説明

炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材およびその製造方法、ならびに炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材の製造に用いる炭素−炭素繊維複合線材と該炭素−炭素繊維複合線材の製造に用いる炭素長繊維束の製造方法

【課題】炭素連続繊維束を毛羽立ちを抑えて分繊し、炭素結合により単繊維同士を結束して、毛羽立ちやほつれなどによる欠陥の無い、表面の滑らかな十分取り扱い性にすぐれた連続炭素繊維束を製造し、これを用いて最終的に炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を提供する。
【解決手段】単繊維を集合してなる炭素長繊維束に空気を噴き付けて、炭素長繊維束の直径の2〜10倍の幅に炭素長繊維束を開繊し、開繊された炭素長繊維に、樹脂液を塗布し、乾燥させることによって単繊維同士を結束させた後、刃形状の器具によって分繊して複数の直径0.02〜1mmの連続炭素長繊維束を得、連続炭素長繊維束を鉛直方向に配して、これに可撓性熱硬化性樹脂を塗布した後、加熱して樹脂分を炭化させ、炭素−炭素繊維複合線材とし、炭素−炭素繊維複合線材に炭化珪素先駆体樹脂を被覆し、熱処理して炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材およびその製造方法、ならびに炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材の製造に用いる炭素−炭素繊維複合線材の製造方法、該炭素−炭素繊維複合線材の製造に用いる炭素長繊維束の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業において、強化材、耐酸化材として炭化珪素の使用が進んでいるが、炭化珪素自体は非常に脆く、特に疲労荷重・衝撃荷重を受けるような構造部材にそのまま使用するには安全性の問題がある。一方、ゴルフクラブ・テニスラケットといったスポーツ用品、架橋土台の補強用シート、自動車・航空機のボディ材の補強材として広く使用されている炭素繊維は、強度とフレキシビリティが両立した信頼度の高い素材であるため、炭素系材料は複合材料として多く用いられている。
【0003】
耐酸化性と強度・フレキシビリティを同時に発現させる狙いから、炭化珪素を炭素繊維表面に被膜させた複合素材の開発も進められている。炭化珪素を被覆することにより、金属マトリクスとの濡れが良くなるため、マトリクス−補強材界面強度が向上するという利点が生まれる。特に、炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材は、各種強化材や耐酸化材、また、ストリングリボン法と呼ばれる太陽電池用シリコンウェハ製造法におけるウェハ引上げ部材として適用可能なものとして期待されている。
【0004】
従来、炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を製造する方法として、例えば、連続炭素繊維数本を一方向に配列し、フェノール樹脂とエタノールを混合した溶液に含浸させ、大気中において加熱し、フェノール樹脂を炭化させることにより、直径0.05mm以上の連続炭素繊維束(繊維束中の炭素媒体の含有量は、径の大きさに係らず約60体積%)を得、この連続炭素繊維束をポリシラン中に浸漬、乾燥することにより炭化珪素コーティングを行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この手法においては、連続炭素繊維束の直径が0.05mm未満の場合には束が崩れ易く十分な取り扱い性が得られない、得られた繊維束の炭素媒体の含有量は、径の大きさに係らず約60体積%と、体積当たりの繊維含有量が小さく固定されてしまうため、炭化物で結合した繊維束が剛直な性状となり十分な取り扱い性が得られない、解れた単繊維がそのまま炭素で固定されるため、分繊された単繊維には絡まりが存在し、分繊する際に単繊維がところどころで切れてしまい、羽立ちのある繊維束となるなどの問題があった。
【特許文献1】特開平6−116035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記提案の炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材の製造方法における問題を解消するためになされたもので、その目的は、炭素連続繊維束を毛羽立ちを抑えて分繊し、炭素結合により単繊維同士を結束して、毛羽立ちやほつれなどによる欠陥の無い、表面の滑らかな十分取り扱い性にすぐれた連続炭素繊維束を製造する方法を提供することにある。
【0007】
また、上記製造された連続炭素繊維束を用いて炭素−炭素繊維複合線材を製造する方法、この炭素−炭素繊維複合線材を用いて炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を製造する方法、ならびに炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための請求項1による炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材は、単繊維同士が炭素質媒体により一方向に結束され、毛羽立ちが1箇所/m未満である連続炭素長繊維束からなる直径0.02〜1mmの炭素−炭素繊維複合線材に、炭化珪素をコーティングしたことを特徴とする。
【0009】
請求項2による炭素長繊維束の製造方法は、単繊維を集合してなる炭素長繊維束に空気を噴き付けて、炭素長繊維束の直径の2〜10倍の幅に炭素長繊維束を開繊し、開繊された炭素長繊維に、揮発性溶媒により粘度0.01〜1Pa・sに調整した熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる樹脂液を塗布し、乾燥させることによって単繊維同士を結束させた後、刃形状の器具によって分繊して複数の直径0.02〜1mmの連続炭素長繊維束を得ることを特徴とする。
【0010】
請求項3による炭素−炭素繊維複合線材の製造方法は、直径0.02〜1mmの連続炭素長繊維束を鉛直方向に配し、該連続炭素長繊維束に、揮発性溶媒により粘度0.01〜1Pa・sに調整した、アルコール可溶のエポキシ樹脂に硬化剤としてフェノール樹脂を混合した可撓性熱硬化性樹脂からなる樹脂液を滴下して、該可撓性熱硬化性樹脂を前記連続炭素長繊維束の炭素繊維に塗布した後、加熱炉に装入して800〜1200℃の温度に加熱し、樹脂分を炭化することを特徴とする。
【0011】
請求項4による炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材の製造方法は、炭素−炭素繊維複合線材に炭化珪素先駆体樹脂を被覆し、加熱炉内において800〜1400℃の温度で熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
単位繊維からなる炭素繊維束を開繊後に、樹脂液を噴き付けることにより、繊維一本一本が結束されるため、刃物で分繊しても切れた炭素繊維はほつれず、その結果毛羽立つことがない。樹脂液噴霧装置と刃物は開繊・巻取り装置に組み込むことができるので、連続的に処理することが可能となる。
【0013】
このようにして得られた直径0.02〜1mmの分繊繊維束を鉛直方向に配し、熱硬化性樹脂液または熱可塑性樹脂からなる樹脂液を滴下させると繊維間に凝集力が働くため、分繊時に切れた炭素繊維は露出されること無く繊維束に取り込まれる。この状態で管状炉などの加熱炉を通過させて樹脂分を炭素化させると、表面に毛羽立ちを有することなく、内部に空孔の無い炭素−炭素繊維複合線材が得られる。
【0014】
得られた炭素−炭素繊維複合線材を鉛直方向に配し、ポリカルボシランのような液状の炭化珪素前駆体を滴下させて、加熱炉を通過させることにより、炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を得ることができる。本手法によれば、毛羽立ちを発生させずに分繊し、繊維中に隙間無く樹脂をコーティングすることが出来るため、強化材や耐酸化材として使用できるとともに、ストリングリボン法と呼ばれる太陽電池用シリコンウェハ製造法におけるウェハ引上げ部材として用いられる直径1mm以下の炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を安価、安定的且つ連続的に生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、高フィラメントの炭素繊維束を最小径0.02mmの低フィラメントに毛羽立ちなどの欠陥を発生させずに分繊し、炭素繊維束内部まで樹脂を浸透させた上で焼成して炭素−炭素繊維複合線材を得、これに炭化珪素コーティングを施すことを特徴とする。
【0016】
以下、工程順に説明する。
(炭素繊維束の開繊・分繊)
炭素繊維の長繊維は、多数の単繊維を束としたトウとして市販されている。このトウは、通常、直径が数μmから20μmの炭素繊維の単繊維を3,000本乃至60,000本集合したものである。このため、本発明の目的とする直径0.02〜1mmの長繊維束とを得るためには、一旦、トウを開繊して、所定の直径となるように分繊して炭素繊維の単繊維を束ね直す必要がある。
【0017】
開繊・分繊する手段としては、通常知られている方法、すなわち、丸棒で繊維束をしごく方法、水流や高圧空気流を当て各繊維を開繊する方法、超音波で各繊維を振動させ開繊する方法、空気開繊方法などを適用することができるが、炭素繊維束の内部まで樹脂をコーティングする上で効果的な手法として、空気噴流を用いた空気開繊方法が好適である。この方法は、空気を噴き付けることにより噴流と垂直面に繊維が広がり、繊維の重なりを無くすことができる。開繊後に多本の櫛により分繊する。
【0018】
(分繊繊維束の形成)
しかしながら、単に、炭素繊維束を開繊・分繊しても、単繊維には絡まりが存在するため、分繊する際に単繊維がところどころで切れてしまい、毛羽立ちのある分繊された炭素繊維束となり易い。この問題を解消するために、本発明においては、開繊した炭素繊維に樹脂液(以下、樹脂液A)を塗布して短繊維を結束し、多本の櫛で分繊加工した後であっても、切れた単繊維がほつれを起こさず、その結果、毛羽立ちのない分繊繊維束を得ることを特徴とする。
【0019】
上記の樹脂液Aに用いる樹脂は、後の工程で炭化されるため、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも適用することができる。好ましい樹脂としては、サイジング剤に用いる水溶性エポキシ樹脂や、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシのような低官能で柔軟性に優れたエポキシ樹脂、その他フィルムや接着剤として用いられるポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリエチグリコール、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ゼラチン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0020】
これらの樹脂を溶剤により調整した樹脂液Aを開繊した炭素繊維に噴霧して噴き付けた後、多本の櫛により分繊し、分繊した繊維束の一本一本に撚りを入れるながら結束させて分繊繊維束を得る。好ましくは、前記の樹脂をアルコールなどの揮発性溶媒にて粘度1〜100Pa・sに調整して噴き付ける、溶剤に水を用いる場合は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを有する速乾性および延性の高い樹脂を粘度1〜100Pa・sに調整して噴き付ける手法が用いられる。安全面、環境面を配慮すると溶剤に水を用いるのが望ましい。
【0021】
分繊した繊維に対する撚りの入れ方は、毛羽立ちや切れを少なくするため、分繊繊維束の長さ1m当たり2〜10として、直径0.02〜1mmの長繊維束とする。より好ましい撚りの入れ方は3〜5回/mである。撚りが2回/mを下回ると分繊繊維束の剛性が小さいため取り扱い難くなり、一方、10回/mを上回ると毛羽立ちを生じるようになる。
【0022】
繊維に対する樹脂の添着量は、100℃で2時間乾燥した後の重量として、炭素繊維1g当たり10〜300mgが好ましい。10mgを下回ると結束が不十分となって毛羽立ちが生じ、300mgを越える巻取りの際、分繊繊維束同士が張り付き易くなる。結束後、乾燥、加熱硬化、UV硬化、電子線硬化などの処理を行ってもよい。
【0023】
(繊維束への樹脂被覆)
続いて、炭素−炭素繊維複合線材を得るために、分繊した繊維束に、アルコール可溶のエポキシ樹脂に硬化剤としてフェノール樹脂を混合した可撓性熱硬化性樹脂を揮発性溶媒で粘度1〜100Pa・sに調整した樹脂液(以下、樹脂液B)を含浸させる。繊維束を伝う樹脂液は、満遍なく繊維を被覆するだけでなく、開繊によって幅方向に広がった分繊繊維を結束凝集して、繊維束の断面形状が擬似的に円形になるという効果がある。
【0024】
分繊した繊維束に樹脂液Bを含浸させる方法として、繊維束を鉛直方向に配置し上方より樹脂液を繊維束に滴下させる方法が好ましい。繊維束を鉛直方向に配置し樹脂液中に繊維束を通過させる方法もあるが、樹脂浴に浸漬させてしまうと各繊維を結束させている樹脂液Aを構成する樹脂が溶解し、樹脂液B内で繊維が広がったり、たわんでしまうだけでなく、切断された繊維がほつれてしまい、このような状況で樹脂浴から引き上げると、毛羽立ちやくびれが発生するので注意を要する。
【0025】
樹脂液Bとして、アルコール可溶のエポキシ樹脂に硬化剤としてフェノール樹脂を混合した可撓性熱硬化性樹脂を揮発性溶媒により粘度0.01〜1Pa・sに調整した樹脂液を用いると、含浸および乾燥した後および焼成後も、炭素繊維束がフレキシビリティを有し、ロール巻き取りなどの作業性が容易となる。
【0026】
樹脂液Bに用いる好ましい樹脂としては、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂との混合樹脂、およびフェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤を必須成分として含むものであり、混合樹脂中の2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂の割合を20重量%以上とするのが好ましい。
【0027】
2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂は、一般式「化1」で表され、Oは酸素、Rは炭素原子数が2 〜10個のアルキレン基、nは1以上の整数、Gはグリシジル基からなる化合物であり、グリシジル基間に含まれる炭素原子数は6以上のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0028】
(化1)
G−O−(R−O)−G
【0029】
2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂は直鎖構造であるため、分子が動き易く、柔軟性を示し、ゴム弾性が出やすい構造である。2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂の代表的なものとしては、ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリオキシテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂などが挙げられ、これらの樹脂の中でも相対的に酸素原子の割合が小さいものが好ましい。
【0030】
上記の一般式「化1」で示したグリシジル基間の炭素数が多くなると、樹脂の柔軟性は高くなるので破断歪みは大きくなるが、一方、強度は小さくなる。炭素数が6個未満、例えば4個のアルコールエーテル型エポキシ樹脂ではグリシジル基間が短すぎるので柔軟性が低くなる。そのため、柔軟性を確保するためにはグリシジル基間に含まれる炭素原子数が6個以上のエポキシ樹脂が好ましい。しかし、グリシジル基間の炭素原子数が8個以上となると強度の低下が著しくなって取り扱い性が不十分となる。
【0031】
多官能フェノール型エポキシ樹脂として、例えば2官能フェノール型エポキシ樹脂は分子中に2個のエポキシ基を有し、一般式「化2」で示されるように、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂のように、ベンゼン環を有するエポキシ樹脂は、硬化物の弾性率は若干低くなるが、平面的なベンゼン環により分子が動き難く、柔軟性が低くなり、伸びが小さくなる。
【0032】
【化2】

【0033】
また、多官能フェノール型エポキシ樹脂として、3官能フェノール型エポキシ樹脂は、一般式「化3」(「化2」においてn=1の場合)で示されるように、分子中に3個のエポキシ基を有し、骨格にベンゼン環を有しており、硬化すると三次元構造となって、硬質で脆い硬化物となる。そして、結合材として炭素粉末を結着した炭素/ 樹脂硬化成形体は、高い強度を示すが柔軟性や伸びが低下するので、破断歪みは極めて小さくなる。
【0034】
【化3】

【0035】
炭素粉末を結着する樹脂として、優れた可撓性(柔軟性)を有する反面、強度が低い2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と、高強度を有するが可撓性(柔軟性)が低い多官能フェノール型エポキシ樹脂とを併用することにより、可撓性(柔軟性)と強度の両立化を図ることが好ましい。すなわち、炭素粉末を結合する樹脂として、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂との混合樹脂を用い、その混合割合を調整することにより、強度と破断歪みのバランス化を図ることができ、取り扱い性に優れるものとなる。
【0036】
なお、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂として、グリシジル基間の炭素原子数の多いものを使用する場合には、同樹脂は高い可撓性を示すので、混合樹脂中における割合を少なくできるが、可撓性と強度との両立化を図るためには、混合樹脂中における2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂の割合を20重量%以上、より好ましくは40重量%以上とする。20重量%未満では、破断歪みが小さくなり、破損し易くなる。
【0037】
多官能フェノール型エポキシ樹脂としては、その分子中にフェノール構造を有し、エポキシ基を2個以上有する化合物である限り使用することができ、一般的な例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂などが適用される。
【0038】
フェノール樹脂は、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂との混合樹脂の硬化剤となるもので、特に限定されることなく、一般的なフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、キシレン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビスフェノール型ノボラック樹脂などのノボラック樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールAなどのビスフェノール類、該ビスフェノール類を該ビスフェノール類のジグリシジルエーテルで高分子量化あるいはエピクロルヒドリンと該ビスフェノール類とを後者が過剰となる割合で反応させて得られるビスフェノール系樹脂が使用される。
【0039】
フェノール樹脂硬化剤の混合割合は、混合樹脂中における全エポキシ基とフェノール樹脂のフェノール性水酸基の当量比が0.7〜1.5に設定することが好ましい。当量比が0.7未満あるいは1.5を越えると未反応のフェノール樹脂あるいはエポキシ樹脂の残存量が多くなる。
【0040】
硬化促進剤としては、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩などが挙げられ、単独もしくは2種以上を併用することもでき、通常、エポキシ樹脂100重量部に対し0.05〜3重量部の範囲で添加される。
【0041】
(熱硬化処理)
炭素繊維束を空気中または窒素、アルゴンなどの非酸化性ガス雰囲気中で、150〜250℃の温度に保持することにより炭素繊維束の滴下した樹脂液Bを構成する樹脂を熱硬化させる。
【0042】
(炭化処理)
上記熱硬化処理後、炭素結合の強度を確保し、十分な取り扱い性を持たせるために、炭素繊維束を800〜1200℃の温度で熱処理することにより、炭素−炭素繊維複合線材が得られる。800℃を下回る場合には、炭素結合の強度が低下して繊維が解れ易くなり、1200℃を上回る場合には、炭素結合の強度が変化せず、処理装置のエネルギーロスとなる。
【0043】
樹脂液Bを塗布・乾燥した分繊繊維束を、窒素、アルゴンなどの非酸化性ガス流通下において管状加熱炉を通過させることにより、一つの加熱炉内で熱硬化処理と引き続く炭化処理を連続して行って炭素−炭素繊維複合線材を得ることもできる。
【0044】
(炭化珪素コーティング)
得られた炭素−炭素繊維複合線材に炭化珪素前駆体樹脂を塗布し、加熱処理して炭化珪素のコーティングを行う。炭化珪素前駆体樹脂としては、ポリジメチルシラン、ポリカルボシラン、ポリシラスチレン、ポリカルボシラスチレンなどの有機珪素樹脂化合物を用いることができ、これらの炭化珪素前駆体樹脂は、加熱分解して炭化珪素となる。
【0045】
炭化珪素前駆体樹脂を加熱溶解し、あるいはヘキサン、トルエンなどの溶媒で希釈し、鉛直方向に配した炭素−炭素繊維複合線材の上方より滴下させ、または炭化珪素前駆体樹脂溶液槽内に炭素−炭素繊維複合線材を通過させ、炭素−炭素繊維複合線材に炭化珪素前駆体樹脂を塗布する。この場合、炭素−炭素繊維複合線材に付着する炭化珪素前駆体樹脂の量は、炭素−炭素繊維複合線材1g当たり0.05〜0.5gに設定するのが好ましい。
0.05gを下回ると均一な被覆ができず、0.5gを上回ると、熱処理して得られる炭化珪素コート膜に亀裂が発生する。
【0046】
ついで、炭化珪素前駆体樹脂を塗布・被覆した炭素−炭素繊維複合線材を窒素、アルゴン、ヘリウムなどの非酸化性ガス雰囲気中において800〜1400℃の温度で熱処理する。好ましい温度は、800〜1200℃である。酸化性ガス雰囲気中で熱処理を行うと、SiO膜が形成されて剛直で脆くなるため取り扱い性が低下する。熱処理温度が800℃を下回ると炭化珪素膜が形成されず、1400℃を上回ると、晶質化が進み炭化珪素膜が脆くなるため好ましくない。
【0047】
炭化珪素前駆体樹脂を塗布被覆した炭素−炭素繊維複合線材を、アルゴン、ヘリウムなどの非酸化性ガス雰囲気に調整可能な管状加熱炉を通過させることにより、連続加熱処理することもできる。
【0048】
また、樹脂液Aの塗布装置と分繊用刃物を含んだ炭素繊維の開繊装置、分繊繊維束を鉛直方向に配向させる伝動部品、樹脂液Bを滴下する装置、非酸化性ガス雰囲気調整可能な管状炉、炭化珪素前駆体を滴下する装置、非酸化性ガス雰囲気調整可能な管状炉、および線材巻取り装置を一連に配置したシステムを構築することにより、炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材の連続生産も可能となる。このようなシステムの利点は、単に生産性の向上だけではなく、分繊した繊維束は一度巻き付けてしまうと巻き出す際にほつれ、毛羽立ち、引き千切れが起こり易いため、この欠点を解消できる点にある。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明し、その効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
実施例1
(開繊分繊)
炭素繊維にフィラメント数15K(15000本、幅7mm、直径0.135mm)のPAN系炭素繊維トウを用い、これを空気噴流式の開繊装置で幅50mmに開繊し、樹脂液Aとして粘度0.1Pa・sの速乾性ビニル系樹脂を霧化塗布した後、厚み0.3mmの多本の櫛刃で15等分に分割して、5回/mの撚りをかけながら分繊繊維束を得た。なお、添着した樹脂は、炭素繊維1g当たり100mgであった。
【0051】
(樹脂被覆)
次いで、分繊繊維束をスプールを通過させて鉛直方向に配して上方へ引き上げた。この分繊繊維束に、ポリエチレングリコールエポキシ樹脂100重量部、液状フェノールノボラック400重量部、エタノール900重量部からなる粘度0.1Pa・sの樹脂液Bを口径1mmの滴下装置から滴下した。
【0052】
(乾燥・熱硬化・炭素化)
続いて、風乾したのち、150℃および250℃の温度で加熱硬化した。その後、それぞれ400℃および850℃の温度に設定した管状加熱炉を繊維束の進行方向に対して直列に接続し、これらの管状加熱炉内に3L/minの流量で窒素ガスを流下しながら、繊維束を40mm/minの送り速度で通過させて焼成炭化を行い、炭素−炭素繊維複合線材を得た。
【0053】
(炭化珪素膜の形成)
更に、得られた炭素−炭素繊維複合線材に、ポリカルボシランをヘキサンで5倍に希釈した溶液を滴下装置から滴下し、続いて風乾した後、150℃および250℃の温度で加熱硬化した。
【0054】
次に、それぞれ400℃および850℃の温度に設定した管状加熱炉を炭素−炭素繊維複合線材の進行方向に対して直列に接続し、これらの管状加熱炉内に3L/minの流量でアルゴンガスを流下しながら、炭素−炭素繊維複合線材を40mm/minの送り速度で通過させて熱処理し、炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材を得た。得られた炭化珪素コーティング炭素繊維は、直径0.3mm、炭化珪素膜の厚さ1μm、毛羽立ちは0箇所/m、撚り回数は5回/mであった。
【0055】
実施例2
実施例1において、樹脂液Bとして、ポリエチレングリコールエポキシ樹脂100重量部、液状フェノールノボラック295重量部、硬化促進剤として2−メチルイミダゾール5重量部、多官能フェノール型エポキシ樹脂としてのビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部、エタノール900重量部からなる粘度0.1Pa・sの樹脂液を用いた。その結果、剛直性に優れ、また巻取り時に割れることの無い、炭素−炭素繊維複合線材径0.3mm、炭化珪素膜の厚さ1μm、毛羽立ち0箇所/mの炭化珪素コーティング炭素繊維が得られた。
【0056】
比較例1
実施例1において、開繊工程を、炭素繊維を幅10mmに開繊し、樹脂液Aとして粘度0.1Pa・sの速乾性ビニル系樹脂を塗布した後、厚み0.3mmの刃物で15等分にカットして分繊を完了した。その結果は、開繊幅が少ないため、炭素繊維全体に樹脂液Aがコーティングされず、毛羽立ちは10箇所/mとなった。
【0057】
比較例2
実施例1において、開繊工程を、炭素繊維を幅100mmに開繊し、樹脂液Aとして粘度0.1Pa・sの速乾性ビニル系樹脂を塗布した後、厚み0.3mmの刃物で15等分にカットして分繊を完了した。その結果は、開繊幅が広過ぎて、樹脂液Aが単線を包むように塗布されるため、繊維間の結束力が十分に得られず、毛羽立ちは5箇所/mとなった。
【0058】
比較例3
実施例1において、開繊工程を、炭素繊維を幅50mmに開繊し、樹脂液Aとして粘度2Pa・sの速乾性ビニル系樹脂を塗布した後、厚み0.3mmの刃物で15等分にカットして分繊を完了した。その結果は、樹脂の粘度が高過ぎて、開繊した繊維が凝集してしまい、刃物によって分繊した際に多くの繊維が切断され、毛羽立ちは2箇所/mとなった。
【0059】
比較例4
実施例1において、樹脂液Bの塗布工程を、分繊繊維束を平行に配し、樹脂浴を通過させて管状加熱炉で硬化、焼成を行った。その結果、樹脂浴通過時に樹脂Aが溶解し、分繊時に切断された炭素繊維がむき出しになったまま焼成作業が完了し、毛羽立ちは3箇所/mとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維同士が炭素質媒体により一方向に結束され、毛羽立ちが1箇所/m未満である連続炭素長繊維束からなる直径0.02〜1mmの炭素−炭素繊維複合線材に、炭化珪素をコーティングしたことを特徴とする炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材。
【請求項2】
単繊維を集合してなる炭素長繊維束に空気を噴き付けて、炭素長繊維束の直径の2〜10倍の幅に炭素長繊維束を開繊し、開繊された炭素長繊維に、揮発性溶媒により粘度0.01〜1Pa・sに調整した熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂からなる樹脂液を塗布し、乾燥させることによって単繊維同士を結束させた後、刃形状の器具によって分繊して複数の直径0.02〜1mmの連続炭素長繊維束を得ることを特徴とする炭素長繊維束の製造方法。
【請求項3】
直径0.02〜1mmの連続炭素長繊維束を鉛直方向に配し、該連続炭素長繊維束に、揮発性溶媒により粘度0.01〜1Pa・sに調整した、アルコール可溶のエポキシ樹脂に硬化剤としてフェノール樹脂を混合した可撓性熱硬化性樹脂からなる樹脂液を滴下して、該可撓性熱硬化性樹脂を前記連続炭素長繊維束の炭素繊維に塗布した後、加熱炉に装入して800〜1200℃の温度に加熱し、樹脂分を炭化することを特徴とする炭素−炭素繊維複合線材の製造方法。
【請求項4】
炭素−炭素繊維複合線材に炭化珪素前駆体樹脂を被覆し、加熱炉内において800〜1400℃の温度で熱処理することを特徴とする炭化珪素コーティング炭素−炭素繊維複合線材の製造方法。

【公開番号】特開2009−280430(P2009−280430A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133058(P2008−133058)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】