説明

点播装置

【課題】水稲種子のコーティング剤を剥離させることなく、高速且つ正確に点播できる点播装置を提供する。
【解決手段】植物の種子Sを収容した容器(種子貯留部2)の種子排出位置2aに面して、円筒形の回転ロール3が駆動軸4を中心として回転可能に配設されている。回転ロール3の周面には複数の種子穴11が貫通形成され、回転ロール3の内周面に沿って内側ガイド6が設けられ、回転ロール3の外周面に沿って外側ガイド5が設けられている。容器2内の種子Sを種子穴11に充填し、回転ロール3を内側ガイド6および外側ガイド5に沿って回転させて種子Sを搬送した後、種子放出位置Bで種子穴11に充填された種子を播種面へ放出する。回転ロール3は不等速機構により駆動され、種子穴11が種子排出位置2aを通過するときには低速回転し、種子穴11が種子放出位置Bを通過するときには高速回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湛水直播作業に用いられる播種装置の一種であり、一定数の種子を一箇所にまとめて放出する動作を連続的に繰り返す点播装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農林水産業とりわけ水田作農業においては、生産の低コスト化が要求され、水稲栽培における経費削減や作付け規模拡大の有効な手段として、湛水直播栽培が行われている。
【0003】
直播栽培は、苗作りを省略して種子を直接水田に播種するものであり、点播を行えば、従来行われてきた苗の移植と同様に株状の稲が生長する。こうして苗作りが不要となることにより、殊に大規模農家では、労働力の軽減や規模拡大を図ることができるため、点播機構を有する湛水直播機が広く用いられている。
【0004】
ところが、従来の播種機は、高速で移動させると、落下する種子の接地時間に差が生じる。そのため、接地後の種子が播種機の進行方向へ相対的に長く延び、点状に播種する点播ではなく、線状に播種する条播になってしまう。従って、点播形状を維持するためには、低速で播種を行う必要があり、作業能率が低い。このような状況の中で、播種作業の精度を確保しつつ高速化を図ることは、労働費や燃料の削減による低コスト化の実現のために重要である。
【0005】
例えば特許文献1においては、回転ロールに3箇所の種子穴を設けて、回転ロールを等速回転させながら間欠的に種子を落下させ、その下方に設置したゴム製の鋸歯ディスクで強制的に種子を打撃して落下させる点播装置の機構が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−225514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1によれば、回転ロールが等速回転するため、種子を種子穴に充填する際の回転速度が基準となり、その回転速度で播種を行うことになる。そのため、播種時の回転速度を上げることができず、進行方向の速度を上げると、前述のように落下する種子の接地時間に差が生じて条播になってしまう。したがって、播種作業の高速化を図ることは困難であった。
【0008】
また、水稲の種子は、通常、カルパと呼ばれる粉状の酸素供給剤をコーティングしている。酸素供給剤は、水と反応して酸素を発生し、湛水土壌中で種子の発芽を助ける。ところが、特許文献1によれば、播種時に鋸歯ディスクによる強制打撃を加えることにより、酸素供給剤が剥離する場合がある。酸素供給剤が剥離すると、土中で十分に酸素が供給されず、発芽に支障をきたすことがある。
【0009】
本発明の目的は、水稲種子のコーティング剤を剥離させることなく、高速且つ正確に点播できる点播装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、植物の種子を収容した容器の種子排出位置に面して、円筒形の回転ロールが駆動軸を中心として回転可能に配設され、
前記回転ロールの周面には、円周方向に等間隔で、種子を充填させる複数の種子穴が貫通形成されているとともに、前記回転ロールの内周面に沿って、少なくとも前記回転ロールの上側半分に、前記種子穴に充填された種子が前記回転ロール内部に落下するのを防ぐ内側ガイドが設けられ、前記回転ロールの外周面に沿って、前記種子穴に種子が充填されてから種子放出位置に到達するまでの間前記種子穴を覆う外側ガイドが設けられ、前記容器内の種子を前記種子穴に充填し、前記回転ロールを前記内側ガイドおよび前記外側ガイドに沿って回転させて前記種子を搬送した後、前記種子放出位置で前記種子穴に充填された種子を播種面へ放出する点播装置において、前記回転ロールは不等速機構により駆動され、前記種子穴が前記種子排出位置を通過するときには低速回転し、前記種子穴が前記種子放出位置を通過するときには高速回転することを特徴とする点播装置を提供する。回転ロールが不等速回転することにより、種子充填時は低速回転で正確に充填され、種子の放出時には高速回転で一点に集中した点播が行える。
【0011】
前記不等速機構が楕円ギアまたはゼネバ機構であってもよい。
【0012】
前記種子排出位置を通過した直後の、前記回転ロールの外周面に当接させて、前記種子穴からはみだした種子を払い落とすブラシが設けられていることが好ましい。外側へはみ出した種子をブラシで払い落とすことにより、種子が外側ガイドに押しつぶされたり詰まるのを防ぐ。
【0013】
前記内側ガイドの外周には、種子が充填された前記種子穴の通過位置に沿って、前記種子の短辺寸法よりも小さい深さの溝が設けられていることが好ましい。種子穴に充填された種子の外周側を外側ガイドに押し付けられても、溝の深さ分のクリアランスがあるため、種子が圧迫されたり強い摩擦力を受けることがなく、コーティング剤の剥離を防ぐことができる。また、溝の深さは、種子の短辺寸法よりも小さいため、種子が溝の中に入り込むことはない。
【0014】
前記容器は、ホッパから種子を供給されて一定量の種子を貯留する種子貯留部であることが好ましい。一定量の種子を貯留する種子貯留部を設けることにより、種子穴に充填される種子の粒数の安定化を図ることができる。
【0015】
また、前記種子貯留部は逆四角錐状であることが好ましい。これにより、種子貯留部に貯留する種子の量を増減することにより、種子穴へ供給する種子の量を変化させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸素供給剤等のコーティング剤を剥離させることなく、高速で種子を点播できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明の点播装置の構成を示す。点播装置1は、種子貯留部2、回転ロール3、不等速機構に連結されて回転ロール3を回転させる駆動軸4、回転ロール3の外周面に沿って配置される外側ガイド5、回転ロール3の内周面に沿って配置される内側ガイド6、およびブラシ7を有する。
【0019】
回転ロール3は、例えば直径120mm、幅42mm程度の円筒形であり、種子貯留部2の種子排出位置2aに面して設けられる。回転ロール3は、不等速機構に連結された駆動軸4により、図1の矢印R方向に不等速回転する。不等速回転の詳細については後述する。また、図3に示すように、外周に種子充填用の種子穴11が等間隔で複数個、例えば60度の角度間隔で6個所設けられている。種子穴11は、回転ロール3の円周方向寸法が小さい溝状であり、回転ロール3の外周面を貫通して形成される。回転ロール3は、種子貯留部2の種子排出位置2aに面して配置される。図1に示す回転ロール3において、種子穴11に種子が充填される種子充填位置Aと、種子の放出を行う種子放出位置Bとは、駆動軸4を挟んだ対向位置から約30度の角度でずれている。即ち、種子充填位置Aと種子放出位置Bとは、種子穴11の角度間隔(本実施形態では60度)の半分の角度だけ、対向位置からずれている。
【0020】
外側ガイド5は、回転ロール3の種子穴11に充填された種子が種子放出位置Bに到達するまでに落下しないように、回転ロール3の外周に沿って設けられる。したがって、外側ガイド5は、種子貯留部2を通過した後から、種子放出位置Bまでの間の、回転ロール3の外周に沿って設けられ、種子穴11の外周側を覆う。
【0021】
種子穴11が種子貯留部2を通過した直後の位置に、回転ロール3の外周面に当接させて、ブラシ7が設けられている。図1ではブラシ7は2つ設けられているが、これに限ることはない。ブラシ7は、種子貯留部2と外側ガイド5の間に、通過する種子穴11の駆動軸4方向の幅全体にわたって設けられる。このブラシ7により、種子穴11の外周側が外側ガイド5で覆われる直前に、外周側にはみ出した種子が払い落とされる。
【0022】
内側ガイド6は、回転ロール3の種子穴11に充填された種子が回転ロール3の内部に落下しないように、少なくとも回転ロール3の上側半分の内周面に沿って設けられる。また、ブラシ7が回転ロール3に接触する位置から種子放出位置B側の先端までの間、内側ガイド6の外周側に、溝12が設けられている。溝12の深さは、種子の短辺側寸法よりも小さく、種子が溝12内に入り込まないようにする。溝12は、内側ガイド6の駆動軸4方向の幅全体に形成されてもよいし、通過する種子穴11の駆動軸4方向の幅と同じ幅寸法に形成されてもよい。
【0023】
上記の構成により、種子穴11に充填された種子は、内側ガイド6が設けられている範囲では落下せず、外側ガイド5の先端を過ぎて種子穴11の外側が覆われなくなる位置、即ち種子放出位置Bに到達するときに、播種される。
【0024】
図4は、種子貯留部2の種子排出位置2aから種子穴11へ種子Sが充填される様子を示し、図1のC方向に見た図である。種子貯留部2内に、種子Sが例えば図4(a)に示す量だけ貯留されている場合には、種子放出位置2aにおいて、黒く示した種子が種子穴11へ充填される。図4(b)に示す量だけ貯留されている場合には、黒く示した種子は(a)よりも少なくなる。このように、種子貯留部2に一定量の種子Sを貯留することにより、種子穴11に充填する種子の量を安定させることができる。また、逆四角錐状の種子貯留部2に貯留する種子Sの量を増減することにより、種子穴11へ供給する種子の量を調整できる。種子貯留部2は、例えば種子Sを収容したホッパに連結して設けられる。
【0025】
図5は、種子Sが充填された種子穴11の回転時の動作を示す。
【0026】
(a)に示すように、種子穴11に種子Sが充填された後、回転ロール3が回転し、種子穴11がブラシ7の位置に到達すると、回転ロール3の外周からはみ出した種子が、(b)に示すように、ブラシ7によって払い落とされる。その後、さらに回転ロールが回転し、回転ロール3の外周が外側ガイドに接触すると、回転ロール3の外周面から僅かに突出した種子Sの表面が、外側ガイド5によって押さえつけられる。このとき、内側ガイド6に溝12が設けられていることにより、溝12の深さが種子穴11の深さに対するゆとり寸法となり、種子Sが溝12の方向へ逃げることができる。したがって、種子Sが圧迫されたり、種子Sに強い摩擦力が作用することなく、回転ロール3が回転し、種子Sを搬送できる。
【0027】
水稲の種子の場合、楕円状の小径が3〜4mm程度であり、溝12の深さがその半分を超えると種子Sが溝12内に入り込むことがあるため、溝12の深さは2mm程度とすることが好ましい。また、水稲の種子は、通常、カルパと呼ばれる過酸化カルシウムから製造される粉状の酸素供給剤がコーティングされている。種子を確実に発芽させるためには、酸素供給剤が剥離されない状態で播種されることが重要である。したがって、種子Sに摩擦力が作用するのを防ぐために、溝12が有効である。
【0028】
上記の構成を有する点播装置1は、例えば図6に示すように、田植機21やトラクタ等の車両に装備され、田植機21等から出力軸22を介して駆動力を得て作動する。尚、駆動源として専用モータを設けてもよい。点播装置1は、例えば8体または6体を、田植機21の進行方向に対して直角方向に一列に並べて用いられる。駆動軸4は、全ての点播装置1で共有され、さらに駆動軸4の適宜位置、例えば図示するように中央に、不等速機構23が連結される。不等速機構23としては、例えば図7に示すような楕円ギア31が用いられる。また、例えばゼネバ機構を用いて間欠運動としたり、その他の不等速機構を実現する手段でも構わない。
【0029】
次に、本発明の点播装置1による回転ロール3の回転速度と動作との関係について、図8を参照して説明する。
【0030】
図8(a)に示す点播装置1の上方向を角度0度とし、回転ロール3の種子穴11が通過する位置の角度と、そのときの回転速度との関係を図8(b)に示す。(a)に示すように、種子排出位置Aは270度、種子放出位置Bは120度となる。
【0031】
駆動軸4を中心として60度の回転角度で1サイクルとし、回転ロール3が一周する間に6サイクルの回転速度の増減を繰り返す。(b)に示すように、播種時には、種子ごとに放出時差を生じないために、回転ロールが最も高速回転を行う短時間で種子の放出を行う。種子が充填されるときは、予め設定された数量の種子が種子穴11に確実に充填されるように、低速回転とすることが望まれる。したがって、徐々に低速回転となり、最も低速回転を行う時点の付近で種子の充填を開始し、最も高速回転となる時点までに、充填が終了される。不等速機構として楕円ギアを用いることにより、(b)に示すように、滑らかに回転速度を変化させることができる。
【0032】
尚、本発明において、播種間隔は、点播装置1を搭載した田植機の進行方向に対する回転ロール3の回転数を調整することにより、変更可能である。
【0033】
また、本発明の点播装置は、ホッパを設置することにより、単独で点播機として使用できるが、例えば既存の湛水条播機の吐出口付近に本発明の点播装置を設置することにより、点播機として用いることができる。
【0034】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0035】
上記の構成を有する点播装置において、楕円ギアによる不等速駆動とモータ直結の等速駆動の両方について、播種状態を比較観察した。約0.5〜1.0m/sの速度で移動する回転土槽に点播装置を設置し、カルパでコーティングした種子を放出した。落下した種子の分布形状や種子の粒数を、デジタルカメラの画像から種子の分布を測定するソフトウェアを用いて計測した。結果を表1に示す。尚、X方向とは、図9に示すように、進行方向と同じ向きを示し、Y方向は、その直角方向を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
本発明にかかる不等速回転の場合、X方向の種子の分布は、概ね20mm以下となった。殊に、目標とする約1.0m/sの進行速度において、等速回転に比べて不等速回転の場合に、種子の分布範囲の縮小が認められた。さらに、コーティング剤の剥離率が、従来の10%程度から2%程度に低減し、内側ガイドの溝による剥離防止の効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、各種種子の点播用の装置として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の点播装置の側面図。
【図2】図1の斜視図。
【図3】図1の回転ロールの斜視図。
【図4】図1のC方向から見た種子排出位置の説明図。
【図5】図1のブラシおよび溝の効果を説明する断面図。
【図6】本発明の実施の形態を示す概略正面図。
【図7】楕円ギアを示す図。
【図8】本発明の点播装置による動作を示し、(a)は回転角度の位置を示す断面図、(b)は種子穴の位置と回転ロールの回転速度の関係を示すグラフ。
【図9】放出された種子の分布方向を示す説明図。
【符号の説明】
【0040】
1 点播装置
2 種子貯留部
2a 種子排出位置
3 回転ロール
4 駆動軸
5 外側ガイド
6 内側ガイド
7 ブラシ
11 種子穴
12 溝
21 田植機
22 出力軸
23 不等速機構
A 種子充填位置
B 種子放出位置
S 種子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の種子を収容した容器の種子排出位置に面して、円筒形の回転ロールが駆動軸を中心として回転可能に配設され、
前記回転ロールの周面には、円周方向に等間隔で、種子を充填させる複数の種子穴が貫通形成されているとともに、
前記回転ロールの内周面に沿って、少なくとも前記回転ロールの上側半分に、前記種子穴に充填された種子が前記回転ロール内部に落下するのを防ぐ内側ガイドが設けられ、
前記回転ロールの外周面に沿って、前記種子穴に種子が充填されてから種子放出位置に到達するまでの間前記種子穴を覆う外側ガイドが設けられ、
前記容器内の種子を前記種子穴に充填し、前記回転ロールを前記内側ガイドおよび前記外側ガイドに沿って回転させて前記種子を搬送した後、前記種子放出位置で前記種子穴に充填された種子を播種面へ放出する点播装置において、
前記回転ロールは不等速機構により駆動され、前記種子穴が前記種子排出位置を通過するときには低速回転し、前記種子穴が前記種子放出位置を通過するときには高速回転することを特徴とする、点播装置。
【請求項2】
前記不等速機構が楕円ギアまたはゼネバ機構であることを特徴とする、請求項1に記載の点播装置。
【請求項3】
前記種子排出位置を通過した直後の、前記回転ロールの外周面に当接させて、前記種子穴からはみだした種子を払い落とすブラシが設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の点播装置。
【請求項4】
前記内側ガイドの外周には、種子が充填された前記種子穴の通過位置に沿って、前記種子の短辺寸法よりも小さい深さの溝が設けられていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の点播装置。
【請求項5】
前記容器は、ホッパから種子を供給されて一定量の種子を貯留する種子貯留部であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の点播装置。
【請求項6】
前記種子貯留部は逆四角錐状であることを特徴とする、請求項5に記載の点播装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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