説明

炉心溶融物保持装置

【課題】簡素な構造により冷却水流路の破損を防止することが可能な炉心溶融物保持装置を提供する。
【解決手段】給水容器11、給水流路15、給水容器の外縁に放射状に設けられ流路サポート21により仕切られた複数の冷却水流路11を有し、この冷却水流路11は傾斜冷却水流路底板17と、流路サポート21と変形防止板23との上に載置されており、各々の冷却水流路11における傾斜冷却水流路底板17と流路サポート21とでL字型形状を形成し、各々の冷却水流路11の傾斜冷却水流路底板17と流路サポート21とは溶接により接合され、変形防止板23は傾斜冷却水流路底板17の上面に溶接により接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心溶融物保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷却型原子炉では、原子炉圧力容器内への給水の停止や、原子炉圧力容器に接続された配管の破断により冷却水が喪失すると、原子炉水位が低下し炉心が露出して冷却が不十分になる可能性がある。
【0003】
このような場合を想定して、原子炉水位の低下を検出して自動的に原子炉を非常停止し、非常用炉心冷却装置(Emergency Core Cooling System)による冷却材の注入により炉心を冠水させて冷却し、炉心溶融事故を未然に防ぐように考慮されている。
【0004】
しかしながら、極めて低い確率ではあるが非常用炉心冷却装置が作動せず、かつその他の炉心への注水装置も利用できないような事態も想定され得る。このような場合、原子炉水位の低下により炉心は露出し、十分な冷却が行われなくなり原子炉停止後も発生し続ける崩壊熱により燃料棒温度が上昇し、最終的に炉心溶融に至ることが考えられる。
【0005】
このような事態に至った場合、高温の炉心溶融物が原子炉圧力容器の下部に溶け落ち、さらに原子炉圧力容器の下鏡を溶融貫通して格納容器内の床上に落下するに至る。
【0006】
炉心溶融物は格納容器床に張られたコンクリートを加熱し、接触面が高温状態になるとコンクリートと反応して二酸化炭素、水素等の非凝縮性ガスを大量に発生させるとともにコンクリートを溶融浸食する。発生した非凝縮性ガスは格納容器内の圧力を高め、格納容器を破損させる虞がある。また、コンクリートの溶融浸食により、格納容器バウンダリを破損させたり格納容器の構造強度を低下させる可能性がある。
【0007】
結果的に、炉心溶融物とコンクリートとの反応が継続すると格納容器の破損に至り、格納容器内の放射性物質が外部環境へ放出される虞がある。この炉心溶融物とコンクリートとの反応を抑制するためには、炉心溶融物を冷却し、炉心溶融物の底部のコンクリートとの接触面の温度を浸食温度(一般的なコンクリートで1500K)以下まで冷却するか、あるいは炉心溶融物とコンクリートとが直接接触しないようにする必要がある。
【0008】
そのため、炉心溶融物が落下した場合に備えて様々な対策が提案されてきた。代表的なものがコアキャッチャーと称されるものであり、これは落下した炉心溶融物を耐熱材で受け止めて、注水手段と組み合わせて炉心溶融物の冷却を図る設備である。
【0009】
原子炉格納容器床に落下した炉心溶融物の上面に冷却水を注水した場合であっても、炉心溶融物の底部での除熱量が小さいと、崩壊熱によって炉心溶融物底部の温度が高温のまま維持され、格納容器床のコンクリート侵食を停止することができない。そこで、炉心溶融物を底面から冷却する手法も提案されている。このような従来の炉心溶融物の冷却に関する特許文献を以下に記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特願2008−139023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来は、炉心溶融物へ注水することにより炉心溶融物上面の水を沸騰させて冷却していた。しかし、上面だけからの冷却では、炉心溶融物堆積厚さが厚い場合に炉心溶融物底部まで十分に冷却することができない。このため、床面積を広くとり、炉心溶融物の堆積厚さを冷却可能な厚さ以下にする必要があった。
【0012】
しかし、十分大きな床面積を確保することは格納容器構造の設計上困難であった。例えば、典型的な炉心溶融物の崩壊熱は、定格熱出力の約1%と考えられ、定格熱出力が4000MWの炉の場合では約40MWの発熱量になる。上面の沸騰熱伝達量には炉心溶融物上面の状態により幅があるが、小さい方の値として約0.4 MW/mの熱流束が想定される。このような場合には、炉心溶融物の発熱量を上面の熱伝達のみで除熱しようとすると、約100m(円直径で11.3m)の床面積が必要になる。これまでの格納容器構造を考慮すると、このような面積を確保することは困難であった。
【0013】
これに対し、炉心溶融物を底面から冷却する手法が提案されている。一例として、炉心溶融物堆積床面の下方に冷却水の流路を設け、ここに冷却水を導くことにより炉心溶融物を底面から除熱する。
【0014】
しかしながら、高温の炉心溶融物によって冷却水流路の構造材の温度が上昇する。この温度上昇に伴い、冷却水流路の構造材に熱応力が発生し、冷却水流路が破損する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、原子炉圧力容器の下方に設けられた炉心溶融物保持装置であって、前記炉心溶融物保持装置は、給水容器と、前記給水容器に冷却水を供給するための給水流路と、前記給水容器の外縁を囲むように外半径方向に沿って複数の流路サポートにより仕切られ放射状に配置された複数の冷却水流路とを有し、各々の前記冷却水流路は、傾斜冷却水流路底板と、この傾斜冷却水流路底板の外半径方向に沿う一方の端面にL字型形状を成すように設けられた複数の前記流路サポートと前記流路サポート間に配置された変形防止板との上に載置され、前記傾斜冷却水流路底板との間で前記冷却水が流れる空間を形成する傾斜冷却水流路天板とを有し、隣接する一方の前記冷却水流路の前記傾斜冷却水流路底板と他方の前記冷却水流路の前記流路サポートとは溶接により接合されており、前記変形防止板は前記傾斜冷却水流路底板の表面上に溶接により接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態における炉心溶融物保持装置によれば、構造を簡素化したことによる製造コストの削減とともに、傾斜冷却水流路天板と変形防止板との隙間の温度上昇を抑制して熱応力を低減し冷却水流路の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1〜7による炉心溶融物保持装置の適用が可能な原子炉格納容器全体の概略構造を示す縦断面図。
【図2】本発明の実施の形態1による炉心溶融物保持装置の構造を示す縦断面図。
【図3】同実施の形態1による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造を示す平面図。
【図4】同炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造の一部を拡大して示す斜視図。
【図5】同実施の形態1による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造の一部を拡大して示す図3のA−A線に沿う縦断面図。
【図6】本発明の実施の形態2による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造の一部を拡大して示す斜視図。
【図7】同実施の形態2による炉心溶融物保持装置における冷却水流路のライザ部内側板の締結金具用長穴を拡大して示す図6のB−B線に沿う横断面図。
【図8】本発明の実施の形態3による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造の一部を拡大して示す斜視図。
【図9】同実施の形態3による炉心溶融物保持装置における冷却水流路のライザ部内側板の締結金具用長穴を拡大して示す図8のC−C線に沿う横断面図。
【図10】本発明の実施の形態4による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の分割されたライザ部の一部を拡大して示す斜視図。
【図11】同実施の形態4による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の分割されたライザ部の繋ぎの部分を拡大して示す縦断面図。
【図12】同実施の形態4の変形例による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の分割されたライザ部の繋ぎの部分を拡大して示す縦断面図。
【図13】本発明の実施の形態5による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の分割されたライザ部の一部を拡大して示す斜視図。
【図14】同実施の形態5による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の分割されたライザ部の変形吸収板を拡大して示す縦断面図。
【図15】本発明の実施の形態6による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造の一部を拡大して示す斜視図。
【図16】本発明の実施の形態7による炉心溶融物保持装置における冷却水流路の構造の一部を拡大して示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による炉心溶融物保持装置について、図面を参照して説明する。
【0019】
(1)実施の形態1
本発明の実施の形態1による炉心溶融物保持装置について、図1から図5を用いて説明する。
【0020】
図1に、同実施の形態1による炉心溶融物保持装置を配置した原子炉格納容器全体の縦断面構造を示し、図2に炉心溶融物保持装置の縦断面構造を示す。
【0021】
図1において、格納容器2に原子炉圧力容器1が収納されており、原子炉圧力容器1の底部の原子炉圧力容器下部ヘッド3の下方に下部ドライウェル7、サンプ床8が設けられ、さらにその下方に炉心溶融物保持装置9が配置されている。原子炉圧力容器1の側面には、格納容器冷却器6、水槽5が配置され、炉心溶融物保持装置9の周囲にはサプレッションプール4が設けられている。
【0022】
図2に、炉心溶融物保持装置9の縦断面構造が拡大して示されている。傾斜伝熱面を有する中空の冷却水流路11が円周方向に密に並べられ、全体の縦断面構造として円錐形状に配置されている。冷却水流路11の外周部は垂直に立ち上がっており、出口は開口している。冷却水流路11は、下部の円筒形の給水容器10に接続されている。
【0023】
このような円錐形状を有する冷却水流路11の集合体の内側表面上に、耐熱材12が設置されて内側壁全面と給水容器10の上面全面が覆われている。図2には、炉心溶融物13が冷却水流路11の上部に落下した状態が示されている。
【0024】
給水容器10への初期の給水は、炉心溶融物保持装置より上方に設置された水槽5の水を重力落下させ注水配管14を介して行われる。初期注水の終了後は、溢水した水が冷却水流路11内の沸騰による生じる自然循環により給水流路15を経て給水容器11に供給される。
【0025】
給水容器10は、上述のように水槽5と注水配管14により繋がっており、図示されていない注入弁が途中の経路に設けられている。原子炉圧力容器下部ヘッド3が破損し、下部ヘッド温度の上昇やペデスタル雰囲気温度の上昇が検知されるとこの注入弁が開放され、水槽5の冷却水が重力落下により給水容器10に供給される。
【0026】
溶融炉心の冷却により生じた蒸気は、静的格納容器冷却設備やドライウェルクーラ等の格納容器冷却器6に凝縮され、凝縮水が水槽5に戻るようになっており、水が自然循環することにより炉心溶融物13の冷却が継続される。
【0027】
図3に、図2に示された炉心溶融物保持装置における冷却水流路11の平面構造を示す。冷却水流路11の外周に傾斜冷却水流路底板16が設けられ、その外周に給水流路15が配置されている。冷却水流路11は、流路サポート21により放射状に分割されており、各流路サポート21の間には後述する変形防止板23が設けられている。
【0028】
尚、変形防止板には、例えばステンレス鋼板(SUS304、SUS316)、炭素鋼鍛鋼品(SF490A)、ステンレス鋼鍛鋼品(SCS14A、SCS16A)、圧力容器用炭素鋼鍛鋼品(SFVC2B)等を用いてもよい。
【0029】
冷却水流路11の一部を拡大すると図4に示されたような構造を有し、傾斜冷却水流路底板17の外周にライザ外側板20が設けられ、これと空間を隔てて対向するように、傾斜冷却水流路天板18及びその外周に、接続部32において接続されたライザ部内側板19が設けられている。傾斜冷却水流路天板18と傾斜冷却水流路底板17との間には、図4において示されていないが変形防止板23が存在する。
【0030】
図3におけるA−A線に沿う縦断面として、冷却水流路11の縦断面構造を図5に示す。
【0031】
傾斜冷却水流路天板18と空間を隔てて対向するように、傾斜冷却水流路底板17と流路サポート21とがL字型形状を形成し、複数放射状に配置されている。2本の流路サポート21の間に、傾斜冷却水流路底板17の表面上に溶接された変形防止板23が少なくとも1本ずつ設けられ、1本の変形防止板23の上端は、流路サポート21と同様に傾斜冷却水流路天板18に設けられた2本のサポートガイド22の間に載置された状態にある。
【0032】
本実施の形態1によれば、上述の構成を備えたことにより以下のような作用、効果が得られる。炉心溶融事故が発生し、炉心溶融物13が原子炉圧力容器下部ヘッド3を貫通すると、炉心溶融物保持装置9上に落下する。
【0033】
炉心溶融物13の落下後、直ちに給水容器10へ給水するため、冷却水流路11に冷却水が供給される。高温の炉心溶融物13の熱が耐熱材12に伝わり、さらに冷却水流路11を介して水に伝えられることで、炉心溶融物13の冷却が行われる。この時、冷却水流路11の温度が上昇することによって熱膨張が生じる。
【0034】
本実施の形態1では、傾斜冷却水流路天板18が流路サポート21と変形防止板23の上に載置されており、円錐形状の傾斜冷却水流路底板17と流路サポート21とが複数個のL字型形状で構成されそれぞれが溶接されており、変形防止板23は傾斜冷却水流路底板17の中央部位置に溶接により接合されている。
【0035】
このような傾斜冷却水流路天板18及びライザ部内側板19が流路サポート21及び変形防止板23の上部に載置された構造とすることにより、傾斜冷却水流路天板18の熱膨張がサポートガイド22と流路サポート21及び変形防止板23との間の隙間で吸収されるため、熱応力が生じることが防止される。また、流路サポート21と変形防止板23の溶接線が重なることを避けることができることにより、冷却水流路11を溶接で設計製造することができ、製造工程を短縮することができる。
【0036】
(2)実施の形態2
本発明の実施の形態2による炉心溶融物保持装置について、図6、図7を用いて説明する。
【0037】
図6に、本実施の形態2の炉心溶融物保持装置における冷却水流路11の傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19との接続部付近の縦断面構造を拡大して示す。
【0038】
傾斜冷却水流路天板18の表面上に耐熱材12が設置されており、傾斜冷却水流路天板18の外周端部において耐熱材12側に向かってライザ部内側板19の締結用端部と締結されている。ライザ部内側板19の締結用端部はL字型形状に曲げられており、締結金具用長穴25が形成されている。この締結金具用長穴25を貫通する締結金具24により、傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19とが締結されている。耐熱材12は、傾斜冷却水流路天板18から締結部周辺を含めてライザ部内側板19の表面全体を覆うように配置されている。
【0039】
図6におけるB−B線に沿う横断面であって、締結金具用長穴25の横断面形状を図7に示す。締結金具用長穴25は、傾斜冷却水流路天板18の外半径方向の寸法が長手となるように形成されている。炉心溶融物を保持する際に、傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19とがそれぞれが熱膨張により変形する。特に、傾斜冷却水流路天板18は外半径方向に沿って大きく膨張する。
【0040】
そこで、傾斜冷却水流路天板18の外半径方向の寸法が長手となる締結金具用長穴25を介して傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19とを締結することにより、変形量の大きい傾斜冷却水流路天板18の変形及び変位が吸収される。この結果、傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19との間で熱膨張による拘束が緩和されるので、冷却水流路における熱応力を低減することができる。
【0041】
(3)実施の形態3
本発明の実施の形態3による炉心溶融物保持装置について、図8、図9を参照して説明する。
【0042】
図8に、本実施の形態3の炉心溶融物保持装置における冷却水流路11の傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19との接続部付近の縦断面構造を拡大して示す。
【0043】
傾斜冷却水流路天板18の外周端部においてライザ部内側板19の締結用端部と締結されている。ここで、上記実施の形態2と本実施の形態3とでは、L字型形状を有するライザ部内側板19の締結用端部の向きが異なる。上記実施の形態2ではライザ部内側板19の締結用端部が耐熱材12が存在する冷却流路11の中心部に向かっているのに対し、本実施の形態2では締結用端部が外半径方向に向かうように配置されている。
【0044】
この実施の形態3においても、ライザ部内側板19の締結用端部に締結金具用長穴25が形成されており、この締結金具用長穴25を貫通する締結金具24により傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19とが締結されている。耐熱材12は、傾斜冷却水流路天板18から締結部周辺を含めてライザ部内側板19の表面全体を覆うように配置されている。
【0045】
図8におけるC−C線に沿う横断面であって、締結金具用長穴25の横断面形状を図9に示す。締結金具用長穴25は、上記実施の形態2と同様に傾斜冷却水流路天板18の外半径方向の寸法が長手となるように形成されている。これにより、熱膨張による変形量の大きい傾斜冷却水流路天板18の変形及び変位が吸収される。この結果、傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19との間で熱膨張による拘束が緩和されるので、冷却水流路における熱応力を低減することができる。
【0046】
さらに、本実施の形態3によれば上記実施の形態2と比較し、傾斜冷却水流路天板18とライザ部内側板19との締結部周辺において締結金具24が干渉しないため断熱材12の設置が容易で施工性が向上し、製造コストの低減に寄与することができる。
【0047】
(4)実施の形態4
本発明の実施の形態4による炉心溶融物保持装置について、図10〜図12を参照して説明する。
【0048】
本実施の形態4では、ライザ部内側板19及びライザ部外側板20から成る円環状のライザ部のうち、ライザ部内側板19が周方向に複数個に分割されて分割ライザ部内側板19a、19b、…を構成している。
【0049】
図10において点線で囲まれたDの部分の横断面を拡大して図11に示す。分割ライザ部内側板19aと分割ライザ部内側板19bのそれぞれのつなぎの部分が一方が凹、他方が凸の形状を有し相互に嵌め込む構造を有している。ここで、嵌め込み部には相互の間に隙間が設けられている。
【0050】
炉心溶融の落下により、傾斜冷却水流路天板18が熱膨張する。この傾斜冷却水流路天板18が膨張すると、周方向にも膨張する。そして、傾斜冷却水流路天板18の周方向の熱膨張量と、ライザ部の熱膨張量には相違がある。しかし、周方向に分割された分割ライザ部内側板19a、19b、…のそれぞれ嵌め込み部に隙間があることにより、傾斜冷却水流路天板18の周方向への熱膨張を吸収し熱応力を低減することで冷却水流路11の破損を防止することができる。
【0051】
尚、嵌め込み部に隙間が存在しても、凹部と凸部とを嵌め込む構造としたことにより、分割ライザ部内側板19a、19b、…におけるそれぞれの間の密封性はある程度保たれる。
【0052】
尚、分割ライザ部内側板19a、19b、…の嵌め込み構造は、図12に示されたように相互に向きが異なるL字型形状によるものであってもよい。この場合も、相互間に隙間を設けることで熱応力を低減することができると共に必要な密閉性を持たせることができる。
【0053】
尚、本実施の形態4では、ライザ部におけるライザ部内側板19、ライザ部外側板20のうち、ライザ部内側板19に対して分割構造を適用している。しかし、同様の分割構造を、ライザ部外側板20に適用することも可能であり、あるいはライザ部内側板19及びライザ部外側板20の両方に適用することもできる。
【0054】
(5)実施の形態5
本発明の実施の形態5による炉心溶融物保持装置について、図13、図14を参照し説明する。
【0055】
本実施の形態5においても、上記実施の形態4と同様にライザ部内側板19が周方向に分割されて分割ライザ部内側板19a、19b、…を構成している。図13における点線で囲まれたDの部分の横断面を拡大して図14に示す。分割ライザ部内側板19aと分割ライザ部内側板19bとがある程度隙間を空けた状態で、変形吸収板29により相互に接続されている。
【0056】
変形吸収板29は、例えば薄肉板やベロー部材等で形成することができる。変形吸収板29と分割ライザ部内側板19a、19bとは、それぞれ溶接部29a、29bとして図示されたように溶接等により接合される。
【0057】
炉心溶融物13が落下すると、傾斜冷却水流路天板18が熱膨張する。しかし、分割ライザ部内側板19a、19b、…のそれぞれの繋ぎの部分に隙間が存在するため、傾斜冷却水流路天板18の周方向への熱膨張をこの隙間で吸収し、熱応力が緩和されて冷却水流路11の破損を防止することができる。
【0058】
尚、分割ライザ部内側板19a、19b、…の間には隙間が存在するが、変形吸収板29により相互に繋ぎ合わされているため、分割ライザ部内側板19a、19b、…の内側と外側との間の密封性はある程度保たれる。
【0059】
(6)実施の形態6
本発明の実施の形態6による炉心溶融物保持装置について、図15を参照して説明する。
【0060】
上記実施の形態1〜5では、傾斜冷却水流路天板18の外周部に設けられたライザ部内側板19と、傾斜冷却水流路底板17の外周部に設けられたライザ部外側板20とでライザ部流路30を構成し、ライザ部内側板19の表面上に断熱材12が設置されている。
【0061】
これに対し本実施の形態6では、傾斜冷却水流路天板18の外周部にライザ部内側板19を設けず、傾斜冷却水流路天板18上に設置した断熱材12の角度を曲げて上方へ向けて延在させ、外周部のライザ部内側板に相当する構造を一体化して備えている。ここで、断熱材12には、例えばアルミナ(Ai)、酸化カルシウム(CaO)、マグネシア(MgO)、ハフニア(HfO)、ジルコニア(ZrO)等の材料を用いてもよい。
【0062】
このような構造において、ライザ部流路30内の冷却水が断熱材12とライザ部外側板20とで構成されたライザ部流路30を沸騰しながら上昇する。冷却水の自然循環現象に全く影響を与えることなく、構造の簡素化及び製造コストの低減を実現することができる。
【0063】
(7)実施の形態7
本発明の実施の形態7による炉心溶融物保持装置について、図16を参照して説明する。
【0064】
本実施の形態7では、図16(a)に示されたように、傾斜冷却水流路天板18の下面において、流路サポート21aと変形防止板23との間の領域に、複数の流路制御板31a11〜31a13及び31a21〜31a23が設けられ、流路サポート21aと変形防止板23との間の領域に、複数の流路制御板31b11〜31b13及び31b21〜31b23が設けられている。これらの流路制御板は、冷却水が矢印で図示された方向に沿って流れていく際に、流路サポート21a、21b、変形防止板23へ向けて多くの冷却水が供給されこれらが効率良く冷却されるように冷却水の流れを制御するものである。
【0065】
尚、これらの流路制御板31a11〜31a13及び31a21〜31a23、31b11〜31b13及び31b21〜31b23の角度は、図16(a)に示されたように一定であってもよい。
【0066】
しかし、図16(b)に示されたように、流路制御板31a11から流路制御板31a12、さらに流路制御板31a13という順に外半径側へ向かうに従って流路サポート21a、21bあるいは変形防止板23となす角度がより大きくなっていくように設定されていてもよい。この場合には、冷却水が外半径側に流れていくに従って、より流路サポート21a、21bあるいは変形防止板23へ多くの流量が流れることになり、より高い冷却効果が得られる。
【0067】
上述した実施の形態はいずれも一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の技術的範囲内において様々に変形し、また各実施の形態を組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 原子炉圧力容器
2 格納容器
3 原子炉圧力容器下部ヘッド
4 サプレッションプール
5 水槽
6 格納容器冷却器
7 下部ドライウェル
8 サンプ床
9 炉心溶融物保持装置
10 給水容器
11 冷却水流路
12 耐熱材
13 炉心溶融物
14 注水配管
15 給水流路
17 傾斜冷却水流路底板
18 傾斜冷却水流路天板
19 ライザ部内側板
19a、19b 分割ライザ部内側板
20 ライザ部外側板
21、21a、21b 流路サポート
22 サポートガイド
23 変形防止板
24 締結金具
25 締結金具用長穴
29 変形吸収板
30 ライザ部流路
31a11〜31a13及び31a21〜31a23 流路制御板
32 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器の下方に設けられた炉心溶融物保持装置であって、
前記炉心溶融物保持装置は、給水容器と、前記給水容器に冷却水を供給するための給水流路と、前記給水容器の外縁を囲むように外半径方向に沿って複数の流路サポートにより仕切られ放射状に配置された複数の冷却水流路とを有し、
各々の前記冷却水流路は、傾斜冷却水流路底板と、この傾斜冷却水流路底板の外半径方向に沿う一方の端面にL字型形状を成すように設けられた複数の前記流路サポートと前記流路サポート間に配置された変形防止板との上に載置され、前記傾斜冷却水流路底板との間で前記冷却水が流れる空間を形成する傾斜冷却水流路天板とを有し、
隣接する一方の前記冷却水流路の前記傾斜冷却水流路底板と他方の前記冷却水流路の前記流路サポートとは溶接により接合されており、前記変形防止板は前記傾斜冷却水流路底板の表面上に溶接により接合されていることを特徴とする炉心溶融物保持装置。
【請求項2】
各々の前記傾斜冷却水流路天板の外周にはライザ部内側板が設けられ、各々の前記傾斜冷却水流路底板の外周にはライザ部外側板が設けられてライザ部を形成し、
前記傾斜冷却水流路天板と前記ライザ部内側板の表面上に耐熱材が設置されており、
前記傾斜冷却水流路天板と前記ライザ部内側板とは、前記ライザ部内側板の締結用端部に設けられた外半径方向に長い長穴を貫通する締結金具により締結されていることを特徴とする請求項1記載の炉心溶融物保持装置。
【請求項3】
前記ライザ部内側板の前記締結用端部は、前記傾斜冷却水流路天板の内径方向に向かってL字型形状に曲げられた形状を有し、前記締結用端部の表面上に前記耐熱材が設置されており、あるいは
前記ライザ部内側板の前記締結用端部は、前記傾斜冷却水流路天板の外径方向に向かってL字型形状に曲げられた形状を有することを特徴とする請求項2記載の炉心溶融物保持装置。
【請求項4】
前記ライザ部を形成している前記ライザ部内側板、前記ライザ部外側板のうちの少なくともいずれかは円周方向に複数個に分割されており、それぞれの繋ぎの部分が、隙間が存在する凹凸形状又はL字型形状から成る嵌め込み構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の炉心溶融物保持装置。
【請求項5】
前記ライザ部を形成している前記ライザ部内側板、前記ライザ部外側板のうちの少なくともいずれかは円周方向に複数個に分割されており、隣接しているもの同士の間に隙間が存在し変形吸収板により相互に繋がれた構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の炉心溶融物保持装置。
【請求項6】
前記傾斜冷却水流路天板の下面における前記流路サポートと前記変形防止板との間に設けられた、冷却水の流れを前記流路サポートあるいは前記変形防止板に向けるための流路制御板をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の炉心溶融物保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−42336(P2012−42336A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183731(P2010−183731)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】