃料電池、7…ガラス管、11…記憶部、12…周波数発生器、13…駆動アンプ、14…アンプ、15…固有振動数算出部、16…温度取得部、17…濃度取得部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象とされる溶液が満たされ、当該溶液がその内を流出される配管であって、前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を測定する為の検出領域を有する配管と、
前記配管或いは前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を基準に定められた複数の振動周波数を次々に発生する周波数発生器と、
前記配管の検出領域に固定され、前記測定信号で附勢されて前記配管及び前記溶液に振動を与える加振素子と、
前記配管の検出領域に固定され、この領域における振動を検出して検出信号を発生する振動検出素子と、
予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が記述されたテーブルが格納された記憶部と、
前記検出信号と前記測定信号とを比較して前記溶液が満たされた前記検出領域における前記配管の固有振動数を導出する算出部と、
この導出固有振動数で前記記憶部の参照固有振動数を参照して当該参照固有振動数で特定される前記溶液濃度を出力する濃度取得部と、
を具備することを特徴とする濃度計測装置。
【請求項2】
前記加振素子は、前記配管の半径方向に沿って前記検出領域を振動させることを特徴とする請求項1の濃度計測装置。
【請求項3】
前記振動検出素子は、前記配管の半径方向に沿った前記検出領域の変動量を検出することを特徴とする請求項1又は請求項2の濃度計測装置。
【請求項4】
前記配管は、円筒形状又は筒状であることを特徴とする請求項1記載の濃度計測装置。
【請求項5】
更に前記配管中の前記溶液の温度を検出する温度部を具備し、
前記記憶部のテーブルには、予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が前記溶液温度のパラメータとして記述され、
前記濃度取得部は、前記参照固有振動数及び前記溶液温度で特定される前記溶液濃度を出力することを特徴とする請求項1の濃度計測装置。
【請求項6】
前記テーブルの前記参照固有振動数と前記溶液濃度とは、実質的に次式を充足する関係にあることを特徴とする請求項1の濃度計測装置。
【数1】
【請求項7】
測定対象となる溶液が満たされ、当該溶液がその内を流出される配管の検出領域に固定された加振素子に、前記配管或いは前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を基準に定められた複数の振動周波数を有する測定信号振動を次々に与えて前記検出領域を振動させ、
振動検出素子で前記配管の検出領域における振動を検出して前記検出信号と前記測定信号とを比較して前記検出領域における前記配管の固有振動数を導出し、
予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が記述されたテーブルが前記導出された固有振動数で参照されて導出固有振動数に相当する当該参照固有振動数で特定される前記溶液濃度を出力する
ことを特徴とする溶液濃度を計測する方法。
【請求項1】
測定対象とされる溶液が満たされ、当該溶液がその内を流出される配管であって、前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を測定する為の検出領域を有する配管と、
前記配管或いは前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を基準に定められた複数の振動周波数を次々に発生する周波数発生器と、
前記配管の検出領域に固定され、前記測定信号で附勢されて前記配管及び前記溶液に振動を与える加振素子と、
前記配管の検出領域に固定され、この領域における振動を検出して検出信号を発生する振動検出素子と、
予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が記述されたテーブルが格納された記憶部と、
前記検出信号と前記測定信号とを比較して前記溶液が満たされた前記検出領域における前記配管の固有振動数を導出する算出部と、
この導出固有振動数で前記記憶部の参照固有振動数を参照して当該参照固有振動数で特定される前記溶液濃度を出力する濃度取得部と、
を具備することを特徴とする濃度計測装置。
【請求項2】
前記加振素子は、前記配管の半径方向に沿って前記検出領域を振動させることを特徴とする請求項1の濃度計測装置。
【請求項3】
前記振動検出素子は、前記配管の半径方向に沿った前記検出領域の変動量を検出することを特徴とする請求項1又は請求項2の濃度計測装置。
【請求項4】
前記配管は、円筒形状又は筒状であることを特徴とする請求項1記載の濃度計測装置。
【請求項5】
更に前記配管中の前記溶液の温度を検出する温度部を具備し、
前記記憶部のテーブルには、予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が前記溶液温度のパラメータとして記述され、
前記濃度取得部は、前記参照固有振動数及び前記溶液温度で特定される前記溶液濃度を出力することを特徴とする請求項1の濃度計測装置。
【請求項6】
前記テーブルの前記参照固有振動数と前記溶液濃度とは、実質的に次式を充足する関係にあることを特徴とする請求項1の濃度計測装置。
【数1】
【請求項7】
測定対象となる溶液が満たされ、当該溶液がその内を流出される配管の検出領域に固定された加振素子に、前記配管或いは前記溶液が満たされた前記配管の固有振動数を基準に定められた複数の振動周波数を有する測定信号振動を次々に与えて前記検出領域を振動させ、
振動検出素子で前記配管の検出領域における振動を検出して前記検出信号と前記測定信号とを比較して前記検出領域における前記配管の固有振動数を導出し、
予め参照固有振動数と前記溶液濃度との関係が記述されたテーブルが前記導出された固有振動数で参照されて導出固有振動数に相当する当該参照固有振動数で特定される前記溶液濃度を出力する
ことを特徴とする溶液濃度を計測する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−281932(P2009−281932A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135761(P2008−135761)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
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