説明

炭酸ガス発生具

【課題】炭酸ガスの徐放性に優れ且つ炭酸ガスを発生可能な状態を長期に亘り持続することができる炭酸ガス発生具を提供すること。
【解決手段】本発明の炭酸ガス発生具1は、炭酸ガス発生部21を有する炭酸ガス発生体2を、炭酸ガス難透過性シートからなる袋体3内に封入してなる。炭酸ガス発生部21が、炭酸水素塩濃度0.5〜5mol/lの炭酸水素塩水溶液を含浸させたシートを含んで構成されている。炭酸ガス発生体2は、炭酸ガス発生部21を収容する収容体22を備え、該収容体22が、JIS P8117で規定する通気度が10〜15000秒/100ccで且つJIS Z0208で規定する透湿度が6000g/(m2・24hr)以下の通気性シートを含んで構成されている。前記炭酸水素塩水溶液としては、炭酸水素ナトリウム水溶液又は炭酸水素カリウム水溶液が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス(二酸化炭素)を発生し、身体の所望の部位に施用されることで血行促進剤等としても好適に使用できる炭酸ガス発生具に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスには温熱効果、リラックス効果などがあり、こうした炭酸ガスの特性を利用して、血行促進や皮膚の創傷治癒を促進するなどの目的で経皮的に炭酸ガスを供給する技術が種々提案されている。例えば特許文献1には、炭酸ガス供給部と患部との間に、炭酸ガス透過率が特定範囲にある気体透過性素材を配する技術が記載されており、該炭酸ガス供給部のガス供給源として、高濃度炭酸水、ドライアイス、反応により炭酸ガスを発生する固体炭酸塩と酸との混合物、ガスボンベなどを使用することが記載されている。また特許文献2には、吸水性を有する基底層とガスバリア性を有する保護層との間に、水分と反応して炭酸ガスを発生する炭酸ガス発生剤を封入する技術が記載されており、該炭酸ガス発生剤として、酸と炭酸塩を含有してなり且つ形状が粉末状、ペレット状、板状等の固体状のものが記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の技術は、炭酸ガスの供給源として使用されている炭酸水、ドライアイス、酸と固体炭酸塩との混合物等の分解反応が速すぎるため、該供給源が比較的短時間で分解し、炭酸ガスの発生が急激で発生時間が短い。一般に、炭酸水や酸と固体炭酸塩との混合物等による炭酸ガスの発生時間は30分程度であり、これらを血行促進剤等として使用するには炭酸ガスの発生時間が十分でない。また特許文献1には、炭酸ガスの供給源としてガスボンベを使用する場合も記載されているが、この場合は装置的に複雑で、使用形態が限られるという問題がある。また、特許文献2に記載の技術によれば炭酸ガスの発生が数時間に及ぶとされているが、炭酸ガス発生剤として酸と炭酸塩との固体状(粉末状)の混合体を用いた場合でも、長期の保存時には該混合体が反応して炭酸ガスを発生してしまい、その結果使用時における炭酸ガスの発生時間が不十分となってしまう。
【0004】
また特許文献3には、少なくとも数日間炭酸ガスを継続して発生させることができる炭酸ガス発生剤として、炭酸よりも酸解離定数が大きいカルボン酸の固体粉末と、アルカリ金属の炭酸塩あるいは炭酸水素塩の固体粉末とを含有するものが記載されている。また特許文献3には、炭酸ガス発生剤の分解反応の進行を遅らせて炭酸ガスの発生時間を延長させる目的で、ワックス等の疎水性材料を該炭酸ガス発生剤に含有させることも記載されている。特許文献3に記載の炭酸ガス発生剤によれば、青果物等から蒸散する水分を利用して酸とアルカリ金属塩との反応を促進させて炭酸ガスを発生させるようになされているため、青果物等の鮮度保持剤として好適に使用できるとされている。
【0005】
しかし、特許文献3に記載の炭酸ガス発生剤は、水分の少ない環境で使用される場合、例えば、身体に貼付されて経皮的な炭酸ガスの供給体として使用されるような場合、皮膚から放出される水分量が少ないため分解反応が進まず、炭酸ガスの発生量が不十分となるおそれがある。炭酸ガスの徐放性に優れ且つ炭酸ガスを発生可能な状態を長期に亘り持続することができる、即ち、炭酸ガスの供給源としてのガス発生性能と保存安定性とのバランスに優れると共に、経皮的に炭酸ガスを供給することができる技術は未だ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−326938号公報
【特許文献2】特開2006−249025号公報
【特許文献3】特許第2950758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の課題は、炭酸ガスの徐放性に優れ且つ炭酸ガスを発生可能な状態を長期に亘り持続することができる炭酸ガス発生具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、炭酸ガスの供給源について種々検討した結果、従来用いられている酸と炭酸塩あるいは炭酸水素塩との混合反応系に代えて、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩水溶液を用い、これらの炭酸水素塩の分解反応及び電離平衡を利用することにより、ガス発生性能と保存安定性とのバランスに優れた炭酸ガスの供給源が得られることを知見した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、炭酸ガス発生部を有する炭酸ガス発生体を、炭酸ガス難透過性シートからなる袋体内に封入してなり、該炭酸ガス発生部が、炭酸水素塩濃度0.5〜5mol/lの炭酸水素塩水溶液を含浸させたシートを含んで構成されている炭酸ガス発生具を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の炭酸ガス発生具は、炭酸ガスの徐放性に優れ且つ炭酸ガスを発生可能な状態を長期に亘り持続することができる。また、本発明の炭酸ガス発生具を構成する炭酸ガス発生体は、経皮的に炭酸ガスを供給することができ、身体の所望の部位に施用されることで血行促進や皮膚の創傷治癒を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の炭酸ガス発生具の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示す炭酸ガス発生具を構成する炭酸ガス発生体を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の炭酸ガス発生具をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の炭酸ガス発生具を模式的に示す断面図、図2は、図1に示す炭酸ガス発生具を構成する炭酸ガス発生体を模式的に示す斜視図である。本実施形態の炭酸ガス発生具1は、略偏平な形状をしており、炭酸ガスを発生する炭酸ガス発生部21を有する炭酸ガス発生体2を、炭酸ガス難透過性シートからなる袋体3内に封入してなる。炭酸ガス発生具1は、その使用時に袋体3が開封され、炭酸ガス発生体2が取り出されて使用される。炭酸ガス発生体2は、使用者の肌に密着させて使用される。
【0013】
炭酸ガス発生体2は、図2に示すように略偏平な形状をしており、炭酸ガス発生部21として、炭酸水素塩水溶液を含浸させたシート(以下、炭酸水素塩水溶液含浸シートともいう)を含んで構成されている。更に、炭酸ガス発生体2は、炭酸ガス発生部21を収容する収容体22を備えている。
【0014】
炭酸ガス発生部21を構成する炭酸水素塩水溶液含浸シート中の炭酸水素塩水溶液は、固体炭酸水素塩(室温で固体の炭酸水素塩)を水に溶解させて調製されたものである。固体炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等が用いられる。これらの炭酸水素塩は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、特に炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムが、塩の安定性及び安全性の点で好ましく、とりわけ炭酸水素カリウムが好ましい。炭酸水素カリウムは、炭酸水素ナトリウムに比して水に対する溶解度が高いため、本実施形態のように炭酸水素塩を水に溶解させた状態で使用する場合においては、より多くの炭酸ガスを放出可能な炭酸ガス発生体が得られるようになり、炭酸ガスの発生時間の長期化、炭酸ガスの放出速度の向上等を図ることができる。
【0015】
炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)による炭酸ガスの放出は、炭酸ガス発生部21内に存在している炭酸水素塩の分解反応によるものである。炭酸水素塩の分解反応の一例として、炭酸水素ナトリウムの分解反応を下記に示す。炭酸水素ナトリウムは、炭酸ナトリウム、二酸化炭素、水の3つの物質に分解する。炭酸水素カリウムも同様に分解する。この分解反応は可逆反応であり、温度、圧力に従った反応平衡(電離平衡)が存在し、例えば炭酸ガス発生部21の周辺において炭酸ガス発生部21から放出された炭酸ガスが皮膚に吸収されるなどして、炭酸ガス発生部21周辺の炭酸ガス濃度が平衡濃度よりも低くなると、炭酸ガス発生部21内で炭酸水素塩の分解反応(正反応)が進み、平衡濃度に近づこうとする。炭酸ガス発生具1の使用前、即ち炭酸ガス発生部21(炭酸ガス発生体2)が炭酸ガス難透過性シートからなる袋体3内に封入されている場合のように、炭酸ガス発生部21周辺の炭酸ガス濃度が平衡に近い場合には、炭酸水素塩の分解反応量はわずかとなる。このように、本発明においては電離平衡を利用して、炭酸水素塩の分解反応、延いては炭酸ガスの放出量を制御しており、これにより炭酸ガス発生部21(炭酸ガス発生体2)に優れた炭酸ガスの徐放性を付与している。
【0016】
【化1】

【0017】
また一般に、固体炭酸水素塩は常温常圧で放置しておいても空気中に含まれる水分によって徐々に分解していくが、本発明においては、分解反応を促進して十分な量の炭酸ガスを発生させる観点から、前述したように固体炭酸水素塩を水に溶解させた炭酸水素塩水溶液を用い、該水溶液をシートに含浸させている。
【0018】
また、固体炭酸水素塩の水に対する溶解度を、該固体炭酸水素塩を水に溶解して得られる炭酸水素塩水溶液が放出可能な炭酸ガス量に換算した場合、該溶解度は、炭酸ガスを直接水に溶解させたときの該炭酸ガスの水に対する溶解度よりも大きい。従って、本発明のように炭酸ガスの発生源として、固体炭酸水素塩を水に溶解させてなる炭酸水素塩水溶液を用いることは、炭酸ガスを直接水に溶解させてなる炭酸水を用いる場合に比して、より多くの炭酸ガスを放出可能な炭酸ガス発生体が得られるという利点がある。
【0019】
炭酸ガス発生部21を構成する炭酸水素塩水溶液含浸シート中の炭酸水素塩水溶液における、炭酸水素塩の濃度は、炭酸ガス発生部21(炭酸ガス発生体2)の炭酸ガス放出速度を制御する因子となる。本発明者らが種々検討したところ、炭酸水素塩水溶液における炭酸水素塩の濃度が高くなると、炭酸ガス発生部21の炭酸ガス放出速度が速くなるとの知見を得た。前記炭酸水素塩の濃度は、炭酸水素塩の水に対する溶解度、希望する炭酸ガスの放出速度、炭酸ガス発生部21が使用される温度等を考慮して、使用する炭酸水素塩の種類に応じて決定される。特に、本実施形態のように炭酸ガス発生体2が使用者の肌に密着させて使用されるものである場合、炭酸ガスによる効果(温熱効果等)を最大限に発揮させる観点から、炭酸ガス発生部21(炭酸ガス発生体2)の炭酸ガス放出速度は、皮膚が炭酸ガスを吸収する速度(皮膚による炭酸ガス吸収速度)よりも速いことが望ましい。従って、前記炭酸水素塩水溶液における炭酸水素塩の濃度は、炭酸ガス発生部21(炭酸ガス発生体2)の炭酸ガス放出速度が、皮膚による炭酸ガス吸収速度を上回るような範囲に調整されることが望ましい。皮膚による炭酸ガス吸収速度は通常0.24mg/(min・m2)程度と言われている(日本温泉気候物理医学会雑誌第55巻4号207頁 「二酸化炭素浴における14CO2の経皮吸収」の項参照)。
【0020】
このような観点から、前記炭酸水素塩水溶液含浸シートに含浸されている炭酸水素塩水溶液の炭酸水素塩濃度は0.5〜5mol/l、好ましくは0.5〜2mol/l、更に好ましくは1〜2mol/lである。尚、ここでいう炭酸水素塩濃度は、炭酸水素塩水溶液の水温が30℃のときの濃度である。前記炭酸水素塩水溶液の炭酸水素塩濃度が前記範囲内にあることにより、炭酸ガス発生部21(炭酸ガス発生体2)の炭酸ガス放出速度が概ね10mg/(min・m2)以上となり、前述した皮膚による炭酸ガス吸収速度を大幅に上回るため、炭酸ガスによる効果が最大限に発揮され得る。炭酸水素塩濃度が0.5mol/l未満では、充分な炭酸ガス放出速度を確保できないおそれがある。また、炭酸水素塩濃度の前記上限値5mol/lは、炭酸水素塩(炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム)の水に対する溶解度の最大値に略相当するものであり、それ以上の炭酸水素塩濃度を得ることは困難である。
【0021】
炭酸水素塩水溶液含浸シート21は、1)炭酸水素塩水溶液中にシート(炭酸水素塩水溶液含浸シート21を構成するシート)を浸漬させる、2)シートに炭酸水素塩水溶液を塗布する、等の方法により製造することができる。該シートにおける炭酸水素塩水溶液の含浸量は、該シートの質量に対して、好ましくは100〜5000質量%、更に好ましくは500〜3000質量%である。
【0022】
炭酸水素塩水溶液含浸シート21を構成する前記シート、即ち、前記炭酸水素塩水溶液が含浸されるシートとしては、例えば、不織布、布、紙等を用いることができる。前記シートの素材としては、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ナイロン等の合成繊維;レーヨン、アセテート等の半合成繊維;パルプ、コットン等の天然繊維を用いることができる。
【0023】
炭酸水素塩水溶液含浸シート21を構成する前記シートの種類、素材、坪量、構成繊維の繊維径等を適宜選択することで、炭酸ガスの放出速度を調整可能である。例えば、前記シートとして、構成繊維自体の吸湿、吸水性が高く且つ坪量が大きなシートを選択することで、多くの炭酸水素塩水溶液を保持することが可能になる。また、前記シートとして、構成繊維の繊維径が小さく且つ表面積が大きなシートを選択することで、炭酸ガスの放出速度を速めることができる。また、前記シートとして、構成繊維の繊維径が大きく且つ表面積が小さなシートを選択することで、炭酸ガスの放出速度を遅くすることができる。
【0024】
炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)を有する炭酸ガス発生体2を収容する収容体22は、図2に示すように、1枚又は複数枚(本実施形態では複数枚)のシートを貼り合わせて、炭酸ガス発生体2が収容される収容空間が形成されたものである。扁平な形状を有する収容体22は、図1に示すように、使用時に使用者の肌に近い側に位置する第1の面22a、及び該第1の面22aと反対側に位置し且つ使用者の肌から遠い側に位置する第2の面22bを有している。
【0025】
収容体22の第1の面22aの所定部位には、炭酸ガス発生体2を使用者の身体に固定する固定手段としての粘着剤層(図示せず)が形成されている。該粘着剤層としては、例えばホットメルト粘着剤を用いることができる。ホットメルト粘着剤は一般に粘着基剤、粘着付与樹脂及び軟化剤を構成成分として含有している。
【0026】
収容体22は、通気性シートを含んで構成されている。より具体的には、使用者の肌に近い側に位置する第1の面22aが通気性シートから形成されており、該第1の面2aと反対側に位置する第2の面22bが難通気性シートから形成されている。即ち、収容体22の第1の面22aは、空気が当該面を透過可能な通気面となっており、第2の面22bは、空気が当該面を透過困難又は透過不可能な難通気面となっている。このように、炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)を収容する収容体22が通気性シートを含んで構成されていることにより、前述した炭酸水素塩の分解反応の電離平衡を利用した制御が一層容易になる。第1の面22a及び第2の面22bを形成する両シートは、平面視して四角形形状の炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)の前後左右端それぞれから延出し、その延出部において接着剤やヒートシール等の接合手段によって互いに接合固定されている。炭酸ガス発生体2は、主として皮膚に密着させて使用されるため、収容体22を構成するシートの接合箇所は、皮膚と当接する面に設けないことが好ましく、例えば、収容体22の周縁部(炭酸ガス発生体2を内包している袋体3の周縁部近傍)などが好ましい。
【0027】
収容体22の第1の面22aを構成する通気性シートとしては、炭酸ガスが透過可能で且つ水を通し難いものが好ましい。より具体的には、収容体22の第1の面22aを構成する通気性シートとしては、JIS P8117で規定する通気度が10〜15000秒/100ccで且つJIS Z0208で規定する透湿度が6000g/(m2・24hr)以下のものが好ましい。収容体22の第1の面22aを構成する通気性シートの前記通気度は、好ましくは10〜10000秒/100ccであり、該通気性シートの前記透湿度は、好ましくは100〜1000g/(m2・24hr)である。
【0028】
このように、炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)を収容する収容体22の肌当接面側を構成する通気性シートの前記通気度が、10秒/100cc以上で且つ15000秒/100cc以下であることにより、前述した炭酸水素塩の分解反応の電離平衡を利用した制御が一層容易になる。また、該通気性シートの前記透湿度が6000g/(m2・24hr)以下であることにより、炭酸ガス発生部21に含まれている炭酸水素塩水溶液が、収容体22における通気性シートで形成されている部位(第1の面22a)を透過して収容体22の外部に漏れ出すことが防止され、これにより炭酸ガスの放出が不安定になることが効果的に防止される。また特に本実施形態のように、炭酸ガス発生体2を使用者の肌に密着させて使用する場合には、炭酸ガス発生部21に含まれている炭酸水素塩水溶液を使用者の肌に触れさせずに、炭酸ガス発生部21から放出される炭酸ガスを皮膚に吸収させることが可能となる。
【0029】
収容体22の第1の面22a(肌当接面側)を構成する通気性シートとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなり且つ微細孔を有する樹脂フィルム;撥水不織布等の不織布;該樹脂フィルムと該不織布とを貼り合わせてなる複合シート等を用いることができる。前記樹脂フィルムは例えば、熱可塑性樹脂と無機フィラーとを溶融混練して押し出した溶融物をフィルム状に成形し、成形されたフィルムを一軸又は二軸延伸することで製造される。
【0030】
一方、収容体22の第2の面22b(非肌当接面側)を構成する難通気性シートとしては、炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)から発生した炭酸ガスが透過できない又は透過し難いものが好ましい。より具体的には、収容体22の第2の面22bを構成する難通気性シートとしては、JIS K7126で規定する炭酸ガス(二酸化炭素)透過度が40000cc/(m2・24hr)以下のものが好ましい。
【0031】
収容体22の第2の面22bを構成する難通気性シートとしては、例えば、ナイロン6、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる樹脂フィルムや、それらの積層体、無機蒸着体等が挙げられる。これらの中でも特に、ポリエチレンを含むフィルムとナイロン6を含むフィルムとの積層体は、透明性、柔軟性、炭酸ガスバリア性と接着性の点で好ましい。
【0032】
収容体22における通気面(第1の面22a)と難通気面(第2の面22b)との割合(収容体22における通気性シートと難通気性シートとの使用割合)は、炭酸ガス発生体2の用途、使用部位や炭酸ガス発生部21の構成等に応じて適宜選択しうる。具体的には、収容体22の全表面積に占める通気面22a(通気性シート)の割合が30%〜80%、特に45〜55%となるように、収容体22における通気面22a(通気性シート)と難通気面22b(難通気性シート)との構成割合を調整することが好ましい。その場合、収容体22の全表面における通気面22a以外の面は、難通気面22bとなる。通気面22a(通気性シート)の割合が斯かる範囲にあることにより、発生した炭酸ガスをより効率的に使用者の肌に吸収させることが可能となる。
【0033】
炭酸ガス発生体2が封入される袋体3は、略扁平な形状をしている。袋体3は、炭酸ガスが透過し難い炭酸ガス難透過性シートを適宜折り畳み且つ該シートの端部等の所定部位を接着剤やヒートシール等の接合手段によって接合することにより形成されており、炭酸ガス発生体2が封入される密閉空間を内部に有している。
【0034】
袋体3を構成する炭酸ガス難透過性シートは、収容体22の第2の面22bに用いた難通気性シートのような、炭酸ガスが透過できない又は透過し難いものが好ましく、より具体的には、JIS K7126で規定する炭酸ガス透過度が40000cc/(m2・24hr)以下のものが好ましい。袋体3を構成する炭酸ガス難透過性シートとして、該炭酸ガス透過度が40000cc/(m2・24hr)を超えるものを用いると、炭酸ガス発生具1の保存中に発生した炭酸ガスが袋体3の外に放出され、袋体3内の平衡状態が移動することによって炭酸水素塩水溶液の分解が進んでしまうおそれがある。
【0035】
前述した構成を有する本実施形態の炭酸ガス発生具1は、次のようにして使用される。即ち、未開封の袋体3を開封し、炭酸ガス発生体2を取り出してこれを肌に密着させて使用する。開封した袋体3は廃棄する。炭酸ガス発生具1の使用前(袋体3の開封前)においては、袋体3内では炭酸ガス発生体2(炭酸ガス発生部21)から放出された炭酸ガスの濃度がその温度、圧力における平衡状態となっており、該炭酸ガス発生体2における炭酸水素塩の分解反応はほとんど進んでいないが、袋体3を開封することによって該炭酸水素塩の分解反応が進み、炭酸ガス発生体2からの炭酸ガスの放出が開始される。取り出された炭酸ガス発生体2は、収容体22における第1の面22a(通気性シートから構成された面)が使用者の肌に対向し、第2の面22b(難通気性シートから構成された面)が外方を向くように使用され、該第1の面22aの所定部位に形成された前記粘着剤層(図示せず)によって肌に密着する。炭酸ガス発生体2は、身体の所望の部位、例えば肩、腰、顔等に施用される。
【0036】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態においては、収容体22における使用者の肌に近い側に位置する第1の面22aが通気性シートから形成され、第2の面22bが難通気性シートから形成されていたが、両面22a,22bが何れも通気性シートから形成されていても良い。
【0037】
また前記実施形態における炭酸ガス発生体2は、炭酸ガス発生部21(炭酸水素塩水溶液含浸シート)と該炭酸ガス発生部21を収容する収容体22とを含んで構成されていたが、該収容体22は含んでいなくても良い。即ち本発明の炭酸ガス発生具には、炭酸ガス発生部(炭酸水素塩水溶液含浸シート)を袋体内に直接封入してなるものも含まれる。例えば、収容体22を備えていない点以外は後述する実施例4と同様の構成の炭酸ガス発生具(炭酸ガス発生体)の場合、その炭酸ガス放出量は、1時間後で37mg、2時間後で58mg、3時間後で71mgであった。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〜4〕
下記表1に示す組成の炭酸水素塩水溶液を複数種調製し、縦85mm、横85mmの四角形形状のシート(商品名「ベンコット」、旭化成株式会社製、アセテート製、坪量40g/m2)に各種炭酸水素塩水溶液をピペットで添加、含浸させ、複数の炭酸水素塩水溶液含有シート(炭酸ガス発生部)を作製した。炭酸水素塩水溶液の含浸量は5mlとした。これらの炭酸水素塩含有シートを用いて、図1に示す炭酸ガス発生具1を複数作製し、それぞれ実施例1〜4のサンプルとした。炭酸ガス発生具1において、収容体22の第1の面22aを構成する通気性シートとして、多孔質フィルム(商品名「TSF」、株式会社興人製)を用い、第2の面22bを構成する難通気性シートとして、ナイロン/ポリエチレンのラミネートフィルム(商品名「ラミジップLZ」、株式会社生産日本社製)を用い、両シート22a,22bの周縁部を、通気性シートの有効面積(即ち炭酸ガス透過面の大きさ)が縦90mm×横90mmとなるようにヒートシールで接合した。袋体3を構成する炭酸ガス難透過性シートとして、第2の面22bを構成する難通気性シートと同じもの(前記ラミジップLZ)を用いた。
【0040】
〔実施例5〕
前記炭酸水素塩水溶液が含浸されるシートとして、アセテート製シートに代えてパルプシート(商品名「キッチンタオル」、株式会社王子ネピア製、木材パルプ製、坪量90g/m2)を用いた以外は実施例4と同様にして炭酸ガス発生具を作製し、これを実施例5のサンプルとした。
【0041】
〔実施例6〕
実施例6は、後述する炭酸ガス放出量の測定条件を変更した以外は実施例3と同じである。即ち実施例6は、後述する炭酸ガス放出量の測定を、袋体内に炭酸水素塩水溶液含有シート(炭酸ガス発生部)を封入してから2週間後に実施した。
【0042】
〔実施例7〕
通気性シートとして、JIS P8117で規定する通気度の異なる多孔質フィルム(商品名「KTF」、三菱樹脂株式会社製)を用いた以外は実施例3と同様にして炭酸ガス発生具を作製し、これを実施例7のサンプルとした。
【0043】
〔比較例1〕
炭酸水素塩として炭酸水素カリウムを用い、これを水に溶解して調製した、炭酸水素カリウム濃度1mol/lの炭酸水素塩水溶液5mlを、直径60mmのポリスチレン製シャーレに入れ、そこにフマル酸を0.3g添加したものを、炭酸ガス発生具として用いた。
【0044】
〔比較例2〕
炭酸水素塩水溶液含有シートの代わりに、炭酸水素カリウム0.5gを固体のまま用いた以外は実施例1と同様にして炭酸ガス発生具を作製し、これを比較例2のサンプルとした。
【0045】
〔比較例3〕
炭酸水素塩水溶液の炭酸水素塩濃度を0.1mol/lとした以外は実施例1と同様にして炭酸ガス発生具を作製し、これを比較例3のサンプルとした。
【0046】
〔比較例4〕
袋体を設けず、炭酸ガス発生体を常時露出した状態にした以外は実施例6と同様にし、これを比較例4のサンプルとした。
【0047】
〔比較例5〕
炭酸水素塩水溶液の代わりに炭酸水を用いた以外は実施例1と同様にして炭酸ガス発生具を作製し、これを比較例5のサンプルとした。炭酸水は、100ccの分液ロートにイオン交換水50ccを満たし、日本炭酸瓦斯株式会社製のミニガスカートリッジ(容量98ml)を用いて炭酸ガスを流量4cc/秒で5分間バブリングすることによって得た。炭酸水の中の炭酸ガス濃度は1800ppmであった。炭酸ガス濃度の測定はサーモフィッシャー社製イオンメーター1115000と、二酸化炭素電極9502BNWPを用いて行った。
【0048】
〔比較例6〕
炭酸水素塩水溶液の炭酸水素塩濃度を6mol/lとした以外は実施例2と同様にして炭酸ガス発生具を作製し、これを比較例6のサンプルとした。比較例6は、炭酸水素塩濃度が高すぎるため、炭酸水素塩水溶液中に溶け残りの炭酸水素塩の固体が析出し、商品形態への含浸加工が不可能となった。そのため比較例6は、下記炭酸ガス放出量の測定において測定不能(N.D.)であった。
【0049】
〔評価〕
実施例及び比較例の各サンプルについて、以下の方法により炭酸ガス放出量を測定した。その結果を下記表1及び表2に示す。
【0050】
<炭酸ガス放出量の測定>
炭酸ガス放出量の測定は、チャンバー内にサンプルを密閉状態で静置し、該チャンバー内の炭酸ガス濃度の変化を測定することによって行った。尚、図1に示す如き構成の炭酸ガス発生具あるいは炭酸ガス発生体(比較例1を除く他の炭酸ガス発生具あるいは炭酸ガス発生体)は、該炭酸ガス発生体における通気面(第1の面22a)を上方に向けてチャンバー内に静置した。また、比較例1の炭酸ガス発生具は、炭酸水素塩水溶液にフマル酸を添加した直後から大量の炭酸ガスが発生するため、図1に示す如き形態を作ることができず、シャーレのままチャンバー内に静置し、炭酸ガス放出量を測定した。チャンバーとしてはFisher社製の容積17Lのバキュームオーブンを利用し、炭酸ガス濃度の測定にはVaisala社製の炭酸ガス濃度測定器GM−70を用いた。炭酸ガス濃度測定器に付属のポンプをチャンバーに接続し、チャンバー内の炭酸ガス濃度の変化を、炭酸ガス発生具をチャンバー内に密閉状態で静置した直後から3時間経過する迄1時間経過毎(比較例1については静置した直後から30分間経過する迄10分間経過毎)に測定し、その濃度増加分から炭酸ガス発生質量を算出し、これを炭酸ガス放出量とした。尚、2時間後を含めてそれ以降の炭酸ガス放出量の測定値は、チャンバー内の炭酸ガスの総量である。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1から明らかなように、各実施例は、1時間後の炭酸ガス放出量が10mgを超えており、また、その後の炭酸ガス放出量の増加分についても、1時間あたり10mgを超えているものも見られる。前述したように皮膚による炭酸ガス吸収速度は0.24mg/(min・m2)程度であるから、各実施例は、概ね皮膚への浸透速度以上の炭酸ガスを継続して発生していると言える。これに対し、比較例1は、炭酸水素塩の分解反応(正反応)が急激に進行し、炭酸ガスの発生が持続しない。また比較例2は、主として炭酸水素塩を固体のまま用いているため、炭酸水素塩の分解反応が進行せず、炭酸ガスが発生しない。また比較例3は、主として炭酸水素塩水溶液の炭酸水素塩濃度が低すぎるため、炭酸ガス放出量が不足している。また比較例4は、主として炭酸ガス発生体が常時露出しているため、炭酸ガス放出量の測定時には既に炭酸水素塩の分解反応が終了しており、炭酸ガスが発生しなかった。また比較例5は、主として炭酸ガスの供給源として炭酸水を用いているため、炭酸ガス放出量が不足している。また比較例6は、主として炭酸水素塩水溶液の炭酸水素塩濃度が高すぎるため、前述した通り商品形態への含浸加工が不可能であった。このように、何れの比較例も皮膚に対して充分な炭酸ガスを供給することが出来なかった。
【符号の説明】
【0054】
1 炭酸ガス発生具
2 炭酸ガス発生体
3 袋体
21 炭酸ガス発生部(炭酸水素塩水溶液含浸シート)
22 収容体
22a 収容体の第1の面(使用者の肌に近い側に位置する面)
22b 収容体の第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガス発生部を有する炭酸ガス発生体を、炭酸ガス難透過性シートからなる袋体内に封入してなり、該炭酸ガス発生部が、炭酸水素塩濃度0.5〜5mol/lの炭酸水素塩水溶液を含浸させたシートを含んで構成されている炭酸ガス発生具。
【請求項2】
前記炭酸水素塩水溶液が炭酸水素ナトリウム水溶液又は炭酸水素カリウム水溶液である請求項1記載の炭酸ガス発生具。
【請求項3】
前記炭酸ガス発生体が、前記炭酸ガス発生部を収容する収容体を備え、該収容体が、JIS P8117で規定する通気度が10〜15000秒/100ccで且つJIS Z0208で規定する透湿度が6000g/(m2・24hr)以下の通気性シートを含んで構成されている請求項1又は2記載の炭酸ガス発生具。
【請求項4】
前記炭酸ガス発生体が使用者の肌に密着させて使用される請求項1〜3の何れかに記載の炭酸ガス発生具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222259(P2010−222259A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68090(P2009−68090)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】