説明

火落菌の培養方法

【目的】 本発明は、火落菌の検出を短期間で行いうる培養方法を提供することを目的とする。
【構成】 本発明の火落菌の培養方法は、培養雰囲気にエタノールガスを充満させ、かつ酸素濃度が0.1〜10%になるようにガス置換して培養することを特徴とする。
【効果】 本発明によれば、火落菌の判定までの培養日数を著しく短縮でき、火落菌の菌数計測を短期間で完了できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、火落菌の培養方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、火落菌の生育により生ずる品質変化をひきおこす可能性のある食品、例えば酒製品等の菌検査には、メンブランフィルターで検液を濾過した後、フィルターを培地にのせ、上方に寒天を流し固めるいわゆる重層法が用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】重層法では、もとの検体中に含まれる菌数が10個/ml以下と少ない場合、特に有効であったが、培養日数が15〜20日間もかかり、培養方法、特に製品検査方法としては判定期間が長いという問題がある。そのため、例えば酒の無菌充填製品や生酒製品の品質管理において、ロットごとにサンプリングによる菌検査をする場合、検査段階で多大な日数を要するために、菌検査結果待ちの製品を大量に在庫としてかかえてしまうという問題まで生じてしまっている。
【0004】また、酒の無菌充填機の殺菌性能を評価しようとする場合、包材に火落菌を付着させて殺菌工程を通過させ、菌の死滅度から殺菌性能を評価することができるが、この場合でも菌の判定に多大な時間を要するため、その間、充填機の殺菌工程の調整ができず、立ち上げに時間がかかりすぎるといった問題も生じている。上記の種々の問題点の根本的課題としては、火落菌および/または殺菌による損傷をうけた火落菌の判定までの培養日数が、従来方法では極めて長くかかることが挙げられる。
【0005】上記問題点を解決すべく種々研究の結果、火落菌は、培養雰囲気にエタノールガスを充満させ、かつ酸素濃度が0.1〜10%の範囲にガス置換されていれば生育速度が速くなり、培養日数も7日間以内に短縮できることを見い出して、本発明を完成した。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の火落菌の培養方法は、火落菌の生育により生ずる品質変化をひきおこす可能性のある食品、農産物、医薬品および/または火落菌を含有する試料を検液とし、該検液をメンブランフィルターで濾過してフィルターを培地上にのせる工程と、該フィルターおよび培地を酸素透過度15cc/m2・day・atm 以下の多層フィルムで構成されるパウチ内に収納し、パウチ内の酸素濃度が0.1〜10%になるようにガス置換包装する工程と、該ガス置換包装したパウチごと培養雰囲気下において培養する工程と、からなる火落菌の培養方法において、培養雰囲気中にエタノールガスを充満させることを特徴とするものである。
【0007】本発明の培養方法は、好ましくは、該検液をメンブランフィルターで濾過し、フィルターの捕集面を上にしてプラスチック製シャーレに固化させた培地上にのせ、シャーレの上蓋内にエタノールを噴霧して密閉する工程と、該酸素透過度のパウチ内にエタノール噴霧および/または脱脂綿やスポンジにエタノールを含浸させてから該シャーレを収納し、ガス置換する工程と、からなる。
【0008】本発明の培養方法を、以下「MAP培養法 (Modified Atmosphere Packagingculture method) 」といい、その概要を図1に例示する。本発明において、火落菌の生育により生ずる品質変化をひきおこす可能性のある食品、農産物、医薬品として、例えばアルコール飲料アルコールを含んだ健康飲料もしくは薬用飲料、酒(白酒、清酒、合成清酒、雑酒)みりん等が挙げられ、火落菌を含有する試料としては、例えば前述した食品等が製造時に火落菌で汚染されたものあるいは人為的に容器もしくは製品に火落菌懸濁液を付着させ製品を充填密封したもの等が挙げられる。
【0009】本発明においては、パウチ内の酸素濃度が0.1〜10%になるようにガス置換するが、かかる酸素濃度が0.1%未満であると、火落菌の生育が阻害され検出に時間がかかる場合がある。一方、10%を超えると、火落菌の生育が遅くなり検出に時間がかかる恐れがある。
【0010】火落菌の検出に、本発明の培養方法を用いることにより、従来15〜20日を要していた培養日数を7日以内に短縮でき、更に従来公知の微生物迅速検出システム(特開平3-27837号、特開平3-83698号) と組合せることにより、2〜3日に短縮できる。
【0011】
【実施例】以下、実施例および比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに制限されるものではない。
実施例1火落菌で汚染された酒を想定して、約10-1個/mlの火落菌 (Lactobacillusheterohiochii S-14) を懸濁した清酒を試料として、まず0.4μメンブランフィルター (ニュークリポア製) で200mlを濾過した。次に、フィルターを密閉型ペトリディッシュ (東洋アドバンテック製、47mmφ) に固化させた以下の組成の培地上にのせて、ペトリディッシュ上蓋内面に99.5%エタノールを噴霧してから密閉した (これを検体■とする) 。
[培地組成]
NS培地 (処方B) ;
中川培地 (乳酸菌簡易検出培地、アサヒビール製) 4.0% 清酒 (1級酒、大関はこの酒金冠) 6N 塩酸でpH4.7〜4.8に調整 粉末寒天 1.0%18mmφ試験管に上記組成の液体培地10mlを分注後、 120℃約1分オートクレーブしてエタノール濃度を約10%に調節する。
【0012】更に、以下の仕様のパウチ内面に99.5%エタノールを噴霧して、検体■をパウチに入れて400mmHgまで減圧して窒素ガス置換した。このときのパウチ内の酸素濃度は2%だった。
[外装パウチ仕様]300mm×200mm, KOP30/PE30, 酸素透過度13cc/m2・day・atm 外装パウチごと30℃で6日間培養したところ、フィルター上にコロニー21個が形成されていた。
実施例2火落菌で汚染された酒を想定して、約1個/mlの火落菌(Lactobacillus hete-rohiochii S-14) を懸濁した清酒を試料として、実施例1と同様に0.4μメンブランフィルターで200mlを濾過した。次に、フィルターを90mmφポリスチレン製シャーレ (ニプロ製) に実施例1と同様の組成で固化させた培地上にのせてシャーレ上蓋内面に99.5%エタノールを噴霧してから密閉した (これを検体■とする) 。
【0013】実施例1と同じ仕様のパウチにシャーレスタンド (92mm×92mm×165mm)を入れ、底に99.5%エタノールを含浸した脱脂綿を置き、エージレス (炭酸ガス発生タイプ、三菱瓦斯化学製 G-100とG-50各1個) と検体■を入れてクリップで密封した。12時間後のパウチ内の酸素濃度は9%、炭酸ガス濃度は13%だった。外装パウチごと30℃で6日間培養したところ、フィルター上にコロニー203個が形成されていた。
実施例3火落菌 (Lactobacillus heterohiochii S-24) に60℃・5分の熱ショックを与えた他は実施例1と同様に培養した。30℃での7日間の培養でコロニー形成が確認された。
比較例実施例1で用いた火落菌で汚染した酒を試料として、メンブランフィルターの集菌面を密閉型ペトリディッシュに固化した培地に接するようにのせ、フィルター上方に40〜42℃に冷却した培地を流し固めてそのまま上蓋で密閉し、30℃で培養し経時的にコロニー形成の有無を観察したところ、14日目に3個のコロニーを確認し、16日目に20個のコロニー形成を確認した。
【0014】
【発明の効果】本発明によれば、火落菌の菌数計測を短期間で完了でき、酒製品等の在庫を大幅に圧縮でき、更に無菌充填機の殺菌性能を迅速に評価でき、機械調整にかかるコストを省力化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の培養方法の概要の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 火落菌の生育により生ずる品質変化をひきおこす可能性のある食品、農産物、医薬品および/または火落菌を含有する試料を検液とし、該検液をメンブランフィルターで濾過してフィルターを培地上にのせる工程と、該フィルターおよび培地を酸素透過度15cc/m2・day・atm 以下の多層フィルムで構成されるパウチ内に収納し、パウチ内の酸素濃度が0.1〜10%になるようにガス置換包装する工程と、該ガス置換包装したパウチごと培養雰囲気下において培養する工程と、からなる火落菌の培養方法において、培養雰囲気中にエタノールガスを充満させることを特徴とする火落菌の培養方法。
【請求項2】 該検液をメンブランフィルターで濾過し、フィルターの捕集面を上にしてプラスチック製シャーレに固化させた培地上にのせ、シャーレの上蓋内にエタノールを噴霧して密閉する工程と、該酸素透過度のパウチ内にエタノールを噴霧および/または脱脂綿やスポンジにエタノールを含浸させてから該シャーレを収納し、ガス置換する工程と、からなる請求項1記載の火落菌の培養方法。
【請求項3】 該ガス置換が窒素および/または炭酸ガス置換である請求項1または2記載の火落菌の培養方法。

【図1】
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