説明

炭化水素系単分子膜による潤滑方法

【課題】水素終端シリコン基板と直接結合した自己組織化膜を用いて、水素終端シリコン基板の摩擦・摩耗の低減化を行う方法を提供する。
【解決手段】水素終端シリコン表面上に、一般式CH3-(CH2)n=CH2(式中、n=12-18である)であらわされる直鎖の1-アルケンからなる単分子膜を設け、これを潤滑膜として用いることを特徴とする摩擦摩耗低減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質することにより、潤滑性を改善し、摩擦特性、摩耗特性を良くする摩擦摩耗低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを材料とした微小機械では、体積に占める表面積の割合などが大きいことから、表面に働く凝着力や摩擦力が微小機械の動作に大きな影響を与える。また、ナノメーターオーダーでの動作や位置決めの精度が必要とされることから、ナノメーターオーダーの潤滑膜が望まれる(特許文献1参照)。
最近、ナノメーターオーダーでの膜厚制御が可能で、低摩擦化が期待できる有機シラン分子からなる自己組織化単分子膜を潤滑膜として使用するための研究が行われている(特許文献2)。しかし、有機シラン分子は、環境に対する負荷が大きいことから、負荷の小さい分子の使用が望まれる。また、有機シラン分子に代えてアルカノール等の炭化水素系有機薄膜を用いることも知られている(特許文献2)。さらに、アルキルチオールが結合した分子膜を用いた摩擦低減方法も知られている(特許文献3)。
しかし、水素終端シリコン基板に対して有効な摩擦低減方法は、知られていなかった。
【特許文献1】特開平06−134916号公報
【特許文献2】特開平06−28273号公報
【特許文献3】特開2005−53116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シリコン基板と直接結合した自己組織化膜を用いてシリコン基板の摩擦・摩耗の低減化を行う。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、水素終端シリコン表面上に直鎖アルケン分子を一分子層固定化させた潤滑膜により摩擦・摩耗の低減化を図るものである。すなわち、本発明は、水素終端シリコン表面上に、一般式CH3-(CH2)n=CH2(式中、n=12-18である)であらわされる直鎖の1-アルケンからなる単分子膜を設け、これを潤滑膜として用いることを特徴とする摩擦摩耗低減方法である。
また本発明の摩擦摩耗低減方法では、水素終端シリコン基板と直鎖の1-アルケン分子間の結合をSi-C結合とすることができる。
更に、本発明は、水素終端シリコンを、一般式CH2-(CH2)n=CH2(n=12-18)(式中、nは12〜18の整数である。)で表わされる直鎖の1-アルケンのメシチレン溶液に、130〜170℃で1〜5時間分浸漬することにより、自己組織化分子膜(SAM(Self-Assembled Monolayer)で被覆されたシリコン表面を得る摩擦摩耗低減方法に用いる潤滑膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の摩擦摩耗低減方法は、水素終端シリコン上にアルケンから作成した潤滑膜により、摩擦・摩耗を低減する効果を得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
これまでは、シリコン基板の潤滑膜として酸化物などの中間層を被膜した上に有機シラン分子からなる単分子膜を成膜する方法が主流であったが、有機シラン分子は環境負荷が大きく、また酸化物の中間層が必要である。そこで、本特許では、直接、シリコン基板上に強固な結合で成膜可能であり、環境負荷の小さなアルケン分子を使用した単分子膜を使用した摩擦・摩耗低減方法を試みた。
【0007】
本発明の摩擦摩耗低減方法に用いる潤滑膜は、図1の模式図に示すように一般式CH3-(CH2)n=CH2(n=12-18)で表わされる直鎖の1-アルケンの分子膜を有する自己組織化単分子膜(SAM(Self-Assembled Monolayer)であり、これで被覆されたシリコンは摩擦・摩耗特性が低減されるという特徴を有する。
また、本発明は、水素終端シリコンを、図1に示すように一般式CH2-(CH2)n=CH2(n=12-18)(式中、nは12〜18の整数である。)で表わされる直鎖の1-アルケンのメシチレン溶液に130〜170℃で1〜5時間分浸漬することにより、自己組織化分子膜(SAM(Self-Assembled Monolayer)で被覆されたシリコンを作成することができる。
【0008】
本発明では新たにアルケンを使用した直接結合形のSAMを用いることで摩擦係数の低減に成功した。
【実施例1】
【0009】
(ヘキサデセンSAMの作成手法)
直接結合形の自己組織化膜の形成を行った。1−アルケンの一種である、1-ヘキサデセン(CH3-(CH2)14=CH2、以後HDと略す)を150℃のメシチレン中に100mMの濃度に希釈した溶液中に水素終端シリコン基板を2時間浸漬しSAM膜を生成させた。溶液から取り出した後、120℃まで冷却後、室温のヘキサン、エタノール、超純水中で10分間ずつ超音波洗浄することによって、基板と結合していないHD分子は洗い流される。
【0010】
(SAM形成の確認)
まず、得られたHD SAMの水による接触角測定を行った。その結果、108〜110°となり、SAMの形成が確認できた。
【0011】
(摩擦係数の測定)
得られた試料の摩擦測定をピン・オン・プレート摩擦試験機によって行った。荷重は98 mN、摩擦速度は2 mm/s (0.2 Hz)、ピンにはガラス(PYREX(登録商標))を加熱し、先端をなめらかにしたものを用いた。摩擦係数を調べたところ、およそ11時間、0.04-0.08の摩擦係数を保った。その結果を図2に示す。
【0012】
(摩耗痕の観察)
次に、摩擦試験後のHD SAMにおいて、摩耗痕の光学顕微鏡観察を行った結果、HD SAMに関しては、摩耗痕が観察されず、摩耗が起こらないことがわかった。その結果を図3に示す。
【0013】
(比較となるオクタデシルトリクロロシランSAMの作成手法)
HD SAMと比較するため、シリコン・分子間の結合種が異なるオクタデシルトリクロロシラン(CH3(CH2)17SiCl3、以後ODSと略する)も同様に評価した。この分子のSAMはヘキサデセンを溶媒として1mMの濃度に希釈した室温の溶液中にシリコン基板を24時間浸漬して作製した。溶液から取り出した後、ヘプタン、エタノール中で10分間超音波洗浄することによって、基板と結合していないODS分子は洗い流される。実施例1のHD SAMと同じ条件で、比較対象のODS SAMについて調べたところ、およそ2時間で0.3-0.4の摩擦係数に上昇した。その結果を図2に示す。一方、比較で行ったODS SAMの摩耗痕の観察では、摩耗痕と摩耗粉が観察された。その結果を図3に示す。以上の結果より、HD SAMの被覆により、摩耗を抑制したと結論した。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の水素終端シリコン基板の摩擦・摩耗の低減化を行う方法は、ナノメーターオーダーでの動作や位置決めの精度が必要とされるナノメーターオーダーでの膜厚制御が可能で、ナノメーターオーダーの潤滑膜を提供することができ、微小機械における潤滑特性を高めることができ、産業上の利用可能性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の組織化分子膜の模式図
【図2】HD SAMとODS SAMの摩擦係数の時間変化
【図3】HD SAMとODS SAMの摩擦試験後の光学顕微鏡像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素終端シリコン表面上に、一般式CH3-(CH2)n=CH2(式中、n=12-18である)であらわされる直鎖の1-アルケンからなる単分子膜を設け、これを潤滑膜として用いることを特徴とする摩擦摩耗低減方法。
【請求項2】
水素終端シリコン基板と直鎖の1-アルケン分子間の結合はSi-C結合である請求項1に記載した摩擦摩耗低減方法。
【請求項3】
水素終端シリコンを、一般式CH2-(CH2)n=CH2(n=12-18)(式中、nは12〜18の整数である。)で表わされる直鎖の1-アルケンのメシチレン溶液に150℃で2時間分浸漬することにより、自己組織化分子膜(SAM(Self-Assembled Monolayer)で被覆されたシリコン表面を得る摩擦摩耗低減方法に用いる潤滑膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−191168(P2009−191168A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33364(P2008−33364)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】