説明

点吊り装置

【課題】 装置全体をコンパクト化して安価にすると共に、容易に任意の吊り下げ位置へ変更可能な点吊り装置を提供する。
【解決手段】 長尺状の本体3と、この本体3の基端側に設けた基台4と、この基台4の側面に設けた舞台天井面走行用の車輪11と、上記基台4上に配置した巻取りドラム5及びこの巻取りドラム5を駆動するブレーキ付きモータ6と、上記本体3の先端側に設けた吊りワイヤ7案内用の案内部材8とを備え、上記巻取りドラム5に巻き回された吊りワイヤ7が、ブレーキ付きモータ6の作動によって上記案内部材8を介して舞台の床面側Sへ繰り出され又は巻き取られるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劇場やホール、アリーナ等の舞台天井に設置される点吊り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
劇場やホール、アリーナ等の舞台天井には、フックにマイクや照明器具等の吊り物を吊り下げ、そのフックを昇降させることで上記吊り物の昇降位置を調整する点吊り装置が配置されている。
【0003】
この点吊り装置は、公演種目に応じて吊り物の吊り下げ位置や、昇降位置を変更する必要があり、そのための機構を備えたものとしては、特許文献1に示すものを例示することができる。
【0004】
この点吊り装置は、天井の下方にレールを架設し、このレールに走行ブロックを移動自在に設けると共に、この走行ブロックに回動自在に設けられた滑車にワイヤを巻き掛け、このワイヤを天井上面に設けたモータで巻き取り又は繰り出しすることで、上記ワイヤに設けたフックを昇降可能としている。
【0005】
この構成によれば、フックに吊り物を吊らない状態で、手動により上記走行ブロックを任意の吊り下げ位置に移動可能とすると共に、上記モータによるワイヤの巻き取り又は繰り出しによって、フックに吊り下げた上記吊り物の昇降位置を調整できる。
【特許文献1】特開2003‐19370号公報(図1〜図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に示す点吊り装置は、天井の下方にレールを架設するので、天井上面はモータのみとなって人の歩行を可能とする等、有効に利用できる反面、以下に示す問題点がある。
【0007】
即ち、吊り下げ位置の変更はレールに沿ってのみ可能となるため、任意の吊り下げ位置への変更を可能とするには、上記レールを長く設定しておく必要があり、その分、装置全体が大掛かりなものとなってコストが嵩む。
【0008】
又、この点吊り装置は、天井の上方にモータを設け、下方にレールを設けているので、上記天井を挟んだ上下部に構成部材が点在して配置されることになり、装置全体としては大型化し、やはりコストが嵩む。
【0009】
そこで、本発明の目的は、装置全体をコンパクト化して安価にすると共に、容易に任意の吊り下げ位置へ変更可能な点吊り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、長尺状の本体と、この本体の基端側に設けた基台と、この基台の側面又は上記本体の側面に設けた舞台天井面走行用の走行部材と、上記基台上に配置した巻取りドラム及びこの巻取りドラムを駆動する駆動手段と、上記本体の先端側に設けた吊りワイヤ案内用の案内部材とを備え、上記巻取りドラムに巻き回された吊りワイヤが、駆動手段の作動によって上記案内部材を介して舞台の床面側へ繰り出され又は巻き取られるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の点吊り装置は、基台の側面又は本体の側面に走行部材を設けると共に、基台上に吊りワイヤを巻き回する巻取りドラムと、この巻取りドラムを駆動させる駆動手段とを設けている。
【0012】
従って、従来例で示した装置に比較し、装置全体がコンパクトになって、安価に製造可能となると共に、単独で簡単に任意の吊り下げ位置へ移動できるので、使い勝手も非常に良い。
【0013】
又、上記巻取りドラム及び駆動手段を基台の上面に露出するように設けたので、これらのメンテナンスを容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を劇場の舞台天井に設置される点吊り装置に具体化した一実施の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
図1および図2に示すように、本実施の形態の点吊り装置1は、長尺状の本体3と、この本体3の基端(図1における右端を言う)に設けた基台4と、この基台4の側面に設けた舞台天井面走行用の走行部材と、上記基台4上に配置した巻取りドラム5及びこの巻取りドラム5を駆動する駆動手段と、上記本体3の先端(図1における左端を言う)に設けた吊りワイヤ7案内用の案内部材8とを備え、上記巻取りドラム5に巻き回された吊りワイヤ7が、駆動手段の作動によって上記案内部材8を介して舞台の床面側Sへ繰り出され又は巻き取られるようになっている。
【0016】
以下、更に詳述すると、上記長尺状の本体3は中空四角柱状に形成されており、その基端部上面には平板状をなす上記基台4が溶接等により取付固定されている。
【0017】
上記基台4の両側面には板状をなす軸受け部材10が下方に延設されており、この軸受け部材10には上記走行部材としての車輪11が回動可能に軸支されている。
【0018】
上記車輪11は、図4に示すように、その車輪11の巾Hが上記舞台天井面としてのグレーチングタイプの簀の子12の溝巾hよりも大きく設定されており、点吊り装置1の移動時に簀の子12の溝に車輪11が嵌り込まないようになっている。
【0019】
上記基台4の上面には上記巻取りドラム5と、この巻取りドラム5を駆動させるための駆動手段としてのブレーキ付きモータ6が同軸上に配設されており、上記基台4又は、この基台4とは別に設けられた図示しない制御コントローラからの指示によって上記巻取りドラム5を駆動させ、この巻取りドラム5に巻回された吊りワイヤ7の繰り出し又は巻き取り作業を行なうようになっている。
【0020】
また、上記基台4の基端には上記巻取りドラム5及びブレーキ付きモータ6よりも上方へ突出する保護板14が取付けられており、この保護板14の基端面(図1における左側面を言う)には後側ハンドル15が設けられている。
【0021】
従って、この後側ハンドル15を握れば、点吊り装置1を容易に移動できるようになっている。
【0022】
上記軸受け部材10の車輪11よりも先端側には基端側固定部材17が取付けられている。
【0023】
この基端側固定部材17は、上端に操作レバー18a、下端に係止部18bを備えた案内棒18と、この案内棒18が挿入される取付部材19とから構成されており、この取付部材19が上記軸受け部材10にボルト及びナット等(符示せず)によって固定されている。
【0024】
上記案内棒18は操作レバー18aが図2の状態では、簀の子12の下面(舞台側面を言う)12aに上記係止部18bが係止された作動状態(図3の左側の案内棒18参照)としての係止位置となり、図2の矢印X方向へ回動させると上記係止を解除する係止解除位置(図3の右側の案内棒18参照)となるようにこれら二位置間を回動可能となっている。
【0025】
又、上記取付部材19にはロックレバー19aが回動可能に取付けられており、図2の状態では、上記案内棒18を上下動不能に位置決め固定する位置決め位置となると共に、図2における矢印Y方向へロックレバー19aを回動操作させると、上記案内棒18を上下動可能とする移動可能位置(図3の右側のロックレバー19a参照)となるようになっている。
【0026】
従って、基端側固定部材17は、上記ロックレバー19aを上記矢印Y方向へ回動操作させて上記移動可能位置として案内棒18を下降させる(図3における右側の基端側固定部材17参照)と共に、上記操作レバー18を上記係止位置へ回動操作し、更に上記ロックレバー19aを位置決め位置に戻す(図3における左側の基端側固定部材17参照)ことで、上記係止部18aが上記簀の子12の下面12aに係止され、上記吊りワイヤ7の繰り出し又は巻き取り時に本体3が上方に浮き上がるのを防止すると共に、後述する係合部材27の作用と相俟って点吊り装置1自体を位置決め固定するようになっている。
【0027】
上記本体3の先端上面には上記案内部材8がボルト及びナット(符示なし)により取付固定されている。この案内部材8は、図3に示すように、L字状をなす二枚の支持板21と、これら支持板21間に回動可能に軸支されたシーブ22とから構成され、上記巻取りドラム5から導き出された吊りワイヤ7がこのシーブ22を介して上記舞台の床面側Sへ案内されるようになっている。
【0028】
又、上記シーブ22よりも上部となる支持板21間には係止部材23が回動可能に軸支されている。
【0029】
この係止部材23は、図3に示すように、基端が一方の支持板21に回動可能に軸支された係止棒23aと、この係止棒23aの先端側に螺合されたナット23bとから構成されている。
【0030】
そして、この係止棒23aを倒伏方向(図3に示す)へ回動させて他方の支持板21に切欠き形成された係止凹部21cに嵌め込み、上記ナット23bを締め込むことで上記係止部材23を支持板21間に掛け渡し、上記吊りワイヤ7の繰り出し又は巻き取り時にこの吊りワイヤ7がシーブ22から外れないようになっている。
【0031】
図1および図2に示すように、上記支持板21の下端部には先端側へ突出するコの字状をなす前側ハンドル25が取付固定されており、この前側ハンドル25を握っても点吊り装置1を容易に移動できるようになっている。
【0032】
上記本体3の先端下面には、先端側固定部材としての係合部材27が取付固定されている。
【0033】
上記係合部材27は、本体3下面に取付固定された取付部28と、この取付部28を挟むようにボルト及びナット(符示せず)で取付固定された二枚の係合板29とから構成されており、これら係合板29の下端に設けた係合爪29aが上記簀の子12の側面12bに係合されることで作動状態となり、上記基端側固定部材17の作用と相俟って上記点吊り装置1を位置決め固定するようになっている。
【0034】
以上のように構成された点吊り装置の作用を説明すると、先ず、不使用状態(基端側及び先端側固定部材が否作動状態になっている)の点吊り装置1を、上記本体3の基端と先端とに設けられた前側ハンドル25及び後側ハンドル15のいずれか又は両方を握って手動操作により所定の吊り下げ位置へ移動させる。
【0035】
この状態で、上記先端側固定部材と、基端側固定部材17とを作動させる。
【0036】
即ち、先端側固定部材では、上記係合板29の下端に設けた係合爪29aを上記簀の子12の側面12bに係合する。
【0037】
次いで、基端側固定部材17では、上記ロックレバー19aを図2の矢印Y方向へ回動操作させて上記移動可能位置とし、案内棒18を下降させると共に、上記操作レバー18aを上記係止位置へ回動操作し、その後、上記ロックレバー19aを元の位置決め位置に戻す。
【0038】
これにより、図1、3に示すように、上記係止部18bが上記簀の子12の下面12aに係止され、上記吊りワイヤ7の繰り出し又は巻き取り時に本体3が上方に浮き上がるのが防止されると共に、上記先端側固定部材の係合爪29aの作用と相俟って上記点吊り装置1を位置決め固定する。
【0039】
その後、この状態の点吊り装置1において、図1に示すように、基台4とは別に設けられた図示しない制御コントローラを使用して上記ブレーキ付きモータ6を駆動させ、巻取りドラム5に巻回された吊りワイヤ7を舞台の床面側Sへの繰り出し、先端のフック30に図示しない吊り物を吊り下げ、このフック30を昇降させることで、上記吊り物の昇降位置を調整する。
【0040】
その後、上記吊り物の吊り下げ位置を変更する場合や、使用が終了して点吊り装置自体1を天井面等に設けられた収納場所へ収納する場合には、上記した操作手順と逆の操作手順を行なえば良い。
【0041】
このとき、点吊り装置1をその基台4の側面に設けた車輪11で単独に移動可能とすると共に、この基台4の上面に吊りワイヤ7を巻き回する巻取りドラム5や、この巻取りドラム5を駆動させるブレーキ付きモータ6を設けたので、従来例で示した装置に比較し、装置全体をコンパクトにできる。
【0042】
従って、点吊り装置1自体を安価に製造可能とすると共に、手動操作によって単独で簡単に任意の吊り下げ位置へ移動できるので、使い勝手も非常に良い。
【0043】
又、上記基台4に巻取りドラム5を駆動させるブレーキ付きモータ6を設けたので、本体3側からは外部電源に接続する電源コードを出すだけで良く、装置全体としてコンパクトなものとすることができる。
【0044】
又、上記ブレーキ付きモータ6や巻取りドラム5を基台4の上面に露出するように設けたので、これらのメンテナンスを容易に行なうことができる。
【0045】
又、上記基台4の基端に設けた保護板14の基端面と、案内部材8を構成する上記支持板21の下端部に、それぞれ前側ハンドル25及び後側ハンドル15を設けたので、点吊り装置1を前後に移動させる際、どちら側からも容易にハンドル25、15を握って操作でき、大変、使い勝手が良い。
【0046】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、以下のように変更して具体化することも可能である。
【0047】
1)本実施の形態では、基台4の側面に設けた軸受け部材10に上記走行部材としての車輪11を設けたが、これに限定されるものではなく、本体3の側面に上記車輪11を直接設けても良い。
【0048】
2)本実施の形態では、走行部材として車輪11を使用したが、これに限定されるものではなく、車輪11以外のもの、例えば、クローラ等を用いても良く、更には、電動等で駆動する駆動手段を備えた走行部材としても良い。
【0049】
3)本実施の形態では、基端側固定部材17を上端に操作レバー18a、下端に係止部18bを備えた案内棒18と、この案内棒18が挿入される取付部材19とから構成し、又、先端側固定部材を係合部材27としたが、これらの構成に限定されるものではなく、点吊り装置1を簀の子12に位置決め固定できる構成であれば、任意の構成を採用することができる。
【0050】
4)本実施の形態では、上記保護板14の基端面と、案内部材8を構成する上記支持板21の下端部に、それぞれ前側ハンドル25及び後側ハンドル15を設けたが、これに限定されるものではなく、本体3の中間部上面や、側面に任意の形状のハンドルを設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の点吊り装置の一実施の形態を示す一部破断側面図である。
【図2】図1の点吊り装置を示す平面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 点吊り装置
3 本体
4 基台
5 巻取りドラム
6 ブレーキ付きモータ(駆動手段)
7 吊りワイヤ
8 案内部材
11 車輪(走行部材)
12 簀の子(舞台天井)
15 後側ハンドル
17 基端側固定部材
21 支持板(案内部材)
22 シーブ
25 前側ハンドル
27 係合部材(先端側固定部材)
h 簀の子の巾
H 車輪の巾
S 舞台の床面側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の本体と、この本体の基端側に設けた基台と、この基台の側面又は上記本体の側面に設けた舞台天井面走行用の走行部材と、上記基台上に配置した巻取りドラム及びこの巻取りドラムを駆動する駆動手段と、上記本体の先端側に設けた吊りワイヤ案内用の案内部材とを備え、上記巻取りドラムに巻き回された吊りワイヤが、駆動手段の作動によって上記案内部材を介して舞台の床面側へ繰り出され又は巻き取られるようにしたことを特徴とする点吊り装置。
【請求項2】
上記走行部材は上記基台の側面に回動可能に軸支された車輪であって、その巾が舞台天井面を構成する簀の子の溝巾よりも大きく設定されている請求項1記載の点吊り装置。
【請求項3】
上記本体の基端部及び先端部には、夫々前側ハンドル及び後側ハンドルが設けられている請求項1記載の点吊り装置。
【請求項4】
上記案内部材は本端の先端に設けた2枚の支持板と、この支持板間に回動可能に軸支されたシーブである請求項1記載の点吊り装置。
【請求項5】
上記基台側面及び本体の先端下面には、夫々基端側固定部材及び先端側固定部材が設けられ、これら固定部材の作動により点吊り装置を上記舞台天井面に対して位置決め固定する請求項1記載の点吊り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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