説明

炭素繊維束

【課題】
優れたサイジング剤性能を有し、かつ吸湿環境下で優れた複合材料物性を有する炭素繊維束を提供する。
【解決手段】
次の式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物を含むサイジング剤が付着した炭素繊維束。
【化1】


(式中、R1はアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、または、アルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用構造材料をはじめとして、ゴルフシャフト、釣り竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に適用しうる繊維強化複合材料を得るための炭素繊維束に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化複合材料は、軽量で比強度、比弾性率等の機械強度に優れるため、ゴルフシャフトや釣り竿等のスポーツ用途や航空機用構造材料等に広く用いられている。
【0003】
かかる複合材料を構成する樹脂には、含浸性や耐熱性に優れる熱硬化性樹脂が用いられることが多く、熱硬化性樹脂には、炭素繊維との接着性に優れること、成形性に優れること、高温、湿潤環境にあっても高度の機械強度を発現することが必要とされる。
【0004】
この熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが使用され、中でも、エポキシ樹脂は、耐熱性、成形性、炭素繊維との接着性に優れ、高度の機械強度を有する繊維強化複合材料を与える熱硬化性樹脂であるため広く用いられている。
【0005】
かかる繊維強化複合材料は、室温下等の通常の環境では、炭素繊維とマトリックス樹脂との間に発現される接着性は充分に高く機械強度も良好であるが、一旦湿潤環境下におかれると、接着性低下により機械強度が損なわれやすい。しかし、複合材料を、航空機、車両、船舶などの構造材料として適用する場合は、高温および/または高湿条件下でも物性を十分保持することが要求される。
【0006】
そこで、耐湿熱性に優れる熱硬化性樹脂として、硬化物の吸水率が低いベンゾオキサジン化合物をマトリックス樹脂として使用する方法(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)が提案されている。ところが、かかる技術では炭素繊維との接着性およびコンポジット成形性ともにエポキシ樹脂マトリックスに比べると低いという問題があった。
【0007】
また、複合材料内部への水の侵入を抑制するマトリックス樹脂での対策として、複合材料における空隙率を低下させたり、樹脂の極性を減じたりする試みが行われているものの、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に水が侵入することを抑制できずに、湿潤環境下に晒された複合材料において、繊維方向の圧縮強度、非繊維方向の引張強度、剪断強度、及び剥離強度等の機械強度を所望のものとすることが困難であるという問題があった。
【0008】
そこで、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に存在するサイジング剤に、吸水率の低いポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンなどをサイジング剤に用いる方法が考えられるが、特にエポキシ樹脂をマトリックスとした場合に、炭素繊維とマトリックス樹脂との高い接着性が得られないのが現状であった。かかる点を改善すべく、吸水性の低いハロゲン化エポキシ樹脂などを使用する方法も提案されている(特許文献2参照)が、環境安全性からハロゲンを含まないサイジング剤の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2001−310957号公報
【特許文献2】特開平8−188968号公報
【特許文献3】特許第2595437号公報
【特許文献4】特表平9−502452号公報
【非特許文献1】Polymer Composites, 17, 5(1996), P710
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、吸湿環境下にあっても、炭素繊維と樹脂との接着性が高レベルで維持され、これにより、耐候性に優れ、高度の機械強度を発現する繊維強化複合材料を与える炭素繊維束を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、次の式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物を含むサイジング剤が付着した炭素繊維束である。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1はアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、または、アルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)
本発明の好ましい態様によれば、ベンゾオキサジン化合物は、次の式(2)〜(5)の少なくとも一種類であり、さらにはその分子量が300以上600以下であるものが挙げられる。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
【化5】

【0017】
(式中、R1、Rはアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、または、アルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)
また、本発明の好ましい態様によれば、サイジング剤には、さらにエポキシ樹脂を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境安全性に優れ、かつエポキシ樹脂と組み合わせて複合材料となしたときに、吸湿環境下にあっても炭素繊維と樹脂との接着性に優れた複合材料物性を有する炭素繊維束が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物を含むサイジング剤が付着した炭素繊維束によって、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
サイジング剤にベンゾオキサジン化合物を含むことによる作用は明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち、未硬化のベンゾオキサジン化合物を含むサイジング剤は、複合材料成形時に、その一部がマトリックス樹脂と相互拡散することで、炭素繊維/樹脂間の界層はベンゾオキサジン含有量の高い樹脂硬化物となり、その界層でベンゾオキサジン硬化物単体が有する低吸水性の特徴を発現し、吸湿後の接着性低下を抑制できたものと考えられる。更にはベンゾオキサジン硬化物の水酸基、アミノ基および相互拡散したマトリックス樹脂(例えば、エポキシ樹脂)により、炭素繊維/樹脂間で高い接着性が得られたものと考えられる。
【0020】
本発明で用いられる上記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物は、対応するフェノール、1級アミン及びホルムアルデヒド或いはその誘導体から、次の式(6)で示される反応経路により合成することができる(例えば、特許文献3,4参照)。上記式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物の代表的なものとして、次の式(7)〜(15)で表される化合物が挙げられる。また、本発明で用いられるベンゾオキサジン化合物は、モノマーでも良いし、数分子が重合してオリゴマー状態となったものでも良い。
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R1は、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、又は置換フェニル基である。)
【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
【化12】

【0029】
【化13】

【0030】
【化14】

【0031】
【化15】

【0032】
(式中、R1、Rはアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、または、アルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)
これらの中でも、本発明で用いられるベンゾオキサジン化合物としては、分子量が好ましくは300〜2000、より好ましくは400〜900の範囲のものを用いる。かかる分子量が小さすぎると、炭素繊維束の集束性が低下し、製造プロセスでのローラ上に単糸が巻き付くなど炭素繊維束の取り扱い性が損なわれ、サイジング剤本来の役割を果たせない場合がある。また、分子量が大きすぎると、炭素繊維束の集束性が過度に高くなり、マトリックス樹脂が炭素繊維束内に含浸せずボイド生成の原因となる可能性や、マトリックス樹脂と相互拡散が不十分で炭素繊維/樹脂間で高い接着性が得られない場合がある。さらに、本発明においては、前記ベンゾオキサジン化合物を、全サイジング剤の重量あたり、30〜100重量%、好ましくは40〜100重量%を配合するのが良い。かかる配合量が少なすぎると、複合材料において耐吸湿性が損なわれ、炭素繊維と樹脂との接着性が低下する場合がある。
【0033】
また、本発明では、サイジング剤に、ベンゾオキサジン化合物に加えて、炭素繊維との高い接着性を発現し易いエポキシ樹脂を含ませるのが良い。これにより、機械物性に優れる繊維強化複合材料が得られるようになると同時に、得られる炭素繊維束の取り扱い性も向上する。
【0034】
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、通常のエポキシ樹脂、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂、エステル変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ダイマー酸エポキシ樹脂および脂肪族エポキシ樹脂等の単独または混合エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0035】
本発明において、サイジング剤にエポキシ樹脂を配合する場合には、ベンゾオキサジン樹脂とエポキシ樹脂との質量比が100/0〜40/60、好ましくは80/20〜50/50を満たすようにするのが良い。この質量比が小さすぎると、複合材料において耐吸湿性が損なわれ、炭素繊維と樹脂との接着性が低下する場合がある。
【0036】
本発明において、サイジング剤には、その他にも界面活性剤、平滑剤等の成分を1種類以上添加してもよい。非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪族エステルなどが、陰イオン系の界面活性剤としてはアルキルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩などが挙げられる。また、複合材料として使用する熱硬化性マトリックス樹脂に応じて、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、不飽和エステル化合物等を添加することもできる。
【0037】
本発明において、サイジング剤は、炭素繊維束の単位重量当たり0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜3重量%の範囲で炭素繊維束に付着しているのがよい。サイジング剤の付着量が少なすぎると、炭素繊維束をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイドなどによる摩擦に耐えられず毛羽発生し易い傾向にあり、炭素繊維シートの平滑性などの品位が低下してしまう場合がある。一方、サイジング剤の付着量が多すぎると、炭素繊維束周囲のサイジング剤膜に阻害されてエポキシ樹脂などのマトリックス樹脂が炭素繊維糸条内部に含浸せず、得られる複合材料においてボイド生成し易い傾向にあり、複合材料の品位低下と同時に機械物性が低くなる場合がある。
【0038】
複合材料となすために、本発明の炭素繊維束と組み合わせるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のどちらでも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シアネートエステル樹脂等が使用できる。尚、熱硬化性樹脂は、オリゴマーを一部に含んでいるものでも良い。これら熱硬化性樹脂の中では、取り扱い性が良好で、硬化性、機械物性にも優れる樹脂組成物を与えるとともに、本発明の効果を奏しやすいため、エポキシ樹脂が好ましく使用される。
【0039】
本発明において、サイジング剤が付与される炭素繊維糸条としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系あるいはピッチ系などの公知の炭素繊維フィラメントが数千から数万本束になったもので、特に、補強効果を得る上で、高強度の炭素繊維束が得られやすいPAN系炭素繊維糸条を使用することが好ましい。また、炭素繊維糸条としては、繊度は好ましくは0.4〜3.0g/mであり、フィラメント数は好ましくは1000〜100000本、さらに好ましくは3000〜50000本であり、また、強度は好ましくは1〜10GPa、さらに好ましくは2〜7GPaであり、弾性率は好ましくは100〜1000GPa、さらに好ましく200〜600GPaであるものを使用することが好適である。
【0040】
以下に、PAN系炭素繊維糸条を用いる場合を例にとって、本発明の炭素繊維束を製造する方法を詳細に説明する。
【0041】
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式あるいは乾湿式などの紡糸方法を採用することができるが、高強度糸条が得られやすい湿式あるいは乾湿式紡糸が好ましく、特に乾湿式紡糸が好ましい。紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体の溶液あるいは懸濁液などを用いることができる。
【0042】
この紡糸原液を口金に通して紡糸し、凝固、水洗、延伸して前駆体繊維とし、この前駆体繊維を耐炎化処理、炭化処理、必要によっては更に黒鉛化処理をすることによって炭素繊維糸条とする。得られた炭素繊維糸条は、複合材料化される際に組み合わされるマトリックス樹脂との接着性を良好なものとするため、必要に応じて電解表面処理などの表面酸化処理がなされる。
【0043】
このような炭素繊維糸条に、サイジング剤を付着させる。炭素繊維糸条にサイジング剤を付着させるためには、サイジング剤が溶媒に溶解または分散したサイジング液を用い、炭素繊維糸条に、そのサイジング液を付与した後、溶媒を乾燥・除去するのが簡便でよい。
【0044】
サイジング液に用いる溶媒としては、ベンゾオキサジン化合物が溶解しやすい溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独でも2種類以上併用することもできる。さらには、水を溶媒とし、それに前記したサイジング剤を、必要に応じて界面活性剤で乳化させた水分散液とするのが、取り扱い性および安全性の面から最適である。
【0045】
サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、サイジング液の付与方法、および付与した後に余剰のサイジング液を絞り取る絞り量の調整等によって適宜調節する必要があるが、通常は0.2重量%〜20重量%の範囲とする。
【0046】
本発明において、サイジング液を付与する手段は、特に限定されないが、ローラーサイジング法、ローラー浸漬法、スプレー法などを用いることができる。中でも、一束あたりの単繊維数が多い炭素繊維糸条についても、サイジング剤を均一に付与しうるため、ローラー浸漬法が好ましく用いられる。
【0047】
サイジング液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため10〜50℃の範囲が好ましい。また、サイジング液を付与した後に余剰のサイジング液を絞り取る絞り量を調整することでサイジング剤の付着量および炭素繊維束内への均一付与ができる。溶媒を乾燥除去する際の条件は、ベンゾオキサジン化合物が炭素繊維表面上で重合が完了しない程度の温度と時間の組み合わせを採用するのが好ましく、具体的には120〜300℃、10秒〜10分の範囲であり、150〜250℃、30秒〜4分の範囲とするのが好適である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について、実施例を用いて更に具体的に説明する。実施例中における各種特性の測定法は、次のとおりである。
【0049】
<サイジング剤付着量>
約2gの炭素繊維束を秤量(W1)した後、50リットル/分の窒素気流中、温度450℃に設定した電気炉(容量120cm)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維糸条を秤量(W2)して、次式よりサイジング剤付着量を求める。
サイジング付着量(%)=[W1(g)−W2(g)]/[W1(g)]×100
<コンポジット物性>
[コンポジット試験片の作製]
先ず、円周約2.7mの鋼製ドラムに、炭素繊維束と組み合わせる後述組成のエポキシ樹脂をシリコーン塗布ペーパー上にコーティングした樹脂フィルムを巻き、次にクリールから引き出した炭素繊維束をトラバースを介して前記樹脂フィルム上に巻き取り、配列して、更にその繊維束の上から前記樹脂フィルムを再度かぶせて後、加圧ロールで回転加圧して樹脂を炭素繊維束内に含浸せしめ、幅300mm、長さ2.7mの一方向プリプレグを作製する。
【0050】
このとき、炭素繊維束間への樹脂含浸を良くするために、ドラムは50〜60℃に加熱する。ドラムの回転数とトラバースの送り速度とを調整することによって、繊維目付200±5g/m2 、樹脂量約35重量%のプリプレグを作製する。
【0051】
このようにして作製したプリプレグを裁断、一方向積層し、オートクレーブを用いて加熱硬化(温度200℃、圧力0.6MPa、2時間)させ、90゜方向曲げ強度測定用として肉厚約2mmの硬化板を作製する。
【0052】
[エポキシ樹脂組成]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製エピコート(登録商標)825):50重量部、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(住友化学(株)製ELM434):50重量部、ポリエーテルスルホン樹脂15重量部、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン:46重量部
[90゜曲げ強度の測定]
硬化板から、長さ100±1mm、幅15±0.2mm、厚さ2±0.4mmの90゜方向材試験片を作成した。また、吸水後の試験片は、前記試験片を70±5℃水中に4日間浸漬することにより得た。
【0053】
90゜曲げ強度はJIS−K−7074(1988)に従い3点曲げ試験で測定した。ここで、スパン(l)と試験片厚み(d)の比はl/d=40とし、曲げ試験機のクロスヘッドスピードは5mm/分とし、n=5で行った。
【0054】
耐水性の指標として次式により曲げ強度保持率を求める。
【0055】
曲げ強度保持率(%)=(吸水後の曲げ強度)/(吸水前の曲げ強度)×100
(実施例1)
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成、表面処理を行い、総フィラメント数12、000本でサイジング剤付与していない炭素繊維糸条を得た。この炭素繊維糸条の特性は、単位長さ当たり質量 0.8g/m、比重 1.8、ストランド引張強度 5.2GPa、ストランド引張弾性率 235GPaであった。
【0056】
溶媒を用いず、ビスフェノールAを228重量部、アニリンを186重量部、パラホルムアルデヒドを120重量部、それぞれフラスコに仕込み、油浴に浸しメカニカルスターラーで110〜120℃で20分間攪拌して溶解させ、 次いで130〜140℃で20分間攪拌後、フラスコを氷浴で冷却して下記式(9)で表される分子量462のベンゾオキサジン化合物を合成した。
【0057】
【化16】

【0058】
次に、このベンゾオキサジン化合物のみをサイジング剤として、それにジメチルホルムアミドを加えてサイジング剤濃度3重量%のサイジング液を得た。ディップ法により前記炭素繊維束にサイジング液を含浸させた後、熱風乾燥機で200℃、2分間乾燥することで、サイジング剤付着量0.8重量%の炭素繊維束を得た。この炭素繊維束を用いてコンポジット試験片を得た後、吸湿前後の試験片の90゜曲げ強度を測定した。プリプレグ作成時、炭素繊維単糸の擦過毛羽発生およびローラ上へ巻付きは僅かであった。
【0059】
吸水前曲げ強度:110MPa
吸水後曲げ強度: 94MPa
曲げ強度保持率: 85%
吸水率 :0.89%
(実施例2)
溶媒を用いず、4,4’−ビフェノールを186重量部、アニリンを186重量部、パラホルムアルデヒドを120重量部、それぞれフラスコに仕込み、油浴に浸しメカニカルスターラーで110〜120℃で20分間攪拌して溶解させ、 次いで130〜140℃で20分間攪拌後、フラスコを氷浴で冷却して下記式(12)で表される分子量420のベンゾオキサジン化合物を合成した。
【0060】
【化17】

【0061】
実施例1で用いたサイジング剤を、このベンゾオキサジン化合物のみからなるものに変更した以外は、実施例1と同様にして、サイジング剤付着量0.8重量%の炭素繊維束を得た。この炭素繊維束を用いてコンポジット試験片を得た後、吸湿前後の試験片の90゜曲げ強度を測定した。プリプレグ作成時、炭素繊維単糸の擦過毛羽発生およびローラ上へ巻付きは僅かであった。
【0062】
吸水前曲げ強度:112MPa
吸水後曲げ強度: 94MPa
曲げ強度保持率: 84%
吸水率 :0.87%
(実施例3)
実施例1で用いたサイジング液を、上記式(9)で表されるベンゾオキサジン化合物40重量部に、ビスフェノールA型グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(YD-128、東都化成(株)製)40重量部を配合し、溶融混練させたのち、PO/EOポリエーテル(ED274R、ライオン(株)製)20重量部で水に乳化したサイジング剤濃度3重量%の水エマルジョン系サイジング液に変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付着量0.8重量%の炭素繊維束を得た。
【0063】
この炭素繊維束を用いてコンポジット試験片を得た後、吸湿前後の試験片の90゜曲げ強度を測定した。プリプレグ作成時、炭素繊維単糸の擦過毛羽発生およびローラ上へ巻付きは見られなかった。
【0064】
吸水前曲げ強度:128MPa
吸水後曲げ強度:109MPa
曲げ強度保持率: 85%
吸水率 :0.92%
(実施例4)
実施例3で用いたサイジング液を、上記式(9)で表されるベンゾオキサジン化合物50重量部、ビスフェノールA型グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(YD-128、東都化成(株)製)30重量部を、PO/EOポリエーテル(ED274R、ライオン(株)製)20重量部で水に乳化したサイジング剤濃度3重量%の水エマルジョン系サイジング液に変更した以外は、実施例3と同様にしてサイジング剤付着量0.8重量%の炭素繊維束を得た。
【0065】
この炭素繊維束を用いてコンポジット試験片を得た後、吸湿前後の試験片の90゜曲げ強度を測定した。プリプレグ作成時、炭素繊維単糸の擦過毛羽発生およびローラ上へ巻付きは見られなかった。
【0066】
吸水前曲げ強度:123MPa
吸水後曲げ強度:106MPa
曲げ強度保持率: 86%
吸水率 :0.90%
(比較例1)
実施例1で用いたサイジング剤を、ビスフェノールAエチレンオキサイド30モル付加物のみを含むサイジング剤に変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付着量0.8重量%の炭素繊維束を得た。
【0067】
この炭素繊維束を用いて、コンポジット試験片を得た後、吸湿前後の試験片の90゜曲げ強度を測定した。プリプレグ作成時、炭素繊維単糸の擦過毛羽発生およびローラ上へ巻付きは僅かであった。
【0068】
吸水前曲げ強度:110MPa
吸水後曲げ強度: 88MPa
曲げ強度保持率: 80%
吸水率 :1.04%
(比較例2)
実施例1で用いたサイジング剤を、ポリエーテルスルホン樹脂(住化ケムテックス(株)製スミカエクセル(登録商標)5003PS)のみを含むサイジング剤に変更した以外は、実施例1と同様にしてサイジング剤付着量0.8重量%の炭素繊維束を得た。
【0069】
この炭素繊維束を用いて、コンポジット試験片を得た後、吸湿前後の試験片の90゜曲げ強度を測定した。プリプレグ作成時、炭素繊維単糸の擦過毛羽発生およびローラ状へ巻付きは僅かであった。
【0070】
吸水前曲げ強度: 98MPa
吸水後曲げ強度: 85MPa
曲げ強度保持率: 87%
吸水率 :0.88%
(比較例3)
サイジング剤を付着させないで炭素繊維糸条をそのまま用いて、実施例1と同様に、プリプレグ作成しようとしたが、炭素繊維単繊維が工程中のローラ上へ多数巻付き、最終的に炭素繊維糸条が断糸したため、プリプレグを得ることができなかった。
【0071】
以上より、本発明の炭素繊維束は、それから得られる複合材料の曲げ強度保持率を指標とする耐水性が向上しており、また、サイジング剤にさらにエポキシ樹脂を配合することにより、吸水前後での曲げ強度が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の炭素繊維束は、航空機用構造材料をはじめとして、ゴルフシャフト、釣り竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に適用しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物を含むサイジング剤が付着した炭素繊維束。
【化1】

(式中、R1はアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、または、アルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)
【請求項2】
前記ベンゾオキサジン化合物が、次の式(2)〜(5)の少なくとも一種類である請求項1に記載の炭素繊維束。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式中、R1、Rはアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、または、アルキル基もしくはアルコキシル基で置換されたフェニル基である。)
【請求項3】
前記ベンゾオキサジン化合物は、その分子量が300以上2000以下である請求項1または2に記載の炭素繊維束。
【請求項4】
サイジング剤には、さらにエポキシ樹脂を含む請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維束。

【公開番号】特開2007−16364(P2007−16364A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201240(P2005−201240)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】