説明

炭酸ナトリウムの製造方法

【課題】 前記石灰石への不純物含量が多く、また、石灰石の大きさが揃っていない、特に、微小な石灰石を多く含む、前記低品位の石灰石を使用してソルベー法を実施することができる方法を提供する。
【解決手段】 石灰石1をロータリーキルン2に供給して熱分解せしめ、生成する炭酸ガスを含む廃ガスを回収する工程、及び、該ロータリーキルンより回収した廃ガスを炭酸ガス濃度が40容量%以上となるように濃縮する濃縮工程を経て得られる炭酸ガスを、ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法において、上記製造方法の炭酸化工程に使用する炭酸ガスとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルベー法(アンモニアソーダ法ともいう)により炭酸ナトリウムを製造するための新規な方法に関する。詳しくは、低品位の石灰石原料を使用して、工業的に炭酸ナトリウムを製造することが可能な炭酸ナトリウムの製造方法である。
【背景技術】
【0002】
炭酸ナトリウムを工業的に製造する方法として知られているソルベー法は、石灰石、アンモニア、原料塩及び水を原料として使用し、以下の工程によって製造される。
【0003】
(1)飽和塩水を精製する塩水精製工程、
(2)石灰石を熱分解(か焼)して炭酸ガスを生成する石灰石か焼工程、
(3)前記飽和塩水にアンモニアを吸収させるアンモニア吸収工程、
(4)上記石灰石か焼工程より得られる炭酸ガスを、アンモニアを吸収させた飽和塩水と接触させることによって炭酸化を行い、重炭酸ナトリウムを生成せしめる炭酸化工程、
(5)上記炭酸化工程より得られる重炭酸ナトリウムを熱分解(か焼)して炭酸ナトリウムを得るか焼工程。
【0004】
前記石灰石か焼工程において、工業的に使用されている石灰炉は、高濃度の炭酸ガスが得られるということより、竪型炉が一般に使用される。(非特許文献1参照)。
【0005】
上記竪型炉は充填層方式であるため圧力損失が大きく石灰石粒度に限度があり、また炉内において石灰石の動きが少ないために、不純物成分と低温度で部分融解して生成したクリンカーによる閉塞トラブルを生じやすい。かかる観点より、竪型炉では粒度が揃い、不純物の少ない高品質のものが使用されていた。即ち、上記石灰石は、石灰岩の岩盤より切り出される高純度の石灰岩を洗浄、粉砕した後、分級することで適当な粒度、例えば、40〜60mm程度の大きさに粒度を揃えて石灰炉に供給されていた。
【0006】
ところが、石灰石は、産出する採掘地によって埋蔵される形態が異なり、上記高品質の石灰石が調達できない地域もある。例えば、採掘地の地質が、石灰石の他に珪石、硅砂やシルトなどの成分を含む場合、前記石灰石を分取することは困難であり、また、石灰石の大きさもバラツキがあり、たとえ、使用可能な石灰石を分取できたとしても、多大の手間を要するのみでなく、歩留りも極めて悪いという問題を有する。
【0007】
そのため、従来のソルベー法を実施しようとした場合、その工場の立地や原料の調達先等が制限される場合があり、良質の石灰石を入手することが困難となることが予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ソーダ技術ハンドブック2009 2009年6月30日、日本ソーダ工業会発行、235〜236頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、前記石灰石への不純物含量が多く、また、石灰石の大きさが揃っていない、特に、微小な石灰石を多く含む、前記低品位の石灰石を使用してソルベー法を実施することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来、石灰石を焼成して酸化カルシウムを得るためのみに専ら使用されていたロータリーキルンを用いて、上記低品位の石灰石原料を焼成し、これにより得られる、従来の石灰石の焼成においては廃棄されていた、廃ガス中の炭酸ガスを濃縮して高濃度二酸化炭素含有ガスとすることにより、ソルベー法での使用が十分可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法において、上記製造方法の炭酸化工程に使用する炭酸ガスとして、以下の工程を含む方法によって得られた炭酸ガスを使用することを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法が提供される。
【0012】
(A)石灰石をロータリーキルンに供給して熱分解せしめ、生成する炭酸ガスを含む廃ガスを回収する工程、及び、
(B)該ロータリーキルンより回収した廃ガスを炭酸ガス濃度が40容量%以上となるように濃縮する濃縮工程
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記低品位の石灰石原料を使用して、ソルベー法を工業的に実施することが可能となり、その工業的価値は極めて高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の方法において、炭酸化工程に使用する炭酸ガスを製造するための工程を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ソルベー法)
本発明において、炭酸ナトリウムの製造は、ソルベー法によって行われる。かかるソルベー法は、具体的には、以下に示す工程よりなる。
【0016】
(1)塩水精製工程
原料塩水は、原料塩を工業用水或いは雨水、海水等により溶解するか、塩湖より採取される飽和塩水が使用され、これを精製して使用される。上記飽和塩水の精製は、含有される不純物の種類に応じて公知の方法が特に制限無く採用される。例えば、ゴミや懸濁物などの固体不純物の除去には、砂濾過を代表とする濾過装置が一般に使用される。また、マグネシウムイオンの除去は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリを添加し、水酸化物として沈殿させ、カルシウムイオンは炭酸ガス、炭酸ナトリウム等の炭酸根を添加し、炭酸塩として沈殿させ、これを前記濾過装置で除去する方法が使用される。また、硫酸根等の多価陰イオンの除去は、カルシウムを対イオンとする塩、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウムが好適に使用される。上記処理剤として使用する水酸化カルシウムとして、後述するロータリーキルンより得られる焼成物の一部を水に懸濁せしめて使用することが好ましい。
【0017】
(2)石灰石か焼工程
ソルベー法に使用される炭酸ガスは、後述する炭酸化工程における反応を効率よく実施するため、通常、40容量%以上の高濃度の炭酸ガスを必要とする。従来、かかる高濃度の炭酸ガスは、前記したように、専ら、竪型炉を使用して石灰石を熱分解(か焼)することにより準備されていた。
【0018】
しかし、本発明において、炭酸ガスの生成工程は、後で詳述するように、
(A)石灰石をロータリーキルンに供給して熱分解せしめ、生成する炭酸ガスを含む廃ガスを回収する工程、及び、
(B)該ロータリーキルンより回収した廃ガスを炭酸ガス濃度が40容量%以上となるように濃縮する濃縮工程
の工程を含む、従来実施されていない特殊な方法によって生成される。
【0019】
(3)アンモニア吸収工程
前記精製された飽和塩水にアンモニアを吸収させることにより続く炭酸化工程における炭酸ガスの溶解度を高めて炭酸水素ナトリウムの生成反応を行わせしめるための工程である。アンモニアの吸収は、アンモニアガスを上記飽和塩水に吹き込む公知の方法が制限無く採用される。
【0020】
(4)炭酸化工程
上記炭酸ガス製造工程より得られる炭酸ガスを、上記アンモニアを溶解した飽和塩水と接触させることによって炭酸化を行い、重炭酸ナトリウムを生成せしめる工程である。炭酸ガスと上記飽和塩水との接触は、公知の設備を使用し、公知の条件によって行うことができる。一般には、各段に泡鐘を有し、下部には多管式の冷却器を備えた構造を有する反応塔中で、飽和塩水と炭酸ガスとを向流接触させる方法が採用される。上記接触の際の接触温度は、30〜55℃が一般的である。
【0021】
(5)か焼工程
上記炭酸化工程より得られる重炭酸ナトリウムは、これを熱分解(か焼)することにより、炭酸ナトリウムが得られる。このか焼工程も、公知の設備、条件が特に制限無く採用される。例えば、高圧蒸気による回転乾燥器(STD、Steam Tube Dryer)を使用して、160〜240℃の範囲で熱分解が実施される。
【0022】
(炭酸ガスの製造方法)
上記ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法において、本発明の最大の特徴は、炭酸化工程に使用する炭酸ガスとして、以下の工程を含む方法によって得られた炭酸ガスを使用することにある。
【0023】
(A)石灰石をロータリーキルンに供給して熱分解せしめ、生成する炭酸ガスを含む廃ガスを回収する工程、及び、
(B)該ロータリーキルンより回収した廃ガスを炭酸ガス濃度が40容量%以上となるように濃縮する濃縮工程。
【0024】
本発明者らは、従来、廃ガスとして廃棄されていたロータリーキルンによる石灰石の熱分解により発生するガスを、上記方法を採用することによってソルベー法における新たな炭酸源として利用可能であることを見出したのである。このように、ロータリーキルンを使用してソルベー法に使用するための高濃度の炭酸ガスを製造しようとする試みは、本発明によって初めて提案されたものである。
【0025】
本発明において、ロータリーキルンを使用して炭酸ガスを生産できるようになったメリットとしては、従来使用されていた竪型炉に比べて、石灰石の品質が厳しく制限されないことが挙げられる。即ち、本発明においては、竪型炉で使用されていた高品位の石灰石は勿論使用可能であるが、前記低品位の石灰石、例えば、石灰石の他に珪石、硅砂やシルトなどの成分を含んだり、石灰石の大きさにバラツキがあったりするものでも、そのまま、或いは、簡単な前処理、例えば、水洗や篩などによる硅砂やシルトの除去を行うことにより、問題なく使用することができる。
【0026】
また、ロータリーキルンを使用できるその他のメリットとして、炉内石灰石の動きが大きいために、焼成により生成するクリンカーによる閉塞トラブルを生じにくく長時間の運転継続が可能、メンテナンスが容易であるなどが挙げられる。
【0027】
上記炭酸ガスの製造工程を、図1に従って説明する。図1は、前記(A)及び(B)の工程を含む炭酸ガスの製造工程の概略図を示すものである。
【0028】
図1において、石灰石1は、ベルトコンベアに代表される輸送手段5より、ホッパーに代表される供給手段6を介してロータリーキルン2の窯尻部に供給される。
【0029】
上記石灰石1としては、前記したように、粒径の揃った高品位の石灰石を使用することもできるが、本発明の最も効果を発揮するのは、前記低品位の石灰石を使用する場合である。
【0030】
前記ロータリーキルン内では、窯前に設置されたバーナー7により供給される熱により、石灰石が加熱されて熱分解し、酸化カルシウムに変化し、ロータリーキルンの窯前より受槽4に取り出される。上記バーナー7の燃料は特に制限されないが、後工程である炭酸ガス濃縮工程における処理における負荷を軽減するため、炭酸ガスの汚染が少なく、また、微粉の発生も少ない燃料が好適に使用される。代表的な燃料としては、天然ガスが挙げられる。
【0031】
前記ロータリーキルン内の温度は、最高温度が1000〜1500℃の範囲に設定することが好ましい。また、石灰石のロータリーキルン内の滞在時間は、その粒径分布等にもよるが、1000℃以上の温度領域に1.5〜2時間程度滞在するように設定することが好ましい。
【0032】
上記石灰石の熱分解により、炭酸ガスが発生する。しかし、ロータリーキルンより得られる廃ガス中の炭酸ガス濃度は、バーナーより発生する燃焼ガス等によって希釈され、通常は、15〜25容量%の濃度でしかない。従来、ロータリーキルンを使用した石灰石の熱分解は、酸化カルシウムを製造することが目的であり、廃ガスは一般に廃棄されていた。
【0033】
本発明においては、かかる炭酸ガス濃度の希薄な廃ガスを炭酸ガス濃度が40容量%以上、好ましくは、42容量%以上となるように濃縮する濃縮工程を設けることにより、ロータリーキルンにおいて発生する炭酸ガスをソルベー法における炭酸化工程の炭酸ガスとして使用することを可能とした。
【0034】
上記ロータリーキルンより発生する廃ガス中の炭酸ガスを濃縮する方法は、公知の方法が特に制限無く採用される。好適な濃縮方法を例示すれば、炭酸ガスを選択的に吸収できる吸収液に廃ガスを接触させて、該吸収液に炭酸ガスを吸収させた後、該吸収液より炭酸ガスを放出せしめることによる方法が挙げられる。上記吸収液としては、トリエチレングリコール、炭酸プロピレンなどの物理吸収液、アミン水溶液、炭酸カリ水溶液などの化学吸収液などが挙げられるが、アミン水溶液、とりわけ、モノエタノールアミン(mono ethanol amine)水溶液が最も適している。
【0035】
尚、図1において、炭酸ガス濃縮装置3は、一つのボックスとして示したが、実際の装置においては、吸収液と前記廃ガスとを接触させる吸収塔、炭酸ガスを吸収した液より炭酸ガスを放出させる放出塔とが準備される。また、上記吸収塔、放出塔の構造は、公知の構造が特に制限無く採用することができる。また、炭酸ガスの吸収・放出条件も公知の条件が特に制限無く採用される。
【0036】
また、上記吸収液を使用した方法以外の濃縮方法としては、吸着剤として固体のゼオライトなどを用いた吸着プロセスや期待分離膜を使用する方法も提案されており、本発明においても採用可能である。
【0037】
図1に従えば、ロータリーキルン2よりライン8により回収された廃ガスは、炭酸ガス濃縮装置3に送られ、濃縮されて、ライン9により、ソルベー法による炭酸ナトリウム製造工程における炭酸化工程に供給される。
【0038】
一方、前記ロータリーキルン2の窯前より取り出され、受槽4に収容される焼成物は、酸化カルシウムと共に焼成によって生成するクリンカーを含有するものであり、前記ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法において、原料塩水を精製する塩水精製工程の処理剤として、好適に使用することができる。
【0039】
即ち、本発明において、原料塩水を精製する塩水精製工程の処理剤として、ロータリーキルンより得られる焼成物の一部を使用することにより、塩水中に含まれる硫酸根などの不純物陰イオンや、マグネシウムなどの不純物陽イオンを効果的に沈殿除去することが可能である。
【0040】
本発明の方法によれば、前記したように、石灰石が、珪石等の不純物と混在する場合でも、また、大きさが揃っていない場合でも、何ら問題なくソルベー法において使用することが可能な炭酸ガスを得ることができ、これを使用して、炭酸ナトリウムを製造することができる。
【0041】
因みに、下記組成とした石灰石について、前記(A)工程(ロータリーキルン内の最高温度を1100℃の範囲に設定)、及び(B)工程(モノエタノールアミン水溶液を吸収剤として使用)を実施して得られた炭酸ガスの成分を分析したところ、炭酸ガス濃度99容量%以上であり、従来の竪型炉を使用して得られた炭酸ガスと遜色のない成分の炭酸ガスを得ることができ、この炭酸ガスは、ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法における炭酸化工程に問題なく使用できることを確認した。
【0042】
(石灰石組成)
石灰石※ 100重量部
珪石 10重量部
アルミナ 5重量部
※)石灰石は、平均粒径約60mmの石灰石50重量%と平均粒径約10mmの石灰石50重量%とを混合して試験組成を調製した。
【符号の説明】
【0043】
1 石灰石
2 ロータリーキルン
3 炭酸ガス濃縮装置
4 受槽
5 輸送手段
6 供給手段
7 バーナー
8 ライン
9 ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法において、上記製造方法の炭酸化工程に使用する炭酸ガスとして、以下の工程を含む方法によって得られた炭酸ガスを使用することを特徴とする炭酸ナトリウムの製造方法。
(A)石灰石をロータリーキルンに供給して熱分解せしめ、生成する炭酸ガスを含む廃ガスを回収する工程、及び、
(B)該ロータリーキルンより回収した廃ガスを炭酸ガス濃度が40容量%以上となるように濃縮する濃縮工程
【請求項2】
前記ソルベー法による炭酸ナトリウムの製造方法において、原料塩水を精製する塩水精製工程の処理剤として、ロータリーキルンより得られる焼成物の一部を使用する請求項1に記載の炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項3】
ロータリーキルンの加熱用の燃料として、天然ガスを使用する請求項1記載の炭酸ナトリウムの製造方法。
【請求項4】
前記(B)の濃縮工程が、ロータリーキルンより回収した廃ガスをモノエタノールアミン水溶液と接触させて炭酸ガスを吸収せしめた後、該水溶液を加熱することにより、炭酸ガスを放出せしめることによって行われる請求項1記載の炭酸ナトリウムの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−162404(P2011−162404A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27781(P2010−27781)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)