説明

点検方法

【課題】
部品の異常を早期の段階で知ることができる移動装置の点検方法を提供する。
【解決手段】
粗動と、粗動の後の遅い移動速度の微動とによって、移動対象を目標位置まで移動させる移動装置を構成する部品のうち、部品劣化が移動対象の移動精度に影響する部品をリストに記載するステップ(S11)と、粗動の後の停止位置が、予め定められた警戒値を示すか否かを確認するステップ(S12)と、停止位置が前記警戒値を示すことが確認できたものを該停止位置の検知に対応付けるステップ(S13)と、粗動の後の停止位置を検知するステップ(S2)と、検知した停止位置が、微動による前記目標位置までの移動が可能な停止位置であるものの警戒値を示した場合に、リストに表された各部品のうち該停止位置の検知に対応付けられた部品について部品劣化を検査するステップ(S4)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動対象を目標位置に移動させる移動装置の点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品を製造するプラントの多くには、材料や製品を所定位置に移動させるための移動装置が配備されている。移動装置は多数の部品で構成されており、移動装置の運用に際しては、運転中断による製造効率の低下を抑えるため、保守点検が重視されている。
【0003】
移動装置の部品故障に起因する運転中断を抑える方法として、各部品について、例えばバスタブ曲線によって表される標準的な寿命を把握しておき、標準寿命に対し余裕を見込んだ短い期間で無条件に交換していく方法がある。しかし、この方法では、個々の部品は、実際の劣化が考慮されずに交換されていくため、部品の無駄な廃棄が避けられない。
【0004】
また、別の方法として、移動装置を構成する個々の部品すべての状態を点検し、状態が劣化した部品を交換する方法も知られている。しかし、プラントにおける移動装置は多数の部品で構成されている。これらすべての部品の状態を点検しようとすると、点検項目が膨大となり、点検周期が部品劣化の進行に追いつかず、却って故障を招くおそれがある。また、個々の部品の点検には、移動装置の動作停止中といった期間に限られるものも多い。
【0005】
このように、部品の劣化による状態の検査によって、移動装置の保守を行う、いわゆる結果系管理では、部品の無駄または点検漏れのリスクが大きい。そこで、移動装置の機能を検査することによって、原因としての劣化部品を探る、いわゆる原因系管理が考えられている。
【0006】
例えば、プラント監視装置において、プラントを階層的に整理した機能階層モデルの各ノードで、各プラント機能が正常か異常かを判断するための知識を管理することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このプラント監視装置は、温度、圧力といった処理対象の状態を表すプロセスデータが制限値から逸脱したか否かによりプラント機能が正常か異常かを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−137909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、移動対象を目標位置に移動させる移動装置は、通常、移動対象を目標位置に近づけて停止させた後、移動対象の位置と目標位置との差に基づいて移動対象を目標位置にさらに近づける制御を行う。このため、移動装置の動作を監視する場合、移動対象の最終的な位置に異常が見つかった時点では、移動装置としては重い故障状態に至ってしまっている可能性がある。つまり、移動の最終的な位置の監視では、移動装置が重い故障状態となる前に部品の異常を知ることは困難である。
【0009】
本発明は上記問題点を解決し、部品の異常を早期の段階で知ることができる移動装置の点検方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の点検方法は、
移動対象を目標位置に近づけて移動させ停止させる粗動と、この粗動の後にこの粗動での移動速度よりも遅い移動速度でこの移動対象をこの目標位置にさらに近づける微動とによって、この移動対象をこの目標位置まで移動させる移動装置を構成する各部品をリストに記載するステップと、
上記リストに記載されている各部品について、部品劣化によって上記移動精度に影響した結果、実際に上記粗動の後の停止位置が、予め定められた警戒値を示すか否かを確認するステップと、
上記リストに記載されている各部品のうち、部品劣化によって実際に上記停止位置が上記警戒値を示すことが確認できたものをこの停止位置の検知に対応付けるステップと、
上記粗動の後の停止位置を検知するステップと、
検知した停止位置が、上記微動による上記目標位置までの移動が可能な停止位置であるものの上記警戒値を示した場合に、上記リストに表された各部品のうちこの停止位置の検知に対応付けられた部品について部品劣化を検査するステップとを有することを特徴とする。
【0011】
移動装置における移動対象の最終的な位置は、通常、微動によって目標位置に合わせられており、最終的な停止位置の異常は、移動装置の機能が損なわれた故障状態を意味する。本発明の点検方法によれば、最終的な停止位置ではなく、粗動の後の停止位置を点検するので、微動による目標位置までの移動が可能な程度には移動装置が機能している期間でも、部品劣化の影響を見つけることができる。また、各部品をリストに記載し、リスト中の部品について、移動精度および粗動後の停止位置に実際に影響を与えるか否かを確認し、対応付けを行うことで、点検すべき項目を客観的に絞り込むことが可能である。
【0012】
ここで、上記本発明の点検方法において、
上記移動対象が、長尺のウエブが巻いたロールであり、
上記目標位置が、上記ロールからウエブを引出す引出装置によってこのウエブが引出し可能な位置であり、
上記移動装置が、回転体を有し、この回転体の回転軸から離れた位置に上記ロールが装着され、この回転体を上記粗動および上記微動で回転させることによりこのロールを上記目標位置に移動させるものであることが好ましい。
【0013】
長尺のウエブが巻いたロールからウエブを引出させる装置では、例えばウエブを連続して供給するため、ウエブが引出され切ったロールと交換するためにウエブが巻いた新たなロールを移動するが、上記の点検方法によれば、ロールの粗動の後の停止位置を点検するので、ロール交換の動作を停止させることなく、部品劣化の影響を見つけることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、部品の異常を早期の段階で知ることができる移動装置の点検方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態である点検方法の対象となる装置が配備されたプラントを示す構成図である。
【図2】図1に示すロール供給装置の概略構成を示す構成図である。
【図3】ロール供給装置を点検する点検方法を示すフローチャートである。
【図4】図3に示すリスト作成ステップの手順を示すフローチャートである。
【図5】ロール供給装置における、部品リストである。
【図6】図5のリストに示す各部品ごとに、確認ステップで具体的な現象を追加したリストである。
【図7】図6のリストに示す各部品と、停止位置ズレに影響を与えることが確認できた候補指標との対応を表したリストである。
【図8】ロール供給装置における角度指示子の停止位置の経過を示すグラフである。
【図9】第2実施形態に係るロール供給装置の概略構成を示す構成図である。
【図10】図9に示すロール供給装置の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態である点検方法の対象となる装置が配備されたプラントを示す構成図である。
【0018】
図1に示すプラントPは、連続したウエブ表面に複数の層を形成することによって印画紙を製造するプラントである。プラントPは、第1工程装置1、第2工程装置2、第3工程装置3、第4工程装置4、第5工程装置5、第6工程装置6、および、第7工程装置7を備えている。また、プラントPには、図示しない空調装置も備えられている。
【0019】
プラントPは、一連に続いた長尺のウエブWを第1工程装置1から第7工程装置7まで送って、第1工程装置1から第7工程装置7までの工程を順次通過させる。ウエブWは、第1工程装置1から第7工程装置7に至るまで1つに繋がっている。
【0020】
第1工程装置1は、ウエブWを1つに繋ぎ合わせて他の工程装置に供給する供給装置である。第1工程装置1は、旋回自在なターレット11を有するロール供給装置10を備えている。ターレット11には、原料となるウエブWが巻いたロール12,13が2つ装着される。ロール12,13は、ターレット11に対し回転自在に装着されている。第1工程装置1では、2つのウエブのロール12,13のうち一方のウエブのロール12からウエブが引出されて、第2工程装置2に供給される。ロール12は矢印Aの向きに回転する。ロール12からウエブの最後の端が引出されると、ターレット11が矢印Bの向きに半回転分旋回し、今度は他方のロール13からウエブの引出が開始する。第1工程装置1には接合機15が備えられており、接合機15は、後から引出されたウエブの先端を、先に引出されたウエブの後端に繋ぎ合わせる。上記他方のロール13からウエブが引出されている間に、ターレット11には、ウエブの引出が完了したロールに替えて、新たなロールが装着される。このようにして、第1工程装置1は、エンドレスに繋がったウエブWを供給する。ウエブWは矢印Cの向きに搬送される。
【0021】
ここで、ロール供給装置10が、本発明に係る移動装置の一例に相当する。
【0022】
第2工程装置2は、ウエブWの搬送速度を調整する装置であり、ダンサー21、テンション検知器22、および駆動装置23を備えている。ダンサー21は、矢印Cに示すウエブWの搬送方向と交わる方向(図では上下方向)に移動自在なロールを有し、ロールはウエブWを下向きに引出すよう付勢されている。ダンサー21は、第1工程装置1から供給されるウエブWの速度のムラを吸収する。駆動装置23は、ウエブWを矢印Cの向きに搬送し、テンション検知器22は、ウエブWに生じている張力を検知する。
【0023】
第3工程装置3は、ウエブWの位置を調整する装置であり、ダンサー31、テンション検知器32,35、エッジポジション制御装置33、および駆動装置34を備えている。これらのうち、エッジポジション制御装置33は、ウエブWの、矢印Cに示す搬送方向に直角な幅方向の端の位置を検知しながら、ウエブWの幅方向の位置を調整する。
【0024】
第4工程装置4は塗布装置であり、ウエブWの表面に例えば乳剤といった液剤を塗布する。
【0025】
第5工程装置5は、乾燥装置であり、ウエブWに塗布された液剤を乾燥して、表面の層を形成する。第5工程装置5は、図示しない空調装置によって、温度および湿度が調整された空気をウエブWに当てることで、液剤に適した速度で乾燥を行う。
【0026】
第6工程装置6は、第3工程装置3と同様にウエブWの位置を調整する装置であり、テンション検知器61,65、ダンサー62、エッジポジション制御装置63、および駆動装置64を備えている。
【0027】
第7工程装置7は、第6工程装置6までによって処理が完了したウエブを巻き取るロール巻取装置70を有している、ロール巻取装置70は、旋回自在なターレット71を備えている。ターレット71が備える不図示の2つの送出軸には、ウエブWを巻き取るロール72,73が2つ装着される。一方のロール72についてウエブWの巻取りが完了すると、ターレット71が半回転分旋回し、今度は他方のロール73に、ウエブWの続きが巻き取られる。この間、巻取りが完了したロール72はターレット71から取り外される。
【0028】
このようにして、第1工程装置1から供給されたウエブWが、第2工程装置2から第6工程装置6によって順に処理され、第7工程装置7によって巻き取られる。
【0029】
[ロール供給装置]
図2は、図1に示すロール供給装置10の概略構成を示す構成図である。
【0030】
図2に示すロール供給装置10は、ターレット11に加え、ターレット11を回転自在に支持する支持部17、ターレット11を回転駆動する旋回駆動部18、および、ターレット11の回転位置を検出する位置検出器19A,19Bとを備えている。
【0031】
支持部17は、ターレット11に設けられた回転軸111を支持しており、ターレット11は、回転軸111を中心に回転自在に配備されている。旋回駆動部18は、減速機を有するモータ181、ギア182、および図示しないディスクブレーキを備えており、制御部1Aの制御に応じてターレット11を回転駆動する。また、ターレット11自体にも、図示しないが、不要な回転を止めるディスクブレーキや回転駆動力を受けるためのギアを備えている。また、ターレット11には、ウエブのロール12,13が装着される2つの送出軸112,113が設けられている。2つの送出軸112,113は、互いに回転軸111を挟んで反対側に配置されており、回転軸111から等距離で離れた位置に配置されている。送出軸112,113に装着されたロール12,13は、ターレット11の回転に伴い移動する。図2は、2つのロール12,13のうちの1つのロール12が、ウエブ引出位置にある状態を示している。ウエブ引出位置にあるロール12からは、接合機15(図1参照)に備えられた引出装置(粘着ロール)151がウエブWを引出し、別のロールから引出されていたウエブの後端に接続する。図2に示すロール12のウエブ引出位置は、引出装置151によってウエブが引出し可能な位置である。
【0032】
ロール供給装置10は、制御部1Aの制御に基づいて旋回駆動部18にターレット11を回転駆動させ、ロール12を、目標位置であるウエブ引出位置に移動させる。ターレット11には、ターレット11の回転角度を示す角度指示子114が設けられている。角度指示子114は、ターレット11に取り付けられた金属片である。また、検出器19A,19Bは、金属の近接を検知する金属センサであり、角度指示子114を検出する。2つの検出器19A,19Bのうちの第2検出器19Bは、ターレット11がロール12をウエブ引出位置に位置させると、角度指示子114を検出する位置に配置されている。すなわち、第2検出器19Bは、ロール12がウエブ引出位置に位置することを検出する。第1検出器19Aは、ターレット11の回転方向における第2検出器19Bよりも上流側に設けられており、ロール12がウエブ引出位置の手前の所定の位置にあることを検出する。第1検出器19Aおよび第2検出器19Bは、角度指示子114の検出結果を表す信号を制御部1Aに供給する。制御部1Aは、検出器19A,19Bからの信号に基づいて、ターレット11の回転を制御する。
【0033】
ウエブWが巻いたロール12,13およびターレット11は重量物であるため、ロール12,13が装着されたターレット11の慣性モーメントは大きい。また、ロール12,13の入替えは、ウエブ供給の途切れを、例えばダンサー21(図1参照)を含む吸収手段で吸収可能な時間内に収める必要がある。大きな慣性モーメントを有するターレット11を高速で回転しつつ、ロール12の位置をウエブ引出位置に正確に合わせるため、ターレット11は粗動とその後の微動との2段階に分けて回転駆動される。
【0034】
第1段階の粗動では、ターレット11はロール12をウエブ引出位置に近づけて停止させる。具体的には、制御部1Aは、ロール12がウエブ引出位置より手前の位置で停止するように旋回駆動部18にターレット11を回転駆動させる。より詳細には、制御部1Aは、ターレット11を速度の制限を行わず最大の駆動力で回転駆動し、第1検出器19Aが角度指示子114を検出したら回転駆動を停止する。ターレット11は慣性により駆動停止後も回転しながら減速し、停止する。図2には、ターレット11が粗動において停止した時に、角度指示子114の停止位置である粗動停止位置が符号Sで示されている。ただし、粗動停止位置Sは制御目標ではなく、角度指示子114の実際の停止位置は粗動停止位置Sに対し前後する。このようにして、第1段階の粗動では、ターレット11は、半回転よりも小さい角度だけ回転し、ロール12はウエブ引出位置の手前の位置で停止する。
【0035】
第2段階の微動では、ターレット11は、ロール12をウエブ引出位置にさらに近づける。具体的には、ターレット11は、粗動の時よりも、迅速に停止可能な低速で回転し、ロール12がウエブ引出位置に到達した角度で停止する。すなわち、制御部1Aは、旋回駆動部18にターレット11を低速で回転駆動させ、第2検出器19Bが角度指示子114を検出した時にターレット11の回転を停止させる。つまり、第2段階の微動では、ロール12がウエブ引出位置にさらに近づき、ロール12の位置とウエブ引出位置との差がウエブ引出しに支障ない程度まで近づいて停止する。
【0036】
第1段階の粗動と第2段階の微動を行うことにより、粗動でロール12がウエブ引出位置に高速に近づけられ、微動でロール12の位置がウエブ引出位置に正確に合わせられる。
【0037】
ここで、微動の後のロール12の位置がウエブ引出位置から外れ、ウエブの引出しができない状態は、ロール供給装置10としての故障状態である。
【0038】
[ロール供給装置の点検方法]
図1に示すプラントPは、上述したように連続体であるウエブを搬送しながら第1工程装置1〜第7工程装置7で処理するため、一部の装置による処理を停止しつつ残りの装置による処理を続行するといったことができない。このことは、ロール供給装置10についても同様であり、ロール供給装置10を停止するとプラントPの処理を実行することはできない。プラントPの点検では、ロール供給装置10が備える多数の部品のそれぞれの劣化を、ロール供給装置10の機能が損なわれる前に検知することが求められる。
【0039】
ここで、本発明の点検方法の実施形態である、ロール供給装置10を点検する点検方法を説明する。
【0040】
図3は、ロール供給装置10を点検する点検方法を示すフローチャートである。
【0041】
図3に示す点検方法は、リスト作成ステップ(S1)、停止位置点検ステップ(S2)、および、部品点検ステップ(S4)を有する。
【0042】
この点検方法では、まず、リスト作成ステップ(S1)で、ロール供給装置10の部品を表す部品リストを作る。ロール供給装置10は、ターレット11を回転してロール12をウエブ引出位置に停止させる。リスト作成ステップ(S1)では、部品の劣化がロール12の移動精度に影響する部品のリストを作成する。
【0043】
[リスト作成ステップ]
図4は、図3に示すリスト作成ステップの手順を示すフローチャートである。
【0044】
図4に示すリスト作成ステップは、部品リスト記載ステップ(S11)と、確認ステップ(S12)と、対応付けテップ(S13)とを有する。
【0045】
まず、部品リスト記載ステップ(S11)では、装置の各部品をリストに記載する。
【0046】
図5は、ロール供給装置における、部品リストである。図5に示すリストには、ロール供給装置10の部品の一部が示されており、また、第7工程装置7(図1参照)におけるロール巻取装置70の部品の一部も示されている。ロール巻取装置70の構造および動作には、ロール供給装置10の構造および動作と共通する部分が多くあるため、ロール供給装置10の点検方法と同様の点検方法が適用できるためである。ここでは、ロール供給装置10を中心に説明する。また、部品リストには、各要素部品について想定される劣化の種類も示されている。
【0047】
例えば、図4に示すリストにおける項目の下の1行目は、ターレット11(ターレット旋回)における旋回ディスクは、要素部品としてディスクを有し、このディスクは劣化の態様(モード)として摩耗が想定されることが示されている。
【0048】
次に、確認ステップ(図4のS12)では、リストに記載されている各部品について、部品劣化によって移動精度に影響した結果、実際に粗動の後の停止位置が、予め定められた警戒値を示すか否かを確認する。先に説明したように、制御部1Aは、ターレット11を粗動と微動の2段階に分けて回転させており、より具体的には、制御部1Aは、第1段階の粗動において停止した位置から、ターレット11を回転させ、第2検出器19Bが角度指示子114を検出した位置でターレット11の回転を停止させる。つまり、ターレット11の位置は、第2段階の微動によって、ロール12がウエブ引出位置で停止するように制御されている。微動によって制御を行うロール供給装置10では、最終的な停止位置は外乱の影響を受けにくく、ターレット11は目標位置に正確に合わせられるものの、部品の劣化による影響は現れにくくなり、劣化を捉えることは容易でない。この一方で、第1段階である粗動の後のターレット11の停止位置には、部品劣化による移動精度の変化がそのまま反映される。そこで、確認ステップ(図4のS12)では、粗動の後の停止位置が、予め定められた警戒値を示すか否かを確認する。例えば、図5に示す旋回ディスクにおけるディスクの摩耗によって、摩耗粉が発生することに加え、移動精度に影響が生じ、粗動後の停止位置が警戒値になることが確認される。このようにして、すべての要素部品について、具体的な現象を挙げるとともに、停止位置について、警戒値を示すか否かを確認してリストに記載する。なお、警戒値の例については後に説明する。
【0049】
図6は、図5のリストに示す各部品ごとに、確認ステップ(図4のS12)で、具体的な現象を追加したリストである。
【0050】
例えば図6のリストには、上述した旋回ディスクにおけるディスクの摩耗によって、例えば摩耗粉が生じ、さらに、停止位置ズレの現象すなわち停止位置が警戒値となることが示されている。また、リストには、ブレーキディスクのディスクについても、例えば摩耗粉が生じ、停止位置ズレが生じることが示されている。
【0051】
次に、対応付けステップ(図6のS14)では、リストに記載されている各部品のうちで、警戒値に達することが確認できたものについて「ターレット停止位置」すなわち、粗動後の停止位置の点検と対応付ける。
【0052】
図7は、図6のリストに示す各部品と「ターレット停止位置」との対応を表したリストである。
【0053】
例えば、図7に示すように旋回ディスクの、ディスクの摩耗は、ターレットの停止位置による検出が可能であり、「ターレット停止位置」に対応付けられている。なお、図7に示すリストの例では、リスト中の部品がすべて「ターレット停止位置」に対応しているが、図7に示すリストに挙げられていない部品の中には、停止位置に影響しないものや、劣化しても停止位置が警戒値に至らないものも当然に含まれている。
【0054】
図7のリストを点検の種類の観点から見ると、旋回ディスク、ブレーキディスク、および旋回ギアに代表されるターレット旋回装置の要素機器が、ターレットの粗動後の停止位置の点検によってカバーされることが判る。このようにして、ロール供給装置10を構成する部品のうちの多数の部品の劣化の点検項目が、「ターレット停止位置」の点検に集約される。
【0055】
ここで、再び図3を参照して、点検方法の続きを説明する。
【0056】
停止位置点検ステップ(S2)では、ターレット11の停止位置を定期的に点検する。先に説明したように、微動によって制御を行うロール供給装置10では、最終的な停止位置は外乱の影響を受けにくく、ターレット11は目標位置に正確に合わせられるものの、劣化を捉えることは容易でない。微動の後のターレット11の最終停止位置(すなわちロール12の位置)が目標位置を逸脱する状態は、ロール供給装置10の機能が損なわれている故障状態を意味し、プラントP(図1参照)の全体を停止させる必要がある状態を意味する。この一方で、第1段階である粗動の後のターレット11の停止位置には、部品劣化による変化がそのまま反映されている。そこで、停止位置点検ステップ(S2)では、第1段階である粗動の後のターレット11の停止位置が、通常採り得る範囲を逸脱した警戒値を示すか否かを定期的に点検する。これによって、ロール供給装置10を構成する部品の劣化を検知することができる。ターレット11の停止位置の点検は、粗動停止位置S付近に角度指示子114の停止位置を読み取るための目盛りを配置し、ロール供給装置10の動作中に、角度指示子114の粗動後の停止位置を定期的に読み取ることによって行う。
【0057】
次に、部品点検ステップ(S4)では、停止位置点検ステップ(S2)で粗動後停止位置の異常が見つかった場合に(S3でYes)、図4に示すリストに表された各部品について部品劣化を点検する。部品点検ステップ(S4)では、停止位置の異常に対応するリストによって絞られている部品のみの劣化を点検すればよく、ロール供給装置10のすべての部品を点検する場合に比べ、点検の時間が短縮される。
【0058】
図8は、ロール供給装置における角度指示子の停止位置の経過を示すグラフである。図8には、角度指示子114の粗動後の停止位置L1の経過の例が示されており、また、参考のために微動後の停止位置L2の経過の例が示されている。
【0059】
図8に示すように、微動後の停止位置L2は、常に目標位置T近傍にあり、変動量が小さい。これに対し、粗動後の停止位置L1は、ある時点から大きく変位している。本実施形態の点検方法では、粗動後の停止位置L1について、部品の劣化が少ない初期に測定された値の範囲に余裕を見込んで設定した範囲の上限値C1を超えた値および下限値C2を下回った値を警戒値としている。粗動後の停止位置L1が警戒値であっても、微動による目標位置までの移動は可能である。しかし、本実施形態における点検方法では、目標位置までの移動が可能な停止位置であっても、停止位置点検ステップ(図4参照)における粗動後の停止位置L1の検査結果が警戒値を示した場合には、粗動後の停止位置は異常であると判定している。
【0060】
本実施形態の点検方法によれば、微動後の最終的な停止位置L2ではなく、粗動後の停止位置L1を定期的に点検するので、ロールをウエブ引出位置で停止させるロール供給装置10が機能している期間、すなわち、ロール供給装置10が重い故障となる前の期間でも、部品劣化の影響を見つけることができる。また、粗動後の停止位置の異常が生じた場合にも、図4に示すリストに示された部品を点検するだけで、部品の劣化を効率よく見つけることができる。
【0061】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の第2実施形態の説明にあたっては、これまで説明してきた実施形態における各要素と同一の要素については、これまで説明してきた実施形態における図および符号を流用し、前述の実施形態との相違点について説明する。
【0062】
第2実施形態に係るロール供給装置は、粗動における回転を、角度指示子の検出まで行うのではなく、予め定められた時間だけ行う点が、第1実施形態に係るロール供給装置20と異なる。また、第2実施形態の点検方法では、停止位置点検ステップの一部が装置自身によって実行される点が、第1実施形態と異なる。
【0063】
図9は、第2実施形態に係るロール供給装置の概略構成を示す構成図である。
【0064】
図9に示すロール供給装置20には、第1検出器19A(図2参照)の代わりに、粗動停止位置S付近に配置された、位置測定部29が備えられている。位置測定部29は、複数の金属センサが並んで配置されたものであり、角度指示子114の位置を測定するものである。位置測定部29の測定結果は制御部1Aに出力される。制御部1Aは、粗動の後、位置測定部29から供給される測定結果によって、粗動の後のターレットの停止位置を得る。
【0065】
図10は、図9に示すロール供給装置20の制御を示すフローチャートである。
【0066】
ロール供給装置20の動作は、制御部1A(図9参照)によって制御されている。ロール12,13を入れ替える場合、制御部1Aは、まず、ターレット11を固定時間だけ回転させる(S21)。この固定時間は、ターレット11が半回転よりも小さい角度だけ回転し、ロールがウエブ引出位置の手前の位置で停止すると見込まれた設定時間であり、初期設定された後は変動させない固定の時間である。この処理によって、ターレット11の粗動が実行される。
【0067】
次に、制御部1Aは、粗動で停止したターレット11の位置を記録する(S22)。具体的には、制御部1Aは、位置測定部29の測定結果に基づいて、角度指示子114の位置を記録し、記録結果を表示する。この処理によって、第2実施形態の点検方法における、停止位置点検ステップの測定が行われる。本実施形態では、制御部1Aは測定結果の記録および表示を行うが、これらの処理以外にも、制御部1Aはさらに、記録した位置が警告値である場合にその旨を操作者に報知する処理を実行するものであってもよい。
【0068】
次に、制御部1Aは、第2検出器19Bによって、角度指示子114が検出されるまで(S24)、ターレット11を低速で回転させ(S23)。角度指示子114が検出されたら、ターレット11を停止させる(S25)。この処理によって、ターレットの微動が実行される。この後、制御部は、引出装置151にウエブの引出しを行わせる(S26)。
【0069】
第2実施形態の点検方法でも、微動後の最終的な停止位置ではなく、粗動後の停止位置を定期的に点検するので、ロールをウエブ引出位置で停止させるロール供給装置10が機能している期間、すなわち、ロール供給装置10が重い故障となる前の期間でも、部品劣化の影響を見つけることができる。また、粗動後の停止位置の測定および記録が装置によって実行されるので、点検の労力が低減される。
【0070】
なお、上述した実施形態では、本発明にいう移動装置の例として、ロールを引出位置に移動させるロール供給装置10を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、ロール巻取装置70であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10,20 ロール供給装置
11 ターレット
12,13 ロール
18 旋回駆動部
19A,19B 位置検出器
29 位置測定部
70 ロール巻取装置
71 ターレット
72,73 ロール
114 角度指示子
C1,C2 警戒値
L1 停止位置
S1 リスト作成ステップ
S2 停止位置点検ステップ
S4 部品点検ステップ
S11 部品リスト記載ステップ
S12 確認ステップ
S13 対応付けテップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動対象を目標位置に近づけて移動させ停止させる粗動と、該粗動の後に該粗動での移動速度よりも遅い移動速度で該移動対象を該目標位置にさらに近づける微動とによって、該移動対象を該目標位置まで移動させる移動装置を構成する各部品をリストに記載するステップと、
前記リストに記載されている各部品について、部品劣化によって前記移動精度に影響した結果、実際に前記粗動の後の停止位置が、予め定められた警戒値を示すか否かを確認するステップと、
前記リストに記載されている各部品のうち、部品劣化によって実際に前記停止位置が前記警戒値を示すことが確認できたものを該停止位置の検知に対応付けるステップと、
前記粗動の後の停止位置を検知するステップと、
検知した停止位置が、前記微動による前記目標位置までの移動が可能な停止位置であるものの前記警戒値を示した場合に、前記リストに表された各部品のうち該停止位置の検知に対応付けられた部品について部品劣化を検査するステップとを有することを特徴とする点検方法。
【請求項2】
前記移動対象が、長尺のウエブが巻いたロールであり、
前記目標位置が、前記ロールからウエブを引出す引出装置によって該ウエブが引出し可能な位置であり、
前記移動装置が、回転体を有し、該回転体の回転軸から離れた位置に前記ロールが装着され、該回転体を前記粗動および前記微動で回転させることにより該ロールを前記目標位置に移動させるものであることを特徴とする請求項1記載の点検方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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