説明

炉心溶融物の保持装置

【課題】炉心溶融物の熱によっても所定の時間、炉心溶融物を保持することが可能な、実用に供することのできる炉心溶融物の保持装置を提供する。
【解決手段】原子炉圧力容器の下方に設けられる炉心溶融物の保持装置であって、前記保持装置は、炉心溶融物の温度より、融点又は沸点の低い第1の材料を含む冷却層を具えるようにして構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、炉心溶融物の保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷却型原子炉では、冷却水の供給停止及び/又は配管の破断によって、原子炉圧力容器内へ冷却水が供給されなくなると、原子炉水位が低下して炉心が露出し、この炉心の冷却が不十分になる可能性がある。このような場合を想定して、水位低下の信号により自動的に原子炉は非常停止され、非常用炉心冷却装置(ECCS)による冷却材の注入によって炉心を冠水させて冷却し、炉心溶融事故を未然に防ぐようになっている。
【0003】
しかしながら、上記冷却材の投入にはある程度の時間を要し、極めて低い確率ではあるが、上記非常用炉心冷却装置が作動せず、さらに、その他の炉心への注水装置も利用できない事態も想定され得る。このような場合、原子炉圧力容器内の水位は低下したままであって、露出した炉心は十分な冷却が行われなくなることにより、原子炉停止後も発生し続ける崩壊熱によって燃料棒温度が上昇し、最終的には炉心溶融に至ることが考えられる。
【0004】
このような事態に至った場合、高温の炉心溶融物(コリウム)が原子炉圧力容器下部に溶け落ち、さらに原子炉圧力容器の下部を溶融貫通して、格納容器内の床上に落下するに至る。炉心溶融物は格納容器床に張られたコンクリートを加熱し、接触面が高温状態になるとコンクリートと反応し、二酸化炭素、水素等の非凝縮性ガスを大量に発生させるとともにコンクリートを溶融浸食する。
【0005】
発生した非凝縮性ガスは、サプレッションプールで冷却することによって、その圧力をある程度低下させることはできるが、発生するガスの量が多いとサプレッションプールによってもその圧力を十分に低下させることができない。この結果、格納容器内の圧力を高め、原子炉格納容器を破損させる可能性があり、また、コンクリートの溶融浸食により格納容器バウンダリを破損させたりする可能性がある。すなわち、炉心溶融物とコンクリートとの反応が生じ、この反応が所定の時間に亘って継続すると格納容器破損に至り、格納容器内の放射性物質が外部環境へ放出させる恐れがある。
【0006】
このような観点から、炉心溶融物とコンクリートとの反応を抑制するために、炉心溶融物を冷却し、炉心溶融物底部のコンクリートとの接触面の温度を浸食温度以下(一般的なコンクリートで1500K以下)に冷却するか、炉心溶融物とコンクリートとが直接接触しないようにする必要がある。後者の手段の代表として、炉心溶融物保持装置(コアキャッチャー)と呼ばれるものが存在する。この炉心溶融物保持装置は、落下した炉心溶融物を耐熱材で受け止めるとともに、注水手段と組み合わせて炉心溶融物の冷却を図る設備である。
【0007】
しかしながら、注水手段から冷却水が供給されるまでには、約10分程度の時間を要する場合があり、この間、炉心溶融物は炉心溶融物保持装置のみによって保持しなければならない。したがって、炉心溶融物保持装置には極めて高い耐熱性が要求される。
【0008】
従来、カルシウム酸化物とケイ素酸化物とを主成分とするコンクリートを用いて炉心溶融物保持装置を構成したり(特許文献1)、高融点材料のタイルを用いて炉心溶融物保持装置を構成したり(特許文献2)などの試みがなされている。しかしながら、炉心溶融物を保持する際には、炉心溶融物保持装置の温度が室温から2000℃まで急激に温度上昇することになるため、その際に発生する熱応力による破損の問題や、ジェット状に噴出した炉心溶融物が耐熱材の表面に局所的に衝突して溶融侵食を引き起こす、いわゆるジェットインピンジメントの問題など、多様な損傷要因が複合的に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−5795号公報
【特許文献2】特開平6−300880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、炉心溶融物の熱によっても所定の時間、炉心溶融物を保持することが可能な炉心溶融物の保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の炉心溶融物の保持装置は、原子炉圧力容器の下方に設けられる炉心溶融物の保持装置であって、前記保持装置は、冷却水と接触する金属部材上において、炉心溶融物の温度より、融点又は沸点の低い第1の材料を含む冷却層を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、炉心溶融物の熱によっても所定の時間、炉心溶融物を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】水冷型原子炉の炉心溶融物保持装置の概略構成を拡大して示す断面図である。
【図2】図1に示す炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図3】種々の材料における融点と単位体積当たりの溶融潜熱との関係を示すグラフである。
【図4】第2の実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図5】第3の実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図6】第3の実施形態の変形例における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図7】第4の実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【図8】第5の実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、水冷型原子炉の炉心溶融物保持装置の概略構成を拡大して示す断面図である。また、図2は、図1に示す炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、炉心溶融物保持装置15は、格納容器11の床部材113及び三角柱状の治具115と協働して冷却水路153を形成するような、お椀型の金属部材151と、この金属部材151上に形成された冷却層152とを有している。すなわち、炉心溶融物保持装置15は、図2に示すように、金属部材151上に冷却層152が積層されたような構成となっている。
【0017】
冷却層152は、炉心溶融物の温度より、融点又は沸点の低い第1の材料からなる。なお、炉心溶融物は、UO及びZrOなどの一般式で表される酸化物と、ZrとFeなどの金属成分である。但し、このような一般式で表される酸化物に限定されるものではなく、使用する燃料棒の材料組成や破損の状況に依存して、その材料組成は変化する。
【0018】
非常用炉心冷却装置(ECCS)(図示せず)等が十分に機能せずに炉心溶融事故が発生し、崩壊熱によって燃料棒温度が上昇して炉心溶融に至って生成した炉心溶融物は、原子炉圧力容器の下部を溶融貫通して、炉心溶融物保持装置15に衝突する。この際、炉心溶融物保持装置15の最表層には、炉心溶融物の温度よりも融点又は沸点が低い第1の材料を含む冷却層152が存在するので、炉心溶融物が冷却層に衝突すると、冷却層152は炉心溶融物の熱を吸収し、固体から液体又は液体から気体へ相変化を起こすようになる。
【0019】
すなわち、冷却層152の相変化に伴う潜熱が炉心溶融物から吸収されるようになるので、上述のように、冷却層152に衝突した炉心溶融物の熱が吸収され、冷却されるようになる。したがって、冷却層152に対して炉心溶融物が局部的に集中して衝突したような場合においても、冷却層152において炉心溶融物を十分に冷却することができる。この結果、例えば、冷却層152が溶融するなどによって、炉心溶融物が金属部材151に対して熱的な悪影響を与えるのを抑制することができ、金属部材151の破損や変形を防止して、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能を奏することができるようになる。
【0020】
なお、上述のように、冷却層152は、炉心溶融物の温度よりも融点又は沸点が高い第1の材料を含むが、炉心溶融物の温度より融点が低く、沸点が高いことが好ましい。
【0021】
一般に、材料が液相から気相に変態するときに生じる蒸発潜熱は、固相から液相に変態するときの溶融潜熱よりも大きい。したがって、炉心溶融物の除熱の観点からは、液相から気相に変態するときの蒸発潜熱を利用することが好ましく、冷却層152を構成する第1の材料は、炉心溶融物の沸点よりも高いことが好ましいことになる。しかしながら、この場合は気相が生じることによって急激な体積膨張を生ぜしめることになるので、水冷型原子炉の構造物に損傷を与える可能性が懸念される。
【0022】
したがって、炉心溶融物の徐熱効果は多少低下するものの、上述のように、冷却層152を構成する第1の材料を、炉心溶融物の温度より融点が低く、沸点が高くなるようなものとすることによって、気相が生じることによる急激な体積膨張を抑制し、水冷型原子炉の構造物に対する損傷を抑制することができるようになる。
【0023】
図3は、種々の材料における融点と単位体積当たりの溶融潜熱との関係を示すグラフである。
【0024】
炉心溶融物の温度は組成によって大きく変化する可能性があるが、炉心溶融物の成分であるUOと圧力容器の材料であるステンレス鋼との混合物の融点を考慮すると、2000〜2500℃程度であることが推測される。したがって、炉心溶融物の冷却に際して溶融潜熱を利用する場合は、冷却層152を構成する第1の材料の融点が、前記混合物の融点より低いことが要求される。したがって、このような事実に鑑みて、図4に示すグラフを参照すると、上記第1の材料としては、ケイ素、ニッケル、クロム、ニオブ、モリブデンなどの利用が考えられる。
【0025】
すなわち、炉心溶融物の温度より融点が低く、沸点が高いような冷却層152を構成する第1の材料としては、ケイ素、ニッケル、クロム、ニオブ、モリブデンなどが好ましいことが分かる。
【0026】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。なお、水冷型原子炉の概略構成及び炉心溶融物保持装置の概略構成は、第1の実施形態における図1に示す構成と同一の構成を有する。したがって、本実施形態では、第1の実施形態と異なる炉心溶融物保持装置の層構成について説明する。
【0027】
図4に示すように、本実施形態では、冷却層152が、上述した炉心溶融物の温度よりも融点又は沸点が低い第1の材料と、炉心溶融物の温度よりも融点の高い、耐熱性の第2の材料とを含んでいる。また、第1の材料は、その濃度が、金属部材151側から、その反対側の冷却層152の表面に向けて増大している。したがって、冷却層152は、第1の材料を含むので、その溶解潜熱又は蒸発潜熱を利用することにより、炉心溶融物の熱を吸収して冷却することができるとともに、第2の材料を含むことによって、ある程度の耐熱性をも有するようになる。
【0028】
したがって、例えば、冷却層152(の第1の材料)による炉心溶融物の徐熱が不十分な場合においても、冷却層152の溶融を防止し、炉心溶融物が金属部材151に対して熱的な悪影響を与えるのを抑制することができる。結果として、金属部材151の破損や変形を防止して、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能を奏することができるようになる。
【0029】
但し、本実施形態においては、第1の材料の濃度を冷却層152の表面側で高くしているので、一般には、冷却層152の表層部分で炉心溶融物の徐熱を有効に行うことができるようになる。但し、冷却層152が上記第2の材料を含むことによって、冷却層152の溶融などの熱的な破損を確実に防止することができ、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能をより確実に奏することができるようになる。
【0030】
上述したように、第2の材料は、炉心溶融物の温度よりも融点の高いことが要求されるので、例えば、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、イットリウム酸化物、ネオジウム酸化物、リン酸塩系酸化物などを例示することができる。但し、炉心溶融物との反応性の低さや、融点、入手性などを総合的に判断すると、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物のいずれかを主成分とする材料が好適である。なお、ムライト(3Al・2SiO)、ジルコン(ZrO・SiO)などの、これら酸化物を主成分とする複合酸化物系を利用することも可能である。
【0031】
なお、本実施形態では、第1の材料の濃度に勾配を持たせ、その材料濃度が、金属部材151側から、その反対側の冷却層152の表面に向けて増大するようにしているが、必ずしもこのような濃度勾配を設ける必要はない。すなわち、第1の材料に対して濃度勾配を持たせないような場合においても、上述したような作用効果を奏することができる。但し、炉心溶融物に対する冷却層152の表層部分での徐熱の効果は、前記のように濃度勾配を設けた場合に比較して多少劣化する。
【0032】
(第3の実施形態)
図5は、本実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。なお、水冷型原子炉の概略構成及び炉心溶融物保持装置の概略構成は、第1の実施形態における図1に示す構成と同一の構成を有する。したがって、本実施形態では、第1の実施形態と異なる炉心溶融物保持装置の層構成について説明する。
【0033】
図5に示すように、本実施形態では、冷却層152が、炉心溶融物の温度よりも融点の高い、耐熱性の第2の材料を含むマトリックス152A中に、炉心溶融物の温度よりも融点又は沸点が低い第1の材料を含む粒子152Bが分散して形成されている。
【0034】
この場合においても、第2の実施形態と同様に、冷却層152は、第1の材料を含む粒子152Bを有するので、その溶解潜熱又は蒸発潜熱を利用することにより、炉心溶融物の熱を吸収して冷却することができるとともに、第2の材料を含むマトリックス152Aを有することによって、ある程度の耐熱性をも有するようになる。
【0035】
したがって、例えば、冷却層152の粒子152Bによる炉心溶融物の徐熱が不十分な場合においても、冷却層152の溶融を防止し、炉心溶融物が金属部材151に対して熱的な悪影響を与えるのを抑制することができる。結果として、金属部材151の破損や変形を防止して、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能を奏することができるようになる。
【0036】
なお、上述したように、第2の材料は、炉心溶融物の温度よりも融点の高いことが要求されるので、例えば、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、イットリウム酸化物、ネオジウム酸化物、リン酸塩系酸化物などを例示することができる。但し、炉心溶融物との反応性の低さや、融点、入手性などを総合的に判断すると、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物のいずれかを主成分とする材料が好適である。なお、ムライト(3Al・2SiO)、ジルコン(ZrO・SiO)などの、これら酸化物を主成分とする複合酸化物系を利用することも可能である。
【0037】
図6は、本実施形態の変形例における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。
【0038】
本変形例では、第2の材料からなるマトリックス152Aにおいて、第1の材料からなる粒子152Bの濃度に勾配を持たせている。具体的には、金属部材151側から、その反対側の冷却層152の表面に向けて増大するようにしている。すなわち、第1の材料を含む粒子152Bの濃度を冷却層152の表面側で高くしているので、冷却層152の表層部分で炉心溶融物の徐熱を有効に行うことができるようになる。また、冷却層152は、上記第2の材料を含むマトリックス152Aを含むので、冷却層152の溶融などの熱的な破損を確実に防止することができ、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能をより確実に奏することができるようになる。
【0039】
(第4の実施形態)
図7は、本実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。なお、水冷型原子炉の概略構成及び炉心溶融物保持装置の概略構成は、第1の実施形態における図1に示す構成と同一の構成を有する。したがって、本実施形態では、第1の実施形態と異なる炉心溶融物保持装置の層構成について説明する。
【0040】
図7に示すように、本実施形態では、炉心溶融物保持装置15は、金属部材151上に耐熱層153及び冷却層152が順次に積層されたような構成となっている。すなわち、金属部材151と冷却層152との間に、耐熱層153が形成されたような構成となっている。
【0041】
本実施形態では、非常用炉心冷却装置(ECCS)(図示せず)等が十分に機能せずに炉心溶融事故が発生し、崩壊熱によって燃料棒温度が上昇して炉心溶融に至って生成した炉心溶融物は、原子炉圧力容器の下部を溶融貫通して、炉心溶融物保持装置15に衝突する。この際、炉心溶融物保持装置15の最表層には、炉心溶融物の温度よりも融点又は沸点が低い第1の材料を含む冷却層152が存在するので、炉心溶融物が冷却層152に衝突すると、冷却層152は、溶解潜熱又は蒸発潜熱を利用して炉心溶融物の熱を吸収して冷却する。
【0042】
一方、金属部材151と冷却層152との間には、耐熱層153が設けられているので、例えば、冷却層152による炉心溶融物の徐熱が不十分な場合においても、炉心溶融物が金属部材151に対して熱的な悪影響を与えるのを抑制することができる。また、炉心溶融物の徐熱が不十分で冷却層152が溶解したような場合においても、炉心溶融物を耐熱層153によって所定時間保持することができるようになる。したがって、金属部材151の破損や変形を防止して、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能を奏することができるようになる。
【0043】
なお、耐熱層153は、上述したように、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、イットリウム酸化物、ネオジウム酸化物、リン酸塩系酸化物などから構成することができる。但し、炉心溶融物との反応性の低さや、融点、入手性などを総合的に判断すると、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物のいずれかを主成分とする材料が好適である。なお、ムライト(3Al・2SiO)、ジルコン(ZrO・SiO)などの、これら酸化物を主成分とする複合酸化物系を利用することも可能である。
【0044】
また、金属部材151に対しての熱的な悪影響を防止する観点からは耐熱層153の熱伝導率が小さいことが好ましく、炉心溶融物を保持する観点からは、炉心溶融物の熱をより早く金属部材151に伝達し、冷却水17Aで冷却すべく、耐熱層153の熱伝導率は大きいことが好ましい。このような熱伝導率は、耐熱層153の気孔率を調整することによって制御することができる。例えば、前者の場合、耐熱層153の気孔率は10体積%〜60体積%とすることができ、後者の場合、耐熱層153の気孔率は5体積%以下とすることができる。
【0045】
耐熱層153の気孔率を大きくすると、炉心溶融物の粘度が低い場合は、耐熱層153中の気孔を通じて金属部材151に達し、この金属部材151を破損させてしまう恐れがある。この場合は、気孔率をその厚さ方向において変化させるようにすることが好ましい。具体的には、金属部材151側で気孔率を小さくし、冷却層152側で気孔率を大きくする。これによって、炉心溶融物は、耐熱層153の気孔率が減少した深部において保持され、金属部材151に到達するのを抑制できる。
【0046】
なお、気孔率の変化は連続的とすることもできるし、ステップ状とすることもできる。
【0047】
(第5の実施形態)
図8は、本実施形態における炉心溶融物保持装置の層構成を概略的に示す断面図である。なお、水冷型原子炉の概略構成及び炉心溶融物保持装置の概略構成は、第1の実施形態における図1に示す構成と同一の構成を有する。したがって、本実施形態では、第1の実施形態と異なる炉心溶融物保持装置の層構成について説明する。
【0048】
図8に示すように、本実施形態では、冷却層152が、炉心溶融物の温度よりも融点の高い、耐熱性の第2の材料を含むマトリックス152A中に、炉心溶融物の温度よりも融点又は沸点が低い第1の材料又は第1の材料からなる粒子152Bを含む、ブロック状の粒子152Cが分散して形成されている。
【0049】
この場合においても、第2の実施形態と同様に、冷却層152は、第1の材料又は第1の材料からなる粒子152Bを含むブロック状の粒子152Cを有するので、その溶解潜熱又は蒸発潜熱を利用することにより、炉心溶融物の熱を吸収して冷却することができるとともに、第2の材料を含むマトリックス152Aを有することによって、ある程度の耐熱性をも有するようになる。
【0050】
したがって、例えば、冷却層152のブロック状粒子152Cによる炉心溶融物の徐熱が不十分な場合においても、冷却層152の溶融を防止し、炉心溶融物が金属部材151に対して熱的な悪影響を与えるのを抑制することができる。結果として、金属部材151の破損や変形を防止して、炉心溶融物保持装置15の本来的な機能を奏することができるようになる。
【0051】
なお、上述したように、第2の材料は、炉心溶融物の温度よりも融点の高いことが要求されるので、例えば、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、イットリウム酸化物、ネオジウム酸化物、リン酸塩系酸化物などを例示することができる。但し、炉心溶融物との反応性の低さや、融点、入手性などを総合的に判断すると、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物のいずれかを主成分とする材料が好適である。なお、ムライト(3Al・2SiO)、ジルコン(ZrO・SiO)などの、これら酸化物を主成分とする複合酸化物系を利用することも可能である。
【0052】
なお、特に図示しないが、本実施形態では、図8に示す冷却層152において、マトリックス152Aとブロック状粒子152Cとの位置を逆転させて、第2の材料からなる耐熱性ブロックの隙間を、第1の材料又は第1の材料からなる粒子152Bで埋設するようにしてもよい。この場合においても、上記同様の作用効果を得ることができる。
【0053】
ブロック状粒子152Cの断面形状としては、空間を隙間無く埋めることが可能な、3角形、4角形、6角形などが考えられるが、角部での熱応力の低減や、タイルの作製の容易さなどを考えると、4角形、もしくは6角形が好適であると考えられる。
【0054】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
15 炉心溶融物保持装置
151 金属部材
152 冷却層
153 耐熱層
152A マトリックス
152B 粒子
152C ブロック状粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の下方に設けられる炉心溶融物の保持装置であって、
前記保持装置は、炉心溶融物の温度より、融点又は沸点の低い第1の材料を含む冷却層を具えることを特徴とする、炉心溶融物の保持装置。
【請求項2】
前記冷却層は、前記炉心溶融物の温度よりも融点が高い第2の材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項3】
前記冷却層は、前記第1の材料は、前記第2の材料に対して、前記金属部材側から前記冷却層の、前記金属部材と相対向する側に向けてその材料濃度が相対的に増大していることを特徴とする、請求項2に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項4】
前記冷却層は、前記炉心溶融物の温度よりも融点が高い第2の材料を含むマトリックス中に、前記第1の材料からなる粒子が分散してなることを特徴とする、請求項1に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項5】
前記粒子は、前記金属部材側から前記冷却層の、前記金属部材と相対向する側に向けてその粒子濃度が増大していることを特徴とする、請求項4に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項6】
前記第1の材料は、前記炉心溶融物の温度より融点が低く、沸点が高い材料であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項7】
前記第1の材料は、ケイ素、ニッケル、クロム、ニオブ、及びモリブデンから成る群より選ばれる少なくとも一種を主成分として含むことを特徴とする、請求項6に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項8】
前記保持装置は、前記金属部材と前記冷却層との間において、耐熱層を具えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項9】
前記冷却層は、前記第1の材料又は前記第1の材料からなる前記粒子が、前記第2の材料からなるマトリックス中にブロック状に配置されてなることを特徴とする、請求項1又は4に記載の炉心溶融物の保持装置。
【請求項10】
前記冷却層は、前記第1の材料又は前記第1の材料からなる前記粒子が、前記第2の材料からなる耐熱性ブロックの隙間を埋設するようにして配置されてなることを特徴とする、請求項1又は4に記載の炉心溶融物の保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−93282(P2012−93282A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241958(P2010−241958)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】