説明

濃縮乳の製造方法

【課題】 本発明の課題は、無脂乳固形分を高濃度とした濃縮乳の製造において、濃縮乳の品質を一定に保持する方法を提供することにある。
【解決手段】 分離膜を介して、原料乳を膜保持液と膜透過液とに分離する膜濃縮処理を含む、濃縮乳の製造方法において、膜透過液のpHを制御や管理することにより、濃縮乳の品質を所定の範囲内で確実に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜濃縮処理に基づく濃縮乳の製造方法および該方法により製造される濃縮乳に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者が牛乳(類)に求める要素には、「自然さ」、「おいしさ」、「栄養/機能」の3つがあると言われているが、消費者が牛乳に求める価値は多様化しており、新しい価値の提供が必要となっているところ、乳等省令の改正により「成分調整牛乳」が誕生した。成分調整牛乳とは、生乳のみ(生乳100%)から膜処理等の技術により、特定の成分(水分等)を除去したものであり、「無脂肪牛乳(脱脂乳)」及び「低脂肪牛乳(部分脱脂乳)」を除いたものである。この成分調整牛乳では、消費者が牛乳に求める前記の3大要素を満たし、かつ、消費者が牛乳に求める価値の多様化にも対応できる可能性がある。例えば、無脂乳固形分(SNF)を濃縮した成分調整牛乳では、牛乳の自然な甘味が強調され、濃厚なコクやまろやかさを味わうことが可能となる。
【0003】
一方、牛乳関係法令集(乳業団体衛生連絡協議会、平成十六年三月)によれば、成分調整牛乳においては、牛乳の腐敗や細菌汚染等を確認するための指標として、酸度(乳酸として)が0.18%以下と規定されており、酸度を規格の通りに設定することが必須となる。
【0004】
ところが、成分調整牛乳の1つとして、例えば原料乳の膜濃縮処理において濃縮倍率を高くし、無脂乳固形分を高濃度とした濃縮乳の製造(特許文献1、特許文献2)では、前記の上限値(規格値)を超えてしまうことがあり、このことから、濃縮乳の製造では、その他の成分調整牛乳とは違い、酸度の確認と制御をより一層入念におこなうことが必須となる。このため、原料乳の膜濃縮処理において濃縮乳の酸度と関連する因子を制御することで、間接的に酸度を制御する成分調整牛乳や濃縮乳の製造方法(特許文献3)が提案されているが、幾らか煩雑な操作を必要とする等の問題があった。
【0005】
一方、前記の通り、成分調整牛乳や濃縮乳の製造では、その腐敗等と無関係に酸度が変動してしまい、必ずしも酸度が腐敗等を確認する指標とはならないため、腐敗等の確認のために別途、細菌検査等が必要であった。しかしながら、これもまた煩雑な操作を必要とし、実際に結果を得るまでには時間が掛かる等のために、生産ラインの稼働中の確認には向かないという問題点があり、濃縮乳の酸度や鮮度を容易に制御・管理する方法が望まれていた。
【0006】
さらに、成分調整牛乳や濃縮乳の製造では、特に分離膜の破損や劣化により、膜保持液に保持されることが望ましい成分が漏出する等の問題が生じる可能性もあり、これを制御・管理することにより、品質を一定に保持することも望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開2002−051699号公報
【特許文献2】特開2002−253116号公報
【特許文献3】特開2006−262816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、前記の問題点を解決し、無脂乳固形分を高濃度とした濃縮乳の品質を所定の範囲内に保持しつつ製造する方法を提供することにある。
より詳しくは、酸度以外で濃縮乳の鮮度等を正確に確認できる因子(指標)を解明し、該因子を確認することで、酸度や鮮度等を簡便に制御・管理できる成分調整牛乳や濃縮乳の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、分離膜を介して、原料乳を膜保持液と膜透過液とに分離する濃縮処理を含む、濃縮乳の製造方法において、膜透過液のpHと、膜保持液(濃縮乳)の品質や、分離膜の分離性能との関係を見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、原料乳を膜保持液と膜透過液とに分離する膜濃縮処理において、膜透過液のpHを制御および/または管理する、濃縮乳の製造方法に関する。
また本発明は、膜透過液のpHを制御および/または管理することにより、濃縮乳の品質を所定の範囲内に保持することを特徴とする、前記の製造方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、膜透過液のpHを制御および/または管理することにより、分離膜の性能(阻止率、膜透過流束等)を所定の範囲内に保持することを特徴とする、前記の製造方法に関する。
一方で本発明は、さらに、膜保持液のpHを制御および/または管理することを特徴とする、前記の製造方法に関する。
【0012】
そして本発明は、さらに、膜保持液の固形分濃度、無脂乳固形分濃度(SNF)、屈折糖度(Brix)、比重(密度)、濃縮倍率のいずれかを制御および/または管理することを特徴とする、前記の製造方法に関する。
また本発明は、膜濃縮処理がNF膜処理であることを特徴とする、前記の製造方法に関する。
さらに本発明は、前記の製造方法により製造された濃縮乳に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の濃縮乳の製造方法は、原料乳を膜保持液と膜透過液とに分離する膜濃縮処理おいて分離された膜透過液のpHを制御・管理することにより、濃縮乳(膜保持液)の品質を所定の範囲内で確実に保持することができる。かかる方法では、通常なら廃棄されるべき膜透過液を測定するものであるため、衛生的かつ簡便に最終製品となる濃縮乳(膜保持液)の品質を管理・確認することを可能にし、生産ラインの稼働中(実際の製造現場)において非常に有用である。
【0014】
また、本発明の別の態様によれば、膜透過液のpHを制御することにより、分離膜の性能(阻止率、膜透過流束等)を所定の範囲内で確実に保持することができる。かかる方法では、生産ラインの稼働中において、分離膜の劣化等を簡便に管理・確認することを可能にする。
さらに、本発明の別の態様によれば、膜透過液のpHを制御することにより、原料乳および/または膜保持液の鮮度を所定の範囲内で確実に保持することができる。かかる方法では、最終製品への雑菌混入等を確認して未然に防止することを可能とし、生産ラインの稼働中において非常に有用である。
【0015】
また、本発明の別の態様によれば、膜透過液のpHと膜保持液のpHとの両者の数値や差異を制御・管理することにより、原料乳および/または膜保持液の鮮度を所定の範囲内で確実に保持することができる。例えば、膜透過液のpHが膜保持液のpHよりも高くなった場合は、膜保持液の品質変化の原因は、膜の分離性能ではなく、原料乳の鮮度が原因であることを推測することができ、膜濃縮工程の段階で簡便に原料乳の鮮度を確認することができる。
【0016】
さらに、本発明の別の態様によれば、膜透過液のpHを制御・管理することに加えて、膜保持液の固形分濃度、無脂乳固形分濃度(SNF)、屈折糖度(Brix)、比重(密度)、濃縮倍率等を制御・管理することにより、実質的な膜保持液の鮮度や、分離膜の性能を保持するだけではなく、膜保持液の酸度を所定の範囲内(例えば、一定値)で確実に保持することができ、濃縮乳の品質を、より多面的に制御・管理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において「原料乳」とは、生乳、原乳、全脂乳、脱脂乳、ホエイ等の乳成分を含む液体である。
本明細書において「濃縮乳」とは、前記の原料乳を膜分離法の濃縮処理により得られる液体であり、さらに「濃縮乳」には、前記の濃縮処理の前工程または後工程に、殺菌処理、均質化処理、遠心分離処理、脂肪濃度調整処理等を加えて得られる液体が含まれる場合もある。つまり「濃縮乳」には、例えば、全脂乳から得られた濃縮乳を遠心分離処理することにより、乳脂肪濃度を調整した成分調整牛乳、脱脂乳から得られた濃縮乳にクリーム等を添加することにより、乳脂肪濃度を調整した成分調整牛乳等も含まれる。
【0018】
本発明にかかる濃縮乳は、通常の牛乳よりも高い無脂乳固形分を有し、例えば10〜17重量%、好ましくは10〜15重量%、より好ましくは10〜13重量%、さらに好ましくは11〜12重量%の無脂乳固形分を有する。
また、本発明にかかる濃縮乳の乳脂肪分は特に限定されないが、例えば0〜5重量%であり、好ましくは0.1〜4重量%であり、より好ましくは0.1〜3重量%であり、より好ましくは0.1重量%以上及び3.0重量%未満であり、さらに好ましくは0.5〜2.5重量%であり、さらに好ましくは0.5〜2重量%であり、とくに好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0019】
本発明の濃縮乳の製造方法において、膜分離法は特に限定されないが、タンパク質や乳糖、ビタミンやミネラル等の栄養成分の損失が少ないことから、逆浸透膜(RO)法やナノ濾過膜(NF)法であることが望ましい。そして、タンパク質や乳糖等、ビタミンやミネラルの栄養成分の損失が少なく、尿素、乳酸、ミネラル(ナトリウム、カリウム、塩素等)等の一部が除去されて、濃縮乳の風味を改良できることから、ナノ濾過膜(NF)法であることがより望ましい。このとき、例えば、ナノ濾過膜(NF)法と逆浸透膜(RO)法とを併用することが可能であり、互いを直列に設置しても、並列に設置しても良い。また、製造したい成分調整牛乳の組成に合わせて、互いの膜面積やその比率を自由に設定しても良い。
【0020】
本発明におけるpHの制御や管理とは、pHを所定の範囲内(例えば、一定値)で確実に安定させることをいい、例えば、オンライン式のpH計等を用いて簡便に短時間でpHを測定できるため、濃縮乳の製造工程(生産ライン)にpH計を設置するか、濃縮乳の製造工程から試料を採取し、その場で生産ラインの稼働中に数値を確認することができる。そして、製造装置の運転状態が適切か否かを連続的または断続的に判断しながら、濃縮乳の製造を安定させることができる。例えば、pHの変化やその傾向をコンピューター等で処理することにより、pHを自動的に確認し、その結果として、原料乳および/または膜保持液の鮮度や、分離膜の性能も自動的に制御や管理することが可能となる。
【0021】
本発明の一態様における原料乳の濃縮処理において、酸度と固形分濃度との相関関係を使用して、酸度を制御することを特徴とするが、酸度を制御する因子は、固形分濃度に限定されない。固形分濃度と相関関係にある因子であれば適用することが可能であり、無脂乳固形分濃度(SNF)、屈折糖度(Brix)、比重(密度)、濃縮倍率等を例示できる。実際に固形分濃度の測定には、手間が掛かるため、本発明の濃縮乳の製造方法において酸度を制御する方法には、屈折糖度や比重、濃縮倍率のような簡便に測定できる因子を使用することが望ましい。
【0022】
本発明において、屈折糖度は糖度計(refractometer)を用いて簡便に短時間で測定できるため、濃縮乳の製造工程から試料を採取し、その場で生産ラインの稼働中に数値を確認することができる。そして、製造装置の運転状態が適切か否かを断続的に判断しながら、屈折糖度を一定値に安定させる運転を行うことで間接的に、酸度を規格内に制御することが可能となる。
【0023】
本発明において、比重は比重計を用いて簡便に瞬時で測定できるため、濃縮乳の製造工程に比重計を設置するか、濃縮乳の製造工程から試料を採取し、連続的に数値を確認することができる。製造装置の運転状態が適切か否かを連続的または断続的に判断しながら、比重を一定値に安定させる運転を行うことで間接的に、酸度を規格内に制御することが可能となる。例えば、比重の増減やその増減の傾向をコンピューター等で処理することにより、比重を自動的に確認し、その結果として、酸度も自動的に制御や管理することが可能となる。
【0024】
以下、本発明について実施例に基づいて更に詳細に説明を加えるが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0025】
[試験例1]
ナノ濾過膜(NF)法により脱脂乳を濃縮処理した。使用したナノ濾過膜は、NF−3838/30−FF(Dow社製)である。ここでは、脱脂乳の膜濃縮処理を約2年間に亘る長期間で、同じ分離膜を交換せずに用いて実施し、膜装置自体の分離性能(特に、膜材質の寿命)の変化を確認した。脱脂乳の濃縮倍率を1.4倍とし、1週間に1回程度の頻度で、膜装置を運転した。このとき、1回の運転で、薬品洗浄(酸とアルカリ)と水濯ぎを繰り返しながら、膜濃縮処理を実施した。
膜材質が新品の状態(0ヶ月、使用開始)、使用開始から9ヶ月後、14.5ヶ月後、20.5ヶ月後の状態における、膜透過液と膜保持液のpHおよび固形分濃度(TS)を測定した。
【0026】
表1および図1に示すように、膜保持液のpHは、固形分濃度にかかわらず一定である一方、膜透過液のpHは、膜透過液の固形分濃度のみならず、膜保持液の固形分濃度とも相関関係を示すことが確認された。
すなわち、膜透過液のpHが、膜保持液および膜透過液の固形分濃度の確認に有用であることが分かった。
また、分離膜の使用期間により、膜透過液および膜保持液の濃度が変化し、それに伴い透過膜液のpHが変化することが確認された。
【0027】
【表1】

【0028】
したがって、膜透過液のpHを制御や管理することで、濃縮乳の品質(組成)や、分離膜の性能(阻止率等)を所定の範囲内で安定化させることが可能であることが明らかとなった。
【0029】
例えば、図1で膜透過液の固形分濃度をX[重量%]、膜透過液のpHをY[−]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=−0.35・X+7.56となった。このとき、膜材質の寿命を、膜透過液の固形分濃度で2重量%以上に設定した場合には、分離膜または膜分離ユニットを交換する時期を、膜透過液のpHで6.86以下に設定することとなる。また、膜材質の寿命を、膜透過液の固形分濃度で2.5重量%以上に設定した場合、膜交換の時期を、膜透過液のpHで6.69以下に設定することとなる。
【0030】
さらに、膜保持液の固形分濃度をX’[重量%]、膜透過液のpHをY[−]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=1.73・X’−8.93となった。このとき、濃縮乳の品質(組成)または膜材質の寿命を、膜保持液の固形分濃度で9重量%以下に設定した場合、分離膜または膜分離ユニットを交換する時期を、膜透過液のpHで6.64以下に設定することとなる。
【0031】
[試験例2]
鮮度の低い脱脂乳を用いる以外は、試験1と同様の方法で、膜透過液と膜保持液のpHおよび固形分濃度(TS)を測定した。ここで、鮮度の低い脱脂乳とは、新鮮な脱脂乳を常温(約15〜25℃)、約1週間で放置したものである。
【0032】
表2に示すとおり、鮮度の低い脱脂乳の膜濃縮処理においては、膜透過液および膜保持液のpHがともに、膜保持液および膜透過液の固形分濃度に影響されないことが確認された。
また、膜透過液のpHが膜保持液のpHよりも低くなることが確認された。
【0033】
【表2】

【0034】
試験例1および2を比較すると、鮮度の異なる脱脂乳の膜濃縮処理において、原料乳の鮮度は、膜保持液および膜透過液の固形分濃度に影響しないことが確認された。また、膜保持液および膜透過液のpHが鮮度の高い脱脂乳と比較して、鮮度の低い脱脂乳で低くなることが確認された。
したがって、膜透過液のpHが一定の値よりも低くなった場合には、分離膜の性能(阻止率等)が低下して、膜透過液の固形分濃度が上がっている可能性、および原料乳の鮮度が落ちている可能性が推測される。
ここで、例えば、膜保持液のpHも測定し、膜透過液のpHと比較したところ、膜浸透液のpHが低い場合には、原料乳の鮮度が低い可能性が高いと判断することができる。
【0035】
[試験例3]
酸度の測定(逆浸透膜(RO)法による全脂乳の濃縮処理)
逆浸透膜(RO)法により全脂乳を濃縮処理した。使用した逆浸透膜は、RO−3838/30−FF(Dow社製)である。所定の濃縮倍率において濃縮乳を採取し、酸度、固形分濃度、無脂乳固形分濃度を測定した。それぞれの相関関係を図2〜図3に示した。
【0036】
今回の実験において、図2で酸度をX[%]、固形分濃度をY[重量%]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=82.55・X+3.75となった。このとき、成分調整牛乳の成分規格として全脂乳の酸度(乳酸として)を0.18%以下に設定した場合には、固形分濃度は18.6重量%以下に設定することとなる。装置の運転を安全側で制御することを考慮し、全脂乳の酸度を0.17%以下に設定した場合には、固形分濃度は17.8%以下に設定することとなる。
【0037】
図3で酸度をX[%]、無脂乳固形分(SNF)濃度をY[重量%]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=56.20・X+2.54となった。このとき、全脂乳の酸度を0.18%以下に設定した場合には、無脂乳固形分濃度は12.6重量%以下に設定することとなる。全脂乳の酸度を0.17%以下に設定した場合には、無脂乳固形分濃度は12.1重量%以下に設定することとなる。
【0038】
[試験例4]
酸度の測定(ナノ濾過膜(NF)法による脱脂乳の濃縮処理)
ナノ濾過膜(NF)法により脱脂乳を濃縮処理した。使用したナノ濾過膜は、NF−3838/30−FF(Dow社製)である。脱脂乳では乳脂肪をほとんど含まないため、固形分濃度と無脂乳固形分濃度は同等である。所定の濃縮倍率において濃縮乳を採取し、酸度、固形分濃度(無脂乳固形分濃度)、屈折糖度、比重を測定した。それぞれの相関関係を図4〜図6に示した。
【0039】
今回の実験において、図4で酸度をX[%]、固形分濃度をY[重量%]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=65.86・X+1.36となった。このとき、脱脂乳の酸度を0.18%以下に設定した場合には、固形分濃度は13.2重量%以下に設定することとなる。脱脂乳の酸度を0.17%以下に設定した場合には、固形分濃度は12.5重量%以下に設定することとなる。
【0040】
図5で酸度をX[%]、屈折糖度(Brix)をY[%]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=71.23・X+2.06となった。このとき、脱脂乳の酸度を0.18%以下に設定した場合には、屈折糖度は14.9%以下に設定することとなる。脱脂乳の酸度を0.17%以下に設定した場合には、屈折糖度は14.2%以下に設定することとなる。
【0041】
図6で酸度をX[%]、比重をY[−]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=0.268・X+0.999となった。このとき、脱脂乳の酸度を0.18%以下に設定した場合には、比重は1.047以下に設定することとなる。脱脂乳の酸度を0.17%以下に設定した場合には、比重は1.044以下に設定することとなる。
【0042】
[試験例5]
酸度の測定(逆浸透膜(RO)法によるホエイの濃縮処理)
逆浸透膜(RO)法によりホエイを濃縮処理した。使用した逆浸透膜は、RO−3838/30−FF(Dow社製)である。ホエイでは乳脂肪をほとんど含まないため、固形分濃度と無脂乳固形分濃度は同等である。所定の濃縮倍率において濃縮乳を採取し、酸度、固形分濃度(無脂乳固形分濃度)を測定した。それぞれの相関関係を図7に示した。
今回の実験において、図7で酸度をX[%]、固形分濃度をY[重量%]とし、相関関係を一次式で近似すると、Y=93.88・X+2.24となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
分離膜を介して、原料乳を膜保持液と膜透過液とに分離して濃縮処理を含む、濃縮乳の製造工程において、膜分離装置の運転中に、試料(膜透過液)のpHを連続的に測定することにより、製造装置の運転状態および/または原料乳の鮮度が適切か否かを連続的または断続的に判断しながら、膜透過液のpHを制御や管理することにより、より衛生的かつ簡便に膜濃縮液の品質を一定に保つことができ、効率的に同品質の濃縮乳を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】脱脂乳の膜透過液のpHと固形分濃度、膜保持液のpHと固形分濃度、および膜透過液のpHと膜保持液の固形分濃度との関係を示した図である。
【図2】全脂乳の膜保持液の酸度と固形分濃度との関係を示した図である。
【図3】全脂乳の膜保持液の酸度と無脂乳固形分濃度との関係を示した図である。
【図4】脱脂乳の膜保持液の酸度と固形分濃度(無脂乳固形分濃度)との関係を示した図である。
【図5】脱脂乳の膜保持液の酸度と屈折糖度(Brix)との関係を示した図である。
【図6】脱脂乳の膜保持液の酸度と比重との関係を示した図である。
【図7】ホエイの膜保持液の酸度と固形分濃度との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を膜保持液と膜透過液とに分離する膜濃縮処理において、膜透過液のpHを制御および/または管理する、濃縮乳の製造方法。
【請求項2】
膜透過液のpHを制御および/または管理することにより、濃縮乳の品質を所定の範囲内に保持することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
膜透過液のpHを制御および/または管理することにより、分離膜の性能を所定の範囲内に保持することを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
さらに、膜保持液のpHを制御および/または管理することを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、膜保持液の固形分濃度、無脂乳固形分濃度(SNF)、屈折糖度(Brix)、比重(密度)、濃縮倍率のいずれかを制御および/または管理することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
膜濃縮処理がNF膜処理であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により、製造された濃縮乳。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−51206(P2010−51206A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218083(P2008−218083)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】