説明

炭素系複合部材

【課題】接着剤の熱処理による製造時の炭素化段階や、使用時の高温環境下における炭素系シートの剥離や切断等を低減し、高温環境下において発生する炭素系シートの剥離や切断等を防止した炭素系複合部材を提供する。
【解決手段】黒鉛基材12の表面に耐熱性接着剤を用いて炭素系シートを貼り付けた炭素系複合部材10であって、前記炭素系シート14にスリット16及び溝の少なくともいずれかが形成されている。図において炭素系複合部材は、黒鉛基材の表面に耐熱性接着剤を用いて炭素系シートが貼り付けられている。炭素系シートには、格子状のスリットが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引き上げ装置、高温処理炉、核融合炉、原子炉、ホットプレス装置等の装置内あるいは炉内を構成する黒鉛部材等として好適な炭素系複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛材の昇華点は約3600℃であるため、非酸化性雰囲気・高温環境となるシリコン単結晶引き上げ装置、高温処理炉、核融合炉、原子炉、ホットプレス装置等の装置内・炉内を構成する部材等として多用されている。
これらの用途で使用される部材は、非常に高温となるため、熱膨張に伴って大きく変形する。黒鉛材からなる部材を高温部に配置し、他の材料で構成される部材(例えば、金属、セラミック等)をその外側に配置して装置・炉を構成すると、黒鉛部材と他部材との熱膨張差により隙間が発生する。また、熱膨張係数が同一の複数の黒鉛部材のみで構成される装置・炉の部品の場合でもあっても、温度が不均一である場合には、不均一な変形が起こり、隙間が発生する。このように隙間が発生すると、他の材料で構成される他部材が露出し高温に曝されることがある。黒鉛部材と他部材の間に隙間が発生すると、黒鉛部材から他部材への熱抵抗が大きくなり、黒鉛部材が異常に過熱されてしまうこともある。黒鉛部材と他部材が拘束されている場合には、温度や材質の選定によっては、熱応力が発生する恐れがあるため、あらかじめ隙間を空けて配置することもあり、温度をかける前の段階から他部材への熱抵抗が大きくなりやすく、他部材が高温に曝されやすくなることもある。
【0003】
これらの熱膨張差に起因する隙間や、熱応力を防止するために、黒鉛部材と黒鉛部材との間や、黒鉛部材と他部材との間に、炭素繊維を抄造したシートや膨張黒鉛シート等の炭素系シートを装着することが行われている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
これらの炭素系シートは、装着時にしわが寄ったりして厚みが不均一となりやすく、黒鉛部材と他部材との隙間に炭素系シートを装着しやすくするため、黒鉛部材に炭素系シートを耐熱性の接着剤で接着した炭素複合部材が広く用いられている。
【特許文献1】実開昭62−41446号公報
【特許文献2】特開2000−88985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように黒鉛部材に炭素系シートを耐熱性の接着剤で接着した炭素系複合部材では黒鉛部材の交換をする際、使用により劣化した炭素系シートの一部が剥離・脱落し、装置の底部まで落下することがあり、装置の底部まで落下すると、容易に取り出せなくなるといった課題があった。近年、装置の大型・複雑化に伴い、分解清掃が容易にできなくなり、使用後においても剥離等のない炭素系複合部材が望まれるようになってきた。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてものであり、黒鉛基材に接着剤を用いて炭素系シートを貼り付けた炭素系複合部材であって、接着剤の熱処理による製造時の炭素化段階や、使用時の高温環境下における炭素系シートの剥離や切断等を低減した炭素系複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)黒鉛基材の表面に耐熱性接着剤を用いて炭素系シートを貼り付けた炭素系複合部材であって、前記炭素系シートにスリット及び溝の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする炭素系複合部材。
(2)前記スリット又は溝どうしの直線距離が最大でも80mm以下であることを特徴とする上記(1)に記載の炭素系複合部材。
(3)前記スリット又は溝が格子状に形成されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の炭素系複合部材。
(4)前記炭素系シートは、膨張黒鉛シートであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭素系複合部材。
(5)前記接着剤が、コプナ(COPNA)樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の炭素系複合部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭素系シートの表面に溝及びスリットの少なくともいずれかが形成されているので、黒鉛基材と炭素系シートの熱膨張差が生じても、スリットや溝によってその熱膨張差を吸収することができるので、高温環境下においても炭素系シートが黒鉛基材から剥離したり、炭素系シートの切断や破壊等が発生したりすることが少なく、良好な接着状態を維持できる炭素系複合部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る炭素系複合部材の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に、本実施形態に係る炭素系複合部材10の概略図を示す。図1に示す炭素系複合部材10は、黒鉛基材12の表面に耐熱性接着剤を用いて炭素系シート14を貼り付けたものである。
【0009】
黒鉛基材12としては、シリコン単結晶引き上げ装置、高温処理炉、核融合炉、原子炉、ホットプレス装置等の装置内あるいは炉内を構成する黒鉛製部材等として一般に使用されている黒鉛材料を使用することができる。
このような黒鉛材料としては、押し出し成形等の方法で製造された黒鉛材料や、原材料を数十ミクロン以下に粉砕し、CIP(Cold Isostatic Press)等の方法で製造された等方性黒鉛材料等が挙げられる。
【0010】
炭素系シート14としては、弾力性を備えた炭素で形成されたシートであればどのようなものでもよい。具体的には、膨張黒鉛シート、炭素繊維や黒鉛繊維を抄造、織布した繊維質シートや、前記繊維質シートにフェノール樹脂等を含浸した後、硬化・焼成した繊維質シート等を使用することができる。特に炭素系シートの面方向の熱膨張係数が黒鉛基材よりも小さい場合に好適に用いることができる。
中でも、膨張黒鉛シートは、安価である上、適当な弾力性を備え、天然黒鉛を原材料としており、熱伝導率が高いため、炭素系シートとして好適に利用することができる。膨張黒鉛シートとしては、市販のものを使用することができ、例えば、GrafTech社製膨張黒鉛シート(商品名:膨張黒鉛シートTG−411やGTA)が挙げられる。
【0011】
炭素系シート14にはスリット及び溝の少なくともいずれかが形成されている。
ここで、本発明でいう「スリット」とは、炭素系シートを表裏貫通しているものを意味し、これに対して「溝」とは、炭素系シートの表側あるいは裏側のいずれかのみに加工され、表裏貫通していないものを意味する。
【0012】
前述のように、黒鉛部材に炭素系シートを接着した炭素系複合部材では、炭素系シートの一部が剥離・脱落することがあった。
このような現象は、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、黒鉛繊維や黒鉛シートは、結晶のa軸が繊維方向や面方向に配向しやすく、炭素繊維や黒鉛繊維を元に作られた黒鉛シートや、天然黒鉛を膨張させて作られた膨張黒鉛シートは強く面方向に配向しているため、面方向の熱膨張係数がCIP(Cold Isostatic Press)等の方法で作られた黒鉛部材の熱膨張係数(おおよそ4×10−6/K)よりも小さくなりやすい。特に、膨張黒鉛シートの面方向の熱膨張係数は、おおよそ−0.4×10−6/Kであり、貼り付けられる黒鉛部材の熱膨張係数に比べ非常に小さい。このような熱膨張係数の違いから、加熱によって層方向に張力がかかり、炭素系シートが切断されたり、剪断力によって破壊されて炭素系シートの破片が脱落したりすると考えられる。
このような現象は、使用する炉や装置内で発生するばかりでなく、同様な熱処理を行う炭素系複合部材の製造段階にも発生する。
そこで、本実施形態では炭素系シート14にスリット及び溝の少なくともいずれかが形成されている。炭素系シートにスリット及び溝の少なくともいずれかが形成されていることにより、表面に発生する張力を吸収することができるようになり、黒鉛基材と炭素系シートの熱膨張差が生じても、スリットや溝によってその熱膨張差を吸収することができ、炭素系シートの剥離や切断、破壊等を防止することができる。
【0013】
スリット又は溝の形状は、格子状、六角網面状等とすることができるが、加工が容易であることから、格子状(図1)とすることが好ましい。
スリット及び溝は、図3に示すようにミシン目状に形成してもよい。ミシン目の間隔は、ミシン目に直交する方向に張力がかかったときに、ミシン目に沿って破断する程度、概ねそれぞれのミシン目部全長の30%以上の比率でスリットあるいは溝が構成されていることが望ましい。
また、スリット及び溝の形状としては、他にも平織状、綾織状、朱子織状(それぞれ図4(a)〜(c)に示す。)に形成してもよい。これらの方法では、スリットを形成しても1枚のシートであるため、黒鉛基材に貼り付ける前にスリットを形成することが容易である。
さらに、図5に示すように、炭素系シートの角部分が三角形となるように斜めにスリット(又は溝)56を入れても良い。角部分に斜めにスリットを入れることにより、角部分の脱落等を防止することができる。
【0014】
スリット及び溝は、炭素系シート上において、スリット又は溝と交差しない長い直線が存在しないように形成されていることが望ましい。例えば、スリット又は溝どうしの直線距離が最大でも80mm以下であることが好ましく、72mm以下であることがより好ましい。スリット又は溝どうしの直線距離を最大でも80mm以下とすることにより、炭素系シートの剥離等をより確実に防止することができる。
ここで、「スリット又は溝どうしの直線距離」とは、スリット又は溝どうしを結ぶ直線のうち、他のスリット又は溝と交差しない直線の長さをいう。すなわち、任意のスリット又は溝上の点を点Aとし、別の任意のスリット又は溝上の点を点Bとしたときに、線分ABを遮る他のスリット又は溝が存在しない場合の線分ABの長さのことである。
【0015】
この点について、図2(a)に示す形態(格子状のスリット又は溝)を例にさらに詳しく説明する。図2(a)は、スリット又は溝が格子状に形成された炭素系シート24の平面図を示している。この炭素系シート24は、一辺の長さaが100mmの正方形である。この炭素系シート24には、スリット又は溝26が格子状に形成されており、これにより炭素系シート24は4つの正方形の分割シート28に分割されている。
この炭素系シート24上でスリット又は溝26どうしの直線距離の最大値(スリット又は溝どうしを結ぶ直線であって、他のスリット又は溝と交差しない直線の長さの最大値)は、分割シート28の対角線の長さcとなる。分割シート28の一辺の長さbが50mmであるから、対角線の長さcは約71mmである。従って、この場合スリット又は溝どうしの直線距離が最大でも80mm以下となっている。
【0016】
また、平織状のスリット又は溝の場合について図2(b)に示す。図2(b)において、符号36がスリット又は溝を示している。なお、破線はスリット又は溝の長さ及び間隔を示すための補助線である。
平織状の場合、スリット又は溝どうしの直線距離の最大値は、図2(b)における点Aと点Bとを結ぶ直線の長さが該当する。図2(b)に示すように、スリット又は溝36を構成する縦線と横線の間隔を例えば5mmとし、縦線どうし及び横線どうしの間隔を20mmとすれば、点Aと点Bとを結ぶ直線は√(20+30)=36mmとなり、この場合もスリット又は溝どうしの直線距離が最大でも80mm以下となっている。
このように、平織状、綾織状、朱子織状等の場合は細かくスリット又は溝を入れることによって、スリット又は溝どうしの直線距離が最大でも80mm以下となるようにすることができる。
【0017】
炭素系シートの厚みとしては、特に制限されないが、前記装置や炉の壁材として使用する場合は適度な弾力性を持たせるため、0.1mm以上とすることが好ましい。また、上限は、厚くなりすぎると熱抵抗が大きくなるため、3mm以下とすることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る炭素系複合部材をシリコン単結晶引き上げ装置や核融合炉、原子炉等の構成部材として使用する場合、黒鉛基材及び炭素系シートは、不純物を除去した高純度のものであることが好ましい。
黒鉛基材及び炭素系シートの不純物含有量は20ppm以下であることが好ましい。特に原子炉の構成部材として使用する場合には、黒鉛基材及び炭素系シートのホウ素含有量が5ppm以下であることが好ましく、1ppm以下であることがより好ましい。
【0019】
耐熱性接着剤としては、非酸化性雰囲気で熱処理することにより炭素化する樹脂であればどのようなものでもよく、例えばコプナ樹脂(COPNA(Condensed Polynuclear Aromatic)樹脂)、フェノール樹脂、ジビニルベンゼン、フラン樹脂、イミド樹脂等を利用することができ、これらを非酸化性雰囲気で熱処理し炭素化して使用する。中でも、コプナ樹脂は、接着力、取扱い易さの点で優れている。このため、炭素系シートを貼り付けた後、炭素化する過程で、クラック、剥離、しわを発生させることなく速く昇温して製造できる上、炉や装置で使用した後においても、強い接着力を保持できる。
【0020】
コプナ樹脂(COPNA樹脂)とは、主として二環以上の縮合多環芳香族化合物と、ヒドロキシメチル基、ハロメチル基のいずれか少なくとも一種の基を二個以上有する一環あるいは二環以上の芳香族からなる芳香族架橋剤と、酸触媒とを組み合わせてなる熱硬化性組成物である。
主として二環以上の縮合多環芳香族化合物としては、例えばナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、アセナフテン、アセナフチレン、ペリレン、コロネン及びこれらを主骨格とする誘導体の中から選ばれる一種又は二種以上の混合物、あるいは石炭系および石油系の重質油、タール、ピッチ等が挙げられる。
【0021】
酸触媒としては、塩化アルミニウム、弗化ホウ素、硫酸、リン酸、有機スルホン酸、カルボン酸、及びこれらの誘導体の中から選ばれる一種または二種以上の混合物が挙げられる。
ヒドロキシメチル基、ハロメチル基のいずれか少なくとも一種の基を二個以上有する一環あるいは二環以上の芳香族からなる芳香族架橋剤としては、例えばp−キシリレンジクロライド、1,4−ベンゼンジメタノール(p−キシレングリコール)、9,10−アントラセンジメタノールが挙げられる。
コプナ樹脂は上記に挙げた主成分の他に、軟化点を降下させるための溶媒や、可塑剤を加えたものであってもよく、更に炭化収率を上げるためにコークスや黒鉛粉末を加え増量したものであってもよい。
【0022】
以下に、本発明に係る炭素系複合部材の製造方法を示す。
(接着剤の塗布)
使用する用途に合わせた形状に加工した黒鉛基材を準備し、この黒鉛基材の炭素系シート貼り付け面上に接着剤を塗布する。塗布の方法は、スプレー、刷毛塗り、滴下等どのような方法を用いてもよい。全面に塗布してもよいし、部分的に塗布するだけでもよい。接着剤の硬化前にスリットを形成する場合には、スリットの位置を避けて塗布すると接着剤の硬化工程でスリットから樹脂が流出することを防止できる。
塗布温度は、硬化開始温度以下(一般的に概ね100℃以下)が好ましい。コプナ樹脂等の常温で固体の接着剤は、塗布前に接着剤の融点以上に黒鉛基材及び接着剤を加熱しておくことが好ましい。
【0023】
(接着・接着剤の硬化)
黒鉛基材に炭素系シートを貼り付けた後、クランプ等で圧力をかけて接着剤の硬化温度以上に保持して硬化させる。圧力をかけながら硬化させることにより、接着剤層が薄く広くなり、より強固な接着ができる。硬化に必要な温度および時間は使用する樹脂の種類によって異なるが、例えばコプナ樹脂の場合、200℃で30分程度処理すればよい。
【0024】
最高処理温度までの温度のかけ方は、発泡しにくいコプナ樹脂の場合には、あらかじめ処理温度に加熱した恒温室に入れて処理してもよく、反応生成物が多量に発生し発泡しやすいフェノール樹脂等の場合には2℃/時間程度の昇温速度で加熱し、接着剤の硬化温度(概ね200℃)以上で保持して硬化することが好ましい。
【0025】
(炭素化工程)
前記工程までに製作された炭素系複合部材を使用時の高温でガスが発生しないよう炭素化する。発生ガスが特に支障ない用途においてはこの工程を省略し、いきなり炉内に装着し使用してもかまわない。炭素化工程は、少なくとも炭素系複合部材が使用時に受ける温度以上に加熱して、発生ガスを取り除いておく。
【0026】
(スリットおよび溝作成工程)
スリットおよび溝作成は、形成されるスリットや溝の形状に応じて、どの段階で作成してもよい。平織状、綾織状、朱子織状等にスリットを入れる場合には、スリットを入れることにより炭素質シートが分割されないのでいずれの段階で作成してもよい。
裏面のみに溝を形成する場合には、接着前に溝を形成しなければならない。
格子状、六角網面状等の形状に複数分割することによってスリットを形成するには、炭素系シートをあらかじめ正方形、長方形、六角形等の形状にシートを切り抜いてから、黒鉛基材上に切り抜いたシートを並べて貼り付けることによってスリットを作成してもよいし、炭素系シートを黒鉛基材に接着した後にカッター等を用いて格子状又は六角網面状に切れ目を入れることによって形成してもよいが、後者のほうが作業性がよい。接着後に行う場合は炭素化後までのどの段階で実施してもよい。
【0027】
(高純度化工程)
こうして作成した炭素系複合部材を用途に応じて高純度化する。高純度化の方法は、従来知られた方法で実施すればよく、例えば、2000℃程度の高温の炉内にハロゲンガスや、ハロゲン系炭化水素ガスを流し処理することができる。
【0028】
以上で説明した本発明に係る炭素系複合部材は、シリコン単結晶引き上げ装置、高温処理炉、核融合炉、原子炉、ホットプレス装置等の装置内あるいは炉内を構成する部材(例えば、保温筒、断熱材、タイトボックス、壁材等)として好適に使用することができる。
例えば、本発明に係る炭素系複合部材を核融合炉、原子炉等の壁材として使用する場合は、炭素系複合部材を一辺が100〜100mm程度のタイル状に加工した後、図6に示すように、装置や炉の金属壁面60に炭素系シート14側が接触するように炭素系複合部材10を配置し、ボルト止め等して壁材として使用することができる。
【0029】
本発明に係る炭素系複合部材について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0030】
黒鉛基材として、イビデン製等方性黒鉛材ET−10を100×100×20mmの大きさに加工したものを準備した。この黒鉛基材を80℃に加熱し、100×100mmの面に、同温度に加熱したコプナ樹脂を10g塗布した。
なお、コプナ樹脂は、p−キシレングリコール、ピッチ、p−トルエンスルホン酸を主成分とし、α−メチルナフタレンで軟化点を降下させたものである。
次に、コプナ樹脂を塗布した面に、100×100×0.8mmの膨張黒鉛シート(GrafTech製、商品名:膨張黒鉛シートTG−411)を貼り付けた。この上に厚さ10mmの鉄板をのせ、黒鉛基材と鉄板をクランプで挟んで、200℃の恒温室に30分放置し、コプナ樹脂を硬化させた。
さらに、50mm間隔の格子状に膨張黒鉛シートを貫通する切れ目をいれ、膨張黒鉛シートにスリットを形成した。
こうして形成した炭素系複合部材を炉内に入れ、2000℃で3時間処理した。炉から取り出した炭素系複合部材は、表面に剥離等はなかった。次に、炭素系複合部材を1対の炭素系黒鉛部材を150×150×30mmの等方性黒鉛材からなる試験冶具に挟み、試験冶具の四隅を炭素繊維強化炭素複合材のボルトで締め付けたものを、1500℃で5時間保持し、炭素系シートの剥離等の評価試験を実施した。この評価試験の後でも、剥離、クラック等は確認できなかった。評価試験後の炭素系複合部材を図7に示す。
【実施例2】
【0031】
上記実施例1と同様にして、黒鉛基材上にコプナ樹脂を塗布した後、膨張黒鉛シートを貼り付け、コプナ樹脂を硬化させた。
さらに、50mm間隔の格子状に膨張黒鉛シートを貫通しないように切れ目を入れ、膨張黒鉛シート上に溝を形成した。
こうして形成した炭素系複合部材を炉内に入れ、2000℃で3時間処理した。炉から取り出した炭素系複合部材は、表面に剥離等はなかった。次に、実施例1と同様の評価試験を実施した。この評価試験の後でも、剥離、クラック等は確認できなかった。
【実施例3】
【0032】
上記実施例1と同様にして、黒鉛基材上にコプナ樹脂を塗布した。
コプナ樹脂を塗布した面に、50×50×0.8mmの膨張黒鉛シートを4枚使用して、隙間なく貼り付けた。この上に厚さ10mmの鉄板をのせ、黒鉛基材と鉄板をクランプで挟んで、200℃の恒温室に30分放置し、コプナ樹脂を硬化させた。
こうして形成した炭素系複合部材を炉内に入れ、2000℃で3時間処理した。炉から取り出した炭素系複合部材は、表面に剥離等はなかった。次に、実施例1と同様の評価試験を実施した。この評価試験の後でも、剥離、クラック等は確認できなかった。
【0033】
[比較例1]
上記実施例1と同様にして、黒鉛基材上にコプナ樹脂を塗布した後、膨張黒鉛シートを貼り付け、コプナ樹脂を硬化させた。膨張黒鉛シート上にスリットや溝は形成しなかった。
こうして形成した炭素系複合部材を炉内に入れ、2000℃で3時間処理した。炉から取り出した炭素系複合部材は、表面に剥離が認められた。剥離の発生した炭素系複合部材を図8に示す。
【0034】
[比較例2]
上記実施例1と同様にして、黒鉛基材上にコプナ樹脂を塗布した後、膨張黒鉛シートを貼り付け、コプナ樹脂を硬化させた。その後、膨張黒鉛シート上に4mm間隔でパンチング加工を施した。
こうして形成した炭素系複合部材を炉内に入れ、2000℃で3時間処理した。炉から取り出した炭素系複合部材は、表面に剥離が認められなかった。次に、実施例1と同様の評価試験を実施した。この評価試験の後、剥離の発生が確認できた。剥離の発生した炭素系複合部材を図9に示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る炭素系複合部材の一実施形態を示す概略図である。
【図2】(a)は格子状のスリット又は溝を形成した炭素系シートの平面図、(b)は平織状のスリット又は溝を形成した炭素系シートの平面図である。
【図3】本実施形態に係る炭素系シートの平面図である。
【図4】本実施形態に係る炭素系シートの平面図である。
【図5】本実施形態に係る炭素系シートの部分拡大図である。
【図6】本実施形態に係る炭素系シートの使用例を示す図である。
【図7】実施例1の評価試験後の炭素系複合部材を示す図である。
【図8】比較例1において2000℃で3時間処理した後の炭素系複合部材を示す図である。
【図9】比較例2の評価試験後の炭素系複合部材を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 炭素系複合部材
12 黒鉛基材
14 炭素系シート
16 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛基材の表面に耐熱性接着剤を用いて炭素系シートを貼り付けた炭素系複合部材であって、
前記炭素系シートにスリット及び溝の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする炭素系複合部材。
【請求項2】
前記スリット又は溝どうしの直線距離が最大でも80mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭素系複合部材。
【請求項3】
前記スリット又は溝が格子状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素系複合部材。
【請求項4】
前記炭素系シートは、膨張黒鉛シートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭素系複合部材。
【請求項5】
前記接着剤が、コプナ(COPNA)樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭素系複合部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−113459(P2009−113459A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292470(P2007−292470)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】