説明

炭酸アルキレンの生成方法

本発明は、アルキレンオキシドをホスホニウム触媒の存在下で二酸化炭素と反応させることにより炭酸アルキレンを生成するにあたり、(a)アルキレンオキシド、二酸化炭素およびホスホニウム触媒を反応帯域中に連続的に導入し、反応帯域から炭酸アルキレンおよびホスホニウム触媒を含有する生成物流を抜き取り;(b)生成物流から炭酸アルキレンとホスホニウム触媒含有流とを分離し;(c)段階(b)において分離された炭酸アルキレンを生成物として回収し;ならびに(d)段階(b)において分離されたホスホニウム触媒含有流を反応帯域に再循環させる方法であって、含炭素収着剤による炭酸アルキレンおよび/または触媒の処理を実施する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸アルキレンの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸アルキレンの生成方法は公知である。WO−A2005/003113は、二酸化炭素を好適な触媒の存在下でアルキレンオキシドと接触させる方法を開示している。開示されている触媒は、テトラアルキルホスホニウム化合物である。WO−A2005/003113は、使用される触媒を再循環させることを開示している。US−A4,434,105も、炭酸アルキレンの調製方法を開示している。種々の触媒が開示されている。US−A4,434,105は、反応完了後の触媒を再使用することができることも記載している。
【0003】
連続法においては、炭酸アルキレンおよび触媒を含有する反応生成物を後処理に供しなければならない。このような後処理は、一般に、炭酸アルキレン生成物を触媒から分離するための蒸留を含む。WO−A2007/104730によれば、ホスホニウム触媒を使用する連続炭酸アルキレン生成方法において、触媒から汚染物質を除去するための適切な段階を踏まないで触媒を再使用していると触媒の活性が低下することが見出された。従って、WO−A2007/104730は、使用される触媒を精製してから再循環させることを提案している。
【0004】
前記WO−A2007/104730により除去される汚染物質は、ホスホニウム触媒の分解生成物、例えばホスフィンオキシドである。この触媒分解生成物の汚染物質の除去により、連続法におけるこれらの汚染物質の蓄積が回避される。WO−A2007/104730の実施例1においては、炭酸プロピレンおよび使用されるホスホニウム触媒(テトラブチルホスホニウムブロミド;BuPBr)の両方を含み、いくぶんのトリブチルホスフィンオキシド(即ち、BuP=O)も含有する触媒溶液を蒸留に供した。最初に炭酸プロピレンを取り出し、次いでトリブチルホスフィンオキシドの大部分を除去するために2回の逐次蒸留が必要であった。残留物は、主としてテトラブチルホスホニウムブロミドから構成されていた。
【0005】
アルキレンオキシドのオキシラン部分中への二酸化炭素の挿入は、可逆反応である。即ち、アルキレンオキシドは、二酸化炭素の放出下で炭酸アルキレンからも再び形成され得る。炭酸アルキレンの生成および/または炭酸アルキレンを含有する反応混合物の後処理の間に形成される一部の汚染物質がこのような逆反応を触媒し得ることが予期される。
【0006】
上記WO−A2007/104730は、アルキレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸アルキレンの逆反応を触媒し得る汚染物質の除去を挙げていない。さらに、本発明者らは、ホスフィンオキシドがこのような逆反応を触媒しないことを見出し、このことは下記の実施例において実証されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/003113号
【特許文献2】米国特許出願公開第4,434,105号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/104730号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、連続法において再循環されるホスホニウム触媒を使用してアルキレンオキシドおよび二酸化炭素から炭酸アルキレンを生成する連続法であって、アルキレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸アルキレンの逆反応を可能な限り防止し、従って炭酸アルキレンの回収を最大化することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、この課題が、再循環される触媒を使用する前記連続炭酸アルキレン生成方法において、含炭素収着剤による炭酸アルキレンおよび/または触媒の処理を実施することにより解決されることが見出された。
【0010】
従って、本発明は、アルキレンオキシドをホスホニウム触媒の存在下で二酸化炭素と反応させることにより炭酸アルキレンを生成するにあたり、
(a)アルキレンオキシド、二酸化炭素およびホスホニウム触媒を反応帯域中に連続的に導入し、反応帯域から炭酸アルキレンおよびホスホニウム触媒を含有する生成物流を抜き取り;
(b)生成物流から炭酸アルキレンとホスホニウム触媒含有流とを分離し;
(c)段階(b)において分離された炭酸アルキレンを生成物として回収し;ならびに
(d)段階(b)において分離されたホスホニウム触媒含有流を反応帯域に再循環させる方法であって、
含炭素収着剤による炭酸アルキレンおよび/または触媒の処理を実施する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例2から3および比較例5についての時間に対する炭酸プロピレンの量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記WO−A2007/104730において、使用されるホスホニウム触媒を再循環させる前に、この触媒を吸着に供することにより精製することが示唆されている。しかしながら、具体的な収着剤はWO−A2007/104730に挙げられていない。他方、本発明者らは、種々の収着剤を試験し、驚くべきことに、含炭素収着剤がアルキレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸アルキレンの逆反応の防止ならびに炭酸アルキレンの回収の最大化に関して最良の結果を付与することを見出し、このことは下記の実施例に実証されている。本発明のさらなる利点は、本方法により、前記逆反応を触媒する任意の汚染物質をプロセスから抜き取らなければならない放出流を含める必要がなくなるという事実にある。
【0013】
US20030212280の比較例2および3においては、NおよびBr種を含有する炭酸プロピレンを処理するために高表面積炭素(それぞれ1100および1350m/g)が使用される。
【0014】
本明細書において、吸着は、ある物質(収着剤)が吸収、吸着またはこの両方の組合せにより別の物質を取り入れ、または保持するプロセスを意味する。
【0015】
本方法において、収着処理において使用されるべき収着剤は、炭素を含む。前記含炭素収着剤は、この内表面および/または外表面上に炭素を担持する担体であり得る。好ましくは、前記担体は、無機酸化物、例えば、酸化アルミニウム(Alもしくはアルミナ)、二酸化ケイ素(SiOもしくはシリカ)または酸化チタン(TiOもしくはチタニア)を含む。
【0016】
好ましくは、前記含炭素収着剤は、主として炭素からなる物質、例えば、炭素80から100重量%、好ましくは炭素90から100重量%、より好ましくは炭素95から100重量%、最も好ましくは炭素98から100重量%、殊に好ましくは炭素99から100重量%を含む物質である。主として炭素からなり、本方法において特に好ましい収着剤であるこのような物質の例は活性炭(active carbon)であり、当分野において活性炭(activated carbon)、活性炭(active (char)coal)または活性炭(activated (char)coal)とも称される。前記活性炭は、マクロ細孔(細孔直径>50nm)、メソ細孔(細孔直径2から50nm)およびマイクロ細孔(細孔直径<2nm)を含有し、炭素99から100重量%から構成されており、窒素ガス吸着により測定して100から2000m/gの表面積(内表面積および外表面積)を有する物質である。好ましくは、本方法において収着剤として使用することができる活性炭の表面積は、500から1500m/gのものである。
【0017】
本方法において使用されるべき収着剤は、広範囲にわたる粒度を有することができ、任意の形状を有することができる。例えば、前記収着剤は、粒径<0.18mm(例えば、粉状活性炭)または0.2から0.7mmの範囲の粒径(例えば、粒状活性炭)または0.8から5mmの範囲の粒径(例えば、押出活性炭)を有することができる。
【0018】
含炭素収着剤による炭酸アルキレンおよび/または触媒の処理は、本方法の間に任意の場所で任意の時間実施することができる。例えば:
(i)前記処理は、段階(a)における反応帯域中での炭酸アルキレンの生成の間に実施することができ;および/または
(ii)前記処理は、段階(b)における分離の間に実施することができ;および/または
(iii)段階(b)において分離された触媒含有流を前記処理に供してから、前記触媒含有流を反応帯域に再循環させることができ;および/または
(iv)段階(b)において分離された炭酸アルキレンを前記処理に供してから、炭酸アルキレンを段階(c)において回収することができる。
【0019】
含炭素収着剤によるこれらの処理のいずれかにより、アルキレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸アルキレンの逆反応を可能な限り防止することが可能である。さらに、本方法において使用されるべき収着剤は、懸濁しても固定してもよい。
【0020】
従って、収着剤は、本方法における段階(a)の反応帯域または反応器中に存在する反応混合物中で懸濁(またはスラリー化)することができる。さらに、収着剤は、本方法の段階(b)において炭酸アルキレンとホスホニウム触媒含有流とに分離される生成物流中で懸濁することができる。このような分離は、さらに後述する蒸留塔中での蒸留により実施することができる。蒸留塔中での蒸留の場合において、収着剤は、蒸留塔中で懸濁することができる。一般に、懸濁された収着剤による処理の後に収着剤を特定の流れまたは混合物から除去することが必要である場合、この除去は濾過により達成することができる。
【0021】
さらにまた、収着剤は、前記段階(b)において分離されたホスホニウム触媒含有流中で懸濁させてから、この流れを本方法の段階(d)において段階(a)における反応帯域に再循環させることができる。例えば、分離されたホスホニウム触媒含有流は、容器中に貯蔵してから、この流れを段階(a)における反応帯域に再循環させることができる。ホスホニウム触媒含有流を容器中に貯蔵する場合において、収着剤は、(貯蔵)容器中で懸濁させることができる。収着剤による処理の後、懸濁された収着剤を、例えば濾過により除去することができる。または、懸濁された収着剤は、段階(a)における反応帯域に送ることができる。
【0022】
収着剤は、上記の反応帯域、反応器、蒸留塔および/または(貯蔵)容器に連結するラインおよび管の任意の部分において、ラインまたは管のこのような部分が、収着剤は透過することができないが、反応物質および/または生成物および/または任意の溶剤は透過することができる膜と下流および上流の両方で接している限り、懸濁することもできる。
【0023】
上記の場合の全てにおいて、収着剤は、懸濁せず固定することができ、固定は、反応帯域、反応器、蒸留塔および/もしくは(貯蔵)容器、もしくはこれらの一部、ならびに/または上記のラインもしくは管の一部に、収着剤が懸濁される(可動になる)のではなく、固定される(不動になる)ような、収着剤の量を充填することを意味する。
【0024】
さらにまた、上記の場合の全てにおいて、反応物質および/または生成物および/または触媒を含有する当該混合物の一部、即ち、不完全な当該混合物を、含炭素収着剤により処理することが考察される。この処理を行うことにより、アルキレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸アルキレンの逆反応を触媒する任意の汚染物質の蓄積が回避されるので、この処理も本発明の利点をもたらす。好適には、このような一部は、当該混合物の1から90重量%、より好ましくは2から50重量%、最も好ましくは5から25重量%に相当する。
【0025】
触媒は、ホスホニウム化合物である。このような触媒は、例えば、US−A5,153,333、US−A2,994,705、US−A4,434,105、WO−A99/57108、EP−A776,890、WO−A2005/003113およびWO−A2007/104730から公知である。好ましくは、触媒は、式(R)PXのハロゲン化ホスホニウム(式中、Xは、ハロゲン化物を意味し、各Rは、同一であっても異なっていてもよく、アルキル、アルケニル、環式脂肪族または芳香族基から選択することができる。)である。R基は、好適には、1から12個の炭素原子を含有する。良好な結果は、RがC1−8アルキル基である場合に得られる。最も好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチルおよびt−ブチル基から選択されるR基である。好ましくは、ハロゲン化物イオンは、臭化物またはヨウ化物である。臭素化合物およびヨウ素化合物が、対応する塩素化合物より安定であることが考えられる。最も好ましいホスホニウム触媒は、テトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミドである。
【0026】
本方法の段階(d)において、ホスホニウム触媒含有流を段階(a)における反応帯域に再循環させる。溶剤の存在は触媒に対して安定化作用を示すので、ホスホニウム触媒を溶剤の存在下で反応帯域に再循環させることが好ましい。この溶剤は、アルコールであり得る。好適なアルコール溶剤は、アルキレンジオール、特にエタンジオールまたはプロパンジオールである。エタンジオールまたはプロパンジオールの使用は、炭酸アルキレンをアルキレングリコール(アルカンジオール)に転化させ、アルキレングリコールを触媒用溶剤として使用する場合にさらなる利点を有する。
【0027】
段階(a)に向かうホスホニウム触媒を含有する再循環流は、好適には、いくぶんの炭酸アルキレンを含有する。炭酸アルキレンは、ホスホニウム触媒が輸送を容易にする液体形態であることを確保する。さらに、アルコールを触媒用溶剤として使用する場合において、前記アルコールおよび炭酸アルキレンの組合せは、触媒に対して安定化作用を有する。
【0028】
段階(a)における反応器または反応帯域中の触媒の量は、1モルのアルキレンオキシド当たりの触媒のモル数で便宜上表すことができる。副生物の量をより小さくするため、カルボナート化は、好適には、1モルのアルキレンオキシド当たり触媒少なくとも0.0001モルの存在下で実施する。好ましくは、存在する触媒の量は、1モルのアルキレンオキシド当たり0.0001から0.1モルの触媒、より好ましくは0.001から0.05、最も好ましくは0.003から0.03モルの触媒の範囲であるような量である。
【0029】
本方法の段階(a)において二酸化炭素と接触させるアルキレンオキシドは、好適には、C2−4アルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシドおよび/もしくはプロピレンオキシド、またはこのようなC2−4アルキレンオキシドの混合物である。エチレンオキシドを使用する場合、生成される炭酸アルキレンは炭酸エチレンである。プロピレンオキシドを使用する場合、生成される炭酸アルキレンは炭酸プロピレンである。
【0030】
上記の通り、二酸化炭素とアルキレンオキシドとの反応は可逆的である。このことは、形成される炭酸アルキレンが二酸化炭素およびアルキレンオキシドに再び転化し得ることを意味する。本方法の段階(a)において、二酸化炭素とアルキレンオキシドとのモル比は、0.5:1ほど低くてよく、より好適には0.75:1であり得る。しかしながら、反応の可逆性の点から、少なくともわずかに過剰な二酸化炭素、例えば、1.0:1から10:1、より好ましくは1.01:1から2:1、最も好ましくは1.01:1から1.2:1を確保することが好ましい。過剰な二酸化炭素を確定するための好適な手段は、上昇された二酸化炭素圧において、二酸化炭素を添加することにより圧力を一定に維持しながら反応を実施することである。全圧は、好適には5から200barの範囲であり;部分的な二酸化炭素分圧は、好ましくは5から70、より好ましくは7から50、最も好ましくは10から30barの範囲である。
【0031】
本方法の段階(a)における反応温度は、広範囲から選択することができる。好適には、温度は、30から300℃までの間で選択する。比較的高温の利点は、反応速度の増加である。しかしながら、反応温度が高すぎる場合、副反応が生じ得、または触媒の不所望な分解が促進され得る。従って、温度は好適には100から220℃までの間で選択する。
【0032】
当業者は、必要に応じて他の反応条件を適合させることができる。本方法の段階(a)における反応器または反応帯域中のアルキレンオキシドおよび二酸化炭素の滞留時間は、過度の負担なしで選択することができる。滞留時間は、通常、5分間から24時間の間で、好ましくは10分間から10時間の間で変えることができる。アルキレンオキシドの転化率は、好適には、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%である。温度および圧力に応じて、滞留時間を適合させることができる。触媒濃度も広範囲で変動し得る。好適な濃度は、全反応混合物に対して1から25重量%を含む。良好な結果は、全反応混合物に対して2から8重量%の触媒濃度の場合に得ることができる。
【0033】
本方法の段階(a)において、1基のみの反応器を使用することができる。しかしながら、段階(a)の反応を2基以上の反応器中で実施することも実現可能である。このような場合において、二酸化炭素を反応器間で除去または添加することにより過剰な二酸化炭素の最適量を反応器中に提供することが有利であり得る。反応器は、好適には、押出し流れ条件下で管理する。完全混合反応器、例えば、連続撹拌槽型反応器(Continuously Stirred Tank Reactor)(CSTR)に続く押出し流れ反応器を有することもよりいっそう好ましい。このような組合せは、例えばUS−A4,314,945から公知である。
【0034】
所望生成物の炭酸アルキレンは、段階(a)に由来する生成混合物から以下の手法において回収することができる。最初に、前記段階(a)からの粗製反応器流出液から二酸化炭素および軽質成分を1基以上の気液分離器中で分離し、炭酸アルキレンおよび触媒を含有する底部流を形成させる。前記軽質成分は、185℃以下、より具体的には180℃以下の沸点を有する、二酸化炭素以外の化合物である。カルボナート化反応器からの粗製流出液中のこのような軽質成分の例は、未反応のアルキレンオキシドおよびカルボナート化反応の間に形成される任意の軽質汚染物質、例えば、アセトン、プロピオンアルデヒド、アリルアルコールおよびアセトアルデヒドであり得る。
【0035】
前記の未反応二酸化炭素および軽質成分の除去に続き、炭酸アルキレンとホスホニウム触媒含有流とを本方法の段階(b)により分離すべきである。この分離は、炭酸アルキレンおよび触媒を含有する上記底部流を蒸留塔に送り、蒸留塔において底部流を蒸留して第1の蒸留塔頂流および第1の蒸留塔底流を形成させることにより達成することができる。第1の蒸留塔頂流は、炭酸アルキレンを含有する。第1の蒸留塔底流は、触媒およびおそらくいくぶんの炭酸アルキレンを含有する。第1の蒸留塔底流は、本方法の段階(d)により反応器に部分的にまたは完全に再循環させる。
【0036】
アルコールを触媒用溶剤として使用し、このようなアルコールが炭酸アルキレンより低い沸点を有する状況において、例えば、使用されるアルコールがプロパンジオールであり、炭酸アルキレンが炭酸プロピレンである場合、または使用されるアルコールがエタンジオールであり、炭酸アルキレンが炭酸エチレンである場合、第1の蒸留塔頂流は、炭酸アルキレンに加えて前記アルコールを含有する。
【0037】
触媒を炭酸アルキレンおよび触媒用溶剤として使用される任意のアルコールから分離するために蒸留を実施することができる手段に関して、当業者は、温度および棚数を過度の負担なしで変えることができる。
【0038】
本方法の段階(c)により、段階(b)において分離された炭酸アルキレンを生成物として回収する。この回収は、下記の通り達成することができる。上記第1の蒸留塔頂流を蒸留して第2の蒸留塔頂流および第2の蒸留塔底流を形成させる。第2の蒸留塔底流は、炭酸アルキレン、即ち、精製された最終生成物を含有する。
【0039】
アルコールを触媒用溶剤として使用し、このようなアルコールが炭酸アルキレンより低い沸点を有する状況において、第1の蒸留塔頂流の蒸留は、第2の蒸留塔頂流が前記アルコールを含有し、最終炭酸アルキレン生成物がアルコールを含有せず、または実質的に含有しないように実施すべきである。
【0040】
炭酸アルキレンを触媒用溶剤として使用される任意のアルコールから分離するために第1の蒸留塔頂流の蒸留を実施することができる手段に関して、当業者は、温度および棚数を過度の負担なしで変えることができる。
【0041】
本方法において生成される炭酸アルキレンは、好適には、アルカンジオールおよびジアルキルカルボナートの生成に使用することができる。従って、本発明の方法において、好ましくは(e)段階(c)において生成物として回収された炭酸アルキレンをアルカノールと接触させ、アルキレンジオールおよびジアルキルカルボナートを含有する反応混合物を得;ならびに(f)アルキレンジオールおよびジアルキルカルボナートを回収する。
【0042】
上記エステル交換段階(v)において使用されるアルカノールは、好適には、C1−4アルコールである。好ましくは、アルカノールは、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールである。前記段階(v)は、不均一エステル交換触媒の存在下で実施することができる。
【0043】
エステル交換反応自体は公知である。この反応に関して、不均一触媒系、特に第三級アミン、第四級アンモニウム、スルホン酸およびカルボン酸官能基を有するイオン交換樹脂、シリカ中に含浸されたアルカリおよびアルカリ土類ケイ酸塩、ならびにアンモニウム交換ゼオライト上でのエステル交換反応による、エチレングリコールおよび炭酸ジメチルの製造方法を開示するUS−A4,691,041が参照される。US−A5,359,118およびUS−A5,231,212は、アルカリ金属化合物、特にアルカリ金属水酸化物またはアルコラート、例えば、水酸化ナトリウムまたはメタノラート、タリウム化合物、窒素含有塩基、例えばトリアルキルアミン、ホスフィン、スチビン、アルセニン、硫黄またはセレン化合物、およびスズ、チタンまたはジルコニウム塩を含む一連の触媒上での炭酸ジアルキルの連続調製方法を開示している。WO−A2005/003113によれば、炭酸アルキレンとアルカノールとの反応は、不均一触媒、例えばアルミナ上で実施される。
【0044】
本発明を下記の実施例によりさらに説明する。
【0045】
(実施例1および比較例1から4)
これらの実験において、プロピレンオキシドおよび二酸化炭素からの炭酸プロピレンの調製において事前に使用し、前記使用後に収着剤により前処理していない(比較例1)、または収着剤により前処理した(比較例2から4および実施例1)テトラブチルホスホニウムブロミド触媒の存在下でプロピレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸プロピレンの逆反応がどの程度起きるのかを調査した。
【0046】
使用されるテトラブチルホスホニウムブロミド触媒を収着剤により前処理したこれらの実験において、このような前処理は、室温において、触媒溶液および収着剤からなるスラリーを収容する密閉ガラス瓶中で実施した。前記溶液、前記収着剤、前記溶液の量、前記収着剤の量の組成および前処理の継続時間を下記の表1に示す。前処理の間、ガラス瓶中のスラリーをローラーバンク(roller bank)上で混合した。
【0047】
【表1】

【0048】
上記の表1から導くことができる通り、前処理の全ての間、収着剤と触媒溶液との重量比は約0.1であった。前処理の終盤において、スラリーを濾過することにより収着剤を分離した。次いで、こうして得られた濾液について安定性試験を実施した(比較例2から4および実施例1)。上記下記の表1に記載の組成を有するが、収着剤により前処理していない触媒溶液99.6gについても安定性試験を実施した(比較例1)。
【0049】
前記安定性試験において、温度は150℃であり、圧力は約105mbarであり、試験継続時間は約18時間であった。前記試験は、磁気撹拌容器(約100rpm)中で実施した。さらに、使用される実験設定は、プロピレンオキシドおよびこの誘導体(例えば、プロピオンアルデヒド、アセトン、アリルアルコールおよびブロモヒドリン)を含む、試験の間に形成される軽質成分を前記容器から留去し、ドライアイスおよびアセトンの混合物が充填された二重壁を有する容器中で約−78℃においてコールドトラップするような設定であった。
【0050】
安定性試験の開始および終盤の両方において、容器の内容物の重量を測定した。次いで、元の重量に対する最終重量の百分率を決定し、この百分率を下記の表2に「残留率」として示す。
【0051】
【表2】

【0052】
上記表2から、収着剤により前処理していない混合物(比較例1)の元の重量の82.3%が安定性試験の終盤に容器中に依然として存在したことがわかる。さらに、収着剤としての活性炭により前処理した混合物(実施例1)については、元の重量のより高い百分率(即ち、83.5%)が安定性試験の終盤に容器中に依然として存在したことがわかる。このことは、使用される触媒を収着剤としての活性炭により前処理した場合(実施例1)において、驚くべきことに、収着剤による前処理を実施しなかった場合(比較例1)よりもプロピレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸プロピレンの逆反応が起きないことを意味する。
【0053】
さらに、よりいっそう驚くべきことに、使用される触媒を活性炭以外の収着剤により前処理した場合(比較例2から4)において、上記表2の比較例2から4についての「残留率」の比較的低い値により示される通り、収着剤による前処理を実施しなかった場合(比較例1)よりもプロピレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸プロピレンの逆反応が起きることがわかった。従って、シリカ、アルミナおよびケイ酸マグネシウムは、プロピレンオキシドおよび二酸化炭素からの炭酸プロピレンの作出において使用されたテトラブチルホスホニウムブロミド触媒を処理して炭酸プロピレンの逆反応を減らすための収着剤としての使用に好適ではない。
【0054】
参考例
上記の通り、WO−A2007/104730は、ホスフィンオキシドを含む触媒分解生成物を触媒から除去してから触媒を再循環させるような、連続炭酸アルキレン生成方法において使用されたホスホニウム触媒の精製を開示している。本参考例の実験目的は、ホスフィンオキシドがアルキレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸アルキレンの逆反応を触媒するかどうかを調査することである。
【0055】
炭酸プロピレン74.7gおよびテトラブチルホスホニウムブロミド触媒26.7gからなる混合物について安定性試験を実施した。さらに、炭酸プロピレン67.0g、テトラブチルホスホニウムブロミド触媒25.2gおよびトリブチルホスフィンオキシド7.0gからなる混合物について安定性試験を実施した。
【0056】
前記安定性試験において、温度は150℃であり、圧力は100mbarであり、試験継続時間は20時間であった。前記試験は、磁気撹拌容器(約100rpm)中で実施した。さらに、使用される実験設定は、プロピレンオキシドおよびこの誘導体(例えば、プロピオンアルデヒド、アセトン、アリルアルコールおよびブロモヒドリン)を含む、試験の間に形成される軽質成分を前記容器から留去し、ドライアイスおよびアセトンの混合物が充填された二重壁を有する容器中で約−78℃においてコールドトラップするような設定であった。
【0057】
前記安定性試験の終盤において、容器の内容物の重量を測定した。前記試験の両方について、混合物の元の重量の95.1%が試験の終盤において容器中に依然として存在したことがわかった。このことは、トリブチルホスフィンオキシドがプロピレンオキシドおよび二酸化炭素への炭酸プロピレンの逆反応を触媒しないことを示す。
【0058】
(実施例2から3および比較例5)
これらの実験において、プロピレンオキシドおよび二酸化炭素からの炭酸プロピレンの調製におけるテトラブチルホスホニウムブロミド触媒の活性を調査した。前記触媒は、プロピレンオキシドおよび二酸化炭素からの炭酸プロピレンの調製においても事前に使用したものであった。前記事前の使用の後、触媒を収着剤により前処理せず(実施例3および比較例5)、または収着剤としての活性炭により前処理した(実施例2)。さらに、実施例3および比較例5における前記実験は、実施例3の実験において活性炭を実験の間に収着剤として使用したという点で互いに異なった。
【0059】
実験は、1リットルのステンレス鋼オートクレーブ反応器中で実施した。反応器中の温度は油浴により制御し、圧力は二酸化炭素(CO)の取り込みを調節する自動圧力制御装置により制御した。反応器には、気液接触を増強するための中空軸スターラーを備えた。浸漬管を試料採取用に設置した。
【0060】
反応器に、プロピレンオキシド(PO)120gおよびスルホラン3g(内部標準)を装入した。COを添加して圧力を約4barに上昇させた。混合物を145℃に加熱し、COを添加して20barの所望反応圧を達した。炭酸プロピレン2gおよび使用されるテトラブチルホスホニウムブロミド触媒250mg(残部はトリブチルホスフィンオキシドである。)を含有する触媒溶液2.4gを各実験において使用した。
【0061】
実施例2の実験において、使用される触媒溶液は、収着剤としての活性炭により前処理したものであった。前記前処理は、上記触媒溶液10gを活性炭(SXPL03粉状活性炭;Norit製)1gによりローラーバンク上で室温において16時間処理し、次いでスラリーを濾過することを含んだ。こうして得られた濾液2.4gを実施例2の実験において触媒溶液として使用した。
【0062】
各実験において、モノプロピレングリコール(MPG)を触媒溶液に添加した:実施例2においてMPG14.0g、実施例3においてMPG14.5gおよび比較例5においてMPG15.1g。次いで、こうして得られた溶液を反応器中に注入した。実施例3の実験において、収着剤としての活性炭(SXPL03粉状活性炭;Norit製)233mgも前記触媒溶液の注入と一緒に反応器中に注入した。
【0063】
温度および圧力は、全実験の間それぞれ150℃および20barに一定に維持した。反応混合物からの試料を、時間間隔を増加させて取り出してガスクロマトグラフィーにより反応混合物中の形成された炭酸プロピレンの量を計測した。図1において、各実験について炭酸プロピレンの量を時間に対してプロットする。
【0064】
図1から、触媒を活性炭により前処理せず、このような活性炭が炭酸プロピレンの作出時に存在していない場合に触媒の活性が最小であることがわかる(比較例5)。さらに、長期において、触媒を使用する炭酸プロピレンの作出時にこのような活性炭が存在する場合(実施例3)より、触媒を活性炭により前処理した場合(実施例2)に触媒の活性が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキシドをホスホニウム触媒の存在下で二酸化炭素と反応させることにより炭酸アルキレンを生成するにあたり、
(a)アルキレンオキシド、二酸化炭素およびホスホニウム触媒を反応帯域中に連続的に導入し、反応帯域から炭酸アルキレンおよびホスホニウム触媒を含有する生成物流を抜き取り;
(b)生成物流から炭酸アルキレンとホスホニウム触媒含有流とを分離し;
(c)段階(b)において分離された炭酸アルキレンを生成物として回収し;ならびに
(d)段階(b)において分離されたホスホニウム触媒含有流を反応帯域に再循環させる方法であって、
含炭素収着剤による炭酸アルキレンおよび/または触媒の処理を実施する方法。
【請求項2】
含炭素収着剤が炭素80から100重量%を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
含炭素収着剤が活性炭である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(i)収着剤による処理を、段階(a)における反応帯域中での炭酸アルキレンの生成の間に実施し;および/または
(ii)収着剤による処理を、段階(b)における分離の間に実施し;および/または
(iii)段階(b)において分離された触媒含有流を収着剤による処理に供してから、前記触媒含有流を反応帯域に再循環させ;および/または
(iv)段階(b)において分離された炭酸アルキレンを収着剤による処理に供してから、炭酸アルキレンを段階(c)において回収する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
収着剤を、前記段階(b)において分離された触媒含有流中で懸濁させてから、前記触媒含有流を再循環させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
収着剤を容器中で懸濁させ、容器中で前記段階(b)において分離された触媒含有流を貯蔵してから、前記触媒含有流を再循環させる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
収着剤を、段階(a)における反応帯域中に存在する反応混合物中で懸濁させる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
ホスホニウム触媒が、式(R)PXのハロゲン化ホスホニウム(式中、R基は1から12個の炭素原子を含有し、およびXはハロゲン化物を意味する。)である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ホスホニウム触媒がテトラ(n−ブチル)ホスホニウムブロミドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アルキレンオキシドが、C2−4アルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(e)段階(c)において生成物として回収された炭酸アルキレンをアルカノールと接触させ、アルキレンジオールおよびジアルキルカルボナートを含有する反応混合物を得;ならびに
(f)アルキレンジオールおよびジアルキルカルボナートを回収する、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
反応を不均一エステル交換触媒の存在下で実施する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アルカノールがメタノール、エタノールまたはイソプロパノールである、請求項11または12に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−523416(P2011−523416A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509969(P2011−509969)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056098
【国際公開番号】WO2009/141361
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】